説明

接着剤組成物

【課題】 架橋澱粉、キトサン及び酸性剤を含んでなる水性糊液であって、良好な塗工性を有し、耐水性、耐湿性に優れた接着剤を提供する。
【解決手段】 架橋澱粉を6〜15質量部、キトサンを0.3〜3.0質量部、及び酸性剤を0.1〜9.0質量部含有し、固形分が6.4〜27.0質量部、好ましくは架橋澱粉を8〜12質量部、キトサンを0.4〜2.4質量部、及び酸性剤を0.15〜7.4質量部含有し、固形分が8.6〜21.8質量部である水性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関し、耐水性を有する水溶性の接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、接着剤業界並びに接着剤を使用する業界においては、人体への安全性、火災防止や環境保全等の観点から有機溶剤を媒質とする溶剤型接着剤に代わり、水を媒質とする水溶液型もしくは水系エマルジョン型接着剤等の接着剤が注目されている。
【0003】
澱粉を主体とする水溶性接着剤においては、澱粉が食品・医薬品にも使用することができるため人体への安全性に優れ、また、生分解性を有するため環境への負荷も低減されるという利点がある。さらに、澱粉糊を使用した合紙製品や紙管は親水性・離解性に優れるため古紙リサイクルにおける製紙メーカーのリパルプ化の工程時間短縮が可能になるというメリットも確認されている。
【0004】
澱粉以外の水溶性天然多糖類も新しいタイプの生分解性高分子材料として、その利用について多くの研究がなされ、数々の知見が報告されている。
特に、キチン、キトサンは生物活性効果のある生体親和性材料として注目されている。キチン(N−アセチル−D−グルコサミン残基がβ‐1,4結合した多糖類)はカニやエビなどの甲殻類、カブトムシやコオロギなどの昆虫類の骨格物質として存在し、また菌類の細胞壁にも存在する。キトサンは、キチンを脱アセチル化して得られるポリグルコサミンであり、高温、強アルカリにも安定な塩基性多糖類である。
【0005】
キトサンは酸性水溶液で容易に溶解することや、反応性のアミノ基を数多く持つことから、接着剤としての用途も様々な提案がなされている(特許文献1〜4)。
これらには、キトサンと天然物のヒアルロン酸やコンドロイチン、キチン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、デキストラン等の多糖類、またゼラチンやポリアミノ酸、ポリペプチド及びタンパク質、さらにはポリアクリル酸等の合成高分子とのポリイオンコンプレックスを利用し、感染症の心配のない生体用接着剤もいくつか提案されている。
【0006】
酸性多糖類と塩基性多糖類とのイオンコンプレックスからなる接着剤であって、酸性多糖類がセルロース、デンプン、キチン等の多糖類の酸化により得られるものや合成ポリウロン酸であり、塩基性多糖類がキトサンであるゲル状、シート状またはパウダー状である接着剤も提案されている(特許文献5)。
【0007】
さらに、タンニン酸及びキトサンを必須成分として含有することを特徴とする木材用接着剤組成物が提案されており、耐水、耐温水性に優れていることが示されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開平7−163650号公報
【特許文献2】特開平9−225019号公報
【特許文献3】特開2000−5296号公報
【特許文献4】特開2000−290633号公報
【特許文献5】特開2005−290050号公報
【特許文献6】特開2003−221571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水溶性接着剤として澱粉糊は古くから種々の用途で使用されているが、水溶性であるため耐水性に劣るという欠点がある。そこで、澱粉糊に耐水性を付与するために合成樹脂や架橋剤を配合して澱粉を不溶化させ使用しているケースもある。しかしながら、合成樹脂や合成有機化合物の架橋剤を配合するということは、澱粉の特徴である安全性や生分解性を損なうという課題がある。
【0009】
一方、カチオン性多糖類のキトサンとアニオン性の多糖類であるアルギン酸ソーダとのポリイオンコンプレックスを利用した接着剤は、そのゲルやフィルム等接着物質自体の強度や接着強度は未だ十分とは言えず、湿潤状態における膨潤が大き過ぎるという不具合がある。
【0010】
また、これらのゲルやフィルムは水に溶解しない膨潤ゲルであるため、一般的に使用される水溶性接着剤の滑らかな粘性ではなく、接着剤として塗工するとゲルを潰して伸ばす状態になるため均一に塗工できず、貼り合わせるときに間隙ができ易いので塗工適性がないものである。
さらに、キトサン単独でも耐水性の接着剤として使用することができるが、高粘度のため高濃度塗布ができないという問題や、キトサンは健康食品や化粧品に使用されるもので価格が高く工業用の接着剤として使用するにはコストアップになるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々の澱粉に、耐水性を付与するために各種添加剤を配合し検討した結果、特定の澱粉にキトサンを少量配合することにより解決できることを見出しこの知見に基づいて、本発明の架橋澱粉にキトサン及び酸性剤を含有することを特徴とする接着剤組成物を完成するに至った。
【発明の効果】
【0012】
架橋澱粉という特定の澱粉に少量のキトサンを添加することにより、澱粉単独では得られなかった長時間水中に浸漬しても剥がれないという優れた耐水性、及び高湿度下でも接着力の低下が少ないという耐湿性をも得ることができた。
また、本発明の接着剤組成物は澱粉が主成分であり、少量添加するキトサンも食品や化粧品に使用できるものであるため、合成樹脂を成分とする水溶性接着剤と比較して、人体への安全性、生分解性に優れる。さらに、価格的にも高価格のキトサンを少量添加するだけで目的とする耐水性を得られるので、キトサン主体の接着剤より価格的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における架橋澱粉とは、澱粉に架橋剤を作用させることにより、澱粉を水中で加熱糊化するときの澱粉粒子の膨潤を抑制したもので、それにより澱粉糊液の曳糸性が押さ抑えられ、サクさのある塗工し易い粘性を有する。また、本発明の接着剤組成物の場合、架橋処理を行った澱粉を用いることにより耐水・耐湿性を有する接着剤を得ることができる。
本発明において、架橋澱粉とは、単に架橋剤を作用させたものだけでなく、架橋反応と同時または、その前後において、エーテル化またはエステル化を行った架橋エーテル化澱粉または架橋エステル化澱粉、及びそれらをアルファー化処理したものも含めた総称として「架橋澱粉」という。
【0014】
本発明の架橋澱粉の出発材料として使用される澱粉は、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、モチ米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が挙げられる。
【0015】
本発明の架橋澱粉は、架橋反応の試薬として、エピクロルヒドリン、オキシ塩化リン、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、アジピン酸、アクロレイン、シアヌリッククロライド、アジピック−アセチックアンハイドライド、ホルマリン、ジエポキシド化合物、ジアルデヒド化合物などの澱粉の水酸基と反応し得る官能基を2つ以上有する試薬を用いることができる。
【0016】
エーテル化反応の試薬としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドや、モノクロロ酢酸等が挙げられ、エステル化反応の試薬としては、無水酢酸、酢酸ビニル、無水マレイン酸、無水コハク酸、1−オクテニル無水コハク酸、オルトリン酸、オルトリン酸塩及びポリリン酸塩等が挙げられる。
【0017】
架橋反応は、前記の澱粉を、水単独又は水と有機溶媒(例、アルコールなど)との混合溶媒に懸濁し、上記の架橋剤をアルカリ触媒の存在下で反応させることにより行うことができる。
また、反応は上記のように水または有機溶媒に懸濁させる湿式反応のほか、少量の水または有機溶媒を澱粉に添加し、例えば、ブレンダー、ミキサーなどで混合・加熱する乾式反応で行うこともできる。
【0018】
本発明の架橋反応は、pHを9〜13に維持しながら、10〜50℃にて攪拌することによって行う。使用するアルカリ触媒としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(例、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなど)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキサイド(例、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、カリウムメトキサイドなど)、アンモニア、C1−6アルキル基を有するモノ、ジもしくはトリアルキルアミン(例、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミンジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、第2級ブチルアミン、第3級ブチルアミン、アミルアミン、第2級アミルアミン、第3級アミルアミン、ヘキシルアミンなど)、アルコール性水酸基を有するジもしくはトリアルコールアミン(例、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミンなど)などが挙げられる。
【0019】
澱粉に対する架橋剤の添加量は架橋剤の分子量や原料澱粉によって差があるものの、約0.01〜5質量%、好ましくは0.01〜1質量%の範囲で適宜選択できる。
架橋された澱粉は、澱粉の種類や架橋剤の量に応じて澱粉の膨潤の度合が変わる。本願では架橋反応の程度を膨潤度として表す。膨潤度の測定は、以下の通りである。無水換算試料0.15gを電解液(塩化亜鉛10質量部、塩化アンモニウム26質量部、イオン交換水64質量部を溶解後、濾過したもの)15mlを添加し、分散後、直ちによく沸騰した湯浴中で5分間加熱し、冷却後、再度分散し10mlのメスシリンダーに正確に入れ、室温で静置後18時間静置後の沈澱層(ml)を膨潤度とする。
【0020】
上記の範囲で架橋剤を使用し、膨潤度が1.0〜6.0、好ましくは1.5〜5.0の範囲になるように架橋反応を行うことが好ましい。膨潤度が1.5を下回る場合、膨潤が抑制され過ぎ、接着剤として用いるときの粘着性が乏しいものになる。
一方、膨潤度が6.0を上回る場合、澱粉糊の曳糸性は抑えられるが、耐水性が十分ではなくなってしまう。
【0021】
架橋エーテル化反応は、上述の澱粉を、水単独又は水と有機溶媒(例、アルコール、アセトンなど)との混合溶媒に懸濁し、上述の架橋剤及びエーテル化反応試薬をアルカリ触媒の存在下で反応させることにより行うことができる。
また、上記のように水または有機溶媒に懸濁させる湿式反応のほか、少量の水または有機溶媒を澱粉に添加し、例えば、ブレンダー、ミキサーなどで混合・加熱する乾式反応で行うこともできる。
【0022】
この反応は、pHを10〜13に維持しながら、10〜50℃にて攪拌することによって行う。使用するアルカリ触媒および架橋剤の添加量は、先ほどの架橋反応と同様である。また、澱粉に対するエーテル化剤の添加量は、0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重質量%、好ましくは1〜15質量%の範囲で適宜選択できる。
【0023】
この場合、エーテル化剤の種類によって変化するが、エーテル化反応の程度を示す置換度(無水グルコース1分子当たりの官能基の数、以後D.S.とする)は0.002〜0.2、好ましくは0.05〜0.1の範囲に調整する。D.S.が0.02を下回る場合、澱粉水溶液接着剤の長期低温保存時の安定性を改良するという目的には効果がでない。0.2を上回った場合では、製造コストが高くなる割には効果にあまり差が出ないという問題がある。
また、D.S.が高くなると、ペーストに曳糸性が生じてくるが、膨潤度を低くすることによって、塗工に適した粘性にすることが出来る。
【0024】
架橋エステル化反応は、上述の澱粉を、水単独又は水と有機溶媒(例、アルコールなど)との混合溶媒に懸濁し、上述の架橋剤及びエステル化反応試薬をアルカリ触媒の存在下で反応させることにより行うことができる。
また、上記のように水または有機溶媒に懸濁させる湿式反応のほか、少量の水または有機溶媒を澱粉に添加し、例えば、ブレンダー、ミキサーなどで混合・加熱する乾式反応で行うこともできる。
【0025】
この反応は、pHを7〜10に維持しながら、10〜50℃にて攪拌することによって行う。使用するアルカリ触媒および架橋剤の添加量は、先ほどの架橋反応と同様である。また、澱粉に対するエステル化剤の添加量は、0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の範囲で適宜選択できる。
【0026】
この場合、エステル化反応を示すD.S.は0.002〜0.3、好ましくは0.015〜0.15の範囲になる。D.S.が0.015を下回る場合、長期低温保存時の安定性に支障が生じ、0.15を上回った場合では、製造コストが高くなる割には効果にあまり差が出ないという問題がある。
また、D.S.が高くなると、ペーストに曳糸性が生じてくるが、膨潤度を低くすることによって、塗工に適した粘性にすることが出来る。
【0027】
本発明の架橋澱粉のアルファー化処理は、上述の架橋澱粉、架橋エーテル化澱粉または架橋エステル化澱粉を常法に従って、ダブル式あるいはシングル式のドラムドライヤー、あるいはエクストルーダー(一軸あるいは二軸)で、糊化、乾燥、粉砕処理することにより製造される。
ドラムドライヤー処理するときの澱粉水分散液の濃度は、実際のドラムドライヤーの運転条件に応じて適宜選択できるが、通常ドラムドライヤーの場合30〜60%とすることが好ましい。また、ドラムドライヤーの運転条件には特に制約がなく、通常の温度、圧力、回転数、ロールスリット幅が採用でき、使用澱粉によって適宜調整できる。
【0028】
エクストルーダー処理するときの運転条件は、特に制約がなく、通常の加水量、温度、圧力、回転数、ダイ数、ダイ径が採用でき、使用澱粉によって適宜調整できる。
【0029】
上記のようにして得られたアルファー化架橋澱粉は、細かく粉砕されていないフレーク状のものであっても、細かく粉砕し篩別機により粒度を調整されたものであっても使用することができる。
エーテル化又はエステル化していないアルファー化架橋澱粉の糊液はざらついた粘性になるが、その粒径を150μm以下になるように微粉砕すると、なめらかな糊液を調製することが出来る。
【0030】
本発明で用いるキトサンは、キチン(N−アセチル−D−グルコサミン残基がβ−1,4結合した多糖類)を脱アセチル化して得られるポリグルコサミンであり、高温、強アルカリにも安定な塩基性多糖類である。アミノ基が遊離のものは水に不溶であるが、塩酸、酢酸、クエン酸(硫酸、リン酸は不可)等の酸が存在すると塩を作って溶け、粘稠なカチオン性高分子コロイドとなる。
一般に、キトサンの分子量は10万以上でありしかも直鎖状の高分子物質で多数のアミノ基がその直鎖上に等間隔にあるため天然物では唯一のカチオン性高分子として優れた特性を備えている。
【0031】
市販されているキトサンには、フレーク状のものとパウダー状のものがあるが、いずれのものも本発明で用いることができる。本発明は耐水・耐湿性に優れた接着剤組成物を得ることを目的とするので、高分子量(高粘度)タイプのキトサンが好ましい。
また、キトサンは酢酸、クエン酸などの有機酸、または塩酸、硝酸などを加えて溶解して用いるのが一般的であるが、本発明では臭気がなく、pH調整でのpH振れ巾が少なくなるアジピン酸を用いて溶解するのが好ましい。
【0032】
本発明で用いるキトサンは酸性剤により水に溶解することができる。キトサンに添加する酸性剤の量は、キトサンに対して、氷酢酸であれば1/2量、90%乳酸の場合1/2量、50%乳酸の場合同量、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸の場合3倍量、塩酸、硝酸の場合同量、本発明で好適に用いられるアジピン酸の場合2倍量である。
【0033】
本発明の接着剤組成物は、架橋澱粉、キトサン及び酸性剤を含有することを特徴とするものである。本来、キトサンは単独でも耐水性の接着剤として使用することができが、高粘度のため高濃度塗布ができないという問題や、キトサンは健康食品や化粧品に使用されるもので価格が高く、工業用の接着剤として使用するにはコストアップになるという課題があるので、架橋澱粉に対するキトサンの添加量は耐水・耐湿性が維持される範囲でできるだけ下げることを目的として種々検討した。その結果、架橋澱粉100質量部に対しキトサンを5質量部以上添加すれば耐水・耐湿性を得ることができることを見出した。上限は用いるキトサンの種類にもよるが、20%以上添加しても効果は変わらずむしろ粘度が高くなり塗工性が悪くなるので、使用する架橋澱粉の粘度とキトサンの粘度を勘案し併用率の上限を定めることができる。
【0034】
本発明の水系接着剤組成物の組成割合として、架橋澱粉を6〜15質量部、キトサンを0.3〜3.0質量部、及び酸性剤を0.1〜9.0質量部含有し、固形分が6.4〜27.0質量部、好ましくは架橋澱粉を8〜12質量部、キトサンを0.4〜2.4質量部、及び酸性剤を0.15〜7.4質量部含有し、固形分が8.6〜21.8質量部にすることが好適である。しかし、これらの配合割合に限定するものではない。
【0035】
本発明の接着剤組成物を調製する際、キトサンは酸性剤を用いて水に溶解する。
架橋澱粉はアルファー化した架橋澱粉については、冷水に溶けるので加熱を必要としないが、アルファー化していない架橋澱粉は水中で加熱溶解(膨潤)して糊液として用いる。
こうして溶解したキトサン溶液と架橋澱粉糊液を、架橋澱粉100質量部に対しキトサンを5質量部以上になる比率に混合し、本発明の接着剤組成物を調製する。
本発明の接着剤組成物は、生分解性の澱粉やキトサンを使用する水性の接着剤であるので、必要に応じ防腐剤や防黴剤を添加し保存安定性を高めることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、例に於おける部はすべて質量部、%はすべて質量%として表す。
【0037】
実施例1
架橋澱粉とキトサンの併用比率の耐水性効果を見るための試験を行った。架橋澱粉はタピオカ澱粉原料でヒドロキシプロピル化・エピクロルヒドリン架橋澱粉(ヒドロキシプロピル化置換度DS0.06、膨潤度3.4ml)のドラムドライヤーアルファー化処理品(以下、架橋澱粉1という)を用いた。キトサンは1%アジピン酸溶液に溶解した1%溶液粘度が220mPa・s(25℃、30rpm)のもの(以下、キトサン1という)を用いた。
キトサン1を0.9部、架橋澱粉1を9部、アジピン酸を0.9部、イオン交換水89.2部の割合で均一に溶解し試料1(pH4.40、25℃、30rpmでの粘度12,620mPa・sの糊液を得た。
【0038】
実施例2
実施例1と同様にして、キトサン1を0.7部、架橋澱粉1を7部、アジピン酸を0.7部、イオン交換水91.6部の割合で均一に溶解し試料2(pH4.41、25℃、30rpmでの粘度2,904mPa・s)の糊液を得た。
【0039】
実施例3
実施例1と同様にして、キトサン1を0.9部、架橋澱粉1を9.3部、アジピン酸を1.8部、イオン交換水88.0部の割合で均一に溶解し試料3(pH4.09、25℃、30rpmでの粘度19,000mPa・s)の糊液を得た。
【0040】
比較例1
実施例1と同様にして、キトサン1を0.5部、架橋澱粉1を10.5部、アジピン酸を1部、イオン交換水88.0部の割合で均一に溶解し試料4(pH4.20、25℃、30rpmでの粘度8,780mPa・s)の糊液を得た。
【0041】
実施例4
実施例1,2,3、比較例1で得た試料1,2,3,4の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。48時間で終了とし、貼り合わせたクラフト紙を剥がして接着面の様子を比較した。
試料1は48時間剥がれなかった。接着面は1/3程度剥がれており、接着面を剥がしても紙破は起こらなかった。
試料2は20時間剥がれなかった。接着面は1/3程度剥がれており、接着面を剥がしても紙破は起こらなかった。
試料3は48時間剥がれなかった。接着面を剥がすと紙破が起こり非常に耐水性が高かった。
試料4は5分で剥がれ落ちた。架橋澱粉100部に対する低分子量キトサン1の量が5未満になると、接着力が劣ることが判った。
【0042】
実施例5
実施例1において、キトサンを1%アジピン酸溶液に溶解した1%溶液粘度が519mPa・s(25℃、30rpm)のもの(以下、キトサン2という)を用いた以外は同様にして、キトサン2を0.5部、架橋澱粉1を10.0部、アジピン酸を0.5部、イオン交換水89.0部の割合で均一に溶解し試料5(pH4.62、25℃、30rpmでの粘度15,920mPa・s)の糊液を得た。
【0043】
実施例6
実施例4と同様にして、キトサン2を0.8部、架橋澱粉1を10.0部、アジピン酸を1.2部、イオン交換水88.0部の割合で均一に溶解し試料6(pH4.24、25℃、6rpmでの粘度88,200mPa・s)の糊液を得た。
【0044】
実施例7
実施例3と同様にして、実施例4,5,6で得た試料4,5,6の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。48時間で終了とし、貼り合わせたクラフト紙を剥がして接着面の様子を確認した。
試料5,6はいずれも48時間剥がれなかった。接着面を剥がすと紙破が起こり非常に耐水性が高かった。
粘度(分子量)の高いキトサンを使用すると、架橋澱粉100部に対する高分子量キトサンの添加量が5部でも耐水性が優れることが判った。
【0045】
実施例8
実施例4において、架橋澱粉をタピオカ澱粉原料でヒドロキシプロピル化・エピクロルヒドリン架橋澱粉(ヒドロキシプロピル化DS0.06、膨潤度3.4ml)でアルファー化処理をしないもの(以下、架橋澱粉2という)及びタピオカ澱粉原料のトリメタリン酸架橋澱粉(膨潤度1.5ml)でアルファー化処理をしないもの(以下、架橋澱粉3という)を用い、架橋澱粉2,3をイオン交換水中で加熱糊化した以外は同様にして、キトサン2を0.8部、架橋澱粉2を4.0部、架橋澱粉3を6.0部、アジピン酸を1.6部、イオン交換水87.6部の割合で均一に溶解し試料7(pH3.86、25℃、20rpmでの粘度43,000mPa・s)の糊液を得た。
試料7の糊液は架橋澱粉として、エーテル化架橋澱粉2よりもエーテル化していない架橋澱粉3の比率が高いので、保存安定性を確認するため糊液を凍結18時間、30℃解凍4時間を1サイクルとして、7サイクルの凍結解凍試験後の粘度測定を行った。7サイクル後の粘度も最初の粘度と同じ43,000mPa・sであり、粘度安定性に問題がないことが判った。
【0046】
実施例9
実施例3と同様にして、実施例8で得た試料7の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。48時間で終了とし、貼り合わせたクラフト紙を剥がして接着面の様子を確認した。
試料7は48時間剥がれなかった。接着面を剥がすと紙破が起こり非常に耐水性が高かった。
エーテル化していない架橋澱粉を併用しても、耐水性が優れることが判った。
【0047】
比較例2
実施例4において、架橋澱粉の代わりにタピオカ澱粉原料の4級カチオン化澱粉(窒素量0.3%、膨潤度10.0ml)で架橋処理をしないもの(以下、カチオン化澱粉という)を用いた以外は同様にして、キトサン2を0.8部、カチオン化澱粉を10.0部、アジピン酸を1.6部、イオン交換水87.6部の割合で均一に溶解し試料8(pH3.85、25℃、30rpmでの粘度30,700mPa・s)の糊液を得た。
試料8の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。
架橋処理をしていないカチオン化澱粉は粘度が高く、餅のような粘性で塗工適性はなかった。
試料8の耐水性試験は48時間で剥がれ落ちなかったが、接着面はほぼ剥がれており、かろうじて接着していた。架橋処理をしていないカチオン化澱粉は塗工適性がなく、耐水性も劣ることが判った。
【0048】
比較例3
実施例4において、架橋澱粉の代わりにタピオカ澱粉原料の酸化アセチル化澱粉(アセチル化置換度DS0.08、膨潤度10.0ml)で架橋処理をしないもの(以下、酸化アセチル化澱粉という)を用いた以外は同様にして、キトサン2を0.8部、カチオン化澱粉を10.0部、アジピン酸を1.6部、イオン交換水87.6部の割合で均一に溶解し試料9(pH3.80、25℃、30rpmでの粘度3,556mPa・s)の糊液を得た。
試料9の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。
試料9は20分で剥がれ落ちた。架橋処理をしていない酸化アセチル化澱粉は耐水性がないことが判った。
【0049】
比較例4
実施例4において、架橋澱粉の代わりにタピオカ澱粉原料の酸化ヒドロキシプロピル化澱粉(ヒドロキシプロピル化置換度DS0.03、膨潤度10.0ml)で架橋処理をしないもの(以下、酸化ヒドロキシプロピル化澱粉という)を用いた以外は同様にして、キトサン2を0.8部、酸化ヒドロキシプロピル化澱粉を10.0部、アジピン酸を1.6部、イオン交換水87.6部の割合で均一に溶解し試料10(pH3.81、25℃、30rpmでの粘度8,820mPa・s)の糊液を得た。
試料10の糊液をクラフト紙に26番のメイヤーバーで塗布し、クラフト紙を貼り合わせた。糊液の塗工面20mm×20mmとし、乾燥後、片方のクラフト紙の端に10gの重りをつけて水中に吊るし、T形剥離でクラフト紙が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。
試料10は14分で剥がれ落ちた。架橋処理をしていない酸化ヒドロキシプロピル化澱粉は耐水性がないことが判った。
【0050】
実施例10
試料7の糊液、及び、架橋澱粉2のみを試料7の糊液と同じ粘度に調整した糊液(固形分9.5%、pH6.16、25℃、30rpmでの粘度41,600mPa・s)(試料11)を裁断した紙管原紙に26番メイヤーバーを使用し塗工面が2cm×2cmとなるように塗工し、室温で8g/cmの荷重をかけ10分間圧締し貼り合わせた。
【0051】
実施例11
試料7又は試料11を塗布し接着した紙管原紙を20℃、相対湿度65%で2日間養生し、引張り速度20mm/分にて引張り試験機(テンシロン)で引張せん断試験を行った。試料7は3検体の剥離強度平均値が31.3kgfで紙管原紙の材料破壊が起こっていた。試料11は3検体の剥離強度平均値が25.4kgfで紙管原紙の材料破壊が起こっていた。
キトサンを配合しない試料11は常態においてもキトサンを配合した試料7より接着力が劣ることが判った。
【0052】
実施例12
試料7又は試料11を塗布し接着した紙管原紙を20℃、相対湿度65%で2日間養生した後、20℃水中に2時間浸漬後軽く水を拭き取った状態で、引張り速度20mm/分にて引張り試験機(テンシロン)で引張せん断試験を行った。試料7は3検体の剥離強度平均値が6.9kgfで紙管原紙の材料破壊が起こっていた。試料11は3検体の剥離強度平均値が1.4kgfで紙管原紙の材料破壊が起こらず剥がれた。
キトサンが配合された試料7の方が耐水接着力に優れていることが判った。
【0053】
実施例13
試料7又は試料11を塗布し接着した紙管原紙を20℃、相対湿度65%で2日間養生した後、20℃水中に4時間浸漬後軽く水を拭き取った状態で、引張り速度20mm/分にて引張り試験機(テンシロン)で引張せん断試験を行った。試料7は3検体の剥離強度平均値が5.2kgfで紙管原紙の材料破壊は起こっていなかったが毛羽立って剥がれた。試料11は3検体の剥離強度平均値が0.4kgfで紙管原紙の材料破壊や毛羽立ちが起こらず剥がれた。キトサンが配合された試料7の方が耐水接着力に優れていることが判った。
【0054】
実施例14
実施例10で用いた試料7と試料11の糊液をJIS A 6922に規定する方法で合板に塗布し綿布を貼り合せ、20℃、相対湿度65%で2日間養生し、引張り速度200mm/分にて引張り試験機(テンシロン)で180°剥離試験を行った。
試料7は2検体10測定値の剥離強度平均値が838gf/25mmであった。試料11は2検体10測定値の剥離強度平均値が497gf/25mmであった。
キトサンを配合しない試料11は常態においてもキトサンを配合した試料7より剥離強度(接着力)が劣ることが判った。
【0055】
実施例15
実施例10で用いた試料7と試料11の糊液をJIS A 6922に規定する方法で合板に塗布し綿布を貼り合せ、20℃、相対湿度65%で2日間養生しさらに20℃、相対湿度93%の状態で3日間放置後、引張り速度20mm/分にて引張り試験機(テンシロン)で180°剥離試験を行った。
試料7は2検体10測定値の剥離強度平均値が682gf/25mmであった。試料11は2検体10測定値の剥離強度平均値が433gf/25mmであった。
キトサンを配合した試料7は、キトサンを配合しない試料11より高湿度下における剥離強度(接着力)が優り、耐湿性があることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋澱粉、キトサン及び酸性剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
架橋澱粉を6〜15質量部、キトサンを0.3〜3.0質量部、及び酸性剤を0.1〜9.0質量部含有し、固形分が6.4〜27.0質量部、好ましくは架橋澱粉を8〜12質量部、キトサンを0.4〜2.4質量部、及び酸性剤を0.15〜7.4質量部含有し、固形分が8.6〜21.8質量部であることを特徴とする水性接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−284514(P2007−284514A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111837(P2006−111837)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【Fターム(参考)】