説明

搬送用資器材収納装置及び救急車

【課題】搬送用資器材を処置室外及び処置室内から自由に取り出すことができ、これらを行なう際に、時間がかからず、それ程労力も要さない搬送用資器材収納装置を提供する。
【解決手段】搬送用資器材収納装置21を救急車1の処置室6内の右側壁面下部に、後端をバックドア4に近接して配置する。上面壁部22、下面壁部23、前面壁部24、背面壁部25及び正面扉部26から収納空間31を画成し、後側は区画壁部を形成せずに開放端部27とした搬送用資器材収納装置21を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救急車の処置室内に設置され、スクープストレッチャ、バックボード等の搬送用資器材を収納する搬送用資器材収納装置及びそれを設置した救急車に関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故、急性疾患等が発生した場合には、救急車が緊急出動して現場に向かい、救命隊員等が負傷者、患者等の救命活動を行なう。現場においては、負傷者、患者等を車載用ストレッチャ、スクープストレッチャ、バックボード等の搬送用資器材に載せて救急車まで搬送し、救急車のバックドアから負傷者、患者等を処置室内に搬入する。そして、前記搬送用資器材を処置室内に確実に固定又は収納した後、負傷者、患者等を救命するために緊急処置を施す。
【0003】
このような救命活動においては、負傷者、患者等を一刻でも速く救急車の処置室内に搬送し、緊急処置を施すことが必要であるが、先ずは、負傷者、患者等を救急車の処置室内に搬入するために、救急車の処置室内から前記搬送用資器材を直ちに取り出し、負傷者、患者等を搬入した後には、前記搬送用資器材を処置室内に直ちに固定又は収納しなければならない。
【0004】
前記搬送用資器材のうち車載用ストレッチャは、一般的には、負傷者、患者等を車載用ストレッチャに載せた状態で、又は車載用ストレッチャを防振ベッド等に載せた状態で緊急処置を施すので、処置時にも保管時にも、処置室の床面又は側壁面に支持部材を介して固定していた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2001−524352号公報
【特許文献2】特開2002−320643号公報
【0006】
一方、前記搬送用資器材のうちスクープストレッチャ、バックボード等の補助搬送用資器材は、負傷者、患者等を処置室内に搬入するまで使用し、搬入後は、負傷者、患者等を防振ベッド等に移して緊急処置を施すので、処置時にも保管時にも、邪魔にならないように、処置室の側壁面上部又は下部に当接した状態で収納していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、スクープストレッチャ、バックボード等の補助搬送用資器材を処置室の側壁面上部に当接した状態で収納する場合には、処置室内で救命隊員が固定部材を取り外して補助搬送用資器材を開放し、その後、バックドアを開放して、補助搬送用資器材を処置室外に取り出さねばならず、補助搬送用資器材を取り出すのに時間がかかった。
又、処置室の側壁面上部に収納するから、補助搬送用資器材を降ろしたり、揚げたりするのに労力を要すると共に、補助搬送用資器材を過って落下させる虞もあって、危険でもあった。
【0008】
一方、補助搬送用資器材を処置室の側壁面下部に当接した状態で収納する場合には、バックドアを開放し、処置室外から救命隊員が固定部材を取り外せば、補助搬送用資器材を後部ドアから取り出すことができるが、車載用ストレッチャが処置室内にある場合には、
固定部材を取り外し難く、やはり、補助搬送用資器材を取り出すのに時間がかかった。
又、車載用ストレッチャが処置室内にある場合には、固定部材を取り付け難く、補助搬送用資器材を収納するのにも時間がかかると共に、車載用ストレッチャの部品等が接触する虞もあって、危険でもあった。
【0009】
又、スクープストレッチャ及びバックボードというように、補助搬送用資器材を複数積載する場合には、一方は、処置室の側壁面上部に当接した状態で収納し、他方は、処置室の側壁面下部に当接した状態で収納する必要があり、前記何れの問題をも有すると共に、複数の補助搬送用資器材の取り扱いが極めて煩雑となった。
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みて為されたものであって、その目的とするところは、補助搬送用資器材を処置室外に取り出したり、収納したりするのに時間がかからず、補助搬送用資器材を取り扱うのにそれ程労力を要さないと共に危険もなく、又、補助搬送用資器材を複数積載する場合にも、取り扱うのが容易である搬送用資器材収納装置及びそれを設置した救急車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本願の第1の発明は、救急車の処置室内の一方の側壁面下部に、後端をバックドアに近接して配置してあり、上面壁部、下面壁部、前面壁部、背面壁部及び正面扉部から収納空間を画成し、後側は区画壁部を形成せずに開放端部としたことを特徴とする搬送用資器材収納装置である。
【0012】
複数の搬送用資器材を積載する場合に、それらを同一場所に収納することができるようにし、複数の搬送用資器材の取り扱いを容易とするために、前記収納空間内に仕切壁部を配設し、この仕切壁部を前記正面扉部と共に協働するようにするのが好ましい。
【0013】
又、前記正面扉部及び前記仕切壁部は、開放時、その間隔を増大させて傾斜状態に保持させるようにするのが好ましい。
【0014】
上記目的を達成するために、本願の第2の発明は、上記のような構成を有する搬送用資器材収納装置を処置室内に配置したことを特徴とする救急車である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の搬送用資器材収納装置及びそれを設置した救急車の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本発明の救急車1は、図1に示すように、前側部両側に前後方向に回動するフロントドア2,2、中間部左側に前後方向に滑動するスライドドア3、後端部に上下方向に回動するバックドア4を配設してある。
【0017】
救急車1は、図2に示すように、車内の前側部に運転室5、後側部に処置室6を画成してあり、処置室6内の左側には、前向座席7及び横向座席8を配置し、処置室6内の右側には、各種資器材の収納装置を配置してある。
【0018】
本発明の搬送用資器材収納装置21は、図2に示すように、処置室6内の右側壁面下部に、後端をバックドア4に近接して配置してある。
【0019】
搬送用資器材収納装置21は、図2乃至4に示すように、上面壁部22、下面壁部23、前面壁部24、背面壁部25及び正面扉部26から構成し、後側は区画壁部を形成せず、開放端部27としてある。
【0020】
下面壁部23は、図4に示すように、段差を形成してあり、正面扉部26側を低く、背面壁部25側を高くしてある。
【0021】
正面扉部26は、図3及び4に示すように、表側面の前後上側部に把持部28,28を形成してある。
又、図4に示すように、下端部を下面壁部23に支持部材29,29を介して回動自在に支持すると共に、上端部を上面壁部22に係止部材30,30を介して係止自在としてある。
【0022】
搬送用資器材収納装置21には、上面壁部22、下面壁部23、前面壁部24、背面壁部25及び正面扉部26から画成される収納空間31を仕切る仕切壁部32をも配設してある。
仕切壁部32は、図4に示すように、下端部を下面壁部23に支持部材33,33を介して回動自在に支持してある。
【0023】
前記正面扉部26と前記仕切壁部32とは、図4に示すように、両側面に配設した連結部材34,34を介して連結してある。
連結部材34は、略L型形状を呈し、その下端部は正面扉部26の側面中間部に、その上端部は仕切壁部32の側面上端部に軸支してある。
【0024】
次に、本発明の搬送用資器材収納装置21及びそれを設置した救急車1の使用方法について、作用、効果と共に説明する。
【0025】
交通事故、急性疾患等が発生して、救急車1が緊急出動して現場に到着すると、救命隊員等は救急車1外に出て、バックドア4を上方に回動して開放する。
そして、搬送用資器材収納装置21の開放端部27に配設されたストッパを解除し、図5に示すスクープストレッチャ41及び図6に示すバックボード42という搬送用資器材を、図7に示すように、開放端部27から後方に、すなわち矢印A方向に引き出し、バックドア4から車外に取り出す。
【0026】
救命隊員等の人数に余裕がある場合には、処置室6内にいる救命隊員が搬送用資器材収納装置21の正面扉部26の把持部28,28を把持し、係止状態を解除し、正面扉部26を前方に回動する。
すると、図8に示すように、正面扉部26及び仕切壁部32とは、その間隔を増大させて傾斜状態となる。そこで、処置室6内にいる救命隊員は、図8に示すように、斜め上方に、すなわち矢印B方向に引き出し、処置室6外にいる救命隊員と協同してバックドア4から車外に取り出す。
【0027】
救命隊員等は、負傷者、患者等をスクープストレッチャ41、バックボード42に載せて救急車1まで搬送し、救急車1のバックドア4から負傷者、患者等を処置室6内に搬入する。
そして、処置室6内にいる救命隊員は、搬送用資器材が邪魔にならないよう、上記のようにして、搬送用資器材収納装置21の正面扉部26を前方に回動し、正面扉部26及び仕切壁部32を傾斜状態とし、搬送用資器材を斜め下方に押し込み、搬送用資器材収納装置21内に収納する。
【0028】
上記のように、本発明の搬送用資器材収納装置21は、処置室6内の右側壁面下部に、後端をバックドア4に近接して配置すると共に、後側は区画壁部を形成せず、開放端部27としてあるから、救命隊員がバックドア4を開放すれば、搬送用資器材を開放端部27から後方に引き出して、迅速にバックドア4から車外に取り出すことができる。
【0029】
又、本発明の搬送用資器材収納装置21は、固定部材を必要とせず、搬送用資器材収納装置21の正面扉部26を解放し、正面扉部26及び仕切壁部32を傾斜状態とするだけであるから、搬送用資器材を斜め下方に押し込めば、迅速に搬送用資器材を搬送用資器材収納装置21内に収納することができる。
【0030】
さらに、搬送用資器材収納装置21は、処置室6内の右側壁面下部に配置され、上面壁部22、下面壁部23、前面壁部24、背面壁部25及び正面扉部26から画成される収納空間31内に搬送用資器材を収納するものであるから、搬送用資器材を降ろしたり、揚げたりする労力を要せず、搬送用資器材を過って落下させる虞もなく、車載用ストレッチャの部品等が接触する虞もなく、極めて安全である。
【0031】
本発明の搬送用資器材収納装置21は、又、収納空間31を仕切る仕切壁部32をも配設し、仕切壁部32を回動自在としてあるから、スクープストレッチャ及びバックボードというように、搬送用資器材を複数積載する場合にも、それらを同一場所に収納することができるから、複数の搬送用資器材の取り扱いが極めて容易である。
【0032】
さらに、正面扉部26及び仕切壁部32は、正面扉部26の開放時には、その間隔を増大させて傾斜状態となるようにしてあるから、搬送用資器材の脱出、収納作業がやりやすく、便利である。
【0033】
そして、正面扉部26の閉鎖時には、正面扉部26と仕切壁部32との間隔は減少し、
正面扉部26及び仕切壁部32によって搬送用資器材を押圧するから、搬送用資器材はガタツクことなく確実に収納される。
【0034】
尚、上記実施例においては、救急車1の中間部左側にスライドドア3を配設したので、搬送用資器材収納装置21を右側面下部に配置したが、中間部右側にスライドドア3を配設した場合等にあっては、左側面下部に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の救急車の外観斜視図である。
【図2】本発明の救急車の内部透視図である。
【図3】本発明の搬送用資器材収納装置の正面図である。
【図4】本発明の搬送用資器材収納装置の後側側面図である。
【図5】スクープストレッチャの(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図6】バックボードの(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図7】本発明の搬送用資器材収納装置に搬送用資器材を収納した状態を示す正面図である。
【図8】本発明の搬送用資器材収納装置に搬送用資器材を収納した状態を示す後側側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 救急車
4 バックドア
6 処置室
21 搬送用資器材収納装置
22 上面壁部
23 下面壁部
24 前面壁部
25 背面壁部
26 正面扉部
27 開放端部
31 収納空間
32 仕切壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
救急車の処置室内の一方の側壁面下部に、後端をバックドアに近接して配置してあり、上面壁部、下面壁部、前面壁部、背面壁部及び正面扉部から収納空間を画成し、後側は区画壁部を形成せずに開放端部としたことを特徴とする搬送用資器材収納装置。
【請求項2】
前記収納空間内に仕切壁部を配設し、この仕切壁部を前記正面扉部と共に協働するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の搬送用資器材収納装置。
【請求項3】
前記正面扉部及び前記仕切壁部は、開放時、その間隔を増大させて傾斜状態に保持させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の搬送用資器材収納装置。
【請求項4】
請求項1乃至3何れかに記載の搬送用資器材収納装置を処置室内に配置したことを特徴とする救急車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−111139(P2007−111139A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303727(P2005−303727)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(591159055)トヨタテクノクラフト株式会社 (19)