説明

摩耗試験方法及び摩耗試験機

【課題】 試料の初期摩耗の評価を行うことができる摩耗試験方法を提供する。
【解決手段】 試料44の隣接する2面44a及び44bを鏡面研磨して隣接する2面の交点にエッジ44cを形成する。試料44のエッジ44cを研磨用バフ33の表面に一定の接触圧で接触させた状態で、試料44と研磨用バフ33との間に予め定めた相対運動を生じさせてエッジ44cを摩耗させる。そしてエッジ44cに形成された摩耗面の幅(エッジが延びる方向と直交する方向の摩耗面の寸法)を測定して試料44の耐摩耗性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の耐摩耗性、特には3元アブレシブ摩耗性を評価する摩耗試験方法及び該方法を実施する際に使用する摩耗試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メリヤス編機の針等の機械部品や刃物に使用される炭素工具鋼及び合金工具鋼等の金属材料の耐摩耗性を評価する方法として、摺動面間に硬質遊離粒子を供給するピンオンディスク法が知られている。そして特開2001−208665号公報(特許文献1)には、従来のピンオンディスク法による摩耗試験装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−208665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるような従来のピンオンディスク法では、試験後の試料の体積や重量の変化量を摩耗量とし、この摩耗量に基づいて耐摩耗性の評価を行っている。しかしながら試料の初期摩耗の特性について試験したい場合には、初期摩耗の摩耗量が非常に微小であるため、電子天秤等の分析用の天秤を用いて重量を測定しても、摩耗量が測定範囲外となってしまい、試料の初期摩耗の評価を行うことができないという問題がある。また従来のピンオンディスク法では、電子天秤等の分析用の天秤で測定できる程度まで試料を摩耗しなければならないために、硬質粒子径が極めて小さい試料のように、摩耗量が少ない試料を試験する場合には、摩耗試験に時間がかかってしまうという問題が生じていた。
【0005】
また従来のピンオンディスク法による摩耗試験により得られた試験結果は、実際の機械部品や刃物で生じる3元アブレシブ摩耗の結果と合致しておらず、ピンオンディスク法では3元アブレシブ摩耗を模擬的に評価することができない問題があった。
【0006】
さらに従来のピンオンディスク法で試料が板形状である場合には、バフ等の研磨部材と試料が面接触した状態で摩耗試験が行われる。そのため試料が、いわゆるびびり振動と呼ばれる微小振動をしている。微小振動が発生すると、同一条件における摩耗試験でも試験結果にばらつきが生じて、耐摩耗性データの再現性が低くなってしまうことがある。
【0007】
さらに、刃付けを必要とする工具等においては、工具等の面の耐摩耗性だけでなく、刃先の先端やエッジの耐摩耗性が重要となる。しかしながら、従来の摩耗試験に用いられている摩耗試験機は、エッジの摩耗試験に適しておらず、エッジの耐摩耗性を正確に評価できないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、試料の初期摩耗の評価を行うことができる摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【0009】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、試験時間を短くすることができる摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【0010】
上記目的に加えて、本発明のさらに他の目的は、実際の3元アブレシブ摩耗を模擬的に評価することができる摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、エッジ部の摩耗を評価することができる摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、試験片が微小振動することのない摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、耐摩耗性データの再現性に優れた摩耗試験方法及び摩耗試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の摩耗試験方法は、研磨工程と、摩耗工程と、評価工程とを実施する。研磨工程では、試料の隣接する2面を鏡面研磨して隣接する2面の交点にエッジを形成する。摩耗工程では、試料のエッジを研磨用バフの表面に一定の接触圧で接触させた状態で、試料と研磨用バフとの間に予め定めた相対運動を生じさせてエッジを摩耗させる。そして評価工程では、エッジに形成された摩耗面の幅(エッジが延びる方向と直交する方向の摩耗面の寸法)を測定して試料の耐摩耗性を評価する。本発明の摩耗試験方法によれば、試料はエッジのみが研磨用バフと線接触した状態から徐々に面接触へと摩耗が進行する。そのため、試験開始当初から試験片が微小振動(びびり振動)することがない。またエッジは、試験開始当初においても十分に摩耗するため、試験結果にばらつきが生じなくなり、耐摩耗性データの再現性を高めることができる。さらに本発明の摩耗試験方法によれば、摩耗面の幅により試料の耐摩耗性を評価しているので、分析用の天秤等で重量変化を把握できる程度まで試料を摩耗させる必要が無い。そのため、試料の初期摩耗の評価を行うことができる。また少ない摩耗量で評価をすることができるので、試験時間を短くすることができる。さらに、本発明の摩耗試験方法により得られた試験結果は、実際の機械部品や刃物で生じる3元アブレシブ摩耗の結果と合致する。そのため、本発明によれば、実際の3元アブレシブ摩耗を模擬的に評価することができる。
【0015】
研磨工程では、隣接する2面の間の内角が90°になるように2面を鏡面研磨してもよい。接する2面の間の内角を90°にすると、研磨工程における試料の研磨が容易となり、隣接する2面の交点に簡単にエッジを形成することができる。
【0016】
試料の隣接する2面と研磨用バフの間との角度はそれぞれ等しいことが好ましい。このようにすると、隣接する2面がエッジを中心にして均等に摩耗していく。そのため、バラツキの少ない試験結果を得ることができる。
【0017】
相対運動は、試料及び試験用バスの一方または両方を移動させて生じさせることができる。例えば、試料を所定位置に配置し、研磨用バフを回転させることにより、相対運動を生じさせることができる。このように構成すると、既存のピンオンディスク用の摩耗試験機の一部を利用することができるので、摩耗試験を簡単に行うことができる。なお試料と研磨用バフとの間の相対運動は、回転運動に限られず、直線運動、往復運動、あるいはこれらと回転運動とを組合せてもよく、その態様は任意である。
【0018】
また研磨用バフの表面には研磨液を塗布しておくのが好ましい。研磨液を用いると、塗布しておく研磨液を適宜に選択することで、試料に応じた所望の摩耗試験を行うことが可能となる。なお、相対運動が研磨用バフを回転させることによる回転運動である場合には、塗布した研磨液が遠心力によりバフの外周方向へ移動してしまうことがあるので、摩耗工程を実施している間、研磨用バフに研磨液を連続的にまたは間欠的に供給し続けるようにするのが好ましい。
【0019】
本発明の方法を実施する際に用いる本発明の摩耗試験機は、テーブル回転装置と、試料保持装置とを備えている。テーブル回転装置は、回転テーブルの上に支持された研磨用バフを回転軸を中心にして回転させる。試料保持装置は、試料を研磨用バフの表面に一定の接触圧で接触させた状態で保持する。試料保持装置は特に、アームと、支持部と、試料保持部と、バランスウエイトと、荷重付与部とを備えている。アームは、一端と他端の間に支点を有する。支持部は、アームの支点を回転自在に支持する。試料保持部は、アームの一端に設けられて試料を保持する。バランスウエイトは、アームの他端に設けられて、荷重付与部からアームに荷重が付与されていない状態における試料と研磨用バフとの接触圧を最小に制御する。加重付与部は、一定の接触圧を発生するようにアームの一端と支点との間に位置するアームの部分に静荷重を加える。本発明の摩耗試験機では、バランスウエイトと荷重付与部との組み合わせにより、簡単に試料を研磨用バフの表面に一定の接触圧で接触させることができる。
【0020】
荷重付与部は、アームの一端と支点との間に位置するアームの部分に一端が固定され、アームよりも下方に位置する固定部に他端が固定されたコイルバネとしてもよい。加重付与部をこのように構成すると、簡単な構成でアームに静荷重を加えることができる。また使用するコイルバネのバネ定数や固定部の位置を変更することにより、付与する荷重を簡単に変更することができる。
【0021】
試料保持部は、アームに対して角度調整可能にアームに設けられていることが好ましい。このように構成すると、試料保持部のアームに対する角度を調整することにより、保持した試料を研磨用バフに対して所望の角度で配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態の摩耗試験機の試験機本体の上壁部を透明なものとし且つ試験機本体3の内部構造の一部を省略して示した摩耗試験機平面図である。
【図2】本実施の形態の試験機本体の側壁部の一部を除去し且つ試験機本体の内部構造の一部を省略して示した摩耗試験機1の正面図である。
【図3】試料を研磨用バフに接触させて摩耗させる状態を模式的に示した図である。
【図4】異なる5つの金属材料A乃至Eについて本発明の摩耗試験方法を行った結果を示す図である。
【図5】(A)は球状炭化物を含む試料について従来の摩耗試験(2元アブレシブ摩耗)を行った摩耗面のSEM画像を示す図であり、(B)には球状炭化物を含む試料について本発明の摩耗試験を行った摩耗面のSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の摩耗試験機の実施の形態の一例について詳細に説明する。図1は、本実施の形態の摩耗試験機1の試験機本体3の上壁部3aを透明なものとし且つ試験機本体3の内部構造の一部を省略して示した摩耗試験機1の平面図であり、図2は、試験機本体3の側壁部3bの一部を除去し且つ試験機本体3の内部構造の一部を省略して示した摩耗試験機1の正面図である。なお、図2においては、理解を容易にするため、テーブル回転装置5等の一部の部材は断面で示されている。図1に示すように、本実施形態の摩耗試験機1は、ハウジングを構成する試験機本体3と、テーブル回転装置5と、試料保持装置7とを備えている。試験機本体3は、上壁部3a、4つの側壁部3b及び底壁部3cを備えており、図示しない電源から電力が供給されるモータ9と、モータ9の回転軸軸11の回転数を計測する回転数カウンター63を内部に備えている。モータ9は、試験機本体3内に設けられた図示しないモータ取付部材に取り付けられている。モータ9の回転軸11の一端には、モータ用プーリ13が取り付けられている。回転数カウンター63は、回転軸11の他端側に設けられており、回転軸11の回転数を計測し、計測した結果を図示しない摩耗試験機1の制御装置等に出力する。回転数カウンター63の構成は任意であり、例えば光学式エンコーダとすることができる。モータ用プーリ13には、モータの回転力をテーブル回転装置5に伝達するためのベルト15が巻き付けられている。
【0024】
テーブル回転装置5は、軸17と、テーブル回転用プーリ19と、軸17を回転可能に保持する複数の軸受け21と、複数の軸受け21を保持する軸受保持部材23とを備えている。テーブル回転用プーリ19は、軸17の一方の端部に取り付けられており、周囲にベルト15が巻き付けられている。軸受保持部材23は、円筒形状に形成されており、軸受保持部材23の一方の端部には取付用のフランジ23aが一体に設けられている。軸受保持部材23は、フランジ23aを試験機本体3の上壁部3aにボルト25で固定されている。
【0025】
軸17の他方の端部には、ボス部材27が固定されている。ボス部材27は、円板状の取付部27aを備えており、この取付部27aに円板状の回転テーブル29が螺子31により螺子留めされている。回転テーブル29の上には、研磨用バフ33が支持される。研磨用バフ33の表面には、研磨液が予め塗布されている。
【0026】
試料保持装置7は、基部35と、一対の立ち上がり壁部37と、アーム支持部39と、アーム41と、試料保持部43と、バランスウエイト45とを備えている。基部35には、細長い一対の貫通孔35aが形成されており、この貫通孔35aに作業者が指で挟んで回すことができる頭部を備えた2本の取付螺子47が挿入されて、基部35が試験機本体3の上壁部3aに固定されている。この貫通孔35aは、2本の取付螺子47を緩めた状態で、基部35をスライドさせることを許容する。基部35には、一対の立ち上がり壁部37が間隔を開けて平行に設けられている。一対の立ち上がり壁部37は、それぞれ2本のボルト49により基部35に固定されている。一対の立ち上がり壁部37には、アーム支持部39の両端部が回転可能に取り付けられている。アーム支持部39は、円柱状の本体部39aと、本体部39aの両端に設けられた一対の取付部39bとを備えている。本体部39aの中央部には、アーム41が貫通する貫通孔39cが設けられている。一対の取付部39bは、本体部39aよりも小径の円柱状に形成されており、一対の立ち上がり壁部37内にそれぞれ設けられた軸受51により回転可能に保持されている。
【0027】
アーム41は、細長い円柱状のロッドから構成されている。アーム41の直径寸法は、アーム支持部39の貫通孔39cと嵌合するように定められている。アーム支持部39の貫通孔39c内に位置するアーム41の部分がアームの支点41aを構成している。従ってアーム41は、支点41aを中心として回転可能である。アーム41の一端には、試料保持部43が角度調整用螺子52によりアーム41に対して角度調整可能に設けられている。従って、試料保持部43の角度を調整することにより、保持した試料を研磨用バフ33に対して所望の角度で配置することができる。試料保持部43は、摩耗試験中に試料をしっかりと保持することができれる構造であればどのような構造でもよい。本実施の形態では、試料保持部43は試料44を厚み方向から挟持する挟持構造を備えている。
【0028】
アーム41の他端にはバランスウエイト45が設けられている。バランスウエイト45は、アーム41の端部に接続されてアーム41と連続する竿部53とカウンターウエイト55とを備えている。カウンターウエイト55には、竿部53が貫通する貫通孔55aが中央に設けられており、カウンターウエイト55は竿部53上を位置変更可能に竿部53に取り付けられている。竿部53には、カウンターウエイト55の位置を固定する2つのストッパを構成するナット53a及び53bが設けられている。ナット53bは、竿部53の外周部に設けた螺子部に螺合されて、カウンターウエイト55が竿部53から変位することを防止する。試料保持部43が保持する試料44の重量に応じて、竿部53上におけるカウンターウエイトの位置を変更することにより、試料44と研磨用バフ33との接触圧を最小に制御する。
【0029】
アーム41の支点41aと試料保持部43が設けられた一端との中間部分には、コイルバネ取付部材57が取り付けられている。コイルバネ取付部材57には、試験機本体3の内部の固定部59に一端が固定されたコイルバネ61の他端が固定されている。コイルバネ61の一端及び他端は、取付のために直線状になっている。コイルバネ61の他端の直線部は、試験機本体3の上壁部3aに形成された穴部3dを貫通している。コイルバネ61により、アーム41は試験機本体3の上壁部3aに向かう方向に引っ張られるため、研磨用バフ33に一定の接触圧で接触した状態で、試料44は試料保持部43に保持される。
【0030】
次に図1及び図2に示した摩耗試験機1を使用した本実施の形態における摩耗試験方法の一例について説明する。
【0031】
1.試料の切り出し
まず、耐摩耗性の評価を行いたい炭素工具鋼及び合金工具鋼等の金属材料から、所定の寸法(例えば長さ30mm、幅15mm、高さ10mm)の試料を切り出す。なお、本実施の形態では、試料の隣接する面が互いに直交するように切り出されている。なお、試料の形状は、これに限らず、少なくとも隣接する2面を有するように切り出せばよい。図2に示す試料44では、この隣接する2面は面44aと面44bである。また、試料が球形等の隣接する2面を有さない形状の場合には、試料の研磨により隣接する2面を試料に形成する。
【0032】
2.鏡面研磨によるエッジの作成
切り出した試料の隣接する2面(図2の面44aと面44b)を鏡面研磨し、鏡面研磨した隣接する2面44a及び44bの交点がエッジ44cになるようにする。図2の例では、2つの面44aと面44bとの間の内角が90°となるようにエッジ44cが形成されている。
【0033】
3.研磨用バフの設置
回転テーブル29に試験条件に応じた研磨用バフ33を設置する。本実施の形態では、BUEHLER社製TRIDENTを研磨用バフとして使用した。必要な場合には、研磨用バフ33の表面に研磨液を塗布しておく。
【0034】
4.試料保持部43による試料の保持
鏡面研磨した試料44を、2つの面44a及び44bの交点に形成されたエッジ44cが研磨用バフ33の表面と接触するように、試料保持装置7の試料保持部43で保持する。特に本実施の形態では、試料保持部43のアーム41に対する角度を調整することにより、鏡面研磨した面44aと研磨用バフ33との間の角度及び面44bと研磨用バフ33との間の角度がそれぞれ45°となるように試料44を保持する。
【0035】
5.バランスウエイトの調整
試料と研磨用バフ33との接触圧が最小となるようにカウンターウエイト55の位置を変更してバランスウエイト45を調整する。
【0036】
6.荷重付与部の調整
試料が研磨用バフ33の表面に試験条件で設定した接触圧で接触するようにコイルバネ61を選択し、選択したコイルバネ61をコイルバネ取付部材57及び固定部59に固定する。コイルバネによる荷重は、例えば300gとすることができる。
【0037】
7.研磨用バフの回転
モータ9を駆動することにより、研磨用バフ33を回転させる。本実施の形態では、回転速度180rpmで研磨用バフ33を回転させた。
【0038】
8.研磨液の供給
本実施の形態では、試料の摩耗中、0.3μmのアルミナサスペンション(BUEHLER社製MICROPOLISH II ALUMINA0.3)をメタノールで体積比1:1で希釈した研磨液を、図示しない研磨液自働供給装置により研磨用バフ33の表面上に供給した。なお、研磨液自働供給装置の構成は、公知の構成を採用することができ、本発明の要旨とは関係しないので説明を省略する。
【0039】
9.摩耗試験
回転している研磨用バフ33の表面に、試料44に形成したエッジ44cを試験条件で設定した長さまたは時間分だけ接触させてエッジ44cを摩耗させる。図3には、試料を研磨用バフ33に接触させて摩耗させる状態を模式的に示した図が示されている。試料44を研磨用バフ33に接触させる回転数は、例えば試験条件で定めた摩耗距離を、試料44が研磨用バフ33と接触する位置と研磨用バフ33の回転中心との距離を半径とする演習の長さで除することにより定めることができる。研磨用バフ33の回転数は、研磨用バフ33が取り付けられたモータ9の回転軸11の回転数を回転数カウンター63で計測する。本実施の形態では、研磨用バフ33の回転中心から80mm離した位置で研磨用バフ33と100回転分試料44を接触させた。
【0040】
10.耐摩耗性の評価
研磨用バフ33と接触することにより試料44のエッジ44cに形成された摩耗面の幅を、デジタルマイクロスコープにより300倍に拡大して測定する。
【0041】
次に異なる5つの金属材料A乃至Eについて上述した摩耗試験方法を実施した結果について説明する。5つの金属材料A乃至Eの実際の耐摩耗性は、A>B>C>D>Eの順で大きくなる。これら5つの金属材料A乃至Eについて上述した摩耗試験をそれぞれ3回ずつ行ったところ、各金属材料の摩耗面の幅は図4に示すようになった。各金属材料の摩耗面の幅の平均値を計測したところ、E>D>C>B>Aの順となった。従って、本実施の形態の摩耗試験方法では、A>B>C>D>Eの順で耐摩耗性が大きくなる結果となり、実際の耐摩耗性と一致する。従って本発明の摩耗試験方法によれば、試料の実際の耐摩耗性と同一の耐摩耗性を評価することが可能である。また図4に示す結果によれば、各金属材料についての摩耗幅のばらつきが大きくない。そのため、本発明の耐摩耗試験は、耐摩耗性データの再現性に優れた摩耗試験であることが理解される。
【0042】
図5(A)には、球状炭化物を含む試料について従来の摩耗試験(2元アブレシブ摩耗)を行った摩耗面のSEM画像が示されており、図5(B)には本発明の摩耗試験を行った摩耗面のSEM画像が示されている。図5(A)に示すSEM画像に比べて図5(B)に示すSEM画像では、摩耗痕の線状性が弱くなっている。この線状性の弱さは、3元アブレシブ摩耗の特徴と一致している。また、図5(B)に示すSEM画像では、摩耗面に炭化物をはっきりと確認することができ、3元アブレシブ摩耗の様子を精度よく再現できている。従って、本発明の摩耗試験方法によれば、定量的な摩耗性を評価することができる。
【0043】
上記実施の形態では、試料44と研磨用バフ33との間の相対運動が回転運動の場合について説明したが。相対運動は回転運動に限られない。研磨用バフが回転しない場合には、研磨液が遠心力によりバフの外周方向へ移動することがなくなるので、研磨液自働供給装置により研磨液を供給せずに、研磨用バフに研磨液を塗布しておくだけでもよい。
【0044】
また上記実施の形態では、隣接する2面44aと面44bの間の内角が90°としたが、試料のエッジのみが研磨用バフと線接触した状態とすることができれば、隣接する2面の間の内角は任意の角度とすることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、隣接する2面44aと面44bと研磨用バフ33との間の角度が互いに等しく(45°)なるようにしたが、隣接する2面の間の角度を異なるよう試料を保持してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、隣接する2面の交点に形成したエッジを摩耗することによりエッジに形成された摩耗面の幅を測定して試料の耐摩耗性を評価する。試料はエッジのみが研磨用バフと線接触した状態から徐々に面接触へと摩耗が進行するので、試験開始当初においても十分に摩耗するため、試験結果にばらつきが生じなくなり、耐摩耗性データの再現性を高めることができる。また摩耗面の幅により試料の耐摩耗性を評価しているので、分析用の天秤等で重量変化を把握できる程度まで試料を摩耗させる必要が無く、試料の初期摩耗の評価を行うことができる。また少ない摩耗量で評価をすることができるので、試験時間を短くすることができる。さらに得られた試験結果は、実際の機械部品や刃物で生じる3元アブレシブ摩耗の結果と合致すので、実際の3元アブレシブ摩耗を模擬的に評価することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 摩耗試験機
3 試験機本体
3a 上壁部
3b 側壁部
3c 底壁部
3d 穴部
5 テーブル回転装置
7 試料保持装置
9 モータ
11 軸
13 モータ用プーリ
15 ベルト
17 軸
19 テーブル回転用プーリ
21 軸受け
23 軸受保持部材
23a フランジ
25 ボルト
27 ボス部材
27a 取付部
29 回転テーブル
31 螺子
33 研磨用バフ
35 基部
35a 貫通孔
37 立ち上がり壁部
39 アーム支持部
39a 本体部
39b 取付部
39c 貫通孔
41 アーム
41a 支点
43 試料保持部
44 試料
44a,44b 面
44c エッジ
45 バランスウエイト
47 取付螺子
49 ボルト
51 軸受け
52 角度調整用螺子
53 竿部
55 カウンターウエイト
55a ナット
55b ナット
57 コイルバネ取付部材
59 固定部
61 コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の隣接する2面を鏡面研磨して前記隣接する2面の交点にエッジを形成する研磨工程と、
前記試料の前記エッジを研磨用バフの表面に一定の接触圧で接触させた状態で、前記試料と前記研磨用バフとの間に予め定めた相対運動を生じさせて前記エッジを摩耗させる摩耗工程と、
前記エッジに形成された摩耗面の幅を測定して前記試料の耐摩耗性を評価する評価工程とからなることを特徴とする摩耗試験方法。
【請求項2】
前記研磨工程では、前記隣接する2面の間の内角が90°になるように前記2面を鏡面研磨する請求項1に記載の摩耗試験方法。
【請求項3】
前記試料の隣接する2面と前記研磨用バフの間との角度はそれぞれ等しい請求項1または2に記載の摩耗試験方法。
【請求項4】
前記摩耗工程では、前記試料を所定位置に配置し、前記研磨用バフを回転させて、前記相対運動を生じさせる請求項1に記載の摩耗試験方法。
【請求項5】
前記研磨用バフの前記表面には研磨液が塗布されている請求項1に記載の摩耗試験方法。
【請求項6】
回転テーブルの上に支持された研磨用バフを回転軸を中心にして回転させるテーブル回転装置と、
試料を前記研磨用バフの表面に一定の接触圧で接触させた状態で保持する試料保持装置とを備え、
前記試料保持装置が、一端と他端の間に支点を有するアームと、前記アームの前記支点を回転自在に支持する支持部と、前記アームの前記一端に設けられた試料保持部と、前記アームの前記他端に設けられたバランスウエイトと、前記一定の接触圧を発生するように前記アームの前記一端と前記支点との間に位置する前記アームの部分に静荷重を加える荷重付与部とを備えていることを特徴とする摩耗試験機。
【請求項7】
前記荷重付与部は、一端が前記アームの前記部分に固定され他端が前記アームよりも下方に位置する固定部に固定されたコイルバネからなる請求項6に記載の摩耗試験機。
【請求項8】
前記試料保持部は、前記アームに対して角度調整可能に前記アームの前記一端に設けられている請求項6に記載の摩耗試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50428(P2013−50428A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189793(P2011−189793)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(592197706)株式会社特殊金属エクセル (9)