説明

提灯の火袋用骨およびそれを用いた提灯

【課題】作業性および取り扱い性に優れ、且つ該骨を用いて形成した火袋の形状が良く、また火袋の形態安定性に優れ、さらには軽量性に優れる提灯の骨および提灯を提供する。さらに、火袋の紙との接着性に優れ、さらに焼却処理でき、しかもダイオキシンなどの有害ガスを発生しない提灯の骨および提灯を提供する。
【解決手段】D体が20%以下であるポリ乳酸樹脂を30〜100重量%含むモノフィラメントであることを特徴とする提灯の骨、該骨を用いて形成した提灯の火袋および該火袋を有する提灯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを使用した提灯の火袋用骨、該火袋用骨を用いて形成した火袋および提灯に関する。詳しくは、本発明は、耐カビ性および軽量性に優れ、通常のハサミでの切断が可能であり、サビの発生がなく、形態安定性に優れ、かつ火袋を形成する紙や絹織物との接着性にも優れ、さらには環境保全にも貢献できる提灯の火袋用骨、それを用いた火袋および提灯に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的な照明具である提灯、行灯、灯籠などの火袋における骨格材(以下単に骨と称す)としては、これまで竹ひごが使用されてきたが、生産性の低さ、加工の難しさ、加工職人の減少などによって鋼線などに代替されてきている。しかし、提灯の火袋用骨に用いられる鋼線は、火袋を形成する紙や絹織物との接着性不足、錆の発生、金属色などの問題があるため、鋼線を白色顔料を含有する塩化ビニル樹脂で被覆し、さらに紙との接着性向上のために紙縒を全面に巻き付けたもの等の改良がなされてきた(参考文献1)。
【0003】
これらの廃棄処分に当たっては通常焼却処理が行われるが、鋼線製の骨を用いた提灯は、鋼線が焼却されずに残るため、別途その処理が必要であり、また鋼線の被覆に用いた塩化ビニル樹脂は、焼却時にダイオキシンなどの有害ガスを発生し易いという問題がある。
そこで、提灯の軽量化、生産性の向上、焼却処分時における有害ガスの発生防止などの観点から、提灯の骨として、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂モノフィラメントを用いることが提案されている(参考文献2〜4)。しかしながら、これらの合成樹脂モノフィラメント製の骨は、曲げ剛性不足による形状不良や吸湿による変形などの欠点があるばかりでなく、火袋を形成する紙との接着性に劣ることがあり、十分に満足のできるものではない。また環境保全および石油資源の枯渇問題のため、石油由来の樹脂は敬遠されているが、上記の樹脂はいずれも石油由来であるため、環境保全の点でも問題とされている。さらに、提灯は年一度使用される他は、倉庫や押入れに長期保管される場合が多く、かびが発生しやすいという問題も有している。
【0004】
【特許文献1】実公昭45−16378号公報
【特許文献2】実公昭44−14066号公報
【特許文献3】実公昭46−7561号公報
【特許文献4】特開2001−76503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、作業性および取り扱い性に優れる提灯の火袋用骨であり、且つ該骨を用いて形成した火袋は形状が良好であり、火袋の形態安定性に優れ、さらには軽量性に優れ、かびの発生しにくい提灯の火袋用骨および同骨を用いた提灯を提供することである。さらに、本発明は、火袋の紙との接着性に優れ、さらに焼却処理でき、しかもダイオキシンなどの有害ガスを発生しない提灯の火袋用骨および同骨を用いた提灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、D体15%以下のポリ乳酸樹脂からなるモノフィラメントまたはマルチフィラメントの収束糸からなることを特徴とする提灯の火袋用骨であり、また芯成分がD体15%以下のポリ乳酸樹脂、鞘成分が酢酸ビニル系樹脂からなる芯鞘複合モノフィラメントあるいはポリ乳酸樹脂からなるマルチフィラメントを収束する樹脂が酢酸ビニル系樹脂であるマルチフィラメントの収束糸からなることを特徴とする提灯の火袋用骨である。
そして好ましくは、上記酢酸ビニル系樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体である場合であり、また上記モノフィラメント中に、あるいは上記マルチフィラメント中に無機粒子を含んでいる場合であり、そして、これらの火袋骨格を用いて形成した提灯の火袋であり、さらに火袋の紙としてポリ乳酸樹脂繊維を含む合成紙を用いた場合であり、そしてこれらの火袋を有する提灯である。本発明において、骨を形成する繊維としては、モノフィラメントの場合とマルチフィラメントの場合の2通りがあるが、より高い合成が得られる点でモノフィラメントを使用する場合の方が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、作業性および取り扱い性に優れる提灯の骨であり、且つ該骨を用いて形成した火袋の形状が良く、火袋の形態安定性に優れ、さらには軽量性に優れる提灯の骨および提灯を提供できる。さらに、本発明は、火袋の紙との接着性に優れ、さらに焼却処理でき、しかもダイオキシンなどの有害ガスを発生しない提灯の骨および提灯を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明の提灯とは、骨に紙や絹織物を貼り付けて形成した火袋を有する提灯、行灯および灯籠の総称であり、用途としては、照明器具、および宣伝、装飾、納涼、お盆などの各種行事用として使用されるものである。したがって、本発明は、提灯、行灯および灯籠の火袋を形成するのに用いる骨、該骨を用いて形成した提灯、行灯および灯籠の火袋、並びに該火袋を有する提灯、行灯および灯籠である。
【0009】
まず本発明では、骨を構成する樹脂として、植物由来の樹脂であるポリ乳酸が用いられる。植物由来であることから、公知の火袋用骨と比べて、環境保全の点で優れている。また焼却処理しても、有害物質を発生しないという点からも環境を配慮したものであると言える。さらにポリ乳酸樹脂は、自然分解すると乳酸が発生し、この乳酸がかびの繁殖を防止するという効果を有しており、提灯の場合、年に1回だけ取り出し使用され、その他の期間は倉庫や押入れ等で保管される場合が多く、自然とカビが発生しやすいこととなるが、ポリ乳酸樹脂が用いられている場合には、防かび性が他の樹脂に比べて高いというメリットを有している。
【0010】
そして、本発明で用いるポリ乳酸樹脂としては、D体が15%以下のものである。D体が15%を越えると樹脂の結晶性が低下するため、提灯の骨として適当な剛性、火袋の形態保持性の良好なものが得られない。好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。ポリ乳酸樹脂のD体の量は、例えばガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
ポリ乳酸樹脂は非石油原料である乳酸から得られるが、乳酸は、とうもろこし,イモ類の澱粉から得ることができる。乳酸は光学活性体であり、L体とD体が存在するが、L体の方がより多く存在するため、結晶性の高いポリ乳酸を得るためには、L体の比率の高い、純度の高い乳酸を用い,ポリ乳酸樹脂を合成する必要がある。したがって、本発明に使用するポリ乳酸樹脂はL体を主体とし、結晶性を高めるためにD体を15%以下に調整したポリ乳酸樹脂である。D体が15%を越えると、L体を主体とするポリ乳酸の結晶性が低下し、提灯の骨に必要な上記の性能、すなわち剛性および火袋形態保持性が低下する。
【0011】
またポリ乳酸樹脂の好ましい相対粘度(30℃、クロロホルム)は1〜8であり、より好ましくは2〜6である。溶融粘度(MFR、210℃、2.16kg)は、1〜50g/10分が好ましく、より好ましくは3〜30g/10分である。相対粘度および溶融粘度が前述の範囲から外れる場合には、本発明の提灯の骨を成形する際の溶融成形性が悪くなり、十分な性能が得られない。
【0012】
本発明の提灯の骨に含まれるポリ乳酸樹脂の量は、繊維構造、用途によって適宜設定できるが、環境保全の点からは、30重量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは50重量%、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0013】
さらに本発明のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントの公定水分率は、3%以下が好ましい。公定水分率が3%を越えると、高温高湿下に提灯を保管する際、あるいはドライヤーなどで火袋を早く乾かす際に骨のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントの収束糸が変形し、提灯が変形することがある。より好ましくは、2.5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0014】
本発明で用いる酢酸ビニル系樹脂は特に限定されないが、その具体例として、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等を好適に挙げることができる。
酢酸ビニル系樹脂は火袋の紙として和紙を用いる場合、和紙およびその接着剤である澱粉糊との接着性に優れている。特に、エチレン変性ポリビニルアルコールは、接着性に優れているだけでなく、吸湿性が低いために、高温高湿下での提灯の変形が小さくなるので好ましい。
また酢酸ビニル系樹脂は、80℃の熱水溶解率が5重量%以下であることが好ましい。80℃での熱水溶解率が5重量%を越える樹脂を使用すると、高温高湿下に提灯を保管する際、あるいはドライヤーなどで火袋を早く乾かす際に、提灯が変形することがある。好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。
【0015】
本発明のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントは、ポリ乳酸樹脂単独のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントであっても、他の樹脂をブレンドした混合紡糸モノフィラメントあるいはマルチフィラメントであっても、あるいは他の樹脂との複合紡糸モノフィラメントあるいはマルチフィラメントであってもよい。特にマルチフィラメントの場合には、ポリ乳酸マルチフィラメントとそれ以外の樹脂からなるマルチフィラメントとの混繊糸であってもよい。あるいはポリ乳酸からなるモノフィラメントの周りにポリ乳酸からなるマルチフィラメントあるいは酢酸ビニル系樹脂からマルチフィラメントあるいは他の樹脂からなるフィラメントを配した複合糸でもよい。それら繊維の断面も中実、中空、異型の何れの断面でもよい。
【0016】
火袋の覆いに用いられる紙として和紙を使用する場合には、本発明のモノフィラメントとして、芯成分がポリ乳酸樹脂、鞘成分が酢酸ビニル系樹脂の芯鞘複合モノフィラメントであることが好ましい。この組合せにすることで環境対応に優れ、かつ火袋の紙との接着性に優れた提灯の骨が得られる。またポリ乳酸からなるマルチフィラメントを酢酸ビニル系樹脂で収束した糸も好ましい。
ポリ乳酸樹脂およびポリ酢酸ビニル系樹脂からなるモノフィラメントあるいはポリ乳酸樹脂とポリ酢酸ビニル系樹脂からなる収束糸は、従来の鋼線におけるような錆の発生がなく、軽量性に優れており、しかも焼却処分した際に鋼線が後に残留するという問題がない。鞘成分としてあるいは収束剤として酢酸ビニル系樹脂を用いることにより、火袋の紙、およびその接着剤である澱粉糊との高い接着性が得られ、さらに芯成分に非石油資源を原料とするポリ乳酸樹脂を用いることにより、環境負荷の小さい提灯の骨とすることができる。
【0017】
芯鞘複合モノフィラメントの繊維断面は、繊維表面にポリ酢酸ビニル系樹脂が露出しており、本発明の性能を損なわなければ、1島の芯鞘でもよいし、多島の芯鞘でもよく、中実、中空、異型の何れの断面でも構わない。例えば1島の芯鞘複合モノフィラメントは、一方の押出し機でポリ乳酸樹脂を溶融混練して芯成分となるように紡糸頭に導き、他方の押出し機でポリ酢酸ビニル系樹脂を溶融混練して鞘成分になるように紡糸頭に導き、同一のノズルより吐出した後に水槽で冷却固化、温浴で延伸、熱風炉で更に延伸、続く別の熱風炉で熱固定することで、得ることができる。収束糸の場合も、一旦ポリ乳酸からなるマルチフィラメントを得て、それに収束剤を付与し、乾燥固化させることにより得られる。芯成分と鞘成分の重量比率としては、重量比で90:10〜30:70の範囲が好ましい。
【0018】
本発明の提灯の骨の繊度は500デシテックス〜30,000デシテックスが好ましい。繊度が500デシテックス未満の場合には、十分な剛性が得られず、良好な提灯の形態が得られない場合がある。また繊度が20,000デシテックスを越える場合には、モノフィラメント製造工程において、十分に延伸できず、性能が低下する場合がある。より好ましい繊度は、1,000〜20,000デシテックス、更に好ましくは2,000〜15,000デシテックス以上である。マルチフィラメントの収束糸の場合も、そのトータル繊度として上記範囲が好適範囲として挙げることができ、マルチフィラメントを構成するフィラメントの繊度としては1〜500デニールの範囲が好適である。本発明において、マルチフィラメントの収束糸を用いる場合よりもモノフィラメントを用いる場合の方が、剛性および提灯の形態保持性の点で、さらに製造コストの点で優れている。
【0019】
また本発明に用いられるモノフィラメントあるいはマルチフィラメントには、本発明の性能を損なわない範囲で、補強用無機物、結晶核剤、耐候剤、熱安定剤、顔料、染料、芳香剤、消臭剤、防虫剤等を含有しても構わない。特に、マイカ(雲母)、タルク、アルミナ、ジルコニア、カルサイト、モンモリナイト、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機物を配合することは、提灯の骨の剛性を高め、提灯の形態保持性が向上するため好ましい。配合量は5〜60重量%が好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。5重量%よりも少ないと、骨の剛性を高める効果が小さくなり、60重量%より多いと骨をつくるときの溶融成形が困難な場合がある。中でもマイカはアスペクト比が大きいことから優れた補強効果を発現するばかりでなく、提灯の骨に必要な剛性を発現する。好ましいマイカのアスペクト比は10〜100であり、より好ましくは20〜90、さらに好ましくは30〜80である。アスペクト比が10より小さいと十分な補強効果、剛性が得られない場合があり、逆に大きい場合には骨を作るときの成形性が困難な場合がある。
【0020】
提灯の主たる用途であるお盆提灯は、通常屋内で使用されることから、雨に対する耐水性や耐候性は一般にそれほど求められず、むしろ意匠性や装飾性に対する要望が高く、火袋用材料としては、意匠効果が装飾効果を発揮し易い紙や絹織物等の布帛が使用される。本発明の火袋に使用される紙は特に限定されないが、楮、三椏、ケナフ、マニラ麻、針葉樹、広葉樹等のセルロース系の天然パルプから得られる和紙、洋紙が好適に用いられる。これらの紙や絹織物は、焼却してもダイオキシンなどの有毒ガスを殆ど発生せず、また酢酸ビニル系樹脂、澱粉糊などとの接着性にも優れているため好ましい。目付は、火袋の透光性および柔軟性の点から、10〜50g/m2が好ましく用いられる。
【0021】
また火袋の紙として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の耐水性合成繊維を耐水性のバインダー樹脂で固定した紙を用いると、耐水性に優れた屋外用の提灯とすることができる。特に合成繊維としてポリ乳酸樹脂からなる繊維を含む紙を用いると、非石油由来の合成樹脂を主体とする提灯を得ることができ、環境保全の点から好ましい。そして、紙を構成するバインダー成分(繊維状の形状を有していてもよい)としては、ポリビニルアルコール系のものを使用するのが骨との接着性の点で好ましい。
【0022】
火袋の紙として合成紙を使用する場合には、合成紙との接着性に優れる糊剤を適宜選択するのが好ましい。例えば、ポリ乳酸繊維からなる合成紙を使用する場合には、酢ビ系、アクリル系、ポリスチレン系、ウレタン系、ポリエステル系等の合成樹脂を水に分散させたものが、接着性、耐水性、取り扱い性の点から優れている。これらの糊剤の中でも、特にホルマリン、ノニルフェノールを含まないものが環境保全の点から好ましい。
【0023】
本発明の骨を用いて火袋および提灯を形成する方法は特に制限されず、骨を用いて火袋および提灯を形成する従来技術と同様の方法により行うことができる。例えば、以下の方法で製造することができる。先ず提灯の火袋を形成するために、骨を火袋形状に配置する張型を組み、張輪を張型の上下にはめて固定する。次いで、上部張輪と張型上部の穴に骨となるモノフィラメントまたは収束糸を入れて留め、続いて張型の背の部分に刻まれた溝に沿って骨を螺旋状に巻いてゆく。張型の下部まで巻き終わると、骨を留めるための余裕を持たせて切断し、下部張輪と張型下部の穴に骨を入れて留める。次いで、骨全体に糊を刷毛で塗り、火袋の伸び過ぎを防止するための糸を張型の上に載せかけ、さらに火袋となる紙、布帛などを貼る。
【0024】
貼る順序としては、先ず、上下の張輪から4〜5本目までの骨に紙や絹織物を貼って(腰貼り)、紙や絹織物の破損を防止するための補強を行う。続いて、張型間に紙や絹織物を貼り、刷毛で撫でてしっかり接着させる。その後、余分な火袋用材料を剃刀で切り落とし、乾燥させる。乾燥後に、張型を分解して火袋から抜き、ヘラで火袋の骨の間に折り目をつけて畳む。これにより得られた火袋に、常法にしたがって上下の枠体、および必要に応じて取っ手やその他の部品を取り付けることによって提灯を製造する。
本発明の提灯には、耐水性、耐光性を付与するために、適宜、耐光剤のコーティング、耐水剤のコーティングを行うことができる。油の塗布は従来より行われており、耐水剤のコーティングに属するものである。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されない。なお、実施例、比較例における物性評価並びに性能評価は以下に示す方法で行った。
【0026】
(1)繊維物性(繊度、強度、伸度、公定水分率)
JIS L1013に準じて測定。
(2)接着性
作製した提灯の骨を長さ150mmに切り出し、また和紙を幅15mm、長さ150mmに切り出し、紙の端から50mmが重なるように接着剤(澱粉糊)で固定して試験片とする。チャック間距離100mmとなるように、試験片を万能引張試験機のチャックで固定し、引張速度100mm/minで引張試験を行い、次のように○×で評価した。
○;紙または骨が破壊
×;紙と接着剤の間で界面剥離、または接着剤と骨の間で界面剥離
【0027】
(3)耐湿性
作製した提灯をたたみ、加輪が横に向くようにトレーに並べ、温度40℃、湿度90%の高温高湿試験機に24時間放置して処理し、トレーに接している火袋中央部の直径方向の長さ(高さ)を測定し、処理前後の長さの比を用いて、次のように○×で評価した。
○;0.8以上
×;0.8未満
【0028】
参考例例1
D体1.6%のポリ乳酸樹脂(6400D、ネイチャーワークス社製)を押出機に投入し、6.0mm径のノズルから220℃で紡出し、30℃の水槽で冷却後、80℃の水浴で延伸、140℃の熱風炉で熱固定し、33,000デシテックスのモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0029】
参考例2
D体1.6%のポリ乳酸樹脂(6400D、ネイチャーワークス社製)に20重量%のマイカ(平均粒子径80μm、200−C、アスペクト比:45 クラレトレーディング社製)を配合し、押出機で造粒した。この造粒したポリ乳酸のペレットを用いたこと以外は、参考例1と全く同様にして、22,000デシテックスのモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0030】
参考例3
参考例2で用いたマイカ20重量%配合ポリ乳酸樹脂が鞘成分、参考例1で用いたポリ乳酸樹脂が芯成分になるように、それぞれ別々の押し出し機で溶融混練後に同じ紡糸ヘッドに導き、6.0mm径のノズルより吐出し、参考例1と同様にして、18,000デシテックスの芯鞘複合モノフィラメントを得た(芯/鞘比率=50/50重量%)。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0031】
参考例4
参考例2で用いたマイカ20重量%配合ポリ乳酸樹脂が芯成分、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン共重合割合44モル%、EVAL−E115、クラレ社製)が鞘成分になるように、それぞれ別々の押し出し機で溶融混練後に同じ紡糸ヘッドに導き、6.0mm径のノズルより吐出し、参考例1と同様にして、30,000デシテックスの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0032】
参考例5
参考例1で用いたポリ乳酸樹脂が芯成分、参考例2で用いたマイカを参考例4で用いたエチレン−ビニルアルコール共重合体に20重量%配合したものが鞘成分になるように、それぞれ別々の押し出し機で溶融混練後に同じ紡糸ヘッドに導き、6.0mm径のノズルより吐出し、参考例1と同様にして、18,000デシテックスの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0033】
参考例6
中空繊維用のノズルを用いた以外は、参考例2と全く同様にして、中空率25%、繊度12,000デシテックスの中空モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0034】
参考例7
配合するマイカの平均粒形を230μm(80−C、アスペクト比:65 クラレトレーディング社製)、配合量を30重量%とした以外は参考例2と全く同様にして、モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0035】
参考例8
参考例7のマイカ配合ポリ乳酸樹脂を用いた以外は参考例3と全く同様にして、芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0036】
参考例9
参考例7で用いたマイカをエチレン−ビニルアルコール共重合体に配合した以外は参考例5と全く同様にして、芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0037】
参考例10
D体4.5%のポリ乳酸樹脂(4042D、ネイチャーワークス社製)を芯成分に用い、このポリ乳酸に参考例7のマイカを配合したものを鞘成分に用いたこと以外は参考例7と全く同様にして、モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの繊維物性および接着性を表1に示す。
【0038】
比較参考例1
D体20%のポリ乳酸樹脂(MG2228P103#50、カーギル・ダウ社製)を用い、参考例1と同様にして孔径6.0mmのノズルより吐出し、30℃の水槽で冷却後、80℃の水浴で延伸し、16,000デシテックスのモノフィラメントを得た。しかしながら、結晶性が低いため十分には延伸できず、また溶融破断しやすいため熱固定も出来なかった。また得られたモノフィラメントは非常に脆く、少し曲げただけでも破断してしまい、強度を測定することが出来なかった。
【0039】
【表1】

なお、上記参考例で得られたモノフィラメントを湿度100%の室温の部屋に2ヶ月保管したが、いずれのモノフィラメントについてもかびの発生は見られなかった。
【0040】
実施例1
参考例1で得られたモノフィラメントを、木の張型の背の部分に刻まれた溝に沿って螺旋状に巻き、次いで、モノフィラメントに糊剤(澱粉糊)を刷毛で塗り、その上に木綿糸を張型の上部から下部にかけて全体に巻き付けた後、和紙を貼りつけ、刷毛で撫でてしっかり接着させた後、余分な紙を剃刀で切り落とした。次いで、それを乾燥した後に張型を分解して火袋から抜き、直径が23cmの提灯用の火袋を得た。得られた火袋の上下に枠体を取り付け、上部枠体に取っ手を付けて提灯を作製した。張型への巻き付け作業性は良好であった。また得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。また耐湿性にも優れていた。結果を表2に示す。
【0041】
実施例2
参考例3で得られた芯鞘複合モノフィラメントを用いた以外は、実施例1と全く同様にして提灯用の火袋および提灯を作製した。張型への巻き付け作業性は良好であった。また得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。また耐湿性にも優れていた。結果を表2に示す。
【0042】
実施例3
参考例4で得られた芯鞘複合モノフィラメントを用いた以外は、実施例1と全く同様にして提灯用の火袋および提灯を作製した。張型への巻き付け作業性は良好であった。また得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。また耐湿性にも優れていた。結果を表2に示す。
【0043】
実施例4
参考例5で得られた芯鞘複合モノフィラメントを用いた以外は、実施例1と全く同様にして提灯用の火袋および提灯を作製した。張型への巻き付け作業性は良好であった。また得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。また耐湿性にも優れていた。結果を表2に示す。
【0044】
実施例5
D体1.5%のポリ乳酸樹脂(6201D、グリーンワークス社製)を用いて、紡糸、延伸、カットし、繊度1.7デシテックス、カット長5mmのポリ乳酸ショートカット(主体繊維)を得た。またD体1.7%のポリ乳酸樹脂(6200D、カーギル・ダウ社製)を芯成分、芯成分よりも低温で溶融するD体10%のポリ乳酸樹脂(LL1928P102#50、カーギル・ダウ社製)が鞘成分となるように、紡糸、延伸、カットし、繊度2.2デシテックス、カット長5mmの芯鞘複合ショートカット(バインダー繊維)を得た。これらを用いて抄紙し、主体繊維が70重量%、バインダー繊維が30重量%のポリ乳酸繊維からなる合成紙を得た。この合成紙を火袋の紙として用い、合成樹脂(ニカゾールFX−2561A、日本カーバイド社製)を糊剤として用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、提灯用の火袋および提灯を作製した。得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。さらにモノフィラメントと火袋の紙との接着も良好であった。また、耐湿性だけでなく、耐水性にも優れ、40℃の温水に30分間浸漬した後に取り出しても、火袋および提灯に型崩れは認められなかった。結果を表2に示す。
【0045】
実施例6
合成樹脂(HW920、大日本インキ化学社製)を糊剤として用いた以外は、実施例5と全く同様にして、提灯用の火袋および提灯を作製した。得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。さらにモノフィラメントと火袋の紙との接着も良好であった。また、耐湿性だけでなく、耐水性にも優れ、40℃の温水に30分間浸漬した後に取り出しても、火袋および提灯に型崩れは認められなかった。結果を表2に示す。
【0046】
実施例7
参考例9で得られたモノフィラメントを提灯の骨に用いた以外は、実施例5と全く同様にして、提灯用の火袋および提灯を作製した。得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。さらにモノフィラメントと火袋の紙との接着も良好であった。また、耐湿性だけでなく、耐水性にも優れ、40℃の温水に30分間浸漬した後に取り出しても、火袋および提灯に型崩れは認められなかった。結果を表2に示す。
【0047】
比較例1
提灯の骨としてビニロンモノフィラメント(繊度8,000デシテックス、強度3.8cN/Dtex、公定水分率5%、LR092、クラレ社製)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして提灯を作製した。得られた火袋は形状が良く、かつ型くずれがなく、形状保持性に優れていた。さらにモノフィラメントと火袋の紙との接着も良好であった。しかしながら、耐湿性が悪く、試験後には提灯の骨および提灯自体が変形していた。結果を表2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体が15%以下のポリ乳酸樹脂からなるモノフィラメントまたはマルチフィラメントの収束糸からなることを特徴とする提灯の火袋用骨。
【請求項2】
芯成分がD体15%以下のポリ乳酸樹脂、鞘成分が酢酸ビニル系樹脂からなる芯鞘複合モノフィラメントあるいはポリ乳酸樹脂からなるマルチフィラメントを収束する樹脂が酢酸ビニル系樹脂であるマルチフィラメントの収束糸からなることを特徴とする提灯の火袋用骨。
【請求項3】
酢酸ビニル系樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項2記載の火袋用骨。
【請求項4】
モノフィラメント中にあるいはマルチフィラメント中に、無機粒子が含有されている請求項1〜3のいずれかに記載の火袋用骨。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の火袋用骨を用いて形成した提灯の火袋。
【請求項6】
火袋を覆う紙としてポリ乳酸樹脂繊維を含む合成紙が用いられている請求項5に記載の火袋。
【請求項7】
請求項5または6の火袋を有する提灯。