説明

携帯型溶存ガス濃度検知器

【課題】携帯型器具を用いてワンプッシュでサンプリングと濃度検知を簡単迅速自動で行うことを可能とする。
【解決手段】
本発明は、少なくとも一端が閉じた中空のシリンダと、シリンダ内で気密に摺動可能なピストンと、弾性力によりピストンに力を加えるスプリングと、シリンダに設けられたサンプリング弁とを有し、サンプリング弁を通してシリンダの閉じた側とピストンとの間の空間に試料溶液を流入させ、スプリングの弾性力によりピストンに力を加えて該空間を減圧し、減圧により試料溶液中の溶存ガスを析出させ、析出した溶存ガスの体積により変動するピストンの停止位置を読み取ることにより、該試料溶液中の溶存ガス濃度を計測することができることを特徴とする、携帯型溶存ガス濃度検知器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶存ガス濃度を現場で簡単短時間に検知し1000ppm前後の濃度を100ppm誤差で測定する器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶存ガス濃度測定器は東亜ディーケーケー株式会社の販売するポータブル機から紀本電子工業株式会社が製造する装置まで幅広く市場に出ている。
実用の装置としては何ら問題がないが、現場で即座に大まかな溶存ガス濃度を知りたい場合には市販器具装置の精度が高すぎイコール価格も高額なものである。
【0003】
しかも、応答時間が長く市販品には問題があり、現場で短時間に濃度が変化する場合は相当な作業負担が生じることが多分にある。そこで短時間に2桁程度の精度で溶存ガスを検知するハンデー器具の出現が望まれている。
【0004】
本発明は、現場で短時間に大まかな溶存ガス濃度をワンプッシュ操作で自動的に検知する器具を低価格で提供するものである。
【0005】
ワンプッシュ操作で溶存ガス液を密閉容器に定量サンプリングし、しかる後に真空に近い状態から徐々に大気圧まで減圧圧力を減じ、減圧力がバネとバランスするところの位置を読むことによって溶存ガス容積を知ることができる。
【0006】
溶存ガスを減圧によって析出する方法で且つ減圧初期に真空に近い状態から減圧を開始するので、短時間に溶存ガス濃度を知ることができることを特徴とする溶存ガス濃度検知器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−219396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、現場で2桁程度の大まかな溶存ガス濃度を簡単・短時間に検知する安価な検知器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究した結果、スプリングの弾性力を利用して減圧する簡易な構造の検知器により、試料溶液の大まかな溶存ガス濃度を測定できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(3)の携帯型溶存ガス濃度検知器を提供する。
(1)少なくとも一端が閉じた中空のシリンダと、シリンダ内で気密に摺動可能なピストンと、弾性力によりピストンに力を加えるスプリングと、シリンダに設けられたサンプリング弁とを有し、サンプリング弁を通してシリンダの閉じた側とピストンとの間の空間に試料溶液を流入させ、スプリングの弾性力によりピストンに力を加えて該空間を減圧し、減圧により試料溶液中の溶存ガスを析出させ、析出した溶存ガスの体積により変動するピストンの停止位置を読み取ることにより、該試料溶液中の溶存ガス濃度を計測することができることを特徴とする、携帯型溶存ガス濃度検知器。
【発明の効果】
【0010】
(2)前記ピストンが中空でピストン上蓋とピストン下蓋を有するピストンであり、該ピストン下蓋と気密に摺動可能で該ピストンに収納される弁シャフトをさらに有し、該弁シャフトの一端がスプリング(B)で該ピストン下蓋と連結され、該弁シャフトの他端がサンプリング弁と連結されていることにより、前記ピストンをシリンダに押し込み戻すときに試料溶液のサンプリングが可能なことを特徴とする、上記(1)に記載の携帯型溶存ガス濃度検知器。
(3)さらに、ピストン上蓋とピストンシャフトを介して連結した押しボタンと、シリンダ上に設けられた目盛りとを有することを特徴とする、上記(2)に記載の携帯型溶存ガス濃度検知器。
【0011】
本発明の携帯型溶存ガス濃度検知器は、少なくともシリンダとピストンとスプリングとサンプリング弁とを有する簡易な構造であることから、安価に製造でき、しかも、試料溶液中の溶存ガス濃度の検出・測定を素早く行うことができる。
また、上記(2)及び(3)の携帯型溶存ガス濃度検知器は、サンプリング弁と一端が連結した弁シャフトがピストンに収納される構造を有することから、ピストンをシリンダに押し込み戻すときに試料溶液のサンプリングが可能であり、シリンダ内への試料溶液のサンプリング、試料溶液の減圧、溶存ガス濃度の測定という一連の操作が、ワンプッシュで可能になるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は携帯型溶存ガス濃度検知器の動作を検証するための実施方法を示した説明図である。(実施例1)
【図2】図2は携帯型溶存ガス濃度検知器の大気圧中の溶存ガス体積と減圧時の体積のグラフである。(実施例1)
【図3】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態上面図、正面図、底面図である。(実施例2)
【図4】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態の側面図である。(実施例2)
【図5】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態の側面断面図である。(実施例2)
【図6】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態の正面断面図である。(実施例2)
【図7】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引準備(1)図である。(実施例3)
【図8】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引準備(2)図である。(実施例4)
【図9】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引50%図である。(実施例5)
【図10】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引100%図である。(実施例6)
【図11】図は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面減圧測定図である。(実施例7)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の携帯型溶存ガス濃度検知器は、検知精度を損なわないようにボタンガイドとシリンダを一体化した構造とし、また押ボタンは親指で容易に操作できるようにボタンガイド側に傾斜した上面を形成し安定したボタン操作が出来るような構造とした。
本発明の携帯型溶存ガス濃度検知器は、溶存ガスの析出を素早く行え、さらにバネ圧をサンプリングと減圧の両方に利用していることから、検知器押ボタンを下いっぱいに押し込んだ後、溶存ガス液面に携帯型溶存ガス濃度検知器下端を30mm程度水没させ徐々に押ボタンから力を抜いていくとサンプリング吸入口から溶存ガス液を吸入し定量吸入後自動的に弁が閉まり密閉容器となる。
次にいきなり真空減圧に入り高速で溶存ガスが析出し、やがて徐々に減圧が緩やかになり溶存ガス量に応じて減圧圧力とバネの力がバランスするところで押ボタンが停止する。このように押ボタンをワンプッシュするだけで一連の動作が速やかに行われ溶存ガスの量、つまり溶存ガス濃度を簡単に大まかに検知できるという利点がある。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明装置の動作を検証するための方法を示した説明図である。以下検証を容易にするため分かりやすい数値を当てはめている。
【0015】
Ddは器具固定台でバネ秤Ds、気密自由ピストン容器目盛付きCa、気密自由ピストン容器目盛付きCbをそれぞれ固定している。
気密自由ピストン容器目盛付きCaと気密自由ピストン容器目盛付きCbのノズルは互いに大気圧に耐える接続チューブPpで接続され気密自由ピストン容器目盛付きCa直近にバルブMvが設けられている。
【0016】
気密自由ピストン容器目盛付きCa、気密自由ピストン容器目盛付きCbのシリンダ断面積Sa,Sbはともに1平方センチとし目盛は1立方センチ毎に10まであるものとする。
【0017】
気密自由ピストン容器目盛付きCaのピストンCPaの位置haをゼロにしてから手動弁Mvを接続し閉位置にする。
気密自由ピストン容器目盛付きCbのピストンCPbの位置hbを10にしてから接続チューブPpを接続する。
【0018】
バネ秤Dsは気密自由ピストン容器目盛付きCaのピストンCPaの位置haをゼロの状態でバネ秤Dsの指示値が1キログラムを指示するように調整保持する。
気密自由ピストン容器目盛付きCaのピストンCPa位置haが10になった時、バネ秤Dsの目盛がゼロキログラムを表示する機種を選定する。
【0019】
一般に、このようなバネ秤は市販されていないので読み取り値を換算する必要があるが、ここでは説明を簡潔にするため上記条件で図示する。
ピストンCPa位置haがゼロであれば上記条件では気密自由ピストン容器目盛付きCaのシリンダ内圧力Paがゼロでほぼ真空状態である。
【0020】
ここで、手動弁Mvを慎重に操作し、気密自由ピストン容器目盛付きCbのピストンCPbの位置hbを10から1目盛、つまり9になるまで気密自由ピストン容器目盛付きCaに送り込む。このときの気密自由ピストン容器目盛付きCaのピストンCPaの位置haとバネ秤Dsの指示値を読み取る。
【0021】
同様に手動弁Mvを慎重に操作し、気密自由ピストン容器目盛付きCbのピストンCPbの位置hbの目盛8からゼロまで読み取ると図2の通りとなる。
【0022】
図1において、気密自由ピストン容器目盛付きCaの断面積が1[cm^2]でピストンCPbの位置haがゼロの時バネ秤の指示値が1「Kg」で釣り合っているものとすると数1の式が成立する。
【0023】
【数1】

【0024】
数1の式から表2が計算され、結果を図2に示す。
このことから、予め溶存ガス溶液を気密自由ピストン容器目盛付きCaに定量サンプリングして置き上記条件で溶存ガスを減圧析出することにより、その体積を知ることができる。
【0025】
図2のグラフから分かる通り、減圧析出した溶存ガス容積を知ることによって単一の溶存ガスであれば溶存ガス濃度を計算することが出来、さらに混合ガスの場合は溶存ガス成分が分かれば各々のガス濃度も計算できる。
【0026】
【表1】

【0027】
表1は本発明装置の動作を検証するための方法を示した図1の機能説明一覧である。
【0028】
【表2】

【0029】
数1の式において、表2に示したように図2では減圧圧力0.3気圧以上では著しく線形比例からずれるので実用範囲とはみなされないが0.3気圧未満の範囲では十分実用に耐え得るデータを示している。
【実施例2】
【0030】
図3、図4は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態の外面図で、上面図、正面図、底面図、側面図である。
【0031】
図5、図6は携帯型溶存ガス濃度検知器の保管状態の側面断面図、正面断面図であり、いずれの場合も4:スプリング(A)で持ち上げられている1:サンプリングボタンは5:ピストンシャフトで結合されている13:ピストンが25:シリンダ内に6:ボタンストッパー下部によって保持されている。
【実施例3】
【0032】
図7は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引準備(1)図で1:サンプリングボタンが押しこまれ、連結されている5:ピストンシャフトを介して13:ピストンも同時に下降し18:弁シャフト頂部に当たり、サンプリング弁を押し下げる寸前の状態である。
【実施例4】
【0033】
図8は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引準備(2)図で3:サンプリングボタンが下いっぱいに押しこまれ、連結されている13:ピストンが25:シリンダ内下端まで押し下げられ、同時に20:サンプリング弁も下いっぱいに押し下げられ25:シリンダ下の26:リング形吸入口が外部に開放されている。
【0034】
次に溶存ガス濃度検知器本体を20:サンプリング弁を下に溶存ガス含有液22:液中に21:液面から20〜30ミリ水没させます、この時水面に濃度検知器本体を垂直にすることが望ましいが本発明品の場合はその構造上、26:リング吸入口が水没していればサンプリング可能であることから水面から45度以上の角度があれば問題なくその性能を発揮するので現場計器として望ましい性能であることは言うまでもありません。
【実施例5】
【0035】
図9は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引50%図で、3:サンプリングボタンから徐々に押す力を減じた結果4:スプリング(A)の力で13:ピストンが上昇し26:リング形吸入口から溶存ガス含有液を吸入する。
【実施例6】
【0036】
図10は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面吸引100%図である。規定量のサンプリングを終了した時点で20:サンプリング弁が閉じ、直ちに5:スプリング(A)の力によって真空状態に近い減圧を受ける。
【実施例7】
【0037】
図11は携帯型溶存ガス濃度検知器の正面断面減圧測定図である。24:析出気体が5:スプリング(A)の力で減圧され図の通り、析出気体容積と5:スプリング(A)の力がバランスする位置で3:サンプリングボタンが停止しその位置から溶存ガス濃度を計算できる。
上記一連の動作を確保するためには数1式の条件が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の携帯型溶存ガス検知器によれば、瞬時に溶存ガス濃度の検知が出来、更にバネ定数とシリンダ断面積及びサンプリング容積の選択により溶存ガス濃度レンジを自由に選択できる。
【符号の説明】
【0039】
1 サンプリングボタン
2 ホーローセット(A)
3 ボタンガイド
4 スプリング(A)
5 ピストンシャフト
6 ボタンストッパー
7 ホーローセット(B)
8 スプリングストッパー
9 穴用スナップリング
10 ピストン上蓋
11 オーリング
12 通気口(A)
13 ピストン
14 弁ガイド
15 通気口(B)
16 スプリング(B)
17 ピストン下蓋
18 弁シャフト
19 キャップ
20 サンプリング弁
21 液面
22 液中
23 サンプリング液
24 析出気体
25 シリンダ
26 リング吸入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端が閉じた中空のシリンダと、シリンダ内で気密に摺動可能なピストンと、弾性力によりピストンに力を加えるスプリングと、シリンダに設けられたサンプリング弁とを有し、サンプリング弁を通してシリンダの閉じた側とピストンとの間の空間に試料溶液を流入させ、スプリングの弾性力によりピストンに力を加えて該空間を減圧し、減圧により試料溶液中の溶存ガスを析出させ、析出した溶存ガスの体積により変動するピストンの停止位置を読み取ることにより、該試料溶液中の溶存ガス濃度を計測することができることを特徴とする、携帯型溶存ガス濃度検知器。
【請求項2】
前記ピストンが中空でピストン上蓋とピストン下蓋を有するピストンであり、該ピストン下蓋と気密に摺動可能で該ピストンに収納される弁シャフトをさらに有し、該弁シャフトの一端がスプリング(B)で該ピストン下蓋と連結され、該弁シャフトの他端がサンプリング弁と連結されていることにより、前記ピストンをシリンダに押し込み戻すときに試料溶液のサンプリングが可能なことを特徴とする、請求項1に記載の携帯型溶存ガス濃度検知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−237690(P2012−237690A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107752(P2011−107752)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(591045839)