説明

搬送用ベルト

【課題】ロール径の小さいロールにベルトを掛けて放置した場合にもロールの癖の残りが抑制される搬送用ベルトを提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトであって、ベルト内径が30〜150mm、ベルトの引張弾性率が2200〜3500MPaであることを特徴とする搬送用ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機やレーザービームプリンターあるいはファクシミリなどの画像形成装置に用いられる紙搬送(電子写真方式の画像形成装置におけるトナーの転写プロセスや定着プロセスでの紙搬送を含む)や、インクジェットプリンター装置あるいはバブルジェットプリンター装置の紙搬送や紙乾燥等に用いられる搬送用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置等の画像形成装置に用いられるベルトのうち、紙搬送用やトナー転写用などのベルトには高い圧力が作用し、トナー定着用等のベルトには高い温度と圧力が作用する。また、定着工程又は乾燥工程後の紙搬送用ベルトには高い温度が作用する。従って、ベルトには耐熱性と高い機械的特性が要求されることから、ベルトの素材としてはポリイミド樹脂が好ましく、ポリイミド樹脂を用いてフィルム化し、接合して管状とする耐熱性樹脂ベルトが提案されている(特許文献1)。
ところで、近年、画像形成装置の小型化が進み、例えばインクジェットプリンターで用いる搬送用ベルトのサイズも小さくなってきている。かかる搬送用ベルトはロールに掛け渡して使用するが、装置の小型化に追従して、ロール径も小さくなってきており、通常そのロール径は5〜30mmである。かかる小径のロールに該ベルトを掛け渡して長時間静止状態で放置しているとロールの癖がベルトに残り、この癖のついた部分でインクジェットヘッドとベルトのギャップが変動し、画像不良や走行性不良が発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−291348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ロール径の小さいロールにベルトを掛けて放置した場合にもロールの癖の残りが抑制される搬送用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリイミド樹脂を含むベルトの引張弾性率を比較的高めの特定範囲に調整することにより、ロール径の小さいロールにベルトを掛けて放置してもロールの癖の残りが起こりにくくなることを知見し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることで、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の通りである。
【0006】
(1)ポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトであって、ベルトの表面抵抗率が常用対数値6〜15logΩ/□であり、かつ、ベルトの引張弾性率が2200〜3500MPaであることを特徴とする搬送用ベルト。
(2)ベルト内径が30〜150mmである、上記(1)記載の搬送用ベルト。
(3)ベルト内面の長手方向に、蛇行防止ガイド部材が設けられていることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載の搬送用ベルト。
(4)直径が5〜30mmのロールに掛け渡して使用される、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の搬送用ベルト。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトはロール径の小さいロールにベルトを掛けて放置した場合にもロールの癖が残らず、或いは、極めて軽減されることから、放置後にベルトを再び動作させても、優れた平坦性と走行性を確保できる。また、紙吸脱着性に優れ、紙送り精度が良好であり、従って、高画質の画像形成に有利に作用する。さらにベルトの両端または片側に蛇行防止ガイド部材が設けられた場合、蛇行せず安定した走行が可能で耐久性に優れた搬送用ベルトとなる。また、ベルト内径を小径化していることから、装置の小型化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るベルトをインクジェットプリンターの紙搬送用ベルトとして組み込んだ図。
【図2】本発明に係るベルトに蛇行防止ガイド部材を取り付けた例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係る搬送用ベルト(以下、単に「本発明のベルト」とも略称する)は、ポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトであって、ベルトの表面抵抗率が常用対数値6〜15logΩ/□であり、かつ、ベルトの引張弾性率が2200〜3500MPaであることを主たる特徴とする。
【0011】
ポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトとは、ポリイミド樹脂を主成分とし、さらに導電性材料を含むベルトである。また、当該ベルトは、通常シームレスの管状形態である。その用途としては、複写機やレーザービームプリンターあるいはファクシミリなどの画像形成装置に用いられる紙搬送(電子写真方式の画像形成装置におけるトナーの転写プロセスや定着プロセスでの紙搬送を含む)や、インクジェットプリンター装置あるいはバブルジェットプリンター装置の紙搬送や紙乾燥等に用いられる。本発明の実施態様の一例として、本発明に係るベルトをインクジェットプリンターの紙搬送用ベルトとして組み込んだものを図1に示す。ロール5の回転で、搬送用ベルト1が回転し、用紙3が搬送される。搬送用ベルト1は帯電器4によって電荷が与えられチャージアップし、用紙3を吸着、搬送して印字する。
【0012】
本発明のベルトには、公知のポリイミド樹脂が使用可能であるが、耐熱性および機械強度の観点から芳香族ポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、酸成分であるテトラカルボン酸二無水物と、アミン成分であるジアミンの略等モルを適当な溶媒に溶解して反応させ、ポリアミド酸溶液を作製し、溶媒を乾燥後に更に高温で重合(イミド転化)させることで得ることができる。
【0013】
テトラカルボン酸二無水物成分としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略することがある。)、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0014】
ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDEと略することがある。)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(以下、PDAと略することがある。)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノーt−プチル)トルエン、ビス(p一β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p一β−メチル一σ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロへキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルへプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルへプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0015】
本発明のベルトは引張弾性率が2200〜3500MPaに設定される。かかる特定範囲の引張弾性率を有することで、直径が例えば5〜30mmというような小径のロールで張設された場合でも、静止状態で放置された後にロールの癖がベルトに残留することがなく、或いは、残留が極めて軽減されて、ベルトの平坦性、走行性に優れ、高速連続通紙にも耐えることができる。すなわち、引張弾性率が3500MPaを超えるとロールの癖がベルトに残留しやすくなり、この癖が残るためにベルトの平坦性、安定した走行性が得られにくくなる。一方、引張弾性率が小さくなりすぎ、2200MPa未満であると、ベルト駆動時に裂けやすくなり、また、インクジェットの搬送用ベルトとして用いた場合、インクの乾燥速度を上げるために加熱ロール、分離ロール、搬送ロール等で張設され、更に100℃を超える加熱ロールに常時接した状態で使用した場合、ベルトが破断しやすくなる。
【0016】
ベルトの引張弾性率は、主として、ポリアミイミド樹脂の酸成分であるテトラカルボン酸成分モノマーおよびジアミン成分モノマーの種類、これらの成分比、製造時の加熱工程における温度等によって調整される。なお、後述するように、ベルトの機械的強度や表面抵抗調整のためにベルトには導電性フィラーが配合されるが、かかる導電性フィラーの配合量によってもベルトの引張弾性率は変動する。従って、本発明においては、導電性フィラーの配合量との兼ね合いから、ポリアミイミド樹脂の組成を決定することが重要である。
【0017】
より詳しく説明すれば、重合反応の際のモノマー濃度(溶媒中における酸成分、例えばテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の濃度)は、通常、5〜30重量%程度が好ましい。また、反応温度は80℃以下、特に5〜50℃に設定することが好ましく、反応時間は5〜10時間程度に設定することが好ましい。ポリアミド酸溶液のポリマー成分は、本発明の目的を達成されるならば、上記の酸成分、例えばテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分を共重合したものでもブレンドしたものでも構わない。
【0018】
好適な具体例としては、例えば、ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物成分(テトラカルボン酸成分モノマー)がBPDA、ジアミン成分がPDAおよびDDEである共重合ポリイミドである場合、ジアミン成分であるPDAとDDEの組成モル比がベルトの引張弾性率に大きく影響し、ベルトの引張弾性率を2200〜3500MPa範囲に調整するには、PDAとDDEの組成モル比を2:8〜0:10の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
引張弾性率の測定は、ベルトの長手方向に3号形ダンベル(JIS K 6301)の形状にベルトを打抜き、オリコエンテックUTM1000テンシロン(オリエンテック社製)を用いて、引張速度100mm/min、チャック間30mmの条件で測定する。
【0020】
本発明のベルトは、ベルトの表面抵抗率が常用対数値6〜15 logΩ/□であることが重要である。紙搬送用ベルトは、ベルトに電荷を与えチャージアップし、紙を吸着、紙を搬送して印字し、印字された紙がベルトから分離されるように駆動されるが、ベルトの表面抵抗率が常用対数値6〜15 logΩ/□の範囲にあることで、紙吸脱着性に優れ、紙送り精度が良好となり、高画質化に有利に作用する。すなわち、表面抵抗率が、常用対数値6未満であると電荷が逃げてチャージアップが困難になって、紙がベルトに吸着しにくくなり、また、常用対数値15を超えると印字された紙をベルトから分離することが困難となる。
【0021】
上記表面抵抗率の測定は、ハイレスタにUP MCP−HT450(三菱化学社製、プローブ:UR)を用い、印加電圧500V、10秒間の測定条件にて、25℃、60%RHの条件で行い、ベルト表面の8箇所を測定し、平均値を常用対数値とする。
【0022】
ベルトの表面抵抗率の調整のために、ベルトには導電性フィラーが配合され、一般的には、ポリイミド樹脂固形分に対し3〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%の範囲内で調整される。
【0023】
導電性フィラーのベルト中への導入は、具体的には、導電性フィラーを分散させた導電性フィラー分散液をポリイミド樹脂に配合することによって行われる。また、導電性フィラーとしては、カーボンブラックが好ましく、カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。これらのカーボンブラックの種類は、目的とする導電性により適宜選択することができ、中抵抗から高抵抗域(表面抵抗率の常用対数値8〜14 logΩ/□(体積抵抗率の常用対数値8〜14 logΩ・cm)における制電性の点から、特にチャンネルブラックやファーネスブラックが好適に用いられ、酸化処理、グラフト処理等の酸化劣化を防止したものが特に好適に使用される。
【0024】
具体的には、ファーネスブラックとして、デグサ社製の「Special Black 550」、「Special Black 350」、「Special Black 250」、「Special Black100」、「Printex 35」、「Printex 25」、三菱化学社製の「MA 7」、「MA 77」、「MA 8」、「MA 11」、「MA 100」、「MA 100R」、「MA 220」、「MA 230」、キャポット社製、「MONARCH 1300」、「MONARCH 1100」、「MONARCH 1000」、「MONARCH 900」、「MONARCH 880」、「MONARCH 800」、「MONARCH 700」、「MOGUL L」、「REGAL 400R」、「VULCAN XC−72R」等が挙げられ、チャンネルブラックとしてデグサ社製の「Color Black FW200」、「Color Black FW2」、「Color Black FW2V」、「Color Black FW1」、「Color Black FW18」、「Special Black 6」、「Color Black S170」、「Color Black S160」、「Special Black 5」、「Special Black 4」、「Special Black 4A」、「Printex 150T」、「Printex U」、「Printex V」、「Printex 140U」、「Printex 140V」等が挙げられる。
【0025】
有機極性溶媒としては、カーボンブラックの分散性を高めるものであれば特に制限されないが、カーボンブラックの分散と重合反応の溶媒とを兼用できるN,N−ジアルキルアミド類が有用であり、例えば低分子量のものとしてN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは、蒸発、置換又は拡散によりポリアミド酸及びポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。また、上記以外の有機極性溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略することがある。)、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併せて使用しても差し支えない。さらに、上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独でもしくは併せて混合することもできる。
【0026】
本発明に用いるカーボンブラック分散液には、前記カーボンブラックと前記有機極性溶媒との親和性を高めるために分散剤をさらに添加することができる。分散剤としては、本発明の目的にかなうものであれば特に限定されないが、例えば高分子分散剤が挙げられる。高分子分散剤としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアジド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピペリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等が挙げられ、単独又は複数の高分子分散剤を添加することができる。また、この他に本発明の目的の範囲内で、高分子材料、界面活性剤、無機塩等の分散安定化剤を用いることもできる。
【0027】
カーボンブラックの分散方法には公知の分散方法を適用でき、例えば、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、超音波分散等の方法が挙げられ、これらの分散方法を適宜選択して分散作業を行う。カーボンブラックの分散状態を調べる方法は、特に制限されないが、例えば顕微鏡にて目視観察する方法が挙げられる。
【0028】
このようにして得られたカーボンブラック分散液に、酸成分(例えばテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体)とジアミン成分を溶解、重合させてカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を作製する。
【0029】
本発明で用いられるポリアミド樹脂の調整に当たっては、触媒を使用することが好ましく、触媒としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。これらの中でも、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール(以下、2PZと略することがある。)、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が特に好ましく用いられる。
【0030】
上記触媒の使用量は、ポリアミド酸前駆体溶液のポリアミド酸1モル当量に対して0.04〜0.60モル当量、好ましくは0.05〜0.4モル当量である。触媒の添加量が0.04等量モル以下では触媒の効果が十分ではなく、また0.4当量以上添加しても効果は変わらない。
【0031】
上記の反応により得られたアミド酸溶液は、その溶液粘度が上昇するが、そのまま加熱、撹拌を行うと溶液粘度が低下する。この現象を利用して、アミド酸溶液を所定の粘度に調整することができる。このときの加熱温度は50〜90℃が好ましい。
【0032】
このように得られたカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、B型粘度計で1〜1000Pa・S(25℃)とすることが好ましい。これ以外の場合は、遠心成形の際、均一に展開することが困難であり、ベルトの厚みバラツキが生じる原因となりうる。
【0033】
本明細書中、ベルト内径とは内周長を円周率で割った値をいう。ベルト内径の測定方法は、ベルトを切り開いて円周方向の端部の長さをノギスにより測定する。ベルト内径は30〜150mmであることが好ましく、40〜120mmであることがより好ましい。当該範囲内とすることで、搬送装置の小型化に寄与できる。
前記カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を用いて、本発明の搬送用ベルトは次のように作製される。まず、30〜150mmの円筒金型を用意する。円筒金型内に前記溶液を供給し、回転遠心成形法により金型内周面に遠心力により均一に展開する。製膜後、加熱により溶媒を除去した後、さらに300〜450℃の高温で加熱することにより、閉環イミド化反応を進行させた後、金型から取り出す。この金型への加熱は均等に行う必要がある。不均等であると、溶剤蒸発時においてもカーボンブラックの凝集バラツキが発生し、ベルトの抵抗値にバラツキが生じるからである。均等に加熱する方法としては、金型を回転させながら加熱する熱風循環の改善等の方法や、低温で投入し、昇温速度を小さくする等の方法がある。
【0034】
さらに、本発明は図2に示すようにベルト1の長手方向内面側に、蛇行防止ガイド部材6が設けられていてもよい。蛇行防止ガイド部材を設けることでベルトが蛇行せず安定した走行が可能である。蛇行防止ガイド部材は、ベルトの端部に沿って、その片端側または両端側に設けることが好ましく、片端側または両端側の近傍であってもよい。走行安定性の観点から、蛇行防止ガイド部材は両端またはその近傍に設けることが好ましい。
【0035】
蛇行防止ガイド部材は、例えばベルトに接着することによって設置することができる。当該蛇行防止ガイド部分をローラの外周に設けた溝に案内することにより、上記の走行安定性を得ることができる。
【0036】
蛇行防止ガイド部材は、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等、ロールの駆動に追従する材料が好ましいが、特に限定するものではない。蛇行防止ガイド部材の幅や長さは、ベルトの形状や大きさに応じて適宜設定される。蛇行防止ガイド部材の断面形状が長方形である場合、その厚み(ガイドとしての高さに相当する。)は、蛇行防止効果や耐久性等の観点から、0.5〜3mm程度が好ましい。蛇行防止ガイド部材の長さは、好適にはベルトの長手方向の全長であることが好ましい。
【0037】
ベルトへの蛇行防止ガイド部材の設置を粘着剤または接着剤によって行う場合、粘着剤または接着剤としては、アクリル系、シリコン系、ゴム系等が挙げられ、蛇行防止ガイド部材とベルト部材の材質によって適宜選択される。ベルトと蛇行防止ガイドを接着または粘着する方法は、公知の技術が適用できる。
【0038】
本発明の搬送用ベルトは、複写機、印刷機等の画像形成装置中での紙等のシート状物の搬送等に使用でき、特にインクジェットプリンター等の紙搬送用ベルトとして好適に使用できるが、ベルト搬送法を採用する方式であれば何れの方式でも使用可能である。
【0039】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例等における評価は下記のようにして行った。
【実施例】
【0040】
実施例1
877gのNMP中に53.1g(ポリイミドに対し22重量%)のデグサジャパン社製乾燥カーボンブラックスペシャルブラック4をポールミルで室温にて6時間分散混合した。このNMPにBPDA158.1gとPDA5.8g、DDE96.8gをモル比1:9(PDA:DDE)で溶解し、窒素雰囲気中において、75℃で6時間反応させて冷却し、室温で触媒2PZ8.8g(ポリアミド酸1モル当量に対して0.2モル等量)を60分間攪拌混合し、110Pa・Sポイズの触媒添加カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を得た。金型内径80mm、長さ500mmの内面に上記触媒添加カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液をディスペンサーで厚さ170μmに塗布後、1500rpmで10分間回転させ均一な塗布面を得た。次に、20rpmで回転させながら、金型の外側より100℃の熱風を30分間あてた後、その後320℃まで2℃/分の昇温速度で昇温し、320℃で15分保持した後冷却し、金型内面からベルトを離型し、内径79.9mmのポリイミド樹脂製ベルトを得た。該ベルトに蛇行防止ガイドとして、厚さ1.0mm、幅5mmのウレタンゴム(タイガースポリマー製、タイプレンTR100−50)を両面テープで、ベルト内面側の両端部の位置に貼り付けた。ベルトの表面抵抗率を測定したところ、常用対数値12.0 logΩ/□であった。厚さは75μmで、引張弾性率は2900MPaであった。得られたベルトをインクジェットプリンターの紙搬送用ベルトとしてロール径12mmにベルトを掛け渡して装着し、カラーインク、記録シートとしてA4版の用紙を用いて、速度6ppmで3分間印字した。その後、室温、湿度50%Rhの環境下で12時間静止した後、上記と同様に再び印字したところ鮮明で良好な画像が得られ、ベルトにロール跡の癖は見られなかった。
【0041】
比較例1
モル比7:3(PDA:DDE)で溶解した以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。得られたベルトは、厚さ76μm、内径80mm、引張弾性率は3700MPaで表面抵抗率は常用対数値12.2 logΩ/□であった。このベルトに実施例1と同様に得られた搬送用ベルトをインクジェットプリンターの紙搬送用ベルトとしてロール径12mmにベルトを掛け渡して装着し、カラーインク、記録シートとしてA4版の用紙を用いて、速度6ppmで3分間印字した。その後、室温、湿度50%Rhの環境下で12時間静止した後、上記と同様に再び印字したところ、ベルトにロール跡の癖が残り、この部分の画像ににじみ、かすれ、色抜けの異常が見られた。
【0042】
比較例2
実施例1のカーボンブラックの添加量をポリイミドに対し25重量%とした以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。得られたベルトは、厚さ75μm、内径80mm、引張弾性率は3000MPaで表面抵抗率は常用対数値5.5 logΩ/□であった。実施例1と同様に得られたベルトをインクジェットプリンターの紙搬送用ベルトとしてロール径12mmにベルトを掛け渡して装着し、カラーインク、記録シートとしてA4版の用紙を用いて、速度6ppmで印字を開始したが、紙がベルトに吸着せず搬送できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかる搬送用ベルトは複写機やレーザービームプリンターあるいはファクシミリなどの電子写真装置に用いられる紙搬送用、トナー転写用あるいはトナー定着用などのベルトまたはインクジェットプリンター装置あるいはバブルジェットプリンター装置の紙搬送や紙乾燥等に使用される。
【符号の説明】
【0044】
1 搬送用ベルト
2 インクジェットヘッド
3 用紙
4 帯電器
5 ロール
6 蛇行防止ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂を含有する搬送用ベルトであって、ベルトの表面抵抗率が常用対数値6〜15logΩ/□であり、かつ、ベルトの引張弾性率が2200〜3500MPaであることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項2】
ベルト内径が30〜150mmである、請求項1記載の搬送用ベルト。
【請求項3】
ベルト内面の長手方向に、蛇行防止ガイド部材が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2記載の搬送用ベルト。
【請求項4】
直径が5〜30mmのロールに掛け渡して使用される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の搬送用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215310(P2010−215310A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61499(P2009−61499)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】