説明

摘便用の器具

【課題】頑固な便秘の患者に対し、摘便効果が十分で、摘便に際し患者に羞恥心や苦痛を与えることなく、また患者の直腸の内壁部を傷つける危険性のない摘便用の器具を提供することを課題とする。
【解決手段】両端を開口部11,11とした円筒形のシリンダー1に、先端部に挿入ガイド21を取り付けたピストン2を摺動自在に挿入し、この挿入ガイド21は、基端部の外周が、シリンダー1の内壁13に密接するよう構成し、ピストン2をシリンダー1内で後退させたとき、宿便と接するシリンダー1の先端開口部11とピストン2先端の挿入ガイド21との間に負圧部が形成できるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頑固な便秘の患者に適用して、安全、正確かつ衛生的に宿便を摘出するための摘便用の器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
頑固な便秘の患者に対して、医師はまず下剤を投与し、下剤の服用によっても効果がない場合に浣腸を実施するのが一般的である。
【0003】
通常の薬剤投与や浣腸の実施によっても排便効果が発揮できない場合、医師は、大腸検査の時などに使用される、効力の強い下剤その他の薬液を一定時間毎に飲用させ便の軟化や下痢を誘発させるという手段を講ずることがある。
【0004】
しかしながら、このような手段では薬液を飲みはじめてから排便までに数時間、あるいは十数時間という長い処置時間を要するうえ、薬液を投与された患者に腹痛その他の副作用を生じさせたり、薬液が効果を発揮し、排便が完了するまでの間、頻繁に便所と居室とを往復しなければならないという煩わしさがあるという問題点も指摘される。
【0005】
これらを解決する手段の一つとして、医師が患者の肛門から直腸内に指を挿入して宿便を強制的に掻き出す「摘便」という処置を行っている。
【0006】
指先によって宿便を掻き出す場合、比較的短い時間内に摘便を行うことができる利点はあるが、直腸内への指の挿入距離が肛門部から数センチと短く、しかも一本の指先だけで掻き出すため、摘便できる範囲や量がきわめて限定されたものとなって、摘便効果が完全ではないという問題点が指摘される。また、摘便に際し、患者に羞恥心や苦痛を与えることは勿論、宿便を掻き出す際に、挿入した指先によって直腸の内壁部を傷つける危険性のあることも指摘され、正確性、安全性、衛生面などの要望に適切に応じられる方法とはいえないという問題点も抱え、特に高齢者、寝たきり老人などの介護において宿便の処置には日夜苦労しているのが実情である。
【0007】
このような問題に対応するためには、指先の挿入に代えて直腸内に滞留する宿便を強制的に吸引排出できる摘便用の器具の開発が望まれるが、現在までのところ、そのような便利な摘便器具は提案されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、下剤の服用や浣腸の実施に頼る摘便効果の不完全な点や、肛門部から指先を挿入して宿便の掻き出しを行う摘便の不完全な点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決するため、本発明は、肛門より直腸内に挿入できる適宜太さと長さを持ち、両端部を開放した円筒状のシリンダーと、シリンダー内に挿入して、所定の距離を自由に摺動できる適宜長さのピストンとからなり、前記ピストンの先端に挿入ガイドを形成し、挿入ガイドの基端部に、外周部分がシリンダーの内壁に密接しながら摺動できる大きさの円形の密接部を形成したことを最も主要な特徴とした摘便用の器具である。
【0010】
また、ピストンには、必要に応じて、ピストン本体の基端部から挿入ガイド部に通じるよう浣腸液などの薬液注入を行わせる薬液注入用の長孔が形成され、直腸内に滞留する頑固な宿便に対して軟化促進を図り、以後の摘便操作を容易に実施できるよう構成することを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
特に本発明によれば、直腸部に挿入された摘便器は、先端部が宿便部分に到達したシリンダーをその位置に固定し、ピストンだけを後退させれば、先端部を宿便によって塞がれたシリンダーとピストン先端部に取り付けた挿入ガイドとの間に強い負圧部が形成されるので、直腸内に滞留した宿便はシリンダー内に強制的に吸引、収容できる優れた摘便効果を発揮できる。
【0012】
また、直腸内に滞留する宿便は肛門に近い部分ほど脱水状態となって硬化している場合が多いが、この場合でも、シリンダー内に形成された強い負圧によってシリンダーの先端部分に宿便の硬化部分が吸着されるので、シリンダーごと摘便用の器具を引き抜けば容易に摘便できる優れた効果を有するほか、宿便塊が巨大化した場合でも、あらかじめ指先などで排出可能な状態に解す(ほぐす)前処置により摘便が可能となり、従来の指先による宿便の掻きだしでは困難であった宿便の排出も容易に摘出できる優れた効果を発揮できる。
【0013】
更にまた、第2の実施例に示すようにシリンダーに浣腸液などの注入を行わせる薬液注入部を形成すれば、直腸内に滞留し脱水状態のため硬化している宿便の軟化を図ることが可能となり、以後の摘便操作を容易に実施できる利点がある。
【0014】
本発明によれば、これらの摘便処置のための時間を著しく短縮できるとともに、摘便処置時の患者に与える苦痛や心身への負担が大きく軽減されるほか、摘便時に生ずる多くの課題、例えば、便臭対策、汚物処置、病室及び処置室或いは家庭内における居室等の環境の浄化の問題がすべて解決できる。
【0015】
本発明の摘便器は大腸検査における採便器としても利用できることは勿論のこと、本発明の摘便器を家庭に常備すれば一家の便秘の不安や悩みを解消される利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の構成を示す斜視図である。
【図2】実施例1の構成を示すためシリンダーとピストンとを分解して示す斜視図である。
【図3】実施例1の構成を示す縦断面図である。
【図4】実施例1における宿便の摘出状態を示す縦断面図である。
【図5】実施例2の構成を示すため、上下両端部の一部をそれぞれ拡大したピストンの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
図1から図4は本発明の第1の実施例を示すものであり、シリンダー1と、シリンダー1内に挿入され、シリンダー1内を自由に摺動するピストン2とによって構成され、ピストン2の先端に形成した挿入ガイド21部分はシリンダー1の先端から飛び出すよう構成している。
【0019】
シリンダー1は、ポリエチレンなどの合成樹脂を用い、所望とする外径と長さを持ち、両端部を開口部11,11とした円筒状に形成し、円筒体の一方の開口部11の外周には挿入操作と引き抜き操作の際の指掛け用の鍔12を張り出し形成している。
【0020】
ピストン2は、ポリエチレンなどの合成樹脂を用いて形成するもので、シリンダー1に挿入できる大きさをもった棒状体として形成し、先端部には直腸への挿入を容易にするための半球状の挿入ガイド21を一体的に取り付け、基端部には指掛け用の鍔22を張り出し形成している。
【0021】
挿入ガイド21は直腸への挿入を容易にし、挿入時に痛みや苦痛を与えず、或いは直腸の内壁を傷つけないためのものであり、ピストン2をシリンダー1に挿入した時に、挿入ガイド21部分のみがシリンダーの先端開口部から突出できる長さとして構成している。
【0022】
挿入ガイド21は直腸への挿入を容易にし、挿入時に痛みや苦痛を与えず、或いは直腸の内壁を傷つけないよう半球状に形成している。
【0023】
挿入ガイド21の基端部(上端部)は、適宜の範囲でシリンダー1の内壁13に密接し、かつ摺動を自在に行える外径を持たせた円形の密接部21aとしている。この円形の密接部21aの上面はピストン2の先端部に形成した取り付け板23に貼り付け、ねじ止めその他の手段により取り付けている。
【0024】
なお挿入ガイド21、特にシリンダー1の内壁13に密接しながら摺動する円形の密接部21aは、挿入ガイド21の吸引操作時にシリンダー1内に形成される強い負圧に耐えられるようゴムなどの素材を用いることが望ましい。挿入ガイド21と円形の密接部21aは両者を一体的に形成することも別体として形成することも自由である。
【0025】
実施例においてピストン2は、断面形状が十字状を呈する棒状体として例示しているが、特にこれに限定されるものではなく、使用に耐えうる十分な強度を持った棒状体であればどのような形状のものでも差し支えない。
【0026】
24は指掛け用の鍔22の下面に形成した挿入ストローク規制用のストッパーであり、ピストン2をシリンダー1内に挿入した際、先端に取り付けた挿入ガイド21以外の部分がシリンダー1の先端開口部11から飛び出さないよう図っている。
【0027】
図中4は宿便である。
【実施例2】
【0028】
図5は本発明の第2の実施例を示すものであり、主要な構成部分であるピストン2部分のみを示している。
【0029】
3はピストン2の軸方向に沿って形成された薬液注入用の長孔であり、棒状体をなすピストン本体の側面に一体的に形成し、一方の端部は指掛け用の鍔22に形成した薬液注入孔22aに接続し、下端部は半球状の挿入ガイド21に設けた薬液注出孔21bに接続している。
【0030】
以上のように構成した実施例1の作動について説明する。
【0031】
直腸内に挿入された摘便用器具は、シリンダー1の先端部から飛び出ている挿入ガイド21が直腸内に滞留する宿便4に到達し、少しだけ宿便4内に貫入した状態で、シリンダー1をそのままにして、ピストン2だけを引き抜くよう後退させる。
【0032】
挿入ガイド21の基端部に形成した密接部21a部分を、シリンダー1の内壁13に摺動自在に密接させているので、ピストン2を後退させると、先端の開口部11が宿便4によって塞がれたシリンダー1と、ピストン先端部の挿入ガイド21との間に強い負圧部分が作りだされるので、宿便4は負圧によってシリンダー1内に吸引されて摘便が実行される。
【0033】
また脱水状態の進行により宿便4の端部(肛門に近い部位)が硬くなっている場合は、ピストン2の後退により発生した負圧によってシリンダー1の開口部11に強く吸着されるので、そのままシリンダー1を含む摘便器具全体を引き抜くことにより硬化部分を摘出することができ、以後の摘便が実行できる。
【0034】
次に実施例2の作動について説明する。
【0035】
図5に示す第2の実施例は宿便4が脱水状態となって硬化した場合の摘便に適用するものであり、摘便に先駆けて浣腸液などの薬液注入を一つの摘便器具によって同時に行うためのものである。
【0036】
第2の実施例における機構の変更は、第1の実施例におけるピストン2に薬液注入のための機構を付加したことであり、ピストン2の指掛け用の鍔22に形成した薬液注入孔22aから注入された薬液が、これに接続した長孔3を介して挿入ガイド21に形成した薬液注出孔21bへと送り出され、宿便4の軟化を行わせる。22bは薬液注入孔22aに取り付けた密閉栓である。
【0037】
軟化した宿便4に対する摘便操作は実施例1の場合と全く同じ操作である。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダー
2 ピストン
3 薬液注入用の長孔
11 開口部
12 指掛け用の鍔
13 内壁
21 挿入ガイド
21a 円形の密接部
21b 薬液注出用の孔
22 指掛け用の鍔
22a 薬液の注入孔
22b 密閉栓
23 取り付け板
24 挿入規制用のストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部を開口部とした円筒状のシリンダーと、このシリンダーに摺動自在に挿入されるピストンとから成り、ピストンの先端には挿入ガイドが形成され、この挿入ガイドの基端部に、シリンダーの内壁に密接しながら摺動できる大きさの円形の密接部が形成されている摘便用の器具。
【請求項2】
ピストンは、シリンダーに挿入した時に、先端に形成した挿入ガイド部分のみがシリンダーの先端開口部から突出できる長さとして構成している請求項1記載の摘便用の器具。
【請求項3】
ピストンに、その上端部に形成した指掛け用の鍔から、挿入ガイドに通じる薬液注入用の長孔が形成されている請求項1記載の摘便用の器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−172619(P2011−172619A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37008(P2010−37008)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(307001603)
【Fターム(参考)】