説明

接着剤組成物

【課題】鋼板等への密着性に優れ、良好な機械安定性を有するため長時間にわたりノズルからビード塗布を行った場合でも凝集物の発生やノズルの詰まりが発生しない接着剤組成物を提供する。
【解決手段】酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン、ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテル、さらにキサンタンガムが配合され、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの割合が固形分を基準として50〜95:50〜5である接着剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密着性及び機械安定性に優れ、特に金属パネル接着に好適な接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボード、ケイカル板等の無機ボードや合板等の木質ボードと鋼板を貼り合わせた金属パネルは、オフィス用パーティションや浴室内装用等として利用されており、金属パネルの製造にはクロロプレンラテックスやエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを主成分とする接着剤が用いられてきた。
【0003】
特許文献1にはクロロプレンラテックスを主成分とする塗装鋼板用接着剤が開示されており、特許文献2には金属層と強く接着し得るエチレンビニルエステル共重合体を含む水性エマルジョンが開示されている。
【特許文献1】特開2005−281452
【特許文献2】特開2006−116712 しかしながら、クロロプレンラテックスやエチレン酢酸ビニル共重合エマルジョンはポンプ輸送等のせん断力がかかる操作を行った場合、粒子が凝集しやすい(機械安定性が悪い)特徴を有するため、長時間にわたり接着剤をノズルからビード塗布するような場合、次第に凝集物が発生して最終的にノズルが詰まってしまうという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鋼板等への密着性に優れ、良好な機械安定性を有し、長時間にわたりノズルからビード塗布を行った場合でも凝集物の発生やノズルの詰まりが発生しない接着剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン、ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを含有し、好ましくはさらにキサンタンガムを含有することを特徴とする接着剤組成物である。また、固形分を基準として、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの割合が50〜95:50〜5であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明からなる接着剤組成物は鋼板等への密着性に優れ、機械安定性にも優れるため長時間ノズルによるビード塗布を行った際にも凝集物の発生やノズルの詰まりがなく、金属パネル等の製造に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用される酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(以下、PVAcと略する)とは、特に限定されるものではないが、たとえば、ケン化度75〜99.5%、平均重合度300〜4000程度のポリビニルアルコールなどを保護コロイドとするか、あるいは界面活性剤を乳化剤として併用して、酢酸ビニルモノマー単独または酢酸ビニルと共重合可能なモノマー(エチレンを除く)を公知の乳化重合により合成されたものなどが使用され、重合方法等については特に制限されない。酢酸ビニルと共重合可能なモノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(N−メチロール)アクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸のような官能基を持つモノマー等が挙げられる。
【0008】
エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(以下、EVAと略する)は、ポリビニルアルコールなどの存在下で少なくともエチレンと酢酸ビニルを含有するモノマーを共重合することにより得られる。ポリビニルアルコールは重合度300〜4000程度、けん化度75〜99.5%程度のもの使用され、2−メチル−2−プロペン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の単量体に由来する構造単位を含有するものや、1,2−グリコール結合を有するもの、エチレン単位を有するもの、アセトアセチル基を含有するものを用いても良い。ポリビニルアルコール以外に界面活性剤、糖類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体などを用いても良い。エチレンと酢酸ビニル以外のモノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、ジエン系モノマーなどを用いることができる。重合の際に、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどのグリコールエーテル化合物を添加しても良い。
【0009】
本発明の課題、即ち鋼板等への密着性と機械安定性を両立させるため、本発明の接着剤組成物は、前記PVAcとEVAを併用することを特徴とする。PVAcのみを用いた場合、後述するポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを添加しても鋼板等への十分な密着性が得られない。一方、EVAのみを用いた場合、機械安定性が十分ではなく長時間のノズル塗布において凝集物の発生やノズルの詰まりが起きる。PVAcとEVAの好ましい割合は、固形分を基準として50〜95:50〜5であり、この範囲内においては鋼板等への密着性と機械安定性をより高い次元で両立できる。
【0010】
ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルの使用により、鋼板等への密着性を向上させることができる。本発明者らは他の添加剤についても検討を行ったが、このような効果が得られたのはポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルのみであった。好ましい添加量としては、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの固形分の合計100重量部に対して、1〜30重量部である。1重量部以上の使用により密着性向上の効果が明確となるが、30重量部を超えると接着剤組成物が糸引きを起こすようになり取扱いが難しくなる。
【0011】
本発明の接着剤組成物は、最終的にPVAc、EVA、ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを含有していれば、特に添加順序や製造方法については限定されない。なお、ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルをPVAcやEVAに混合する際に凝集物が発生したり、ゲル化する等の添加ショックが起きやすいが、PVAcやEVAが高温であれば、添加ショックが起きにくいことが判明している。通常、PVAcやEVAは高温下(例えば60〜85℃程度)で重合されるため、一方の樹脂エマルジョンの製造後高温状態の内に他方の樹脂エマルジョンを添加し、さらにポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを添加する方法を用いることにより、わざわざ樹脂エマルジョンを加熱してポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを添加するという工程を省略できるため、効率的であり好ましい。
【0012】
本発明の接着剤組成物には粘度調整等を目的として増粘剤を添加することができる。好ましい増粘剤としてはキサンタンガムが挙げられる。キサンタンガムは、微生物であるキサントモナス キャンペストリス(Xanthomonas campestris)から生産される多糖類であり、マンノース、グルコース、グルクロン酸をベースに構成されている。キサンタンガムは本発明の接着剤組成物に対する増粘性、増粘安定性が良好であり、さらに擬塑性を付与することができる。接着剤組成物が擬塑性を示すことによってノズル塗布の際に受けるせん断力が低下するため、凝集物の発生やノズル詰まりを抑制できる。キサンタンガムを添加する場合、直接添加すると未溶解物の塊(ままこ)を形成しやすいため、予め水に溶解させたものを添加する方法が好ましい。キサンタンガムの添加量は、ベースとなるPVAcやEVAの粘度や必要とされる粘度によって異なるが、PVAcとEVAの合計100重量部に対して0.03重量部以上添加することが必要である。上限は特にないが、各用途における要求性能を満たす範囲内で添加することができる。
【0013】
接着剤組成物には各種の配合材料を添加することができる。斯かる配合材料には、可塑剤、溶剤、高沸点溶剤、粘着付与剤、充填剤、分散剤、レベリング剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤、架橋剤としてイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、カルボジイミド、オキサゾリン系樹脂、防錆剤などが挙げられる。
【0014】
鋼板等の接着に用いる際には防錆剤を添加することが望ましく、具体的にはベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、尿素、チオ尿素、亜硝酸ソーダ、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、ヘキサメチレンテトラミン、カルバミン酸アンモニウム、安息香酸ブチル、桂皮酸ブチル、カプリン酸、安息香酸、安息香酸ソーダ、安息香酸イソプロピル、安息香酸モノエタノールアミン、亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム、炭酸ジシクロヘキシルアンモニウム、カプリル酸シクロヘキシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0015】
本発明になる接着剤組成物を被着体に塗布するには、例えば、刷毛、ブラシ、ロール、櫛目鏝、ドクターブレード、スプレーガン、ノズルならびに各種の自動塗布機などの塗布手段を採用できる。特に機械適性に優れているため、長時間のノズル塗布を行っても凝集物の発生やノズルが詰まる等の問題が発生しない。
【0016】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。当然のことながら本発明は実施例、比較例に制約されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコ中に水545重量部、けん化度が88%であるポリビニルアルコール50重量部を仕込んで80℃に加熱して溶解させ、80℃に保った状態で水20部に過硫酸アンモニウム1部を溶解させた重合開始剤水溶液と酢酸ビニルモノマー352部を3時間かけて滴下しながら乳化重合を進め、酢酸ビニルモノマー滴下終了後さらに80℃で30分間熟成を行い、PVAc1(不揮発分41.5%)を得た。PVAc1の製造直後、反応容器が高温の状態でEVA(住化ケムテックス株式会社製、商品名400HQ、固形分55%)90重量部を添加し、次いでポリオキシアルキレンモノフェニルエーテル(日本乳化剤株式会社製、商品名PhG−HS)90重量部を添加し、実施例1の接着剤組成物を得た。
実施例2
400HQの添加量を420重量部とした他は実施例1と同様に行い、実施例2の接着剤組成物を得た。
実施例3
400HQの添加量を500重量部とした他は実施例1と同様に行い、実施例3の接着剤組成物を得た。
実施例4
実施例1の組成物に対し、さらにキサンタンガム(ローディア日華株式会社製、商品名ロードポール23)の5重量%水溶液を11重量部添加し、実施例4の樹脂組成物を得た。
比較例1
添加剤として、PhG−HSに代えて2.2.4−トリメチル−1.3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ株式会社製、商品名CS−12)90重量部を添加した他は実施例2と同様に行い、比較例1の接着剤組成物を得た。
比較例2
400HQを添加しなかった他は実施例1と同様に行い、比較例2の接着剤組成物を得た。
比較例3
400HQ 420重量部とPhG−HS 90重量部を混合し、比較例3の接着剤組成物を得た。
【0018】
各接着剤組成物について以下の方法に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
<ノズル適性>
ノズル塗布機にて48時間循環運転し、ノズル詰まりのないものを○、詰まりが発生するもの×とした。
<密着性(接着性)>
接着剤を鋼板へ200g/m2塗布し乾燥させた後、25mm幅にて手で剥離させた際の剥離抵抗により密着性を確認した。(○:密着性良好、×:密着性悪い)
<保存安定性>
500g容器に各組成物を充填し、40℃雰囲気下で一ヶ月間静置保存した。経時にて外観、性状とも変化のないものを◎、離水が見られるが攪拌することで良好な性状に戻るものを○とした。
【0019】
【表1】


実施例1〜3の接着剤組成物は、ノズル適性、鋼板への密着性ともに良好であった。また、キサンタンガムを添加した実施例4の接着剤組成物は保存安定性が特に優れていた。ポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを使用しなかった比較例1、樹脂エマルジョンとしてPVAcのみを用いた比較例2は鋼板への密着性が不十分であった。樹脂エマルジョンとしてEVAのみを用いた比較例3は機械安定性が十分ではなく、ノズル適性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン及びポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルを含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
さらにキサンタンガムを含有することを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
固形分を基準として、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの割合が50〜95:50〜5であることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
金属パネル接着用であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2008−101181(P2008−101181A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351477(P2006−351477)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】