説明

携帯端末、及び省エネルギー診断システム

【課題】省エネルギー診断を容易に実施することができる携帯端末、及び省エネルギー診断システムを提供する。
【解決手段】建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器28に基づいて行うための携帯端末10であって、エネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器28を診断対象の建物について特定した個別建物データ27と、設備機器28ごとに予め定められた採取すべき、少なくともエネルギー使用の合理性を判定するために必要なデータのデータ項目Dとに基づいて、診断対象の建物の設備機器28についてデータ項目Dの入力画面17を表示し、入力画面17に入力されたデータ項目Dの値に基づいて、設備機器28についての実施可能な省エネルギー対策を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物が備える設備機器に基づく建物のエネルギー診断技術に係り、特にエネルギー診断の容易化に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大企業だけでなく中小企業にもCO2削減義務が課されるなか、建物の環境負荷削減効果を高め、省エネルギー化を推進するために、建物のエネルギー診断を実施し、診断に基づいて省エネルギー対策が行われている(例えば、非特許文献1参照)。この種の省エネルギー診断には、省エネルギーに関する専門知識と経験を有するエネルギー管理士などの専門家が現地に出向き、現地において建物が備える受電設備、照明設備、空調設備といった、電気エネルギーやガス燃料、石油燃料等の燃料を消費する設備機器の種類、及び、各設備機器の運用状況に関するデータを採取していた。そうして、現地で採取したデータに基づいて建物でのエネルギー使用の実態の合理性を判定し、この判定に基づいて省エネルギー対策を策定し、対策による効果を試算していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】財団法人/省エネルギーセンター、ビルの省エネルギー診断サービスパンフレット、[平成23年3月29日検索]、インターネット、<http://www.eccj.or.jp/audit/buil#serv06/buil.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建物の省エネルギー診断は、建物の規模に係らず実施することが望ましく、定期的に行う必要がある。現地でのデータ採取、及び、採取したデータの管理を容易に行うためには、iPad(登録商標)、ノート型PC(Personnel Computer)、スマートフォン等の携帯端末を好適に用いることが考えられる。しかしながら、エネルギー管理士などの、省エネルギーに関する専門知識と経験を有する人員の数に対し、省エネルギー診断を行う対象建物の数は膨大である。そのため、携帯端末を利用して、データの採取/管理における利便性を向上しても、人員不足から省エネルギー診断を容易に実施することができないという問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、省エネルギー診断を容易に実施することができる携帯端末、及び省エネルギー診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器に基づいて行うための携帯端末であって、前記エネルギー診断に供するデータを採取すべき前記設備機器を前記診断対象の建物について特定した個別建物データと、前記設備機器ごとに予め定められた採取すべき、少なくともエネルギー使用の合理性を判定するために必要なデータのデータ項目とに基づいて、前記診断対象の建物の設備機器について前記データ項目の入力画面を表示し、前記入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、前記設備機器についての実施可能な省エネルギー対策を出力することを特徴とする。
【0006】
また本発明は、上記携帯端末において、前記個別建物データには、前記診断対象の建物での設備機器の運用状況に照らして当該設備機器のデータ項目に入力された値がエネルギーの合理的使用に対して適切か否かを判定するために、前記診断対象の建物に固有に予め設定された基準値を含み、前記設備機器の基準値と、入力された値とを比較して、前記設備機器についてのエネルギー使用の合理性を判定するとともに省エネルギー対策を決定することを特徴とする。
【0007】
また本発明は、上記携帯端末において、複数の建物ごとに前記個別建物データを蓄積したサーバから、診断対象の建物についての個別建物データを取得することを特徴とする。
【0008】
また上記目的を達成するために、本発明は、建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器に基づいて行う省エネルギー診断システムであって、前記エネルギー診断に供するデータを採取すべき前記設備機器を前記診断対象の建物について特定した個別建物データを複数の建物ごとに蓄積したサーバと、診断対象の建物についての前記個別建物データを前記サーバから取得し、当該個別建物データと前記設備機器ごとに予め定められた採取すべきデータのデータ項目とに基づいて、前記診断対象の建物の設備機器について前記データ項目の入力画面を表示し、前記入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、前記設備機器についての実施可能な省エネルギー対策を出力する携帯端末と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、データを採取すべき設備機器を診断対象の建物について特定した個別建物データと、設備機器ごとに予め定められた採取すべきデータ項目とに基づいて、診断対象の建物の設備機器についてデータ項目の入力画面を表示する構成を備えるため、診断対象の建物がどのような設備機器を備えるかを予め調査せずとも、エネルギー診断に要する設備機器について、その場で簡単にデータを採取することができる。
これに加え、入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、設備機器についての実施可能な省エネ対策を出力する構成を備えるため、省エネルギーに関する専門知識や経験が浅く、またデータを採取した設備機器についての知識が十分でなくとも、設備機器について実施可能な省エネエネルギー対策を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した実施形態に係る携帯端末を含む省エネルギー診断システムの概略構成を模式的に示す図である。
【図2】個別建物データのデータ構造を模式的に示した図である。
【図3】携帯端末の省エネ診断のトップ画面を示す図である。
【図4】受変電・配電設備の運用状況入力シートを示す図である。
【図5】変圧器の運用状況入力シートを示す図である。
【図6】照明設備の運用状況入力シートを示す図である。
【図7】熱源設備の運用状況入力シートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係る携帯端末10を含む省エネルギー診断システム100の概略構成を示す模式図である。省エネルギー診断システム100は、オフィスビル、複合商業施設、工場、コンビニエンスストアの店舗等の建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える受電設備、照明設備、空調設備等の設備機器に基づいて行うためのシステムである。設備機器とは、電気エネルギー、或いはガス燃料や石油燃料等の燃料を消費する機器全般を指す。
【0012】
また、省エネルギー診断システム100は、診断対象の建物での設備機器の運用状況に基づいて、当該建物で設備機器が合理的に使用されているか(設備機器によるエネルギーの使用状態が適正か)を診断するエネルギー診断を実施するとともに、この診断結果に基づいて、この設備機器について実施可能な省エネルギー対策を策定し、策定された省エネルギー対策を実施した時の効果を試算して、これらをまとめた省エネルギー診断報告書を作成する。このように、省エネルギー診断システム100は、診断対象の建物が備える設備機器に基づいて、当該建物のエネルギー診断を行うとともに、省エネルギー対策、及び、対策による効果を示すことで当該建物の省エネルギー化推進の支援を行うものである。
【0013】
ここで、設備機器の運用状況とは、設備機器の建物における使用の目的(使用用途)、或いは/及び、建物での設備機器の運用(運転)の仕方を指し、建物ごとに固有な情報である。
建物での設備機器の使用の目的に係る情報には、設備機器に負わせる負荷の程度を定量化して推し量るための情報が含まれる。例えば、設備機器が照明設備や空調設備であれば、使用の目的に係る情報には、照明や空調の対象空間の広さ、対象空間の用途(例えばサーバールーム、共用部、倉庫、居室等)等が含まれる。
また、建物での設備機器の運用の仕方に係る情報には、設備機器の使用(稼働)時間帯や稼働時の動作の設定値等が含まれる。動作の設置には、例えば、空調設備では、夏期、冬期、中間期のそれぞれに対応する空調温度の設定値等が挙げられる。
【0014】
このような運用状況に基づいて、例えば空調設備であれば、対象空間の広さや用途、稼働時間帯等から、当該対象空間の空調に要する空調負荷を推し量り、空調負荷の推定量に基づいて、当該空調負荷を満足するに必要十分な空調設備の台数や出力、或いは空調温度等が求められる。このようにして求められた情報と、建物の空調設備の現状とが乖離するほど、当該空調設備の運用状況が合理的でないと判定されることになる。
【0015】
係る省エネルギー診断システム100は、図1に示すように、携帯端末10、及び、サーバ20から構成され、これら携帯端末10とサーバ20との共同によって省エネルギー診断機能が実現され、また診断報告書30の作成出力機能が実現されている。
携帯端末10は、建物で省エネルギー診断を実施する作業者(以下、「ユーザ」という。)によって携帯し使用され、iPad(登録商標)等のタブレット型コンピュータを好適に用いることができる。例えば、年間のエネルギー使用量が一定以上である特定事業者においては、当該特定事業者が設置しているすべての建物の省エネルギー診断を実施する必要があるが、ユーザは、少なくとも1台の携帯端末10を用いることで、特定事業者が有するすべて建物の省エネルギー診断を実施することが可能となる。
サーバ20は、インターネットや公衆無線通信回線等を含むネットワークNを介して、作業者が出先の診断対象の建物に持ち込んだ携帯端末10と通信する構成である。診断報告書30は、例えば、不図示のインターネットサーバに保存され、ネットワークNを介して、任意の端末から参照可能に構成されている。
【0016】
サーバ20は、複数の建物ごとに、当該建物が備えるエネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器を特定した個別建物データを蓄積し、携帯端末10は、サーバ20と通信し、診断対象の建物の個別建物データをサーバ20から取得する。また、携帯端末10は、設備機器ごとに予め定められた採取すべきデータのデータ項目の値を入力するために用いられる。携帯端末10は、入力されたデータ項目の値をサーバ20に送信することができる。サーバ20は、携帯端末10から送信されたデータ項目の値に基づいて、当該建物での省エネルギー対策による効果を試算する。
【0017】
携帯端末10は、表示/入力部であるタッチパネル11を備える。タッチパネル11は、例えば、タッチパネル11の複数の点に同時に触れて入力操作を行うことができるマルチタッチスクリーンを備える。また、携帯端末10は、図示は省略したが、携帯端末10の各部を中枢的に制御する制御部を備え、この制御部は、演算実行部としてのCPUや、このCPUに実行される基本制御プログラムをコンピュータに読み取り可能な形態で不揮発的に記憶するROM、CPUに実行されるプログラム(アプリケーション)やこのプログラムに係るデータ等を一時的に記憶するRAM、その他の周辺回路等を備えている。
【0018】
携帯端末10は、携帯端末10にインストールされている複数のアプリケーションを使用可能に構成され、各アプリケーションの開始/切替等の操作はタッチパネル11へのタッチ操作で行うことができる。また、携帯端末10では、図示は省略したが、新規のアプリケーションをネットワークNを介して外部のアプリケーションサーバからダウンロードし、インストールすることで使用可能とすることができる。本実施形態では、携帯端末10には、省エネルギー診断のためのアプリケーションが予めインストールされており、ユーザは、ホーム画面に表示されたアイコンに対してタッチ操作することで、省エネルギー診断を開始することができる。
【0019】
携帯端末10は、記憶部15を備える。記憶部15は、携帯端末10に内蔵されたフラッシュメモリー、或いは、携帯端末10に挿抜可能に備えられるSD(Secure Digital)メモリーカード等のリムーバブルメディアから構成される。記憶部15には、エネルギー状態入力シート群16が記憶される。エネルギー状態入力シート群16は、建物で使用され得る全ての設備機器の運用状況を入力するための複数の入力シート17を有し、各入力シート17は、各設備機器に対応付けて記憶されている。各入力シート17には、エネルギー診断に要する採取すべきデータのデータ項目が設備機器ごとに予め定められている。また、各入力シート17には、対応する各設備機器において、実施する可能性のある省エネルギー対策の候補が予め記されている。採取すべきデータのデータ項目、及び、実施する可能性のある省エネルギー対策は、予め省エネルギーに関する専門知識と経験を有する専門家によって設定され、この設定に基づいて各入力シート17が作成される。
【0020】
エネルギー状態入力シート群16は、例えば、省エネルギー診断のためのアプリケーションを携帯端末10にインストールする際に、アプリケーションサーバからダウンロードされて記憶部15に展開される。また、省エネルギー診断のためのアプリケーションのアップデートを行う際には、アプリケーションサーバで追加/変更された入力シート17が、携帯端末10にダウンロードされ、エネルギー状態入力シート群16に加えられる。
【0021】
サーバ20は、省エネルギー効果試算部21と、記憶部25とを備える。記憶部25には、予め登録された診断対象の建物に関するエネルギー管理データ26が記憶される。エネルギー管理データ26には、登録された建物ごとに個別建物データ27が各建物に対応付けて記憶されている。個別建物データ27には、図2に示すように、対応付けられた建物が備え、省エネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器28(28A,28B・・・)、各設備機器28が備える機種29(29A,29B・・・)が特定され、記憶されている。なお、診断対象の建物が備える設備機器28で、電気やガス燃料、石油燃料等のエネルギーを使用する設備機器28は全て診断対象となる。
【0022】
また、個別建物データ27には、診断対象の建物での設備機器28の上述した運用状況に照らして、各診断対象の建物に固有に予め設定されて基準値NVが含まれている。この基準値NVは、診断対象の建物における各設備機器28が備える機種29の運用状況に応じて、省エネルギーに関する専門知識と経験を有する専門家によって予め設定され、各設備機器28のデータ項目に入力された値が適切か否か(すなわち、建物での運用状態に照らして設備機器28のエネルギーの使用状態の実態が合理的かどうかの合理性)を判定するために用いられる。係る基準値NVは、上述のように、設備機器28の建物での運用状況に基づいて当該設備機器28が担う負荷を推定し、この負荷を担うに必要十分な設備機器28の出力や台数等の値として求められる。勿論、同じ設備機器28であっても、製造メーカや型番等のスペックの違いによっても基準値NVは異なる。この基準値NVは、書き換え自在に記憶され、設備機器の運用状況の変化に応じて専門家によって再考され、書き換えられる。
【0023】
サーバ20は、携帯端末10から送信される、診断対象の建物を特定するための情報を受信し、携帯端末10に、当該建物に特定した個別建物データ27を送信する。診断対象の建物を特定するための情報としては、例えば、携帯端末10に備えられた不図示のGPS受信機で検出された携帯端末10の現在位置情報がある。また、携帯端末10は、サーバ20と通信して、サーバ20に登録されている建物のリストを受信し、このリストの中から診断対象の建物をユーザが選択することで、診断対象の建物を特定する構成であっても良い。
【0024】
携帯端末10は、サーバ20から受信した個別建物データ27に基づいて、診断対象の建物が備えるエネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器28ごとに、予め採取すべきデータのデータ項目が定められた入力シート17をタッチパネル11に表示する。ユーザは、タッチパネル11に表示された画面に基づいて、データ項目の値を入力する。入力されたデータ項目の値は、ネットワークNを介してサーバ20に送信され、サーバ20は、携帯端末10に入力されたデータ項目の値と、サーバ20に記憶されている基準値NVとを比較して当該設備機器でのエネルギーの使用状態の合理性を判定し、省エネルギー対策を策定する。携帯端末10は、サーバ20によって策定された省エネルギー対策を受信し、入力シート17の省エネルギー対策の候補に対して出力し、タッチパネル11に表示する。各設備機器でのエネルギーの使用状態の合理性は、具体的には、携帯端末10に入力された値が、基準値NVからどれだけ離れているかで判定される。
【0025】
サーバ20は、省エネルギー効果試算部21により、策定された省エネルギー対策を実施することによる効果を試算して、試算結果を、エネルギーの使用状態の合理性の判定結果、及び、省エネルギー対策の策定結果とともに、診断報告書30に出力する。診断報告書30は、ネットワークNを介して取得可能であり、携帯端末10の記憶部15に記憶させることもできる。
【0026】
図3は、携帯端末10で、省エネルギー診断のアプリケーションを開始した際にタッチパネル11に表示されるトップ画面50の一例を示す図である。トップ画面50には、建物で使用され得る全ての設備機器28にそれぞれ対応するアイコン51(51A,51B・・・)と、個別建物データ27をサーバ20から読み込むための管理データ読み込みアイコン52と、入力されたデータ項目の値をサーバ20に送信するためのデータ送信アイコン53と、省エネルギー診断の診断報告書30を出力するための報告書アイコン54とが表示される。
【0027】
トップ画面50で、ユーザが管理データ読み込みアイコン52にタッチする操作を行うと、携帯端末10からサーバ20に診断対象の建物を特定するための情報が送信される。サーバ20は、携帯端末10から受信した情報に基づいてこの建物に特定して個別建物データ27を携帯端末10に送信する。
【0028】
携帯端末10は、個別建物データ27を読み込んで、アイコン51A,51B・・・のうち、診断対象の建物のエネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51を選択可能な状態とする。このとき、携帯端末10は、例えば、トップ画面50に表示されたアイコン51A,51B・・・のうち、データを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51の視認性を、データを採取する必要のない設備機器28に対応するアイコンに対して高くすることで、ユーザがデータを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51を認識しやすくする。データを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51の視認性を高くするためには、例えば、データを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51の色の、背景色に対する明度差、彩度差、或いは、色相差を大きくすることで実現することができる。
【0029】
また、携帯端末10は、データを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51以外のアイコン51に対すタッチ操作は検出対象外とすることで、選択不可能な状態としても良い。或いは、携帯端末10は、データを採取すべき設備機器28に対応するアイコン51以外のアイコン51をユーザが選択するタッチ操作を行った場合には、選択不可である旨をユーザに知らせるメッセージを表示しても良い。
【0030】
また、携帯端末10は、サーバ20から読み込んだ個別建物データ27に基づいて、記憶部15に記憶されたエネルギー状態入力シート群16から診断対象の建物が備えるデータを採取すべき設備機器28に対応付けられた入力シート17を抽出する。携帯端末10は、抽出した入力シート17を該当する設備機器28のアイコン51に対応づけ、アイコン51が選択された際にタッチパネル11に表示する。
【0031】
図4から図7は、トップ画面50に表示された設備機器アイコン51A,51B・・・のいずれかが選択された際に、タッチパネル11に表示される入力シート17の一例を示す図である。
図4は、トップ画面50で、受電設備アイコン51Aが選択された際に、タッチパネル11に表示される入力シート17Aの一例である。入力シート17Aには、診断対象の建物が備える受変電・配電設備のエネルギー診断に要する採取すべきデータのデータ項目D1,D2・・・、及び、各データ項目D1,D2・・・の単位19が予め記されている。また、入力シート17Aには、各データ項目D1,D2・・・の値を入力するための入力フィールド18が設けられている。
【0032】
入力フィールド18への値の入力は、携帯端末10が備えるキーボード5を用いて行うことができ、キーボード5は、タッチパネル11に表示されるタッチパネル式のキーボードである。ユーザは、入力シート17Aに表示される各データ項目D1,D2・・・に対応付けて表示される単位19を参考にして、設備機器に係る複数のデータのうち入力すべきデータを判断することができる。
【0033】
ユーザは、ビル等の建物では、中央監視装置に導入されたBEMS(Building and Energy Management System)で取得された各設備機器28の計測データに基づいて採取すべきデータのデータ項目の値を入力フィールド18に入力することができる。BEMSのように、建物が備える設備機器28の運転制御や監視を行う管理システムが導入されていない建物においては、ユーザは、各設備機器28、或いは、各設備機器28に設けられた計器から採取すべきデータの値を取得して入力フィールド18に入力することができる。
【0034】
また、入力シート17Aには、個別建物データ27に含まれる基準値NVが反映される基準値表示フィールド12が設けられる。基準値NVは、基準値NVを表示する必要のあるデータ項目Dに対応づけられて入力シート17に表示される。入力シート17Aに表示される基準値NVは、ユーザがデータ項目の値を入力する際に、入力例として用いられる。入力シート17Aには、さらに、受変電・配電設備の力率調整状態を選択するラジオボタン13がユーザによって選択可能に表示される。また、入力シート17Aには、ページめくりボタン14が表示され、入力シート17Aが複数ページに亘っていることをユーザに知らせる。入力シート17Aで、ページめくりボタン14を選択すると、例えば、図5に示した各変圧器の運用状況を入力する入力シート17Bが表示される。
【0035】
入力シート17Bには、診断対象の建物が備える変圧器のエネルギー診断に要する採取すべきデータのデータ項目D1,D2・・・、及び、各データ項目D1,D2・・・の単位19が予め記されている。また、入力シート17Aには、各データ項目D1,D2・・・の値を入力するための入力フィールド18、及び、基準値表示フィールド12とともに、機種フィールド41が設けられる。この機種フィールド41には、個別建物データ27から取得した診断対象の建物が備える設備機器28の機種29が反映されて表示される。また、入力シート17Bには、入力シート17Bでは設備機器28、ここでは変圧器、で実施可能な省エネルギー対策の候補42がリストされる省エネルギー対策フィールド43が設けられる。
【0036】
各省エネルギー対策の候補42には、チェックボックス44が設けられる。携帯端末10は、入力フィールド18にユーザが入力したデータ項目の値と、基準値NVとを比較して、この機種29の運用状況に照らして機種29のデータ項目に入力された値が適切か否かを判定する。入力された値が、運用状況と照らして適切ではないと判定した場合には、携帯端末10は、実施可能な省エネルギー対策を出力し、省エネルギー対策候補42の対応するチェックボックス44にチェックマークを表示する。また、チェックボックス44は、ユーザによって選択/非選択の状態を反転することができるように構成されている。この構成によれば、ユーザは、タッチパネル11に表示された基準値NVと、入力したデータ項目の値とを比較して、その場で省エネルギー対策を策定し、実施可能な省エネルギー対策を省エネルギー対策候補42の中から選択することができる。
【0037】
図6は、トップ画面50で、照明設備アイコン51Bが選択された際に、タッチパネル11に表示される建物の照明設備のエネルギー診断に要するデータのデータ項目を記した入力シート17Cの一例である。入力シート17Cには、個別建物データ27から読み込まれた診断対象の建物が有する室の情報が反映される室フィールド41Aと、各室が備える照明設備の機種が表示される機種フィールド41Bが表示される。また、それぞれの機種フィールド41Bに対応づけて、各機種の台数と、使用時間とを入力する入力フィールド18、及び、その機種の型式を選択するラジオボタン13が設けられる。照明設備の型式としては、例えばフィラメント式の従来型、インバータ式のHf型、或いは、LED型等がある。
【0038】
また、入力シート17Cには、診断対象の建物が有する室毎に、実施可能な省エネルギー対策の候補42がリストされる省エネルギー対策フィールド43が表示される。各省エネルギー対策の候補42には、チェックボックス44が設けられる。携帯端末10は、入力フィールド18、及び、ラジオボタン13にユーザが入力したデータ項目の値を、個別建物データ27に記憶されている各室の運用状況に照らして、入力されたデータ項目の値が、この室における照明設備の値として適切か否かを判定する。入力されたデータ項目の値が適切ではないと判定した場合には、携帯端末10は、実施可能な省エネルギー対策を出力し、対応するチェックボックス44に、チェックマークを表示する。チェックボックス44は、ユーザによって選択/非選択の状態を反転することができように設けられる。また、省エネルギー対策フィールド43には、実施可能な省エネルギー対策の候補42について、更に詳細な省エネルギー対策実施案45が提示される。省エネルギー対策実施案45としては、照明設備に関しては、例えば、照明の間引き率の提示がある。
【0039】
図7は、トップ画面50で、熱源設備アイコン51Cが選択された際に、タッチパネル11に表示される建物の熱源設備のエネルギー診断に要するデータのデータ項目を記した入力シート17Dの一例である。入力シート17Dには、採取すべきデータのデータ項目D1,D2・・・と、各データ項目D1,D2・・・の単位19と、各データ項目の値を入力する入力フィールド18が設けられる。また、入力シート17Dには、機種フィールド41Cが設けられ、この機種フィールド41Cには、個別建物データ27から取得した、診断対象の建物が備える熱源設備の機種が反映されて表示される。
【0040】
また、入力シート17Dには、診断対象の建物が備える設備器機28の機種毎に、実施可能な省エネルギー対策の候補42がリストされる省エネルギー対策フィールド43が表示される。各省エネルギー対策の候補42には、チェックボックス44が設けられる。携帯端末10は、入力フィールド18にユーザが入力したデータ項目の値を、個別建物データ27に記憶されている各室の運用状況に照らして、入力されたデータ項目の値が、診断対象の建物における熱源設備の値として適切か否かを判定する。入力されたデータ項目の値が適切ではないと判定した場合には、携帯端末10は、実施可能な省エネルギー対策を出力し、対応するチェックボックス44に、チェックマークを表示する。チェックボックス44は、ユーザによって選択/非選択の状態を反転することができるように構成されている。
【0041】
熱源設備においては、基準値NVが夏期、冬期、中間期でそれぞれ違うため、各時期に対応した入力フィールド18が設けられる。ユーザは、それぞれ時期に対応する入力フィールド18に各時期での設定値を入力することで、省エネルギー対策フィールド43には、各時期に対応する省エネルギー対策が表示される。
【0042】
データを採取すべき設備機器28に対応する全ての入力シート17への設備機器28の運用状況に応じた値の入力が完了した後に、ユーザは、図3に示したトップ画面50に表示されたデータ送信アイコン53に対してタッチ操作を行い、診断対象の建物が備える設備機器について採取すべきデータのデータ項目の値が入力された入力シート17をサーバ20に送信する。このとき、携帯端末10は、個別建物データ27に基づいて、採取すべきデータ項目Dの値が全て入力されていかを判定し、データが不足している場合には、ユーザに通知、及び、入力を要求する。
【0043】
サーバ20は、携帯端末10から、ユーザが入力したデータ項目の値を受信し、省エネルギー効果試算部21の働きにより、各設備機器28に対応する入力シート17で出力した、或いは、ユーザによって選択された省エネルギー対策を実施した場合の効果を試算する。また、サーバ20は、入力シート17に示した省エネルギー対策以外に更に実施可能な省エネルギー対策があるか否かを判定し、実施可能な省エネルギー対策を策定して、この対策を実施した場合の効果を試算することもできる。
【0044】
さらに、サーバ20は、各入力シート17に表示された省エネルギー対策の候補42のうち、ユーザによってチェックボックス44の選択/非選択が反転された省エネルギー対策がある場合には、ユーザの選択/非選択の判断が妥当であるかを判定する。サーバ20は、ユーザによって選択された省エネルギー対策を実施した場合、及び、ユーザによって非選択された省エネルギー対策を実施した場合、のそれぞれによって得られる効果を試算して、この試算結果から、ユーザの判断の妥当性を判定する。
【0045】
サーバ20は、省エネルギー効果試算部21が試算した省エネルギー対策による効果を、エネルギーの使用状態の合理性の判定結果、及び、省エネルギー対策の策定結果とともに、診断報告書30に出力する。診断報告書30は、ネットワークNを介して携帯端末10で受信される。具体的には、携帯端末10は、ユーザによって、トップ画面50に表示される報告書アイコン54へのタッチ操作がおこなわれた際に、診断報告書30をネットワークNを介して受信し、タッチパネル11に表示する。
【0046】
以上説明したように、本発明を適用した実施形態によれば、建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器28に基づいて行うための携帯端末10であって、エネルギー診断に供するデータを採取すべき設備機器28を診断対象の建物について特定した個別建物データ27と、設備機器28ごとに予め定められた採取すべき、少なくともエネルギー使用の合理性を判定するために必要なデータのデータ項目Dとに基づいて、診断対象の建物の設備機器28についてデータ項目Dの入力画面を表示し、入力画面に入力されたデータ項目Dの値に基づいて、設備機器28についての実施可能な省エネルギー対策を出力する。これによって、診断対象の建物がどのような設備機器を備えるかを予め調査せずとも、エネルギー診断に要する設備機器について、その場で簡単にデータを採取することができる。これに加え、入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、設備機器についての実施可能な省エネ対策を出力する構成を備えるため、省エネルギーに関する専門知識や経験が浅く、またデータを採取した設備機器についての知識が十分でなくとも、設備機器について実施可能な省エネエネルギー対策を提案することができる。そのため、専門知識を有する人員の人員不足の問題を解消し、定期的に省エネルギー診断を実施することが可能となる。
【0047】
また、本発明を適用した実施形態によれば、個別建物データ27には、診断対象の建物での設備機器28の運用状況に照らして当該設備機器28のデータ項目Dに入力された値がエネルギーの合理的使用に対して適切か否かを判定するために、診断対象の建物に固有に予め設定された基準値NVを含み、設備機器28の基準値NVと、入力された値とを比較して、設備機器28についてのエネルギー使用の合理性を判定するとともに省エネルギー対策を決定する。これによって、入力画面に入力されたデータ項目の値と、診断対象の建物が備える設備機器のエネルギー診断に供するデータの運用状況に照らして予め設定されて基準値とが比較されて、省エネルギー対策が決定されるため、省エネルギーに関する専門知識や経験が浅く、またデータを採取した設備機器についての知識が十分でなくとも、設備機器について実施可能な省エネエネルギー対策を提案することができる。
【0048】
また、本発明を適用した実施形態によれば、複数の建物ごとに個別建物データ27を蓄積したサーバ20から、診断対象の建物についての個別建物データ27を取得するため、複数の診断対象の建物を有する特定事業者等のユーザで、ユーザが有する診断対象の建物の追加/削除/変更、各診断対象の建物が備える設備機器28の追加/削除/変更、或いは、各設備機器28の運用状況の変更が不定期に行われるような場合でも、診断対象の建物、及び、当該建物が備える設備機器について特定した個別建物データ27をサーバ20で一括管理できるため、利便性が向上する。
【符号の説明】
【0049】
10 携帯端末
16 エネルギー状態入力シート群
17 入力シート(入力画面)
20 サーバ
26 エネルギー管理データ
27 個別建物データ
28 設備機器
42 省エネルギー対策候補
100 省エネルギー診断システム
D データ項目(採取すべきデータ)
NV 基準値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器に基づいて行うための携帯端末であって、
前記エネルギー診断に供するデータを採取すべき前記設備機器を前記診断対象の建物について特定した個別建物データと、前記設備機器ごとに予め定められた採取すべき、少なくともエネルギー使用の合理性を判定するために必要なデータのデータ項目とに基づいて、
前記診断対象の建物の設備機器について前記データ項目の入力画面を表示し、
前記入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、前記設備機器についての実施可能な省エネルギー対策を出力する
ことを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記個別建物データには、前記診断対象の建物での設備機器の運用状況に照らして当該設備機器のデータ項目に入力された値がエネルギーの合理的使用に対して適切か否かを判定するために、前記診断対象の建物に固有に予め設定された基準値を含み、
前記設備機器の基準値と、入力された値とを比較して、前記設備機器についてのエネルギー使用の合理性を判定するとともに省エネルギー対策を決定することを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
複数の建物ごとに前記個別建物データを蓄積したサーバから、診断対象の建物についての個別建物データを取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯端末。
【請求項4】
建物を対象としたエネルギー診断を、診断対象の建物が備える設備機器に基づいて行う省エネルギー診断システムであって、
前記エネルギー診断に供するデータを採取すべき前記設備機器を前記診断対象の建物について特定した個別建物データを複数の建物ごとに蓄積したサーバと、
診断対象の建物についての前記個別建物データを前記サーバから取得し、当該個別建物データと前記設備機器ごとに予め定められた採取すべきデータのデータ項目とに基づいて、前記診断対象の建物の設備機器について前記データ項目の入力画面を表示し、前記入力画面に入力されたデータ項目の値に基づいて、前記設備機器についての実施可能な省エネルギー対策を出力する携帯端末と、
を備えたことを特徴とする省エネルギー診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−226432(P2012−226432A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91159(P2011−91159)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(501436861)株式会社イーアンドイープラニング (12)