説明

摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手

【課題】接合端部の強度を向上させた摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手を提供すること。
【解決手段】重ね合わせた被接合部材11,12に対して回転する摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸を挿入し、摩擦撹拌用接合工具が連続して移動してできる接合線20によって当該被接合部材11,12同士を接合する場合に、接合線20の終端にて接合端部23を形成するものであり、摩擦撹拌用接合工具は、接合線20の終端にて円弧を描くように移動して接合端部23を形成する摩擦撹拌接合の接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合によって接合した線状の接合部(接合線)について、その接合端部の接合強度を向上させた摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合では、摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸(プローブ)が被接合部材に押し込まれ、回転しながら移動する間にプローブのまわりの材料が塑性流動して摩擦撹拌溶接が行われる。プローブが突出したいわゆる固定ピン式の回転工具の場合、接合線の接合終点でプローブが抜かれる。単に抜かれるだけの場合、接合端部の形状は、プローブの形状そのままの半円形であって、幅が狭くなって応力集中による疲労亀裂が発生しやすくなる。そこで、下記特許文献1には、終端に達した後に同終端位置から離れるようにプローブを移動させる接合方法や重ね合わせ継手が提案されている。
【0003】
図7は、特許文献1の接合方法による重ね合わせ継手の接合線の形状を示した図である。図7(a)に示す接合方法では、終端位置から横方向に回転工具を移動する方法がとられ、接合線110にL字状になるように接合端部111が形成されている。図7(b)に示す接合方法では、終端位置から横方向及び戻る方向に回転工具を移動する方法がとられ、接合線110にコの字状になるように接合端部112が形成されている。いずれの接合端部111,112も幅が広がって応力集中が緩和され、その分だけ接合強度の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−95951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の接合方法では接合端部111,112の横幅が広がってはいるが、回転工具のプローブ径による応力集中が考慮されてはいなかった。つまり、前述したようにL字やコの字形状の接合端部111,112は、その角部Kの曲率半径がプローブの径に影響されるので、例えば使用される回転工具のプローブが6mmの径であれば、角部Kの曲率半径は3mm程度になる。そのため、接合線110の長手方向に引張り荷重が作用するような場合には、接合端部111,112の横幅が広い分だけ応力は小さくなるが、斜め方向に作用する荷重に対しては角部Kに応力が集中し易くなってしまっていた。
【0006】
よって、本発明は、かかる課題を解決すべく、接合端部の強度を向上させた摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る摩擦撹拌接合の接合方法は、重ね合わせた被接合部材に対して回転する摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸を挿入し、前記摩擦撹拌用接合工具が連続して移動してできる接合線によって当該被接合部材同士を接合する場合に、前記接合線の終端にて接合端部を形成するものであり、前記摩擦撹拌用接合工具は、前記接合線の終端にて円弧を描くように移動して前記接合端部を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る重ね合わせ継手は、重ね合わせた被接合部材に対して回転する摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸を挿入し、前記摩擦撹拌用接合工具が連続して移動してできる接合線によって当該被接合部材同士を接合するものであり、前記接合線の接合端部が、前記摩擦撹拌用接合工具を円弧を描くように移動させて形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従来、接合端部の外形の曲線部分は撹拌軸の径の大きさによって決まってしまい、曲率半径の小さい当該部分に応力が集中してしまったが、本発明によれば、摩擦撹拌用接合工具が円弧を描くように移動することで曲線部分の曲率半径が大きくなって応力集中が緩和され、その結果、接合端部の強度向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】摩擦撹拌接合による接合時の状態を示した図である。
【図2】従来の接合方法による重ね合わせ継手を示した斜視図である。
【図3】従来の接合方法によるL字形状接合端部の重ね合わせ継手を示した斜視図である。
【図4】実施形態の方法による接合端部の重ね合わせ継手を示した斜視図である。
【図5】本実施形態による接合方法を示した図である。
【図6】各パターンの接合方法による重ね合わせ継手を示した平面図である。
【図7】従来の接合方法による重ね合わせ継手の接合部分のみを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手について、その実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、摩擦撹拌接合による接合時の状態を示した図である。ここで示したものは、摩擦撹拌接合の接合端部について行う強度実験のための試験用接合部材10であり、重ね合わせた2枚のプレート11,12が接合されたものである。一方のプレート11は平板であり、他方のプレート12は縁に沿って起立した起立部121が形成され、接合方向に変形し難いようにした剛性プレートである。
【0012】
摩擦撹拌接合では、プレート11,12よりも硬い材質の撹拌軸(プローブ)51を持ったいわゆる固定ピン式の摩擦撹拌用接合工具50が使用される。摩擦撹拌用接合工具50は、高速回転しながらプローブ51がプレート11,12内に挿入され、そのまま起立部121と平行に直線移動する。回転するプローブ51の周りは摩擦熱が発生し、柔らかくなったプレート11,12の材料が塑性流動する。塑性流動した材料は、プローブ51の進行圧力を受けて撹拌混練され、直進するプローブ51の後方へ回り込むようにして流れ、図示するように接合線20が形成される。その後、塑性流動した材料は摩擦熱を急速に失って冷却固化し、それにより接合線20の部分で上下のプレート11,12が接合される。
【0013】
ここでは、接合線20の終端の形状を3つのパターンに分け、各重ね合わせ継手による試験用接合部材10を作製した。図2乃至図4は、そうした試験用接合部材10A,10B,10Cを示した斜視図である。図6の(a)乃至(c)は、各パターンの重ね合わせ継手による試験用接合部材10A,10B,10Cを示した平面図である。
【0014】
図2及び図6(a)に示すパターン1の試験用接合部材10Aは、摩擦撹拌用接合工具50が直線的に移動して接合線20が形成され、終端では、そのままプローブ51が抜かれて接合端部21が形成される。また、図3及び図6(b)に示すパターン2の試験用接合部材10Bは、摩擦撹拌用接合工具50が直線的に移動して接合線20が形成され、終端位置では、摩擦撹拌用接合工具50が直交方向に移動方向を変えて所定距離進み、その後プローブ51が抜かれてL字形状の接合端部22が形成される。
【0015】
そして、図4及び図6(c)に示すパターン3の試験用接合部材10Cは、本実施形態の接合方法によって接合端部が形成されたものである。また、図5は、そうした本実施形態による接合方法を示した図である。本実施形態の接合方法では、摩擦撹拌用接合工具50が直線的に移動して接合線20が形成され、終端位置に到達した摩擦撹拌用接合工具50は、そのまま円弧を描くように移動する。すなわち、摩擦撹拌用接合工具50は、その回転軸がJの字を描くように移動し、ほぼ半円を描くように移動した後、摩擦撹拌用接合工具50が上昇してプローブがプレート11,12から抜かれ、図4に示すように鉤状の丸い接合端部23が形成される。
【0016】
接合端部23の形成に当たっては、摩擦撹拌用接合工具50は、回転軸Oの移動半径R1が3.2mmの円弧を描くように移動する。従って、半径が3mmのプローブ51である場合、接合端部23の外形線の曲率半径R2が6.2mmの円弧になる。一方、パターン1の接合端部21は、その先端がプローブ51の形状になっているため、当該円弧の曲率半径Rがプローブ51の半径3mmである。また、パターン2の接合端部22では、角部の曲率半径Rは、やはりプローブ51の外形に影響されるため、その円弧部分の曲率半径は3mmである。
【0017】
ここで図2乃至図4では、プレート12を拘束させた状態でプレート11に対して引張り荷重F1,F2を作用させた場合を矢印で示している。このように引張り荷重F1,F2を作用させた場合に、接合端部21,22,23に生じる最大応力について有限要素法を利用して応力解析を行った。その結果、接合線20に沿って引張り荷重F1のみを作用させた場合には、パターン2の接合端部22がパターン3の接合端部23よりもよい結果が得られた。これは、接合端部22の方が接合端部23よりも幅が広いからと考えられる。しかし、引張り荷重F1,F2を同時に作用させた場合には、パターン3として示す本実施形態の接合端部23の方が最大応力の値が小さくなり、良い結果が得られた。
【0018】
すなわち、接合線20に対して角度を付けて荷重が作用した場合には、接合端部21,22よりも円弧部分の曲率半径が大きい本実施形態の接合端部23の方が応力集中が緩和され、最大応力の値が小さくなった。例えば応力を15パーセント低下させると、接合部の寿命は2倍程度延びるとも言われており、僅かな応力の緩和が接合強度の向上につながる。前述した例で最大応力を数値計算したところ、試験用接合部材10Aの接合端部21には34.5MPaの応力が作用するのに対し、試験用接合部材10Cの接合端部23に作用する応力の値は29.3MPaとなった。これにより最大応力を15.07パーセント低下させることができる。従って、本実施形態の接合方法によって形成された接合端部23は、応力集中の緩和により接合強度の向上が可能になる。
【0019】
以上、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合方法及び重ね合わせ継手について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、固定ピン式の摩擦撹拌用接合工具50を使用した場合について説明したが、その外にもいわゆるコイルボビン式の摩擦撹拌用接合工具であってもよい。
【符号の説明】
【0020】
10(10A,10B,10C) 試験用接合部材
11,12 プレート
20 接合線
21,22,23 接合端部
50 摩擦撹拌接合用工具
51 撹拌軸(プローブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた被接合部材に対して回転する摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸を挿入し、前記摩擦撹拌用接合工具が連続して移動してできる接合線によって当該被接合部材同士を接合する場合に、前記接合線の終端にて接合端部を形成する摩擦撹拌接合の接合方法において、
前記摩擦撹拌用接合工具は、前記接合線の終端にて円弧を描くように移動して前記接合端部を形成することを特徴とする摩擦撹拌接合の接合方法。
【請求項2】
重ね合わせた被接合部材に対して回転する摩擦撹拌用接合工具の撹拌軸を挿入し、前記摩擦撹拌用接合工具が連続して移動してできる接合線によって当該被接合部材同士を接合する重ね合わせ継手において、
前記接合線の接合端部が、前記摩擦撹拌用接合工具を円弧を描くように移動させて形成されたものであることを特徴とする重ね合わせ継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−152759(P2012−152759A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11537(P2011−11537)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】