説明

撥油性組成物および撥油膜を有する物品

【課題】 撥油性に優れ、高温のオイルに長時間晒されても基材との密着性が低下せず、撥油持久性に優れる撥油膜を得ることができ、かつ溶液安定性、成膜性に優れる撥油性組成物、および撥油性およびその持久性に優れる物品を提供する。
【解決手段】 主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体(a)と、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない含フッ素重合体であり、数平均分子量が3000〜20000である重合体(b)と、溶媒とを含有する撥油性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油性組成物、および該撥油性組成物からなる撥油膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等におけるモータの流体軸受部のオイルの滲み出しを防止するためのオイルシール剤として、含フッ素重合体を含む撥油剤が用いられている。たとえば、マイクロプロセッサ用の冷却ファンモータ、光ディスク回転装置、コンピュータハードディスク等における流体軸受部には、軸受に潤滑剤として充填されたオイルの滲み出しを防止するために、軸受またはスリーブの端面に含フッ素共重合体を含む撥油剤からなる撥油膜が設けられている(たとえば、特許文献1参照。)。また、撥油性を有する含フッ素共重合体として、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体も知られている(たとえば、特許文献2参照。)。
しかし、流体軸受部のオイルは、モータ部からの発熱により温度が上昇するため、撥油膜が高温のオイルに晒され、撥油膜中にオイルが浸透することがある。そのため、撥油膜が膨潤する、撥油膜と軸受またはスリーブとの密着性が低下する等により、撥油膜の撥油性が低下し、オイル滲み出し防止の機能が損なわれる問題がある。
【0003】
基材への密着性に優れた含フッ素樹脂組成物としては、含フッ素環構造を有する含フッ素樹脂と、極性を有する官能基を備え、かつフッ素系溶剤に可溶な含フッ素化合物とを含む組成物が提案されている(特許文献3参照。)。しかし、該組成物の撥油膜は、初期の撥油性には優れるものの、使用条件によっては撥油性が低下し、オイルを完全にはじかないおそれがある。
【特許文献1】特開2000−297818号公報
【特許文献2】特開昭63−238111号公報
【特許文献3】特開2004−115622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、撥油性に優れ、高温のオイルに長時間晒されても基材との密着性が低下せず、撥油持久性に優れる撥油膜を得ることができ、かつ溶液安定性、成膜性に優れる撥油性組成物、および撥油性およびその持久性に優れる物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の撥油性組成物は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体(a)と、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない含フッ素重合体であり、数平均分子量が3000〜20000である重合体(b)と、溶媒とを含有することを特徴とする。
前記重合体(a)は、カルボキシル基、スルホ基、エステル結合を有する基、加水分解性シリル基、ニトリル基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、およびジアゾ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0006】
前記重合体(b)は、該重合体(b)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角が前記重合体(a)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角よりも大きいものであることが好ましい。
前記重合体(b)は、パーフルオロポリエーテルであることが好ましい。
重合体(a)100質量部に対する重合体(b)の含有量は、1〜50質量部であることが好ましい。
本発明の物品は、本発明の撥油性組成物からなる撥油膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の撥油性組成物は、撥油性に優れ、高温のオイルに長時間晒されても基材との密着性が低下せず、撥油持久性に優れる撥油膜を得ることができ、かつ溶液安定性、成膜性に優れる。
本発明の物品は、撥油性およびその持久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の撥油性組成物は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体(a)と、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない含フッ素重合体であり、数平均分子量が3000〜20000である重合体(b)と、溶媒とを含有する組成物である。
【0009】
(重合体(a))
重合体(a)は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するものである。「主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する」とは、脂肪族環を構成する炭素原子の1以上が主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であり、かつ脂肪族環を構成する炭素原子の少なくとも一部にフッ素原子またはフッ素含有基が結合している構造を有していることを意味する。また、脂肪族環は、エーテル結合を有していてもよい。
【0010】
重合体(a)としては、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる重合体(a−1)、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる重合体(a−2)、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーと、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとを共重合して得られる重合体(a−3)等が挙げられる。
【0011】
重合体(a−1)としては、特公昭63−18964号公報等に記載されているものが知られている。重合体(a−1)は、たとえば、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを単独重合、または、該モノマーと、他のラジカル重合性モノマーとを共重合することにより得られる。
【0012】
重合体(a−2)としては、特開昭63−238111号公報に記載されているものが知られている。重合体(a−2)は、たとえば、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合、または、該モノマーと、他のラジカル重合性モノマーとを共重合することにより得られる。
【0013】
重合体(a−1)〜(a−3)としては、具体的には下式(1)〜(4)から選ばれる構成単位を有するものが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)〜(4)中、hは0〜5の整数、iは0〜4の整数、jは0または1、h+i+jは1〜6、sは0〜5の整数、tは0〜4の整数、uは0または1、s+t+uは1〜6、p、q、rはそれぞれ独立に0〜5の整数、p+q+rは1〜6、R、R1 、R2 、X1 、X2 はそれぞれ独立にFまたはCF3 である。
【0016】
含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーとしては、下式(5)〜(7)で表される化合物が好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
式(5)〜(7)中、X3 〜X8 、R3 〜R8 はそれぞれ独立にF、ClまたはCF3 であり、R3 とR4 、R5 とR6 、およびR7 とR8 は連結して環を形成してもよい。
式(5)〜(7)で表される化合物の具体例としては、下式(5−1)〜(5−3)、(6−1)〜(6−3)、(7−1)、(7−2)で表される化合物等が挙げられる。
【0019】
【化3】

【0020】
2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとしては、下式(8)〜(10)で表される化合物が好ましい。
【0021】
【化4】

【0022】
式(8)〜(10)中、Y1 〜Y10、Z1 〜Z8 、およびW1 〜W8 は、それぞれ独立にFまたはCF3 である。
式(8)〜(10)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物等が挙げられる。
【0023】
【化5】

【0024】
含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーまたは2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーと共重合可能な他のラジカル重合性モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロブチル)エチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、メチルパーフルオロ(5−ヘキサ−6−ヘプテノエート、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0025】
重合体(a)は、基材との密着性の観点から、カルボキシル基、スルホ基、エステル結合を有する基、加水分解性シリル基、ニトリル基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、およびジアゾ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。重合体(a)中の官能基の数は、重合体(a)の数平均分子量1万〜500万あたり、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましく、1〜2個がさらに好ましい。重合体(a)として、官能基を有する重合体(a)と官能基を有さない重合体(a)とを併用してもよい。
【0026】
重合体(a)に官能基を導入する方法としては、以下の方法が挙げられる。
(i)分子内にカルボキシル基、スルホ基等の官能基、またはこれらの前駆体基(たとえば、カルボキシル基の場合、アシル基。)を有する開始剤または連鎖移動剤の存在下で重合を行うことにより、重合体(a)の末端基にカルボキシル基、スルホ基等を導入する方法。
(ii)酸素存在下にて重合体(a)を高温処理することにより、重合体(a)の側鎖または末端を酸化分解させ、ついで、これを水またはアルコールで処理してカルボキシル基またはエステル結合を有する基を導入する方法。
【0027】
(iii)カルボン酸誘導体基、スルホ基、またはスルホ基誘導体基を有するモノマーを共重合させて重合体(a)の側鎖に官能基を導入する方法。
(iv)(i)〜(iii)の方法にて導入した官能基を公知の方法により他の官能基に変換する方法。
【0028】
(iii)の方法におけるカルボン酸誘導体基を有するモノマーとしては、メチルパーフルオロ(5−オキサ−6−ヘプテノエート)[CF2 =CFOCF2 CF2 CF2 CO2 CH3 ]、CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )O(CF23 CO2 CH3 等が挙げられる。
スルホ基誘導体基を有するモノマーとしては、CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )OCF2 CF2 SO2 F、CF2 =CFOCF2 CF2 SO2 F等が挙げられる。
【0029】
(iv)の方法としては、たとえば、特許第3029323号公報に記載されているように、シランカップリング剤の溶液を重合体(a)の溶液に添加し、重合体(a)の末端のカルボキシル基に、シランカップリング剤の官能基(アミノ基等)を反応させ、加水分解性シリル基を導入する方法等が挙げられる。
【0030】
重合体(a)は、重合体(a)の全構成単位100モル%中、含フッ素脂肪族環構造を有する構成単位を20モル%以上有するものが好ましく、透明性、機械的特性等の観点から、40モル%以上有するものが特に好ましい。
また、重合体(a)のフッ素含有量は、溶剤可溶性、塗布性、加工性、機械的強度等の観点から、重合体(a)100質量%中、40〜75質量%が好ましく、50〜70質量%が特に好ましい。
重合体(a)の数平均分子量は、1万〜500万が好ましく、4万〜100万がより好ましい。
【0031】
(重合体(b))
重合体(b)は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない含フッ素重合体であり、数平均分子量が3000〜20000の重合体である。
重合体(b)としては、重合体(a)との相溶性が良好であるものが好ましい。重合体(a)との相溶性は、重合体(b)の分子量を低くする、または重合体(b)のフッ素含有量を高くすることにより向上する。重合体(b)のような重合体は、結晶性が崩れ、分子量が小さいため、グリース状またはオイル状のものが多く、重合体(b)のみでは、膜強度に優れる撥油膜は形成できない。
【0032】
重合体(b)は、該重合体(b)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角bが重合体(a)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角aよりも大きいものであることが好ましい。接触角bが接触角aよりも大きくなるような重合体(b)を選択し、重合体(a)と混合することにより、重合体(a)による膜強度を維持しながら、重合体(a)のみでは達成できない撥油性が得られる。
【0033】
重合体(b)としては、含フッ素モノマーからなるオリゴマー(b−1)、パーフルオロポリエーテル(b−2)等が挙げられる。これらのうち、重合体(a)との相溶性に優れ、基材への密着性が良好であり、かつ撥油性が向上することから、パーフルオロポリエーテル(b−2)が好ましい。
【0034】
オリゴマー(b−1)を構成する含フッ素モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、(パーフルオロアルキル)エチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。
【0035】
パーフルオロポリエーテル(b−2)としては、下式(11)〜(13)で表されるものが好ましい。
【0036】
【化6】

【0037】
式(11)中、X11、X13はそれぞれ独立にCF3 、C25 、C37 、C49 、C613、C817、C1021、またはC1225であり、X12はFまたはCF3 であり、n1、n2、n3は0〜300の整数で、かつ10≦n1+n2+n3≦300である。
式(12)中、X14、X15はそれぞれ独立にCF3 、C25 、C37 、C49 、C613、C817、C1021、またはC1225であり、n4は10〜120の整数である。
式(13)中、n5は18〜120の整数である。
【0038】
重合体(b)の数平均分子量は3000〜20000であり、6000〜15000が好ましい。重合体(b)の数平均分子量を3000以上とすることにより、熱安定性が充分となり、成膜後加熱処理を実施する際に揮発することがなく、また、オイル浸漬中にオイル中に溶解することがない。重合体(b)の数平均分子量を20000以下とすることにより、重合体(a)への溶解性が高くなって相分離を起こし難くなり、また、撥油膜の強度が充分となる。
重合体(b)の末端には、重合体(a)の官能基と反応を起こす基がない、またはそのような基が少ないことが好ましい。
【0039】
重合体(a)100質量部に対する重合体(b)の含有量は、撥油膜の撥油性と機械的強度とのバランスの観点から、1〜50質量部が好ましく、1〜40質量部がより好ましく、3〜35質量部が特に好ましい。
【0040】
(溶媒)
溶媒としては、重合体(a)および重合体(b)を同時に溶解させるものが好ましい。
溶媒としては、たとえば、パーフルオロオクタン、パーフルオロヘキサン等のパーフルオロアルカン類;CF3 (CF2n CH=CH2 (n=5〜11の整数。)等のパーフルオロアルキル置換エチレン類;CF3 (CF2n CH2 CH3 (n=5〜11の整数。)等のパーフルオロアルキル置換エタン類;パーフルオロベンゼン類;パーフルオロトリアルキルアミン類;パーフルオロ(アルキルヒドロフラン)類;Cn2n+1OCm2m+1(n=3〜12の整数、m=1〜3の整数、n>m。)で表されるハイドロフルオロエーテル類;Cn2n+1H(n=4〜12の整数。)で表されるハイドロフルオロカーボン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0041】
本発明の撥油性組成物には、染料、顔料等の色素を混合してもよい。色素を混合すると撥油膜の存在の有無を確認しやすくなり、視認性に優れる。また、密着性を向上させるために、シランカップリング剤、プライマー等を撥油性、溶液の保存安定性を損なわない程度に添加してもよい。
【0042】
(物品)
本発明の物品は、基材表面に撥油性組成物からなる撥油膜を有するものである。
基材としては、樹脂、金属、繊維等が挙げられる。基材には、コロナ処理、UVオゾン処理等の前処理、プライマー処理等を施してもよい。該処理により、撥油膜と基材との密着が向上する。プライマーとしては、アミノシラン、エポキシシラン等のカップリング剤、アミノ基またはエポキシ基含有のシリコーンオリゴマーを主成分とするプライマー等が挙げられる。
【0043】
撥油膜は、たとえば、本発明の撥油性組成物を基材に塗布し、溶媒を完全に蒸発させて形成される。塗布方法としては、スプレー、ディップ、刷毛塗り、ポッティング、スピン等が挙げられる。
撥油膜と基材との密着性を向上させるために、撥油膜を熱処理してもよく、遠赤外線照射、電子ビーム等の熱エネルギーを撥油膜に与えてもよい。熱処理は、基材の耐熱温度以下、かつ重合体(a)と重合体(b)との混合物のTg以上の温度で30分以上行うことが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
撥油性の評価は、以下に示す方法によって行った。
(初期撥油性)
試験板に約1μLのn−ヘキサデカンを滴下し、その接触角を測定した。n−ヘキサデカンの接触角によりオイルシール性能を評価した。接触角50度以上でオイルシール性有り、50度未満でオイルシール性無しと判定した。
(撥油持久性)
試験板を、120℃のn−ヘキサデカン中に40時間浸漬し、引き上げた後エアーガンを用いて乾燥し、前記と同様にしてn−ヘキサデカンの接触角を測定した。
【0045】
(接触角)
接触角の測定は、協和界面科学CA−Aを用い、25℃の条件下、液滴法で行った。
(数平均分子量)
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、溶媒としてジクロロペンタフルオロプロパンを用いて測定した。
【0046】
[実施例1]
耐圧ガラス製のオートクレーブに、CF2 =CFOCF2 CF2 CF=CF2 の100g、連鎖移動剤としてCH3 OHの0.5gおよび重合開始剤として((CH32 CHOC(O)O)2 の0.7gを入れて密閉した。オートクレーブ内を40℃に22時間保持して重合反応を行い重合体を得た。得られた重合体の固有粘度は、30℃のパーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中で0.2dl/gであった。
得られた重合体を熱風循環式オーブン中で、大気雰囲気下にて300℃で1時間加熱処理し、さらに超純水中に110℃で1週間浸漬し、ついで100℃で24時間、真空乾燥させて重合体Aを得た。
重合体AをIRスペクトルで分析した結果、カルボキシル基に帰属されるピークが確認された。また、重合体Aは、ガラス転移点が108℃であり、25℃においてタフで透明なガラス状であり、光線透過率は95%以上であった。また、重合体Aの10%熱分解温度は、465℃であった。また、重合体Aからなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角は、52度であった。
【0047】
重合体Aの1.4gと、数平均分子量が13,000のパーフルオロポリエーテル〔CF3 [(OCF2 CF2p −(OCF2q ]−OCF3 、p=1〜100、q=1〜140、n−ヘキサデカンの接触角64度。〕の0.6gとを、パーフルオロオクタンの98gに溶解し、撥油性組成物を得た。洗浄済みのSUS板に、得られた撥油性組成物をスピンコート法を用い、500rpm、20秒間の条件で塗布し、120℃にて60分間加熱処理して、撥油膜を有する試験板を得た。該試験板について、初期撥油性および撥油持久性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
重合体Aの1.4gと、数平均分子量が6,500のパーフルオロポリエーテル〔CF3 [(OCF2 CF2p −(OCF2q ]−OCF3 、p=1〜66、q=1〜91、n−ヘキサデカンの接触角64度。〕の0.6gとを、パーフルオロオクタンの98gに溶解し、撥油性組成物を得た。洗浄済みのSUS板に、得られた撥油性組成物をスピンコート法を用い、500rpm、20秒間の条件で塗布し、120℃にて60分間加熱処理して、撥油膜を有する試験板を得た。該試験板について、初期撥油性および撥油持久性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
重合体Aの2.0gをパーフルオロオクタン98gに溶解した溶液を得た。該溶液を用いて実施例1と同様の処理を行い試験板を得た。該試験板について、初期撥油性および撥油持久性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
重合体Aの1.4gと、数平均分子量が2,000のパーフルオロポリエーテル〔CF3 [(OCF2 CF2p ]−OCF3 、p(平均)=16、n−ヘキサデカンの接触角64度。〕の0.6gとを、パーフルオロオクタンの98gに溶解した溶液を得た。該溶液を用いて実施例1と同様の処理を行い試験板を得た。該試験板について、初期撥油性および撥油持久性を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明の撥油性組成物を用いた実施例1、2は、撥油膜の初期撥油性および撥油持久性ともに優れており、撥油膜の基材への密着性も充分であった。
重合体(b)であるパーフルオロポリエーテルを含まない比較例1は、撥油膜の初期撥油性および撥油持久性ともに劣っていた。
数平均分子量が低いパーフルオロポリエーテルを用いた比較例2は、撥油膜の初期撥油性は優れるが、撥油持久性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の撥油性組成物は、オイルシール剤としての用途に利用できる。また、本発明の撥油性組成物は、撥油性とともに撥水性に優れるため、防汚膜等の各種保護膜等に利用でき、繊維の撥水撥油膜、インクジェットノズルの防汚膜、半導体の防水防湿膜、半導体ウェハーの保護膜、反射防止材の防汚膜等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体(a)と、
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない含フッ素重合体であり、数平均分子量が3000〜20000である重合体(b)と、
溶媒と
を含有する撥油性組成物。
【請求項2】
前記重合体(a)が、カルボキシル基、スルホ基、エステル結合を有する基、加水分解性シリル基、ニトリル基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、およびジアゾ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1に記載の撥油性組成物。
【請求項3】
前記重合体(b)は、該重合体(b)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角が前記重合体(a)からなる塗膜に対するn−ヘキサデカンの接触角よりも大きいものである、請求項1または請求項2に記載の撥油性組成物。
【請求項4】
前記重合体(b)が、パーフルオロポリエーテルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥油性組成物。
【請求項5】
重合体(a)100質量部に対する重合体(b)の含有量が、1〜50質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の撥油性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の撥油性組成物からなる撥油膜を有する物品。