説明

接着剤組成物

【課題】トルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することなく、耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能、低温下における接着性能に優れ、プラスチックシートラミネートに適した接着剤組成物を提供する。
【解決手段】エチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを必須成分とし、トルエン不溶分が70重量%以上であるエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン、分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有するウレタン樹脂エマルジョン、水溶性あるいは水分散性ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートを含有することを特徴とする接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することなく、耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能、低温下における接着性能に優れ、プラスチックシートラミネートに適した接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合板、MDF、パーティクルボード等の基材に意匠を施したプラスチックシートをラミネート接着したラミネート化粧材は、内外装建材や家具等に用いられている。プラスチックシートのラミネート接着には、主にエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが用いられてきた。ラミネート化粧材が使用される部位によっては高度の耐熱性、耐湿熱性、耐水性、耐寒性等が求められる場合があり、このような要求に対して種々の検討が行われてきた。
【0003】
プラスチックシートとしては従来から塩化ビニルシートが用いられていたが、焼却時にダイオキシン等の有害性化合物を生成するおそれがあった。そこで、ポリオレフィンシートやポリエステルシートが採用されるようになったが、一方、依然として塩化ビニルシートが使用される場合もあり、幅広いシートに対して安定した接着性能が得られることが要求されている。また、低温下における接着においても、十分な性能を有することが求められている。
【0004】
さらに、いわゆるシックハウス症候群が社会問題になっていることから、建築材料に対する安全性が厳しく求められるようになっており、特定の化合物については使用しないことや、放散速度を一定以下に抑えることが要求されている。前記化合物の具体的として、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等が挙げられ、これらの化合物の使用を避ける必要があるため、水溶性または水分散性であることが求められている。
【0005】
特許文献1には、耐熱クリープ性能の向上を目的とし、特定のエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンおよびアニオン性ポリウレタン水性エマルジョンを含有する接着剤組成物が開示されている。特許文献2には、初期接着性および耐熱クリープ性の両立を目的として、特定の水性ウレタン樹脂と架橋剤からなる保存性良好な接着剤組成物が開示されている。特許文献3には、耐湿熱クリープ性能の向上を目的とし、特定のエチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体、水性ポリウレタン、ポリイソシアネートプレポリマーを含有する接着剤組成物が開示されている。
【0006】
一方、特許文献1開示の配合は全てトルエンが使用されており、低温下における接着性能も十分ではないという問題がある。特許文献2開示の配合は低温下における接着性能や耐湿熱性能が十分ではないという問題がある。特許文献3開示の配合は全てキシレンが使用されているという問題がある。このように、プラスチックシートラミネート用接着剤において、トルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することなく、耐湿熱性能、低温下における接着性能を全て兼ね備えたものは従来知られていなかった。
【特許文献1】特開平9-194811号公報
【特許文献2】特開平8-337767号公報
【特許文献3】特開2000-8019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、トルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することなく、プラスチックシートラミネート、特に低温下におけるラミネート接着に適し、しかも優れた耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能を発揮できる接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン、(b)ウレタン樹脂エマルジョン、(c)ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートを含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【0009】
前記(a)エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂がエチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを必須成分とし、トルエン不溶分が70重量%以上であり、前記(b)ウレタン樹脂エマルジョンが分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有することが好ましい。また、前記(c)ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートが、水溶性あるいは水分散性であることが好ましい。さらに、トルエンおよびキシレンを配合しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は優れた耐熱、耐湿熱性能を有するため、窓枠等に用いられてもクリープによる剥がれを生じない。また、低温下における接着性能に優れるため、冬季においても過度の保温対策を必要とすることなく使用できる。さらに、トルエンおよびキシレンを配合していないため、本接着剤組成物を用いて製造された建材は住宅へ安心して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。(a)エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンは、ポリビニルアルコール、界面活性剤などの乳化剤の存在下で少なくとも酢酸ビニル及びエチレンを共重合することによって得られる。特に本発明においては高度な耐熱、耐湿熱性能を得るため、前記酢酸ビニル及びエチレンに加え、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを用いることが好ましい。また、同理由により、トルエン不溶分は70%以上であることが好ましい。具体的な製造方法は、特開平9-194811号公報等に開示されている。
【0012】
(b)ウレタン樹脂エマルジョンは、接着剤組成物の耐熱性能や耐湿熱性能を向上させるために用いられる。中でも分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有するものは酸性領域でも安定であり、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンとの混和安定性に優れることから好ましい。具体的な製造方法は、特開平8-337767号公報等に開示されている。エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの固形分合計100重量部に対するウレタン樹脂エマルジョンの好ましい配合量は、固形分を基準として1〜50重量部である。
【0013】
(c)ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートは、ビューレット骨格を有するヘキサメチレンジイソシアネートである。イソシアネート化合物は接着剤や塗料の硬化剤として多様なものが用いられているが、本発明の接着剤組成物においては、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートのみが適している。また、水溶性または水分散性であれば、有機溶剤を使用しない本発明の接着剤組成物との混和性が良い。ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートの好ましい配合量は、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンとウレタン樹脂エマルジョンの合計100重量部に対して、0.1〜30重量部である。
【0014】
本発明の接着剤組成物は上記各必須成分の他、必要に応じて各種配合材料を添加することができる。例えば、可塑剤の添加により、接着剤の皮膜を軟化してプラスチックフィルムへの密着性を向上させることができる。なお、可塑剤の過剰な使用は耐熱クリープ性能を低下させるため、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンとウレタン樹脂エマルジョンの合計100重量部に対する可塑剤の好ましい使用量は1〜30重量部である。
【0015】
その他の添加剤として、増粘剤、充填材、pH調整剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤等が挙げられる。
【0016】
なお、本発明の課題の一つはトルエンやキシレンを配合しない接着剤組成物を提供することであり、原料としてトルエンやキシレンを配合しないことにより達成される。ところで、接着剤は様々な原料の配合組成物であるため、原料中にコンタミネーションレベルで含まれる有機溶剤まで取り除くことは現実的には困難であるが、トルエンやキシレンを1%以上含有しない原料はMSDS(製品安全データシート)から判別可能であるため、このような原料を使用すれば、実質的にシックハウス症候群の原因となるおそれがない接着剤組成物を製造できる。
【0017】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1
エチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを含有する単量体の共重合系樹脂エマルジョンであるS456HQ(住化ケムテックス株式会社製、Tg0℃、不揮発分55%、トルエン不溶分90%、商品名)900重量部、分子内にスルホン酸塩基を有するウレタン樹脂エマルジョンであるECOS3000(大日本インキ化学工業株式会社製、不揮発分40%、商品名)100重量部、可塑剤としてCS−12(チッソ株式会社製、商品名)100重量部を混合し、増粘剤としてプライマルRM−8(ローム・アンド・ハース・カンパニー社製、商品名)を用いて増粘させることによって主剤組成物(25Pa・s/30℃)を得た。主剤組成物100重量部と、水分散性ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートであるWB40−100(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名)2.5重量部を混合し、実施例1の接着剤組成物を得た。
【0019】
比較例1
前記主剤100重量部と、イソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネートであるコロネートHX(日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名)2.5重量部を混合し、比較例1の接着剤組成物を得た。
【0020】
試験片作成方法
MDF(広葉樹、2.5mm厚)、ラワン合板(JAS2類、2.5mm厚)に各接着剤組成物を80g/m2で塗布し、ポリオレフィン化粧シートであるWSサフマーレ(大日本印刷株式会社製、商品名)を貼り合わせ、ハンドローラーで一往復することにより脱気及び圧締を行い、23℃雰囲気下で7日間養生した。養生後、25mm幅に切断して試験片を作成した。
【0021】
耐熱クリープ
60℃恒温器中において、試験片の90°方向に500gの荷重を24時間かけ、はく離した長さを測定し、3試験片の平均値を求めた。
【0022】
耐湿熱クリープ
60℃、70%RHに設定した恒温恒湿器中において、試験片の90°方向に500gの荷重を24時間かけ、はく離した長さを測定し、3試験片の平均値を求めた。
【0023】
低温接着性
MDF、合板、接着剤組成物、ポリオレフィン化粧シートをそれぞれ0℃恒温器中に放置した後、取り出して素早くMDF、合板に各接着剤組成物を80g/m2で塗布し、前記ポリオレフィン化粧シートを貼り合わせ、ハンドローラーで一往復することにより脱気及び圧締を行い、0℃恒温器中に戻した。0℃恒温器内で7日間養生後、取り出して素早く強制はく離を行い、破壊状態を観察した。破壊状態は○(基材材破)、×(界面はく離)で評価した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1、比較例1とも有機溶剤を配合しないものであり、耐熱クリープ、低温接着性は共に優れている。一方、耐湿熱クリープはビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートを用いた実施例1がより優れており、過酷な環境下で使用される場合に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン、(b)ウレタン樹脂エマルジョン、(c)ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートを含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記(a)エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂がエチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを必須成分とし、トルエン不溶分が70重量%以上であり、前記(b)ウレタン樹脂エマルジョンが分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有することを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(c)ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートが、水溶性あるいは水分散性であることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
トルエンおよびキシレンを配合しないことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2009−155538(P2009−155538A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337189(P2007−337189)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】