説明

搬送装置および印刷装置

【課題】給紙部と搬送用ローラー対との間で紙の傾きを直し、記録部(印刷部)に正しい搬送方向で被印刷媒体を搬送する搬送装置、およびその搬送装置を備える印刷装置を提供する。
【解決手段】給送手段によって送られる被印刷媒体を、搬送用ローラー対によって挟持し、記録手段へ搬送する搬送装置であって、前記搬送用ローラー対は、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する前記被印刷媒体の幅方向の略中央に配置され、前記被印刷媒体の搬送方向に従動する第1ローラーと、前記第1ローラーの回転軸に交差する回転軸を有し従動する第2ローラーと、により前記被印刷媒体を挟持する交差ローラー部と、前記被印刷媒体の搬送方向に沿った一方の端部を規制する規制部と、を備え、前記交差ローラー部は、前記被印刷媒体の前記規制部側とは反対側の端部と、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する幅方向の略中央と、の間に配置される搬送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置および印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録装置における被記録媒体としての紙を記録部に搬送する搬送用ローラー対は、駆動モーターなどによって駆動される搬送用駆動ローラーと、搬送用駆動ローラーの回動に従って従動する搬送用従動ローラーと、から構成されていた。搬送用ローラー対は紙を記録部へ真直ぐ搬送させるために、搬送用駆動ローラーおよび搬送用従動ローラーの回転軸方向は、搬送方向に対して直交するように備えられていた(特許文献1)。
【0003】
ところが、紙は搬送される間に搬送方向に対して傾いて搬送される虞があった。この原因としては、様々考えられるが、例えば、搬送される紙の側端部と搬送経路部との摺れの摩擦抵抗、あるいは、給紙部において紙が傾いた状態で給紙が開始される場合などが挙げられる。この、搬送方向に対して紙が傾いて搬送される課題に対して、搬送用ローラー対において、搬送用駆動ローラーの回転軸方向に対して搬送用従動ローラーの回転軸方向を僅かに傾けて配置できるように、搬送用従動ローラーの固定部に揺動機構を設け、傾いて給紙された紙に対して傾き方向とは逆方向に力を紙に与えて傾きを直して記録部に搬送する方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−265089号公報
【特許文献2】特開2007−84227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献2であっても、記録部の直前に搬送用ローラー対が配置されていることにより、例えば、被印刷媒体にロール紙を用いた場合には、給紙部付近から生じる紙の傾きを直そうとすると、給紙部と搬送用ローラー対との間で紙に折れ、曲がりを生じてしまい、紙に皺などを残したまま記録部に紙を搬送されてしまう、という課題があった。
【0006】
そこで、ロール紙を用いた場合であっても、給紙部と搬送用ローラー対との間で紙の傾きを直し、記録部(印刷部)に正しい搬送方向で被印刷媒体を搬送する搬送装置、およびその搬送装置を備える印刷装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0008】
〔適用例1〕本適用例の搬送装置は、給送手段によって送られる被印刷媒体を、搬送用ローラー対によって挟持し、前記被印刷媒体に記録を実行する記録手段へ搬送する搬送装置であって、前記搬送用ローラー対は、駆動手段により駆動される搬送駆動ローラーと、前記搬送駆動ローラーに従動回転する搬送従動ローラーと、を備え、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する前記被印刷媒体の幅方向の略中央に配置され、前記被印刷媒体の搬送方向に従動する第1ローラーと、前記第1ローラーの回転軸に交差する回転軸を有し従動する第2ローラーと、を有し、前記第1および第2ローラーにより前記被印刷媒体を挟持する交差ローラー部と、前記被印刷媒体の前記搬送方向に沿った一方の端部を規制する規制部と、を備え、前記交差ローラー部は、前記被印刷媒体の前記規制部側とは反対側の端部と、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する幅方向の略中央と、の間に配置されることを特徴とする。
【0009】
本適用例の搬送装置によれば、交差ローラー部によって挟持された被印刷媒体と第2ローラーとは搬送方向においては滑り摩擦を生ずる。この滑り摩擦による搬送方向とは反対方向に作用する摩擦力が、被印刷媒体に対して搬送用ローラー対による被印刷媒体の挟持部分を作用点として被印刷媒体の中心方向に作用する回転モーメントとなり、被印刷媒体の一方の端部を規制部に付勢する。付勢されて被印刷媒体が規制部に当接することにより被印刷媒体は正しい搬送方向に矯正され、その搬送方向が維持される。
【0010】
また、従動する2つのローラーを回転軸を交差させて配置するだけの簡単な構造の交差ローラーによって、記録手段に対して正しい搬送方向で被印刷媒体を搬送させることが可能となるため、被印刷媒体上への記録画像の品質が高い信頼性で維持される。
【0011】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記第1および第2ローラーは、回転軸を中心とする円柱面を有し、前記円柱面によって前記被印刷媒体を挟持することを特徴とする。
【0012】
上述の適用例によれば、第1ローラーおよび第2ローラーの円柱面同士で交差配置させて被印刷媒体を挟持させることで、ばらつきによって第1ローラーと第2ローラーとの配置に相対的な配置ずれが生じても、被印刷媒体を挟持する領域の変動を少なくすることができ、安定して被印刷媒体の搬送を行うことができる。
【0013】
〔適用例3〕上述の適用例において、前記第1ローラーの前記被印刷媒体が接する部位がポリアセタール樹脂、前記第2ローラーの前記被印刷媒体が接する部位がステンレススチール、であることを特徴とする。
【0014】
上述の適用例によれば、被印刷媒体の搬送方向に回転する第1ローラーは、被印刷媒体を搬送方向に交差する方向に付勢して規制部に被印刷媒体の端部を当接させるために、被印刷媒体との摩擦抵抗が大きいと付勢を確実に行えなくなる虞がある。従って、第1ローラーをポリアセタール樹脂(POM:polyoxymethylene)によって形成することにより、被印刷媒体との接触面は摩擦抵抗を小さくすることができ、成形性に優れ、構造体としての強度を有し、低コストの第1ローラーを得ることができる。
【0015】
また、第2ローラーの回転軸方向は被印刷媒体の搬送方向に交差する方向に配置され、第2ローラーに対して被印刷媒体は摺動する。従って、第2ローラーをステンレスで形成することにより、摩擦係数を小さくすることができるので、被印刷媒体が滑り易くなる。また、被印刷媒体の摺動による磨耗も極めて少なく、錆びが発生しにくい第2ローラーを得ることができる。
【0016】
〔適用例4〕上述の適用例において、前記規制部側の反対側の前記被印刷媒体の端部を前記規制部側へ付勢する付勢手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上述の適用例によれば、交差ローラーによる規制部への被印刷媒体の付勢に加えて、付勢手段による付勢を行うことで、確実に記録手段に対して正しい搬送方向で被印刷媒体を搬送することができる。
【0018】
〔適用例5〕本適用例の印刷装置は、上述の搬送装置を備える。
【0019】
上述の適用例によれば、正しい搬送方向で被印刷媒体が記録手段に搬送されることにより、被印刷媒体における相対的な記録画像の記録位置を正確に制御することができるため、高品質の記録画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る印刷装置の構成を示す概略断面図。
【図2】第1実施形態に係る印刷装置に備える搬送部の、(a)は図1に示すA矢視図、(b)は(a)に示すB−B´部の断面図、(c)は(b)に示すD部の拡大図と(a)に示すC−C´部の拡大断面図。
【図3】第1実施形態に係る印刷装置に備える搬送部における記録紙の動作を説明する概念図。
【図4】第2実施形態に係る搬送部の、(a)は平面概略図、(b)はその他の形態を示す平面概略図。
【図5】第2実施形態に係る付勢部のその他の形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係る搬送装置を備える印刷装置の概略構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る印刷装置1000は、被印刷媒体としての記録紙10を収納し、記録手段へ給送する給紙部200と、給送された記録紙10に所定の画像を記録する記録手段としての印刷部300と、を備えている。印刷部300は、例えばインクジェットヘッドを備える記録部310を記録紙10の記録面側に配置し、記録紙10の記録面の裏面を吸引して記録紙10を固定する記録紙吸引部320と、吸引機構部330と、を備えている。
【0023】
記録紙10は、ロール状の形態で給紙部200に収納される、いわゆるロール紙10aから繰り出される。ロール紙10aは、印刷装置1000に回転可能に備えられるロール紙駆動軸20に装着される。ロール紙10aから繰り出された記録紙10は、繰り出しローラー30およびガイドローラー40を経て、搬送装置としての搬送部100に繰り出される。
【0024】
搬送部100は、記録紙10が摺動する記録紙載面50aを備える記録紙保持部50と、記録紙保持部50の印刷部300側に配置される搬送用ローラー対60と、搬送用ローラー対60とガイドローラー40との間の記録紙保持部50の配置領域に複数設けられた交差ローラー70と、を備えている。搬送用ローラー対60は、図示しない駆動手段によって回転駆動される搬送駆動ローラー60aと、搬送駆動ローラー60aに従動する搬送従動ローラー60bと、を備え、搬送駆動ローラー60aと搬送従動ローラー60bによって記録紙10が挟持される。
【0025】
交差ローラー70は、記録紙10の搬送方向に従動する第1ローラー70aと、第1ローラー70aの回転軸と交差する回転軸を有する第2ローラー70bと、を備え、第1ローラー70aと第2ローラー70bとにより記録紙10が挟持される。本実施形態に係る交差ローラー70では、第2ローラー70bの回転軸方向は第1ローラー70aの回転軸方向に略直交した形態としている。後述するが、第1ローラー70aと第2ローラー70bとの各々の回転軸の交差角度は限定されないが、本実施形態に示すように直交させることが好ましい。
【0026】
図2は、搬送部100の詳細を示し、図2(a)は図1に示すA方向矢視図、図2(b)は図2(a)に示すB−B´部断面図である。また、図2(c)は図2(b)に示すD部詳細と図2(a)に示すC−C´部の断面詳細である。図2(a)に示すように搬送部100に備える記録紙保持部50には、記録紙10の搬送方向Sに対する幅方向の一方の端部10bを規制する第1規制部81と第2規制部82とを有する規制部80を備えている。規制部80は、図示しない可動手段によって、記録紙10の幅方向である図示Q方向に可動させることができ、記録紙10の一方の端部10bを、第1規制部81の規制面81aと、第2規制部82の規制面82aとに当接させることによって、印刷部300における記録範囲の中心に記録紙10の幅中心が略一致されるように配置される。
【0027】
搬送用ローラー対60は、記録紙10の幅方向の中央部領域を搬送駆動ローラー60aと搬送従動ローラー60bとで挟持し、搬送方向Sに記録紙10を搬送する。第1ローラー70aと第2ローラー70bとで構成される交差ローラー70は、第1ローラー70aと第2ローラー70bとが交差する位置70c、すなわち記録紙10が交差ローラー70によって挟持される位置が、記録紙10の搬送方向Sにおける搬送用ローラー対60の配置位置とガイドローラー40の配置位置との間となるように配置される。また、交差ローラー70は、第1ローラー70aと第2ローラー70bとが交差する位置70cが、記録紙10の幅中心より、規制部80によって規制される一方の端部10bとは反対の他方の端部10cの側に位置されるように配置される。
【0028】
交差ローラー70は、図2(b)、(c)に示すように、第1ローラー70aと第2ローラー70bによって記録紙10を挟持する。また、第1ローラー70aは記録紙10の搬送方向Sに沿って記録紙10の移動に従動し回転する回転方向R1となるように備えられている。また、第2ローラー70bは記録紙10の搬送方向Sに略沿った回転軸方向、すなわち第1ローラー70aと略直交する回転軸方向を有し、回転方向R2に自由に回転できるように備えられている。
【0029】
第1ローラー70aは、記録紙10の搬送方向Sに回転するように配置されているが、後述するように本実施形態に係る搬送部100では、記録紙10を搬送方向に対して交差する方向、すなわち規制部80に向けて移動させて付勢させるため、記録紙10との摩擦抵抗が大きいと付勢を確実に行えなくなる虞がある。従って、第1ローラー70aの記録紙10との接触面は摩擦抵抗が小さい材料を用いることが好ましい。第1ローラー70aの材料としては、成形性に優れ、構造体としての強度を有し、低コストのポリアセタール樹脂(POM:polyoxymethylene)が好適に用いられる。
【0030】
第2ローラー70bは、回転軸方向が記録紙10の搬送方向Sに沿って配置され、記録紙10の搬送方向Sに対して略直交する回転方向R2に自由に回転するように備えられているので、記録紙10は第2ローラー70bとは擦れながら搬送される。したがって、記録紙10の搬送方向Sに対して摺動し易い、すなわち記録紙10に対する摩擦係数の小さい表面素材によって形成されることが好ましい。例えば、フッ素系樹脂、金属などを用いることができるが、耐摩耗性、耐蝕性、強度に優れるステンレスがより好適に用いられる。なお、本形態では交差ローラー70は2組が配置された形態で説明しているが、これに限定されず記録紙10の大きさ、記録紙保持部50の大きさによって、1組あるいは3組以上を配置しても良い。
【0031】
本実施形態に係る搬送部100の交差ローラー70は、第1および第2ローラーは円柱面により構成されているが、これに限定はされず、記録紙10を挟持することができれば良い。しかし、第2ローラー70bと記録紙10は後述するように滑り摩擦を生じるため、第2ローラーと記録紙10との接触領域は、狭くできることが好ましい。すなわち第1ローラー70aと第2ローラー70bとによる記録紙10の挟持領域は狭いほうが好ましい。従って、第1ローラー70aおよび第2ローラー70bは円柱面同士で交差配置させることで、ばらつきによって第1ローラー70aと第2ローラー70bとの相対的な配置に配置ずれが生じても、記録紙10の挟持領域の変動を少なくすることができ、安定した記録紙10の搬送を行うことができる。
【0032】
上述の通り、記録紙10は、繰り出しローラー30(図1参照)によって繰り出され、ガイドローラー40を介して記録紙保持部50の記録紙載面50a上を摺動しながら搬送される。そして、記録紙10は交差ローラー70に挟持され、搬送用ローラー対60に挟持されて搬送され、印刷部300の記録部310へ送出される。この搬送状態における本実施形態に係る印刷装置1000の搬送部100の動作を、図3に基づいて説明する。
【0033】
図3(a),(b)は、図2(a),(b)に示す搬送部100を更に模式図化した図である。図3(a)に示すように、正しい搬送方向の記録紙10に対して斜め方向から繰り出される記録紙10´が、正しい搬送方向の記録紙10の位置に矯正される動作を説明する。
【0034】
図3(a)に示すように、搬送用ローラー対60は記録紙10の幅における略中央部に搬送力Pが掛かるように配置されている。このように配置されることにより記録紙10の幅の略中央部に搬送力Pが付加され、印刷部300に向けて記録紙10が送出される。この記録紙10が傾いて記録紙10´で示すようにガイドローラー40から繰り出された場合、正しい搬送方向にある記録紙10の位置で印刷部300に記録紙10が搬送されないと、適正な位置に所定の記録(印刷)が実行されない不具合が生じてしまう。そこで、本実施形態に係る搬送部100は、次のように作用して傾いた記録紙10´を正しい搬送方向の記録紙10の位置に矯正することができる。
【0035】
搬送用ローラー対60によって付加される記録紙10´の搬送力Pの作用点を作用点p0とする。この作用点p0は上述したように記録紙10の幅方向の略中央線上に位置する。この作用点p0を通り搬送方向に伸ばした直線Hと、交差ローラー70における記録紙10´を挟持する位置の挟持点p1,p2と、の距離をL3,L4とする。また、作用点p0に近い第1規制部81における規制面81aの中央部p3と、作用点p0と、の距離をL1、作用点p0より遠い第2規制部82における規制面82aの中央部p4と、作用点p0と、の距離をL2とする。また、交差ローラー70において記録紙10´を挟持するための押圧力をN1,N2、記録紙10の搬送方向に沿った回転軸方向を持つ第2ローラー70bと記録紙10´との摩擦係数をμとする。
【0036】
図3(a)に示すように、搬送用ローラー対60によって搬送される記録紙10´は、交差ローラー70に挟持され、第2ローラー70bとは擦れながら移動する。すなわち、記録紙10´には、第2ローラー70bと記録紙10´との間に生じる摩擦力F1,F2が搬送方向とは反対方向に作用する。この摩擦力F1,F2によって作用点p0を中心とする記録紙10´を回転させようとするモーメントM1,M2を発生させる。モーメントM1,M2は次式で表される。
M1=F1×L3 M2=F2×L4 (1)
【0037】
上述したようにF1,F2は第2ローラーと記録紙10´との摩擦力であるので、
F1=N1×μ F2=N2×μ (2)
となり、式(1)は次のように表される。
M1=N1×μ×L3 M2=N2×μ×L4 (3)
【0038】
モーメントM1,M2によって記録紙10´は規制部80に向けて回転し、規制面81a,82aに当接する。すなわち、記録紙10´は規制部80に付勢され、規制部80に記録紙10´の一方の端部が当接することによって正しい搬送方向に記録紙10´が配置され、記録紙10に示す方向に搬送される。この規制面81a,82aに当接する当接力F3,F4と、モーメントM1,M2と、の間には、
M1+M2=F3×L1+F4×L2 (4)
の関係にある。ここで、N1=N2=Nx、L3=L4=Lxとすると、式(3),(4)から、
2×Nx×μ×Lx=F3×L1+F4×L2 (5)
となる。
【0039】
記録紙10´には、記録紙10´の端部に記録紙面に沿った力を加えた場合に端部に折れ曲がりが発生する限界負荷があり、その限界負荷を折れ曲がり限界と言い、記録紙10´の折れ曲がり限界をF0とすると、当接力F3,F4は折れ曲がり限界F0以下でなければならない。すなわち式(5)より、
2×Nx×μ×Lx≦(F0×L1+F0×L2)=F0(L1+L2) (6)
の関係でなければならない。
【0040】
式(6)に示す関係から、交差ローラー70の第2ローラー70bの押圧力Nx、第2ローラー70bの材料選定による摩擦係数μ、交差ローラー70における挟持点p1,p2の位置Lx、などを最適となるように設計する。なお、規制部80の規制面81a,82aの位置L1,L2は、式(6)からは大きい値とすることが望ましいが、L2とL1との差を大きくするほうが、記録紙10の搬送方向の正確さを維持しやすいこと、L1が大きいと搬送用ローラー対60と第1規制部81との間(L1の間)において記録紙10に傾きを生じてしまう虞があること、などを考慮して配置設計する。
【0041】
上述したように、本実施形態に係る搬送部100では、回転軸方向が互いに交差するように配置された交差ローラー70によって記録紙10を挟持しながら搬送用ローラー対60が記録紙10を印刷部300に搬送することで、記録紙10が搬送方向に対して傾いて繰り出しローラー30、ガイドローラー40から送られてきた場合であっても、搬送用ローラー対60を中心とした回転モーメントを交差ローラー70によって記録紙10に与え、容易に正しい搬送方向に矯正させることができる。また交差ローラー70は、第1ローラー70aおよび第2ローラー70b共に従動させるだけの簡単な構造で可能なため、装置の信頼性、耐久性を高めることもできる。
【0042】
(第2実施形態)
図4に第2実施形態に係る搬送装置としての搬送部110を示す。搬送部110は、第1実施形態にかかる搬送部100に対して、記録紙10を規制部80に付勢する付勢手段としての付勢部90を備えている点が異なる。したがって、搬送部100と同じ構成には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0043】
第2実施形態に係る搬送部110は、図4に示すように、記録紙10の規制部80に当接する端部10bとは反対の端部10cに当接する当接面91aを備える付勢端子91と、付勢端子91を規制部80方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね92と、により構成される付勢部90を備えている。
【0044】
付勢部90は、記録紙10の幅Wpに対応して、図示しない位置合わせ手段によって、移動可能に記録紙保持部50に備えられ、記録紙10の幅Wpに適正な付勢力が与えられる。また、記録紙10の搬送方向における付勢部90の配置位置は、規制部80に記録紙10を挟んで対向するように配置されることが好ましい。あるいは、図4(b)に示すように、規制部80の第1規制部81と第2規制部82との配置位置の中間位置相当に対向させて付勢部90を配置させても良い。少なくとも、記録紙10を正しい搬送方向に規制する作用は、規制部80に記録紙10の端部10bが当接することで実現できることから、付勢部90は第1規制部81と第2規制部82とに対して均等に記録紙10を当接させる付勢力が発揮される位置に配置されることが望ましい。
【0045】
付勢部90による記録紙10への付勢力は、上述の図3により説明した交差ローラー70によって記録紙10が規制部80へ付勢される付勢力に加えて記録紙10に付加される。したがって、付勢部90による記録紙10への付加される付勢力と交差ローラー70によって生成される付勢力とを加えた付勢力が、記録紙10の折れ曲がり限界F0より小さくなるように、付勢部90の付勢力は調整される。なお、図4に示す付勢部90には弾性部材としてコイルばね92を用いたが、これに限定されない。例えば、図5(a)に示すように、記録紙10の幅方向に撓ませることができる板ばね93により付勢端子91を付勢してもよく、図5(b)に示すように、記録紙10の幅方向に撓ませることができる板ばね94によって記録紙10を付勢する構成としても良い。
【0046】
第2実施形態に係る搬送部110では、上述の図3により説明した交差ローラー70の作用による規制部80への記録紙10の付勢に加えて、付勢部90による付勢力によって確実に記録紙10を規制部80に付勢することができ、記録紙10の正しい搬送方向を維持させることができる。
【符号の説明】
【0047】
10…記録紙、20…ロール紙駆動軸、30…繰り出しローラー、40…ガイドローラー、50…記録紙保持部、60…搬送用ローラー対、70…交差ローラー、100…搬送部、200…給紙部、300…印刷部、1000…印刷装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給送手段によって送られる被印刷媒体を、搬送用ローラー対によって挟持し、前記被印刷媒体に記録を実行する記録手段へ搬送する搬送装置であって、
前記搬送用ローラー対は、駆動手段により駆動される搬送駆動ローラーと、前記搬送駆動ローラーに従動回転する搬送従動ローラーと、を備え、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する前記被印刷媒体の幅方向の略中央に配置され、
前記被印刷媒体の搬送方向に従動する第1ローラーと、前記第1ローラーの回転軸に交差する回転軸を有し従動する第2ローラーと、を有し、前記第1および第2ローラーにより前記被印刷媒体を挟持する交差ローラー部と、
前記被印刷媒体の搬送方向に沿った一方の端部を規制する規制部と、を備え、
前記交差ローラー部は、前記被印刷媒体の前記規制部側とは反対側の端部と、前記被印刷媒体の搬送方向に直交する幅方向の略中央と、の間に配置される、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記第1および第2ローラーは、回転軸を中心とする円柱面を有し、前記円柱面によって前記被印刷媒体を挟持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記第1ローラーの前記被印刷媒体が接する部位がポリアセタール樹脂、前記第2ローラーの前記被印刷媒体が接する部位がステンレススチール、である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記規制部側の反対側の前記被印刷媒体の端部を前記規制部側へ付勢する付勢手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の搬送装置を備える印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35681(P2013−35681A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175650(P2011−175650)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】