説明

揺動型歯車装置の歯車創成加工装置

【課題】ワークの割り出し精度を高精度に維持できる揺動型歯車装置の歯車創生加工装置を提供する。
【解決手段】入力軸の回転により回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型歯車装置の歯車創成加工装置であって、動力源によって駆動される駆動軸10と、駆動軸の一部に形成され駆動軸の軸心に対して所定角度傾斜した軸心を有する傾斜部11と、傾斜部において回転自在に支承されかつ軸方向端面に揺動型歯車装置としての第1歯車9と噛み合う第2歯車26を備えた回転盤13と、回転盤と一体に回転し回転盤13の揺動中心点と一致する揺動中心点を持つワーク保持部14と、第1および第2歯車の歯形断面と略同一の断面形状をなし回転盤13と同期してワークの歯すじ方向に移動可能な歯形形成手段15と、上記ワーク保持部14の回転位置を検出する回転検出手段16とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車加工装置、特に、入力軸と、該入力軸の外周あるいは内周に形成した傾斜部において回転自在に支承された回転体と、出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、固定部材に直接あるいは間接的に固定された歯数n1の第1歯車と噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車と噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型歯車装置の歯車創成加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の揺動運動を行ういわゆる揺動型歯車装置を用いた減速歯車装置の原理は知られている。この揺動型歯車装置は、4つの歯車のみで大減速比を得ることが可能であり、様々な利点を有するものである。しかしながら、揺動型歯車装置はその歯車の歯形を高精度かつ低コストでの生産が困難な球面インボリュート歯形とする必要があり、実用化には至っていない。本発明者はこの球面インボリュート歯形に代わる歯形を用いることによって、揺動型歯車装置の実用化を可能とした。この揺動型歯車装置の詳細については、特公平7-56324 号公報に開示されている。
【0003】
図3には、上記公報に開示された揺動型歯車装置と同様のものが示されている。揺動型歯車装置は、歯数の異なる4つの歯車として、第1〜第4歯車A1 〜A4 を有している。この内第1歯車A1 は、ハウジング6に一体的に固定され、回転をしない固定歯車である。第2歯車A2 、第3歯車A3 は、入力軸1によって軸支される回転体3に形成されている。また、第4歯車A4 は出力軸2に設けられ、ハウジング6により回転自在に支持されている。そして、第1歯車A1 と第2歯車A2 、第3歯車A3 と第4歯車A4 が夫々噛み合っている。
【0004】
回転体3は、入力軸1の軸線に対して所定の角度をなす傾斜部1aによって支承されている。入力軸1自体も、ハウジング6によって回動自在に支承されている。入力軸1が回転すると、傾斜部1aが首を振るような運動をし、これに支承される回転体3は、あたかも停止寸前のこまのように首振り運動をする。この回転体3の動きを揺動運動という。そして、回転体3の揺動運動により、第2歯車A2 を第1歯車A1 に、また、第3歯車A3 を第4歯車A4 に夫々噛み合せていく(図5(a),(b)参照)。すると、第2歯車A2 は、1周期の揺動運動(入力軸1の1回転)当り、第1歯車A1 との歯数差に相当する分だけ第1歯車A1 に対して回転する。すなわち、第1歯車A1 と、第2歯車A2との間で、1段階の減速がなされる。第2歯車A2 の運動は、第3歯車A3 に直接伝わり、第3歯車A3 と第4歯車A4 との間でも、同様の噛み合いを行う。よって、第3歯車A3 と第4歯車A4 との間でも、1段階の減速がなされる。すなわち、入力軸1の回転運動が出力軸2に伝達される際に、第1、第2歯車A1 ,A2 と、第3、第4歯車A3 ,A4 とで、2段階の減速作用を受けることになる。
【0005】
また、第2歯車A2 、第3歯車A3 が揺動運動をしながら、第1歯車A1、第4歯車A4 と噛み合う際に、従来から知られているインボリュート歯形又は球面インボリュート歯形では、各噛み合い面に摺動を生じてしまう。この摺動が、騒音、振動および発熱を発生し、焼き付きの原因となる。この問題を解決するために、図4に示すように、各歯車の歯には、コロ4およびコロとの内接面5を採用している。具体的には、第1歯車A1 (第4歯車A4 )に形成されたコロとの内接面5にコロ4を浮遊支持し、半円筒状の凸歯を形成している。また、第2歯車A2 (第3歯車A3 )にもコロとの内接面5を形成し、半円溝状の凹歯を形成する。そして、回転体3が揺動運動を行うと、第2歯車A2 (第3歯車A3 )は各凹歯と凸歯とを噛み合せていく。そして、各凹歯と凸歯との間に生ずる摺動を、コロ4の回転で吸収している。したがって、バックラッシの設定を不要とするばかりか、各歯車間に予圧を付与して、精密な噛み合せを行うことができる。
【0006】
このように、歯形としてコロ4およびコロとの内接面5を用いることにより、球面インボリュート歯形に比べて遥かに容易かつ低コストでの歯形の形成が可能となった。しかしながら、半円筒状の内接面を正確なピッチおよび角度で、かつ精密に形成するには、精密な治具等を用いて手作業により位置の割り出しを行う必要があり、作業者の熟練を要する等、大量生産には大きな課題がある。
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて、例えば特許文献1に示すように、ワークの位置の割り出しを正確にかつ連続的に行うことが可能な加工装置を提供している。すなわち、特許文献1に記載の加工装置は、揺動型歯車装置の基本機能を活用してワークを保持するワーク保持部を揺動型歯車装置の回転盤として構成する一方、このワーク保持部に保持されるワークの運動軌跡上に切削砥石等の歯形形成手段を位置させることにより、揺動型歯車装置の歯車を大量にかつ低コストで生産することできる。
【特許文献1】特開平10−235519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の歯車加工装置は、ワークの位置の割り出し及び加工を連続的にできるが、割り出し精度の点において更なる改善が求められている。すなわち、特許文献1に示す加工装置は、揺動型歯車装置の基本機能を活用するものであるため、ワーク保持部の揺動運動を支配する第1歯車と第2歯車との噛み合い部のバックラッシュおよび回転各部のねじり変形などの要因により、駆動モータの送り量に対してワークの割り出し位置が必ずしも一致せず、このずれが歯車の加工精度に悪影響を与えることが考えられる。
【0009】
本発明は、かかる点に着目してなされたもので、ワークの割り出し精度を高精度に維持できる加工装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に係わる手段は、入力軸と、該入力軸の外周あるいは内周に形成した傾斜部において回転自在に支承された回転体と、出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、固定部材に直接あるいは間接的に固定された固定歯車としての歯数n1の第1歯車と噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車と噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型歯車装置の歯車創成加工装置を対象とする。
【0011】
そして、動力源によって駆動される駆動軸と、該駆動軸の一部に形成され駆動軸の軸心に対して所定角度傾斜した軸心を有する傾斜部と、該傾斜部において回転自在に支承されかつ軸方向端面に上記揺動型歯車装置としての第1歯車と噛み合う第2歯車を備えた回転盤と、該回転盤と一体に回転し該回転盤の揺動中心点と一致する揺動中心点を持つワーク保持部と、上記第1および第2歯車の歯形断面と略同一の断面形状をなし前記回転盤と同期してワークの歯すじ方向に移動可能な歯形形成手段と、上記ワーク保持部の回転位置を検出する回転検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明によると、駆動軸を回転させることにより、その駆動軸と一体に回転する傾斜部に支持された回転盤が揺動運動を行い、この揺動運動に伴って回転盤の端面に形成された第2歯車は第1歯車との噛み合い位置を周方向に変位させる。このとき、回転盤の揺動運動そのものは回転盤の回転運動を支配するものではないが、回転盤の回転運動は、第1歯車と第2歯車との間の歯数差に支配される。つまり、傾斜部の1回転につき、回転盤は一周期の揺動運動を行うとともに歯数差相当分の回転を行うことになる。このため、回転盤と一体に運動するワーク保持部も同様の運動を行いその歯数差だけ回転する。
【0013】
そのとき、ワーク保持部に固定されたワークは、前記回転盤の揺動中心点とワークが揺動運動する際の揺動中心点とが一致した状態でワーク保持部に保持されるので、ワークの被加工面は前記回転盤と一体をなす揺動型歯車装置としての移動軌跡を描き所定の角度位置に割り出しが行われる。このとき、ワークの回転位置すなわち所定の割り出し位置にあるかどうかは回転検出手段によって常に監視されており、目標位置とのずれ量を確実に把握することによりワークは常に正しい位置に移動制御される。
【0014】
よって、歯車形成手段を前記回転体と同期してワークの歯すじ方向に移動させることにより、ワークの被加工面には、該ワークと対をなす歯車が噛みあうがごとく前記歯車形成手段が当接し、所望の歯形が創成される。加えてワーク保持部の回転位置を正確に監視することにより、そのずれ量を制御手段にフィードバックし、ワークを正しい回転位置に制御することができる。この動作が順次連続的に繰り返され、ワークが1周期変位することにより高精度の歯車が得られる。
【0015】
請求項2に係わる手段は、請求項1において、上記回転検出手段が、上記回転盤の揺動運動を回転運動に変換する変換手段を介して回転位置を検出するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、揺動運動するワークの回転位置をきわめて正確に検出することができる。すなわち、ワークの角度位置を精度よく検出するためには、本体の基準位置に対して、ワークおよびワークと一体に作動するワーク保持部の回転角度位置を検出する必要があるが、ワークおよびワーク保持部は単純な回転運動だけではなく傾斜部の傾斜角に対応して揺動運動をしながら回転運動するものであるので、エンコーダあるいはレゾルバなどの回転検出手段による回転角度位置の検出が極めて困難となる。
【0017】
したがって、請求項2の手段よれば、揺動運動を伴う回転運動を行うワークおよびワーク保持部の運動を単純な回転運動に変換することができるので、既存の各種回転検出手段でもってその位置を極めて高精度に検出でき、ワークの加工精度の向上に貢献する。
【0018】
また、請求項3に係わる手段は、請求項2において、上記変換手段が、上記回転盤に固定される揺動型歯車装置としての第3歯車と、上記駆動軸と同心的に回転する基準回転部材に固定される揺動型歯車装置としての第4歯車とで構成されていることを特徴とする。
【0019】
つまり、請求項3に係わる発明は、変換手段が、揺動型歯車装置としての第3歯車と第4歯車とで構成され、第4歯車が固定された出力軸としての基準回転部材の回転角を検出するように構成されているので、構造的にもコンパクトとなり、しかも揺動運動するワークの回転位置をきわめて正確に検出することができる。
【0020】
また請求項4に係わる手段は、請求項3において、上記第3歯車が、その歯先が上記第2歯車と軸方向において同一方向を向くように配置され、当該方向において上記第4歯車と噛み合うように構成されていることを特徴とする。この構成によれば、加工装置の軸方向長さを短縮することができるだけでなく、軸方向先端にてワークを保持するワーク保持部を軸方向内方に配置し回転盤を支持する軸受け部材との距離を短くすることができるので、ワーク加工時においてワーク保持部に作用する曲げ荷重に対する十分な曲げ剛性を確保することができる。
【0021】
すなわち、第3歯車と第4歯車との噛み合い構造をたとえば図3に示す揺動歯車装置のように、第1歯車装置と第2歯車装置の噛み合い方向に対して第3歯車と第4歯車の噛み合い方向が異なる方向である場合には、基準回転部材を軸方向外方(歯形形成手段の方向)に向かって配置する必要があり、その分ワーク保持部も軸方向外方に配置する必要があり、よって、ワーク保持部先端と軸受け部材との間の距離が長くなり、その分軸剛性が低下することになる。
【0022】
また、請求項5に係わる手段は、請求項1ないし4の1つにおいて、上記ワーク保持部が、上記傾斜部の内周空間部に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、ワーク保持部先端と軸受け部材との間の距離を短くできるので、ワーク加工時の曲げ荷重の作用に対する曲げ剛性をすることができ、加工精度を向上させることができる。
【0023】
また、請求項6に係わる手段は、請求項1ないし5の1つにおいて、上記駆動軸が軸方向に貫通する中空部を備え、該中空部内に上記ワーク保持部あるいはワーク加工部に連なる通路手段を設けたことを特徴とする。この構成によれば、ワーク保持部周辺の構造部材を歯車機構内方の軸心部の空間に配置できるので、ワークおよび歯形形成手段周辺の構造を極めて簡略化できる。
【0024】
請求項7に係わる手段は、請求項1ないし6の1つにおいて、上記第1歯車と第2歯車との間および第3歯車と第4歯車との間の少なくとも1つの噛み合い部にコロが介在されていることを特徴とする。この構成によれば、単純にバックラシュをゼロにできるだけでなく、第3歯車と第4歯車による変換精度を高精度に保つことができるので、ワークの角度位置に対応する基準回転部材の角度位置を高精度に保つことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の揺動歯車装置の歯車創成加工装置は、以上のように構成されているので、ワークの割り出し精度を高精度に維持できるとともに連続的に加工することができるので、揺動型歯車装置の歯車の生産性高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1には、本発明に係わる第1実施例の揺動型歯車装置の歯車創生加工装置が示されている。この加工装置は、上端に揺動型歯車装置の固定歯車としての第1歯車9を備えた中空の旋回テーブル8と、該旋回テーブル8の内周面に回転自在に支承される中空状の駆動軸10と、該駆動軸10の一端に形成されその軸心Xに対して所定の角度傾斜した傾斜部11と、この傾斜部11に対して軸受け部材としてのベアリング12を介して回転自在に支承される回転盤13と、該回転盤13に固定され回転盤と一体に運動するワーク保持部14と、歯形形成手段としてのカッタホイール15と、回転位置検出手段としての第1回転センサー20、第2回転センサー18、第3回転センサー16を備えている。
【0028】
上記旋回テーブル8は、軸方向中央の外周において本体7との間に介在された第2電動モータ17(ステータ17a 、ロータ17b)によって駆動されるように構成されており、また下端においてその回転位置を検出するレゾルバ方式の第2回転センサー18と連携されている。この旋回テーブル8は、後述のようにワークWの歯数変更の際に第2電動モータ17により所定の回転運動を行う。特定の歯数の加工の際には旋回テーブル8は所定の角度位置に固定されており、その一端の第1歯車9は名実ともに固定歯車として機能する。
【0029】
また、駆動軸10は、下端部外周において駆動源としての第1電動モータ19(ステータ19a、ロータ19b)によって駆動されるように構成されており、その内周中空部には、ダイヤフラムチャック21のパワー源としてのエアーパイプ23およびワーク先端に冷却液を供給するクーラントパイプ24を収納する保護パイプ25が回転可能に支承されている。第1電動モータ19の近傍には駆動軸10の回転角を検出するレゾルバ方式の回転センサーとして構成される第1回転センサー20が設けられている。したがって、駆動軸10は外周の一端において第1電動モータ19によって駆動され、その先端に形成された傾斜部11も一体に回転する。この傾斜部11は、駆動軸10の上端にボルトにて固定されており、駆動軸10より大径の中空軸をなし、その外周壁と内周壁は軸方向において駆動軸10の軸心Xに対して所定角度傾斜した軸心Yと平行になるように形成されている。また、その底壁は傾斜軸心Yに直角に形成されている。
【0030】
回転盤13はベアリング12を介して傾斜部11の外周において、回転可能に支承されている。回転盤13の軸方向内端(下端)には、旋回テーブル8に固定された第1歯車9と噛み合う揺動型歯車装置としての第2歯車26が形成されている。この第1および第2歯車とで構成される揺動型歯車装置は、相互間の歯数差によって、傾斜部11の1回転に対し歯数差相当の角度だけ回転変位することによって、回転盤13の角度位置を割り出す。
【0031】
回転盤13の上端において一体に固定されるワーク保持部14は、中空状の固定部材22と該固定部材22に固定されるダイヤフラムチャック21を備えている。固定部材22は、上端のフランジ部22aと、中空筒部22bと、この中空筒部22bと直交する底壁22cとで構成されている。フランジ部22aは回転盤13の上端面に固定され、中空筒部22bはその外周面が傾斜部11の内周面と平行になるように傾斜部11の空間部に介在されている。また、ダイヤフラムチャック21は固定部材22の底壁22cにボルトにて一体に固定されており、図2に示すように、先端にワークWを固定する爪部材21aを備えた可とう性のダイヤフラム21bと、該ダイヤフラム21bに空気圧を介して一定の押圧力を与えるピストン21cを備えている。ピストン21cはシリンダ21dとの間に、エアーパイプ23から選択的に供給される高圧エアが作用する第1作動室21eと第2作動室21fが形成されている。
【0032】
第1作動室21eにエアが供給されたとき、ピストン21cが上方に移動しダイヤフラム内方の第3作動室21gの空気圧を高めて爪部材21aを開き、逆に第2作動室21fにエアが供給されたときには、ダイヤフラムは元の状態に復帰し爪部材21aは閉じる。(この状態は図2の左半分と右半分とで示している)したがって、爪部材が開かれている状態ではワークWは非保持状態となり、また、爪部材が閉じている状態ではワークWは強固に保持されることになる。
【0033】
以上のように構成されたダイヤフラムチャック21は、中空状の傾斜部11の内周において重合配置された固定部材22の底壁22cに固定されているので、爪部材21aによって保持されるワークWの被加工面とベアリング12間の軸方向距離を短くすることができ、ワーク加工時において回転盤13、ワーク保持部14に作用する曲げ荷重に対する剛性を高めることができ、加工精度を向上させることができる。
【0034】
ところで、ワーク保持部14に保持されたワークWは、回転盤13すなわち第2歯車26の揺動運動に伴って揺動運動を行うが、その揺動中心は第2歯車26の揺動中心と一致するように設定されているので、ワークWは第2歯車の揺動運動に対して相似形の揺動運動を行うことになる。
【0035】
また回転盤13の上端面には、揺動型歯車装置としての第3歯車27が固定されている。この第3歯車27は、本体7の上端外周においてベアリング28を介して回転自在に支承される基準回転部材30に固定される揺動型歯車装置としての第4歯車29と噛み合っている。この第3歯車27と第4歯車29と基準回転部材30とで回転盤13の揺動運動、すなわち、軸方向と回転方向の運動を回転のみの運動に変換する変換手段を構成している。第3歯車27と第4歯車29は上記第1および第2歯車と同様に、所定のピッチ円錐の傘歯車として形成され、両者同数の歯数に設定されている。
【0036】
したがって、回転盤13の揺動運動に対し、第3歯車27は、第2歯車26と一体に揺動運動し、第4歯車29に対しその噛み合い位置が周方向に変位するが、第3歯車27と第4歯車29とは歯数が同数であるため第4歯車29との間の相対変位は生じない。一方で、第3歯車27は回転盤13を介して第2歯車26と一体の運動を行うので、第1歯車9と第2歯車26間の歯数差に伴う回転盤13の所定回転角の変位は第3歯車27および第4歯車29を介して基準回転部材30に伝えられることになる。
【0037】
つまり、第1歯車9と第2歯車26との間の歯数差によって生じる回転盤13の回転変位は、ワーク保持部14にワークWの割り出し角として伝えられるとともに、第3、第4歯車を通じてワークの割り出し角として基準回転部材30にも伝えられる。
【0038】
また、基準回転部材30の下端内周部には、回転盤13の回転角位置、つまりワーク保持部14に保持されたワークWの割り出し角度位置を検出するレゾルバ方式の回転センサーとして構成される第3回転センサー16が装着されている。この第3回転センサー16は、基準回転部材30の内周に固定されたステータ16aと本体7の外周に固定されたロータ16bとで構成され、基準回転部材30の回転位置を検出することによって、その出力は図示しない制御装置に取り込まれ、駆動軸10の回転角度位置を検出する第1回転センサー20の出力と第1、第2歯車間の減速比で決まる目標回転角と比較して、その偏差を求め、偏差がゼロとなるように第1電動モータ19の出力を制御するように用いられる。また、この第3回転センサーは、各歯車の個体差による初期位置の調整にも用いることができる。
【0039】
なお、上記第3歯車27は、その歯先が上記第2歯車27と軸方向において同一方向を向くように配置され、当該方向において上記第4歯車29と噛み合うように構成されている。この構成によれば、加工装置の軸方向長さを短縮することができるだけでなく、軸方向先端にてワークWを保持するワーク保持部14を軸方向内方に配置し回転盤13を支持するベアリング12との距離を短くすることができるので、ワークWの加工時においてワーク保持部14に作用する曲げ荷重に対する剛性を確保することができる。すなわち、第3歯車27と第4歯車29との噛み合い構造を、たとえば図3に示す揺動歯車装置のように第1歯車A1と第2歯車A2の噛み合い方向に対して第3歯車A3と第4歯車A4の噛み合い方向が、異なる方向である場合には、基準回転部材30を軸方向外方(歯形形成手段の方向)に向かって配置する必要があり、その分ワーク保持部14も軸方向外方に配置する必要があり、よって、ワーク保持部14先端と軸受け部材としてのベアリング12との間の距離が長くなり、その分軸剛性が低下することになる。
【0040】
また、カッタホイール15は、NC制御される位置決め装置(図示せず)によって支持されており、ワークWに対する近接遠退が自在となっている。また、カッタホイール15は、回転しながらワークWに形成する歯形の歯すじ方向(ワークの円錐面に平行に)に、所定ストロークだけ移動することができる。このストロークは所望の歯幅より若干長くする。ところで、カッタホイール15は、円周端部の断面形状が、歯形断面形状と略同一形状の円弧をなす砥石車である。このカッタホイール15を回転駆動してワークWの被加工面に当接させ、歯すじ方向へと移動させることにより、砥石車の断面とほぼ同一の円弧状断面の溝型歯を創成研削加工することができる。なお、本加工装置に用いることができる歯形形成手段としては、カッタホイール18に限らず、サイドカッタ、砥石カッター等のカッタホイールや、エンドミル(ボールエンドミル)、カッタホイール15と同様の断面形状を有する放電電極等も適用可能である。
【0041】
また、第1歯車9と第2歯車26との噛み合い部および第3歯車27と第4歯車29との噛み合い部にはニードルローラとしてのコロ31が介在されている。各歯車の歯形は、図4に示すように、コロ31とコロ31に適合する凹状の内接面32とで構成されている。コロ31は、リテーナにより一体化され、第1歯車9と第4歯車29側に配設されている。第1、第4歯車9,29は内接面32に位置するコロ31とで凸状歯として構成され、第2、第3歯車26,27は、上記凸状歯と噛み合う凹状歯として構成される。
【0042】
したがって、第1ないし第4歯車のそれぞれの噛み合い部の摩擦は、コロ31の転がりによって大幅に軽減される。この場合、各噛み合い部に与圧を与えることにより、バックラッシュを実質的に解消することができる。このことは、回転盤13すなわちワーク保持部14の割り出し精度の向上に貢献するばかりか、第3回転センサー16によるワーク保持部14の割り出し角の検出精度の向上にも貢献する。
【0043】
なお、上記第3歯車27のボス部と基準回転部材30の間には、ベローズ状のカバー部材33が設けられており、各歯車の噛み合い部などへの塵埃の侵入を防止するように構成されている。カバー部材33としてはベローズ構造でなくてもよいが、ベローズ状にすることにより回転盤13の揺動運動を許容しながら塵埃の進入を確実に防ぐことができるのでより好ましい。
【0044】
また、上記歯車加工装置は、基本的に第1歯車9と第2歯車26の間の歯数差によってワークの割り出しを行うものである。したがって、加工する歯車の歯数、ピッチ、大きさなどの仕様を変更する場合には、割り出し機能を支配する構成部材たとえば、第1および第2歯車、傾斜部11、ベアリング12、回転盤13、ワーク保持部14などの仕様を変更する必要がある。歯車の仕様変更の都度、その仕様にあった加工装置を用いればよいが、使用毎に加工装置を用意すれば部品の製造コストが増大し現実的ではない。一方で、必要部品のみを交換可能に構成すればその問題は解消できるが、上記構成部材は相互間を単純にボルトにて結合すればすむわけではなく、複雑な組立作業が必要になり、いわゆる段取り換えに多大な時間が必要になる。
【0045】
よって、図1の加工装置は、歯車の仕様変更に伴う主要部品の段取り換えを高精度でかつ短時間で行えるように、駆動軸10と一体に回転する中空状の傾斜部11を駆動軸10とは別部品として構成し、段取り換えの際に若干のボルトの締結弛緩によって一体化あるいは分離できるように構成されている。したがって、傾斜部以降の関係部品をあらかじめ組み立てておくことによって、段取り換えの際には、傾斜部11と駆動軸10間のボルトを含む数少ない数のボルトの操作のみで行うことができる。
【0046】
以下、上記構成をなす歯車加工装置の作動について説明する。
【0047】
まず、図1に示すように、ダイヤフラムチャック21の爪部材21aにワークWを固定すると、前述のごとく、ワークWが揺動運動をする際の揺動中心点と、揺動歯車装置を構成する第2歯車の揺動中心 とが一致する。そして、駆動軸10を回転させると、傾斜部11が首を振るような運動をし、これにベアリング12を介して支承される回転盤13は、首振り運動すなわち揺動運動をする。そして、回転盤13に設けられた第2歯車26と旋回テーブル8に設けられた第1歯車9とを噛み合せる。このとき、駆動軸10の1回転に付き第1歯車9と第2歯車間26の歯数差の分だけ回転盤13を回転させることができる。例えば、第1歯車9の歯数を 100、第2歯車26の歯数を 101とすると、駆動軸11が1回正回転すると、第1歯車9に対して第2歯車26は1/100 だけ正回転する。すなわち、駆動軸10の1回転に付き、ワーク1周分の1/100づつ加工位置の割り出しをすることができる。
【0048】
したがって、駆動軸10が1回正回転するタイミングに同期させて、カッタホイール15を歯すじ方向に移動することにより、ワークWの被加工面には1個づつ歯形が形成されていく。また、第2歯車26の揺動中心点と、ワークWが揺動運動する際の揺動中心点とが一致した状態で保持されるので、ワークWの被加工面は回転盤13に形成された第2歯車26と一体をなす揺動歯車装置の仮想第3歯車と相似する移動軌跡を描く。したがって、ワークWの被加工面にカッタホイール15で歯を研削すると、カッタホイール15がワークWと対をなす歯車(仮想の第4歯車に相似した歯車)となり、ワークWの被加工面に創成される歯形は、揺動歯車装置の第3歯車として理想の歯形となる。
【0049】
ところで、上記の原理にて加工される歯形は、加工装置を構成する主要構成部材が第1電動モータ19の作動量どおりに動いてはじめてその精度が維持されるものであるが、第1電動モータ19に始まってダイヤフラムチャック21までの間には、駆動軸10、回転盤13、第1ないし第2歯車9,26およびワーク保持部14といった駆動系構成部材が介在されており、この構成部品間のバックラッシュを含むガタや、各部品のねじれなどによって、ワークWの角度位置に狂いが生じる可能性がある。このような狂いに対しては、第3回転センサー16によってワーク保持部14の回転角度位置を監視するように構成されているので、目標値との偏差に応じて偏差がゼロになるように制御装置によって第1駆動モータ19の制御量が制御され、ワークWは目標どおりの正しい位置に割り出される。
【0050】
この場合、ワークWの回転角は、ワーク保持部14と一体に揺動運動する回転盤13に固定された揺動歯車装置としての第3歯車27とこの歯車と噛み合う第4歯車29を介して回転盤13の回転変位分のみを基準回転部材30に伝達するように構成されているので、基準回転部材30に介在された第3回転センサー16は、回転盤13およびワーク保持部14の揺動運動の影響を受けることなく、回転角の変位のみを確実に検出することができる。
【0051】
また、常に同一径のワークに対して同一ピッチで歯を形成する場合には、上記のごとく第1歯車9と第2歯車26の噛み合いにより加工位置の割り出しを行い加工することで事足りるが、実際には、径の異なるワークに対して、異なる歯数の歯車を作るための加工を行う必要が生ずる。このような場合には、1回の加工位置の割り出し毎に、回転盤13の回転角度を変える必要がある。例えば、歯数40の歯車に対しては、1周を40等分の角度で加工位置の割り出しを行うが、歯数50の歯車に対しては、1周を50等分した角度で加工位置の割り出しを行う必要がある。
【0052】
そこで、図1に示す加工装置においては、回転盤13が一周期の揺動運動をする間に、第2電動モータ17により旋回テーブル9を所望の角度で旋回駆動することにより、加工するワーク13の径に合わせて、1回の加工位置の割り出し毎の回転盤13の回転角度の増減が行われる。そして、異なる径のワークに対し同一ピッチの歯形を創成する。また、同一径もしくは異なる径のワークに対して、異なるピッチで歯を形成する場合にも、同様に回転盤13の回転角度の増減を行う。この回転角度の制御は、ワークWの径に対応した回転角度の増減量、もしくは、歯を形成するピッチに対応した回転角度の増減量を、加工装置を制御する制御手段に予め設定しておく。そして、作業者がワーク径もしくは歯のピッチを入力することによって、自動的に第2電動モータ17を制御し旋回テーブル8の回転を制御することができる。
【0053】
図1に示す歯車加工装置は、以上のように構成されているので、以下のような特徴を有する。
【0054】
本加工装置は、揺動歯車装置の基本機能を有効に利用してワークの割り出し及び加工を連続的に行うことができるので、その生産性を極めて向上できる。
【0055】
また、ワーク保持部14の角度位置の検出を揺動型歯車装置の第3歯車27および第4歯車29の基本機能を利用して回転盤13の揺動運動に影響されることなく、ワークの微妙なずれ、狂いを回転変位として正確に検出できるので、この検出値に基づいて電動モータの制御により確実に補正制御でき、極めて高精度な加工が可能となる。
【0056】
また、揺動型歯車装置を用いることで、歯車軸心部に大径の空間部を確保でき、この空間部を利用して、駆動軸を含む各種軸部材を必要径を確保した上で貫通配置することができるので、各種軸部材の軸剛性を高くすることができ、加工装置の加工精度の向上に貢献する。また、中空の歯車であることは、単に軸部材の外形を大きくして軸剛性を高くできるだけでなく、軸部材の軸心部にも十分な空間を確保できることでもあり、加工装置を構成する各種関連部材、たとえば、上述のようなクーラントパイプおよびエアーパイプなどを貫通配置することができることだけでなくワーク保持部としてのダイヤフラムチャックを中空の傾斜部内周に配置することも可能となり、加工装置全体をコンパクトに構成できることを意味する。
【0057】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
上記実施例の加工装置は、その軸心が上下を向くように配置するように構成されているが、水平方向に向けて配置することも可能であるが、上下方向に向けたほうが、自重による曲げ荷重の影響を受けにくいので、ワークの割り出し精度を維持する上で好ましい。
また、上記実施例においては、揺動型歯車装置の第3歯車の加工例についた説明したが、この加工装置は、揺動型歯車装置のすべての歯車の加工が可能である。
【0059】
また上記実施例においては、ワーク保持部の1周期の回転で加工が終了するようにカッタホイールの送り量を設定しているが、カッタホイールの送り量を少なくして複数周期で加工が終了するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係わる歯車創成加工装置の断面図。
【図2】ダイヤフラムチャック部の拡大断面図。
【図3】従来の揺動型歯車装置の説明図。
【図4】揺動型歯車装置の噛み合い部の説明図。
【図5】揺動型歯車装置の作動説明図。
【符号の説明】
【0061】
9 第1歯車
10 駆動軸
11 傾斜部
12 ベアリング
13 回転盤
14 ワーク保持部
15 歯形形成手段
16 回転検出手段(第3回転センサー)
26 第2歯車
27 第3歯車
29 第4歯車
30 基準回転部材
31 コロ
W ワーク
X 駆動軸軸心
Y 傾斜部軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、該入力軸の外周あるいは内周に形成した傾斜部において回転自在に支承された回転体と、出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、固定部材に直接あるいは間接的に固定された固定歯車としての歯数n1の第1歯車と噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車と噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型歯車装置の歯車加工装置であって、
動力源によって駆動される駆動軸と、
該駆動軸の一部に形成され駆動軸の軸心に対して所定角度傾斜した軸心を有する傾斜部と、
該傾斜部において回転自在に支承されかつ軸方向端面に上記揺動型歯車装置としての第1歯車と噛み合う第2歯車を備えた回転盤と、
該回転盤と一体に回転し該回転盤の揺動中心点と一致する揺動中心点を持つワーク保持部と、
上記第1および第2歯車の歯形断面と略同一の断面形状をなし前記回転盤と同期してワークの歯すじ方向に移動可能な歯形形成手段と、
上記ワーク保持部の回転位置を検出する回転検出手段と、を備えたことを特徴とする揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項2】
上記回転検出手段は、上記回転盤の揺動運動を回転運動に変換する変換手段を介して回転位置を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項3】
上記変換手段は、上記回転盤に固定される揺動型歯車装置としての第3歯車と、上記駆動軸と同心的に回転する基準回転部材に固定される揺動型歯車装置としての第4歯車とで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項4】
上記第3歯車は、その歯先が上記第2歯車と軸方向において同一方向を向くように配置され、当該方向において上記第4歯車と噛み合うように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項5】
上記ワーク保持部は、上記傾斜部の内周空間部に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4の1つに記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項6】
上記駆動軸は軸方向に貫通する中空部を備え、該中空部内に上記ワーク保持部あるいはワーク加工部に連なる通路手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし5の1つに記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。
【請求項7】
上記第1歯車と第2歯車との間および第3歯車と第4歯車との間の少なくとも一方の噛み合い部にコロが介在されていることを特徴とする請求項1ないし6の1つに記載の揺動型歯車装置の歯車創成加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−272497(P2006−272497A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93856(P2005−93856)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(504294684)荻野工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】