説明

摩擦材の製造方法

【課題】摩擦材の原料混合時における粉塵や偏析の発生を防止でき、バインダーにフェノール樹脂を使用した場合であっても摩擦材が劣化し難く、製造工程を安全、迅速かつ低コストで行なえる摩擦材の製造方法を提供する。
【解決手段】ハイオルソフェノール樹脂、消石灰および3〜10重量%の水、を含有する摩擦材原料を攪拌する混合工程Aと、混合工程Aで得られた混合粉を常温で所望の形状に成形する成形工程Bと、を有する摩擦材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両等のディスクブレーキ用パッドに使用する摩擦材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等のブレーキパッドやブレーキシュー等に使用される摩擦材の製造方法としては、乾式法および湿式法が知られている。
当該乾式法は、例えばフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂結合材、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維基材及びゴムダスト、カシューダスト、金属粉等の摩擦調整剤等の全原料粉末を均一に混合し、この原料混合物を金型内で予備成形し、例えば裏板をセットした金型に移して加熱・加圧して裏板と一体成形している。
一方、湿式法は、全原料粉末を溶剤の存在下で均一に混合、湿潤化し、この湿潤原料混合物を乾燥後、加熱・加圧成形している(例えば特許文献1)。
【0003】
一般に、摩擦材の原料は粉末状であるものが多く、乾式法を実行した場合、例えば摩擦材原料を混合機で混合した後に混合物を取り出す際には粉塵が発生し、作業環境が悪化する場合がある。また、粒径の大きく異なる粉末を同時に混合した場合は、大粒径の粉末が下層、小粒径の粉末が上層に偏る偏析が発生して分散不良を引き起こし、均質な摩擦材が得られ難くなることがある。
このような粉塵の発生や偏析を防止するためには、有機溶剤等の液体を原料混合時に原料と共に投入して混合・撹拌する湿式法を行なうとよい場合がある。しかし、トルエン、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を投入する場合には、火災等の危険性、人体への悪影響が問題となり、作業環境上、好ましくない。
【0004】
例えば特許文献2には、上記有機溶剤に替えて、湿式法で使用する液体として樹脂等を溶解しない水を用い、バインダレジンであるフェノール樹脂をマイクロカプセル化する摩擦材の製造方法が記載してある。
湿式法で水を使用した場合、pH調整剤として添加される消石灰(水酸化カルシウム:Ca(OH)2)が溶出し、摩擦材のバインダレジンとしてフェノール樹脂が使用された場合に摩擦材原料を混合した混合粉が赤化劣化して摩擦材の強度に影響を及ぼす虞がある。しかし、特許文献2の技術では、バインダレジンであるフェノール樹脂をマイクロカプセル化することで、当該バインダレジンが水や消石灰と接触するのを防止できる。よって、フェノール樹脂が赤化劣化を防止することができ、摩擦材の強度が低下するのを未然に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3173891号公報
【特許文献2】特開平3−177482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の湿式法では、湿潤原料混合物を乾燥後、加熱・加圧成形しているが、当該加熱・加圧成形工程では、樹脂の硬化に数分を要していた。摩擦材の製造過程においては、製造効率を鑑みると、できるだけ迅速に行なえるのが望ましい。
【0007】
また、特許文献2に記載のようにバインダレジンをマイクロカプセル化する手法では、当該カプセル化を行なうため製造コストが嵩むこととなる。フェノール樹脂が赤化劣化するのを防止するため、消石灰をカプセル化する手法も考えられるが、この手法もカプセル化するため製造コストが嵩む。また、このようにカプセル化することによって、摩擦材の摩擦性能が低下する虞もある。
【0008】
特許文献2に記載の湿式法では、例えば摩擦材原料を混合しているところに水を噴霧している。この手法では、混合機の内壁に水が付着することにより摩擦材原料が当該内壁に付着し易くなり、摩擦材の収率の悪化や、当該混合機の清掃に労力を要するといった問題がある。さらに、水を噴霧する場合は、混合している摩擦材原料の表面のみが湿潤するため、添加する水の割合によっては、摩擦材原料を均一に混合するのが困難となり、その結果、やはり偏析が発生する虞があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、摩擦材の原料混合時における粉塵や偏析の発生を防止でき、バインダーにフェノール樹脂を使用した場合であっても摩擦材が劣化し難く、製造工程を安全、迅速かつ低コストで行なえる摩擦材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る摩擦材の製造方法の第一特徴構成は、ハイオルソフェノール樹脂、消石灰および3〜10重量%の水、を含有する摩擦材原料を攪拌する混合工程と、前記混合工程で得られた混合粉を常温で所望の形状に成形する成形工程と、を有する点にある。
【0011】
本構成においては、摩擦材原料にバインダーとしてハイオルソフェノール樹脂を使用している。摩擦材原料には、例えばブレーキディスクロータとの錆固着対策として消石灰を添加する。当該ハイオルソフェノール樹脂は、その構造上、耐アルカリ性に優れている。そのため、消石灰と水を添加してアルカリ性となる混合粉にハイオルソフェノール樹脂を添加しても、直ちにハイオルソフェノール樹脂が赤化劣化することはない。また、ハイオルソフェノール樹脂は、従来の摩擦材で使用されるフェノール樹脂よりも硬化速度が速い。そのため、摩擦材を迅速に製造することができる。
【0012】
通常、摩擦材は混合した摩擦材原料を加熱することで硬化する。本発明のように、水によって摩擦材原料を湿潤化させて消石灰が共存できる状態にすると、ある程度の流動性および成形性を有することとなる。即ち、本発明の成形工程は常温で行い、加熱を行なわないため混合粉を成形した常温成形品は硬化しないが、当該常温成形品は完全に硬化した状態ではなく、成形した所定の形状を崩すことなく維持できる状態となっている。
【0013】
このように常温成形品が成形した形を維持できるようにするためには、添加する水分量が重要となる。本発明では、添加する水を常温成形品の3〜10重量%となるように調整する。含水量を本構成の範囲で設定すると、常温での成形に良好な流動性および成形性を呈するようになり、バックリング(変形)することなく常温で成形することが可能となる。当該含水量が3重量%より少ない場合、混合粉は流動性が不足し、常温成形時のバックリング抑制効果が小さくなり、良好に成形するのが困難となる。当該含水量が10重量%より多い場合、混合粉の流動性が大きくなって泥状となり、良好に成形するのが困難となる。この場合、混合粉を乾燥する工程が必要となり、迅速に摩擦材を製造できない。
【0014】
また、本発明は水を使用した湿式の摩擦材の製造方法であるため、製造工程を安全に行なうことができ、例えば摩擦材原料の混合時および混合後に混合物を取り出す際に粉塵が発生するのを抑制できる。さらに、適切な含水量で混合して混合粉を作製できるため、摩擦材原料を均一に混合し易くなり、その結果、偏析の少ない均質性に優れた摩擦材を製造することができる。
【0015】
本発明に係る摩擦材の製造方法の第二特徴構成は、前記成形工程を1〜60秒で行なう点にある。
【0016】
本構成によれば常温で短時間の成形処理を行なうだけでよいため、例えば特許文献1に記載のように加熱・加圧成形工程で数分間要していた時間を大幅に短縮することができる。このように、加熱に要していたエネルギーを節約することができるため、低コストかつ迅速に摩擦材を製造することができる。このように加熱エネルギーを節約できることで、二酸化炭素の排出量を抑制できるため、環境問題に配慮した摩擦材の製造方法となる。
【0017】
本発明に係る摩擦材の製造方法の第三特徴構成は、前記水に界面活性剤を添加した点にある。
【0018】
本構成によれば、摩擦材原料を混合する際に、添加された界面活性剤の界面活性作用によって当該摩擦材原料の各成分をより確実に混合することができる。
【0019】
本発明に係る摩擦材の製造方法の第四特徴構成は、前記摩擦材原料に含水繊維を添加した点にある。
【0020】
本構成によれば、摩擦材原料に予め含水した繊維を添加することができる。上述したように、湿式法においては、摩擦材原料を混合しているところに水を噴霧しているが、この手法では、混合機の内壁に水が付着するため摩擦材原料が当該内壁に付着し易くなったり、偏析が発生する虞がある。しかし、本構成では、予め含水した繊維を摩擦材原料に添加することで噴霧する水の量を減らすことができるため、混合機の内壁に水を付着し難くすることができる。その結果、摩擦材原料が混合機の内壁に付着し難くなり、摩擦材の収率の悪化や当該混合機の清掃に労力を要するという不都合が発生するのを未然に防止することができる。
【0021】
また、混合工程を行なうに際して含水繊維を添加して混合すると、水を噴霧したときのように摩擦材原料の表面だけでなく、摩擦材原料の全体に水分を浸透させ易くなるため、摩擦材原料をより均一に混合し易くなる。その結果、より粉塵の発生を抑制でき、かつ偏析の少ない均質性に優れた摩擦材を製造することができる。
【0022】
尚、含水繊維に含まれる水および噴霧などによって供給する水の量の総量が、最終的に混合粉の3〜10重量%となるようにすればよい。
【0023】
本発明に係る摩擦材の製造方法の第五特徴構成は、前記成形工程の後、成形した混合粉を板状部材に当接させて加熱する加熱工程を行う点にある。
【0024】
本構成によれば、混合粉を成形した常温成形品と板状部材とを圧接させて加熱処理を行うことによって、常温成形品と板状部材とを接着すると同時に、常温成形品を硬化させることができる。このとき、常温成形品と板状部材とを圧接方向のみに加圧すれば、常温成形品の側方から水分および硬化反応時に発生するガスをスムーズに放出することができる。そのため、加熱処理時に成形品に亀裂が発生する虞は殆どない。
【0025】
さらに、通常、特許文献1に記載の湿式法のように、加熱成形を行なって摩擦材原料を混合した混合粉を硬化させているところ、本発明では、常温成形後に加熱処理を行っている。即ち、製造ラインにおいて、数分の加熱成形を行なっている間は加圧が必要で金型から取り出すことができないため、この工程が製造上の律速過程となり、製造効率が低下する。しかし、本発明では、常温の成形工程を数秒間行なって常温成形品の成形のみを行うため、成形機に成形品(常温成形品)を載置する時間を短縮できる。よって、成形機にて成形工程を行なえるサイクルが大幅に増大するため、製造効率が向上する。成形のみを行なった常温成形品は、後に行なう加熱工程でまとめて加熱して硬化処理を行うとよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の摩擦材の製造工程の工程概略を示した流れ図である。
【図2】摩擦材を有するブレーキパッドの断面図である。
【図3】本発明の摩擦材の製造工程の詳細な工程を示した流れ図である。
【図4】従来の摩擦材の製造工程を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の摩擦材の製造方法(図1)によって製造された摩擦材は、例えば車両等のディスクブレーキ用パッドに適用できるが、これに限られるものではない。その他、例えば、ブレーキシュー等、従来公知の摩擦材が適用できるものに適用することができる。製造された摩擦材10は、金属板などの板状部材(裏板)20と一体化してブレーキパッド100として使用する(図2)。
【0028】
本発明の摩擦材の製造方法は、ハイオルソフェノール樹脂、消石灰および3〜10重量%の水、を含有する摩擦材原料を攪拌する混合工程Aと、当該混合工程で得られた混合粉を常温で所望の形状に成形する成形工程Bと、を有する(図1)。
【0029】
摩擦材原料は、摩擦材を製造する上で混合する全ての材料をいう。当該摩擦材原料としては特に限定されないが、例えば繊維基材、摩擦調整材、充填材、バインダー等を混合したもの等、一般に使用されるものが適用できる。
【0030】
繊維基材として、繊維成分として使用されるものにはアラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維、ガラス繊維、ロックウ−ル、セラミックス繊維等の無機繊維、銅、青銅、アルミニウム、黄銅等の金属繊維が例示される。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。繊維基材の配合割合は特に限定されるものではないが、摩擦材原料の3〜5重量%程度となるように添加すればよい。
【0031】
これら繊維基材は、予め含水させた状態として摩擦材原料に添加してもよい。当該含水繊維としては、含水有機繊維を使用するのが好ましい。含水繊維を摩擦材原料に添加することで噴霧する水の量を減らすことができるため、混合機の内壁に噴霧した水を付着し難くすることができる。その結果、摩擦材原料が混合機の内壁に付着し難くなり、摩擦材の収率の悪化や当該混合機の清掃に労力を要するという不都合が発生するのを未然に防止することができる。また、混合工程を行なうに際して含水繊維を添加して攪拌すると、水を噴霧したときより摩擦材原料の全体に水分を浸透させ易くなるため、摩擦材原料をより均一に混合し易くなる。その結果、より粉塵の発生を抑制でき、かつ偏析の少ない均質性に優れた摩擦材を製造することができる。
【0032】
含水繊維を使用した場合は、含水繊維に含まれる水および噴霧などによって供給する水の量の総量が、最終的に混合粉を成形した混合粉の3〜10重量%となるようにすればよい。このとき、摩擦材原料に添加する水の全てを含水繊維によって供給するように構成してもよい。
【0033】
摩擦調整剤としては、例えばカシューダスト、ゴムダスト等のフリクションダスト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、マイカ粉末、黒鉛、二硫化モリブデン、セラミック、銅粉、真ちゅう粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、発泡バーミキュライト、チタン酸カリウム、酸化鉄、ジルコニア、マグネシア等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。摩擦調整剤の配合割合は特に限定されるものではないが、摩擦材原料の3〜30重量%程度となるように添加すればよい。
【0034】
充填材としては、消石灰(水酸化カルシウム)、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。充填材の配合割合は特に限定されるものではないが、摩擦材原料の2〜25重量%程度となるように添加すればよい。
【0035】
消石灰は、例えばブレーキディスクロータとの錆固着対策として、摩擦材原料にpH調整剤として配合する。水・消石灰・ハイオルソフェノール樹脂が混ざり合うと粘性が生じ、常温成形が可能な混合粉となる。しかし、この状態で混合を続けると、当該混合粉が混合機内に付着したり、発熱が生じる虞がある。そこで、消石灰は他の原材料と同時に混合するのではなく、当該他の原料を混合した後に投入して混合する二段階混合を行なうのがよい。このように二段階混合を行なうことで、混合工程Aを行なっている間において、摩擦材原料中に消石灰が存在する時間を意図的に短くすることができる。即ち、消石灰を添加するまでは粘性の低い状態で摩擦材原料を攪拌できるため、混合機の内壁に摩擦材原料が付着し難くなる。
【0036】
バインダーとしては、ハイオルソフェノール樹脂を使用する。当該ハイオルソフェノール樹脂はノボラック型のフェノール樹脂でもよい。ハイオルソフェノール樹脂の配合割合は特に限定されるものではないが、摩擦材原料の10〜20重量%程度となるように添加すればよい。
【0037】
ハイオルソフェノール樹脂の原料として用いられるフェノール類は特に限定されないが、フェノール、クレゾール及びこれらの混合物が多く用いられる。他に、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、アルキルフェノール、ハロゲン化フェノール、1価フェノール類、多価フェノール類などが挙げられ、これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
また、ハイオルソフェノール樹脂の原料として用いられるアルデヒド類は特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トリオキサン、クロラール、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、ヘキサメチレンテトラミン、等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
本発明では、フェノール類のフェノール性水酸基に対する、アルデヒド類に由来するメチレン基又は置換メチレン基の結合位置の比率(オルソ結合率)が、50〜98%であるものを用いることができる。また、本発明で使用できるハイオルソフェノール樹脂の分子量は特に限定されないが、例えば平均分子量が200〜3000であるものを使用するとよい。
【0039】
本発明は摩擦材を、水を使用した湿式で製造するため、耐アルカリ性を有するハイオルソフェノール樹脂を使用する。そのため、消石灰を添加してアルカリ性となる混合粉にハイオルソフェノール樹脂を添加しても、ハイオルソフェノール樹脂が赤化劣化することはない。
【0040】
水は、常温成形品の3〜10重量%となるように添加する。含水量を本構成のように設定すると、常温での成形に良好な流動性および成形性を呈するようになり、バックリング(変形)することなく常温で成形することが可能となる。
【0041】
水には、例えば界面活性剤や粘性付与剤などを添加してもよい。
水に界面活性剤を添加すれば、摩擦材原料を混合する際に、添加された界面活性剤の界面活性作用によって当該摩擦材原料の各成分をより確実に混合することができる。当該界面活性剤は、イオン系および非イオン系の何れを使用してもよい。界面活性剤としては、アルキル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドなど、公知のものを使用することができる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。界面活性剤の配合割合は特に限定されるものではないが、0.2〜0.5重量%程度となるように添加すればよい。
また、水に粘性付与剤を添加すれば水に粘性を付与することができるため、例えば混合工程時に摩擦材原料の粉塵が発生し、作業環境が悪化するのを確実に防止することができる。また、粘性付与剤を添加することで、摩擦材の強度を向上させることができる。当該粘性付与剤としてはポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、メチルセルローズ及びこれらの混合物等が使用できる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。粘性付与剤の配合割合は特に限定されるものではないが、0.2〜0.5重量%程度となるように添加すればよい。
【0042】
混合工程Aは、上述した繊維基材、摩擦調整材、充填材(消石灰)、バインダー(ハイオルソフェノール樹脂)を混合手段に投入して混合し、混合粉を作製する。例えば摩擦材原料をヘンシェルミキサー等の混合機(混合手段)に投入する。このとき、水は、例えば混合が終了した後続けて一度に投入してもよいし、何度かに分割してあるいは少量ずつ連続して投入してもよい。また、水を摩擦材料に投入して、混合する際に摩擦材原料が造粒されるようにしてもよい。
【0043】
混合工程Aは、常温で行なう必要があるため、摩擦材原料を混合機にて混合する際には、当該混合機は昇温しないように冷却手段によって冷却するとよい。
【0044】
本発明のように、水によって摩擦材原料を湿潤化させて樹脂と消石灰が共存できる状態にすると、ある程度の流動性および成形性を有することとなる。
【0045】
本発明の成形工程Bは常温で行ない、加熱を行なわないため混合粉を成形した常温成形品は硬化しないが、当該常温成形品は完全に硬化した状態ではなく、成形した所定の形状を崩すことなく維持できる状態となっている。成形は、例えばプレス成形が行なえる成形機(図外)等によって行なうとよい。
【0046】
成形工程は1〜60秒、好ましくは2〜20秒で行なうとよい。このように、本発明では、常温で短時間の成形処理を行なうだけでよいため、従来の加熱・加圧成形工程で数分間要していた時間を大幅に短縮することができる。このように、加熱に要していたエネルギーを節約することができるため、低コストかつ迅速に摩擦材を製造することができる。
【0047】
成形工程の後、成形した混合粉(常温成形品)10を裏板20に当接させて加熱する加熱工程Cを行う(図1,2)。常温成形品10は、接着剤30を介して裏板20に接着するとよい。裏板20は、例えば金属製プレートを使用する。
【0048】
当該加熱工程Cでは、例えば150〜230℃、5〜120分の加熱条件で行なうとよいが、この条件に限られるものではなく、バインダーとして添加したハイオルソフェノール樹脂が溶融した後に硬化する温度および時間条件であれば適用できる。
【0049】
加熱工程Cでは、常温成形品10および裏板20をクランプさせることによって当接させるとよい。このとき使用するクランプ治具は、予め、加熱温度に近い温度まで予熱しておくとよい。これにより、常温成形品10および裏板20をスムーズに加熱することができ、常温成形品10および裏板20の接着、常温成形品10の硬化をスムーズに行なうことができる。
【0050】
常温成形品10と裏板20とを圧接させて加熱処理を行うことによって、常温成形品10と裏板20とを接着すると同時に、常温成形品10を硬化させることができる。このとき、常温成形品10の一方側に裏板20を接着し、常温成形品10と裏板20とを圧接方向のみに加圧すれば、常温成形品10の側方から水分および硬化反応時に発生するガスをスムーズに放出することができる。そのため、加熱処理時に成形品に亀裂が発生する虞は殆どない。
【0051】
本発明のように、常温での成形工程Bの後に加熱工程Cを行うと、常温成形後に常温成形品10を乾燥して水分を抜く必要がないため、乾燥処理に要する時間を省ける分、迅速に摩擦材を製造することができる。
【0052】
常温の成形工程Bを数秒間行なって常温成形品10の成形のみを行うため、成形機に常温成形品10を載置する時間を短縮できる。よって、成形機にて成形工程を行なえるサイクルが大幅に増大するため、製造効率が向上する。成形のみを行なった常温成形品10は、後に行なう加熱工程でまとめて加熱して硬化処理を行うとよい。このように本発明では、製造ラインにおいては、多数の成形機を準備する必要がないため、成形工程Bにおける製造ラインをコンパクトにすることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
本発明の摩擦材の製造方法の実施例について説明する(図3)。
摩擦材原料の各成分を計量した後、ヘンシェルミキサーに投入して混合工程Aを行なった。混合工程Aでは、二段階の混合を行なった。即ち、第一混合工程a1では、消石灰以外の摩擦材原料(ハイオルソノボラックフェノール樹脂、水、アラミド繊維、摩擦調整剤)を10分間混合し、続いて第二混合工程a2では、消石灰(充填材)を添加して2分間の混合を行なった。混合して作製した混合粉を計量した後、常温成形(成形工程B)を10秒間行なった。
【0054】
板状部材20においては、常温成形品10を載置する側に接着剤を塗布し、乾燥させる。
【0055】
裏板20に常温成形品10を載置し、160℃、10分間のクランプ熱処理(加熱工程C)を行ない、硬化した摩擦材を製造した。その後、当該摩擦材に対して粉体塗装、熱処理(210℃、30分)、表面加工(面取り加工、スリット加工、平面研磨)、ロット刻印の諸工程を行なった。
尚、本実施例1では、常温成形品10を裏板20に載置して加熱工程Cを行なったが、未成形の混合粉を裏板20に載置して常温成形を行ない、加熱工程Cを行なってもよい(図3:破線部)
【0056】
(参考例)
一方、従来の摩擦材の製造方法の実施例について説明する(図4)。
摩擦材原料の各成分を計量した後、ヘンシェルミキサーに投入して混合工程を行なった。当該混合工程では、全ての摩擦材原料(ランダムノボラックフェノール樹脂、アラミド繊維、摩擦調整剤、充填材)を混合して14分の混合を行った。混合して作製した混合粉を計量した後、当該混合粉の予備成形を行なった。
【0057】
裏板においては、混合粉を載置する側に接着剤を塗布し、乾燥させた。
【0058】
裏板に予備成形した混合粉を載置し、160℃、260秒間の熱成形を行ない、硬化した摩擦材を製造した。その後、当該摩擦材に対して粉体塗装、熱処理(210℃、60分)、表面加工、ロット刻印の諸工程を行なった。
【0059】
(実施例2)
実施例1に記載した摩擦材の製造方法によって、摩擦材原料の成分を種々変更して摩擦材を製造した。このとき、製造時の粉塵の飛散や混合粉(常温成形品)の状態などがどのように変化するかを調べた(本発明例1〜7)。比較例として、含水量が3〜10重量%の範囲外の場合(比較例1,2)、ハイオルソフェノール樹脂および消石灰の何れか一方を添加していない場合(比較例3〜5)についても調べた。
【0060】
繊維基材として、乾燥アラミド繊維および含水アラミド繊維の何れか一方を使用した。ハイオルソフェノール樹脂はノボラック型を使用した。摩擦調整剤あるいは繊維基材として有機材および無機材を使用した。有機材は、カシューダスト、ゴム粉を添加し、無機材は、マイカ粉末、硫酸バリウム、ロックウール、黒鉛、チタン酸カリウム、酸化鉄、ジルコニア、マグネシアを添加した。水分含有量は、水を摩擦材原料に対して分散噴霧して水分率を調整した。
【0061】
本発明例1〜7および比較例1〜5について、摩擦材原料の混合時の粉塵飛散性、混合後の混合粉の状態、常温プレス成形性について評価した。結果を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
粉塵飛散性は、目視にて粉塵の発生状況を評価した。飛散なしを「○」、飛散ありを「×」で示した。
混合後の混合粉の状態は、混合後、室温に混合粉を4時間放置した後の状態を目視にて評価した。混合後と比べて変化なしを「○」、一部でも赤く変化(赤化劣化)した場合を「×」で示した。
常温プレス成形性は、バックリング(変形)なしで成形できた場合を「○」、成形圧力を調整することによって許容範囲内で成形できた場合を「△」、成形時にクラックやフロー(混合粉の流れ)によって成形状態が悪い場合を「×」で示した。
【0064】
この結果、本発明例1〜7では、粉塵飛散性、混合後の混合粉の状態および常温プレス成形性は良好な結果が得られた。本発明例6(含水量10%)では、常温プレス成形性は成形圧力を調整することによって許容範囲内で成形できた。本発明例7(含水アラミド繊維添加)では、混合手段の内壁の汚れは殆ど認められなかった。
一方、比較例1〜5では、クラックやフローが発生し、常温プレス成形性は何れも悪くなるものと認められた。
比較例4(ランダムノボラックフェノール樹脂添加、含水量1%)では粉塵飛散性が認められ、比較例5(ランダムノボラックフェノール樹脂添加、含水量5.5%)では混合後の混合粉に赤く変化した状態が認められた。比較例4,5は通常のフェノール樹脂を使用したものであるが、特に比較例5では混合時に水を添加した直後から赤化劣化が認められ、混合後、暫くすると混合粉が塊状に変化し、プレス成形に供することができない状態となった。
【0065】
このように、ハイオルソフェノール樹脂、消石灰を添加し、含水量を3〜10重量%に調整することで、摩擦材原料を常温にて成形できることが判明した。
【0066】
即ち、本発明の摩擦材の製造方法では、摩擦材原料の混合時および混合後に混合物を取り出す際に粉塵が発生するのを抑制することが可能となる。さらに、適切な含水量で混合して混合粉を作製できるため、摩擦材原料を均一に混合し易くなり、その結果、偏析の少ない均質性に優れた摩擦材を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の摩擦材の製造方法は、例えば車両等のディスクブレーキ用パッドに使用する摩擦材の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
A 混合工程
B 成形工程
C 加熱工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイオルソフェノール樹脂、消石灰および3〜10重量%の水、を含有する摩擦材原料を攪拌する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉を常温で所望の形状に成形する成形工程と、を有する摩擦材の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程を1〜60秒で行なう請求項1に記載の摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記水に界面活性剤を添加してある請求項1又は2に記載の摩擦材の製造方法。
【請求項4】
前記摩擦材原料に含水繊維を添加してある請求項1〜3の何れか一項に記載の摩擦材の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程の後、成形した混合粉を板状部材に当接させて加熱する加熱工程を行う請求項1〜4の何れか一項に記載の摩擦材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121991(P2012−121991A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273834(P2010−273834)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)