説明

接着剤組成物

【目的】 加圧および加熱の双方により硬化剤を内包するマイクロカプセルが破壊可能で、しかも高濃度の硬化剤をが内包されたマイクロカプセルを含有する接着剤組成物を提供する。
【構成】 下記の(A)成分および(B)成分が含有されている。
(A)エポキシ樹脂。
(B)アミン化合物が下記の(a)成分によって被覆保護されている二重構造のマイクロカプセルであって、カプセル中に上記アミン化合物が45〜80重量%包含され、上記被覆層の厚みがマイクロカプセルの直径の3〜10%に設定されているマイクロカプセル。
(a)ポリメタクリル酸メチル,ポリスチレン,エチレン−酢酸ビニル共重合体およびポリビニルトルエンからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であって、分子量が1600〜10万の範囲内に設定されている化合物からなる膜物質。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、塗工性に優れ、加熱および加圧によって接着硬化がなされる接着剤組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の、アミン化合物を内包したマイクロカプセルを硬化剤として用いたエポキシ樹脂系接着剤組成物は、ボルトに塗工し、このボルトを締め付ける際の圧力により、マイクロカプセルを破壊し、内包されたアミン化合物とエポキシ樹脂とを反応させ硬化させて接着固定するという具合に使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記エポキシ樹脂系接着剤組成物は、加圧のみでしかマイクロカプセルを破壊することができず、その用途範囲が限定されてしまう。例えば、加圧のみならず加熱等によってもマイクロカプセルを破壊することが可能であれば用途は拡大し、事実、加熱によりマイクロカプセルが破壊され、接着硬化可能なものが切望されている。そして、加熱によりマイクロカプセルが破壊され、内包されたアミン系硬化剤を放出するマイクロカプセル型アミン硬化剤を用いた接着剤組成物が提案されている(特開平2−292325号公報)。しかし、上記接着剤組成物は、マイクロカプセル型アミン硬化剤が、従来の製法、例えば溶剤蒸発法,スプレードライ法等により作製されるために、内包されるアミン系硬化剤の濃度の高いものが得られないという問題を有している。
【0004】この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、加圧および加熱の双方により硬化剤を内包するマイクロカプセルの破壊が容易で、しかも内包される硬化剤成分が高濃度であり接着信頼性に優れた接着剤組成物の提供をその目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明の接着剤組成物は、下記の(A)成分および(B)成分を含有するという構成をとる。
(A)エポキシ樹脂。
(B)アミン化合物が下記の(a)成分によって被覆保護されているマイクロカプセルであって、カプセル中に上記アミン化合物が45〜80重量%包含され、上記被覆層の厚みがマイクロカプセルの直径の3〜10%に設定されているマイクロカプセル。
(a)ポリメタクリル酸メチル,ポリスチレン,エチレン−酢酸ビニル共重合体およびポリビニルトルエンからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であって、分子量が1600〜10万の範囲内に設定されている化合物からなる膜物質。
【0006】
【作用】すなわち、本発明者らは、加圧のみならず、加熱によっても容易に破壊可能で、硬化剤成分を高濃度に内包したマイクロカプセルを含有する接着剤組成物を得るために一連の研究を重ねた。その結果、硬化剤成分を内包するマイクロカプセルの膜物質として、特定範囲の分子量および種類の熱可塑性樹脂を用いると、高濃度のアミン化合物を内包することが可能となり、上記熱可塑性樹脂によりアミン化合物が被覆保護されたマイクロカプセルを用いると、加熱によるマイクロカプセルの破壊が可能となり、しかも接着信頼性の向上が図れるようになることを見出しこの発明に到達した。
【0007】つぎに、この発明について詳しく説明する。
【0008】この発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂(A成分)と、これの硬化剤成分が内包された特定のマイクロカプセル(B成分)とを用いて得られる。
【0009】上記エポキシ樹脂(A成分)としては、特に限定するものではなく、従来公知のものが用いられる。
【0010】上記特定のマイクロカプセル(B成分)は、芯物質となるアミン化合物と、これの表面を被覆保護する膜物質とから構成される。
【0011】上記アミン化合物としては、ペンタエチレンヘキサミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の脂肪族アミンおよびその変性物、メタフェニレンジアミン、ジアミンジフェニルメタン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール等の芳香族アミン等があげられる。これらは単独でもしくは併せて用いられる。
【0012】上記アミン化合物を被覆保護する膜物質としては、ポリメタクリル酸メチル,ポリスチレン,ポリビニルトルエン,エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)があげられ、これらは単独でもしくは併せて用いられる。また、これら膜物質は、分子量が1600〜100000の範囲のものでなければならない。すなわち、上記範囲を外れると、マイクロカプセルが形成不可能となる、あるいは形成されても芯物質が存在しない中空粒子が形成されてしまう、または膜物質のみのビーズ状となるからである。なお、製造条件,膜物質によっては分子量30万までのものであれば使用可能である。そして、上記膜物質のなかでも、特に、平均分子量が1600〜2000のポリスチレン,平均分子量が10万のポリメタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
【0013】上記特定のマイクロカプセル(B成分)は、例えばつぎのようにして得られる。すなわち、まず、硬化剤成分であるアミン化合物と、有機溶媒中に膜物質が溶解された疎水性溶液を準備し、これらを混合して均一に溶解する。ついで、これを、乳化剤を溶解した水性媒体中に添加する。ついで、攪拌しながら昇温し、上記有機溶媒を除去する。このとき、加熱による有機溶媒の蒸発に伴い乳化粒子内で膜物質のコアセルベーションが生起し、アミン化合物と膜物質が相分離する。このようにして膜物質がアミン化合物を被覆保護することによりアミン化合物を高濃度に内包したマイクロカプセルが作製される。そして、生成した懸濁状マイクロカプセルを濾過し、水で洗浄して、さらに濾過することによりマイクロカプセル(A成分)が得られる。
【0014】上記アミン化合物と、有機溶媒中に溶解された膜物質の配合割合は、膜物質1重量部(以下「部」と略す)に対してアミン化合物を20部以下に設定することが好ましく、特に好ましくはアミン化合物が0.5〜10部の範囲である。すなわち、アミン化合物が20部を超えるとマイクロカプセル中に含まれるアミン化合物の内包割合が大きく減少し、高濃度のものが得られ難いからである。
【0015】上記水性媒体としては、水が好適にあげられ、この水性媒体に溶解する乳化剤としては、ポリオキシエチレン(POE)・ポリオキシプロピレン(POP)アルキルエーテル,POEソルビタン脂肪酸エステル,POEアルキルエーテル,POEアルキルフェニルエーテル等の乳化剤、ゼラチン等があげられる。なお、上記乳化剤は、膜物質が溶解された疎水性溶液中に添加してもよい。
【0016】上記膜物質を溶解する有機溶媒としては、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,酢酸プロピル等の酢酸エステル系溶媒、ジクロロメタン,ジクロロエタン等の塩素系溶媒等があげられる。
【0017】上記製法のように、アミン化合物を溶媒等に溶解した溶液として用いず、そのまま配合することにより、カプセル中にアミン化合物が45〜80重量%という高濃度の範囲で包含される。しかも、得られるマイクロカプセルは、粒子径は100〜600μmに形成され、かつ上記膜物質によって形成される膜の厚みは、(膜厚み/粒子径)で表すと3〜10%の範囲に形成される。
【0018】この発明の接着剤組成物には、上記エポキシ樹脂(A成分)およびマイクロカプセル(B成分)以外に、必要に応じて、硬化促進剤,希釈剤等の他の添加剤を適宜配合してもよい。
【0019】この発明の接着剤組成物は、例えばエポキシ樹脂(A成分)と、上記のようにして得られたマイクロカプセル(B成分)を配合し混合することにより得られる。
【0020】上記エポキシ樹脂(A成分)とマイクロカプセル(B成分)との配合割合は、マイクロカプセル(B成分)内に包含されるアミン化合物が、エポキシ樹脂(A成分)に対して当量となるようにマイクロカプセル(B成分)量を設定することが好ましい。
【0021】
【発明の効果】以上のように、この発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂(A成分)と、特定範囲の分子量および種類の熱可塑性樹脂により、かつ特定アミン濃度のアミン化合物が被覆保護されたのマイクロカプセル(B成分)を含有する。このため、優れた塗工性を備え、加圧のみならず加熱によってもマイクロカプセルが破壊可能となる。さらに、加圧および加熱によりマイクロカプセルが容易に破壊可能であることはもちろん、内包されるアミン化合物の濃度が高く、従来の二液型エポキシ樹脂系接着剤のように、アミン化合物のみを硬化剤として用いた場合と同程度の高い接着強度が得られる。したがって、従来のマイクロカプセルを含有する接着剤組成物が、加圧のみによるマイクロカプセルの破壊で接着硬化がなされる用途にしか使用できなかったか、もしくは加熱による破壊可能な用途であっても高い接着強度が得られなかったのに比べて用途範囲が拡大し、かつ接着強度の信頼性が向上して種々の分野への使用が可能となる。
【0022】つぎに、実施例について詳しく説明する。
【0023】
【実施例1】攪拌機を付帯した300ml反応器に1重量%濃度のゼラチン水溶液200部を加え、温度30℃,500rpmで攪拌した。これに、ポリメタクリル酸メチル(平均分子量10万)1部、ジクロロメタン9部、ペンタエチレンヘキサミン1部からなる混合溶液を加え、30分かけて50℃に昇温した後、50℃で2時間30分保持した。生成した懸濁状のマイクロカプセルを真空濾過器に通し、ついで純水で洗浄した後、濾過することによりアミンマイクロカプセルを作製した。このマイクロカプセル中に含まれるアミン化合物は、カプセルの重量に対して56重量%であった。ついで、このアミンマイクロカプセル0.2部とビスフェノールA型エポキシ樹脂(スミ−エポキシCLE128−CA,住友化学工業社製)0.8部を混合した。このようにして目的とする接着剤組成物を得た。
【0024】そして、上記接着剤組成物0.05部をステンレス板(SUS304)の一端部分25mm×12.5mmの面積に塗布した。このステンレス板に、別のステンレス板(SUS304)を重ね、クランプで固定した。さらに、これを160℃で3時間加熱した。このようにして得た試験片を20℃室温下に、12時間以上放置した後、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。その結果、106kg/cm2 の接着強度が得られた。
【0025】
【実施例2〜6】下記の表1および表2に示す各成分を同表に示す割合で配合した。また、攪拌時の温度および攪拌条件を同表に示す条件に設定した。それ以外は実施例1と同様にしてアミンマイクロカプセルを作製した。上記アミンマイクロカプセルのアミン化合物含有率,粒子径を同表に示した。ついで、このアミンマイクロカプセルとビスフェノールA型エポキシ樹脂(スミ−エポキシCLE128−CA,住友化学工業社製)を同表に示す割合で混合した。このようにして目的とする接着剤組成物を得た。そして、上記接着剤組成物を用い、上記実施例1と同様、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。その試験結果である引張剪断強度を下記の表1および表2に併せて示した。
【0026】なお、下記の表1以下において、PMMAはポリメタクリル酸メチル、PStはポリスチレン、PVTはポリビニルトルエンである。また、上記引張剪断強度は、上記実施例1と同様に、接着剤組成物をステンレス板(SUS304)の一端部分25mm×12.5mmの面積に塗布した。このステンレス板に、別のステンレス板(SUS304)を重ね、クランプで固定した。さらに、これを160℃で3時間加熱した。このようにして得た試験片を20℃室温下に、12時間以上放置した後、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。
【0027】
【表1】


【0028】
【表2】


【0029】
【比較例1】10重量%PMMA(平均分子量10万)−ジクロロメタン溶液10部に、トリエチレンテトラミンの50%水溶液を2部乳化した物質を添加した。これを攪拌機で攪拌して一次エマルジョンを得た(一次乳化)。一方、攪拌機を付帯した300ml反応器に、1重量%濃度のゼラチン溶液200部を加え、30℃,500rpmで攪拌した。これに上記一次エマルジョンを加えて二次エマルジョンを得た(二次乳化)。そして、二次エマルジョンを30分かけて50℃に昇温した後、50℃で2時間30分保持した。生成した懸濁状のマイクロカプセルを真空濾過器に通し、ついで純水で洗浄した後、濾過することによりアミンマイクロカプセルを作製した。上記アミンマイクロカプセルのアミン化合物含有率,粒子径を後記の表3に示した。ついで、このアミンマイクロカプセルとビスフェノールA型エポキシ樹脂(スミ−エポキシCLE128−CA,住友化学工業社製)を同表に示す割合で混合した。このようにして目的とする接着剤組成物を得た。そして、上記接着剤組成物を用い、上記実施例1と同様、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。その試験結果である引張剪断強度を後記の表3に併せて示した。
【0030】
【比較例2】後記の表3に示す成分を同表に示す割合で混合した。また、攪拌時の温度および攪拌条件を同表に示す条件に設定した。それ以外は比較例1と同様にしてアミンマイクロカプセルを作製した。上記アミンマイクロカプセルのアミン化合物含有率,粒子径を後記の表3に併せて示した。ついで、このアミンマイクロカプセルとビスフェノールA型エポキシ樹脂(スミ−エポキシCLE128−CA,住友化学工業社製)を同表に示す割合で混合した。このようにして目的とする接着剤組成物を得た。そして、上記接着剤組成物を用い、上記実施例1と同様、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。その試験結果である引張剪断強度を後記の表3に併せて示した。
【0031】
【比較例3】攪拌機を付帯した300ml反応器に、ポリスチレン(平均分子量5万)7.9部、ジクロロメタン71部からなる溶液を仕込み、これに600rpmの攪拌下でトリエチレンテトラミン12.9部,グリセリン12.9部からなる混合溶液を加え、2分間攪拌した。さらに、1重量%ゼラチン水溶液100.3部を投入し、40℃で3時間保持した。生成した懸濁状のマイクロカプセルを真空濾過器に通し、ついで純水で洗浄した後、濾過することによりアミンマイクロカプセルを作製した。上記アミンマイクロカプセルのアミン化合物含有率,粒子径を下記の表3に示した。ついで、このアミンマイクロカプセルとビスフェノールA型エポキシ樹脂(スミ−エポキシCLE128−CA,住友化学工業社製)を同表に示す割合で混合した。このようにして目的とする接着剤組成物を得た。そして、上記接着剤組成物を用い、上記実施例1と同様、JIS−K−68501976に準じ、引張剪断試験を実施した。その試験結果である引張剪断強度を下記の表3に併せて示した。
【0032】
【表3】


【0033】
【比較例4】トリエチレンテトラミンのみを用いて、前記と同様の引張剪断試験を行った。その結果を下記の表4に示した。
【0034】
【表4】


【0035】上記表1〜表4の結果から、比較例1〜3品はアミン化合物含有率が低いため、これを硬化剤として用いた場合引張剪断強度が低く、充分な接着強度が得られなかった。これに対して、実施例品はいずれもアミン含有率が高く、しかもこれを硬化剤として用い接着した場合の引張剪断強度が高く、アミン化合物のみで硬化させたもの(比較例4)と同程度の強度が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の(A)成分および(B)成分を含有することを特徴とする接着剤組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)アミン化合物が下記の(a)成分によって被覆保護されているマイクロカプセルであって、カプセル中に上記アミン化合物が45〜80重量%包含され、上記被覆層の厚みがマイクロカプセルの直径の3〜10%に設定されているマイクロカプセル。
(a)ポリメタクリル酸メチル,ポリスチレン,エチレン−酢酸ビニル共重合体およびポリビニルトルエンからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であって、分子量が1600〜10万の範囲内に設定されている化合物からなる膜物質。
【請求項2】 アミン化合物が、脂肪族ポリアミンまたは芳香族ポリアミンである請求項1記載の接着剤組成物。