説明

揮発性有機化合物処理装置

【課題】小型化が可能で低ランニングコストであり安全性が高く、処理効率が高い揮発性有機化合物処理装置を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物処理装置1は、ガスを流通させる連通孔部が形成された導電性発熱体20、及び、導電性発熱体へ通電するための電極21a,21bを備え、通電による導電性発熱体の発熱によって連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部2と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体を備え、加熱部よりガス流通の下流側に設けられ加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部とを具備し、加熱部は、溶融金属の固化により電極側の導電性発熱体の端面に一体化し積層された金属層23、及び、金属層と電極との間に設けられた導電性弾性体層としてのスチールウール層22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物処理装置に関するものであり、特に、工場や事業所から排出されるガス中の揮発性有機化合物を分解し、処理済みのガスを大気中に放出するために使用される揮発性有機化合物処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)は、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの原因物質の一つであり、一定規模以上の工場や事業所はVOCの排出規制の対象となると共に、規制対象外の中小規模事業所に対しても自主的にVOCの排出を抑制することが求められている。出願人らが所在する東海地方は、他地方に比べてVOCの排出量が多いという統計があり、中小規模の事業所の割合も高い。そこで、中小規模の事業所のVOC排出の抑制に対する自主的な取り組みを進めるために、中小規模の事業所でも導入し易い、小型で低ランニングコストのVOC処理装置が望まれている。
【0003】
従来のVOC処理装置は、吸着法、薬液吸収法、生物分解法、プラズマ分解法、燃焼酸化法(直接燃焼式、蓄熱燃焼式、触媒燃焼式)を用いた装置に大別される。そのうち、燃焼酸化法では、加熱の手段としてバーナを使用した装置(例えば、特許文献1参照)や、電気ヒータを使用した装置(例えば、特許文献2参照)が一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸着材や薬液の交換が必要でランニングコストがかかる吸着法や薬液吸収法、生物の維持管理に手間や経費がかかる生物分解法、装置が大型でコスト高のプラズマ分解法を用いた装置は、中小規模の事業所には不向きであった。また、加熱する手段としてバーナを用いる装置では、可燃性のVOCに引火するおそれがあった。加えて、電気ヒータを用いる装置では、熱効率が悪く加熱に時間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、出願人らは、上記の実情に鑑み、小型化が可能で低ランニングコストであると共に安全性が高く、処理効率の高い揮発性有機化合物処理装置の開発を進め、提案している(上記提案の発明にかかる特許出願は出願公開前であるため、公知文献に該当しない)。本発明は上記提案の揮発性有機化合物処理装置の改良にかかるものであり、処理効率をより高めることを課題とする。
【0006】
すなわち、本発明は、小型化が可能で低ランニングコストであり安全性が高く、処理効率が高い揮発性有機化合物処理装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、「ガスを流通させる連通孔部が形成された導電性発熱体、及び、該導電性発熱体へ通電するための電極を備え、通電による前記導電性発熱体の発熱によって前記連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体を備え、前記加熱部よりガス流通の下流側に設けられ前記加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部とを具備し、前記加熱部は、溶融金属の固化により前記電極側の前記導電性発熱体の端面に一体化し積層された金属層、及び、該金属層と前記電極との間に設けられた導電性弾性体層を備える」ものである。
【0008】
「導電性発熱体」としては、導電性セラミックス、半導体セラミックス、金属を使用することができる。
【0009】
「ガスを流通させる連通孔部」は、例えば、導電性発熱体に設けた貫通孔、導電性発熱体を多孔質構造とした場合の連続気孔、後述のように導電性発熱体をハニカム構造を有するものにした場合のセル、によって構成させることができる。
【0010】
「揮発性有機化合物」(以下、単に「VOC」と称することがある)は、大気中に排出され又は飛散した時に気体である有機化合物であって、浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除いたものであり、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、エチルベンゼン、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。特に、トルエンやキシレンは、印刷や塗装関係の工場や事業所で溶剤として多用されており、排出量が多い。
【0011】
「揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体」の触媒としては、白金、パラジウム、ロジウム、金、イリジウム、ルテニウム等の金属触媒や、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タンタル等の金属酸化物触媒を使用することができる。或いは、複数の金属触媒、複数の金属酸化物触媒、または金属触媒と金属酸化物触媒を組み合わせた複合触媒を使用することもできる。なお、VOCの酸化分解温度は650〜800℃であるが、上記の触媒の作用により200〜400℃で酸化分解させることができる。
【0012】
「触媒体」の構成としては、ガスが流通可能な多孔質体に触媒を担持させた構成、触媒自体に連続気孔や貫通孔を設けてガスを流通させる構成、ガスを流通させる管状や筒状のガス流通路の内部にガスが流通可能な空隙を残しつつ触媒が充填された構成、を例示することができる。
【0013】
「触媒部」は「加熱部よりガス流通の下流側に設けられる」ものであり、加熱部と触媒部とは別個の構成である。
【0014】
「溶融金属の固化により前記導電性発熱体の端面に一体化し積層された金属層」は、例えば、導電性発熱体の端面に金属を溶射し、或いは、導電性発熱体の端部を溶融した金属に一部浸漬した後、金属を冷却することにより形成することができる。
【0015】
「導電性弾性体層」における「導電性弾性体」としては、スチールウール、マグネシウムリボンや金リボンなどリボン状に加工された金属材料、炭素繊維、コイル状や波型に曲げられた細い金属製の線材など、高い弾性を有する導電性材料を使用可能である。
【0016】
上記構成の本発明では、通電によって導電性発熱体を発熱させた状態で、導電性発熱体の連通孔部に、工場や事業所から排出されたVOCを含有する未処理ガスを流通させることにより、未処理ガスを加熱することができる。ここで、電極側の導電性発熱体の端面には金属層が形成されており、金属層と電極との間には導電性弾性体層が設けられている。そのため、導電性弾性体層の有する弾性により、金属層と電極との電気的な接続が良好なものとなる。そして、金属層は溶融金属の固化により形成されており、導電性発熱体の端面において導電性発熱体と一体化している。換言すれば、電極側の導電性発熱体の端面は、全体的に金属皮膜が形成された状態である。これにより、金属層を介して導電性発熱体の全体に通電させ易い。従って、本発明によれば、導電性弾性体層及び金属層を介して、電極間で導電性発熱体に良好に通電し、導電性発熱体を効率良く加熱することができる。
【0017】
そして、導電性発熱体を備える加熱部で加熱された未処理ガスは、その下流側に設けられた触媒部に流入し、触媒の作用を受ける。従って、予め加熱部において、未処理ガスの温度を触媒存在下でのVOCの酸化分解温度まで高めてから、触媒部に導入することにより、直接燃焼によって酸化分解させる場合より低温でVOCを分解させることができる。そして、本発明では、ガスを流通させる構成自体を通電により自己発熱させるため、ヒータやバーナ等の外部熱源によって外部から加熱する場合とは異なり、局所的な加熱により極めて高温となって溶損するおそれや、大きな温度勾配に起因して亀裂が発生するおそれが低減されている。また、自己発熱型であることにより、電気エネルギーを未処理ガスの加熱に効率良く利用することができる。
【0018】
ここで、触媒体の構成を、導電性発熱体の連通孔部に触媒を担持させた構成とすることも想定し得る。しかしながら、この場合は、未処理ガスが充分に加熱される前に触媒体を通過してしまい、VOCの酸化分解が不充分となるおそれがある。これに対し、本発明では、加熱部と触媒部は別個の構成であり、加熱部で予め未処理ガスの温度を充分に高めてから、下流側の触媒部に導入することができるため、触媒を充分に作用させ、低温でVOCを確実に酸化分解することが可能となる。
【0019】
加えて、従来、ヒータやバーナ等の外部熱源によってガスを加熱し、直接燃焼によってVOCを酸化分解させる場合は、燃焼室にガスを溜めおいて燃焼温度までガスを加熱するため、燃焼室のためにある程度のスペースが必要であり、装置全体を小型化することは困難であった。これに対し、本発明では、ガスを加熱させるためには、連通孔部が形成された導電性発熱体にガスを連続的に通過させれば足りるため、装置全体を小型化することが可能である。
【0020】
また、本発明では、バーナを使用する従来装置のようにVOCに引火するおそれがないため、安全性の高い装置となっている。更に、吸着法や、薬液吸収法を用いた従来装置のように定期的に交換すべき部材がなく、生物分解法を用いた従来装置のように生物の維持管理の問題もないため、ランニングコストが低廉で、取り扱いの容易な装置となる。
【0021】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、上記構成に加え、「前記導電性弾性体層は、ステンレススチールウールによって形成されている」ものとすることができる。
【0022】
上記構成の本発明では、導電性弾性体がスチールウールであることにより、電極と金属層とを多くの接触点で電気的に接続させることができる。
【0023】
また、加熱部では、空気を含む未処理ガスが加熱された状態で流通するため、導電性弾性体層のスチールウールが酸化し、導電性弾性体層を介した良好な通電が酸化膜によって妨げられると共に、酸化膜による絶縁が破れた際にスパークが発生するおそれがあるところ、本発明では、ステンレススチールウールを使用している。ステンレススチールは含有されるクロムの酸化により表面に薄い不動態皮膜を有し、それ以上酸化され難い。これにより、導電性弾性体層を介した良好な通電が妨げられるおそれを低減して、未処理ガスを効率良く加熱できると共に、スパークの発生に伴い局所的に高温となるおそれを低減して、加熱部の耐久性を高めることができる。
【0024】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、上記構成において、「前記導電性発熱体は、導電性セラミックス焼結体で形成され、単一の軸方向に延びて列設された複数の隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造を有する複数のハニカム構造部、及び、該ハニカム構造部と一体化している導電性セラミックス焼結体で形成され、隣接する前記ハニカム構造部を前記軸方向に直交する方向に連結している連結部を備える」ものとすることができる。
【0025】
「ハニカム構造部」の隔壁は多孔質であっても緻密質であっても良いが、多孔質であれば、隔壁に開口した気孔によって未処理ガス中に含まれる微小な塵や粒子状物質が捕集・除去されるフィルタリング作用に優れ、好適である。
【0026】
ハニカム構造部を形成している「導電性セラミックス焼結体」と連結部を形成している「導電性セラミックス焼結体」とは、セラミックスの種類や組成が同一であっても異なっていても良いが、熱膨張率が同一または同程度であれば、加熱に伴い熱応力が発生しにくく望ましい。
【0027】
ハニカム構造部における「セル」が上記の「連通孔部」に相当する。ハニカム構造を有するセラミックス焼結体では、形状及び大きさの制御されたセルを多数列設させることが可能であるため、かかるセルにガスを流通させることにより、未処理ガスの流通抵抗を抑えつつ効率良く加熱することができる。また、一般的に、ハニカム構造のセラミックス焼結体は、押出成形による成形体を焼成して得られ、押出成形によって大きな断面積の成形体を成形することは困難であるところ、本発明では複数のハニカム構造部を軸方向に直交する方向に連結することにより、導電性発熱体の断面積を大きくしている。これにより、未処理ガスの処理量の多い揮発性有機化合物処理装置を提供することができる。
【0028】
また、複数のハニカム構造部を連結している連結部は、セラミックスの焼結によってハニカム構造部と強固に一体化している。そして、セラミックスの焼結体は一般的に高温下での機械的強度が高い。これにより、高温下で使用されても連結部に亀裂などが発生するおそれが低く、導電性発熱体が耐久性に優れたものとなるため、加熱部における未処理ガスの効率的な加熱を、長期にわたり継続的に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の効果として、小型化が可能で低ランニングコストであり安全性が高く、処理効率及び耐久性がより高い揮発性有機化合物処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態の揮発性有機化合物処理装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の正面図(加熱部側から見た図)である。
【図3】図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の背面図(触媒部側から見た図)である。
【図4】図2におけるX−X線断面図である。
【図5】図2におけるY−Y線断面図である。
【図6】ガスの分散を説明する説明図である。
【図7】ハニカム構造部の(a)斜視図(b)軸方向に直交する断面図である。
【図8】ハニカム構造部及び連結部を備える導電性発熱体の製造方法を説明する図である。
【図9】他の実施形態の揮発性有機化合物処理装置の(a)正面図(加熱部側から見た図)、及び(b)Y2−Y2線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態である揮発性有機化合物処理装置(以下、単に「VOC処理装置」と称する)について、図1乃至図7に基づいて説明する。本実施形態のVOC処理装置1は、ガスを流通させる連通孔部が形成された導電性発熱体20(以下、単に「発熱体20」と称する)、及び発熱体20へ通電するための正負一対の電極21a,21bを備え、通電による発熱体20の発熱によって連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部2と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体31を備え、加熱部2よりガス流通の下流側に設けられ加熱部2で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部3とを具備し、加熱部2は、溶融金属の固化により電極21a,21b側の発熱体20の端面に一体化し積層された金属層23、及び、金属層23及び電極21a,21bとの間に導電性弾性体層としてそれぞれ設けられたスチールウール層22を備えている。
【0032】
また、VOC処理装置1は、図1に示すように、ガスを吸引口6から加熱部2に導くガス導入路8と、触媒部3から排出口7までガスを導くガス排出路9と、ガス導入路8を流通するガスとガス排出路9を流通するガスとの間で熱交換を行う熱交換器4とを具備している。更に、吸引口6には、モータ(図示しない)の駆動によりガスを吸引するファン18が取り付けられている。なお、詳細な図示は省略しているが、熱交換器4はガス導入路8にガス排出路9を巻回させた構成となっている。
【0033】
加熱部2では、主に図4に示すように、ガスの流通方向(図示、紙面下から上に向かう方向)に発熱体20が二列設けられており、ガス流通方向に直交する方向に発熱体20が三列設けられている。そして、それぞれの発熱体20は、主に図2に示すように、三つのハニカム構造部10を備えている。ここで、ハニカム構造部10は、導電性炭化珪素質セラミックス焼結体で形成され、図7に示すように、単一の軸方向Zに延びて列設された複数の隔壁12により区画された複数のセル11を備えている。
【0034】
また、それぞれの発熱体20において、三つのハニカム構造部10は、連結部15を介して軸方向に直交する方向(図2における紙面上下方向)に連結されている。そして、連結部15は、導電性炭化珪素質セラミックス焼結体で形成され、ハニカム構造部10と焼結により一体化している。なお、図2では、構成を明確に示すためにセル11の大きさ及び隔壁12の厚さを誇張して図示しており、ハニカム構造部10におけるセル11の数も実際より少なく図示している。
【0035】
このような構成の発熱体20を製造するためには、例えば図8に示すように、導電性セラミックス焼結体となるセラミックス材料の押出成形により、ハニカム構造に成形された押出成形体10gを複数作製する。そして、隣接する押出成形体10g間に、導電性セラミックス焼結体となるセラミックス材料でシート状に形成されたシート状未焼成体15gを挟み、貼り合わせる。そして、押出成形体10gとシート状未焼成体15gとが貼り合わされた状態で焼成することにより、押出成形体10gとシート状未焼成体15gとが焼結し、両者が一体となった発熱体20が得られる。ここで、一つの発熱体20において、ハニカム構造部10の軸方向Zの長さと、同方向の連結部15の長さは同一である。
【0036】
本実施形態では、押出成形体10gとシート状未焼成体15gとを同組成の炭化珪素質セラミックス原料を用いて形成しており、その結果、ハニカム構造部10の隔壁12と連結部15とは、気孔率、熱伝導率、及び、電気伝導率がほぼ等しい多孔質焼結体となっている。なお、炭化珪素は高純度の場合は絶縁体に近いが、微量の不純物を含有することにより半導体となる。
【0037】
上記のようにハニカム構造部10が連結部15により連結されて形成された発熱体20は、その一端が金属層23及びスチールウール層22を介して電極21aに接続されていると共に、他端が金属層23及びスチールウール層22を介して電極21bに接続されている。なお、以下では、電極21a及び電極21bを区別する必要がない場合は、電極21と総称して説明する。ここで、金属層23はアルミニウムの溶射により形成されている。また、スチールウール層22は、ステンレススチールによって形成されている。
【0038】
それぞれの発熱体20は、加熱部2のケーシング29内に収容されており、ケーシング29の天板29t及び底板29bには貫通孔が穿設されている。これらの貫通孔には、電極21を押圧して発熱体20に対して固定するためのボルト25が挿通されている。更に、天板29t及び底板29bには、共に略コ字状の支持板26が開口側をそれぞれ天板29t及び底板29bに向けて取り付けられており、支持板26の内側の空間には、ボルト25の軸部を挿通させたコイル状のバネ部材27が収容されている。この状態で、バネ部材27は、ボルト25の軸部の外周に沿って設けられたフランジ部と支持板26との間で圧縮された状態にあり、ボルト25を介して電極21を発熱体20に向かう方向に付勢している。なお、異なる列の発熱体20に接続された電極21が、ボルト25及びケーシング29を介して短絡することを防止するために、ボルト25と電極21との間には断熱絶縁層24を介在させている。
【0039】
また、主に図4に示すように、発熱体20とケーシング29との間、及び、ガス流通方向に直交する方向に隣接する発熱体20の間には、断熱絶縁層24が充填されている。一方、ガス流通方向では、発熱体20と発熱体20の間には断熱絶縁層は充填されておらず、空間28が形成されている。
【0040】
触媒部3では、主に図5に示すように、触媒体31がケーシング39の内部に収納されており、ガスを流通させる断面を除いた触媒体31の外表面が、断熱材34で被覆されている。本実施形態の触媒体31は、多孔質のコージェライトセラミックスのハニカム構造体に、貴金属触媒が担持されて形成されている。
【0041】
次に、本実施形態のVOC処理装置1におけるガスの処理について説明する。まず、工場や事業所から排出されたVOCを含有する未処理ガスは、ファン18によって吸引口6から吸引された後、ガス導入路8を流通し加熱部2に導入される。このとき加熱部2では、電極21a及び電極21bに通電することによって発熱体20が発熱している。そのため、未処理ガスは発熱体20を通過する際に加熱される。ここで、それぞれの発熱体20は多数のセル11が列設されたハニカム構造部10を備えるため、ガスはセル11内を流通する際に効率良く加熱される。
【0042】
加えて、ハニカム構造部10の隔壁12は多孔質であるため、ガス中に存在する微小な塵や粒子状物質は、隔壁12に開口している気孔によって捕集される。
【0043】
本実施形態の加熱部2では発電体2がガス流通方向に二列に設けられており、その間に空間28が形成されているため、上流側の列の発熱体20を通過したガスは、下流側の列の発熱体20に流入する前にその前面に当たり、空間28内で拡散し易い(図6参照)。これにより、ガス導入路8の端部から加熱部2に導入されたガスが、発熱体20のごく一部のみを通過することが防止される。なお、本実施形態では発熱体20が約300℃に保持されるよう、発熱体20への通電を調整している。
【0044】
発熱体20を通過することによって加熱された未処理ガスは、次に、触媒部3に流入し、触媒が担持されたハニカム構造体である触媒体31を通過する。この際、未処理ガスは既に加熱部30において、触媒存在下でVOCが酸化分解可能な約300℃まで加熱されているため、触媒体31を通過する際に触媒と接触することにより、ガス中のVOCは直接燃焼により酸化分解する場合より低温で酸化分解される。
【0045】
そして、VOCが酸化分解された後の処理済みガスは、ガス排出路9を流通して熱交換器4に入り、そこでガス導入路8を流通する未処理ガスに熱を与えて低温となり、排出口7から外気中に排出される。
【0046】
上記のように、本実施形態のVOC処理装置1によれば、ガスを流通させる構成をヒータやバーナ等の外部熱源によって外部から加熱するのではなく、ガスを流通させる構成である発熱体20自体が自己発熱するため、通電により効率良くガスを加熱することができる。また、ガスを加熱するためには、発熱体20のセル11にガスを連続的に通過させれば足りるため、ガスを燃焼室内に溜めおいて外部加熱する従来の装置に比べて、装置全体を小型化することが可能である。
【0047】
加えて、発熱体20と触媒体31とを主な構成とする簡易な構成であり、且つ、触媒部3が加熱部2の直後に設けられているため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、発熱体20である多孔質の炭化珪素質セラミックスに触媒が担持されているのではなく、加熱部2とは別個の構成として、加熱部2より下流側に触媒部3が設けられている。そのため、触媒存在下でのVOCの酸化分解に充分な300℃まで、未処理ガスの温度を予め加熱部2で高めてから触媒部3に導入することができる。これにより、触媒の作用を充分に発揮させて、VOCを低温で確実に酸化分解することが可能となる。
【0049】
加えて、ハニカム構造部10におけるフィルタリング作用により、未処理ガス中に含まれる微小な塵や粒子状物質が捕集される。本実施形態では、触媒体31と発熱体20とは別個の構成であるため、発熱体に触媒が担持されている場合とは異なり、捕集された物質によって触媒が被覆されてしまうことがない。これにより、触媒体31を長期にわたって使用することができる。
【0050】
また、電極21と発熱体20との間に金属層23及びスチールウール層22を介在させており、金属層23はアルミニウムの溶射により発熱体20の電極21側の端面全体に一体化して積層されている。これにより、スチールウールによって電極21と金属層23とを多くの接触点で電気的に接続することができると共に、金属層23を介して発熱体の全体に通電させることができる。
【0051】
更に、バネ部材27の付勢によって、スチールウール層22及び金属層23を介した電極21と発熱体20との密着度を高めることができるため、発熱体20に通電させ易い。また、バネ部材27の付勢によって、スチールウールが圧縮され、スチールウール層22と金属層23との接触点が増加し、両層間の通電がより良好なものとなる。加えて、バネ部材27の弾性変形により、発熱体20の熱膨張を吸収することができるため、加熱部2において熱応力に起因する歪みや亀裂等の発生が有効に防止される。
【0052】
加えて、スチールウール層22はステンレススチールウールによって形成されているため、表面の不動体性皮膜によってそれ以上の酸化が抑制されており、加熱されたガスが流通する加熱部2の耐久性が高いものとなっている。
【0053】
また、ハニカム構造部10及び連結部15は共に炭化珪素質セラミックス焼結体で形成されており、炭化珪素質セラミックス焼結体は、高強度であると共に、熱伝導率が高く熱膨張率が小さいことから耐熱衝撃性に優れる。そのため、使用に伴って加熱と冷却が繰り返される発熱体20として適しており、発熱体20全体の耐久性が高いものとなっている。加えて、熱伝導率が高いことにより、通電により発熱体20の温度が速やかに上昇するため、効率良く未処理ガスを加熱することができる。更に、炭化珪素質セラミックス焼結体は、耐酸化性、耐食性にも優れるため、種々のVOCを含有する未処理ガスを加熱する発熱体20として適している。
【0054】
加えて、複数のハニカム構造部10を連結している連結部15は、焼結によりハニカム構造部10と一体化しているため、発熱体20全体の強度が高く、連結部15における亀裂等の発生も抑制されている。また、本実施形態では、ハニカム構造部10及び連結部15は同組成の炭化珪素質セラミックス焼結体であるため、熱膨張率が等しく、加熱に伴う熱応力の発生が抑制されている。更に、連結部15も導電性のセラミックス焼結体であるため、複数のハニカム構造部10のそれぞれに電極を設ける必要がなく、複数のハニカム構造部10が連結されて形成された発熱体20の両端に電極21を設ければ足りる。これにより、VOC処理装置1を簡易な構成とすることができる。
【0055】
また、押出成形では大きな断面積のハニカム構造体を成形するのは困難であるところ、本実施形態では、複数のハニカム構造部10を軸方向に直交する方向に連結して発熱体20の断面積を増加させることにより、多量の未処理ガスの処理が可能となっている。
【0056】
更に、本実施形態では複数のハニカム構造部10が軸方向に直交する方向に連結されて形成された発熱体20の両端に、それぞれ電極21a,21bが接続されていることにより、ハニカム構造部10が電気的に直列に接続されている。従って、ハニカム構造部10の数を加減することにより、電極21a,21b間の距離を調整し、電気抵抗の大きさを調整することができる。これにより、炭化珪素質セラミックスは温度の上昇に伴って電気抵抗が減少するNTC特性を有するところ、電極21a,21b間の電気抵抗値を調整することにより、電流値が過大となることを防止しつつ、商用電源を利用して大きな発熱量を得ることが可能となる。すなわち、特別な設備を要さず、中小規模の事業所にとっても導入し易い揮発性有機化合物処理装置を提供することができる。
【0057】
また、本実施形態のVOC処理装置1は熱交換機4を備えているため、処理済みガスの排熱を有効に利用し、予め未処理ガスを加熱してから加熱部30に導入することができる。これにより、発熱体20への通電量を低減することができ、ランニングコストを抑えることができる。加えて、処理済みガスが高温状態のまま大気中に排出され、環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0058】
本実施形態のVOC処理装置1は、上記の構成に加え、加熱部2において発熱体20よりガス流通の上流側に、ガスの流路を分散させるガス流路分散部材を備えた構成とすることができる。例えば、図6に示すように、ガス導入路8の末端の近傍に、多数の小さな貫通孔が穿設された分散プレート41を設けることができる。そして、更に下流側の発熱体20の前面近傍に、断面円錐形の基体の外表面に複数枚の羽根が設けられた分散羽根42を設けることができる。ここで、分散プレート41及び分散羽根42は、共に「ガス流路分散部材」に相当する。
【0059】
上記のような構成にすることにより、ガス導入路8の末端から流出したガスは、まず分散プレート41の多数の貫通孔を通過することによって、種々の方向に分散する。そして、分散したガスは次に分散羽根42にガイドされて流通し、ガスの流通路が拡径する。これにより、複数個が列設された発熱体20の全断面積がガス導入路8の断面積に対して大きい場合であっても、発熱体20全体に満遍なくガスを通過させ、発熱体20全体の発熱を有効に活用してガスを加熱することができる。
【0060】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記の実施形態では、ガス流通方向の二列の発熱体2のそれぞれに一対の電極21a,21bが接続されている場合を例示したが、これに限定されるものではなく、発熱体の接続の仕方は発熱体の種類(電気抵抗値)、サイズ等によって適宜変更することができる。例えば、図9に示すように、ガス流通方向の二列の発熱体20それぞれの一端を、導電性の導通部28で連結することにより、ガス流通方向の二列の発熱体2が電気的に直列に接続されている構成とすることができる。このような構成とすることにより、一つの発熱体20におけるハニカム構造部10の数を変えることなく、一対の電極21a,21b間で発熱体20を電流が流れる距離を長くすることができる。
【0062】
また、複数のハニカム構造部10がセラミックス焼結体である連結部15によって連結されている場合を例示したが、複数のハニカム構造部10の連結する構成はこれに限定されない。例えば、ハニカム構造部10において連結される端面に、金属の溶射により金属層を設け、隣接するハニカム構造部10のそれぞれの金属層の間に、スチールウール層を設けることができる。すなわち、隣接するハニカム構造部10にそれぞれ設けられた金属層の二つと、その間のスチールウール層によって連結部を構成した形態である。このような構成とすることにより、金属層及びスチールウール層を介して隣接するハニカム構造部10間で良好に通電させることができる。そして、ステンレススチールウールを使用してスチールウール層を形成すれば、耐久性を高めることができる。
【0063】
更に、触媒部に触媒体を一層設けた場合を例示したが、これに限定されず、ガス流通方向に複数の触媒体が列設された構成とすることができる。その場合、触媒の種類は同一であっても異なっていても良い。
【0064】
加えて、触媒体として多孔質体に触媒を担持させたものを例示したが、これに限定されず、例えば、発泡金属など触媒自体を多孔質構造として用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 VOC処理装置(揮発性有機化合物処理装置)
2 加熱部
3 触媒部
10 ハニカム構造部
11 セル
12 隔壁
15 連結部
20 発熱体(導電性発熱体)
21,21a,21b 電極
22 スチールウール層
23 金属層
27 バネ部材
31 触媒体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開平11−221430号公報
【特許文献2】特開2005−279570号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを流通させる連通孔部が形成された導電性発熱体、及び、該導電性発熱体へ通電するための電極を備え、通電による前記導電性発熱体の発熱によって前記連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部と、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体を備え、前記加熱部よりガス流通の下流側に設けられ前記加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部とを具備し、
前記加熱部は、溶融金属の固化により前記電極側の前記導電性発熱体の端面に一体化し積層された金属層、及び、該金属層と前記電極との間に設けられた導電性弾性体層を備える
ことを特徴とする揮発性有機化合物処理装置。
【請求項2】
前記導電性弾性体層は、ステンレススチールウールによって形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物処理装置。
【請求項3】
前記導電性発熱体は、導電性セラミックス焼結体で形成され、単一の軸方向に延びて列設された複数の隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造を有する複数のハニカム構造部、及び、該ハニカム構造部と一体化している導電性セラミックス焼結体で形成され、隣接する前記ハニカム構造部を前記軸方向に直交する方向に連結している連結部を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の揮発性有機化合物処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−98306(P2011−98306A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255440(P2009−255440)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(307044286)加藤電気炉材製造有限会社 (2)
【Fターム(参考)】