説明

擬岩を用いた構造物の構築方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、擬岩を用いた構造物の構築方法に関するものであり、一層詳細には、沿岸部などに設置される護岸、防波堤、突堤などの景観や親水性を改善して人工岩場、人工磯等として好適に使用することのできる擬岩を用いた構造物の構築方法に関するものである。
【0002】
【従来技術および発明が解決すべき課題】従来より、海岸線に沿った沿岸部は、波力に対する保護が第一に考えられているため、多数のコンクリート製ブロックを組合わせた護岸構造物によって構成されていることが多かった。
【0003】ところで、この種の護岸構造物は人工感がむきだしであることから周辺環境には全く適合しないだけでなく、壁面が垂直となっていることが多いため水辺に近づきにくいため、例えば、構造物の表面に自然石を貼ったりあるいは構造物の法面を階段状にして緩傾斜にするなどの工夫がなされているが、前者の場合は必要な自然石の入手が難かしく、また後者の場合は人工構造物としてのイメージが残ってしまうなどの問題があった。そこで、近時は、コンクリートなどで形成した構造物本体(躯体)の表面を自然石などのテクスチャーに似せて加工した擬岩を使用して構造物を設置することなどが検討されているが、設置時における海上工事の短縮化や波浪対策など種々の解決すべき課題が指摘され、実現するまでには至っていない。
【0004】
【課題を解決するための手段】この発明では、下部工の天端周縁上に多数の擬岩ユニット部材を固定し、これらの擬岩ユニット部材によって囲まれた内側に中詰コンクリートを打設してこの中詰コンクリートと擬岩ユニット部材とを一体化することにより第1段部を形成し、ついでこの第1段部を形成している擬岩ユニット部材上にこれらの擬岩ユニット部材と同様の擬岩ユニット部材を配置固定した後その内側に中詰コンクリートを打設して第2段部を形成し、同様の手順により最終段部まで形成し、さらに最終段部の天端開口部を閉塞することにより、構築も容易でしかも周辺環境にも適合する擬岩を用いた構造物の構築方法を提供しようとするものである。
【0005】この場合、擬岩ユニット部材としては、鋼鉄フレーム部材に取り付けた鉄筋および金網とにより形成した下地にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面として形成した擬岩パネル、あるいは、鋼鉄フレーム部材に自然石を母型として形成した板状岩ピースを取付けて目地処理を行った擬岩パネルを使用することができる。
【0006】また、さらに擬岩ユニット部材としては、キャステイング用型枠内に直方体状鋼鉄フレームを配設するとともにこの鋼鉄フレームの一側面に金網を張設し、キャステイング用型枠内にコンクリートを打設した後、金網面にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面として形成した擬岩ブロック、あるいは、直方体状鋼鉄フレームの一側面に自然石を母型として形成した板状岩ピースを取付けて目地処理を行うとともに残る側面をキャステイング用型枠で閉塞してその内部にコンクリートを打設することにより形成した擬岩ブロックも使用することができる。
【0007】
【作 用】この発明に係る擬岩を用いた構造物の構築方法によれば、下部工の天端周縁上および各段部に周設固定した擬岩ユニット部材をその都度型枠として中詰コンクリートを打設していくので構築作業の容易化だけでなく費用の低減化と工期の短縮化を図ることができ、さらに景観だけでなく親水性も改善した構造物を得ることができるものである。
【0008】
【実施例】次に、本発明に係る擬岩を使用した構造物の構築方法の好適な実施例として、新しい親水空間を併せ持った突堤(以下人工磯と称する)を構築する場合につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0009】すなわち、このような人工磯を構築するに際しては、まず、陸上および/または海上から人工磯の設置場所の床掘を行う。この場合、陸上からの床掘は、必要に応じて鋼矢板などにより土留めを行いながら基部から先端に向かって掘り進み、海上からは逆に堀り進める。そして床掘が完了した部分から基礎捨石の投入を行い、所定の石厚を確保し、さらに必要であれば潜水作業員などを使用して基礎捨石の均し作業を行って基盤10を形成する(図1a参照)。
【0010】次に、この基盤10上における構造物の構築予定部分に、予め直方体状に形成しておいた基礎方塊12を据え付け、これらの基礎方塊12に隣接しかつ水深1m〜2m位で景観上も親水利用上も影響のない部分には、その天端のみが擬岩として形成されている、後述する擬岩ブロック38あるいは40と同様の擬岩ブロックを1:5〜1:10程度の緩勾配で根固め部材として据えつける。そしてこれらの根固め部材の外側でさらに水深の大きい部分には基礎の安定化のため通常の被覆石14を投入して適宜均し作業を行うことにより下部工Aを形成する。この際、後述する擬岩ユニット部材の据え付けに支障をきたさないように据付目地間隔、高さなどに充分留意する。なお、このように構成した下部工Aは全体として平均勾配が緩く、しかも潮だまりとなるような凹部などを緩勾配部分に適宜形成することができるので新たな親水利用空間を創出することが可能となるものである。
【0011】そして、多数の基礎方塊12や根固め部材としての擬岩ブロック38あるいは40などで形成した下部工Aにおける構造物の構築予定部分の縁部に沿ってその形状、デザインに合うように擬岩ユニット部材16を配置し、これらの擬岩ユニット部材16と下部工A天端とを適宜のアンカー手段を介して一体化する(図1b参照)。
【0012】なおこの場合、擬岩ユニット部材16としては、工場で製作した鋼鉄フレーム部材18に取り付けた鉄筋20と金網22とにより形成した下地材24にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面とした擬岩パネル26(図2参照)、あるいは、同様に工場で製作した鋼鉄フレーム部材28に、自然石を母型として形成した多数の板状岩ピース30を取付けた後、目地処理を施した擬岩パネル32(図3参照)が好適に使用することができる。
【0013】前記擬岩パネル26、32は、形状の自由度が高く製作が容易であるが、テクスチャーの程度から考えると、擬岩パネル26は視点場からの距離がある修景岩場を構成する場合に好適に使用され、また、擬岩パネル32は、きめの細かいテクスチャーが得られるので本実施例のように人工磯などを構築する部材として好適に使用される。
【0014】また、前記擬岩ユニット部材16として、図4に示すように、キャステイング用型枠34内に直方体状鋼鉄フレーム36を配設するとともにこの鋼鉄フレーム36の一側面に支持用鉄筋網を介して金網22を張設し、キャステイング用型枠34内にコンクリートを打設した後、金網22面にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面とした擬岩ブロック38を使用したり、あるいは、図5に示すように、直方体状鋼鉄フレーム28の一側面に、自然石を母型として形成した多数の板状岩ピース32を付けて目地処理を行うとともに残る側面をキャステイング用型枠34で閉塞し、その内部にコンクリートを打設することにより形成した擬岩ブロック40を使用することができる。
【0015】このように形成された前記擬岩ブロック38および40は、製作工数が多くなる反面、単体としての安定性が大きいので波浪作用が大きい場所などにも好適に使用することができる。
【0016】このようにして下部工A上の縁部に沿って配設固定された各擬岩ユニット部材16の間隙部分はモルタルなどにより目地処理を施し、これらの擬岩ユニット部材16によって囲まれた内側にコンクリートポンプ車などを使用して中詰めコンクリート42を打設することにより各擬岩ユニット部材16と中詰めコンクリート42とを一体化して第1段部44を形成する(図1c参照)。
【0017】次いで、この第1段部44上に適宜のアンカー手段を介して同様の擬岩ユニット部材22を周設し、固定した後その内部に中詰コンクリート42を打設して第2段部46を形成する。そして以下同様に、本実施例では第3段部として示されている最終段部48まで順次形成し、さらに最終段部48の天端50を擬岩ユニット部材16(もしくはカラーモルタル)で閉塞して人工磯を構成する(図1d参照)。
【0018】なお、人工磯はその先端から完成させながら基部へ向かって作業を行うとともに下部工Aおよび各段部上に固定する擬岩ユニット部材16は、構築しようとする人工磯全体の形状、デザインに従って適宜配設していくことは言うまでもない。そして、最後に各擬岩ユニット部材22間の目地仕上げを行い、下部工Aの不要部分を砂などで埋め戻す。
【0019】
【発明の効果】先に述べたように、本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築方法によれば、擬岩ユニットの取付け固定と中詰めコンクリートの打設を短時日で行うことができるので容易に構築することができる。
【0020】また、擬岩構造物自体が自然石に極めて近い表面テクスチャーを備えているので従来のコンクリートむき出しの構造物に比べて周辺環境にマッチするだけでなく、従来は利用することができなかった構造物の基礎部分を新たな親水空間として利用することができる。また、下部工の天端上および各段部に周設して固定した擬岩ユニット部材をその都度型枠として使用できるので構築費用の低減化と工期の短縮化を図ることができる等種々の利点を有する。
【0021】以上、本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築方法の好適な実施例につき添付図面を参照しながら説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、例えば、既存もしくは新たに形成したコンクリート躯体に擬岩ユニット部材を配設固定して、これらの擬岩ユニット部材と既存もしくは新たに形成したコンクリート躯体との間隙に中詰コンクリート等を充填して構築するなど、本発明の精神を逸脱しない範囲内において種々の変更をなし得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】a〜dは本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築方法の好適な実施例の構築手順を示す説明図であって、aは基礎捨石の均し作業を行って基盤を形成した状態の説明図、bは下部工A天端に擬岩ユニット部材を周設した状態の説明図、cは中詰めコンクリートを打設して第1段部を形成した後、この第1段部上に別の擬岩ユニット部材を周設した状態の説明図、dは最終段部の天端開口部を閉塞して擬岩構造物を構築した状態の説明図である。
【図2】本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築に使用する擬岩ユニット部材としての擬岩パネルの説明図である。
【図3】本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築に使用する擬岩ユニット部材としての板状岩ピース(擬岩パネル)の説明図である。
【図4】本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築に使用する擬岩ユニット部材としての擬岩ブロックの説明図である。
【図5】本発明に係る擬岩を用いた構造物の構築に使用する擬岩ユニット部材としての擬岩ブロックの別の実施例の説明図である。
【符号の説明】
10 基盤、 12 基礎方塊、 14 被覆石、16 擬岩ユニット部材、18 鋼鉄フレーム部材、20 鉄筋、 22 金網、 24 下地材、26 擬岩パネル、 28 鋼鉄フレーム部材、30 板状岩ピース、 32 擬岩パネル、 34 キャステイング用型枠
36 鋼鉄フレーム、 38 擬岩ブロック、40 擬岩ブロック、42 中詰めコンクリート、 44 第1段部、46 第2段部、 48 最終段部、 50 天端、

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下部工の天端周縁上に多数の擬岩ユニット部材を固定し、これらの擬岩ユニット部材によって囲まれた内側に中詰コンクリートを打設してこの中詰コンクリートと擬岩ユニット部材とを一体化することにより第1段部を形成し、ついでこの第1段部を形成している擬岩ユニット部材上にこれらの擬岩ユニット部材と同様の擬岩ユニット部材を配置固定した後その内側に中詰コンクリートを打設して第2段部を形成し、同様の手順により最終段部まで形成し、さらに最終段部の天端開口部を閉塞することを特徴とする擬岩を用いた構造物の構築方法。
【請求項2】 擬岩ユニット部材は、鋼鉄フレーム部材に取り付けた鉄筋および金網とにより形成した下地にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面として形成した擬岩パネルを使用することからなる請求項1に記載の擬岩を用いた構造物の構築方法。
【請求項3】 擬岩ユニット部材は、鋼鉄フレーム部材に自然石を母型として形成した板状岩ピースを取付けて目地処理を行った擬岩パネルを使用することからなる請求項1に記載の擬岩を用いた構造物の構築方法。
【請求項4】 擬岩ユニット部材は、キャステイング用型枠内に直方体状鋼鉄フレームを配設するとともにこの鋼鉄フレームの一側面に金網を張設し、キャステイング用型枠内にコンクリートを打設した後、金網面にコンクリートを吹き付けることにより自然石様表面として形成した擬岩ブロックを使用することからなる請求項1に記載の擬岩を用いた構造物の構築方法。
【請求項5】 擬岩ユニット部材は、直方体状鋼鉄フレームの一側面に自然石を母型として形成した板状岩ピースを取付けて目地処理を行うとともに残る側面をキャステイング用型枠で閉塞してその内部にコンクリートを打設することにより形成した擬岩ブロックを使用することからなる請求項1に記載の擬岩を用いた構造物の構築方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【特許番号】第2601395号
【登録日】平成9年(1997)1月29日
【発行日】平成9年(1997)4月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−291895
【出願日】平成4年(1992)10月7日
【公開番号】特開平6−116922
【公開日】平成6年(1994)4月26日
【出願人】(000229243)株式会社テトラ (12)
【出願人】(591250765)環境機材株式会社 (2)