説明

搾乳機のメンテナンス方法

【課題】 作業工数の低減に基づくメンテナンスの時間短縮及び容易化を実現するとともに、劣化した部品をそのまま使い続けてしまう不具合を回避する。
【解決手段】 乳牛Cに対して搾乳を行う搾乳ユニットUa(Ub)及びこの搾乳ユニットUa(Ub)に付属する表示部3を有するコントローラ2を備える搾乳機Mのメンテナンスを行うに際し、予め、搾乳ユニットUa(Ub)に係わる一又は二以上の所定の部品Px…の寿命期間に対する初期データDmを設定し、かつ表示部3に初期データDmに対応する寿命期間Zmの表示を行うとともに、搾乳時に、少なくともコントローラ2から搾乳ユニットUa(Ub)の動作期間Tsに係わる動作期間データDpを収集し、この動作期間データDpに基づいて寿命期間Zmの設定の変更及び表示の変更を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搾乳ユニットに付属する表示部を有するコントローラを備える搾乳機のメンテナンスを行う際に用いて好適な搾乳機のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乳牛に対して搾乳を行う搾乳機は知られており、例えば、特許文献1には、乳牛の乳房に装着するティートカップを備えるとともに、このティートカップと真空ライン間を主真空チューブを介して接続し、かつ主真空チューブにパルセータを接続してティートカップに対して負圧の脈動を付与するティートカップ駆動系と、ティートカップにより搾乳された生乳を送り出すミルクチューブを開閉するシャットオフバルブと、このシャットオフバルブと主真空チューブ間を補助真空チューブを介して接続し、かつ補助真空チューブに対して切換弁を接続することによりシャットオフバルブを開閉するシャットオフバルブ制御系とを備えた搾乳機が開示されている。
【0003】
ところで、この種の搾乳機は、搾乳時に、乳房(乳頭)を包むティートカップを装着し、ティートカップに対して負圧の脈動を付与することにより、ゴム素材で形成したティートカップライナ(ライナ)を萎めたり広げたりする伸縮動作を行うため、ゴム素材のライナは使用と共に劣化する。具体的には、真空圧の影響により延びを生じ、弾力性を失うことにより吸引後の復帰時間に遅れを生じるなど、搾乳性能の低下を招いてしまう。したがって、通常は、定期的にメンテナンスを行い、劣化により寿命に達したライナを新しいライナに交換している。
【0004】
従来、このようなメンテナンスにおいて、ライナの劣化を確認する方法としては、特許文献2で開示されるティートカップライナの劣化確認方法が知られている。この劣化確認方法は、ティートカップライナのリップ部に棒状の測定器を当接させて通常の搾乳時と同じ方法で真空圧源を作動させ、一定時間後に測定器の側面のゲージがライナのリップ部から出ているかどうかを確認することによりライナの交換時期を判断するものであり、これに基づいて、劣化したライナの交換を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−330187号公報
【特許文献2】特開2008−092889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来におけるティートカップライナの劣化確認方法は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
第一に、メンテナンス時には、ティートカップライナの劣化を確認するための手順に沿った一連の確認作業が必要になる。したがって、確認作業に要する工数の増加を招くなど、メンテナンスに時間がかかり、メンテナンス作業が大変となる。
【0008】
第二に、メンテナンス時以外には劣化を容易に確認できないため、ティートカップライナが現在どのような劣化状態にあるかを情報として知ることができない。したがって、ティートカップライナが寿命に達しているにも拘わらず、劣化したティートカップライナを次回のメンテナンスまで使い続けてしまう虞れがある。
【0009】
第三に、ティートカップライナに装着する別途の測定器が必要になる。したがって、測定器の携帯が必要になるという煩わしさを招くとともに、メンテナンス時には、測定器によりティートカップライナの内部を無用に汚してしまう虞れもある。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した搾乳機のメンテナンス方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る搾乳機Mのメンテナンス方法は、上述した課題を解決するため、乳牛Cに対して搾乳を行う搾乳ユニットUa(Ub)及びこの搾乳ユニットUa(Ub)に付属する少なくとも表示部3を有するコントローラ2を備える搾乳機Mのメンテナンスを行うに際し、予め、搾乳ユニットUa(Ub)に係わる一又は二以上の所定の部品Px…の寿命期間に対する初期データDmを設定し、かつ表示部3に初期データDmに対応する寿命期間Zmの表示を行うとともに、搾乳時に、少なくともコントローラ2から搾乳ユニットUa(Ub)の動作期間Tsに係わる動作期間データDpを収集し、この動作期間データDpに基づいて寿命期間Zmの設定の変更及び表示の変更を行うことを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、コントローラ2には、搾乳ユニットUa(Ub)に備える自動離脱装置Ea(Eb)に内蔵するコントローラを適用できる。また、所定の部品Px…には、少なくともティートカップ5…に備えるティートカップライナ5p…を含ませることができる。一方、動作期間データDpには、少なくともパルセータ4の動作を制御するパルス制御信号Spのサイクル数の累積データDpsを含ませることができる。他方、表示部3には、所定の部品Px…の、全寿命期間Zm,及び現在における使用可能な残期間Zr又は現在の使用済期間とを、数値表示部Ks及び/又はグラフィック表示部Kiにより表示することができる。さらに、所定の部品Px…の全寿命期間Zmの終了及び/又は当該終了に対して予め設定した所定期間Tr手前でアラーム報知を行うアラーム報知部6を設けることができる。
【発明の効果】
【0013】
このような手法による本発明に係る搾乳機Mのメンテナンス方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 予め、搾乳ユニットUa(Ub)に係わる一又は二以上の所定の部品Px…の寿命期間に対する初期データDmを設定し、かつ表示部3に初期データDmに対応する寿命期間Zmの表示を行うとともに、搾乳時に、少なくともコントローラ2から搾乳ユニットUa(Ub)の動作期間Tsに係わる動作期間データDpを収集し、この動作期間データDpに基づいて寿命期間Zmの設定の変更及び表示の変更を行うようにしたため、メンテナンスにより所定の部品Px…の劣化の確認を行う作業が不要になり、作業工数の低減に基づくメンテナンスの時間短縮及び容易化を実現できる。
【0015】
(2) 所定の部品Px…が現在どのような劣化状態にあるかの情報を容易に知ることができるため、所定の部品Px…が寿命に達しているにも拘わらず、劣化した部品Px…をそのまま使い続けてしまう不具合を回避できる。しかも、劣化を確認するための別途の測定器は必要になり、測定器を携帯する煩わしさや測定器により部品Px…を汚してしまう不具合を解消できる。
【0016】
(3) 好適な態様により、コントローラ2に、搾乳ユニットUa(Ub)に備える自動離脱装置Ea(Eb)に内蔵するコントローラを適用すれば、既存のコントローラ及びこのコントローラに付属する表示部3をそのまま利用(兼用)することができ、容易かつ低コストに実施できる。
【0017】
(4) 好適な態様により、所定の部品Px…に、少なくともティートカップ5…に備えるティートカップライナ5p…を含ませれば、最も頻繁に交換が必要となる部品に適用できるため、本発明に係るメンテナンス方法による最も大きいパフォーマンスを得ることができる。
【0018】
(5) 好適な態様により、動作期間データDpに、少なくともパルセータ4の動作を制御するパルス制御信号Spのサイクル数の累積データDpsを含ませれば、負圧による拍動が作用するティートカップ5…に備えるティートカップライナ等の劣化に密接に関連する動作期間データDpを収集できるため、当該ティートカップライナ等に係わる、より正確な寿命期間Zmを得ることができる。
【0019】
(6) 好適な態様により、表示部3に、所定の部品Px…の、全寿命期間Zm,及び現在における使用可能な残期間Zr又は現在の使用済期間とを、数値表示部Ks及び/又はグラフィック表示部Kiにより表示するようにすれば、数値表示部Ksにより残期間Zrを正確に把握できるとともに、グラフィック表示部Kiにより残期間Zrを視覚的に容易に把握できる。
【0020】
(7) 好適な態様により、所定の部品Px…の全寿命期間Zmの終了及び/又は当該終了に対して予め設定した所定期間Tr手前でアラーム報知を行うアラーム報知部6を設ければ、部品Px…の交換時期を確実に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好適実施形態に係る搾乳機のメンテナンス方法によるティートカップライナの使用可能な残存期間の表示処理手順を示すフローチャート、
【図2】同搾乳機を備える搾乳システムの全体を示す模式的平面図、
【図3】同メンテナンス方法を適用する搾乳機及びこの搾乳機に備える自動離脱装置を抽出して拡大した背面図、
【図4】同メンテナンス方法を適用する搾乳機に備える自動離脱装置における系統回路図、
【図5】同メンテナンス方法を適用する搾乳機に備える搾乳ユニットにおけるティートカップライナの断面正面図、
【図6】同メンテナンス方法を適用する搾乳機に備える自動離脱装置におけるパルセータに付与するパルス制御信号の信号波形図、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る搾乳機Mのメンテナンス方法の理解を容易にするため、搾乳機Mを備える搾乳システムの概要について、図2を参照して説明する。
【0024】
図2は、繋留牛舎H内に設置された搾乳システム50全体の概要を示す。繋留牛舎Hは多数のストールAs…が配列するストール群A1…が設けられた搾乳ゾーンHsとこの搾乳ゾーンHsに隣接したメンテナンスゾーンHcを有する。搾乳ゾーンHsにおいて、Wは作業者が通行可能な通路であり、この通路Wの両側に、各ストールAs…が当該通路Wに沿って順次配されるとともに、各ストールAs…には乳牛C…が繋留される。図2に示す繋留牛舎Hは、二つの平行したストール群A1,A2を備える。そして、ストール群A1(A2側も同じ)の上方に、ストール群A1に沿った搾乳システム50が設置されるとともに、このストール群A1の前方に、ストール群A1に沿った図示を省略した給餌システムが設置される。また、メンテナンスゾーンHcには、後述する搾乳機M…が待機するホームポジションPoを有するとともに、洗浄装置等のメンテナンス設備及び後述する管理コンピュータ20を設置する管理室などを備える。
【0025】
搾乳システム50は、ストール群A1,A2の上方に配したガイドレール部51を備える。ガイドレール部51は、ストール群A1に沿って配した主レール51mと、この主レール51mの中途位置から直角方向に分岐し、かつストールAsとAs…間に配した複数の分岐レール51s…を備える。分岐レール51s…は、配列するストールAs…に対して一つ置き、即ち、相隣る分岐レール51sと51s…間に二つのストールAs…が入るように配する。また、ストール群A1における分岐レール51sの先端前方には、ミルクライン及び真空ラインを配設する。ミルクライン及び真空ラインはストール群A1に沿って配し、各分岐レール51sに対向する位置にはタップ(ミルクタップ)を配設する。このタップには、後述する搾乳機Mの先端に配設したディストリビュータが着脱する。
【0026】
次に、本実施形態に係るメンテナンス方法の対象となる搾乳機Mの構成について、図2〜図5を参照して説明する。
【0027】
搾乳機Mは、上述した搾乳システム50のガイドレール部51に装填する。図2に示すように、例示の搾乳システム50には、二台の搾乳機M,Mを装填する。これにより、各搾乳機M…はそれぞれ独立して移動するとともに、ガイドレール部51に沿って各分岐レール51s…まで移動することができる。搾乳機Mは、図3に示すように、ガイドレール部51上を走行するキャリア部30と、このキャリア部30に搭載した主コントローラ31と、キャリア部30の両側に吊下げた左右一対の搾乳ユニットUa,Ubを備える。キャリア部30には駆動モータを用いた駆動部32を備え、この駆動部32は主コントローラ31により駆動制御される。この場合、キャリア部30の停止や移動方向の制御は、キャリア部30に設けた検出部(検出センサ)がガイドレール部51の所定位置に配した被検出部を検出することにより行われる。
【0028】
一方、搾乳ユニットUa(搾乳ユニットUb側も同じ)は、図3に示すように、パルセータ4(図4)を内蔵する自動離脱装置Eaを備えるとともに、乳牛Cの各乳頭Cb…に装着する四つのティートカップ5…,ミルククロー41等を備えて構成する。また、ティートカップ5…,ミルククロー41,自動離脱装置Ea及びディストリビュータ(不図示)間を接続する複数のミルクチューブLm…を備えるとともに、ティートカップ5…,自動離脱装置Ea及びディストリビュータ(不図示)間を接続する複数の真空チューブLv…を備える。さらに、自動離脱装置Eaから繰出される離脱用ワイヤ42はミルククロー41に接続する。
【0029】
図5は、一つのティートカップ5を抽出して示す。ティートカップ5は、硬質素材により細長いカップ状に形成したティートカップシェル45と、このティートカップシェル45の内部に収容したゴム素材により形成したティートカップライナ(以下、ライナと略記)5pを同軸上に組合わせて構成する。これにより、ティートカップシェル45とライナ5p間には密閉された吸引空間46が形成される。また、ライナ5pの上端口は、乳牛Cの乳頭Cbが挿入されるリップ部47として形成するとともに、下端口はティートカップシェル45の底部を通して外部に導出させ、ミルククロー41に接続する。さらに、ティートカップシェル45の内部は真空チューブLvに接続する。
【0030】
一方、図4は、自動離脱装置Eaの内部に備える系統回路を抽出して示す。2はコントローラであり、コントローラ本体11とメモリ12を備える。メモリ12は、少なくとも各種データを書込むデータエリア12dと各種プログラムを格納するプログラムエリア12pを有するとともに、コントローラ本体11は、コンピュータ機能を備え、各種プログラムに基づく一連の制御処理(シーケンス制御処理)をはじめ、データ演算処理,データ記憶処理,データ通信処理及びデータ入出力処理等の各種データ処理(コンピューティング処理)を実行する。したがって、プログラムエリア12pには、本実施形態に係るメンテナンス方法を実行するための処理プログラムを格納し、後述する次の処理、即ち、予め、搾乳ユニットUaに係わる所定の部品Pxの寿命期間に対する初期データDmを設定し、かつ表示部3に初期データDmに対応する寿命期間Zmの表示を行うとともに、搾乳時に、少なくともコントローラ2から搾乳ユニットUaの動作期間Tsに係わる動作期間データDpを収集し、この動作期間データDpに基づいて寿命期間Zmの設定の変更及び表示の変更に係わる処理を行うことができる。本実施形態に係るメンテナンス方法に、このような自動離脱装置Eaに内蔵するコントローラ2を用いれば、既存のコントローラ及びこのコントローラに付属する表示部をそのまま利用(兼用)することができ、容易かつ低コストに実施できる利点がある。
【0031】
また、自動離脱装置Eaは、全体がハウジングにより覆われ、図3に示すように、ハウジングの背面側には操作パネルEafを配設する。そして、この操作パネルEafの上部側には、各種表示を行う液晶パネル等を用いた表示部3を配設するとともに、下部側には、各種入力キーや各種表示ランプを備える操作部7を配設し、この表示部3と操作部7は、コントローラ2に接続する。この場合、表示部3には、図4に示すように、所定の部品Pxの寿命期間Zmの表示を行う寿命期間表示エリア3pを設ける。さらに、この寿命期間表示エリア3pには、所定の部品Pxの全寿命期間Zm及び現在における使用可能な残期間Zrをグラフィックにより表示するグラフィック表示部Kiを設けるとともに、当該残期間Zrを数値により表示する数値表示部Ksを設ける。例示は、所定の部品Pxの全寿命期間Zmに対応する横方向に長いバーを表示し、このバーに残期間Zrを色替等により表示した。このような寿命期間表示エリア3pを設ければ、数値表示部Ksにより残期間Zrを正確に把握できるとともに、グラフィック表示部Kiにより残期間Zrを視覚的に容易に把握できる利点がある。
【0032】
一方、所定の部品Pxの全寿命期間Zmの終了及び/又は当該終了に対して予め設定した所定期間Tr手前でアラーム報知を行うアラーム報知部6を設ける。例示は操作部7に備える表示ランプを用いた場合を示す。この場合、アラーム報知は、例えば、表示ランプを点滅させて行うため、使用する表示ランプは、専用の表示ランプを設けてもよいし、他の表示ランプを兼用してもよい。また、必要により後述する通信部15を介して管理コンピュータ20に送信し、管理コンピュータ20にアラーム表示するなどによりアラーム報知してもよい。さらに、全寿命期間Zmの終了に対して予め設定した所定期間Tr手前で予備表示によるアラーム報知を行ってもよいし、必要によりチャイム等の音によりアラーム報知してもよいなど、各種形態により実施可能である。このようなアラーム報知部6を設ければ、部品Pxの交換時期を確実に知ることができる利点がある。
【0033】
他方、自動離脱装置Eaにおけるハウジングの内部には、前述した離脱用ワイヤ42を巻取る巻取機構を駆動する巻取モータ14を配設する。この巻取モータ14は、モータドライバ13を介してコントローラ2に接続する。また、コントローラ2に接続した通信部15を備え、この通信部15を介して管理室に設置した管理コンピュータ20と相互通信可能に構成する。さらに、自動離脱装置Eaにはパルセータ(パルセータバルブ)4を内蔵する。コントローラ2は、このパルセータ4にパルス制御信号Spを付与し、ON/OFF制御することができる。なお、コントローラ2には、自動離脱装置Eaの外部に付設する乳量計16及び乳汁センサ17を接続する。18は自動離脱装置Eaに備える電源部を示している。
【0034】
よって、このような搾乳システム50及び搾乳機Mにより、各ストールAs…に対して搾乳機M…を自動又は手動(例示は自動)により移動させ、各搾乳ユニットUa,Ubにより各ストールAs…に繋留された乳牛C…に対して順次搾乳を行うことができる。一方、搾乳時には、各ティートカップ5…を乳牛Cの乳頭Cb…に装着する。この際、コントローラ2から、図6に示すパルス制御信号Spがパルセータ4に付与され、ON期間ではティートカップ5…に繋がる真空チューブLvが吸引状態になるとともに、OFF期間では真空チューブLvが大気に開放される。これにより、ライナ5pは、ON/OFF期間に対応して、図5に示す実線位置/仮想線位置に伸縮し、乳牛Cに対する搾乳が行われる。なお、パルス制御信号Spの毎分サイクル数(拍動数)は60〔回〕程度、ON時間Ton対OFF時間Toffの比率(拍動比)は6:4程度である。
【0035】
次に、本実施形態に係るメンテナンス方法を含む搾乳機Mの動作について、図2〜図6を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0036】
本実施形態では、所定の部品Pxとして、ライナ(ティートカップライナ)5pを例示する。最初に、ライナ5pの寿命期間Zmに対応するパラメータの初期設定を行う(ステップS1)。前述したように、ライナ5pはゴム素材により形成し、使用時には毎分60回程度の伸縮を繰り返すため、寿命は比較的短く、そのメンテナンスは重要である。実際、頻繁に使用した場合、1カ月程度で交換の必要があり、使用頻度が少なければ、6ケ月以上交換されないこともある。したがって、本実施形態に係るメンテナンス方法を、このようなライナ5pに用いれば、最も頻繁な交換を要する部品に適用できるため、本発明に係るメンテナンス方法による最も大きいパフォーマンスを得ることができる。
【0037】
また、ライナ5pの寿命期間Zmに対応するパラメータには使用頻度を用いる。より具体的には、ユーザサイドで認識しやすい搾乳回数(搾乳頭数)を用いる。なお、このような寿命期間Zmに対応する搾乳回数は、メーカサイドの推奨値やユーザサイドの経験値等により予め知ることができる。通常、ライナ5pの寿命期間Zmに対応する搾乳頭数は1,500頭程度である。したがって、新しいライナ5pを使い始める際には、寿命期間Zmに対応する初期データとして「1,500」を操作部7から入力して初期設定する。これにより、図4に示すように、表示部3の寿命期間表示エリア3pにおけるグラフィック表示部Kiのバーは全て着色表示されるとともに、数値表示部Ksには「1,500」が数値表示される(ステップS2)。この場合、グラフィック表示部Kiは「寿命目安」として表示され、数値表示は搾乳可能な「残回数」として表示される。
【0038】
一方、搾乳機MがホームポジションPoから最初に搾乳を行うストールAsに移動すれば、搾乳機Mのティートカップ5…が乳牛Cの乳頭Cb…に装着され、搾乳処理が行われる(ステップS3)。また、搾乳中は、本発明に係るメンテナンス方法に従って、各搾乳ユニットUa(Ub側も同じ)における動作期間データDpの収集を行う(ステップS4)。ところで、例示の場合、寿命期間Zmのパラメータを搾乳回数により設定するため、各乳牛C…に対して搾乳処理を1回としてカウントすれば、最も単純な動作期間データDpとして収集できる。しかし、この場合、搾乳時間が長くなる乳牛Cもいれば、短くなる乳牛Cもいるため、搾乳時間が各乳牛C…毎にバラつき、使用頻度を求める観点からは必ずしも正確なデータ(情報)とはならない。
【0039】
そこで、本実施形態では、搾乳中におけるパルセータ4の拍動数、即ち、パルス制御信号Spのサイクル数をカウントするようにしている。前述した搾乳回数「1,500」はパルセータ4の拍動数に換算可能である。一頭の標準的な搾乳時間を5〔分〕とした場合、一回の搾乳時におけるパルス制御信号Spのサイクル数は、5〔分〕×60〔回〕=300〔回〕となるため、1,500頭では、300×1,500=450,000〔回〕となる。したがって、寿命期間Zmを搾乳回数で表示するとしても、データ処理上はパルス制御信号Spのサイクル数を用いれば、より正確な使用頻度を把握することができる。このような理由により、本実施形態では、動作期間データDpとして、少なくともパルセータ4の動作を制御するパルス制御信号Spのサイクル数の累積データDps(図6参照)を含ませた。これにより、負圧による拍動が作用するティートカップ5…に備えるティートカップライナ等の劣化に密接に関連する動作期間データDpを収集できるため、当該ティートカップライナ等に係わる、より正確な寿命期間Zmを得れる利点がある。
【0040】
そして、搾乳処理が終了すれば、動作期間データDp、即ち、一回の搾乳中におけるパルス制御信号Spのサイクル数の累積データDpsを取込むデータ取込処理を行う(ステップS5,S6)。今、乳牛Cの搾乳時間が比較的長くかかり、パルス制御信号Spのサイクル数が400〔回〕であったとすれば、この搾乳時における動作期間データDpは、「400」として取込み、メモリ12に書き込む。また、「450,000」から「400」を減算し、「449,600」を現在値としてセット(書換え)する(ステップS7)。さらに、残回数を演算してセット(書換え)する(ステップS8)。残回数を演算するには、「449,600」を「300」(標準値)で除算して求めることができる。なお、除算結果は、小数点以下を四捨五入するなどの方法により残回数としてセットできる。例示の場合、「1,499」(回)となる。
【0041】
また、表示部3の寿命期間表示エリア3pには、セットした残回数を表示する(ステップS9)。即ち、数値表示部Ksにおける残回数の表示を、「1,500」から「1,499」に変更するとともに、グラフィック表示部Kiにおけるバーの着色部分を一頭分だけ減じる変更を行う。なお、この場合、例えば、搾乳した乳牛Cが標準よりも二倍程度の搾乳時間がかかった場合、実際には一頭の搾乳であっても二頭分を減じることになる。この後、搾乳作業が継続する限り、同様の処理が繰り返して行われる(ステップS10,S3…)。
【0042】
ところで、搾乳機Mの場合、一連の搾乳作業が終了すれば、ホームポジションPoに戻され、洗浄が行われる。特に、洗浄時には、酸性溶液やアルカリ性溶液が使用されるため、ティートカップ5…の劣化要因となる。このような搾乳以外の劣化要因が存在する場合、予め、前述した初期データ「1,500」或いは「450,000」を、これらの劣化要因を考慮した値にしたり、或いは、一回の洗浄に要する補正値を、パルス制御信号Spのサイクル数に換算して設定し、洗浄時に、搾乳時と同様のデータ処理を行って残回数等を演算するようにしてもよい。
【0043】
他方、搾乳機Mの使用が繰り返されることにより残回数が減少し、数値表示部Ksにおける残回数の表示が「0」に達するとともに、グラフィック表示部Kiにおけるバーの着色部分も0になれば、作業者はライナ5pが寿命に達したことを知ることができる。この場合、アラーム報知部6における表示ランプを点滅させてアラーム報知を行う(ステップS11)。これにより、作業者はライナ5pが寿命に達し、交換時期にあることを確実に知ることができる。また、前述したように、必要により通信部15を介して管理コンピュータ20に送信し、管理コンピュータ20のアラーム表示等によりアラーム報知してもよい。なお、必要により、残回数が、例えば、「30」になったら予備表示するなどしてもよい。そして、このようなアラーム報知により作業者(又はサービスマン)は、劣化したライナ5pを新しいライナ5pに交換することができる(ステップS12)。また、交換を行ったなら、前述した初期データの設定を行えばよい(ステップS1…)。
【0044】
よって、このような本実施形態に係るメンテナンス方法によれば、予め、搾乳ユニットUa(Ub)に係わるライナ5pの寿命期間に対する初期データDmを設定し、かつ表示部3に初期データDmに対応する寿命期間Zmの表示を行うとともに、搾乳時に、コントローラ2から搾乳ユニットUaの動作期間Tsに係わる動作期間データDpを収集し、この動作期間データDpに基づいて寿命期間Zmの設定の変更及び表示の変更を行うようにしたため、メンテナンスによりライナ5pの劣化の確認を行う作業が不要になり、作業工数の低減に基づくメンテナンスの時間短縮及び容易化を実現することができる。また、ライナ5pが現在どのような劣化状態にあるかの情報を容易に知ることができるため、ライナ5pが寿命に達しているにも拘わらず、劣化したライナ5pをそのまま使い続けてしまう不具合を回避できる。しかも、劣化を確認するための別途の測定器は必要になり、測定器を携帯する煩わしさや測定器によりライナ5pを汚してしまう不具合も解消できる。
【0045】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の手法,構成,形状,素材,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0046】
例えば、実施形態では、所定の部品Pxとして、ライナ5pを示したが、他の部品Px…として、真空チューブLv,ゴム素材を用いたパッキン,バルブの弁体等に対しても同様に適用でき、これらの一又は二以上をそれぞれ表示部3に表示してもよい。また、動作期間データDpとして、パルス制御信号Spのサイクル数の累積データDpsを用いたが、搾乳時間の時間データを用いてもよいし、前述した搾乳回数をそのまま動作期間データDpとして用いる場合を排除するものではない。一方、例示は、現在における使用可能な残期間Zrを表示する場合を示したが、現在の使用済期間を表示してもよい。さらに、数値表示部Ks及びグラフィック表示部Kiの双方を表示した場合を示したが、いずれか一方のみを表示してもよい。他方、表示部3に寿命期間表示エリア3pを設けた場合を示したが、寿命期間表示エリア3pを表示する専用の表示部を別途追加して設ける場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るメンテナンス方法は、搾乳ユニットに付属する表示部を有するコントローラを備える各種の搾乳機に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
2:コントローラ,3:表示部,4:パルセータ,5…:ティートカップ,5p…:ティートカップライナ,6:アラーム報知部,M:搾乳機,C:乳牛,Ua:搾乳ユニット,Ub:搾乳ユニット,Px:所定の部品,Ts:動作期間,Zm:寿命期間,Dps:累積データ,Ea:自動離脱装置,Eb:自動離脱装置,Sp:パルス制御信号,Ks:数値表示部,Ki:グラフィック表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳牛に対して搾乳を行う搾乳ユニット及びこの搾乳ユニットに付属する少なくとも表示部を有するコントローラを備える搾乳機のメンテナンスを行う際における搾乳機のメンテナンス方法であって、予め、前記搾乳ユニットに係わる一又は二以上の所定の部品の寿命期間に対する初期データを設定し、かつ前記表示部に前記初期データに対応する寿命期間の表示を行うとともに、搾乳時に、少なくとも前記コントローラから前記搾乳ユニットの動作期間に係わる動作期間データを収集し、この動作期間データに基づいて前記寿命期間の設定の変更及び表示の変更を行うことを特徴とする搾乳機のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記コントローラは、前記搾乳ユニットに備える自動離脱装置に内蔵するコントローラであることを特徴とする請求項1記載の搾乳機のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記所定の部品には、少なくともティートカップに備えるティートカップライナを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の搾乳機のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記動作期間データには、少なくともパルセータの動作を制御するパルス制御信号のサイクル数の累積データを含むことを特徴とする請求項1,2又は3記載の搾乳機のメンテナンス方法。
【請求項5】
前記表示部には、前記所定の部品の、全寿命期間,及び現在における使用可能な残期間又は現在の使用済期間とを、数値表示部及び/又はグラフィック表示部により表示することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の搾乳機のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記所定の部品の全寿命期間の終了及び/又は当該終了に対して予め設定した所定期間手前でアラーム報知を行うアラーム報知部を設けることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の搾乳機のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94126(P2013−94126A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240272(P2011−240272)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)