説明

採便用シート

【課題】 簡単な工程により、低コストに製造でき、しかも、便保持性及び水分散性とを採便用シートとして必要なバランスにおいて備えた採便用シートを提供すること。
【解決手段】 サイズ剤とパルプ叩解度の組合せにより便保持性を180秒以上に、水分散性を300秒以下に調整した採便用シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸がん検診などで必要とされる便を、確実且つ簡単に採取するためのシートに関し、更に詳しくは、水洗便器の水溜の水面上に浮かべ、その上に排泄した便を採取する間は便を保持し、便を採取した後は配管に詰まることなく、そのまま流して廃棄することのできる採便用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
人間が排泄する便は、健康状態を示す様々の情報を有するものであり、集団検診、定期健診、人間ドック等の各種医療検査において、検便は重要な検査項目の一つとなっている。
【0003】
検便のための便を採取するには、通常は、便器に便を排泄し、その便から検便用の便を採取している。
近時、我国では、水洗式の便器が普及し、その中でも、腰かけ用の便座を有する洋式の水洗式便器の割合は大きいが、洋式の水洗式便器では、通常は、水溜が形成されている。
【0004】
従って、便を採取するには、便が水溜に没してしまわないようにする必要があるが、水溜は排便からの臭気を防ぐ目的から、便が没してしまう程度の深さを有しているものであり、便が沈まないように採取することは困難である。
また、便の形状自体も多様であり、水様性便など採取の難しい便も存在する。
【0005】
そこで、水洗式便器内の水溜の水の上に浮き、その上に排便しても、採便に要する時間内は便を保持し、採便が済んだ後は、水洗式便器にそのまま流して廃棄することが可能な採便用シートを使用することが行われている。
即ち、採便用シートには、200〜300g程度の便を乗せた状態で3分程度、好ましくは5分以上浮くことができ、且つトイレの配管に詰まらない程度の水解性を有することが要求される。
【0006】
このような便採取用シートとしては、水溶紙からなるシート本体の少なくとも一面に、耐水性印刷インキや耐水性樹脂コーティング剤等の耐水処理剤で耐水処理を施したシート(例えば、特許文献1参照)、水溶性又は水分散性フィルムの片面又は両面に水分散性紙を積層して一時的な耐水性を付加したシート(例えば、特許文献2参照)、水溶性紙に放射線を照射して水解性を調整したシート(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの何れのシートも、その製造が煩雑で製造コストが高くなってしまうことや、そのシートの浸水時間が必ずしも適切ではなく、又、片面のみに耐水処理をしたシートの場合、その塗布面が水面に接するように浮かべねばらないといった取扱上の制約がある。
【0008】
【特許文献1】特許第3566810号明細書
【特許文献2】特開平10−227787号公報
【特許文献3】特開2003−185651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、簡単な工程により、低コストに製造でき、且つ、便保持性と水分散性とを採便用シートとして必要なバランスにおいて備えた採便用シートを提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、従来のこの種の採便用シートに使用されることのなかったサイズ剤をパルプ叩解度の調整と組合わせることにより作製した水分散性紙を使用することによりその課題を解決しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
即ち本発明は、
(1)水洗式便器に排泄された便を採取する採便用シートであって、サイズ剤とパルプ叩解度の組合せにより、下記方法で測定された便保持性を180秒以上に、水分散性を300秒以下に調整したことを特徴とする坪量が20〜60g/m2である採便用シート。
便保持性:水を入れたバットに、縦横各250mmの試験紙を浮かべ、試験紙の中央に重量が200gのシャーレを乗せて、沈むまでの時間
水分散性:200mLのビーカーに150mLの水を入れ、スターラーにて、渦の深さが25mmとなる速度で攪拌し、この中に縦横各25mmの試験紙を投入し、試験片が四分の一になるまでの時間
及び
(2)便保持性が300秒以上である上記(1)の採便用シート
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の採便用シートは、簡単な工程により、低コストに製造でき、しかも、便保持性と水分散性とを採便用シートとして必要なバランスにおいて備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の採便用シートは、サイズ剤とパルプ叩解度の調整とを組合わせることにより、便保持性を180秒以上に、水分散性を300秒以下に調整した水分散性紙からなるものである。
ここでの水分散性紙とは、採便終了後、水を流すことにより水中に分散し、配管の詰まりを起こすことなく処理が可能な性能を有するシートである。
水分散性紙の原料パルプとしては、木材繊維、靭皮繊維、雁皮繊維等からなる天然パルプ、再生原料である古紙パルプ、ナイロン繊維やレーヨン繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維、フィブリル化したポリエチレンに代表される合成パルプ等、一般の製紙原料として使用されるパルプが挙げられる。本発明では、使用後の採便用シートが、下水処理施設にて便とともに最終処分されるため、生分解性を備えた天然パルプ又は古紙パルプの使用が好ましい。更には、経済性の観点から、天然パルプの中でも木材繊維を使用した木材パルプが最適である。
木材パルプの具体例としては、NBKP(針葉樹漂白クラフトパルプ)、NBSP(針葉樹亜硫酸パルプ)、LBKP(広葉樹漂白クラフトパルプ)LBSP(広葉樹亜硫酸パルプ)等を挙げることができる。
【0013】
原料パルプは、叩解によって適当なフリーネスのものに調整して使用する。フリーネスは、所定の便保持性及び水分散性を保持するため、使用するパルプの種類、配合により調整されるものである。
例えば、原料パルプとしてNBKP及びLBKPを混合して使用する場合、フリーネス(JIS P 8121カナダ標準ろ水度試験方法)は、必要とする水分散性を得るには、150mL以上が好ましく、必要とする便保持性を得るには、500mL以下が好ましい。
【0014】
サイズ剤としては、特に限定されず、従来公知のものの何れもが使用可能であり、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤(合成サイズ剤)、アルキルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)等を例示することができる。
【0015】
サイズ剤の使用量は、所定の便保持性及び水分散性を保持するため、サイズ剤の種類及び原料パルプのフリーネスにより異なり、ロジン系サイズ剤及び石油樹脂系サイズ剤など比較的サイズ効果の弱いサイズ剤では、必要とする便保持性を得るには、フリーネスが200mL前後では原料パルプ100質量部当り0.2質量部以上であることが必要であり、必要とする水分散性を得るには、原料パルプ100質量部当り0.5質量部以下であることが必要である。フリーネスが400mL前後では原料パルプ100質量部当り0.5質量部以上であることが必要であり、必要とする水分散性を得るには、原料パルプ100質量部当り1.0質量部以下であることが必要である。また、AKDサイズ剤及びASAサイズ剤などサイズ効果の強いサイズ剤では、必要とする便保持性を得るには、フリーネス200mL前後では原料パルプ100重量部当り0.1質量部以上であることが必要であり、必要とする水分散性を得るには、原料パルプ100質量部当り0.3質量部以下であることが必要である。フリーネス400mL前後では原料パルプ100重量部当り0.3質量部以上であることが必要であり、必要とする水分散性を得るには、原料パルプ100質量部当り0.5質量部以下であることが必要である。
即ち、サイズ剤の好ましい使用量は、原料パルプの叩解度やサイズ剤の持つサイズ効果により異なる。
【0016】
本発明の採便用シートは、サイジングしたパルプを含む試料を抄紙して製造されたものである。
紙料には、本発明の目的を損なわない範囲において、必要に応じて填料、着色料等の内添薬剤を含有させることができる。
抄紙の方法は、特に限定されず、従来公知の種々の抄紙機、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、単網抄紙機等を使用した方法の何れもが適用可能である。
【0017】
採便用シートの坪量は、必要とする便保持性を得るには、20g/m2以上であることが必要であり、必要とする水分散性を得るには、60g/m2以下であることが必要である。 即ち、採便用シートの坪量は、20〜60g/m2である必要があり、30〜50g/m2が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で行われた測定・評価の方法を以下に示す。
(1)便保持性:水を入れたバットに、縦横各250mmの試験紙を浮かべ、試験紙の中 央に重量が200gのシャーレを乗せて、沈むまでの時間を測定。180秒以上が 便保持性に優れ、300秒以上が便保持性に特に優れる。
(2)水分散性:200mLのビーカーに150mLの水を入れ、マグネチックスターラ ーにて、渦の深さが25mmとなる速度で攪拌し、この中に縦横各25mmの試験 紙を投入し、試験片が四分の一になるまでの時間。300秒以下が水分散性に優れ る。
(3)総合評価:便保持性及び水分散性の測定結果から、採便シートとしての適性を次の 基準で評価
○:好適(便保持性が特に良好で水分散性が優れる)
△:適(便保持性が良好で水分散性が優れる)


×:不適(便保持性が劣り、水分散性が劣る)
【0019】
実施例1
各々、フリーネスが190mLまで叩解したNBKPとLBKPとを、質量比4:6の割合で混合したパルプスラリーを調整した。このパルプスラリー中に、パルプ100質量部に対し0.1質量部のロジン系サイズ剤(サイズ剤、近代化学社製、商品名:ペローザE3600)を、パルプ100質量部に対し1.0質量部の硫酸バンドを添加してロジン系サイズ剤をパルプに定着させた。
得られたパルプスラリーを抄紙し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0020】
実施例2
ロジン系サイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.2質量部に変更した以外は実施例1と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0021】
実施例3
ロジン系サイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0022】
実施例4
ロジン系サイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0023】
比較例1
ロジン系サイズ剤の使用量がゼロである以外は実施例1と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0024】
実施例5
各々、フリーネスが400mLまで叩解したNBKPとLBKPとを、質量比4:6の割合で混合したパルプスラリーを調整した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量100質量部に対し0.3質量部のAKDサイズ剤(星光PMC社製、商品名:AD1606)を加え、良く混合させた。
得られたパルプスラリーを抄紙し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについては、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0025】
実施例6
AKDサイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.5質量部に変更した以外は実施例5と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0026】
比較例2
AKDサイズ剤の使用量がゼロである以外は実施例5と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0027】
実施例7
各々、フリーネスが450mLまで叩解したNBKPとLBKPとを、質量比4:6の割合で混合したパルプスラリーを調整した。このパルプスラリー中に、パルプ100質量部に対し0.3質量部のロジン系サイズ剤(サイズ剤、近代化学社製、商品名:ペローザE3600)を、パルプ100質量部に対し1.0質量部の硫酸バンドを添加してロジン系サイズ剤をパルプに定着させた。
得られたパルプスラリーを抄紙し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0028】
実施例8
ロジン系サイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.5質量部に変更した以外は実施例8と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0029】
比較例3
ロジン系サイズ剤の使用量がゼロである以外は実施例8と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0030】
実施例9
各々、フリーネスが150mLまで叩解したNBKPとLBKPとを、質量比4:6の割合で混合したパルプスラリーを調整した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量100質量部に対し0.1質量部のAKDサイズ剤(星光PMC社製、商品名:AD1606)を加え、良く混合させた。
得られたパルプスラリーを抄紙し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについては、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0031】
実施例10
AKDサイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.2質量部に変更した以外は実施例9と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0032】
実施例11
AKDサイズ剤の使用量を原料パルプ100質量部に対し0.3質量部に変更した以外は実施例9と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0033】
比較例4
AKDサイズ剤の使用量がゼロである以外は実施例9と同様に実施し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0034】
実施例12
NBKPとLBKPとを質量比4:6の割合で混合したパルプスラリーをディスクリファイナーにより200mLのフリーネスへ調整した。このパルプスラリー中に、パルプ100質量部に対し0.2質量部のロジン系サイズ剤(サイズ剤、近代化学社製、商品名:ペローザE3600)を、パルプ100質量部に対し1.0質量部の硫酸バンドを添加してロジン系サイズ剤をパルプに定着させた。
得られたパルプスラリーを長網抄紙機にて抄紙し、坪量40g/m2の採便用シートを得た。
この採便用シートについて、便保持性及び水分散性を測定し、総合評価を行ったところ、表1に示す結果となった。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の採便用シートは、簡単な工程により、低コストに製造でき、しかも、便保持性及び水分散性とを採便用シートとして必要なバランスにおいて備えたものであり、健康管理の重要化に従って増加する需要に充分に応えうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水洗式便器に排泄された便を採取する採便用シートであって、サイズ剤とパルプ叩解度の組合せにより、下記方法で測定された便保持性を180秒以上に、水分散性を300秒以下に調整したことを特徴とする坪量が20〜60g/m2である採便用シート。
便保持性:水を入れたバットに、縦横各250mmの試験紙を浮かべ、試験紙の中央に重量が200gのシャーレを乗せて、沈むまでの時間
水分散性:200mlのビーカーに150mLの水を入れ、スターラーにて、渦の深さが25mmとなる速度で攪拌し、この中に縦横各25mmの試験紙を投入し、試験片が四分の一になるまでの時間
【請求項2】
便保持性が300秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の採便用シート


【公開番号】特開2006−98133(P2006−98133A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282426(P2004−282426)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(390028406)東海パルプ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】