説明

搬送ヒータを有する熱サイクルシステム

診断プロセスの間の効率的な熱サイクル及び光学的検出を許容する熱サイクルシステムを提供するために、透明基板(11a,11b)と加熱エレメント(12a,12b)とを有する少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)が設けられており、試料を収容するためのチャンバ(30)が設けられており、該チャンバ(30)が、少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)に隣接して配置されており、チャンバ(20)の少なくとも一部が、少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)の透明基板(11a,11b)と整合させられている透明な領域(31)を有している、熱サイクルシステムが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱サイクルシステム及び診断装置に関する。さらに、本発明は、DNA増幅プロセスにおける熱サイクルシステムの使用に関する。
【0002】
分子診断増幅において、血液、便等の試料からのDNAは、DNAの量を検出限界よりも増大させるために、増幅若しくは複製される。様々な増幅プロセスが存在する。さらに、診断用途において、診断用途の間に監視又は分析される試料又は混合物の加熱又は冷却を制御するために熱サイクルプロセスが必要とされる。特に、多くの増幅プロセスのためには熱サイクルが必要である。なぜならば、増幅プロセスの間の種々異なるステップは、それぞれ異なる温度において行われるからである。増幅プロセスから生じたDNAは、しばしば、例えば増幅プロセスにおける蛍光体を使用することによって、光学的に検出される。
【0003】
さらに、一般的な診断用途のためにも、監視又は分析すべき試料又は混合物を、使用者又は監視装置によって光学的に検査する必要がある。その結果、一般的な診断用途、特にDNA増幅プロセスにおいて極めて効率的な熱サイクルシステム及び光学式検出が必要とされる。
【0004】
米国特許出願公開第2008/0032347号明細書には、加熱及び冷却を監視するための温度検出エレメントが記載されている。システムは、分析すべき混合物が入ったチャンバを収容するためのカートリッジを有している。カートリッジは、センサ層と、伝熱層と、加熱層とを有する装置と接触させられる。
【0005】
国際公開第2001/057253号には、ヒータの間にチャンバが配置されており、光が、チャンバの透明の側部を通過してチャンバ内に又はチャンバから結合されるような熱サイクルシステムが記載されている。
【0006】
発明の概要
従って、本発明の課題は、診断プロセスの間に効率的な熱サイクル及び光学式検出を許容する熱サイクルシステム及び加熱システムを提供することである。
【0007】
前記課題は、独立請求項の特徴によって解決される。好適な実施の形態は従属請求項に示されている。
【0008】
本発明は、分析すべき試料が入ったチャンバに隣接して配置された加熱装置を有する熱サイクルシステムを提供するという思想に基づく。加熱装置は、透明基板と、熱を提供するための加熱エレメントとを有しており、熱は、透明基板によって、チャンバ及び分析すべき試料に伝導される。
【0009】
透明基板により、使用者又は監視装置は、支持板の透明基板を介して観察することができ、これにより、チャンバ内の試料を監視することができる。さらに、分析すべき試料が入ったチャンバは、透明な少なくとも1つの部分を有している。チャンバの透明な領域は加熱装置の透明基板と整合させられている。これにより、診断プロセスの間に試料を光学的に検出又は監視することが達成される。従って、基板及びチャンバの透明な領域の透明度は、試料の光学的な検出又は監視が可能であるようなものであるべきである。熱サイクルシステムの加熱エレメントにより、チャンバ及びチャンバに入れられた試料の確実な熱サイクルが提供される。さらに、加熱エレメントと透明基板とを組み合わせることにより、加熱エレメントと透明基板との間の極めて効率的な熱接触が形成される。加熱エレメントは、透明基板の側部、特に透明基板の上側又は下側に配置されていてよい。さらに、加熱エレメントは、加熱エレメントによって発生される熱の伝熱効率を高めるために透明基板内に設けることができる。
【0010】
好適には、透明基板及びチャンバの透明な領域は、300〜1000nmの波長範囲において80%よりも高い透過率を有している。
【0011】
発明の好適な実施の形態において、熱サイクルシステムは、光を光源からチャンバ内へ結合するために及び/又はチャンバから出てくる光を透明基板を介して検出器へ結合するように配置されている。この実施の形態は、透明基板を介する光の結合が、例えば光をチャンバ内へ及びチャンバからチャンバのマイナー面(平坦な箱の形状を成したそのチャンバのより小さな面であって、より大きな面、即ちメジャー面に対するもの)を介して結合するのと比較して、チャンバに対する択一的な光学的な境界面を提供するという利点を有する。従来技術において行われているように、チャンバのマイナー面を介して光を結合することは、チャンバのメジャー面を自由にし、チャンバ内の試料を加熱するためにヒータと接触させる。従来技術によるチャンバは、平坦な形状を成していてよく、これにより、ヒータを用いるメジャー面を介した迅速な熱サイクルと、マイナー面を介した光学的境界面とを提供する。しかしながら、本発明によれば、透明基板のメジャー面、又は実際には透明基板のあらゆる面を、光をチャンバ内へ及び/又はチャンバから結合するための光学的境界面として使用することができる。これは、熱サイクルシステムに含まれてよい光源及び/又は検出器をチャンバに対して配置する際の設計上の自由度を高める可能性を提供する。発明によって提供される別の可能性は、チャンバのマイナー面を介して可能であるよりも多くの光をチャンバから収集することである。基板は、チャンバから届く光を検出器に向かって散乱させるための散乱中心をも有していてよい。
【0012】
発明の好適な実施の形態において、光源からの光及び/又はチャンバから出てくる光は、透明基板のメジャー面及び透明な領域を介して結合される。この実施の形態は、チャンバが透明基板のマイナー面、すなわち側壁を介して周囲に光学的に結合されている場合に可能であるよりも、光源からのより多くの光をチャンバに結合することができかつ/又はチャンバから出てくるより多くの光を検出器に結合することができるという利点を有する。さらに、このジオメトリは、例えば光源及び検出器をチャンバの1つの側に有することによって及び光源からの光をチャンバへ及びチャンバから検出器へ案内するためにダイクロイックミラー等のビームスプリッティングエレメントを用いることによって、ヒータ、試料チャンバ、光源、及び検出器のコンパクトな配列を可能にする。さらに、このジオメトリは、複数のチャンバに関連して1つの光源ユニット及び/又は1つの検出器ユニットを使用することができるという利点を有する。光をチャンバ内へ及び/又はチャンバから結合するためにチャンバのマイナー面を使用する場合に該当する、光源と、チャンバと、検出器との厳密な整合を必要とすることなく、光源ユニット及び/又は検出器ユニットを一方のチャンバから次のチャンバへ移動させることができる。
【0013】
発明の好適な実施の形態において、チャンバは第1及び第2の加熱装置の間に配置されており、第1の加熱装置はチャンバの上側に、第2の加熱装置はチャンバの下側に配置されている。上側又は下側の加熱装置の内の少なくとも一方は、透明基板を有しており、チャンバの対応する側も、透明基板を有する加熱装置の透明基板に対して整合させられた透明な領域を有している。これにより、例えば蛍光を加熱装置の透明基板及びチャンバの透明な領域を介して熱サイクルシステムの一方の側から光学的に検出することができる。さらに、この実施の形態は、透明基板なしに低価格の材料によって加熱装置の他方を製造する可能性を提供する。好適には、透明基板なしに実現された加熱装置は、チャンバ及びチャンバ内の試料を加熱するための加熱エレメントを有している。
【0014】
しかしながら、幾つかの用途は、両方が透明基板を有する上側及び下側の加熱装置を必要とすることがある。つまり、両側からチャンバの内容物を光学的に検出することができる。これにより、チャンバの個々の透明な領域がどこに配置されているかに配慮することなく、上側及び下側の加熱装置の間にチャンバを配置することができる。
【0015】
好適には、透明基板は、120W/cm・Kよりも低い熱伝導率を有している。さらに、低い比熱値を有する透明基板材料を提供することは有利である。通常、熱加熱システムのためには、20℃において117W/cm・Kの良好な熱伝導率を提供する基礎材料として、アルミニウムが使用される。チャンバ内の試料の極めて効率的な加熱を提供するために、支持板の熱伝導率は、少なくともアルミニウムの熱伝導率と同じであるべきである。
【0016】
さらに、比熱値は加熱エレメントの熱的質量を決定するので、低い比熱値を有することが好ましい。低い熱的質量は、迅速な熱サイクルを提供する。アルミニウムのための比熱値は、約0.9J/g・Kである。このような要求を有しかつ透明な材料は、サファイアである。サファイアは、20℃において、アルミニウムの熱伝導率よりも低い100W/cm・Kの熱伝導率を有している。サファイアのための比熱値は、0.7J/g・Kである。従って、サファイアは、良好な熱伝導率及び低い比熱値という利点と、透明特性とを併せ持っている。
【0017】
透明材料と上記特性とを併せ持つことにより、光学的に監視することと共に試料の迅速な熱サイクルが可能である。熱サイクルと光学的検出とを同時に行うことにより、評価分析時間を著しく短縮することができる。さらに、熱サイクルを最初に行い、次いであらゆる光学信号を検出する場合には、これは、光学的検出等のために熱サイクルシステムからチャンバを取り外す等の付加的な操作ステップなしに極めて容易に行うことができる。
【0018】
加熱装置は、透明基板及び加熱エレメントのみを有していてよい。しかしながら、透明な基板を支持する支持板を提供することもでき、この場合、加熱エレメントを、両者、つまり支持板及び/又は透明領域に配置することができる。また、支持板を不透明に実現することができる。しかしながら、加熱装置のための2つの材料を有する場合、両材料の熱伝導率は同じであるべきである。
【0019】
サファイアから形成された透明基板を有する熱サイクルシステムを提供することにより、液体試料の熱サイクルと、DNA増幅から生じる蛍光信号の光学的検出とを同時に行うことを必要とするリアルタイムPCR(rtPCR)を形成することができる。これにより、DNA増幅速度は、熱サイクルシステムの効率及び速度により、高められる。従って、本発明の熱サイクルは、評価分析時間を短縮するために極めて迅速な熱システムを提供する。さらに、このような熱サイクルシステムは、熱サイクルプロセスと同時に又は熱サイクルプロセスに続いて光学検出を行うことができるように、チャンバ、特にチャンバに入れられた液体試料への極めて良好な光学的アクセスを提供する。
【0020】
別の好適な実施の形態においては、加熱エレメントも、透明な材料、例えば酸化インジウムから形成されている。これにより、加熱エレメントは、分析すべき試料から生じる蛍光信号の検出を妨害することはない。加熱エレメントを、透明基板とチャンバとの間に配置することができるか、又は透明基板、例えば透明基板の溝に一体化させることができる。選択的に、加熱エレメントは、透明基板の、チャンバとは反対の側に配置されてよい。しかしながら、透明基板を支持する支持板を有する場合、加熱エレメントを、支持板のそれぞれの側に配置することができるか、支持板に一体化させることもできる。
【0021】
好適には、上側及び下側の加熱装置の加熱エレメントは同じ形状を有している。
【0022】
さらに、チャンバ内の試料の熱サイクルプロセスを制御するために、熱サイクルシステムは、少なくとも1つの温度センサを有しており、この温度センサは、チャンバのプロセス温度を検出するために、透明基板の温度を検出するために加熱装置に結合されている。
【0023】
センサは、透明基板の溝、チャンバと透明基板との間、又はチャンバとは反対の側に配置することができる。さらに、センサは、チャンバを収容したカートリッジに一体化することができる。透明基板の溝に温度センサを提供することによって、より優れた温度検出が達成される。
【0024】
チャンバ内の試料を加熱するために使用される加熱エレメントは、好適には、抵抗加熱エレメントとして実現される。加熱エレメント(例えば熱サイクルシステムにおけるヒータの内の少なくとも1つにおける)は、透明基板の溝に埋設されたワイヤとして実現することができるか、又は平坦な形状を有することができ、透明基板とチャンバとの間又はチャンバとは反対の側に配置される。加熱エレメントは、好適には、薄膜ヒータとして実現される。しかしながら、加熱エレメントは、加熱ワイヤとして実現することもでき、この加熱ワイヤは、加熱エレメントの良好な熱接触を提供するために支持板の溝内に配置される。加熱エレメントは、リングとして形成されており、これにより、リングの内側に基板窓を形成し、この基板窓は、チャンバ内の試料を光学的に検出するために及びチャンバ内の試料の光学信号を光学的に検出するために、使用される。基板窓は、チャンバの透明領域に整合させられているべきである。
【0025】
好適には、チャンバは上面と下面とを有しており、上面又は下面のうちの少なくとも一方は、透明箔として実現された透明領域を有している。透明箔は、試料へ励起信号を送ることを許容し、試料から生じた光学信号を検出することを許容する。さらに、透明箔は、弾性の透明箔から形成されている。従って、チャンバを加熱することにより、箔は、加熱装置の方向に撓まされる。しかしながら、撓みは透明基板によって制限されることによりチャンバ内の圧力を増大させ、熱サイクルプロセスをさらに加速させ、透明基板とチャンバとの間の熱接触を増大させる。さらに、チャンバ内の気泡の形成がこれによって回避される。
【0026】
熱サイクルシステムは、さらに、加熱装置を保持するための、特に加熱エレメント及び/又は透明基板を保持するための、少なくとも1つのホルダを有している。ホルダは、基板窓への自由な光学的アクセスを提供するための開口を有している。
【0027】
ホルダは、好適には、支持板及び/又は支持板をそれぞれ縁部において保持する。好適には、ホルダは、チャンバとは反対の側に配置された環状の加熱エレメントに接触している。つまり、加熱エレメントは、ホルダの下側に配置されており、透明基板及びチャンバの方向にホルダによって押し付けられる。所要の力を提供するために、ホルダは機械的なばねに結合されており、このばねは、透明基板及び/又は加熱エレメントをチャンバに対して押し付けており、これにより、加熱装置とチャンバとの間の機械的接触及び熱的接触を増大させる。
【0028】
有利には、熱サイクルシステムは、チャンバを収容するためのカートリッジを有している。
【0029】
課題は、さらに、少なくとも1つの透明基板と加熱エレメントとを有する加熱装置によって解決され、この場合、透明基板は、励起信号と、励起信号に対する応答とのうちの少なくとも1つに対して透明である。
【0030】
つまり、例えば、試料は加熱装置の下側又は上側に配置されている。励起する場合、試料を、光学的励起信号によって励起することができるか、又は使用者によって監視することができ、励起信号の応答も、加熱装置の透明基板を介して受信することができる。これにより、検出又は監視と並行して試料の効率的な加熱を行うことができる。これは、同時に又は順次に行うことができる。熱サイクルシステムのための上述のような好適な実施の形態は、加熱システムに適用することもできる。
【0031】
課題は、さらに、上述の複数の熱サイクルシステムを有するカートリッジを有する診断装置によって解決される。好適には、カートリッジは、複数のチャンバを収容するための複数のスペースを有しており、チャンバは、従って、上側及び下側の加熱装置の間に配置されている。
【0032】
さらに、課題は、DNA増幅プロセス、特にPCRプロセスにおける上述の熱サイクルシステムの使用によって解決される。好適には、上述の熱サイクルシステムは、熱サイクルと光学的検出とを同時に行うことを必要とするリアルタイムPCRプロセスにおける使用に適している。
【0033】
透明基板のための材料としてサファイアを使用することの別の利点は、サファイアは極めて硬く、これにより長寿命を保証することである。さらに、サファイアは極めて高い化学的不活性を有しており、単純なクリーニングプロセスを許容する。さらに、サファイアは大きな波長範囲を提供し、多数の染色ラベルのための蛍光信号の光学的検出を許容する。本発明の熱サイクルシステムは、特にDNA増幅プロセッサのために適用可能である。しかしながら、熱サイクルシステムは、一般的な分子診断の分野、化学的診断の分野、ケア診断のポイント、及び生体分子診断研究において使用することもできる。熱サイクルシステムは、バイオセンサ、遺伝子及びタンパク質表示配列、及び環境センサ、及び熱品質センサのために使用することができる。
【0034】
発明の別の態様によれば、試料を診断分析するための方法が提供され、この方法は、分析すべき試料が入ったチャンバを、透明基板及び加熱エレメントを有する少なくとも1つの加熱装置と接触させるステップと、加熱エレメントによって熱を発生させてその熱を透明基板を介してチャンバに伝導させることによってチャンバを熱サイクルするステップと、熱サイクルステップに続いて又は熱サイクルステップと同時にチャンバ内の試料を光学的に検出するステップとを含む。
【0035】
以下に発明の様々な典型的な実施の形態が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による熱サイクルシステムを示す断面図である。
【図2】本発明による加熱ワイヤを有する支持板を示す図である。
【図3】本発明による平坦な加熱エレメントを示す図である。
【図4】サファイアの光透過率を示すグラフである。
【0037】
実施の形態の詳細な説明
図1には、本発明による熱サイクルシステムの断面図が示されている。第1の加熱装置10aと、第2の加熱装置10bとが設けられている。第1の加熱装置10aと、第2の加熱装置10bとの間には、チャンバ30が配置されている。チャンバ30は、部分的にのみ示されたカートリッジ40によって収容されている。
【0038】
図1に示された実施の形態の第1及び第2の加熱装置10a,10bは、サファイアから形成された透明基板11a,11bを有している。すなわち、透明基板11a,11bは完全に透明である。図示されていないが、透明基板の中央において透明基板を支持する支持板を有することができる。つまり、支持板は透明基板を包囲している。支持板は、異なる材料から形成することができ、透明又は不透明であることができる。
【0039】
個々の透明基板11a,11bの温度を検出するために、チャンバのそれぞれの側に温度センサ25が配置されている。しかしながら、1つの温度センサのみを有していれば十分である。温度センサ25はカートリッジ40の内部に配置することもできる。
【0040】
加熱エレメント12a,12bは、平坦であり、図3に示されているように環状である。平坦な加熱エレメント12a,12bは、加熱装置10a,10bのそれぞれの、チャンバとは反対の側に配置されている。しかしながら、加熱エレメントのその他の形態も可能である。さらに、加熱エレメント12a,12bの位置は、図1に示された実施の形態とは異なってもよい。加熱エレメント12a,12bを、透明材料の内部に、好適には透明基板に形成された溝に完全に埋設することができる。
【0041】
加熱エレメントが透明材料から形成されていると、加熱エレメントは、図1に示されているよりも大きな面積を有することもでき、これにより、加熱エレメント12a,12bと透明基板11a,11bとのより良好な接触及び熱交換を提供する。加熱エレメント12a,12bのうちの少なくとも一方が透明であると、加熱エレメントは基板窓26に干渉する場合がある。なぜならば、光学的検出が依然として可能であるからである。
【0042】
加熱エレメント12a,12b及び透明基板11a,11bはそれぞれ保持エレメント50a,50bによって支持されている。保持エレメント50a,50bは、透明基板11a,11bと、一方では加熱エレメント12a,12bとの間、他方ではチャンバ30との間の確実な機械的接触を提供する。これにより、加熱エレメント12a,12bによって発生された熱は、加熱装置10a,10bの透明サファイア基板11a,11bによって、チャンバ30に入れられた試料を加熱するためにチャンバ30に確実に伝動される。
【0043】
チャンバは、弾性特性を有する透明箔として実現された透明領域31を有している。分析すべき試料が入ったチャンバ30を加熱すると、箔は透明基板11a,11bの方向に押し付けられ、これにより、加熱装置10a,10bとチャンバ30との接触を増大させる。
【0044】
加熱エレメント/透明基板とチャンバ30との間のより良好な熱伝導及び接触のための圧力は、保持エレメント50a,50bをそれぞれチャンバ30に向かって押し付けるばね51を使用することにより増大させることができ、これにより、透明基板11a,11bとチャンバ30との間の締りばめを提供する。
【0045】
図2には、本発明による加熱装置の別の実施の形態が示されている。図2に示された加熱装置10は、ワイヤとして実現された加熱エレメント12を有しており、この加熱エレメント12は、環状に形成されており、抵抗加熱への電気的接続を提供するための個々の端子を有している。さらに、図2による透明基板11は、基板窓26の内部に配置されたセンサ25を有している。
【0046】
図3は、本発明による加熱エレメント12の択一的な実現を示している。加熱エレメント12は、平坦な形態で実現されており、図1に示されているように透明基板の、チャンバとは反対の側に直接配置されている。平坦な加熱エレメント12と支持板10との間の大きな接触面積に基づき、加熱エレメント12から透明基板11への良好な伝熱が提供される。図2に示されているように加熱エレメントとしてワイヤを使用する場合、確実な伝熱を有するために透明基板11に溝を提供することが好ましい。図示されていないが、別の好適な解決手段は、加熱エレメントを透明基板11に一体化若しくは埋設することにより、加熱エレメントと透明基板11との間の熱接触を高めることである。
【0047】
図1に示された温度センサ25は、好適には基板窓26の内部に配置されており、その場合、温度を確実に測定するために、温度センサは有利には透明基板11の溝に配置されている。しかしながら、温度を測定するために、チャンバ内を覗くための視野若しくは光学的アクセスを妨害しない限り、チャンバの近傍のあらゆる位置が使用されてよい。
【0048】
図4には、大きな波長範囲に亘るサファイア材料の光透過率が示されており、これは、複数の染色ラベルの蛍光信号の光学的検出を許容する。好適には加熱装置のために使用されるようなサファイア材料は、極めて短い波長から極めて長い波長まで極めて良好な透過率を提供する。さらに、サファイアは、長寿命を保証する極めて高い硬さを提供し、サファイアの化学的不活性は単純なクリーニングを許容する。
【0049】
概して、透明基板とチャンバの透明領域とは、透明であり、励起光及び結果として生じる蛍光のうちの少なくとも一方を通過させる。つまり、このような光学的信号は、試料を励起させるために又は検出器に到達するために加熱装置を通過することができなければならない。
【0050】
少なくとも1つの加熱エレメントを制御するために及びセンサによって測定された温度値を受け取るために、制御装置が設けられている。制御装置は、さらに、試料の光学的励起及び試料の光学的検出を制御してよい。
【0051】
別の態様において、特別なチャンバを有することなく加熱装置を使用することもできる。この場合、分析すべき試料は単に加熱装置の下側又は上側に配置される。加熱装置を通過して、特に透明基板を通過して励起信号を試料へ送ることによって、上述のように、加熱装置の近傍の試料を励起及び加熱させ、監視又は検出することができる。
【0052】
本発明の熱サイクルシステム及び診断装置は、好適には、DNAの増幅プロセスのためのリアルタイムPCRに完全に適している。本発明をDNA増幅プロセスに適用することにより、熱システムの速度、ひいては効率が高まる。さらに、DNA増幅から生じた蛍光信号を検出するために、DNA増幅プロセスの間の光学的検出が可能である。本発明の加熱装置において加熱エレメントと共に透明なサファイア基板を使用することによって、PCRチャンバの内容物を容易に光学的に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱サイクルシステムであって、
透明基板(11a,11b)と加熱エレメント(12a,12b)とを有する少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)が設けられており、
試料を収容するためのチャンバ(30)が設けられており、該チャンバ(30)が、少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)に隣接して配置されており、前記チャンバ(20)の少なくとも一部が、透明な領域(31)を有している形式のものにおいて、
少なくとも作動中に、透明な領域(31)が、少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)の透明基板(11a,11b)と整合させられていることを特徴とする、熱サイクルシステム。
【請求項2】
熱サイクルシステムが、透明基板(11a,11b)を通過して、光源からの光をチャンバ(30)内に結合するように及び/又はチャンバ(30)から出てくる光を検出器へ結合するように配置されている、請求項1記載の熱サイクルシステム。
【請求項3】
光源からの光及び/又はチャンバ(30)から出てくる光が、透明基板(11a,11b)及び透明な領域(31)のメジャー面を通過して結合される、請求項2記載の熱サイクルシステム。
【請求項4】
第1の加熱装置(10a)と、第2の加熱装置(10b)とが設けられており、チャンバ(30)を第1の加熱装置(10a)と第2の加熱装置(10b)との間に配置するように、第1の加熱装置(10a)がチャンバ(30)の一方の側に配置されており、第2の加熱装置(10b)が、チャンバ(20)の反対側に配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項5】
前記透明基板(11a,11b)が、120W/cm・K未満の熱伝導率及び/又は0.9J/g・K未満の比熱値を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項6】
前記透明基板(11a,11b)が、サファイア基板を含んでいる、請求項1から5までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項7】
前記加熱エレメント(12a,12b)が、透明であり、特に酸化インジウムから形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項8】
前記加熱エレメント(12a,12b)が、透明基板(11a,11b)に直接接触している、請求項1から7までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項9】
前記加熱装置(10a,10b)が、透明基板(11a,11b)の温度を検出するための少なくとも1つのセンサ(25)を有しており、該センサ(25)が、好適には透明基板(11a,11b)の溝に配置されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項10】
前記チャンバ(30)が、上面及び下面を有しており、上面及び下面のうちの少なくとも一方が、透明箔(31)を含んでいる、請求項1から9までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項11】
前記加熱装置(10a,10b)を保持するための少なくとも1つの保持エレメント(50a,50b)が設けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載の熱サイクルシステム。
【請求項12】
前記保持エレメント(50a,50b)が、透明基板(11a,11b)及び/又は加熱エレメント(12a,12b)をチャンバ(30)に対して押し付けるためのばね(51)に結合されている、請求項11記載の熱サイクルシステム。
【請求項13】
少なくとも1つの透明基板(11a,11b)と加熱エレメント(12a,12b)とを有しており、前記透明基板が、励起信号及び該励起信号に対する応答のうちの少なくとも1つに対して透過性であることを特徴とする、加熱装置。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項記載の複数の熱サイクルシステムを有するカートリッジ(40)が設けられた診断装置。
【請求項15】
試料を診断分析する方法において、
分析すべき試料が入ったチャンバ(30)を、透明基板(11a,11b)と加熱エレメント(12a,12b)とを有する少なくとも1つの加熱装置(10a,10b)に接触させるステップと、
加熱エレメント(12a,12b)によって熱を発生させてその熱を透明基板(11a,11b)を介してチャンバ(30)に伝導させることによってチャンバ(30)を熱サイクルするステップと、
チャンバ内の試料を、熱サイクルするステップに続いて又は熱サイクルするステップと同時に、光学的に検出するステップとを含むことを特徴とする、試料を診断分析する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−510807(P2012−510807A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539125(P2011−539125)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055134
【国際公開番号】WO2010/064160
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(510089557)ビオカルティ ソシエテ アノニム (10)
【氏名又は名称原語表記】Biocartis SA
【住所又は居所原語表記】Quartier Innovation EPFL−G, CH−1015 Lausanne, Switzerland
【Fターム(参考)】