説明

播種器

【課題】広い面積の育苗床に一時に種子を播くことができる播種器を提供する。
【解決手段】播種対象である種子よりも小さな径を有し、内部の圧力が負圧及び正圧に調節可能な複数の孔が形成された吸着板を備えた種子吸着部と、前記孔に対向するように位置づけられた導入口を一端に、その他端に導出口を有し、前記導出口の間隔が前記導入口の間隔よりも大きく設定され、播種対象である種子よりも大きな内径を有する複数の放出管を備え、前記種子吸着部とは別体をなす種子放出部と、から構成されているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い面積の育苗床上に効率的に播種を行うことができる播種器に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、食品の安全性に対する要求の高まりと健康志向とが相まって無農薬作物に対する需要が増加している。このため、人工光を利用して水耕栽培を行う閉鎖型の植物栽培施設を利用した野菜工場が注目されている。
【0003】
このような水耕栽培においては、まず、小型のブロック状に分割されたウレタン、ロックウール等からなる育苗床に1粒ずつ種子を播き、当該育苗床を湿らせ、少し肥料をやった状態で、6〜14日程度おき発芽させる。この際、省力化のために、種子を造粒コーティングして精密機械播種が行われている(特許文献1)が、造粒コーティングした種子は高価であり、コスト面で不利である。
【0004】
一方、造粒コーティングしていない種子を一括して播種するための装置としては、例えば、特許文献2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−135005号公報
【特許文献2】特開平11−155310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の装置では、播種ボックスよりも広い面積の育苗床上に一時に種子を播くことはできず、広い面積の育苗床上に一時に種子を播くには、播種ボックス自体を大型化する必要があるが、播種ボックスが大型化すると取り扱いが難しくなり、作業性が悪くなる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みなされたものであって、広い面積の育苗床に一時に種子を播くことができる播種器を提供することをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る播種器は、播種対象である種子よりも小さな径を有し、内部の圧力が負圧及び正圧に調節可能な複数の孔が形成された吸着板を備えた種子吸着部と、前記孔に対向するように位置づけられた導入口を一端に、その他端に導出口を有し、前記導出口の間隔が前記導入口の間隔よりも大きく設定され、播種対象である種子よりも大きな内径を有する複数の放出管を備え、前記種子吸着部とは別体をなす種子放出部と、から構成されていることを特徴とする。なお、負圧とは大気圧未満の圧力をいい、正圧とは大気圧以上の圧力をいう。
【0009】
このような播種器を用いて育苗床上に種子を播くには、まず、前記種子吸着部を前記吸着板が上側を向いた状態にし、任意の吸引装置を用いて前記孔の内部を負圧にしつつ、前記吸着板上に播種対象の種子を散布し、前記孔に種子を吸着させる。次いで、前記吸着板が下側を向くよう前記種子吸着部を回転し、各吸着孔に前記放出管の前記導入口がそれぞれ対向するよう前記種子吸着部の下に前記種子放出部を設置し、更に、前記放出管の前記導出口が育苗床に接触又は近接するように配置する。この状態で、前記孔の内部の負圧を解除すると、吸着孔に吸着していた種子が吸着孔から離れ、前記導入口に落ち込み、前記放出管内を通過して、前記導出口から育苗床上に放出される。
【0010】
しかして、本発明によれば、前記導出口の間隔が前記導入口の間隔よりも大きく設定されているので、前記孔が形成されている吸着板の面積よりも広い面積の育苗床上に効率良く播種を行うことができる。
【0011】
前記種子放出部は、前記導入口が前記孔に合わせた間隔で配置されるよう前記放出管を前記導入口近傍で支持する導入口支持部材と、前記導出口が各種子の播種位置に合わせた間隔で配置されるよう前記放出管を前記導出口近傍で支持する導出口支持部材と、を備えていることが好ましい。なお、ここで「等間隔」とは中心位置の間隔が等しいことを意味する。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明によれば、種子吸着部が小型であっても、広い面積の育苗床上に、一時に、かつ、予め定めた所定位置に正確に播種を行うことができるので、播種作業を極めて効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る播種器の斜視図である。
【図2】図1における種子吸着部のA−A線断面図である。
【図3】同実施形態に係る播種器の斜視図である。
【図4】同実施形態における育苗床の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る播種器1は、育苗床B上に種子Sを播くためのものであり、図1〜3に示すように、種子吸着部2と、種子吸着部2とは別体をなす種子放出部3と、からなるものである。
【0016】
各部を詳述する。
種子吸着部2は、播種対象である種子Sを吸着するためのものであり、吸着板21と、それが嵌合された吸引箱22と、から構成されている。
【0017】
吸着板21は、播種対象である種子Sよりも小さな径を有する複数の吸着孔211が所定の間隔をあけて形成されている平板状のものである。
【0018】
吸引箱22は、吸着板21が嵌合可能なように上端が開口しているものであり、吸着板21を嵌合することにより内部に空間が形成される。また、吸引箱22の側面には、所定の吸引装置Vに接続可能な接続口221が形成されており、接続口221に吸引装置Vを接続して作動させることにより、吸着板21を嵌合して吸引箱22内に形成された空間の圧力を負圧にすることが可能であり、これにより、当該内部空間と連続した吸着孔211の内部の圧力も負圧にすることができる。
【0019】
種子吸着部2は、吸着板21に散布した種子Sが吸引箱22の開口端縁よりこぼれ出ないように、吸引箱22に嵌合された吸着板21の上面が開口端縁より下方に位置するように構成してある。
【0020】
また、種子吸着部2には、図2に示すように、その上部一側端に余剰の種子Sを収容するポケット23が形成されており、ポケット23は、その内部に収容された種子Sがこぼれ出ないように開口が狭く設定されている。
【0021】
種子放出部3は、育苗床B上に種子Sを放出するためのものであり、複数の放出管31と、それらを支持する導入口支持部材32及び導出口支持部材33と、から構成されている。
【0022】
放出管31は、その一端に導入口311を、その他端に導出口312を有し、導出口312の間隔は導入口311の間隔よりも大きく設定されており、導入口311は吸着孔211に合わせた間隔で配置され、導出口312は育苗床B上の播種位置に合わせた間隔で配置されている。放出管31は、その内部を種子Sが通過可能であるように、播種対象である種子Sよりも大きな内径を有している。
【0023】
導入口支持部材32は、導入口311が吸着孔211に合わせた間隔で配置されるよう放出管31を導入口311近傍で支持するものであり、導出口支持部材33は、導出口312が育苗床B上の播種位置に合わせた間隔で配置されるよう放出管31を導出口近傍で支持するものである。本実施形態における導入口支持部材32及び導出口支持部材33は、いずれも複数の放出管31を挿入して支持するための複数の孔が形成された平板状のものである。
【0024】
本実施形態に係る播種器1を用いて育苗床B上に種子Sを播く方法を以下に説明する。なお、本実施形態で用いる育苗床Bは、図3及び図4に示すように、ウレタン、ロックウール等からなり小型のブロック状に分割された育苗床が多数敷設されたものであり、ブロック状に分割された各育苗床の上面中央には種子Sを収容するための凹部Hが形成されている。
【0025】
播種器1を用いて育苗床B上に種子Sを播くには、まず、種子吸着部2を吸着板21が上側を向いた状態にし、吸引装置Vを作動させて、吸引箱22内部の圧力を負圧にする。これにより吸着孔211内の圧力も負圧になる。この状態で、吸着板21上に播種対象の種子Sを散布すると、各吸着孔211に種子Sが1粒ずつ吸着される。
【0026】
次いで、ポケット23が下側に位置するように種子吸着部2を略90度回転すると、吸着孔211に吸着されなかった種子Sが吸着板21上を滑り落ちて、ポケット23内に収容される。
【0027】
続いて、ポケット23を回転軸として吸着板21が下側を向くよう種子吸着部2を更に略90度回転し、そして、各吸着孔211に導入口311が対向するよう種子吸着部2の下に種子放出部3を配置し、かつ、放出管31の導出口312を育苗床Bに接触又は近接させる。この状態で、吸引装置Vを停止して、吸着孔211内の負圧を解除して正圧にすると、吸着孔211に吸着されていた種子Sが吸着孔211から離れ、導入口311から放出管31内に入り、放出管31内を通過して、育苗床B上に落下する。これにより、育苗床B上の各凹部Hに1粒ずつ種子Sを播くことができる。
【0028】
なお、ポケット23内に収容された種子Sは、ポケット23が上側に位置するよう種子吸着部2を回転することにより、ポケット23の開口から再び吸着板21上に散布することができるので、再度播種対象とすることが可能である。
【0029】
したがって、このような構成を有する本実施形態によれば、導出口312の間隔が、吸着孔211と等しい間隔で設けられている導入口311の間隔よりも大きく設定されているので、吸着孔211が形成されている吸着板21の面積よりも広い面積の育苗床B上に一時に効率良く播種を行うことができる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0031】
例えば、吸着板21の形状は長方形状に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。同様に、吸引箱22の形状も直方体状に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
また、導入口支持部材32及び導出口支持部材33は平板状のものに限定されず、放出管31を支持可能であれば特に限定されない。
【0033】
吸着孔211に吸着していた種子Sを育苗床B上に落下させる際には、種子Sが落下し易くなるように、種子吸着部2及び/又は種子放出部3を軽く振動させてもよい。
【0034】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1・・・播種器
2・・・種子吸着部
21・・・吸着板
211・・・孔(吸着孔)
3・・・種子放出部
31・・・放出管
311・・・導入口
312・・・導出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
播種対象である種子よりも小さな径を有し、内部の圧力が負圧及び正圧に調節可能な複数の孔が形成された吸着板を備えた種子吸着部と、
前記孔に対向するように位置づけられた導入口を一端に、その他端に導出口を有し、前記導出口の間隔が前記導入口の間隔よりも大きく設定され、播種対象である種子よりも大きな内径を有する複数の放出管を備え、前記種子吸着部とは別体をなす種子放出部と、から構成されていることを特徴とする播種器。
【請求項2】
前記種子放出部が、前記導入口が前記孔に合わせた間隔で配置されるよう前記放出管を前記導入口近傍で支持する導入口支持部材と、前記導出口が各種子の播種位置に合わせた間隔で配置されるよう前記放出管を前記導出口近傍で支持する導出口支持部材と、を備えている請求項1記載の播種器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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