説明

携帯式ジャッキ

【課題】起重動作が速く、操作中に荷崩れが起き難く、かつ起重後に手を離しても起重した重量物をその位置に保持できる携帯式ジャッキを提供する。
【解決手段】先端に第1の挿入爪24が形成されたベース部材12と、ベース部材12から垂直に立ち上がった案内部材14と、先端に第2の挿入爪28を有し案内部材14の立設方向に沿って摺動自在な移動部材16と、一端のピン連結部が移動部材16と第1のピン32によって連結されたリンク18A,18Bと、屈曲部を有して形成された一方辺の先端がリンク18A,18Bの他端のピン連結部と第2のピン34A,34Bによって連結されるとともに屈曲部がベース部材12と第3のピン38によって連結され、他方辺の延長部が棒状ハンドル22とされた屈曲レバー20A,20Bとを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯式ジャッキに係り、特に災害などの緊急時に使用する救助用具として好適な携帯式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
地震などの災害時には、倒壊した家屋内に取り残された人々を救助するために、いち早く瓦礫や倒壊物を除去しなければならない。緊急時に使用できる身近な救助用具としては、バール、棒などの梃子式部材や自動車をメンテナンスするために自動車に搭載された携帯式のパンタグラフジャッキがある。
【0003】
梃子式部材は部材先端を重量物間の狭い隙間に差し込み、梃子の原理で腕力によって重量物を持ち上げたり、移動させたりすることができ、携帯に便利で起重動作が速いという利点がある。しかしながら、操作中に荷崩れを起こし易く、また、腕力を緩めると持ち上げた重量物が元に戻るので操作中に手を離せないという欠点がある。
【0004】
自動車用のパンタグラフジャッキは百キログラムを超える重量物に対しても適用可能であり、緊急時にも比較的入手し易い利点がある。しかしながら、この種のパンタグラフジャッキはある程度開いた状態から推力を発揮する構造であるため、狭い隙間を拡張する用途にはあまり役に立たない。
【0005】
これらの欠点を克服するために、特許文献1にはX状に交差する一対のリンクの角度を駆動手段によって変える構造の起重装置が開示されている。この起重装置によれば狭い隙間からの重量物の起重が可能であり、操作中に荷崩れを起こす危険性も低い。
【特許文献1】特開2003−201092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された起重装置は駆動手段を備えた比較的大型の専用装置であり、携帯に不便である。また、スクリュウ機構を用いた駆動手段を採用しているので、起重動作が遅いという欠点がある。
【0007】
本発明の目的は上記従来技術の欠点を改善し、携帯に便利で起重動作が速い梃子式部材の長所を生かしつつ、操作中に荷崩れが起き難く、かつ起重後に手を離しても、起重した重量物をその位置に保持できる携帯式ジャッキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る携帯式ジャッキは、先端に第1の挿入爪が形成されたベース部材と、該ベース部材と一体化してベース部材から垂直に立ち上がった案内部材と、先端に前記第1の挿入爪と向き合う第2の挿入爪が形成されて前記案内部材に摺動自在に係合した移動部材と、両端にピン連結部を備え、一端のピン連結部が前記移動部材と第1のピンによって回転自在に連結されたリンクと、屈曲部を有して形成された一方辺の先端が前記リンクの他端のピン連結部と第2のピンによって回転自在に連結されるとともに屈曲部が前記ベース部材と第3のピンによって回転自在に連結され、他方辺の延長部が棒状ハンドルとされた屈曲レバーとを具備し、前記第3のピンを支点として前記屈曲レバーを回動させると前記リンクを介して前記移動部材が前記案内部材に沿って摺動し、前記第1の挿入爪と前記第2の挿入爪との間隔が増減することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る上記構成の携帯式ジャッキは、前記第3のピンを支点として前記屈曲レバーを最大限に回転させて前記第1の挿入爪と前記第2の挿入爪との間隔を拡げた時に、前記第1のピンと前記第3のピンとを結ぶ直線を前記第2のピンが通り過ぎるように各ピンの位置が設定されていることを特徴とする。
上記構成の携帯式ジャッキは、前記ベース部材に前記屈曲レバーの回転角度を制限するストッパが設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の携帯式ジャッキは構造が簡単であり、携帯に便利である。また、棒状ハンドルを垂直位置から水平位置まで倒す1回の操作で重量物を起重できるので、従来のバールと同様に起重動作が速い。また、第1の挿入爪と第2の挿入爪が平行を保った状態で、重量物を垂直に起重するので操作が安定しており、操作中に荷崩れが起き難い。また、起重後に手を離しても、起重した重量物をその位置に保持できるという格別の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明に係る携帯式ジャッキの実施形態を示す分解斜視図であり、図2は同じくその使用前の状態を示した側面図、図3は同じくその使用時の状態を示した側面図、図4は図2のA−A矢視図である。
【0012】
携帯式ジャッキ10は、主にベース部材12と案内部材14と移動部材16と一対のリンク18A,18Bと一対の屈曲レバー20A,20Bと棒状ハンドル22とによって構成される。
【0013】
ベース部材12の先端には第1の挿入爪24が形成され、また、ベース部材12の中央部にはベース部材12と一体化した案内部材14が垂直方向に立設されている。案内部材14には縦方向に案内溝26が形成されている。移動部材16はL字状に形成され、水平辺16aの先端が第1の挿入爪24と向き合う第2の挿入爪28とされている。この水平辺16aの他端から直角に垂直辺16bが上方向に伸びている。垂直辺16bと案内部材14とは背中合せに接しており、垂直辺16bから横方向に突出して設けた駒30が案内部材14の案内溝26を貫通して案内部材14の反対面に張り出している。したがって、移動部材16は垂直辺16bに設けた駒30が案内部材14の案内溝26によって案内されることによって、案内部材14の立設方向に摺動自在とされる。なお、移動部材16は水平辺16aと垂直辺16bとを結ぶ補強材16cによって補強されている。
【0014】
移動部材16の垂直辺16bには、両端にピン連結部を備えたL字状のリンク18A,18Bの一端が第1のピン32を介して回転自在に連結されている。また、リンク18A,18Bの他端はそれぞれ第2のピン34A,34Bを介して一対の屈曲レバー20A,20Bの一方辺36A,36Bの先端と回転自在に連結されている。屈曲レバー20A,20BもL字状に屈曲しており、屈曲部はベース部材12を貫通して配された第3のピン38を介してそれぞれベース部材12と回転自在に連結されている。また、屈曲レバー20A,20Bの他方辺40A,40Bの延長部には連結具42を介して棒状ハンドル22が連結されている。
【0015】
上記構成の携帯式ジャッキ10において、第3のピン38を支点として屈曲レバー20A,20Bを回動させるとリンク18A,18Bを介して移動部材16が案内部材14に沿って摺動し、ベース部材12先端の第1の挿入爪24と移動部材16先端の第2の挿入爪28との間隔が増減する。したがって、図2に示した使用前の状態から、人力によって棒状ハンドル22を回転させると棒状ハンドル22と連結した屈曲レバー20A,20Bが第3のピン38を支点として回転し、移動部材16が案内部材14に沿って上方向に移動する。その結果、使用前には互いに接していた第1の挿入爪24上面と第2の挿入爪28下面が、図3に示したように大きく開く。図5は図2に示した状態(1)の携帯式ジャッキ10が状態(2)、状態(3)を経て図3に示した状態(4)になるまでの状況を示した斜視図である。
【0016】
なお、図2、図3に符号44で示した部材はベース部材12の後端部から張り出した棒状のストッパである。このストッパ44によって、図3に示したように屈曲レバー20A,20Bの回転角度を制約し、案内部材14の頂点に到達した移動部材16が再び下降する逆戻り動作を防止する。
【0017】
図6は上記構成の携帯式ジャッキ10の利用形態を例示した説明図である。災害時では、倒壊した家屋内などに取り残された人々を救助するために、いち早く倒壊物などの重量物を除去しなければならないケースが生じる。このようなケースにおいて、携帯式ジャッキ10を携帯した救助員が倒壊現場に駆けつけ、図6(1)のように当該携帯式ジャッキ10の第1の挿入爪24と第2の挿入爪28とを閉じた状態で地盤50と重量物52との隙間gに挿入する。そして、人力で図5に示したように棒状ハンドル22を垂直位置から水平位置まで倒す。その結果、重量物52をその荷重に抗して持ち上げつつ第1の挿入爪24と第2の挿入爪28との間隔が開くことになり、図6(2)のように地盤50と重量物52との隙間をgにまで拡大でき、救助路の確保に寄与することができる。
【0018】
なお、上記構成の携帯式ジャッキ10は、第3のピン38を支点として屈曲レバー20を最大限に回転させて第1の挿入爪24と前記第2の挿入爪28との間隔を拡げた時に、第1のピン32と第3のピン38とを結ぶ直線を第2のピン34が通り過ぎるように各ピンの位置が設定されている。各ピンをこのような位置に設定すると第1のピン32と第3のピン38とを結ぶ直線を第2のピン34が通り過ぎた瞬間からは、手を離した状態でも起重した重量物をその位置に安定に保持することができる。
【0019】
図7はその力学的な関係を判り易く例示した説明図である。図5に示した状況で第2の挿入爪28によって重量物を起重する際には重量物の荷重Wはリンク18を介して屈曲レバー20の第2のピン34位置に垂直荷重として作用する。図7(1)の初期の段階では、屈曲レバー20における第2のピン34と第3のピン38までの水平間隔をl、人力の作用位置から第3のピン38までの間隔をLとすると、重量物の荷重Wを起重するために必要な人力PはP=(l/L)・Wとなる。また、図7(2)の途中の段階では、荷重Wにより第2のピン34に作用する力は、第2のピン34と第3のピン38を結ぶ直線方向分力Faと、第3のピン38の円周方向分力Fbに分けることができる。各分力の大きさは屈曲レバー20の倒し角度をθとすると、Fa=W・sinθ、Fb=W・cosθで表わせる。このとき、荷重Wを起重するために必要な人力PはP=(l/L)・Fb=(l/L)・W・cosθとなる。したがって、図7(3)の最終の段階では倒し角度θが90度となるため、必要な人力Pは零で済む。
【0020】
図8は上記の関係を示したものであり、重量物を起重するために必要な人力Pは、棒状ハンドル22の垂直位置からの倒し角度θを大きくするに従ってコサインカーブに沿って低減していく。そして、倒し角度θが90度付近になると人力Pは零となり、この零点からさらに棒状ハンドルを倒して第2のピン34が第1のピン32と第3のピン38とを結ぶ直線を通り過ぎた瞬間からは、人力Pはマイナスになる。人力Pがマイナスということは、人力Pに正の力を作用させない場合でも、重量物の荷重によって棒状ハンドル22が自然に倒し角度θを大きく方向に動くことを意味している。したがって、棒状ハンドル22の倒し角度θの最大値が90度付近の零点よりもやや大きいX点となるように、前記ストッパ44の位置を設定しておく。すると棒状ハンドル22が倒し角度θの最大値のX点にある状態では、操作員が棒状ハンドル22から手を離しても、起重した重量物の荷重は棒状ハンドル22をストッパ44に押し付けるように作用する。このため、手を離した状態で起重した重量物をその位置に安定に保持することができる。
【0021】
上述のとおり、本実施形態の携帯式ジャッキ10は構造が簡単であり、携帯に便利である。また、棒状ハンドル22を垂直位置から水平位置まで倒す1回の操作で重量物を起重できるので、従来のバールと同様に起重動作が速い。また、第1の挿入爪24と第2の挿入爪28が平行を保った状態で、重量物を垂直に起重するので操作が安定しており、操作中に荷崩れが起き難い。また、起重後に手を離しても起重した重量物をその位置に保持できるという格別の効果がある。
【0022】
上記実施形態では携帯式ジャッキ10によって重量物を垂直に起重する場合について説明した。しかしながら、携帯式ジャッキ10はこのような用途に限定されない。例えば図6が平面的な図であり、符号50が壁であると仮定し、該携帯式ジャッキ10の挿入爪24,28を壁と重量物52との隙間に挿入し、重量物52を横方向に移動させる場合にも利用できる。この場合には、携帯式ジャッキ10の使用姿勢が大きく変わるので、上記実施形態で説明した方向に関する各種の用語は、適宜読み替えて理解し得るものとする。
【0023】
上記実施形態の携帯式ジャッキ10は、一対のリンク18A,18Bと一対の屈曲レバー20A,20Bを有した構造であった。しかしながら、本発明はこれに限定されず、設計変更によって1個のリンクと1個の屈曲レバーを備えるようにした構造のものを含む。また、屈曲レバーと棒状ハンドルが一体化した構造のものを含む。また、上記実施形態の移動部材16やリンク18や屈曲レバー20A,20Bは挿入爪24,28を対象隙間に挿入し易くするための幾何学的な観点からL字状に形成されていた。しかしながら、本発明に係るこれらの部材の形状はL字状に限定されず、実用性を確保できる範囲で例えば三角形状や円弧状にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る携帯式ジャッキの実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】携帯式ジャッキ10の使用前の状態を示した側面図である。
【図3】携帯式ジャッキ10の使用時の状態を示した側面図である。
【図4】図2のA−A矢視図である。
【図5】携帯式ジャッキ10の動作状況を示す分解斜視図である。
【図6】携帯式ジャッキ10の利用形態を例示した説明図である。
【図7】携帯式ジャッキ10の力学的な関係を示した説明図である。
【図8】人力と倒し角度の関係を示した説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10………携帯式ジャッキ、12………ベース部材、14………案内部材、16………移動部材、16a………水平辺、16b………垂直辺、16c………補強材、18A,18B………リンク、20A,20B………屈曲レバー、22………棒状ハンドル、24………第1の挿入爪、26………案内溝、28………第2の挿入爪、30………駒、32………第1のピン、34A,34B………第2のピン、36A,36B………一方辺、38………第3のピン、40A,40B………他方辺、42………連結具、44………ストッパ、50………地盤、52………重量物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に第1の挿入爪が形成されたベース部材と、該ベース部材と一体化してベース部材から垂直に立ち上がった案内部材と、先端に前記第1の挿入爪と向き合う第2の挿入爪が形成されて前記案内部材に摺動自在に係合した移動部材と、両端にピン連結部を備え、一端のピン連結部が前記移動部材と第1のピンによって回転自在に連結されたリンクと、屈曲部を有して形成された一方辺の先端が前記リンクの他端のピン連結部と第2のピンによって回転自在に連結されるとともに屈曲部が前記ベース部材と第3のピンによって回転自在に連結され、他方辺の延長部が棒状ハンドルとされた屈曲レバーとを具備し、前記第3のピンを支点として前記屈曲レバーを回動させると前記リンクを介して前記移動部材が前記案内部材に沿って摺動し、前記第1の挿入爪と前記第2の挿入爪との間隔が増減することを特徴とする携帯式ジャッキ。
【請求項2】
前記第3のピンを支点として前記屈曲レバーを最大限に回転させて前記第1の挿入爪と前記第2の挿入爪との間隔を拡げた時に、前記第1のピンと前記第3のピンとを結ぶ直線を前記第2のピンが通り過ぎるように各ピンの位置が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の携帯式ジャッキ。
【請求項3】
前記ベース部材に前記屈曲レバーの回転角度を制限するストッパが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の携帯式ジャッキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−261780(P2007−261780A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91038(P2006−91038)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)