説明

接触摺動型リニアテープドライブ用磁気ヘッドおよびその製造方法、接触摺動型リニアテープドライブ装置ならびに磁気記録再生方法

【課題】きわめて表面平滑性に優れた磁気テープを含むリニアシステムにおいて、優れた走行安定性および電磁変換特性を得るための手段を提供する。
【解決手段】磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ用磁気ヘッドにおいて、接触摺動時に磁気テープと接触摺動する面に、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像において観察される凹部を複数有し、かつ該複数の凹部は下記(1)〜(4)を満たす。(1)前記接触摺動する面における前記凹部の平均面積は0.2〜1.0μm2の範囲である。(2)前記凹部の面積の標準偏差は0.5〜2.0μm2の範囲である。(3)前記接触摺動する面における前記凹部の面積率は20〜50%の範囲である。(4)前記凹部の平均深さは15nm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気信号の記録および/再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動するリニアテープドライブにおいて使用される磁気ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記磁気ヘッドを含むリニアテープドライブ装置および上記磁気ヘッドを使用する磁気記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報伝達手段の著しい発達により、膨大な情報をもつ画像およびデータの転送が可能となってきた。これに伴い、それらを保存する磁気記録媒体の高密度記録化がますます進行してきている。かかる状況下、高密度記録された信号を高S/Nで再生するために、スペーシングロスを低減することが求められている。
【0003】
磁気記録媒体に情報を記録再生するための磁気記録再生システムには、浮上型と接触摺動型がある。浮上型システムであるハードディスクドライブシステムでは媒体とヘッドが接触しない状態で信号の記録再生が行われる。これに対し、接触摺動型システムであるフレキシブルディスクシステムやバックアップテープシステムでは、記録再生時に媒体とヘッドが接触摺動する。そのため、上記接触摺動型システムでは、媒体との摺動によりヘッドが磨耗するという問題がある。この点について、非特許文献1では、LTOシステムにおける磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)の磨耗は、ヘッドを構成するAl23−TiCセラミック(AlTiC)においてAl23およびTiCが、それぞれ異なる要因より削れることが原因であると考察している。
【0004】
媒体との接触によるヘッドの磨耗は、媒体表面の平滑性を高めることにより低減することができる。更に、媒体表面の平滑性を高めることはスペーシングロスを低減し記録再生特性を高めるためにも有効である。しかし、接触摺動型システムでは、媒体表面の平滑性を高めると、媒体表面とヘッド表面との接触面積が広がり摩擦係数が増大し、安定走行が困難となるという問題がある。これに対し、特許文献1では、表面平滑性の高い磁気テープを安定走行させるために、磁気ヘッドに規則的な凹凸を設けることが提案されている。
【特許文献1】特開平8−45015号公報
【非特許文献1】J.L.Sullivan,Baogui Shi,S.O.Saied,Tribology International 38(2005)987-994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在広く採用されている磁気記録再生システムは、ヘリカルスキャンシステムとリニアシステムに大別される。上記特許文献1に記載の磁気ヘッドは、ヘリカルスキャンシステム用の磁気ヘッドであるが、ヘッドや媒体の損傷防止の点ではリニアシステムが優れていることが知られている。そこで本願発明者らが、特許文献1において提案されているように、磁気ヘッドの磁気テープとの接触摺動面に規則的な凹凸を設けた磁気ヘッドをリニアシステムに適用することを検討したところ、磁気テープ表面がきわめて平滑になると走行時にスティックスリップ(SticSlip)が発生し安定走行が困難となることが判明した。
【0006】
そこで本発明の目的は、きわめて表面平滑性に優れた磁気テープを含むリニアシステムにおいて、優れた走行安定性および電磁変換特性を得るための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、磁気テープとの接触摺動面に所定の不規則な凹みを有する磁気ヘッドにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ用磁気ヘッドであって、
前記接触摺動時に磁気テープと接触摺動する面に、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像において観察される凹部を複数有し、かつ該複数の凹部は下記(1)〜(4)を満たすことを特徴とする磁気ヘッド。
(1)前記接触摺動する面における前記凹部の平均面積は0.2〜1.0μm2の範囲である。
(2)前記凹部の面積の標準偏差は0.5〜2.0μm2の範囲である。
(3)前記接触摺動する面における前記凹部の面積率は20〜50%の範囲である。
(4)前記凹部の平均深さは15nm以上である。
[2]一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有する隆起部を有し、前記接触摺動面は該隆起部上端面である[1]に記載の磁気ヘッド。
[3]磁気テープおよび磁気ヘッドを含み、磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ装置であって、
前記磁気ヘッドは[1]または[2]に記載の磁気ヘッドであることを特徴とするリニアテープドライブ装置。
[4]前記磁気テープは、前記接触摺動時に磁気ヘッドと接触摺動する面の中心線平均粗さが0.1〜2.0mmの範囲である[3]に記載のリニアテープドライブ装置。
[5]磁気ヘッドと磁気テープとを接触摺動させながら該磁気テープにリニア方式で磁気信号を記録および/または再生する磁気記録再生方法であって、
前記磁気ヘッドは、[1]または[2]に記載の磁気ヘッドであることを特徴とする磁気記録再生方法。
[6]前記磁気テープは、前記接触摺動時に磁気ヘッドと接触摺動する面の中心線平均粗さが0.1〜2.0mmの範囲である[5]に記載の磁気信号再生方法。
[7][1]または[2]に記載の磁気ヘッドの製造方法であって、
一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有するヘッドチップを作製すること、および、
上記セラミック膜表面を研磨することにより前記凹部を形成すること、
を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば磁性層の中心線表面粗さが2nm以下の磁気記録媒体であっても、再生出力を低下させることなく安定走行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[磁気ヘッド]
本発明は、磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ用磁気ヘッドに関する。本発明の磁気ヘッドは、接触摺動時に磁気テープと接触摺動する面(以下、「接触摺動面」ともいう)に、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像において観察される凹部を複数有し、かつ該複数の凹部は下記(1)〜(4)を満たすものである。
(1)前記接触摺動する面における前記凹部の平均面積は0.2〜1.0μm2の範囲である。
(2)前記凹部の面積の標準偏差は0.5〜2.0μm2の範囲である。
(3)前記接触摺動する面における前記凹部の面積率は20〜50%の範囲である。
(4)前記凹部の平均深さは15nm以上である。
【0011】
磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型テープドライブでは、スペーシングロス低減のためテープ表面の平滑性を高めるほど、摩擦係数増大により走行安定性は低下する。特に、テープとヘッドとの物理的接触面積が大きいリニアテープドライブでは、表面平滑性がきわめて高い磁気テープと従来の磁気ヘッドとの組み合わせでは、走行時にスティックスリップ(SticSlip)が発生し安定走行が困難となる。
これに対し本発明の磁気ヘッドは、磁気テープとの接触摺動面に、上記(1)〜(4)を満たす複数の不規則な凹部を有する。このように適度な深さを有する所定の大きさの凹部を所定量不規則に設けることにより、記録再生特性を低下することなくスティックスリップを防止することが可能となる。これにより、接触摺動型リニアテープシステムにおいて、例えば中心線平均粗さ2.0nm以下のきわめて平滑な磁性層を有する磁気テープと組み合わせることにより、走行安定性と記録再生特性を両立することができる。
以下、本発明の磁気ヘッドについて更に詳細に説明する。
【0012】
本発明の磁気ヘッドは、磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブに使用される磁気ヘッドである。本発明において、「リニアテープドライブ」とは、テープの走行方向に対して直線的にデータを記録するリニア方式のテープドライブをいう。これに対し、前述の特許文献1に記載のヘリカルスキャンシステムでは、テープの走行方向に対して斜めにヘッドを傾けてデータを記録する。
リニアテープドライブに使用される磁気ヘッドは、ヘッド表面がテープ走行面に対して平行に位置するタイプのヘッドと、図1に概略断面図を示すように2つ以上の隆起部を有し、これら隆起部上端面が接触摺動面となるヘッドがある。上記隆起部は、一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有する。前者は、一般にフラット型ヘッドと呼ばれ、例えば非特許文献1に記載されているヘッドが該当する。これに対し、後者に該当するものとしてはContour型リニアテープドライブ用磁気ヘッド(以下、「Contour型ヘッド」という)が知られている(例えば特開2006−127730号公報参照)。なお、本発明において「Contour型ヘッド」とは、上記隆起部を2つ以上有するリニアテープドライブ用磁気ヘッドをいう。Contour型ヘッドの中でも記録用素子と再生用素子との組み合わせを2組以上有するものはマルチチャンネル磁気ヘッドと呼ばれる。
本発明の磁気ヘッドは、フラット型ヘッドであってもContour型ヘッドであってもよい。Contour型ヘッドは、フラット型ヘッドと比べて接触摺動時のテープとの接触面積が大きくなるため、走行安定性の点では通常不利である。これに対し本発明の磁気ヘッドは磁気テープとの接触摺動面に上記(1)〜(4)を満たす複数の凹部を有することにより、Contour型ヘッドであっても走行安定性を確保することができ、きわめて高い表面平滑性を有する磁気テープであっても安定走行させることができる。したがって、本発明の磁気ヘッドはContour型ヘッドとして好適である。
【0013】
本発明の磁気ヘッドがContour型ヘッドである場合、隆起部の数は2つ以上であればよく特に限定されるものではない。そして、各隆起部は、一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有する。上記素子は、記録再生特性向上の点から、磁気抵抗効果型素子(MR素子)であることが好ましい。セラミック膜とMR素子との間には通常絶縁材が配置される。セラミック膜は、AiTiC、Al23、Al等から形成することができるが、セラミック膜表面への凹凸形成の容易性の観点からはAlTiCからなることが好ましい。
【0014】
本発明の磁気ヘッドは、磁気テープと接触摺動する面に、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像において観察される凹部を複数有する。例えば本発明の磁気ヘッドがContour型ヘッドである場合、上記セラミック膜表面の一部が接触摺動面となる。なお、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像は、例えばAFM画像として得ることができる。AFM画像では像の濃淡によって平坦部と凹部を容易に判別することができる。または、画像処理ソフトによっても平坦部と凹部の判別が可能である。
以下、上記複数の凹部が満たす条件(1)〜(4)について説明する。
【0015】
(1)凹部の平均面積
上記複数の凹部の平均面積は、0.2〜1.0μm2の範囲である。スリップスティック防止のためには最大静止摩擦力と動摩擦力を低減することが重要であるが、平均面積が0.2μm2未満では、テープとの接触部を十分に低減することができず、最大静止摩擦と動摩擦力を低減することが困難となる。一方、平均面積が1.0μm2を超えると、最大静止摩擦力は低減できるものの、テープ走行時にテープ面を安定に支えることができずテープとヘッドとの間のスペーシング変動により動摩擦力特性が悪化し、良好な記録再生特性を得ることが困難となる。走行安定性と記録再生特性両立のためには、上記平均面積は0.3〜0.8μm2であることが好ましく、0.4〜0.6μm2であることがより好ましい。
【0016】
(2)凹部面積の標準偏差
前記接触摺動面における凹部の面積の標準偏差は0.5〜2.0μm2の範囲である。上記標準偏差が0.5μm2未満では、サイズ分布が小さく、ヘッド幅方向とヘッドテープ摺動方向で動摩擦力特性が異なること、また、テープ静止時の摩擦と走行時の摩擦で大きな差が発生することにより、動摩擦力が大きく変動し安定走行が困難となる。他方、上記標準偏差が2.0μm2を超えると、面積の大きい凹部が増えてくるため、最大静止摩擦力は低減されるものの、テープが走行する時にテープ面を安定して支えられず、テープとヘッド間のスペーシング変動により動摩擦特性が悪化し、良好な記録再生特性を得ることが困難となる。走行安定性と記録再生特性両立のためには、上記標準偏差は0.4〜1.8μm2であることが好ましく、1.0〜1.5μm2であることがより好ましい。
【0017】
(3)凹部面積率
前記接触摺動面における凹部の面積率(接触摺動面に占める凹部の割合)は、20〜50%の範囲である。上記凹部の面積率が20%未満では、テープとの接触部を十分に低減できず、最大静止摩擦力と動摩擦力を低減することが困難となる。一方、上記面積率が50%を超えると、テープとの接触部が減少し最大静止摩擦力は低減するものの接触部が少ないためにテープ面を安定して支えられず、テープが走行する時にテープとヘッド間のスペーシングが変動し、動摩擦変動が発生するため、記録再生特性が劣化する。走行安定性と記録再生特性両立のためには、上記面積率は20〜45%であることが好ましく、25〜35%であることがより好ましい。
【0018】
(4)凹部平均深さ
前記凹部の平均深さは15nm以上である。深さ15nm未満の凹部では、凹部が浅すぎるため凹部の一部がテープと接触してしまいテープ接触部を十分に低減することができず、最大静止摩擦力と動摩擦力を低減する効果を得ることが困難となる。上記凹部の平均深さは、好ましくは20nm以上、より好ましくは25nm以上である。なお平均深さ15nm以上であれば走行安定性改善の効果を得ることができるため、平均深さの上限は特に限定されるものではないがヘッド製造工程における作業性を考慮すると、平均深さは50nm以下程度が適当である。
【0019】
前述の凹部の平均面積、標準偏差および面積率は、走査型プローブ顕微鏡によるAFM 形状像に測定時の傾き補正を施し、AFM画像を解析可能な画像処理ソフトを用いて解析を実施することによって求めることができる。具体的には、画像処理ソフトSPIP(ScanningProbe Image Processor:Image Metrology)を用い、本ソフトにおけるGrainDialog 解析により、凹部の表面積分布を算出することができる。凹部の平均深さは、上記のAFM形状像における平坦部を示すピーク(peak1)と凹み部を示すピーク(peak2)のピーク中心値の差として算出することができる。測定方法の詳細は、後述の実施例を参照できる。
【0020】
本発明の磁気ヘッドは、テープとの接触摺動時に接触摺動面となるヘッド表面上に研磨テープを走行させて該表面を研磨することにより作製することができる。ヘッド材料および研磨時の各種条件を調整することによって、前記(1)〜(4)を満たす凹部を接触摺動面上に形成することができる。
【0021】
研磨時の研磨テープの走行条件としては、走行時の温度および湿度、テープ走行速度、テープテンション、ラップ角度、テープの往復回数を挙げることができ、研磨テープの走行時の温度は、10〜40℃、湿度は10〜80℃、テープ走行速度は0.1〜4m/s、テープテンションは30〜200gf、ラップ角度は1〜50°、テープの往復回数は1〜20回程度がそれぞれ適当であるが、研磨テープおよび磁気ヘッドの組成等を考慮して上記各条件を設定することが好ましい。
【0022】
研磨テープとしては非磁性支持体上に磁性粉末100質量部に対して0.5〜10質量部の研磨剤を含む研磨テープを使用することが好ましい。研磨剤の量は、磁性粉末100質量部に対して3〜8質量部であることがより好ましく、4〜6質量部であることが更に好ましい。好ましい研磨剤としてはアルミナ、ダイヤモンドおよびジルコニアを挙げることができる。磁気信号の記録再生時に本発明の磁気ヘッドに走行させる磁気テープと同一ロット内の磁気テープを研磨テープとして使用することも可能である。
【0023】
研磨テープとして過度に柔軟なテープを使用すると、セラミック膜表面の研磨時にセラミック膜間の凹みにテープが入り込んでしまいPTR(Pole Tip Recession)が大きくなってしまう。PTRが大きくなるほど高密度記録には不利であるため、研磨テープとしては適度な剛性を有するものを使用することが好ましい。この点から研磨テープ中の支持体の厚さは10μm以上であることが好ましく、15〜75μmの範囲にあることがより好ましい。なお研磨テープの支持体としては後述の磁気テープの支持体として使用可能な各種非磁性支持体を使用することができる。また、過度に粗いテープで研磨すると研磨中に素子が破壊される場合があるため、素子破壊を防止するためには、研磨面の表面平滑性が、WYKO社製HD2000で測定される中心線平均粗さとして4nm以下の研磨テープを使用することが好ましい。この観点から、研磨テープに含まれる研磨剤の平均粒径は1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.8μmの範囲であることが更に好ましい。
【0024】
本発明のヘッドがContour型ヘッドである場合、ヘッド材料として使用されるセラミック膜としては、TiC相とAl23相とからなるセラミック、即ちアルチック(AlTiC)、が好ましい。アルチックは、研磨によってTiC粒子を脱離させることにより凹部を形成することができるため、TiC粒子の大きさにより凹部の平均面積および平均深さを制御することができ、また、粒度分布によって凹部面積の標準偏差を制御することができる。またTiCとAl23との比によって凹部面積率を制御することが可能である。面積率制御のためには、セラミック膜として、TiC/Al23の質量比が20/80〜50/50の範囲であるアルチック膜を使用することが好ましい。上記組成比のAlTiCを研磨テープによって研磨しTiC相を除去しAl23相を露出させることにより、20〜50%の面積率で凹部を形成することができる。
【0025】
以下に、上記セラミック膜として好適なアルチックの製造方法について説明する。
アルチックの製造方法は、主に、原料粉末の選別、原料を分散する工程、固形化する工程(熱プレス等)からなる。
【0026】
接触摺動面上の凹部の平均面積および平均深さは、構成原料のサイズの選別、分散工程の処理時間(ボールミル等)、固形化処理における処理時間と処理温度の設定により、所望範囲とすることができる。例えば、凹部のサイズを小さくする場合、サイズの小さい原料を選別すること、分散工程の処理時間を長くすること、処理温度を上げること、を適宜組み合わせることで達成できる。アルチックにおいてTiC相は不連続相であり連続アルミナマトリックス相との反応性に乏しいため、最終的に得られるアルチック中のTiC粒子の寸法は原料のTiC粒子寸法によって通常決定される。前記凹部を形成するために好適なアルチックを得るためには、原料TiC粒子として、平均粒径0.3〜1.5μmのものを選択することが好ましい。アルミナ粒子の粒径は特に限定されるものではない。
【0027】
凹部の面積の標準偏差(面積分布)は、サイズ分布の異なる原料から所望のものを選択して、ボールミル等の分散工程の処理時間、固形化処理における処理時間と処理温度を設定することにより所望範囲に制御することができる。例えば、標準偏差を小さくする(面積分布を狭くする)場合、サイズ分布の小さい原料を選別すること、分散工程の処理時間を短くすること、を適宜組み合わせることで達成できる。前記凹部を形成するために好適なアルチックを得るためには、原料TiC粒子として、粒径の標準偏差が0.05〜2.0μmの範囲であるものを使用することが好ましい。
【0028】
アルチックは研磨によりTiC粒子を脱落させることによって凹部を形成することができるため、接触摺動面上の凹部の面積率は、アルミナとTiCとの混合比率によって制御することができる。接触摺動面上の凹部の面積率を20〜50%の範囲とするためには、TiC/Al23の質量比が20/80〜50/50の範囲であるアルチックを使用することが好ましい。通常、原料組成とセラミック膜の組成は一致するため、例えば、原料混合比率を、質量比でTiC30%、アルミナ70%にすれば、TiC/Al23の質量比が30/70のアルミナ膜を形成することができ、このアルミナ膜を前記セラミック膜として使用することにより接触摺動面上の凹部の面積率を30%にすることができる。
【0029】
磁気ヘッドは、例えばMR素子を埋め込んだ平板状の絶縁材を一対のセラミック板で挟みこんで得られた積層体を適当な大きさに裁断して得られたヘッドチップ(これが隆起部となる)をヘッドキャリア上に適当数配置することによって得ることができる。前記積層体の形成のためには、薄膜形成技術、接着技術などの各種方法を任意に組み合わせて用いることができる。またヘッドチップは、例えば接着剤を用いてヘッドキャリアと貼り合わせることができる。
【0030】
MR素子の一例としては、例えば、下層として、膜厚約5nmのタンタル層と、SALバイアス層として、膜厚約32nmのNiFeNb層と、中間絶縁層として、膜厚約5nmのタンタル層と、磁気抵抗効果層として、膜厚約30nmのNiFe層と、上層として、膜厚約1nmのタンタル層とを、この順でスパッタリング等により順次積層することによって形成されたMR素子を挙げることができる。このMR素子では、NiFe層が磁気抵抗効果を有する軟磁性層であり、MR素子の感磁部となる。また、このMR素子においては、NiFeNb層がNiFe層に対してバイアス磁界を印加する、いわゆるSAL層となる。ただし、MR素子の層厚および材料は、MRヘッドの使用目的に応じて適切な材料を選択し、適切な膜厚に設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0031】
また、各隆起部に含まれるMR素子は記録用素子とともに再生用素子を含むこともできる。記録用素子のギャップ幅は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは0.1〜3μmである。また、再生用素子のテープ走行方向における幅は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは0.1〜1μmである。前述のように、本発明の磁気ヘッドは、記録用素子と再生用素子からなる素子対を2組以上含むマルチチャンネル型磁気ヘッドであることができる。
【0032】
また、MR素子を埋め込む絶縁材は、例えば、絶縁性材料であるアルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)等から構成することができる。また、絶縁材は、AlN、Al−N−X(Xは、Si、B、Cr、Ti、Ta、Nbの一種または二種以上)、SiN、SiC、DLC、BN、MgO、SiAlON、AlON、Si3Na、SiCO、SiON、SiCON等から構成することもできる。MR素子を埋め込んだ絶縁材の厚さは、例えば15〜30μm程度とすることができる。また、前記絶縁材を挟み込む一対のセラミック膜の詳細は先に説明した通りである。セラミック膜1枚あたりの厚さは、例えば0.1〜1mm程度である。
【0033】
次に、ヘッドの作製方法の具体的態様について説明する。ただし、本発明は下記具体的態様に限定されるものではない。
【0034】
まず、例えばAlTiCよりなる基板21上に、薄膜形成技術によりMR素子を形成し、図2Aに示すように、最終的に得る磁気ヘッドを構成する磁気ヘッド部5(図示せず)を有する記録再生素子パターン22を区画形成する。
【0035】
続いて、図2Bに示すように、この記録再生素子パターンに沿って基板21の切断を行い、図2Cに示すようにバーチップ23を得る。
【0036】
次に、図3Aに示すように、最終的に得る磁気ヘッドを構成するヘッドチップの幅を規定する、例えばアルチックやチタン酸カルシウムによる第1および第2のサイドバー24aおよび24bをバーチップ23に隣接配置し、バーチップ23の記録再生素子パターン22が形成された上面から、図3Bに示すように、バーチップ23とサイドバー24aおよび24bとに渡る、アルチックよりなる第1のカバー25aを例えば接着によって被着形成する。
【0037】
次に、図4Aに示すように、バーチップ23の、第1のカバー25aが被着形成された面、すなわち記録再生素子パターンが形成された面とは反対側に、機械加工によって溝23aを形成した後、この溝23aが形成された面に対して、バーチップ23とサイドバー24aおよび24bとに渡る、アルチックよりなる第2のカバー25bを、例えば接着によって被着形成してアレイ構造体26を得る。
続いて、図4Bに示すように、バーチップ23に被着形成された第1のカバー25aを、最終的に得る磁気ヘッドを構成するヘッドチップごとに切断する。
【0038】
次に、図5Aに示すように、バーチップ23と、サイドバー24aおよび24bと、第2のカバー25bとを同時に切断することにより、図5Bに示すように、アレイ構造体26から最終的に得る磁気ヘッドを構成するヘッドチップ2を得る。
【0039】
続いて、図6Aに示すように、最終的に得る磁気ヘッドの接触摺動面となる面を上面とし、この上面から第1および第2のカバー25aおよび25bに対して、ポリッシュ研磨とスライス加工によって、あたり幅およびシャープエッジを形成し、図6Bに示すようにヘッドチップ2の外形状の選定を行う。
【0040】
次に、図7Aに示すように、最終的に得る磁気ヘッドを構成するキャビティとなる溝23a内に、非磁性材(例えば銅板)による磁気シールド材7を挿入し、例えば接着によって溝23aの側面に固定して設置した後、図7Bに示すように、例えば第1のヘッドチップ2aと第2のヘッドチップ2bを互いに貼り合わせ、予め第2のカバー25bに対して行った外形状の選定に基づいて、スリット8を形成する。
【0041】
上記態様においては、各ヘッドチップ2aおよび2bを構成する第1および第2の磁気ヘッド部5aおよび5bを、第1および第2の磁気シールド材7aおよび7bを挟んで対向配置する構成とすることにより、最終的に得る磁気ヘッドにおける一方の磁気ヘッド部からの記録磁界が、他方の磁気ヘッド部を構成する例えば再生用素子に影響することを防ぐための磁気シールド材を、特段の手間をかけることなく各磁気ヘッド部の至近位置に配置形成することができる。
【0042】
第1のヘッドチップ2aと第2のヘッドチップ2bを貼り合わせた後、図8に示すように、これらのヘッドチップ2aおよび2bをアルミニウムまたは真鍮よりなるヘッドキャリア3上に載置固定するとともに、各ヘッドチップを構成する溝23aの底面側の開口をヘッドキャリア3で塞ぐことにより、2つの隆起部を有する磁気ヘッドを得ることができる。そして得られた磁気ヘッドに対して先に説明した研磨処理を施すことにより本発明のヘッドを得ることができる。本発明のヘッドの構造および製造方法については、例えば特開2006−127730号公報、特開2006−54044号公報等を参照することができる。
【0043】
[リニアテープドライブ装置、磁気記録再生方法]
本発明のリニアテープドライブ装置は、磁気テープおよび磁気ヘッドを含み、磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ装置であって、磁気ヘッドとして、本発明の磁気ヘッドを含むものである。
本発明の磁気記録再生方法は、磁気ヘッドと磁気テープとを接触摺動させながら該磁気テープにリニア方式で磁気信号を記録および/または再生する磁気記録再生方法であって、磁気ヘッドとして、本発明の磁気ヘッドを使用するものである。
【0044】
前記磁気ヘッドの詳細は先に説明した通りである。
以下、本発明のリニアテープドライブ装置に含まれる磁気テープについて説明する。
【0045】
先に説明したように、本発明の磁気ヘッドは高密度記録化のために表面平滑性を高めた磁気テープを接触摺動型リニアテープドライブにおいて安定走行させることが可能である。このような磁気ヘッドを含む本発明のリニアテープドライブ装置は、磁気テープとして、高い表面平滑性を有する磁気テープを含むことができる。本発明の装置に含まれる磁気記録媒体の磁性層の表面平滑性は、接触摺動時に磁気ヘッドと接触摺動する面の中心線平均粗さが2.0nm以下であることが好ましい。本発明のヘッドを中心線平均粗さ2.0nm以下の磁気テープと組み合わせることにより、例えば6Gbpsi以上、更には10Gbpsiの記録密度も達成可能である。なお走行安定性の点からは、磁気テープのヘッドとの接触摺動面の中心線平均粗さは0.1nm以上であることが好ましい。磁気テープのヘッドとの接触摺動面の中心線平均粗さは、より好ましくは0.1〜1.5nm、更に好ましくは0.3〜1.3nmである。前記中心線平均粗さは、WYKO社製HD2000によって測定された値をいうものとする。
【0046】
磁性層の表面平滑性の制御方法としては、表面平滑性の高い支持体を使用する方法、磁性層と支持体との間に下塗り層(平滑化層)を設ける方法、磁性層に平滑化処理(スムージング処理、カレンダー処理)を施す方法等を挙げることができ、これらの方法を任意に組み合わせることにより、高い表面平滑性を有する磁性層を形成することができる。スムージング処理は、下層を塗布直後に塗布層がまだ湿潤状態のうちに塗布方向にせん断をかける処理であり、塗布層中の凝集体を破壊するために有効である。通常、硬い板状の平滑なスムーザー(例えば中心線平均表面粗さRa≦2.5nm)を湿潤状態の表面に接触させ、せん断をかけることにより行う。カレンダー処理では、カレンダーロールの温度、圧力、速度、素材、表面性、ロール構成等を適宜設定することにより、磁性層表面平滑性を高めることができる。
【0047】
前記磁気テープは、金属薄膜からなる磁性層を有する蒸着型磁気記録媒体であってもよく、塗布型磁気記録媒体であってもよい。塗布型磁気記録媒体としては、強磁性粉末、結合剤および研磨剤を含む磁性層を少なくとも一層有するものを使用することができる。
【0048】
結合剤としては、磁気記録媒体の結合剤として通常使用される従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および反応型樹脂については、いずれも朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。結合剤として使用可能な樹脂は、公知の方法で合成可能であり、また市販品としても入手可能である。
【0049】
研磨剤としては、ジルコニア、アルミナ研磨剤、例えば、α化率90質量%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、炭化珪素、チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。また、これらの研磨剤どうしの複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが、主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmであることが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるためには、必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/g、であることがそれぞれ好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は、針状、球状、サイコロ状、のいずれでも良いが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。具体的には住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT20、HIT−30、HIT−55、HIT60、HIT70、HIT80、HIT100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。
【0050】
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、体積が1000〜20000nm3のものが好ましく、2000〜8000nm3のものが更に好ましい。この範囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。
なお、針状粉末の体積は、形状を円柱と想定して長軸長、短軸長から求める。
板状粉末の場合は、形状を角柱(六方晶系フェライト粉末の場合は6角柱)と想定して板径、軸長(板厚)から体積を求める。
窒化鉄系粉末の場合は、形状を球と想定して体積を求める。
【0051】
磁性体のサイズは、例えば、以下の方法で求めることができる。
まず、磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。分離した固形分をアセトンで洗浄し、透過型電子顕微鏡(TEM)用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。粉体サイズ測定において、標準偏差/平均値をパーセント表示したものを変動係数と定義する。
【0052】
強磁性粉末は、金属粉末、鉄白金粉末、窒化鉄粉末およびバリウムフェライト粉末から選択することが好ましく、六方晶フェライト粉末を含むことが好ましい。
【0053】
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S,Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0054】
六方晶フェライト粉末の平均板径は、10〜40nmであることが好ましく、10〜30nmであることがより好ましく、15〜25nmであることが更に好ましい。上記サイズの六方晶フェライト粉末は、高密度記録用磁気テープに使用される磁性体として好適である。平均板状比[(板径/板厚)の算術平均]は1〜15であることが好ましく、1〜7であることが更に好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0055】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚を数値化することは、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、通常σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0056】
六方晶フェライト粉末としては、抗磁力(Hc)143.3〜318.5kA/m(1800〜4000Oe)の範囲のものを作製可能である。六方晶フェライト粉末の抗磁力は、好ましくは159.2〜238.9kA/m(2000〜3000Oe)、さらに好ましくは191.0〜214.9kA/m(2200〜2800Oe)である。
抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0057】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は30〜80A・m2/kg(emu/g)であることが好ましい。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物および有機化合物を使用することができる。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加量は強磁性粉末の質量に対して0.1〜10質量%とすることが好ましい。強磁性粉末のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0質量%が選ばれる。
【0058】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し、通常0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0059】
磁気テープとしては、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を有するものを使用することもできる。
【0060】
非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0061】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用され得る。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0062】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0063】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0064】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0065】
非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0066】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0067】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは、例えば2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0068】
非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0069】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは、例えば、上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0070】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0071】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0072】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0073】
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾ−ルなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面と非磁性支持体面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理などを行ってもよい。また支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0074】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また支持体表面の中心線平均粗さ(Ra)は、4nm以下であることが好ましく、より好ましくは2nm以下である。このRaは、WYKO社製HD2000で測定した値をいうものとする。
また、非磁性支持体の長手方向および幅方向のヤング率は、6.0GPa以上が好ましく、7.0GPa以上がさらに好ましい。
【0075】
本発明で用いられる磁気テープの厚み構成は、非磁性支持体の厚みが好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設けた場合、下塗り層の厚みは、好ましくは0.01〜0.8μm、より好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0076】
また支持体と下層または磁性層との間に平滑化を目的とした中間層を設けることができる。例えば非磁性支持体の表面に、ポリマーを含有した塗布液を塗布、乾燥して形成するか、分子中に放射線硬化官能基を有する化合物(放射線硬化型化合物)を含有した塗布液を塗布し、その後、放射線を照射し、塗布液を硬化させて形成することができる。
【0077】
放射線硬化型化合物の分子量は、200〜2000の範囲であることが好ましい。分子量がこの範囲であると、比較的低分子量であるので、カレンダー工程において塗膜が流動し易く成形性が高く、平滑な塗膜を形成することができる。
【0078】
放射線硬化型化合物として好ましいものは、分子量200〜2000の2官能のアクリレート化合物であり、更に好ましいものはビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFやこれらのアルキレンオキサイド付加物にアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものである。
【0079】
放射線硬化型化合物は、ポリマー型の結合剤と併用されてもよい。併用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が挙げられる。放射線として、紫外線を用いる場合は、重合開始剤を併用することが好ましい。重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤および光アミン発生剤等を用いることができる。
また、放射線硬化型化合物は、非磁性層に用いることもできる。
【0080】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、特に好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率(σ/δ)は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0081】
非磁性層の厚みは、0.01〜1μmであることが好ましい。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であれば非磁性層に含まれる。非磁性層は、残留磁束密度と抗磁力を持たないことが好ましい。
【0082】
磁気テープには、非磁性支持体の磁性層を設けた面とは反対の面にバック層を設けることが好ましい。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方が適用可能である。バック層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0083】
次に、上記磁気テープの製造方法について説明する。
磁性層用塗布液、非磁性層用塗布液またはバック層用塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨材、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液、非磁性層用塗布液またはバック層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズとしては、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0084】
磁気テープは、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層用塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成することができる。ここで複数の磁性層用塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層用塗布液と磁性層用塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。磁性層用塗布液または非磁性層用塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0085】
磁性層用塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層用塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0086】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御することが好ましい。塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0087】
このようにして得られた塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、所定時間後、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理に施される。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0088】
塗布原反は、概ね、巻き取りロールの芯側から外側に向かって光沢値が低下し、長手方向において品質にばらつきがあることがある。なお光沢値は、表面粗さRaと相関(比例関係)があることが知られている。したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させず一定に保持すると、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違について何ら対策が講じられていないことになり、最終製品も長手方向に品質のばらつきが生じることがある。
したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させ、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違を相殺することが好ましい。具体的には、巻き取りロールから巻き出された塗布原反の芯側から外側に向かってカレンダーロールの圧力を低下させていくことが好ましい。本発明者らの検討によれば、カレンダーロールの圧力を下げると光沢値は低下する(平滑性が低下する)ことが見出されている。これにより、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違が相殺され、長手方向において品質にばらつきのない最終製品が得られる。
【0089】
なお、前記ではカレンダーロールの圧力を変化させる例について説明したが、これ以外にも、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制御することによって行うことができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御することが好ましい。カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0090】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層用塗布液の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0091】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0092】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度は、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲の条件が好ましい。
【0093】
磁性層の中心線平均粗さについては、先に説明した通りである。また、磁性層の十点平均粗さRzは30nm以下であることが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールやカレンダ処理のロール表面形状などでコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0094】
得られた磁気テープは、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0095】
本発明に用いられる磁気テープの飽和磁束密度は100〜400mTであること好ましい。また磁気記録媒体の抗磁力(Hc)は、142〜276kA/mであることが好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.6以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0096】
磁気テープのヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.50以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0097】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置、レオバイブロン等により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失正接の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0098】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方がよい場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0099】
磁気テープは、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くすることができる。
【0100】
[磁気ヘッドの製造方法]
更に本発明は、本発明の磁気ヘッドの製造方法に関する。
本発明の磁気ヘッドの製造方法は、一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有するヘッドチップを作製すること、および、上記セラミック膜表面を研磨することにより前記(1)〜(4)を満たす凹部を形成すること、を含む。
前記セラミック膜は、好ましくはTiC相とAl23相とからなり、かつTiC/Al23の質量比が20/80〜50/50の範囲であるアルチックである。上記研磨においてTiC相を除去しAl23相を露出させることにより、前記(1)〜(4)を満たす凹部を形成することができる。本発明の磁気ヘッドの製造方法の詳細は、先に説明した通りである。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載の「部」は、「質量部」を示す。
【0102】
[実施例1]
磁気テープ(研磨テープ)の作製
1.磁性層塗布液成分
強磁性板状六方晶フェライト粉末 100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)
平均板径:20nm
平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
ポリウレタン樹脂 17部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(粒子サイズ0.15μm) 5部
カーボンブラック(平均粒径:20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0103】
2.バック層塗布液成分
非磁性無機質粉体(α−酸化鉄) 85部
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長:0.15μm
タップ密度:0.8
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH:8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
塩化ビニル共重合体 日本ゼオン社製MR104 13部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200) 6部
フェニルホスホン酸 3部
アルミナ粉末(平均粒子径0.8μm) 5部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0104】
3.非磁性層塗布液成分
非磁性無機質粉体(α−酸化鉄) 85部
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長:0.15μm
タップ密度:0.8
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH:8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 15部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
塩化ビニル樹脂 日本ゼオン社製MR110 10部
ポリレタン樹脂 10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=150eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0105】
上記磁性層塗布液、非磁性層塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで混練したあと、直径0.5mmφのジルコニアビーズを分散メディアとして塗布液に適量添加し、サンドミルで分散させた。得られた磁性層用分散液および非磁性層用分散液それぞれに、3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物を加え、さらに、シクロヘキサノンを加えて、1μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過し、磁性層塗布液と非磁性層塗布液を調製した。得られた非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.0μmになるように、さらにその直後に磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.1μmになるように、厚さ50μmのPEN支持体の表面に同時重層塗布した。磁性層塗布液が未乾燥の状態で0.5T(5000ガウス)のCo磁石と0.4T(4000ガウス)のソレノイド磁石で磁場配向を行ない、溶剤を乾燥したものに対し、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組み合せによるカレンダー処理を、速度50m/min、線圧300kg/cm、温度95℃で2回行なった後1/2インチ幅にスリットし、磁気テープを作製した。
得られた磁気テープの磁性層表面の中心線平均粗さをWYKO社製HD2000によって測定したところ、1.5nmであった。
【0106】
ヘッドの作製
前述のヘッド作製の具体的態様にしたがい、隆起部を2つ有し、各隆起部に含まれる一対のセラミック膜の素材がTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックであるContour型リニアテープドライブ用マルチチャンネル磁気ヘッド(記録再生素子対の数:15対、記録ギャップ幅:0.18μm、再生用素子幅:0.12μm)を作製した。アルチック膜は、以下の方法で作製した。
平均粒径0.5μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合し、アルミナボールミル中で粉末−けん濁液を10時間分散、粉砕して調製した。けん濁液は、比重0.7を有する無臭鉱物油(OMS)と分散剤(イオン性顔料湿潤剤)を使用した。
ボールミル分散後に共分散物を湿式で選別し(300メッシュを使用)、350℃で真空乾燥後に選別処理した(50メッシュ)。熱プレス炉で一軸圧で円盤状にプレス後(1,700℃、20MPAで20分間処理)、等方圧で処理することで(1,800℃、150MPa、2時間)、直径50mm厚み3.05mmのウェハを作製した。ウェハを研磨装置で粗研磨し(粒径100μmのダイヤモンド)、最終的な厚みを2.02mmにした。
作製したヘッドの隆起部上面において、研磨テープとして上記で作製した磁気テープを用いて5℃10%RHおよび5℃80%RHの各条件下、テープ速度0.5m/s、テープテンション100gf、テープとヘッドとの接触角度10°で研磨テープを接触させ、その状態で50m長を4回往復させた。
【0107】
[実施例2]
平均粒径1.2μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0108】
[実施例3]
平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差0.7μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0109】
[実施例4]
平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差1.4μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0110】
[実施例5]
平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末20質量%をAl23粉末80質量%と混合してAlTiCを作製し、TiC/Al23(質量比)=20/80であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0111】
[実施例6]
平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末50質量%をAl23粉末50質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=50/50であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0112】
[実施例7]
研磨テープに含まれるアルミナの平均粒径を0.5μmに変更した点、平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。使用した研磨テープの磁性層表面の中心線平均粗さをWYKO社製HD2000によって測定したところ、3.5nmであった。
【0113】
[実施例8]
研磨テープに含まれるアルミナの平均粒径を1.5μmに変更した点、平均粒径0.8μm、粒径の標準偏差1.1μmのTiC粉末30質量%をAl23粉末70質量%と混合してTiC/Al23(質量比)=30/70であるアルチックを作製した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。使用した研磨テープの磁性層表面の中心線平均粗さをWYKO社製HD2000によって測定したところ、5.3nmであった。
【0114】
[比較例1]
TiC粉末として平均粒径が0.2μm、粒径の標準偏差1.1μmのものを使用した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0115】
[比較例2]
TiC粉末として平均粒径が3.0μm、粒径の標準偏差1.1μmのものを使用した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0116】
[比較例3]
TiC粉末として平均粒径が0.5μm、粒径の標準偏差0.1μmのものを使用した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0117】
[比較例4]
TiC粉末として平均粒径が0.5μm、粒径の標準偏差3.0μmのものを使用した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0118】
[比較例5]
AlTiC原料の混合比をTiC15質量%、Al2385質量%の変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0119】
[比較例6]
AlTiC原料の混合比をTiC40質量%、Al2360質量%の変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。
【0120】
[比較例7]
研磨テープに含まれるアルミナの平均粒径を0.2μmに変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気ヘッドを作製した。使用した研磨テープの磁性層表面の中心線平均粗さをWYKO社製HD2000によって測定したところ、3.0nmであった。
【0121】
磁気ヘッドの評価方法
1.走査型ブローブ顕微鏡による表面凹凸像の取得
各ヘッドを適当な冶具を用いて固定し、MR素子が埋め込まれている絶縁膜を挟むAlTiC膜の表面を下記装置・条件にて測定し、表面凹凸像(AFM形状像)を得た(得られた像に対して、傾きの補正を適用した)。観察位置は、テープとヘッドの摺動面の真中心とした。
装置:セイコーインスツルメンツ(SII)製 走査型プローブ顕微鏡 SPA500
測定条件:探針 Micro Cantilever OMCL−TR800PSA−1(OLYMPUS製)
測定モード:コンタクトモード
観察領域:20μm2
走査周波数:1Hz
【0122】
2.凹部の平均面積の算出
1.で得られた走査型プローブ顕微鏡によるAFM形状像に測定時の傾き補正を施し、画像処理ソフトSPIP(ScanningProbe Image Processor:Image Metrology)を用い、本ソフトにおけるGrainDialog解析により、凹部の表面積分布、標準偏差および面積率を算出した。凹部の平均深さは、上記で得られた突起高さのヒストグラムのデータをLightStone社製ORIGIN v7.5を使用し、本ソフトの“多重ガウス関数フィット”の機能を用いて、ヒストグラムをpeak1、peak2に分離した。このとき、Peak1とPeak2のピークトップの位置xt値は、xt1>xt2であるものとする(peak1の方が表面側)。式1:y=y0 + (A/(w*sqrt(PI/2)))*exp(-2*((x-xc)/w)^2)
[y:頻度、x:height、y0: 基線のオフセット、A:曲線と基線の間の全面積、x0:ピークの中心、w:σ/2 ピークの半分の高さとなる幅の約0.849]
フィッティングの結果得られたpeak1、peak2それぞれのx0、w、A の値から、ピーク中心値差:x0(p1)-x0(p2)を算出した。
【0123】
3.摩擦力の測定
実施例1で作製した磁気テープおよび実施例、比較例の各磁気ヘッドから隆起部上面を含むテストピースを2つ切り出し、隆起部上面とテープとを接触させて摩擦力を測定した。摩擦力測定装置としては、特開2004−171723号公報記載の装置を使用した。測定子に含まれる摩擦力測定部材として上記テストピース2つをテープの幅方向に一対設置した。静止状態から動き出す瞬間に検出されるテープ搬送方向の摩擦力として最大静止摩擦力を求め、テープ走行時に検出されるテープ搬送方向の摩擦力として動摩擦力を求めた。最大静止摩擦力が0.32以下、動摩擦力が0.21以下であれば、スティックスリップが発生せず安定走行可能と判断することができる。
【0124】
4.記録再生特性の測定
接触摺動型リニアテープドライブにおいて、実施例、比較例の各磁気ヘッドを使用し、実施例1で作製した磁気テープ上に、200kfciの単一周波数の信号を相対速度3m/sで記録および再生して、再生出力(平均値)と広帯域の積分ノイズ(0〜20MHz、キャリア近傍のノイズ:±0.5Mhzは除く)の比率からSNR(Signal to Noise Ratio)を算出した。SNRはノイズに対する出力の大きさを示すパラメータであり、値が大きいほど記録された信号がより高品質に再現されることを意味する。SNRが16dB以上であれば電磁変換特性良好と判断することができる。
【0125】
【表1】

【0126】
評価結果
表1に示すように、実施例1〜8の磁気ヘッドは、きわめて平滑な磁気テープとの組み合わせにおいて走行安定性と電磁変換特性を両立することができた。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、更なる高密度化に対応し得る磁気信号再生システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】Contour型ヘッドの概略断面図である。
【図2】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図3】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図4】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図5】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図6】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図7】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。
【図8】本発明の磁気ヘッドの製造工程の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ用磁気ヘッドであって、
前記接触摺動時に磁気テープと接触摺動する面に、走査型プローブ顕微鏡の表面凹凸像において観察される凹部を複数有し、かつ該複数の凹部は下記(1)〜(4)を満たすことを特徴とする磁気ヘッド。
(1)前記接触摺動する面における前記凹部の平均面積は0.2〜1.0μm2の範囲である。
(2)前記凹部の面積の標準偏差は0.5〜2.0μm2の範囲である。
(3)前記接触摺動する面における前記凹部の面積率は20〜50%の範囲である。
(4)前記凹部の平均深さは15nm以上である。
【請求項2】
一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有する隆起部を有し、前記接触摺動面は該隆起部上端面である請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
磁気テープおよび磁気ヘッドを含み、磁気信号の記録および/または再生時に磁気テープと磁気ヘッドとが接触摺動する接触摺動型リニアテープドライブ装置であって、
前記磁気ヘッドは請求項1または2に記載の磁気ヘッドであることを特徴とするリニアテープドライブ装置。
【請求項4】
前記磁気テープは、前記接触摺動時に磁気ヘッドと接触摺動する面の中心線平均粗さが0.1〜2.0mmの範囲である請求項3に記載のリニアテープドライブ装置。
【請求項5】
磁気ヘッドと磁気テープとを接触摺動させながら該磁気テープにリニア方式で磁気信号を記録および/または再生する磁気記録再生方法であって、
前記磁気ヘッドは、請求項1または2に記載の磁気ヘッドであることを特徴とする磁気記録再生方法。
【請求項6】
前記磁気テープは、前記接触摺動時に磁気ヘッドと接触摺動する面の中心線平均粗さが0.1〜2.0mmの範囲である請求項5に記載の磁気信号再生方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の磁気ヘッドの製造方法であって、
一対のセラミック膜間に記録用素子および/または再生用素子を有するヘッドチップを作製すること、および、
上記セラミック膜表面を研磨することにより前記凹部を形成すること、
を含む、前記製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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