説明

操船支援方法およびシステム

【課題】従来の船舶では、荒天時、船体各部での加速度や船酔い、各種の転覆につながる危険性転覆の限界値にどの程度近づいているかの判定、どのように操船すれば、船内での加速度や船酔いを減らし、転覆の危険性が減少するかなどをリアルタイムで予測することが困難であった。
【解決手段】従来の船体運動監視装置に加え、船上での加速度や船酔い状況の分析装置、転覆の危険性の判定装置、などの波浪中の運航状態の判定装置、に加えて運航状態の改善情報を与える操船手法推定装置を有し、操船者にリアルタイムで情報提供する操船支援方法およびシステムに関するものである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば船舶(構造物)の波浪中における運航状態の判定、及び運航状態の改善手法を操船者にアドバイスするための操船支援方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、船舶に搭載する波浪中の運航状態を監視するシステムとして、例えば動揺計、ヒーブ(HEAVE)計など船舶の各種運動データの監視装置の出力と、気象・海象予測処理装置出力との比較から警報判定装置を動作させ、予測値が警報基準を超える場合に警報を出力し、船体の安全な運航を支援するシステムは存在している(特許文献1)。
【0003】
さらに、運航状態の予測機能を有する、例えば船舶または海洋構造物が遭遇しうる危険な個別波を予測し、船舶または海洋構造物の安全確保を支援する個別波予測・警報システムも存在している(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−79076号公報
【特許文献2】特開2004−338580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしこれらの従来技術においては次のような問題点が存在していた。
1)船体各部での加速度や船酔いなどがリアルタイムで操船者が把握できない。
2)各種の転覆につながる危険性をリアルタイムで科学的に分析・判断して操船に生かすことが困難。
3)転覆の限界値にどの程度近づいているかを判定することが困難。
4)どのように操船すれば、船内での加速度や船酔いを減らし、転覆の危険性が減少するかをリアルタイムで予測することが困難。
【0006】
すなわち、従来技術にあっては、予測値が警報基準値を超えると警報信号を発生し、あるいは個別波予測手段が予測した波浪と、所定時間後の船舶などの位置および方向とに基づき、個別波との遭遇を危険判定手段により予測するなど、船舶等の安全性または危険性を判断するタイプのもので、直接的な船舶の操縦方法を指示するものであった。
【0007】
また、この従来の操船方法にあっては、いずれもその警報に従った操船を行わないと、警報が発せられた状態が継続したり、逆に警報に従った結果の操船方法が、却って乗り心地を損ない、また操船に無理が生じ、乗客に、あるいは貨物などに好ましくない状況・事態が生ずる可能性もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記の問題点を解決するために、従来の直接的な船体運動監視装置に加え、船上での加速度や船酔い状況を分析し、転覆の危険性を判定し、それらを解消する操船法を探査し、操船者にリアルタイムで情報提供する操船支援方法およびシステムに関するものである。
【0009】
この発明は前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、航行中の船体運動のデータおよびこのデータから得た波浪情報、船体各部の加速度・船酔い情報を現状値として表示しするとともに、これらの値と船体の設計段階の復原性能情報に基づいて得た転覆の可能性の限界値情報を表示し、さらに船体運動データから得た船体運動を小さくし転覆を回避し加速度・船酔いの可能性を軽減するように推定された操船手法推定情報を表示し、これらの各種の情報をブリッジ内に表示させて操船者はこれらの表示情報を監視しながら、限界値が軽減する方向で操船できるようにすることを特徴とする操船支援方法を提供するものである。
【0010】
また請求項2に記載の発明は、船体の船体運動データを計測する船体運動計測装置と、この計測結果から船体各部の加速度・船酔い率を算出し表示する第1の加速度・船酔い率演算装置と、船体運動計測結果から波浪の推定を行ない表示する波浪推定装置と、これら装置の出力と設計時もしくは船の運航限界として与えられた限界値設定装置の出力とを比較し、現状値と限界値との差または比を表示する比較装置と、上記の波浪推定装置の出力から船体運動を推定する船体運動推定装置およびこの出力から加速度船酔い演算をする第2の加速度・船酔い率演算装置と、この両出力を入力として加速度船酔い軽減度合い、転覆回避度合いを算出表示する操船手法推定装置とを有し、上記の各種表示はブリッジ内に表示されることを特徴とする操船支援システムを提供するものである。なお、この加速度・船酔い率は客室のデータを表示することで、客室を快適な最高の状態に保持することをも狙っているものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の構成によって、操船者は、船の遭遇している状況の正確な把握、ハードとしての船舶の持つ技術的限界値から判断した時の現状の危険性等を認識した上で、船舶の持つ技術的限界値から出来るだけ離れて安全な航海をするための指針を得ることができ、完全な自動操船ではなくて、各計測機器のデータを駆使して、乗船者、貨物に最適・快適、かつ荒天中の船舶運航では安全性を見込んだ操船をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
例えば、上下揺れ、左右揺れ、前後揺れ、縦揺れ、横揺れ、等の5自由度の船体運動の計測できる運動計測装置と、計測された運動から周囲の波浪を推定する波浪推定装置と、計測された運動から船体各部の加速度と船酔い率を計算する加速度・船酔い演算装置と、船体の設計段階で得られる限界値設定装置と、計測された運動から現状値と限界値との比較装置と、限界値よりできるだけ船体運動を小さくなるような操船手法の推定装置と、推定された波浪情報、加速度と船酔い率・転覆の危険度を表示する伝達装置とからなり、船舶の現実の運航状態から得た各種データと、転覆限界値と、各種データから推定される操船推定手法を得、これらデータ、限界値、操船推定手法を夫々独立的にキャビン内に表示して、以って転覆の可能性を軽減する操船手法を操船者にアドバイスする支援システムである。
【実施例】
【0013】
図において、1は船体(あるいは海上構造物)で、2は、船体に装備されている各種の船体運動計測装置で、例えば船首揺れ、上下揺れ、横揺れ、前後揺れ、縦揺れ、左右揺れなどの船体の揺れを測定する機器の総称である。符号3は、第1の加速度・船酔い率演算装置で船体運動計測装置2から伝送されたデータを用いて船上各部(客室、貨物室など)での加速度または船酔い率を算出する。符号4は、波浪推定装置で、波高、波向き、その周期、風向きなどの船体運動計測装置2からのデータおよび船速データを用いて船舶の遭遇する波浪の推定を常時行う。符号5は、限界値設定装置で、船舶などの設計時に検討した復原性能や運動性能などから各種限界値(たとえば転覆の可能性の限界値など)を設定・蓄積したものである。
【0014】
また、図中の符号6は、比較装置で、船体運動計測装置2、加速度・船酔い率演算措置3、および波浪推定装置4から出力値と、限界値設定装置5での限界値との比較を行い、船舶の運航時の各種の値が限界値よりどの程度低いか、あるいは限界値を超えているか等の判定を行う。符号7は、船体運動推定装置で、波浪推定装置4からの出力を入力して、船体がどのように運動するかを推定する。符号8は、第2の加速度・船酔い演算装置で、船体運動推定装置7からの信号、例えば、推定された波高、波向き、その周期などから船舶(客室、貨物室など)がどのように運動するかの推定値をベースに加速度・船酔い演算を行うものである。符号9は、操船手法推定装置で、船体運動推定装置7と第2の加速度・船酔い演算装置8からのデータから、操船によって波、風の中における船舶の状況・状態が変わったときの船体運動を推定し、比較装置6での限界値が現状よりも安全側に移行する操船方法を求めるものである。
【0015】
また、図中の符号10〜14は、表示装置であり、10は、第1の加速度・船酔い率演算装置3の船体各部での現状のデータを表示し、11は、波浪推定装置4の現状でのデータを表示し、12は、比較装置6の運航時の各種測定値が限界値よりどの程度低いか、限界値を超えているかの判定結果を表示し、13は加速度・船酔い軽減度合いを表示し、14は転覆回避程度を表示するものである。
【0016】
すなわち10〜12の表示装置は、船体が持つ転覆の限界値と現状の運航状況を表示し、13,14の表示装置は限界値との相対状況、安全側に移行するための操船方法を操船者に伝達するものである。すなわち操船のガイダンスを示し、どのように操船(針路変更など)をすれば危険状態から離れることができるかを示す。
【0017】
以上の支援システムによって、操船者は、船体の遭遇している状況の正確な把握、船体の持つ技術的限界値から判断して現状の危険性の把握、さらに限界値からできるだけ離れて安全な航海をするための指針を得ることができ、荒天中の船舶運航の安全性をさらに向上させることができ、また逆に船舶の大きさにも依るが、波高などの外的条件に合わせて船舶を揺らせて乗客に航海気分を味わせるとも意識的に可能とする。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上のこの発明の説明において明らかなように、本発明は、客船のみならず、タンカー、貨物船、漁船、大型のレジャーボート、などの種々な船舶などに利用可能で、安全性の高い航海が可能であり、この支援システムの利用価値は、高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の操船支援システムの構成を説明する図
【符号の説明】
【0020】
1 船体
2 船体運動計測装置
3 第1加速度・船酔い率演算装置
4 波浪推定装置
5 限界値設定装置
6 比較装置
7 船体運動推定装置
8 第2加速度・船酔い率演算装置
9 操船手法推定装置
10〜11 現状表示装置
12 限界値表示装置
13〜14 操船情報表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航行中の船体運動データおよびこのデータから得た波浪情報、船体各部の加速度・船酔い情報を現状値として表示しするとともに、これらの値と設計段階の復原性能情報に基づいて得た転覆の可能性の限界値情報を表示し、さらに船体運動データから得た船体運動を小さくし転覆を回避し加速度・船酔いの可能性を軽減するように推定された操船手法情報を表示し、これらの各種の表示がブリッジ内に表示されることを特徴とする操船支援方法。
【請求項2】
船体各部位の船体運動データを計測する船体運動計測装置と、この計測結果から船体各部の加速度・船酔い率を算出し表示する第1の加速度・船酔い率演算装置と、船体運動計測結果から波浪の推定を行ない表示する波浪推定装置と、これら装置の出力と設計時もしくは船の運航限界として与えられた限界値設定装置の出力とを比較し、現状値と限界値との差または比を表示する比較装置と、上記の波浪推定装置の出力から船体運動を推定する船体運動推定装置およびこの出力から加速度船酔い演算をする第2の加速度・船酔い率演算装置と、この両出力を入力として加速度船酔い軽減度合い、転覆回避度合いを算出表示する操船手法推定装置とを有し、上記の各種表示はブリッジ内に表示されることを特徴とする操船支援システム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−260315(P2008−260315A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102332(P2007−102332)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)