説明

攪拌翼および攪拌装置

【課題】高粘度領域から低粘度領域において均一な攪拌ができるとともに混合特性が良く、構造が簡単でかつ制作費も安価で、メンテナンス性に優れた攪拌翼13を提供する。
【解決手段】攪拌翼13には、駆動部14で回転駆動する攪拌軸14aに中心部を取り付ける基板部24を設け、基板部24の両側端部から上方へ両側の側板部25を立ち上げる。各側板部25の上端側と反対側の側板部25の下端側とにわたって翼部31を設ける。攪拌翼13の基板部24および両側の側板部25の部分による作用により、攪拌槽12内の液体19が回転する流れを発生させる。一対の翼部31による作用により、攪拌槽12および攪拌翼13の中心部に、攪拌槽12内の液体19が上部側から底部側へ向かう流れを発生させる。攪拌槽12の底部17および側壁部18での回転流と攪拌槽12の中心部での上下流とで剪断力を発生させ、液体19を効果的に攪拌、混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を攪拌する攪拌翼、およびこの攪拌翼を用いた攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、攪拌においては、攪拌すべき液体が層流域(高粘度領域)であるか、乱流域(低粘度領域)であるかによって、対応する種類の攪拌翼が用いられている。
【0003】
層流域(高粘度領域)の攪拌には、螺線状のヘリカルリボン翼、∪字型のアンカー翼等の大型な攪拌翼が採用され、また、乱流域(低粘度領域)の攪拌には、パドル翼や、平羽根または傾斜翼を用いたタービン翼が採用されている。
【0004】
しかしながら、ヘリカルリボン翼は、高粘度液に向くけれども、ある粘度域の液体を攪拌すると、流体にドーナツリング状の混合不良部が発生し、良好な混合が行われないという問題や、構造が複雑で制作費が嵩み割高となる問題がある。
【0005】
また、アンカー翼は、攪拌槽の底部や側壁部の近傍の液体を良く攪拌でき、構造が簡単で制作費も安価であるという長所があるが、上下方向の混合性が悪く、特に粘度の高い液体ではアンカー翼と液体とが共回りしてしまい、攪拌作用が低下するおそれがある。
【0006】
また、パドル翼は、吐出性能が良くないほか、粘度の高い液体に使用すると、パドル翼のまわりだけ流体が攪拌され、パドル翼のまわり以外にある液体は動かないという問題がある。さらに、多段のパドル翼の場合には、パドル翼の周辺で巡回する小さな軸方向循環流が発生するだけで、攪拌槽全体の混合効率・特性が悪くなることがあった。
【0007】
また、平羽根を用いたタービン翼は、剪断性に優れるが、吐出性能が良くないのに対し、傾斜翼を用いたタービン翼は、その逆の傾向、つまり、吐出性能に優れるが、剪断性が良くない問題がある。
【0008】
一方、層流域から乱流域まで幅広く利用する攪拌には、攪拌槽の中心部に設けた攪拌軸に、攪拌槽の底内面に沿って下端部を摺接させた平板状翼とこの平板状翼の上側に連続した格子状翼とを備えた攪拌翼を設け、かつ、攪拌槽の側壁内面に軸方向に延在した邪魔板を設けた攪拌装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
しかしながら、この攪拌装置は、複雑な構造の攪拌翼を用い、邪魔板を攪拌槽に設けなければならないことにより、制作費が嵩み割高となる問題がある。
【特許文献1】特開平6−312122号公報(第2−3頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、均一な攪拌、高い混合効率を得るためには、複雑な構造の攪拌翼を用いたり、邪魔板を攪拌槽へ設ける等、複雑な構造を取らなければいけないという問題があり、そのため高価となるという問題がある。加えて、複雑な構造より、攪拌後の洗浄作業、メンテナンス性にも問題がある。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、高粘度領域から低粘度領域において均一な攪拌ができるとともに混合特性が良く、構造が簡単でかつ制作費も安価で、メンテナンス性に優れた攪拌翼、およびこの攪拌翼を用いた攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の攪拌翼は、回転駆動される攪拌軸に中心部が取り付けられる基板部と、この基板部の両側端部から上方へ立ち上げられた両側の側板部と、少なくとも一方の側板部の上端側と他方の側板部の下端側とにわたって設けられた翼部とを具備しているものである。
【0013】
請求項2記載の攪拌翼は、請求項1記載の攪拌翼において、両側の側板部は、基板部の面を基準として互いに異なる方向に曲げられているものである。
【0014】
請求項3記載の攪拌翼は、請求項1または2記載の攪拌翼において、両側の側板部は、基板部の回転中心を基準としてねじ曲げられているものである。
【0015】
請求項4記載の攪拌装置は、底部および円筒状の側壁部を有する攪拌槽と、この攪拌槽の底部に基板部が近接配置されるとともに攪拌槽の側壁部に側板部が近接配置される請求項1ないし3いずれか記載の攪拌翼と、この攪拌翼が取り付けられる攪拌軸を有し、この攪拌軸を介して前記攪拌翼を回転駆動する駆動部とを具備しているものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の攪拌翼によれば、基板部の両側端部から両側の側板部を立ち上げ、少なくとも一方の側板部の上端側と他方の側板部の下端側とにわたって翼部を設けたため、攪拌時には、アンカー翼の長所である攪拌槽の底部や側壁部の近傍の液体を良く攪拌できる効果が得られ、さらに、中心部にはアンカー翼のような回転軸がなく適度な空間を形成でき、その空間に斜めに配置される翼部により、流体に強い上下流を発生させることができ、これにより、アンカー翼の短所であった上下の混合が悪く、特に粘度の高い液体ではアンカー翼と液体とが共回りし、攪拌作用が低下することを解消でき、高粘度領域から低粘度領域において、均一な攪拌ができるとともに混合特性を良くできる。しかも、従来の攪拌翼と比較して構造が簡単であるため、洗浄等の作業性も良く、加えて安価に提供できる。
【0017】
請求項2記載の攪拌翼によれば、請求項1記載の攪拌翼の効果に加えて、両側の側板部が、基板部の面を基準として互いに異なる方向に曲げられているため、両側の側板部の部分において、回転流を発生させるのに加えて上下流を発生させ、攪拌および混合特性を向上できる。
【0018】
請求項3記載の攪拌翼によれば、請求項1または2記載の攪拌翼の効果に加えて、両側の側板部が、基板部の回転中心を基準としてねじ曲げられているため、両側の側板部の部分において、回転流を発生させるのに加えて上下流および水平流を発生させ、攪拌および混合特性を向上できる。
【0019】
請求項4記載の攪拌装置によれば、請求項1ないし3いずれか記載の攪拌翼を用いるため、高粘度領域から低粘度領域において、均一な攪拌ができるとともに混合特性を良くでき、しかも、洗浄等の作業性も良く、加えて安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は攪拌翼を用いた攪拌装置の断面図、図2は攪拌装置の平面図、図3は攪拌装置の斜視図、図4は攪拌翼の側面図である。
【0022】
攪拌装置11は、攪拌槽12、この攪拌槽12内に回転可能に配置された攪拌翼13、およびこの攪拌翼13を回転させる駆動部14を備えている。
【0023】
攪拌槽12は、円板状の底部17、および円筒状の側壁部18を備え、内部には攪拌すべき流体としての液体19が貯留される。底部17の中心部には、駆動部14が結合される結合口20が形成されている。すなわち、攪拌槽12の底部で攪拌槽12の中心軸21の位置に、駆動部14の攪拌軸14aが配置されている。
【0024】
また、攪拌翼13は、基板部24、およびこの基板部24の両側端部から上方へ立ち上げられた両側の側板部25が一体に形成された略U字型(アンカー翼形状)の翼体26を備えている。この翼体26の基板部24の左右方向の幅、および両側の側板部25の高さは、攪拌槽12内全体にわたる液体19の循環流を形成するのに十分な大きさであることが好ましい。
【0025】
基板部24の中心部は、攪拌槽12の底部で攪拌槽12の中心軸21の位置に配置される駆動部14の攪拌軸14aに、取付金具27および複数のボルト28によって取り付けられている。そして、基板部24は攪拌槽12の底部17と近接するように配置され、両側の基板部24は攪拌槽12の側壁部18に近接するように配置されている。
【0026】
両側の側板部25は、基板部24の面を基準として対称となるように互いに反対方向に向けて15度以上の角度で曲げられている。さらに、両側の側板部25は、基板部24の回転中心を基準として対象となるように互いに反対方向に向けてねじ曲げられている。
【0027】
翼体26の各側板部25の上端側と反対側の各側板部25の下端側とにわたって、翼体26の中心部の空間を斜めに横切るように一対の翼部31が配置されている。これら各翼部31は、面積の最も広い一対の第1の面32とこの第1の面32より面積が狭い一対の第2の面33とを有する長方形断面の細長い板形状に形成され、一端である上端が側板部25の上端の面に溶接等により一体になるように固定され、他端である下端が側板部25の下端に嵌め込まれて溶接等により一体になるように固定されている。
【0028】
この翼部31の上端が取り付けられる翼体26の側板部25の上端が基板部24の面を基準として対称となるように互いに反対方向に向けて15度以上の角度で曲げられているため、一対の翼部31が中心部で干渉することなく、図2に示す平面視で平行に配置されている。さらに、翼部31の上端が取り付けられる側板部25の上端が基板部24の回転中心を基準として対象となるように互いに反対方向に向けてねじ曲げられているため、翼部31の第1の面32が攪拌翼13の回転方向に対して上下方向に傾斜するように配置されている。
【0029】
この翼部31の幅、厚み、および回転方向に対する傾斜角度は、攪拌槽12の液体19に上部から底部へ、あるいは底部から上部への流れを起し、剪断力を増すように構成することが好ましい。
【0030】
また、駆動部14は、攪拌軸14aを回転駆動するモータによって構成されている。
【0031】
次に、攪拌装置11の作用について説明する。
【0032】
駆動部14により、図2において反時計回り方向に攪拌翼13を回転駆動する。これにより、攪拌翼13の基板部24および両側の側板部25の部分による作用により、攪拌槽12内の液体19が回転する流れを発生させるとともに、図1に示すように、両側の側板部25の傾斜およびねじりによる作用により、攪拌槽12内の液体19が底部側から上部側へ向かう流れを発生させ、さらに、各側板部25の上端側と反対側の各側板部25の下端側とにわたって配置された一対の翼部31による作用により、攪拌槽12および攪拌翼13の中心部に、攪拌槽12内の液体19が上部側から底部側へ向かう流れを発生させる。
【0033】
また、駆動部14により、図2において時計回り方向に攪拌翼13を回転駆動した場合には、図1に示すように、両側の側板部25の傾斜およびねじりによる作用により、攪拌槽12内の液体19が上部側から底部側へ向かう流れを発生させ、さらに、各側板部25の上端側と反対側の各側板部25の下端側とにわたって配置された一対の翼部31での作用により、攪拌槽12および攪拌翼13の中心部に、攪拌槽12内の液体19が底部側から上部側へ向かう流れを発生させる。
【0034】
そのため、攪拌槽12の底部17および側壁部18での回転流と攪拌槽12の中心部での上下流とで剪断力を発生させることができ、液体19を効果的に攪拌、混合させることができる。
【0035】
このように、攪拌翼13は、基板部24の両側端部から両側の側板部25を立ち上げ、各側板部25の上端側と反対側の側板部25の下端側とにわたって翼部31を設けたため、攪拌時には、アンカー翼の長所である攪拌槽12の底部17や側壁部18の近傍の液体19を良く攪拌できる効果が得られ、さらに、中心部にはアンカー翼のような回転軸がなく適度な空間を形成でき、その空間に斜めに配置される翼部31により、流体に強い上下流を発生させることができ、これにより、アンカー翼の短所であった上下の混合が悪く、特に粘度の高い液体ではアンカー翼と液体とが共回りし、攪拌作用が低下することを解消でき、高粘度領域から低粘度領域において、均一な攪拌ができるとともに混合特性を良くできる。
【0036】
しかも、この攪拌翼13は、従来の攪拌翼と比較して構造が簡単であるため、洗浄等の作業性も良く、加えて安価に提供できる。
【0037】
また、両側の側板部25が、基板部24の面を基準として対称となるように互いに反対方向に向けて15度以上の角度で曲げられているため、両側の側板部25の部分において、回転流を発生させるのに加えて上下流を発生させ、攪拌および混合特性を向上できる。
【0038】
さらに、両側の側板部25が、基板部24の回転中心を基準として対象となるように互いに反対方向に向けてねじ曲げられているため、両側の側板部25の部分において、回転流を発生させるのに加えて上下流および水平流を発生させ、攪拌および混合特性を向上できる。
【0039】
なお、攪拌装置11は、液体同士の混合、反応、または粉体、固体等を液体に溶解、分散もしくは反応などの処理にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態を示す攪拌翼を用いた攪拌装置の断面図である。
【図2】同上攪拌装置の平面図である。
【図3】同上攪拌装置の斜視図である。
【図4】同上攪拌翼の側面図である。
【符号の説明】
【0041】
11 攪拌装置
12 攪拌槽
13 攪拌翼
14 駆動部
14a 攪拌軸
17 底部
18 側壁部
24 基板部
25 側板部
31 翼部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される攪拌軸に中心部が取り付けられる基板部と、
この基板部の両側端部から上方へ立ち上げられた両側の側板部と、
少なくとも一方の側板部の上端側と他方の側板部の下端側とにわたって設けられた翼部と
を具備していることを特徴とする攪拌翼。
【請求項2】
両側の側板部は、基板部の面を基準として互いに異なる方向に曲げられている
ことを特徴とする請求項1記載の攪拌翼。
【請求項3】
両側の側板部は、基板部の回転中心を基準としてねじ曲げられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の攪拌翼。
【請求項4】
底部および円筒状の側壁部を有する攪拌槽と、
この攪拌槽の底部に基板部が近接配置されるとともに攪拌槽の側壁部に側板部が近接配置される請求項1ないし3いずれか記載の攪拌翼と、
この攪拌翼が取り付けられる攪拌軸を有し、この攪拌軸を介して前記攪拌翼を回転駆動する駆動部と
を具備していることを特徴とする攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−213951(P2009−213951A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57207(P2008−57207)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000150877)株式会社帝国電機製作所 (24)
【Fターム(参考)】