説明

損傷しまたは傷害を受けた組織または臓器の内皮/上皮再生用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞(MV)の使用ならびにインビトロおよびインビボでの関連した方法

本発明は、損傷した組織または臓器の内皮/上皮再生用および/または細胞増殖抑制剤によって誘導されるアポトーシスの阻害用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞(MV)の使用に関する。微小胞の起源である幹細胞は、好ましくは内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)、腎前駆細胞CD133+、成人肝臓幹細胞(HLSC)およびそれらの何れかの組合せから成る群から選択される。微小胞はインビトロおよびインビボの両方で、例えば損傷した組織または臓器の再生、腎損傷および肝損傷、特に急性腎不全(ARF)および急性肝不全(AHF)の処置に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、組織再生の分野に属し、特に内皮および上皮再生に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な臓器において、内皮区画と上皮区画間のクロストークは分化、機能および修復に関連している。傷害後の形態学的修復および機能回復は、内皮細胞および上皮細胞の両方の再生、したがって細胞間相互作用の回復に基づいている。
【0003】
内皮細胞は外胚葉の胚層に由来し、血液と血管壁間の第1インターフェースを務める。それらは全体重の1%を占め、約28mの動脈表面、280mの毛細血管表面に存在する。血管内皮は、分泌メディエーター、機械的ストレスの感知、血圧調節、神経−体液制御ならびに炎症性細胞接着および管外遊出の制御のような広範な生物学的活性を有することが知られている。
【0004】
上皮細胞は内胚葉の胚層に由来し、主として多くの臓器に存在し、ここでそれらは特定の機能を獲得している。腎臓では、上皮細胞は特異的な構造に分化している(前尿素の再吸収および分泌に特化した機能を有する近位および遠位尿細管細胞ならびに選択的浸透性の制御に特化した機能を有する糸球体上皮細胞)。肝臓では、上皮細胞は主として、肝小葉の解剖学的機能単位を構成する。この構造は、ビリルビンおよび胆汁塩の生産に特化しており、これらは特に、固有の新合成生成物である。膵臓では、多様なタイプの上皮細胞が別のホルモンの分泌および取り扱いに特化している(すなわち、インスリン分泌についてのベータ細胞)。
【0005】
上皮細胞および内皮細胞は、急性または慢性臓器機能不全を導き得る多様な損傷メカニズムの標的である。臓器レベルでの修復プロセスは、内皮細胞および上皮細胞の脱分化、増殖および最終的な損傷部位への移動、ついには再分化して完全な形態学的および機能的回復を保証する能力に依存している。例えば、虚血事象または毒性事象へとつながる臨床的に重大な事象である急性尿細管壊死の後、両細胞タイプの増殖および成熟細胞への最終的分化が修復事象には必要である(1,2)。腎糸球体疾患において、損傷からの回復は、糸球体の構造の血管リモデリングに本質的に関連している。より詳しくは、糸球体疾患の再生期の間に生じる血管新生が、糸球体の選択的浸透性をもたらす高度に分化した上皮細胞である有足細胞の機能的回復にも影響することが示されている(3)。多くの急性血管損傷モデルにおいて、内皮細胞の再生が組織および臓器機能の回復に有益であり、これはまた、臓器の上皮機能的要素の修復にも関連している。骨髄由来間葉系幹細胞および内皮前駆細胞(EPC)は接着分子シグナルを通じて、血管虚血部位に優先的に採用される(4,5)。
【0006】
内皮/上皮損傷または傷害を処置するためのこれまでの既存のアプローチは、1)2種の細胞タイプの両方または一方に作用する増殖因子;2)間葉系幹細胞またはEPCを用いた細胞療法の使用を基礎としていた。しかし、既存のアプローチは多くの欠点を有する。
【0007】
増殖因子の使用は、高い生産コストおよび別の増殖因子の適切な組合せの生物学的効果を得る必要があることといった欠点を有する。幹細胞療法の使用は、一旦患者に移植すると、潜在的な腫瘍原性リスクまたは不適切な分化を伴って、投与した細胞の制御が失われる内因的リスクを有する。例えば、糸球体腎炎の実験モデルにおける損傷糸球体での脂肪生成分化が報告されている(6)。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、幹細胞由来の微小胞(MV)が内皮/上皮損傷または傷害の処置のための既存のアプローチを超える有利な代替手段であり、すなわちそれらの使用が上記欠点を有さないことを見出した。さらにまた、幹細胞由来の微小胞が内皮および上皮両組織の損傷または傷害を再生する能力を有することは、全く予想外である。実際に、内皮前駆細胞(EPC)に由来する微小胞が内皮細胞からの血管新生および毛細血管様構造の形成を促進し得ることは、先行技術文献において知られていた(7)。また例えばWO2005121369から、ドナー細胞由来の微小胞または合成微小胞を用いて微小胞と接触させた細胞を修飾し得ることは知られていた。典型的には、修飾は少なくとも一部は微小胞のRNAによって影響されるが、微小胞の脂質成分、微小胞の膜関連ペプチドまたは微小胞の細胞質性ペプチドによっても影響され得る。
【0009】
しかし、EPCを含む多数のタイプの幹細胞に由来する微小胞の、内皮および上皮両組織の再生を促進する複合能力は、開示も示唆もされていない。
【0010】
それらの再生能力のために、本発明に使用する幹細胞由来MVは、組織損傷または傷害後の組織修復、特に内皮/上皮再生に使用することができる。本発明で使用するMVは、インビトロおよびインビボの両方の適用のために使用することができる。
【0011】
インビボでの使用に関して、幹細胞由来MVは、ヒトに適用する腎臓および肝臓修復用、特に急性腎不全(ARF)および急性肝不全(AHF)の処置用医薬として使用するために特に好適な、多くの共通した生物学的効果を有することが示された。実際に、本発明で使用するMVは、急性尿細管損傷からの回復、急性糸球体腎炎からの回復ならびに糸球体毛細血管再生および肝細胞増殖の促進に有効であり、それによって、ARFおよびAHFの処置に大きな利点を有することが示された。
【0012】
急性傷害エピソード後の腎臓の回復能力は、入院患者の罹患率および死亡率に大いに影響する(8,9)。腎尿細管細胞は特に、敗血症のような内因性サイトカイン、ミオグロビンもしくはアミノグリコシドおよび放射線造影剤のような内因性もしくは外因性毒素または腎虚血エピソードに曝されたとき、傷害を受けやすい(10)。急性腎臓損傷からの回復は、腎尿細管の正常機能の再生および回復能力に依存する(2)。患者の年齢および損傷の重症度が回復を条件付け得る。重度または反復腎損傷エピソードの後、回復は弱まるかあるいは機能しないことさえあり得て、長期間の透析が必要となり、患者の死亡率が上昇する(11)。尿細管上皮細胞の壊死および喪失は、急性腎不全(ARF)で最も一般的な事象であり、急性腎不全後の腎機能回復は機能的尿細管上皮による壊死尿細管細胞の置換に依存する(2)。上皮および内皮再生の非存在または低下は、管状間質瘢痕化および慢性腎疾患に罹患しやすくなり得る。腎損傷への生理的応答に関する研究によって、損傷が生じた後、尿細管細胞が脱分化し、間葉性表現型を獲得することが示されている。次いで、脱分化した細胞は、尿細管細胞が壊死、アポトーシスまたは尿細管基底膜の露出による脱離が生じる領域へと移動する。このプロセスは、細胞増殖、最終的には続くそれらの組織完全性の回復を伴った機能的上皮細胞への分化と続く(2)。また、腎臓の間質は、腎臓修復に寄与できる成熟腎幹細胞を含むことが示唆されている(12)。糸球体損傷はしばしば、糸球体細胞が細管に関して限定された再生能を有するため、硬化性病変への進行が続く。毛細血管の減少は、腎不全の最終段階へと進行する多様な異なる糸球体疾患における共通の事象である(13)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(原文に記載なし)
【図2】(原文に記載なし)
【図3】(原文に記載なし)
【図4】(原文に記載なし)
【図5】(原文に記載なし)
【図6】(原文に記載なし)
【図7】(原文に記載なし)
【図8】(原文に記載なし)
【図9】(原文に記載なし)
【図10】(原文に記載なし)
【図11】(原文に記載なし)
【図12】(原文に記載なし)
【図13】(原文に記載なし)
【図14】(原文に記載なし)
【図15】(原文に記載なし)
【図16】(原文に記載なし)
【図17】(原文に記載なし)
【図18】(原文に記載なし)
【図19】(原文に記載なし)
【図20】(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明の一つの局面は、内皮/上皮再生用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞の使用である。
好ましい態様において、医薬は急性腎不全(ARF)のような腎損傷の処置に関する。
別の好ましい態様において、医薬は急性肝不全(AHF)のような肝損傷の処置に関する。
【0015】
アポトーシスを阻害し、細胞増殖を促進する幹細胞由来微小胞(MV)の能力に鑑みて、かかるMVはまた、細胞増殖抑制剤によって誘導されるアポトーシスの阻害における使用に特に好適であり、それによってがんの化学療法の副作用を低減する。
【0016】
したがって、本発明の別の局面は、細胞増殖抑制剤によって誘導されるアポトーシスの阻害用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞の使用である。
【0017】
細胞増殖抑制剤は、例えばパクリタキセル、レナリドマイド、ポマリドマイド、エピルビシン、5FU、スニチニブ、ラパチニブ、カネルチニブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、レナリドマイド/デキサメタゾン、ポマリドマイド/デキサメタゾン、カルボプラチン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、ドセタキセル、ビノレルビンである。
【0018】
本発明の医薬は、好適には、静脈内輸液によって投与され、そしてそれは、約30〜120μg/kg患者体重を含む微小胞の投与量に好適な投与形態で製造することができる。患者は、例えばARFまたはAHFに罹患しているヒトのような、内皮/上皮再生をもたらし得る処置を必要としている何れかの患者である。
【0019】
「幹細胞由来微小胞(MV)」なる表現は、本明細書において使用するとき、少なくとも部分的に幹細胞に由来する膜粒子を意味する。次に「幹細胞」なる用語は、増殖し(自己再生)、分化する(可塑性(palsticity))ことができ、それによってライフサイクルの終わりに到達した分化細胞系統の成熟細胞を置換することができる、あらゆる未分化または部分的に未分化の細胞を含む。「幹細胞」なる用語は、本明細書において使用するとき、無制限の自己再生能と多能的可塑性を有する幹細胞と、多能的または分化単能的可塑性およびいくつかの例では、限定された自己再生能を有する前駆細胞の両方を含む。
【0020】
本発明の好ましい態様において、本発明で使用する幹細胞由来MVは、内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)、腎前駆細胞CD133+、成人肝臓幹細胞(HLSC)から成る群から選択される幹細胞に由来する。
【0021】
本発明で使用する幹細胞由来微小胞は、一般に、球状であり、100nm〜5μm、より典型的には0.2〜1μmの直径を有する。粒子が球状でないとき、上記の値は粒子の最大径を意味する。
【0022】
本発明で使用する微小胞が得られる幹細胞は、本明細書の実験の項に記載のとおりに単離することができる。次いで、微小胞(MV)は単離した幹細胞の上清から、本明細書の実験の項に記載のとおりに超遠心分離して、得ることができる。
【0023】
単離MVは、使用するまで、超低温、典型的には−80℃で、1種以上の凍結防止剤を含む懸濁液中で凍結させて、保存することができる。好適な凍結防止剤は、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)およびグリセロールである。細胞懸濁液体積の濃度1%でのDMSOの使用は、細胞の良好な保存および再注入する患者に対する限定された毒性効果を保証する。言及し得る他の物質は、細胞表面で作用して細胞内脱水を低下させる緊密な障壁を形成する高分子物質である、細胞外凍結保護剤である。ヒドロキシエチルデンプンを例として記載することができる。単離MVは医薬の製造のために使用することができる。
【0024】
単離した幹細胞由来MVは、本発明者らによって、インビトロおよびインビボの両方で試験された。インビボで実施した試験は、マウス毒性ARFモデルおよび抗Thy−1抗体の静注によって誘導したラット糸球体腎炎の試験モデルを含む。
【0025】
下記実施例の項は、説明のみを目的として提供する。
【実施例】
【0026】
材料および方法
細胞調製物
内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)およびCD133腎前駆細胞の単離および特徴付け
EPCは、健常ドナー由来の末梢血単核細胞から密度遠心分離によって単離して、フィブロネクチン被覆培養フラスコ中の5%のFBS、VEGF、FGF−2、EGFおよびインスリン様増殖因子−1を補った内皮細胞基礎培地−2(Clonetics, Biowhittaker, Walkersville, MD)に播種した。内皮の同一性は、FACS、ウェスタンブロット、遺伝子マイクロアレイ分析およびマトリゲル被覆プレート上での血管形成特性の機能的評価によって、既報の通りに試験した(5)。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は既報の通りに単離し、培養した(4)。8週齢マウスの大腿骨および脛骨由来マウスMSC(mMSC)は、既報の通りに得た(14)。10%のFCS、10%のウマ血清(いずれもEuroclone, Westenby, UKから)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび100IU/mLのペニシリン(全てSigma, St Louis, MO, USAから)を補ったα−MEM(Invitrogen, Paisley, Scotland)に細胞を密度20〜40×10細胞/9.5cmで播種した。72時間後に非接着細胞集団を除去し、接着層を新鮮な培地で1回洗浄した。細胞は典型的な紡錘型外見を有し、MSC表現型が間葉系幹細胞マーカーの発現ならびに骨細胞および脂肪細胞への分化能によって、既報の通り確認された(14)。腎前駆細胞は、外科的に採取した腎臓から得た皮質の正常部分から得た。切除および連続等級メッシュによるふるい分けの後、MACSシステム(Miltenyi Biotec, Auburn, California)を用いた磁気的細胞選別によって、CD133細胞を尿細管分画から単離した。60%のDMEM LG(Invitrogen, Paisly, United Kingdom)、40%のMCDB−201の存在下で、1×インスリン−トランスフェリン−セレニウム、1×リノール酸2−リン酸、10−9Mのデキサメタゾン、10−4のアスコルビン酸2−リン酸、100Uのペニシリン、1000Uのストレプトマイシン、10ng/mlのEGFおよび10ng/mlのPDGF−BB(全てSigma-Aldrich, St.Louis, Missouryから)および2%のFCS(EuroClone, Wetherby, United Kingdomから)を補ったフィブロネクチン上にCD133細胞を播種した(12)。選択した細胞は造血マーカーの発現を欠いており、胚腎マーカーであるPAX−2を発現していた。これはそれらが腎臓起源であることを示唆している。腎組織由来CD133細胞および個々の細胞のクローンは、増殖および限定的な自己再生が可能であり、インビトロで上皮または内皮細胞に分化することができた。インビトロでの上皮分化は、FGF−4(10ng/ml)およびHGF(20ng/ml)(Sigma)の存在下で得られた。内皮分化は、VEGF(10ng/ml)(Sigma)および内皮細胞接着因子(Sigma)上10%FCSを補ったEBM培地(Cambrex Bio Science, Baltimore, Maryland)中で培養して得られた(12)。SCIDマウスに皮下移植すると、未分化細胞は腎上皮マーカーを発現する尿細管構造を形成した。
【0027】
幹細胞由来MVの単離および特徴付け
MVは、FCSを除いた培地中で培養した別の前駆細胞の上清から得た(7)。2000gで20分間遠心分離してゴミを除いた後、細胞を含まない上清を100000gで1時間、4℃で遠心分離し(Beckman Coulter Optima L-90K ultracentrifuge)、無血清培地で洗浄し、同じ条件での2回目の超遠心分離に供した。製造業者の指示書(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)に従ったLimulusテストによって、内毒素汚染を除いた。得られたMVは次のとおりに分析した:
【0028】
FACS分析:MVのサイズをFACS(Becton Dickinson)で測定した。異なるサイズのビーズ(1、2、3、4、6、10および15μm、Molecular Probes, Invitrogen)をサイズマーカーとして用いて、FSCおよびSSCパラメーターの対数目盛を用いて分析を実施した。
【0029】
走査型および透過型電子顕微鏡:MVをKarnowski固定剤で固定し、アルコールで脱水し、ガラス表面上で乾燥させ、スパッタコーティングにより金でコーティングした。試料をJeol T300走査型電子顕微鏡で試験した。作動距離15〜25mm、加速電圧20〜25kVで、二次電子を介して画像を得た。Karnovsky固定、オスミウムテトラオキシド固定後組織を標準的な方法でエポキシ樹脂に包埋して、透過型電子顕微鏡観察を実施した。極薄切片を酢酸アラニルおよびクエン酸鉛で染色し、Jeol JEM 1010電子顕微鏡で試験した。
【0030】
遺伝子アレイ分析:アポトーシスの試験のためのヒトGEアレイキット(GEArray Q series Human Apoptosis, SuperArray Inc., Bethesda, MD)を用いて、MVで処理した尿細管細胞の遺伝子発現を特徴付けた。異なる実験からプールしたRNAをビオチニル化プローブ合成のためのテンプレートとして用いた。アルカリホスファターゼ基質、CDP-Starおよび製造業者の指示に従って直接必要とされるものを用いて、化学発光シグナルによって遺伝子発現を検出した。Quantity one プログラム(Life Science)を用いて濃度測定分析を行い、生データはGEアレイ分析機プログラム分析によって分析した。
【0031】
インビボモデル
マウス毒性ARFモデル
C57Bl/6マウスの急性毒性尿細管損傷は、50%グリセロール溶液(Sigma, St. Louis, MO)の7.5ml/kg体重の筋注によって、既報の通り誘導した(14)。血清クレアチニンレベルおよび尿素濃度を測定して(Beckman Instruments Inc., Fullerton, CA)、腎機能を評価した。尿細管損傷のピークはグリセロール注射後3日で生じた(14)。ARF誘導から3、6、10および15日後にマウスを屠殺し、最大損傷および尿細管再生の段階を評価した。組織学的および免疫組織化学的分析のために腎臓をホルマリン固定してパラフィン包埋した。
【0032】
Thy−1糸球体腎炎の実験モデル
6週齢メスLewisラットに250μg/100g体重の抗Thy1−1抗体(Ab)を0日目に大腿静脈に静脈内投与して、糸球体腎炎(GN)を誘導した。対照動物には抗Thy1.1 Abの代わりに同量の生理食塩水を注射で投与した。既にタンパク尿が検出できた2日目に、30μgのEPC由来MVを反対側の大腿静脈に注射した。対照動物には同量のビークル(Hepes修飾M199培地と1%のDMSO)のみを注射で投与した。タンパク尿、血清および尿クレアチニン/尿素(24時間尿採取)を毎日評価した。マウスを4日目、7日目、14日目に屠殺した。各実験グループは9匹のラットを含む。
【0033】
インビトロ実験
ヒト尿細管細胞の単離および培養
ヒトTECの初代培養(PTEC)は、腎臓癌に罹患している患者から外科的手法によって採取した腎臓から得た(15)。ハイブリッドAdeno5/SV40ウイルスに感染させて得たPTECの不死化細胞系を用いて、初代尿細管細胞で行った実験を確認し、敷衍した。10%のFCS(Hyclone, Logan, Utah)および2mMのグルタミン(GIBCO)を含むRPMI1640(GIBCO, Grand Island, NY)で細胞を増殖させた。
【0034】
細胞増殖アッセイ
96ウェルプレート中の10%のFCSを含むDMEM培地に、8000細胞/ウェルで細胞を播種して、接着させた。DNA合成は、細胞DNAへの5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)の取り込みとして、ELISAキット(Roche Applied Science)を用いて検出した。簡潔には、細胞に10μMのBrdUを加え、10%のFCSの存在下または非存在下でDMEM中で18時間インキュベートした。次いで細胞を0.5Mのエタノール/HClで固定し、ヌクレアーゼと共にインキュベートしてDNAを消化した。DNAに取り込まれたBrdUは、抗BrdUペルオキシダーゼ結合mAbを用いて検出し、可溶性発色基質で可視化した。吸光度をELISAリーダーで405nmで測定した。
【0035】
アポトーシスアッセイ
アポトーシスは、TUNELアッセイ分析(ApopTag Oncor, Gaithersburg, MD)を用いて評価した。多様な前アポトーシス性刺激の後、細胞をPBSに懸濁し、PBS中1%のパラホルムアルデヒド、pH7.4で15分間、4℃で固定し、PBSで2回洗浄した後、予め冷却した2:1のエタノール−酢酸で5分間、−20℃で固定した。サンプルをターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)酵素で処理した。次いで細胞を、フルオレセインと結合した抗ジゴキシゲニンで加温下で処理し、室温で30分間インキュベートした。1μg/mlのヨウ化プロピジウムを含む培地にサンプルを乗せ、免疫蛍光法で細胞を分析した。結果は赤色蛍光放出細胞(全細胞)に対する緑色蛍光放出細胞(アポトーシス細胞)の百分率として表現する。
【0036】
カスパーゼ3−8−9活性の検出
カスパーゼ3−8−9の活性は、カスパーゼによって認識される標識化基質DEVD−pNAを切断した後、発色団p−ニトロアニリド(pNA)の分光光度的検出に基づくELISA(Chemicon, Temecula, CA)によって評価した。尿細管溶解物を適切な反応バッファーで希釈し、DEVD−pNAを最終濃度50Mで加えた。次いでサンプルを波長405nmで自動ELISAリーダーで分析した。各実験は、3連で行った。
【0037】
FACS分析
FACS分析のため、細胞を組織培養プレートからEDTAで剥離し、1×PBSで2回洗浄し、別の分子に関する一次抗体または無関係な対照抗体で、4℃で1時間染色した。細胞をAlexa Fluor結合二次抗体と共に45分間、4℃でインキュベートした。細胞を1%のパラホルムアルデヒドで固定し、FACS分析に供した(Becton Dickinson, Mountain View, CA)。
【0038】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析のために、細胞をEDTAで剥離し、1%のTriton-X-100、10μM/mlのロイペプチン、10μMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)および100U/mlアプロチニンを含む50mMのTris−HCl溶解バッファーで溶解させた。尿細管溶解物を15000×gで遠心分離した後、上清のタンパク質含量をBradford法で測定した。30μg/レーンのタンパク質をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供し、ニトロセルロースメンブランフィルターにエレクトロブロットした。次いで20mMのTris−HCl(pH7.5)、500mMのNaClおよび0.1%のTweenを含む5%の無脂肪ミルクでブロットをブロックした。濃度500ng/mlのAkt、P−Akt、Bcl−xLに対する抗体(全てSanta Cruz Biotechnologyから)またはPax−2に対する抗体と共に、膜を4℃で一夜インキュベートした。0.1%のTweenで入念に洗浄した後、HRP結合タンパク質A(200ng/ml、Amersham, Buckingamshire, UK)で1時間、RTでブロットを染色し、0.1%のTweenで再度洗浄し、ECL検出試薬(Amersham)で現像して、X-Omatフィルム(Eastman Kodak, Rochester, NY)に曝した。
【0039】
経上皮電気抵抗(TER)の評価
経上皮電気抵抗(TER)を上皮極性の指標として用いた。細胞をTranswell中コラーゲン被覆ポリカーボネート膜(Corning Costar Corp., Cambridge, MA)に播種し、コンフルエンスに到達させた後、多様な刺激を加えた。上皮ボルト−オームメーター(EVOM;World Precision Instruments, Inc., Sarasota, FL)を用いてTER値を既報の通りに測定した(12)。全測定は3連で実施し、膜の面積について正規化した。
【0040】
FITC結合アルブミン取り込みの検出
尿細管細胞を50mg/mlのFITC結合ヒトアルブミンと共に37℃で2時間インキュベートした後、タンパク質取り込みを試験した。FITC−アルブミン負荷の後、細胞を氷冷PBSで3回念入りに洗浄し、FACSで分析した。
【0041】
移動および形態発生アッセイ
機械的ストレス条件を模倣するために、コンフルエントな単層に生じさせた外傷へと尿細管細胞が移動する速度として、移動を評価した。細胞運動性はNikonの倒立顕微鏡下で、密封したインキュベーター内で37℃で観察した。Micro-Image分析システム(Casti Imaging srl, Venezia, Italy)を用いて30分間隔で異なる画像をデジタル保存した後、移動を分析した。細胞移動は、視野当たり30個以上の細胞の核の位置に印を付けて評価した。観察物の始点から終点までの直線距離を観察時間で割った比として、平均速度を計算した。選択実験および形態発生アッセイにおいて、タイプIVコラーゲンであるフィブロネクチン 20μg/mlまたはMatrigelで予めコーティングしたプレートに散在している尿細管細胞を播種した。
【0042】
SCIDマウスへのPTECの皮下マトリゲル埋め込み
マトリゲルプラグ中PTECの皮下移植を行って、インビボで幹細胞由来MVの管形成効果を評価した。簡潔には、増殖因子欠乏マトリゲル(Becton Dickinson)を使用するまで−20℃で維持し、移植の直前に4℃で一夜解凍した。FCSを含まない新鮮な培地250μlに5000個の細胞を再懸濁し、多様な刺激の存在下で冷却ピペットチップを用いて氷上でマトリゲル500μlと混合した。全サンプルをSCIDマウスの後肢に皮下移植した。1週間後、マウスを屠殺し、試験のためにマトリゲルプラグを回収した。
【0043】
内皮−尿細管サンドイッチ共培養
多様な刺激と共にインキュベートしたHMECの尿細管生存率に対する効果を試験するために、共培養モデルを適用した。HMECを24ウェルプレートで24時間、標準培養条件で播種した。次いでHMECを24時間または48時間、10μg/mlのEPC由来MVの存在下または非存在下で、血清欠乏に付した。上記条件下でインキュベーションした後、培地を吸引し、接着細胞を1×PBSで念入りに洗浄し、RPMIで1:1に希釈した増殖因子減少マトリゲル;(BD)200μlを上覆いとして用い、37℃で30分間ゲル状にさせた。その後、1×10個の尿細管細胞を核ウェルに加えてサンドイッチ共培養物を完成させた。共培養物をさらに24または48時間、血清欠乏条件でインキュベートした。インキュベーションの終了時に、尿細管細胞をXTT利用アッセイ(Sigma)に供した。データは3つの異なる実験の平均±SDとして与えられる。
【0044】
免疫蛍光および免疫組織化学
以下の抗体を用いて細胞蛍光分析を実施した:全てFITCまたはPE結合の、抗CD133−1モノクローナルAb(mAb)(Miltenyi Biotec)、抗CD44および抗ヒトHLAクラスI mAb(Sigma)、抗CD31および抗CD105mAb(Serotec Inc, Oxford, United Kingdom)、抗KDR mAb(R&D System, Minneapolis, Minnesota);抗Muc−18 mAb(Chemicon International, Temecula, California)、抗CD29、抗CD33、抗CD34、抗CD45、抗CD73、抗CD90、抗CD117 mAb(Becton Dickinson, San Jose, California)。抗VEカドヘリンmAbはGuido Tarone(University of Torino)から提供を受けた。FITCまたはPEマウス非免疫アイソタイプIgG(Dako, Copenhagen, Denmark)を対照として用いた。チャンバースライドで培養し、2%ショ糖を含む4%パラホルムアルデヒドで固定し、所望によりHepes-Triton-X 100バッファーで透過処理した細胞で、間接免疫蛍光法を実施した。液体窒素で急速凍結し、3μm切片に切断し、2%ショ糖を含む3.5%パラホルムアルデヒドで固定したヒトまたはマウス組織でも免疫蛍光法を実施した。次の抗体を用いた:抗Na−Clコトランスポーター、抗アミノペプチダーゼAおよび抗アルカリホスファターゼポリクローナルヤギAb(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, California)、ウサギ抗閉鎖帯(ZO)−1ポリクローナルAb(Santa Cruz Biotechnology)、ヤギ抗−VWFおよびウサギ抗Pan-Cytokeratin Ab(Sigma)、抗ビメンチンおよび抗EカドヘリンmAb(Dako)、抗EMA mAb(Chemicon International)、ポリクローナルウサギ抗PAX2 Ab(Covance, Princeton, New Jersey)、PE結合抗CD133(Miltenyi Biotec)および抗増殖細胞核抗原(PCNA)、FITC結合抗HLA Iおよび抗カルビンジンD−28K mAbs(Sigma)。対照マウス、ウサギまたはヤギ非免疫免疫グロブリンを対照として用いた。FITC結合抗マウス、ウサギまたはヤギIgG(Sigma)を、所望により、二次抗体として使用した。10%緩衝化ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した組織で、既報のとおり免疫組織化学を実施した(7)。Leika TCS SP2モデルの共焦点顕微鏡(Heidelberg, Germany)を用いて共焦点顕微鏡観察を実施した。核を染色するためにHoechst 33258染色剤(Sigma)を加えた。
【0045】
統計的分析
異なる実験方法の全てのデータは、平均±SDとして与えられる。統計的分析は、適切であるとき、多重比較試験によるANOVAで実施した。
【0046】
結果
MVの特徴
EPC、MSCおよびCD133腎前駆細胞由来のMVについて、1、2、4および6μmビーズをサイズの内部標準としたFACS分析を用いて、サイズを測定したところ、幹/前駆体細胞の別集団由来のMVが同様のサイズを有することが示された。観察したMVの大多数は1μmビーズに対応するFSCシグナル未満であった(図1A)。走査型および透過型電子顕微鏡観察によってMVが球状の形態を有することが示され、サイズが0.2〜1μmであることが確認された(図1B)。画像は作動距離15〜25mm、加速電圧20〜30kVで二次電子を介して得られた。FACS分析によって、対応する幹/前駆体細胞の細胞膜によって発現されることが知られている接着分子の発現をMVが示した(図1C)。EPC、MSC由来MVおよび常在腎臓CD133前駆体は、CD44、CD29の発現について共通しているが、ICAM−1、α4インテグリンおよびα5インテグリンの発現については異なっていた。これらの結果は、MVが表面で、それらの起源である細胞の細胞膜の多様な決定因子を発現することを示している。接着分子の発現は標的細胞中のMVの取り込みに役立つことが既に示されている。
【0047】
MVの腎細胞に対するインビトロ生物学的効果
尿細管損傷は虚血性または毒性急性腎不全(ARF)の特徴である。さらに、傍尿細管毛細血管の内皮細胞の損傷は、虚血後の腎臓損傷の拡大に寄与することが示されている(16)。したがって、我々は幹細胞から放出されたMVの近位尿細管上皮細胞系(PTEC)に対する効果を調べた。
【0048】
マウス間葉系幹細胞(mMSC)由来MVがシスプラチンによって誘導されるPTECのアポトーシスを阻害する
我々は、漸増用量のマウス間葉系細胞(mMSC)由来MVと共にPTECをインキュベートすると、ビークルのみと共にインキュベートした対照と比較して、シスプラチンによって誘導されるアポトーシスが顕著に減少することを見出した。RNaseと共にMVをインキュベートすると、アポトーシスに対する耐性が破壊された。得られた結果を図2に示す。アポトーシスは、0.5μm/mlのシスプラチンと共に24時間インキュベートした後のアポトーシス細胞の割合として、TUNELアッセイによって評価した(黒棒)。PTECをビークルのみと、または多様な用量のMVと共にインキュベートした。 斜線付の棒はシスプラチンで処理しない対照を示す。結果は3回の実験の平均±1SDとして表す。Dunnetの多重比較試験による分散の分析を行った:* p<0.05 MV対ビークルのみ。
【0049】
MVで処理したPTECによるPCNA(増殖細胞核抗原)の発現が細胞増殖の誘導を示す
mMSC由来MVはPTECによるPCNAの発現を誘導する。5×10細胞/ウェルの尿細管細胞を10μg/mlのMVまたはビークルと共に、DMEM+5%のBSA中で24時間インキュベートして、PCNAの発現を共焦点顕微鏡で評価した。得られた結果は、無血清培地で培養したPTEC中のPCNAについて染色された核が存在せず、mMSC由来MVと共にインキュベートした後、PTECによって核がPCNAを発現することが示された。3回実験を実施し、同様の結果が得られた。
【0050】
成人腎前駆細胞CD133+由来MVはシスプラチンによって誘導されるアポトーシスを阻害でき、尿細管上皮細胞の増殖を補助する
多様な用量(1、5および10μg/ml)の成人腎前駆細胞CD133由来MVと共にPTECをインキュベートすると、ビークルのみと共にインキュベートした対照と比較して、シスプラチンによって誘導されるアポトーシスが顕著に阻害された(図3)。アポトーシスは、0.5μm/mlのシスプラチンと共に24時間インキュベートした後のアポトーシス細胞の割合として、TUNELアッセイによって評価した(黒棒)。斜線付の棒はシスプラチンで処理しない対照を示す。結果は3回の実験の平均±1SDとして表す。Dunnetの多重比較試験による分散の分析を行った:* p<0.05 MV対ビークルのみ。
【0051】
ヒト腎前駆細胞CD133由来MVはPTECの細胞増殖を誘導し得る
2種の異なる用量(15および30μm/ml)のヒト腎臓前駆細胞CD133由来MVと共にPTECを48時間インキュベートすると、対照と比較して尿細管上皮細胞の細胞増殖が顕著に促進された。96ウェルプレート中8000細胞/ウェルに10μMのBrdUを加え、ビークルのみまたは多様な用量のMVと共にDMEM中でインキュベートした。次いで細胞を0.5Mのエタノール/HClで固定し、ヌクレアーゼと共にインキュベートしてDNAを消化した。抗BrdUペルオキシダーゼ結合mAbを用いてDNAに取り込まれたBrdUを検出し、可溶性発色基質で可視化した。吸光度をELISAリーダーで405nmで測定した。結果は3回の実験の平均±1SDとして表す。結果を図4に示す。
【0052】
MVとインキュベートすることで、インキュベーションの48時間後にPTECによるPAX2およびビメンチン発現が誘導された。これは未成熟表現型を獲得したPTECの脱分化を示している
ヒト腎臓前駆細胞CD133由来MVはPTECの脱分化を誘導する。5×10細胞/ウェルのPTECをビークルのみまたは10μm/mlのヒト腎臓前駆細胞CD133由来MVと共にDMEM+5%BSA中で24時間インキュベートして、PAX2およびビメンチンの発現を共焦点顕微鏡で評価した。
【0053】
MSCまたはHLSC由来MVで処理したヒト肝細胞の細胞増殖およびアポトーシスアッセイ
間葉系幹細胞(MSC)または成人肝臓幹細胞(HLSC)由来MVはヒト肝細胞の増殖を補助できる;
多様な用量(10、25および50μm/ml)のMSCまたはHLSC由来MVと共に肝細胞を72時間インキュベートすると、ビークルのみと共にインキュベートした対照と比較して細胞増殖が促進された。96ウェルプレート中5000細胞/ウェルに10μMのBrdUを加え、ビークルのみまたは多様な用量のMVと共にDMEM中でインキュベートした。次いで細胞を0.5Mのエタノール/HClで固定し、ヌクレアーゼと共にインキュベートしてDNAを消化した。抗BrdUペルオキシダーゼ結合mAbを用いてDNAに取り込まれたBrdUを検出し、可溶性発色基質で可視化した。吸光度をELISAリーダーで405nmで測定した。結果は3回の実験の平均±1SDとして表す。結果を図4に示す。Dunnetの多重比較試験による分散の分析を行った:* p<0.05 MV対ビークルのみ。結果は、MSCまたはHLSC由来MVが成熟ヒト肝細胞の増殖をインビトロで刺激することができることを明確に示しており、これは肝臓再生における潜在的な効果を示唆している。
【0054】
HLSC由来MVで処理したヒト尿細管細胞のアポトーシスアッセイ
既報の通りTUNELアッセイを用いて、ヒト尿細管上皮細胞のアポトーシスを評価した。簡潔には、アポトーシスの誘導のためのポジティブコントロールとしてシスプラチン(2μg/ml)を用いて、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)介在ニック末標識(TUNEL)アッセイ分析に細胞を供した。細胞をPBSで洗浄し、PBS中1%パラホルムアルデヒド pH7.4で固定し、TdT酵素、ジゴキシゲニン−dNTPと共にインキュベートし、抗ジゴキシゲニン−FITC抗体およびPBS中ヨウ化プロピジウム(1μg/ml)で対比染色した。アポトーシス細胞のFITC標識化DNAフラグメントを倒置UV顕微鏡で可視化した。ビデオカメラを用いて得られた画像のデジタル分析によって細胞数を計測し、アポトーシス陽性細胞を10倍の倒置顕微鏡視野で計測した合計細胞数の割合として表した。このアッセイで用いたMVの濃度は、48時間で、10、15、30μg/mlであった。
図6は10、15および30μg/mlのHLCS由来MVで刺激したヒト尿細管上皮細胞のアポトーシスのパーセンテージを示す。HLSC由来MVは用量依存的に、初代細胞培養物であるヒト尿細管上皮細胞の増殖を刺激し、これはわずか数代に限られていた。増殖を刺激したMV濃度は10、15、30μg/mlであった。シスプラチンによってアポトーシスを誘導した場合、HLCS由来MVは、増殖の刺激と同じ濃度でヒト尿細管上皮細胞のアポトーシスを阻害する。
【0055】
EPC由来MVはPTECに対して増殖性および抗アポトーシス性効果を示した
PTECを漸増用量のMV(1〜5μg/ml)と共にインキュベートした。MVはPTECにおいて、インキュベーションの12時間後に増殖性効果を誘導し、24〜48時間後にさらに上昇した(図7)。MV誘導性増殖は1μg/mlの用量で顕著に上昇し、用量50μg/mlでピークに達した(図7)。図7はPTECに対するMV誘導性増殖効果を示す。PTECの時間経過増殖のXTT利用アッセイからのデータ。MVは、検討した全ての時点で、増殖の顕著な用量依存的上昇を誘導した(12、24、48時間)。データは3回の異なる実験の平均±SDとして表す。Newman-Keuls多重比較試験によるANOVAを実施した。
【0056】
我々は、多様な有害条件で培養したPTECに対するMVの抗アポトーシス効果を試験した。TUNELアッセイで示されるとおり(図8)、MVは血清欠乏条件で、5μg/mlのシスプラチン、1μg/mlのFK506または炎症性サイトカイン(20ng/mlのTNF−アルファおよび20ng/mlのIFN−ガンマ)と共に培養したPTECのアポトーシスを顕著に低下させた。図8は実施したTUNELアッセイの結果を示し、血清欠乏(ビークル/FCS−)、シスプラチン(CIS 5μg/ml)、FK506(1μg/ml)または炎症性サイトカイン(敗血性:20ng/mlのTNF−アルファおよび20ng/mlのIFN−ガンマ)に曝露したPTECに対する10μg/mlのMVの抗アポトーシス効果を示す。データは3回の異なる実験の平均±SDとして表す。Newman-Keuls多重比較試験によるANOVAを実施した。
【0057】
遺伝子アレイ分析によって、MVがミトコンドリア分子をコードする遺伝子およびデスレセプターアポトーシス経路の発現を調節することが示された。特に、MVは抗アポトーシスBcl−xL、Bcl−2およびFLIPの上方制御およびFas、Fas−リガンド(Fas−L)、Bax、TNFおよびTRAILのような多様な前アポトーシス遺伝子の下方制御を誘導した。さらに、炎症性損傷において腎尿細管上皮細胞で過剰発現されるCD40遺伝子が下方制御されたが、これはPTECに対するMVの抗炎症性作用を示唆している。CD40の下方制御はFACS分析によって確認した。図9は、10μg/mlのMVの存在下または非存在下での、シスプラチン(5μg/ml)で刺激したPTECの遺伝子アレイ分析の結果を示す。PTECのアポトーシスに関与する遺伝子の発現の変化率。結果は、シスプラチンのみに対するシスプラチン+MVに曝露したPTEの遺伝子発現の濃度測定分析間の比として示される。ハウスキーピング遺伝子(ベータアクチン、GAPDH)を濃度測定分析のためのレファレンスとして用いた。3回実験を行ったが、同様の結果が得られた。
【0058】
10ng/mlのMVとインキュベートすると、シスプラチン処理iTECにおいてカスパーゼ−3−8および9活性の顕著な低下が誘導された。これらの結果は、ミトコンドリア経路および受容体介在性アポトーシス経路の同時的阻害を示した。図10は、24時間シスプラチンで処理したPTECに対する、10μg/mlのMVによって誘導されるカスパーゼ−3−8および9活性の顕著な低下を示すELISAアッセイの結果を示している。データは3回の異なる実験の平均±SDとして表す。Newman-Keuls多重比較試験によるANOVAを実施した。
【0059】
我々は、PTECの上層からマトリゲルによって分離された内皮細胞層によって特徴付けられる共培養モデルにおける、PTEC生存に対する内皮生産因子のパラクリン作用を評価した。10μg/mlのMVの存在下または非存在下で、24時間または48時間の血清欠乏によって内皮損傷を誘導し、次いで増殖因子を減少させたマトリゲルを層状にして、これにPTECを播種した。MVの非存在下では、PTECの生命力は24および48時間後に顕著に低下した。逆に、MVでの内皮刺激によって、生命力の低下が防止された。これらの結果は、PTEC生存を促進する内皮細胞のパラクリン作用をMVが刺激したことを示している。内皮−PTEC共培養モデルにおけるPTECの生命力の評価に関する得られた結果は図11に示す。内皮損傷は10μg/mlのMVの存在下または非存在下で、24時間または48時間の血清欠乏によって誘導し、次いで増殖因子を減少させたマトリゲルを層状にして、これにPTECを播種した。データは3回の異なる実験の平均±SDとして表す。Newman-Keuls多重比較試験によるANOVAを実施した。
【0060】
10μg/mlのMVの存在下、FCSの非存在下で24時間培養したヒトPTECにおける、間葉系マーカーであるビメンチンおよび胚腎臓に存在するタンパク質であるPax−2の発現に対するMVの効果を試験した。MVはPTECにおいてビメンチンおよびPax−2の発現を誘導した。5×10細胞/ウェルのPTECを24時間、10μg/mlのEPC由来MVと共にDMEM+5%BSA中でインキュベートし、PAX2とビメンチンの発現を共焦点顕微鏡で評価した。
【0061】
MV誘導性PTEC移動
フィブロネクチン、タイプIVコラーゲンまたはマトリゲル被覆プレート上に播種した散在PTECの運動性を評価した。条件は、PTECが移動して尿細管完全性を回復するであろう微小環境を模倣した。散在PTECの低速度顕微鏡観察によって細胞移動に対するMVの効果を試験した。PTECの自発的運動性に対応するベースライン移動速度は観察の全期間(12時間)にわたって静置して得られ、3〜4μm/時間を超えることはなかった。MVは自発的移動の顕著な上昇を誘導し、これは2時間でピークとなり、全細胞外マトリックスにおいて、全観察期間を通じて顕著に高いままであった。図12は細胞外マトリックスで培養したPTECの移動に対するMVの効果を示す。10μg/mlのMSPとのインキュベーションによって、予め20μg/mlのヒトフィブロネクチン、タイプIVコラーゲンまたはマトリゲルで被覆したプレート上で培養したPTECの移動が上昇した。データは3回の異なる実験の平均速度(μm/時間)±SDとして与えられる。
【0062】
MVはシスプラチン処理したPTECの上皮単層の機能的完全性を維持する
経上皮耐性分析で評価したように、シスプラチン処理PTECにMVを加えると細胞極性が回復した。図13は経上皮耐性(TER)のシスプラチン誘導性変化に対するMVの効果を示す。細胞極性のマーカーであるPTEC TERの異なる実験条件での分析。シスプラチン(CIS 5μg/ml)はTER値を有意に低下させるが(*p<0.05 CIS対ビークル)、MV(10または50μg/ml)は正常TER値を回復した。データは3回の異なる実験の平均TER値±SDとして与えられる。TER値は実験に使用した膜面積について正規化した。Newman-Keuls多重比較試験によるANOVAを実施した。
【0063】
さらに、MVの存在下で、シスプラチン処理PTECは、アルカリホスファターゼおよびアミノペプチダーゼAのような十分に分化した細管に典型的な分子の発現を保存しており、このことは、これらの細胞のFITC標識化アルブミンを取り込む維持された能力の原因と思われる現象である。MV処理PTECによる細胞内受容体メガリンの発現は、5μg/mlのシスプラチンまたは5μg/mlのシスプラチン+10μg/mlのMVの存在下でのメガリン発現を比較して、免疫蛍光法で試験した。倍率100倍。核を0.5mg/mlのHoechstで対比染色した。3回実験を実施したが、同様の結果が得られた。
【0064】
図14はPTECによるFITC−アルブミンの取り込みに対するMVの効果を示す。タンパク質取り込みは、PTEC単層を50mg/mlのFITC−結合ヒトアルブミンと共に、37℃で2時間インキュベートした後に試験した。FITC−アルブミン負荷の後、PTECを氷冷PBSで念入りに洗浄し、FACSで分析した。黒塗りの曲線は対照(白抜きの曲線)に対するアルブミンの取り込みを示す。Aは5μg/mlのシスプラチン処理PTECによるFITC−アルブミンの取り込みを示し;Bは10μg/mlのMVで刺激した5μg/mlのシスプラチン処理PTECによるFITC−アルブミン取り込みを示す。Kolomogorov Smirnov統計分析を実施した。3回の異なる実験を実施したが、同様の結果が得られた。
【0065】
MVはマトリゲル被覆プレート上で培養したPTECの分岐形態形成およびインビボでの尿細管形成を誘導する
PTECをFCSの非存在下、マトリゲル被覆プレート上で24時間培養すると、嚢胞様構造が形成された。10μg/mlのMVを加えると、PTECの分岐形態形成がもたらされた。マトリゲルプラグ中PTECをSCIDマウスに皮下注射した。これらの細胞は自発的に少数の尿細管様構造を形成し、これは10μg/mlのMVの存在下で顕著に増加した。対照的に、シスプラチンはアポトーシスを惹起する分岐形態形成を完全に阻害し、これはMV刺激によって回復された。10μg/mlのMVの存在下または非存在下でのマトリゲル被覆プレート上で培養したPTECの形態形成を評価した。24時間後、非刺激PTECは嚢胞様構造を形成したが、MVは散乱および分岐形態形成を誘導した。SCIDマウスにマトリゲル中で皮下注射したPTECのインビボでの尿細管形成も評価した。非刺激細胞はごく少数の尿細管様構造を形成し、これは10μg/mlの存在下では顕著に増加した。
【0066】
インビボでのMVの尿細管形成効果は用量依存的であった。図15はMV誘導性インビボ尿細管形成の定量化を示す。尿細管様構造の計測を、多様な用量のMVで処理し、SCIDマウスに皮下注射したPTECの10個の非連続マトリゲル切片(倍率100倍)で実施した。マウスを7日後に屠殺し、マトリゲルプラグを蛍光顕微鏡で観察した。データは、3回の異なる実験で計測した尿細管様構造数/視野(倍率100倍)の平均として表す。PTECの栄養因子であるマクロファージ刺激タンパク質(MSP 10ng/ml)をポジティブコントロールとして用いた。
【0067】
PTEC単層へのリンパ球の接着の低下
サイトカイン処理PTECは、インビボでARF中に生じる炎症性応答を模倣したリンパ球接着を促進した。サイトカインで刺激したPTECにMVを加えると、PTECへのリンパ球接着を顕著に阻害したが、これはMVの抗炎症性作用を示唆している。
【0068】
図16:PTEC単層をビークルのみまたは炎症性サイトカイン(20ng/mlのTNF−アルファおよび20ng/mlのIFN−ガンマ)と共に、10μg/mlのMVの存在下または非存在下で6時間インキュベートした。PTEC単層を念入りに洗浄した後、1×10個のPKH2標識化ヒトリンパ球を加え、わずかに振盪しながら1時間、37℃でインキュベートした。非接着細胞をPBSで3回洗浄して除去し、接着細胞数を倍率100倍で蛍光顕微鏡で計測して、細胞数/視野として表した。データは3回の異なる実験の平均±SDである。
【0069】
EPC由来MVは細胞増殖およびインビトロでの糸球体内皮細胞(GEC)の血管新生を誘導できる
EPC由来MVは細胞増殖およびインビトロでの糸球体内皮細胞(GEC)の血管新生を誘導できた。GECを多様な用量のEPC由来MV(10、15および30μg/ml)と共に48時間インキュベートすると、対照と比較して、GECの細胞増殖を顕著に促進した。図17に示すとおり、GEC(96ウェルプレート中8000細胞/ウェル)に10μMのBrdUを加え、ビークルのみまたは多様な用量のMVと共にDMEM中でインキュベートした。次いで細胞を0.5Mのエタノール/HClで固定し、ヌクレアーゼと共にインキュベートしてDNAを消化した。抗BrdUペルオキシダーゼ結合mAbを用いてDNAに取り込まれたBrdUを検出し、可溶性発色基質で可視化した。吸光度をELISAリーダーで405nmで測定した。結果は3回の実験の平均±1SDとして表す。
さらに、多様な用量のMV(10、15および30μg/ml)はインビトロで、マトリゲル上で6時間インキュベートしたGECの血管新生を誘導した。
【0070】
腎臓修復に対するMVのインビボ生物学的効果
MVは実験的に誘導した急性尿細管損傷の再生を促進する
C57/BL6マウスの成体骨髄由来のMSC由来MVが急性腎損傷からの回復を促進できるか決定するため、メスC57/BL6マウスに高張グリセロールを筋肉内注射して、ARFを誘導した。グリセロールは組織、特に腎臓に曝露することによって、筋融解、そしてそれによる溶血を多くのミオグロビンおよびヘモグロビンに誘導した。このマウスモデルにおいて、血清クレアチニンおよびBUNによって測定されるように、腎臓機能がグリセロールの投与後1〜4日で損なわれる。今回の条件では、7.5ml/kgのグリセロールの筋内注射によって、血清クレアチニンおよびBUNの顕著な上昇が誘導され、これは3日目でピークに達し、10日目に低下し、21日目に正常化した。グリセロール投与の3日後、MSC由来MVまたは1×10個のMSCの静脈内注射によって、生理食塩水を与えたグリセロール処置マウスと比較して、5日目で血清クレアチニンおよびBUNが顕著に低下した(図18および19)。
【0071】
図18はMVがグリセロール処置マウスを腎機能破壊から保護したことを示す。処置なし(黒棒)または3日目に6μgのMV(白抜き棒)もしくは1×10個のMSC(斜線付の棒)で処置したグリセロール誘導性ARFを有するマウスの血中尿素窒素(BUN)の評価。データは3回の独立した実験の平均±SDとして表し、ANOVAを実施した:*p<0.05。
【0072】
図19は、処置なし(黒棒)または3日目に6μgのMV(白抜き棒)もしくは1×10個のMSC(斜線付の棒)で処置したグリセロール誘導性ARFを有するマウスにおける、クレアチニンの評価に関する。データは3回の独立した実験の平均±SDとして表し、ANOVAを実施した:*p<0.05。
【0073】
グリセロール誘導性ARFを有するマウスにおいて、5日目で顕著な尿細管上皮損傷が明らかであった。グリセロール誘導性ARFを有するマウスにおいて観察された形態的変化は、刷子縁の喪失および尿細管上皮細胞の広範な壊死および尿細管硝子様円柱の形成を含む。グリセロール処置マウスにMVを注射したとき、尿細管再生の局面に関して尿細管病変は重症度が低く、管が刷子縁を再発現した。
【0074】
MVは実験的に誘導した糸球体損傷の再生を促進する
ヒトEPC由来MVが糸球体再生を誘導し得るかを決定するために、急性抗体介在性糸球体損傷によって特徴付けられる糸球体腎炎のThy−1モデルを用いた:このモデルにおいて、抗Thy−1抗体は糸球体毛細血管の減少を伴ったメサンギウム融解および炎症性細胞の蓄積を誘導する。糸球体損傷はタンパク尿に関連している。糸球体腎炎(GN)は、6週齢のメスLewisラットの大腿静脈に250μg/100g体重の抗Thy−1抗体(Ab)を0日目に静脈内投与して誘導した。対照動物には抗Thy1.1 Abの代わりに同量の生理食塩水を注射した。既にタンパク尿が検出できた2日目に、30μgのEPC由来MVを反対側の大腿静脈に注射した。対照動物には同量のビークル(Hepes修飾M199培地と1%のDMSO)のみを注射で投与した。タンパク尿、血清および尿クレアチニン/尿素(24時間尿採取)を毎日評価した。マウスを4日目、7日目、14日目に屠殺した。各実験グループは9匹のラットを含む。
【0075】
図20に示すとおり、MVの投与によってThy−1 GNを有するラットのタンパク尿が顕著に減少した。組織学的分析は、Thy−1 GNを有するラットにおける微小動脈瘤(microaneurismatic)形成および炎症性細胞の存在を伴った、毛細血管壁の広範囲にわたる損傷の存在が示された。糸球体毛細血管の減少はまた、内皮マーカーであるRECA抗原についての染色の減少によっても示された。さらに、尿細管腔におけるタンパク質構造物による近位および遠位尿細管の広範な損傷が観察された。MVで処理したラットの腎臓の組織学的試験は、4日目での糸球体および尿細管の損傷の減少ならびに7日目でRECA抗原および尿細管細胞刷子縁の正常な分布が検出されるように、糸球体毛細血管の再生が示された。MV処置による毛細血管損傷の阻害は、MV処置ラットにおける無傷の内皮細胞層の存在および糸球体上皮細胞足突起の正常な分布を示した電子顕微鏡観察によって確認された。対照的に、MVで処置しなかったラットにおいて、炎症性細胞による損傷内皮の食作用に関連した内皮細胞の膨潤および脱離が観察された。さらに、足突起の展退が存在した。
結論として、MVによるThy−1 GNの処置は、タンパク尿、糸球体炎症性病変を阻害し、糸球体毛細血管再生および回復を促進した。
【0076】
結論
得られた実験結果は、内皮前駆体、間葉系、肝および腎幹細胞のような異なる起源の幹細胞に由来するMVは、腎成熟細胞に生物学的シグナルを伝達することができ、これによってアポトーシス刺激に対する耐性ならびに移動能および増殖能と共に、未成熟表現型を獲得する標的細胞の脱分化が生じることを示唆している。常在細胞の脱分化、それらの移動および増殖は、腎尿細管および糸球体損傷後の修復に必須である。したがって、幹細胞由来MVは、多様な腎尿細管および糸球体病的状態における再生両方に提唱され得る。幹細胞よりもMVを用いる利点は、幹細胞の潜在的な腫瘍原性効果の回避、免疫抑制の必要の回避および限定されないインビトロでの生産の可能性である。
【0077】
参考文献
1. Bonventre JV, Weinberg JM. Recent advances in the pathophysiology of ischemic acute renal failure. J Am Soc Nephrol. 2003 Aug;14(8):2199-210.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮/上皮再生用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞(MV)の使用。
【請求項2】
医薬が腎損傷の処置用である、請求項1の使用。
【請求項3】
医薬が急性腎不全(ARF)の処置用である、請求項2の使用。
【請求項4】
医薬が肝損傷の処置用である、請求項1の使用。
【請求項5】
医薬が急性肝不全(AHF)の処置用である、請求項4の使用。
【請求項6】
細胞増殖抑制剤によって誘導されるアポトーシスの阻害用医薬の製造のための、幹細胞由来微小胞(MV)の使用。
【請求項7】
細胞増殖抑制剤が、パクリタキセル、レナリドマイド、ポマリドマイド、エピルビシン、5FU、スニチニブ、ラパチニブ、カネルチニブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、レナリドマイド/デキサメタゾン、ポマリドマイド/デキサメタゾン、カルボプラチン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、ドセタキセル、ビノレルビンおよびそれらの何れかの組合せから成る群から選択される、請求項6の使用。
【請求項8】
微小胞の起源である幹細胞が、内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)、腎前駆細胞CD133、成人肝臓幹細胞(HLSC)およびそれらの何れかの組合せから成る群から選択される、請求項1〜7の何れかの使用。
【請求項9】
医薬が、静脈内輸液による投与に適した投与形態である、請求項1〜8の何れかの使用。
【請求項10】
医薬が、30〜120μg/kg体重の微小胞の投与に適した投与形態である、請求項1〜9の何れかの使用。
【請求項11】
薬学的に許容されるビークルまたは希釈剤中に有効量の1種以上の幹細胞由来微小胞(MV)を含む、医薬組成物。
【請求項12】
微小胞の起源である幹細胞が、内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)、腎前駆細胞CD133、成人肝臓幹細胞(HLSC)およびそれらの何れかの組合せから成る群から選択される、請求項11の医薬組成物。
【請求項13】
静脈内輸液による投与に適した投与形態である、請求項11または12の医薬組成物。
【請求項14】
30〜120μg/kg体重の微小胞の投与に適した投与形態である、請求項11、12または13の医薬組成物。
【請求項15】
インビトロで、損傷しまたは傷害を受けた組織または臓器の内皮/上皮を再生する方法であって、有効量の幹細胞由来微小胞(MV)で損傷しまたは傷害を受けた組織または臓器を処置することを含む方法。
【請求項16】
微小胞の起源である幹細胞が、内皮前駆細胞(EPC)、間葉系幹細胞(MSC)、腎前駆細胞CD133、成人肝臓幹細胞(HLSC)およびそれらの何れかの組合せから成る群から選択される、請求項15の方法。
【請求項17】
インビボで、損傷しまたは傷害を受けた組織または臓器の内皮/上皮を再生する方法であって、有効量の幹細胞由来微小胞(MV)をそれを必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項18】
腎損傷の処置のための、請求項17の方法。
【請求項19】
急性腎不全(ARF)の処置のための、請求項18の方法。
【請求項20】
肝損傷の処置のための、請求項17の方法。
【請求項21】
急性肝不全(AHF)の処置のための、請求項20の方法。
【請求項22】
微小胞が静脈内輸液によって投与される、請求項17〜21の何れかの方法。
【請求項23】
微小胞が30〜120μg/kg体重の量で投与される、請求項22の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2011−502142(P2011−502142A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531647(P2010−531647)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【国際出願番号】PCT/IT2007/000753
【国際公開番号】WO2009/057165
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(597075904)フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【Fターム(参考)】