説明

撤去電線のガイド装置、及び架空電線の撤去工法

【課題】長尺なケプラロープを使用することによる作業性の悪化、架空電線の引き抜きと最終ロープの引き抜き方向が異なることによる双方向への引き抜き作業を実施するための設備や人員やコストの増大、バルーンをガイド装置を通過させるための煩雑な作業等といった従来の不具合を一挙に解決することができる撤去電線のガイド装置、及び架空電線の撤去工法を提供する。
【解決手段】架空電線10を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車21、22と、2つの滑車を回転自在に軸支するブラケット25と、2つの滑車間の近接部と対面するブラケットの一側面に設けた開放部26と、開放部の上側又は下側のブラケット一側面に設けた軸を中心として上下方向に回動自在に一端を支持されると共に、閉止位置にあるときには開放部を閉止すると共に、開放位置にあるときには前記開放部を開放する開閉片30と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄塔間に張架された高圧送電線等の架空電線を撤去する際に使用する撤去電線のガイド装置、及び架空電線の撤去工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔間に張設される高圧送電線等の架空電線は、鉄塔や電線の老朽化、送電経路の変更、寒冷地における着雪や着氷等による電線断線の未然防等、種々の要請により、撤去する必要に迫られることがある。
架空電線は碍子を介して鉄塔の適所に固定されているため、撤去に際しては作業員が鉄塔上において電線の固定を解除する作業を実施すると共に、鉄塔の適所に事前に取り付けておいた金車と称される上下一対の滑車を備えたガイド装置に対して電線を挿通する。具体的には、上下一対の滑車の外周面の近接部間に電線を差し込んで抜け落ちることがないように組み付ける。鉄塔上においてこのような作業工程を完了してから、電線を一方向へ引き抜くことにより、滑車の回転により電線を脱落させることなく安定してガイドしつつ撤去することができる。
【0003】
しかし、50〜100kg程度の張力が加わる重量物である架空電線の終端部をフリーな状態にしておくと、鉄塔上のガイド装置から抜け落ちた終端部が地上に落下して種々のトラブルを惹起する虞がある。例えば、送電経路が市街地であったり、道路や下部送電線がある場合には深刻な事故をもたらす虞がある。このため、一般には、電線の終端部が落下しないように電線の終端部にワイヤロープとナイロンロープを順次連結して電線に張力を付与しながら引き抜き作業を実施している。
しかし、個々の鉄塔に設けたガイド装置から電線を引き抜き完了した場合には必ず最終ロープが残るため、最終ロープをガイド装置から引き抜くと、最終ロープが鉄塔から落下する。最終ロープとしては強度を重視した太く重いロープが用いられるため、これが地上に落下することによる不具合は避けられないため、これを放置することは許されない。
従来電線の撤去に際して最終ロープが鉄塔の高所から落下することによる不具合を防止するために、電線の落下位置にある人家、道路等の要保護対象物を保護足場によって被覆保護したり、下部送電線を防護管により被覆保護したり、道路の通行を一時的に制限する等の措置が講じられてきたが、これらの措置は高コストで手間のかかる作業となったり、或いは他者に多大な制約を強いる結果をもたらすため、改善策が求められていた。
【0004】
このような不具合を解消する手法として、非特許文献1(送研レポート 2005年5月号、No.499、社団法人 送電線建設技術研究会)には、最終ロープに空気より軽い気体(ヘリウム等)を充満したバルーンを所定の間隔で係留することにより最終ロープを浮上させる最終ロープ回収工法が開示されている。非特許文献1には、図6に示した作業手順が開示されている。この例は、山岳地帯における各高所上に設けた鉄塔100a〜100d間に架設された高圧電線101を回収する手順の一部を示している。右端部に位置する鉄塔100a側が送り出し場であり、左端部の鉄塔100d側が巻き取り場である。図6(a)は終端部に太線で示した最終ロープ102を固定した高圧電線101を巻き取り装置105により引き抜き終わった状態を示している。鉄塔100cと100dとの間の送電経路(約150m)の下方には他社の送電線110が交叉して配設されている。
【0005】
この工程に至る前段階として、鉄塔上における高圧電線の固定解除作業、鉄塔上に対するガイド装置(金車)の固定作業、ガイド装置を構成する滑車間に対する高圧電線の挿通作業が完了している。
図6(a)では高圧電線101を引き抜き完了したことによって全ての鉄塔100a〜100d間に跨って最終ロープ102だけが張架された状態となっている。このまま最終ロープを引き抜くとすれば、最初に右端部の鉄塔100aから最終ロープ終端部が落下し、引き抜きを進行させる過程で鉄塔100b、100cから順次最終ロープ終端部が落下してゆく。しかし、鉄塔100cと100dとの間には他社送電線110があり最終ロープを落下させた場合の他社送電線の断線等のトラブルが懸念される。そこで、少なくとも鉄塔100cからの最終ロープの落下を防止せんとするのがこの従来技術の趣旨である。
【0006】
この従来技術においては、(a)のように鉄塔100dに最終ロープ102の先端部が到達した時点で高圧電線101から切り離して、最終ロープ先端部にケプラロープ106を固定する。ケプラロープ106を固定した後の最終ロープ102は、高圧電線の引き抜き方向とは逆方向に引き取られる。最終ロープ102が鉄塔100dから鉄塔100cへ向けて送り出される過程において、鉄塔100d上の作業員がケプラロープ106に対して所定の間隔(この例では60m間隔)で十分な浮力を有したバルーン107を、係留紐107aを用いて順次固定する((b))。
【0007】
次に、(c)のように先頭に位置するバルーン107が鉄塔100cの頂部に設けた図示しないガイド装置に達した時点では、バルーンにより浮上した最終ロープ102が鉄塔100c、100d間に落下する虞が皆無となるため、この段階で、最終ロープ102の先端部からからケプラロープ106を離脱させ、最終ロープ102を矢印方向へ引き抜いて回収する。この回収過程で最終ロープ102は鉄塔100c、100bから順次落下して行くが、要保護対象物となる他社送電線等が回収経路に存在しないため、ケプラロープ106及びバルーン107を用いた落下防止の為の措置は講じない。
鉄塔100c上で最終ロープからケプラロープを取外すと、(d)に示すようにバルーン107の浮力によりケプラロープ106は上空へ一気に浮上する。
浮上したケプラロープ106は、(e)に示すように人手等によって地上に回収することができる。
【0008】
しかし、上記従来工法では、最終ロープ回収時に、鉄塔100c、100b、100a間に他社送電線、市街地、道路等の要保護対象物が存在する場合には、バルーンを固定したケプラロープを(c)の時点で最終ロープから離脱させることができない。この場合には、鉄塔100cを超えて最後の鉄塔100aに最終ロープの先端部が達するまで最終ロープの落下を防止しながらガイドしてゆく必要がある。この場合、ケプラロープ106としては、少なくとも、鉄塔100dから鉄塔100aまでの距離全長に亘る長さを有したものを使用する必要がある。ケプラロープ106が(d)のように垂直に浮上した状態となっては、最終ロープを鉄塔100aに向けて引き抜くことが困難になるからである。特に、ケプラロープに固定されたバルーンの係留紐を、ガイド装置を構成する滑車間に絡むことなく通過させることが極めて困難であった。
【0009】
次に、図7(a)(b)に示すように、各鉄塔100の上部に固定されるガイド装置(金車)120は、上下一対の滑車121の各中心軸をブラケット125によって支持した構成を備えている。ブラケット125は、鉄塔上の固定板100aに固定される固定側のブラケット本体126に対して着脱片127をボルトにより固定した構成を備えており、電線やロープを滑車間に挿着する場合には着脱片127を取外しておき、滑車間のスペース内に電線等を挿着した後に着脱片127をボルト固定する構造となっている。
【0010】
このような従来構造のガイド装置120を用いて図6に示した電線撤去作業を実施する場合に、鉄塔100cから最終ロープが落下することを防止するために、鉄塔100cを超えた後もケプラロープとバルーンにより最終ロープにテンションを付与し続けるとすれば、バルーン107、及びその係留紐107aがガイド装置を構成する滑車間を通過するたびにボルトによる着脱片127の固定を解除して手作業によってバルーン及び係留紐の通過を完了させ、一つのバルーンの通過後に再び着脱片127をボルト固定する、といった極めて煩雑な作業が必要となる。このような着脱片127の固定作業を逐次作業を行わないと、風圧により激しく揺動するケプラロープが滑車間から脱落するからである。
或いは、ガイド装置の手前に達したバルーンの係留紐を人手により一旦ケプラロープから外してから、ガイド装置を通過して下流側に移動したケプラロープ部分に再び係留紐を取り付けて送出すといった煩雑な作業が必要とされる。この作業は極めて煩雑で労苦の多い作業となるばかりか、風が強い状況下では実施不可能な作業となる。
また、上記従来工法では、最終ロープの他に極めて長尺なケプラロープを必要とするばかりでなく、電線の引き抜き方向と最終ロープの引き抜き方向を逆転させる等、回収のための設備、作業工数、作業人員、コストが増大するといった不具合があった。
【非特許文献1】送研レポート 2005年5月号、No.499、社団法人 送電線建設技術研究会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように従来の架空電線の撤去工法においてバルーンを用いて鉄塔からの最終ロープの落下を防止する場合には、バルーンを係留したケプラロープを鉄塔上のガイド装置を通過させる際の作業が極めて繁雑化して作業効率が低下するという問題、それに伴う設備や作業時間、労力、コストの増大といった問題が発生していた。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、長尺なケプラロープを使用することによる作業性の悪化、架空電線の引き抜きと最終ロープの引き抜き方向が異なることによる双方向への引き抜き作業を実施するための設備や人員やコストの増大、バルーンをガイド装置を通過させるための作業の煩雑化(ガイド装置の分解、或いはバルーンの着脱作業)等といった従来の不具合を一挙に解決することができる撤去電線のガイド装置、及び架空電線の撤去工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1の発明に係る撤去電線のガイド装置は、鉄塔から取り外された架空電線を引き抜き撤去する際に該架空電線をガイドするガイド装置において、前記架空電線を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車と、該2つの滑車を回転自在に軸支するブラケットと、該2つの滑車間の近接部と対面する該ブラケットの一側面に設けた開放部と、前記開放部の上側又は下側のブラケット一側面に設けた軸を中心として上下方向に回動自在に一端を支持されると共に、閉止位置にあるときには前記開放部を閉止すると共に、閉止位置にあるときには前記開放部を閉止すると共に、開放位置にあるときには前記開放部を開放する開閉片と、該開閉片を閉止位置に係止する係止機構と、を備えたことを特徴とする。
電線、最終ロープをガイドする滑車の近接部を側方から開閉可能に構成したので、開放部から、電線、最終ロープを着脱することが容易となる。例えば、最終ロープに浮上用のバルーンが係留されている場合においても、滑車間の近接部の側方を開放しておくことにより、バルーンの係留紐が滑車、ブラケット等に絡むことなくスムーズに通過させる処理を実施することが可能となる。開閉片は、ボルト等による手数の掛かる固定手段によらずに開閉操作できるので、作業性が大幅に向上する。
【0013】
請求項2の発明に係る撤去電線のガイド装置は、鉄塔から取り外された架空電線を引き抜き撤去する際に該架空電線をガイドするガイド装置において、前記架空電線を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車と、該2つの滑車を回転自在に軸支するブラケットと、該2つの滑車間の近接部と対面する該ブラケットの一側面に設けた開放部と、前記開放部の上側又は下側のブラケット一側面により上下動自在に支持されて、閉止位置にあるときには前記開放部を閉止すると共に、開放位置にあるときには前記開放部を開放する開閉片と、該開閉片を閉止位置に係止する係止機構と、を備えたことを特徴とする。
開閉片は、上下動することにより開放部を開閉するように構成してもよい。
【0014】
請求項3の発明に係る撤去電線のガイド装置は、請求項1、又は2において、前記2つの滑車のうちの少なくとも一方の滑車を、前記ブラケットにより、他方の滑車に向けて進退自在に支持すると共に、少なくとも該一方の滑車を該他方の滑車に向けて弾性付勢する弾性部材と、を備えたことを特徴とする。
請求項4の発明に係る撤去電線のガイド装置は、請求項1、2又は3において、前記開閉片の他端部に被係止部を設けると共に、前記ブラケットの一側面にはこの被係止部を係止する前記係止部を設けたことを特徴とする。
開閉片は、係脱が容易な係止機構(係止部、被係止部)を用いることにより、鉄塔上におけるボルトの着脱に伴って従来発生していた作業の労苦を低減することが可能となる。
【0015】
請求項5の発明に係る架空電線の撤去工法は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の撤去電線のガイド装置を用いた架空電線の撤去工法であって、複数の前記鉄塔間に架設された前記架空電線を前記各鉄塔から取り外す取外し工程と、前記各鉄塔に前記ガイド装置を固定するガイド装置固定工程と、前記各ガイド装置を構成する前記開閉片を開放した状態で、前記架空電線を、前記各ガイド装置を構成する2つの滑車間に挿通し、その後前記開閉片を閉止状態にする架空電線挿通工程と、前記架空電線の終端部に最終ロープを固定する最終ロープ固定工程と、前記最終ロープの適所に空気より軽い気体を封入したバルーンを係留紐を介して取り付けるバルーン取付け工程と、前記架空電線を、前記各鉄塔に固定した前記ガイド装置を介して一方へ引き抜く引き抜き工程と、前記各ガイド装置の位置に前記最終ロープにより支持されたバルーンが到達する前に、前記開閉片を開放状態にして、前記バルーンの係留紐が2つの滑車の近接部内を通過するように処理する工程と、を備えたことを特徴とする。
前記取外し工程と、ガイド装置固定装置はどちらが先であってもよいし、同時であってもよい。また、架空電線挿通工程はガイド装置の固定工程後に実施される。最終ロープ固定工程は、架空電線挿通工程以前のどの段階で実施してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明のガイド装置、及び撤去工法によれば、架空電線を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車間の近接部と対面するブラケットの一側面に開放部を設け、この開放部を任意に開閉する開閉片を備えたガイド装置を用いた架空電線の撤去作業を行うので、長尺なケプラロープを使用することによる作業性の悪化、架空電線の引き抜きと最終ロープの引き抜き方向が異なることによる双方向への引き抜き作業を実施するための設備や人員やコストの増大、バルーンをガイド装置を通過させるための煩雑な作業(ガイド装置の分解、或いはバルーンの着脱作業)等といった従来の不具合を一挙に解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は鉄塔間に張架された架空電線と周辺環境の一例を示す図であり、図2は鉄塔頂部に本発明の撤去電線のガイド装置を取り付けた状態を示す図(ガイド装置は概略構成)であり、図3(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るガイド装置の構成を示す正面図、及び側部縦断面図である。
各鉄塔1a〜1dは市街地、或いは幹線道路がある地域に設置されているため、鉄塔間に張架されている架空電線10は人家等の家屋や道路の上方に配設されている。このため、架空電線10を鉄塔から取り外して回収する撤去工事において、架空電線や、架空電線の終端部に取り付けられる最終ロープが落下することは許されない状況にある。
【0018】
図1においては架空電線10を撤去するための準備作業として、各鉄塔1a〜1dの頂部にある頂版2に対してボルト3を用いて支持板4を固定した上で、支持板4上の適所に2個のガイド装置20をボルト等により固定する。
ガイド装置20は、背景技術において説明したガイド装置と同様に、鉄塔から取り外された架空電線を撤去する際のガイドとして機能する。
【0019】
図3に示した本発明のガイド装置20は、架空電線10を上下から挟持しつつ回転することによりガイドする2つの滑車21、22と、2つの滑車21、22を軸受21b、22bを介して回転自在に軸支する各中心軸21a、22aと、各中心軸21a、22aの両端部を軸支するブラケット25と、2つの滑車の近接部と対面するブラケット25の一側面に設けた開放部26と、開放部26の上側又は下側のブラケット一側面に設けた滑車21の中心軸21aを中心として上下方向に回動自在に一端を支持されると共に、破線で示した開放位置にあるときには開放部を開放する一方で実線で示した閉止位置にあるときには開放部26を閉止する開閉片30と、この開閉片30を閉止位置に係止する係止機構22a、31、32と、を備えている。
【0020】
滑車21、22の外周にはウレタンゴムなどの柔軟性を有した材質を用いることにより線材である架空電線や最終ロープに密着して挟持することができる。
ブラケット25はその底部から下方へ向けてボルト27を突設した構成を備えており、このボルト27を支持板4に設けた穴に上側から挿通し、ワッシャ29を介してナット28により締結固定する。なお、ボルト27に対してブラケット25を回転自在に組み付けることによりボルト27を中心としてブラケット25及び滑車21、22を水平方向へ回転、回動できるように構成してもよい。
【0021】
開閉片30の下端部にはフック状の切欠き部(被係止部)31があり、この切欠き部31が滑車22の中心軸(係止部)22aに対して径方向から着脱自在に係合するように構成されている。なお、開閉片30の回動軸は滑車21の中心軸21aでなくてもよく、ブラケット側面に設けた回動軸であればよい。また、切欠き部31が係止される対象物(係止部)は、滑車22の中心軸22aでなくてもよく、ブラケット外面に設けた突起等の係止部に係止するようにしてもよい。また、中心軸22aの端部に設けたネジ部22a’に対して蝶ネジ32を螺着することにより開閉片30の下端部を中心軸22aに対して固定することができる。蝶ネジ32を緩めることにより開閉片30の下端部が中心軸22aから離脱することが可能となる。開閉片30が図示のように閉じた状態においては開放部26は閉ざされており、滑車21、22間の近接部内に架空電線10を着脱することはできないが、開閉片30を中心軸21aを中心として上方(図示の例では、時計回り方向)に回動させることにより切欠き部31が中心軸22aから離脱して開放部26が開放状態となる。この開放状態においては、滑車21、22間の近接部が開放されるため、該近接部内に架空電線を着脱することができる。
【0022】
また、開閉片30を開放位置にて係止できるように開閉片30を図示しないバネ手段によって開放方向へ常時弾性付勢したり、ブラケットの側面に該開閉片を開放状態に保持する係止機構を配置するように構成しても良い。
なお、開閉片30を閉止位置に係止する手段として示した蝶ネジは一例に過ぎず、例えば開閉片とブラケット側面に設けた穴にピンを着脱自在に装着することによって、開閉片30を閉止位置に保持するように構成してもよい。何れにしても本発明では、複数のボルトによるブラケットの着脱操作、開閉操作という従来の煩雑な手法を回避し、ワンタッチ操作に近い簡単な操作により開閉片を閉止位置、開放位置に係止できる係止機構を設けたので、鉄塔上の作業に伴う労苦を低減する上で多大な貢献をすることができる。
【0023】
なお、開閉片30が開放部26を開閉するために動作する方向は回動方向である必要はなく、例えば、上下方向へ進退するように開閉片30をブラケット25により支持してもよい。具体的には、ブラケット側面に設けた上下方向に伸びる長穴内に、開閉片30に設けた突起を嵌合して上下方向へ進退自在に支持する等の手法が考えられる。この場合、開閉片30を閉止位置において係止する係止構造としては、開閉部先端に設けた切欠き部が嵌合する中心軸22aと、蝶ネジ等を用いても良いし、開閉片に設けた穴とブラケットに設けた穴に挿通されて両者を連結するピンを用いても良い。
また、この例では一方の滑車21の中心軸21aは、ブラケット25によって上下、左右、斜め方向の何れにも移動しないように支持されているが、他方の滑車22はその中心軸22aがブラケット25の側壁に設けた長穴等によって上下動可能に支持されているため滑車22全体として上下動し、滑車21に対して接近、離間することができる。
【0024】
ブラケット25の底面から突出するボルト27の上部(或いはボルト27を回転自在に支持する別部材)27aは、バネホルダ27a’を有し、下側の滑車22の中心軸22aを支持する内側ブラケット35とこのバネホルダ27a’との間に弾性部材36を保持している。ナット27a”を用いてバネホルダ27a’の高さ位置を調整することにより弾性部材36による付勢力を調整することができる。弾性部材36は、コイルバネから成り、ボルト上部27aの外周面に配置されることにより、内側ブラケット35を介して滑車22を常時上方に弾性付勢している。このため、滑車22は滑車21との間の隙間を通過する線材(架空電線、最終ロープ)の径の変化に追随して上下動しつつ安定して線材の通過をガイドすることができる。
架空ケーブル、或いは最終ロープ40にバルーン41の係留紐42を固定する方法としては、例えば最終ロープ40の適所から伸びる接続用ロープ40aに対して取付け具40bを用いて係留紐を着脱自在に取り付ける。
【0025】
次に、上記撤去電線のガイド装置を用いた架空電線の撤去工法について、図4及び上記の各図を参照しつつ説明する。
この撤去工法では、まず、作業員が各鉄塔1a〜1d上において、複数の鉄塔1a〜1d間に架設された架空電線10を各鉄塔から取り外す電線取外し工程を実施する。この工程では、停電状態にある架空電線10を、鉄塔に設けた図示しない碍子から取り外す作業が行われる。
次いで、各鉄塔にガイド装置20を固定するガイド装置固定工程を実施する。なお、電線取外し工程の前段階、或いはその工程後に、電線10を撤去するための準備作業として、各鉄塔1a〜1dの頂部にある頂版2に対してボルト3を用いて支持板4を固定した上で、支持板4上の適所に2個のガイド装置20を固定する。本実施形態のガイド装置20はブラケット25の底部から突出するボルト27を支持板4に設けた取付け穴に挿着した後でナット28により締結固定する。
【0026】
次いで、各ガイド装置20を構成する開閉片30を開放した状態で、架空電線10を、各ガイド装置を構成する2つの滑車21、22間に挿通し、その後開閉片30を閉止状態にする工程を実施する。この実施形態に係るガイド装置20を用いた操作にあっては、一つの蝶ネジ32を手作業により緩めて開閉片30と中心軸22aとの係止を解除して開放部26を開放させることにより、架空電線の着脱が可能となる。架空電線を滑車間の近接部内に挿着した後は、開閉片30の切欠き部31を中心軸22aに嵌合させてから蝶ネジ32を締め付けることにより架空電線の装着が完了する。
【0027】
次いで、図4(a)に示すように鉄塔1a上において、架空電線10の終端部に最終ロープ40を固定する最終ロープ固定工程を実施する。この工程では、架空電線10の終端部が位置する鉄塔1a上において、碍子から取り外してガイド装置20に装着した架空電線の終端部に最終ロープ40を固定する。なお、架空電線の終端部が地上に垂れ下がった状態にある場合には、地上においてこの結線作業を実施すればよい。架空電線の終端部に取り付けられた最終ロープ40は、架空電線の終端部をガイド装置20に沿って引き抜くことにより、引き続いてガイド装置を構成する滑車対の近接部内に入り込み、架空電線に追随して引き抜かれてゆく。
【0028】
次いで、最終ロープ40の適所に所定間隔となるように空気より軽い気体(例えば、ヘリウム)を封入したバルーン41を、係留紐42を介して取り付ける工程を実施する。バルーン41を最終ロープ40に取り付ける作業は、鉄塔1a上において実施される。最も効率的なバルーン41の取付け手順は、鉄塔1a上の2つのガイド装置20を通過した最終ロープ40の取付け部分(ガイド装置よりも下流側部分)に対して係留紐42を取り付ける方法である。ガイド装置20よりも上流側に位置する最終ロープ部分にバルーンを取り付けるとすれば、取り付けられたバルーンを、スムーズにガイド装置20を通過させるための処理を実施する手間がかかるからである。
バルーン41としては、ゴム、樹脂等、十分な強度を備えた材料から成り、ヘリウム等のガスを充填することにより十分な浮力を発生し得るサイズを有したものを用いる。
【0029】
次に、架空電線10を、各鉄塔に固定したガイド装置20を介して一方へ引き抜く工程を実施する。
本工程では、架空電線終端部に連結された最終ロープ40もガイド装置20によりガイドされつつ引き抜かれて行くため、最終ロープ上に所定間隔で係留されたバルーン41、及び係留紐42がガイド装置20に引っ掛かることがないように滑車間をスムーズに通過させるように処理する必要がある。そこで、何れかの鉄塔に設けた各ガイド装置20の位置に最終ロープにより支持されたバルーンが到達する前に、開閉片30を開放状態にして、バルーンの係留紐が2つの滑車の近接部内をスムーズに通過するように処理する工程を実施する。この工程では、作業員が手作業によりバルーンや係留紐が滑車やブラケットに絡むことがないように必要な処理を行う。この際、開閉片30を開放位置に係止する係止機構を用いることにより作業性が向上する。
【0030】
図4(b)は最終ロープ40の終端部が鉄塔1a上のガイド装置20を通過して浮上した状態を示している。この状態で巻き取り装置50を用いて架空電線10を引き取って行くことにより、最終ロープ上の各バルーン41は下流側に位置する各鉄塔1b、1c、1d上の各ガイド装置20に順次到達するので、各鉄塔上に待機している作業員が、バルーンがガイド装置20に達するたびに開閉片30を開放して開放部26から係留紐42を側方に引き出しつつ通過させることにより滑車への引っかかりを防止することができる。各バルーンの通過後はガイド装置20の開閉片30を閉止位置に戻して蝶ネジ32を締結状態に戻す。風力が強い場合には最終ロープが風に煽られて揺動するため、最終ロープの滑車からの脱落を防止するためには、開閉片により開放部の閉止作業が必須となる。逆に言えば、開閉片30さえ閉止状態にしておけば、強い風によりバルーンを支持した最終ロープが大きく上下左右に揺動したとしても最終ロープがガイド装置から脱落することがなく、下流側への引き抜き作業を継続して実施することができる。このような開閉片の係止作業を単一の蝶ネジ、ピン等の非ボルト系の係止機構によってほぼワンタッチ操作により実施できるので、作業性を向上できる。
【0031】
なお、上空が無風状態にある場合などにおいて、バルーンがガイド装置20を通過する度に開閉片30により開放部26を開閉する作業を実施することが煩わしい場合には、開閉片30を開放状態に保持しておき、最終ロープ40が滑車間から脱落せぬように作業員が最終ロープの通過を監視しながら、係留紐が滑車間を通過する時点で絡み防止処理を実施するようにしてもよい。
架空電線10及び最終ロープ40の引き抜きが進行し、図4(c)に示すように最終鉄塔1dの直前位置に最初のバルーン41が到達した段階で、最終鉄塔1d上にいる作業員がバルーンを架空電線10から取り外し、順次後続のバルーンについても最終鉄塔1d上で取り外しても良いし、各バルーンを取り外すことなく最終鉄塔1d上のガイド装置20を通過させ、人手、或いは巻き取り装置50により回収する過程で地上においてバルーンを取り外すようにしてもよい。
【0032】
架空電線の取外し工程と、ガイド装置固定装置はどちらが先であってもよいし、同時であってもよい。また、架空電線挿通工程はガイド装置の固定工程後に実施される。最終ロープ固定工程は、架空電線挿通工程以前のどの段階で実施してもよい。
なお、バルーンに取り付けられた係留紐42を最終ロープ40に対して着脱する際には、例えば図5に示した如きワンタッチで着脱可能な着脱手段45を使用することが好ましい。この例に係る着脱手段45では、ベルベットクロス(マジックテープ(登録商標))を用いており、最終ロープ40の所定箇所に一方の着脱片45aを巻き付けて固定しておく一方で、係留紐42の端部には着脱片45aと着脱自在な着脱片45bを取り付けておくことにより容易に着脱することが可能となる。また、このようなシート状の着脱手段45であれば2つの滑車21、22間に挟まれたとしてもスムーズに滑車間を通過することが可能となる。
【0033】
以上のように、本発明のガイド装置を用いた電線の撤去工法によれば、下流側の各鉄塔1b、1c、1d上の各ガイド装置20を最終ロープ40が通過するに際して、各バルーンの係留紐が滑車等に絡まないように処理する作業を適時実施することにより、バルーンを一旦最終ロープから外してから再度取り付けたり、ガイド装置を分解する等の煩雑な作業を伴うことなく、架空電線10を引き取る作業を実施して行くだけで、架空電線の終端部が鉄塔から落下することを防止しつつ架空電線を撤去、回収することができる。
しかも、最終ロープ以外に、長尺なケプラロープを使用することによる作業性の悪化、架空電線の引き抜きと最終ロープの引き抜き方向が異なることによる双方向への引き抜き作業を実施するための設備や人員やコストの増大という問題も同時に解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】鉄塔間に張架された架空電線と周辺環境の一例を示す図。
【図2】鉄塔頂部に本発明の撤去電線のガイド装置を取り付けた状態を示す図。
【図3】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るガイド装置の構成を示す正面図、及び側部縦断面図。
【図4】(a)(b)及び(c)は本発明の撤去工法による電線の撤去手順を示す図。
【図5】バルーンを着脱する手段の構成例を示す図。
【図6】(a)乃至(e)は従来の電線撤去工法の説明図。
【図7】(a)及び(b)は従来のガイド装置の構成説明図。
【符号の説明】
【0035】
1、1a〜1d…鉄塔、2…頂版、3…ボルト、4…支持板、10…架空電線、20…ガイド装置、21、22…滑車、21a…中心軸、21b…軸受、22a…中心軸、22a’…ネジ部、25…ブラケット、26…開放部、27…ボルト、27a…ボルト上部、27a’…バネホルダ、27a”…ナット、28…ナット、29…ワッシャ、30…開閉片、31…開放部、32…蝶ネジ、35…内側ブラケット、36…弾性部材、40…最終ロープ、41…バルーン、42…係留紐、45…着脱手段、45a…着脱片、45b…着脱片、50…巻き取り装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔から取り外された架空電線を引き抜き撤去する際に該架空電線をガイドするガイド装置において、
前記架空電線を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車と、該2つの滑車を回転自在に軸支するブラケットと、該2つの滑車間の近接部と対面する該ブラケットの一側面に設けた開放部と、前記開放部の上側又は下側のブラケット一側面に設けた軸を中心として上下方向に回動自在に一端を支持されると共に、閉止位置にあるときには前記開放部を閉止すると共に、開放位置にあるときには前記開放部を開放する開閉片と、該開閉片を閉止位置に係止する係止機構と、を備えたことを特徴とする撤去電線のガイド装置。
【請求項2】
鉄塔から取り外された架空電線を引き抜き撤去する際に該架空電線をガイドするガイド装置において、
前記架空電線を上下から挟持しつつ回転する2つの滑車と、該2つの滑車を回転自在に軸支するブラケットと、該2つの滑車間の近接部と対面する該ブラケットの一側面に設けた開放部と、前記開放部の上側又は下側のブラケット一側面により上下動自在に支持されて、閉止位置にあるときには前記開放部を閉止すると共に、開放位置にあるときには前記開放部を開放する開閉片と、該開閉片を閉止位置に係止する係止機構と、を備えたことを特徴とする撤去電線のガイド装置。
【請求項3】
前記2つの滑車のうちの少なくとも一方の滑車を、前記ブラケットにより、他方の滑車に向けて進退自在に支持すると共に、少なくとも該一方の滑車を該他方の滑車に向けて弾性付勢する弾性部材と、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の撤去電線のガイド装置。
【請求項4】
前記開閉片の他端部に被係止部を設けると共に、前記ブラケットの一側面にはこの被係止部を係止する前記係止部を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の撤去電線のガイド装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の撤去電線のガイド装置を用いた架空電線の撤去工法であって、
複数の前記鉄塔間に架設された前記架空電線を前記各鉄塔から取り外す工程と、
前記各鉄塔に前記ガイド装置を固定する工程と、
前記各ガイド装置を構成する前記開閉片を開放した状態で、前記架空電線を、前記各ガイド装置を構成する2つの滑車間に挿通し、その後前記開閉片を閉止状態にする工程と、
前記架空電線の終端部に最終ロープを固定する工程と、
前記最終ロープの適所に空気より軽い気体を封入したバルーンを係留紐を介して取り付ける工程と、
前記架空電線を、前記各鉄塔に固定した前記ガイド装置を介して一方へ引き抜く工程と、
前記各ガイド装置の位置に前記最終ロープにより支持されたバルーンが到達する際に、前記開閉片を開放状態にして、前記バルーンの係留紐が2つの滑車の近接部内を通過するように処理する工程と、を備えたことを特徴とする架空電線の撤去工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−325462(P2007−325462A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155383(P2006−155383)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(591080678)株式会社中電工 (64)