説明

改変されたタンパク質生産のために低活性化されたptrB活性を有する糸状菌

少なくとも1の突然変異を有する糸状菌細胞であって、糸状菌細胞が低活性化されたprtB活性を有し、対応する親糸状菌細胞と比較して目的のタンパク質の発現が改変されている糸状菌細胞。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質の改変された発現は、目的のタンパク質の強化された発現である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、改変されたタンパク質産出のために低活性化されたptrB活性を有する糸状菌に関する。本願は2008年11月18日出願の米国仮出願No. 61/115,818に基づく優先権を主張し、同出願を参照として本願に組み込む。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学により、工業用バイオリアクター、細胞工場、及び食物発酵で利用される微生物が改良されてきた。遺伝子工学的微生物により製造された重要な酵素及びタンパク質として、グルコアミラーゼ、α-アミラーゼ、セルラーゼ、中性プロテアーゼ、及びアルカリ(又はセリン)プロテアーゼ、ホルモン、及び抗体が挙げられる。しかし、いくつかの遺伝子工学的システムにおいて生じるタンパク質の分解及び変性は、効率的な製造の妨げとなりうる。
【0003】
種々の有用なタンパク質や代謝物質を製造及び分泌させるために、糸状菌(例えばアスペルギルス(Aspergillus)種、及びトリコデルマ(Trichoderma)種)、及び特定のバクテリア(例えばバシラス(Bacillus)種)の組み換えが行われてきた(例えばBio/Technol. 1987. 5: 369-376, 713-719 及び 1301-1304 及び Zukowski, “Production of commercially valuable products,” In: Doi and McGlouglin (著) Biology of Bacilli: Applications to Industry, 1992, Butterworth-Heinemann, Stoneham. Mass pp 311-337参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の技術分野では、非相同タンパク質の生産性を改善することが主要な研究課題の一つである。低生産性の主な原因は、分泌の間のタンパク質の加水分解、及びタンパク質折り畳みが緩慢なことである。A.ニガーについて、いくつかの細胞外プロテアーゼが研究されている。このようなプロテアーゼが欠乏した突然変異株も単離されており、これらの株は非相同タンパク質の産出を向上させるために用いられている。3つのアスパラギン酸プロテアーゼの欠失により、非相同ラッカーゼの産出が5から37%向上することが示された(Wang, Y., et al., Fungal Genentics and Biology 2008. 45:17-27)。この場合、多数の突然変異をA.ニガーに生じさせ、ラッカーゼの発現が顕著に変化した突然変異体スクリーニングして、非相同タンパク質の産出を制限している分泌関連遺伝子、又は新たなプロテアーゼを同定するために、ランダム挿入法が用いられている。
【0005】
低級真核性微生物として、糸状菌は大量のタンパク質を分泌する強い能力を有することで知られている。このような発現は40g/Lに達し(Durand et al., Enzyme and Microbial Technology, 1988. 10(6):341-346) 、グリコシル化を除き哺乳動物細胞に類似した翻訳及び翻訳後修飾プロセスを伴う。糸状菌は化学、医薬、及び食品工業において広く用いられており、一般に安全であると考えられている(Schuster, E., et al., Appl Microbiol Biotechnol, 2002. 59(4-5):426-35)。しかし、糸状菌による非相同タンパク質の生産性は、より一般的なバクテリア性発現系と比較して、未だに低い。このため、より大量の非相同タンパク質を生産可能な、より効率的な発現系が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様は少なくとも1の突然変異を有する糸状菌に関し、この糸状菌はptrB活性が低活性化されており、対応する親糸状菌と比較して目的のタンパク質の発現性が改変されている。好ましい実施形態では、目的のタンパク質の改変された発現性は、目的のタンパク質の増強された発現である。
【0007】
この発明の別の態様は非相同タンパク質を発現可能な糸状菌株に関し、この糸状菌株は、対応する親糸状菌株と比較して、ptrB 活性が低活性化された突然変異を有する。この発明のまた別の態様は、糸状菌宿主中での目的のタンパク質の発現を増加させる方法に関し、この方法には:(a)親糸状菌の突然変異体を、目的のタンパク質の生産が誘導される条件下で培養するステップであって、前記突然変異体が目的のタンパク質をコードする第1核酸と、ptrBの生産に関与する少なくとも1の遺伝子ローカスを修飾して成る第2核酸とから成るステップと、(b)培養培地から目的のタンパク質を単離するステップとが含まれる。
【0008】
いくつかの実施形態では、突然変異誘発された糸状菌、及び親糸状菌はプロテアーゼ欠乏株である。別の実施形態では、この発明の糸状菌はさらに、プロテアーゼをコードする遺伝子中にあるか、又はこの遺伝子に隣接する突然変異を(ptrB活性が低活性化された突然変異のほかに)備える。
【0009】
いくつかの実施形態では、ptrB活性が低活性化された突然変異は、ptrB遺伝子に隣接する非コード領域における欠失である。また別の実施形態では、突然変異は挿入突然変異である。好ましくは、挿入突然変異はptrB遺伝子に隣接する非コード領域にある。いくつかの実施形態では、挿入突然変異は選択マーカの挿入である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】8種の上昇突然変異株のサザン分析のオートラジオグラフを表す図である。陽性コントロール(+)として、HindIII制限酵素で消化した直鎖pMW1プラスミドを用い、プローブとしてhph遺伝子の800 bpのフラグメントを用いた。ゲノムDNAを、プラスミド中において一回だけ切断するHindIIIで消化した。矢印は4.3 kbの全長プラスミドDNAの位置を示す。
【図2】16H2株のサザン分析のオートラジオグラフを表す図である。2本のバンドが検出され、pMW1の組み込みが1つのローカスのみで生じたことを示している。レーンMは、HindIII で消化されUV光で可視化されたλ DNAのDNAマーカであり、レーン16H2は、放射線標識されたhph DNAプローブにハイブリダイズされたゲノム遺伝子のフラグメントを示している。
【図3】pMW1の多重コピーの組み込みを表す図である。この図はPCR産物のアガロースゲル分析結果を表す。それぞれ、2種の制限酵素(BamHI 及びSmaI)を同時に用いて消化した、DNAテンプレートとしてのゲノムDNA、並びに特異的プライマーdsp3, dsp4 及びdsp5、及びランダムプライマーK7を用いてグラディエント生成物を得た(星印で示す)。すなわち、SM-TAIL-PCRの結果は陽性であった。レーンMは100 bp DNAのラダーである。
【図4】リアルタイムRT-PCR法によりmRNAレベルを比較した図である。相対的発現レベルは、GICC2773株のmRNAレベルに正規化した後に求めた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、例えばAspergillus細胞等の糸状菌の組換え細胞に関し、低活性化されたptrB活性を有すると共に、非相同遺伝子によってコードされた少なくとも1の非相同タンパク質を発現可能な糸状菌の組換え細胞に関する。本願により突然変異糸状菌細胞を作るための核酸と方法が提供され、また目的の非相同タンパク質の改変された生産を行うための細胞を使用する方法が提供される。
【0012】
本願で引用する全ての特許及び文献は、これらの特許及び文献に開示された全ての配列を含め、本願に明示的に引用するものとする。特に断りのない限り、本願で用いる全ての技術及び科学的用語は本発明が属する当業者に通常理解される意味と同じ意味を有する(例えば、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, 2d Ed., 1994, John Wiley and Sons, New York; and Hale and Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology, 1991, Harper Perennial, NYを参照、これらは本願で用いる多くの用語の当業者の一般的な辞書となる)。本願に記載の方法及び材料に類似または同等のいかなる方法及び材料も本発明を実施または試験するために用いることができる。
【0013】
本願に記載する数値限定の全ての最大値(又は最小値)には、全てのより小さな値(または大きな値)が、あたかもこのような小さな値(または大きな値)が明示的に記載されているかのようにして含まれるものとする。さらに、本願に記載する数値範囲には、このような広い数値範囲に入る全てのより狭い数値範囲が、あたかも本願に明示的に記載されているかのようにして含まれる。
【0014】
特に断りの無い限り、原文の"a", "an,"及び"the"等の単数形には、複数形も含まれる。従って、例えば「宿主細胞」には、複数の宿主細胞も含まれる。
【0015】
特に断りの無い限り、核酸配列は5' から 3'方向が左から右方向になるように記載し、アミノ酸配列はアミノ基からカルボキシル基に向かう方向が左から右方向になるように記載する。本願の見出しは、本明細書の全体を参照することにより理解される発明の多様な態様または実施形態を限定するものではない。従って、以下に定義する語は本明細書の全体を参照することによって、より完全に規定される。
【0016】
本願で「低活性化された」又は「低活性化」と言うときは、1以上の遺伝子の機能的発現、又は得られる遺伝子産物(すなわちタンパク質)、そのフラグメント又は相同体の機能的活性を低活性化するが、破壊はしない任意の方法を意味し、この場合遺伝子又は遺伝子産物は、対応する親株と比較してその公知の機能をより低度に発揮する。この方法には、例えば部分欠失、タンパク質コード配列の遮断、挿入、付加、突然変異誘発、遺伝子抑制(例えばアンチセンスRNAi遺伝子)等の任意の遺伝子を低活性化する方法が含まれるものとする。
【0017】
本願で遺伝子の「欠失」というときは、コード配列全体の欠失、コード配列の一部の欠失、または隣接領域を含むコード配列の欠失を意味する。
【0018】
本願で「遮断」というときは、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列へ各々1以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基を挿入することにより生じる、親配列または天然の配列と比較した変化を意味する。したがって、本願で「遮断配列」又は「遮断突然変異」というときは、ヌクレオチド又はアミノ酸が挿入された核酸配列又はアミノ酸配列、通常はコード領域配列を意味する。
【0019】
本願で配列に関して「挿入」または「付加」というときは、内因性染色体配列又はタンパク質産物と比較したとき、1つ以上のヌクレオチド残基またはアミノ酸残基が付加されたヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化を意味する。
【0020】
本願で「回帰不能」というときは、10-7未満の頻度で、対応する親株に自然に回帰する株を意味する。本願で「対応する親株」というときは、突然変異体を派生する宿主株を意味する(例えば起源及び/又は野生型株)。
【0021】
本願で「株生存能力」というときは、繁殖生存能力を意味する。いくつかの実施形態では、遺伝子の低活性化は、実験室条件下で突然変異体の分裂及び生存に有害な影響を与えない。
【0022】
本願で「コード領域」というときは、タンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子の領域を意味する。
【0023】
本願で「アミノ酸」というときは、ペプチド、又はタンパク質配列、又はこれらの一部を意味する。「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は同義で用いる。
【0024】
本願で「非相同タンパク質」又は「外因性タンパク質」というときは、宿主細胞で自然に生成されないタンパク質又はポリペプチドを意味し、遺伝子的に組み換えられた天然由来の内因性タンパク質が含まれる。
【0025】
本願で「内因性タンパク質」又は「天然タンパク質」というときは、細胞中で自然に生成されるタンパク質又はポリペプチドを意味する。
【0026】
本願で「宿主」、「宿主細胞」又は「宿主株」というときは、細胞中に導入されたDNA配列を発現可能な細胞を意味する。この発明のいくつかの実施形態では、宿主細胞はアスペルギルス種のものである。
【0027】
本願で「糸状菌細胞」というときは、多細胞のフィラメント状ストランドとして成長する任意の微細菌の細胞を意味し、非限定的例示としてアスペルギルス(Aspergillus)種、リゾパス(Rhizopus )種、トリコデルマ(Trichoderma)種、及びムコール(Mucor)種が挙げられる。
【0028】
本願で「アスペルギルス」又は「アスペルギルス種」というときは、「アスペルギルス」属に属する全ての当業者にとって公知の種を意味し、非限定的例示としてA.オリザエ(oryzae)、A.ニガー(niger)、A.アワモリ(awamori)、A.ニジュランス(nidulans)、A.ソジャエ(sojae)、A.ジャポニカス(japonicus)、A.カワチ(kawachi)、及びA.アクレアタス(aculeatus)が挙げられる。
【0029】
本願で「核酸」というときは、ヌクレオチド又はポリヌクレオチド、又はそのフラグメント又は一部を意味し、またセンス又はアンチセンスストランドのいずれであるかにかかわらず、二本鎖、または一本鎖のゲノム由来又は合成由来のDNA、cDNA、及びRNAを意味する。遺伝子コードの縮重により、多数のヌクレオチド配列が所与のタンパク質をコードすることが理解されるであろう。
【0030】
本願で「遺伝子」というときは、ポリペプチドの生産に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域の前後の領域(例えばプロモータ、ターミネータ、5' 非翻訳(5' UTR)又は リーダー配列、及び 3' 非翻訳 (3' UTR)又はトレーラー配列、及び各コードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン))を含むことができる。
【0031】
本願で「相同遺伝子」、「遺伝子相同性」、又は「相同」というときは、相同配列を有し、類似又は同一の機能を有するタンパク質を産出する遺伝子を意味する。この用語には、スペーシエーションにより分離された遺伝子(即ち、新たな種の開発)(例えば、オーソロガス遺伝子)だけでなく、遺伝子複製により分離された遺伝子(パラロガス遺伝子)も含まれる。
【0032】
本願で「相同配列」というときは、比較のため適切にアライメントさせたとき、比較対象のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも約99%, 少なくとも約98%, 少なくとも約97%, 少なくとも約96%, 少なくとも約95%, 少なくとも約94%, 少なくとも約93%, 少なくとも約92%, 少なくとも約91%, 少なくとも約90%, 少なくとも約88%, 少なくとも約85%, 少なくとも約80%, 少なくとも約75%, 少なくとも約70% 又は 少なくとも約60%のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列を意味する。いくつかの実施形態では、相同配列は約80%から100% の配列同一性を有し、いくつかの実施形態では、約90% から100%の配列同一性を有し、いくつかの実施形態では、約95%から100%の配列同一性を有する。
【0033】
相同性は公知の標準的方法で測定することができる(例えばSmith And Waterman,Adv. Appl. Math.,2:482 [1981]; Needleman And Wunsch,J. MoI. Biol.,48:443 [1970]; Pearson And Lipman,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444 [1988];ウィスコンシンジェネチックソフトウェアパッケージに含まれるGAP,BESTFIT,FASTA,及びTFASTA等のプログラム(Genetics Computer Group, Madison,WI);及びDevereux et al,Nucl. Acid Res.,12:387-395 [1984]参照)。
【0034】
配列相同性の測定に有用なアルゴリズムとしてPILEUP 及び BLAST (Altschul et al., J. Mol. Biol., 1990. 215:403-410; 及びKarlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993. 90:5873-5787)が挙げられる。PILEUP法では、Feng及びDoolittleのプログレッシブ・アライメント法を単純化して用いる(Feng and Doolittle, J. Mol. Evol., 35:351-360 [1987])。この方法は、HigginsとSharpらが開示した方法に似ている(Higgins and Sharp, CABIOS 5:151-153, 1989)。有用なPILEUPパラメーターは、初期設定ギャップウエイト3.00、初期設定ギャップ長さウエイト0.10、及び加重エンドギャップである。
【0035】
特に有用なBLASTプログラムはWU-BLAST-2プログラムである(Altschul et al., Meth Enzymol, 266:460-480, 1996参照)。WU-BLAST-2ではいくつかのサーチパラメーターが用いられ、ほとんどは初期値に設定されている。調節可能なパラメーターを以下の値に設定する:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、言語閾値(T)=11。HSP S及びHSP S2パラメーターは動的値であり、特定配列の構成及び目的配列がサーチされる特定データベースの構成に応じてプログラム自体により設定される。しかし、これらの値を調節して感度を増加させることもできる。アミノ酸配列同一性%は、マッチする同一の残基の数を、アライメントさせた領域における「より長い」配列中の残基の合計数で割ることにより求められる。「より長い」配列は、アライメントさせた領域において実際に存在している残基を有する配列である(配列スコアを最大化するためにWU-BLAST-2により導入されたギャップは無視する)。
【0036】
本願で「ベクター」というときは、細胞中で複製可能で、細胞に新たな遺伝子又はDNAを導入可能な任意の核酸を意味する。すなわち、ベクターとは異なる宿主細胞間で転送するためにデザインされた核酸構築体を意味する。「発現ベクター」とは、非相同DNAフラグメントを(すなわち非天然DNA)を細胞中に導入し発現させることができるベクターを意味する。多くの原核性及び真核性発現ベクターが市販されている。当業者であれば、適切な発現ベクターを選択することができる。
【0037】
本願で「DNA構築体」というときは、標的細胞において特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメント(すなわち、上記のベクター又はベクターエレメント)を備える、組換え又は合成により生成された核酸分子を意味する。例えば、DNA構築体をプラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス、または核酸フラグメントに組み込むことができる。いくつかの実施形態では、DNA構築体は標的細胞において特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントも備える。いくつかの実施形態では、本発明のDNA構築体は選択マーカを備える。
【0038】
本願で「DNA構築体」(あるいは「形質転換DNA」及び「形質転換配列」)というときは、配列を宿主細胞または生物体へ導入するために使用されるDNAを意味する。DNA構築体は、PCR又はその他の適切な技術によってin vitroで生産することができる。いくつかの実施形態では、形質転換DNAは入来配列、及び/又は、ホモロジーボックスに隣接する入来配列を備える。また別の実施形態では、形質転換DNAは末端に付加される別の非相同配列(すなわち、スタッファー配列またはフランクス(flanks))を備える。この末端を、例えばベクターへ挿入するときのように、形質転換DNAが閉じた環を形成するように結合させることができる。
【0039】
本願で「プラスミド」というときは、クローニングベクターとして用いられる環状二本鎖(ds)DNA構築体であって、種々のバクテリア及びいくつかの真核生物内で染色体外自己複製遺伝子要素を形成するDNA構築体を意味する。いくつかの実施形態では、プラスミドは宿主細胞のゲノムに組み込まれる。
【0040】
本願で「単離された」及び「精製された」というときは、天然において関連する少なくとも一つの成分から取り出された分子(例えば核酸またはアミノ酸)または他の成分を意味する。
【0041】
本願で「改変された発現」というときは、改変された(すなわち組み換えられた)細胞株により、対応する非改変親株の通常レベルの生産と比較して、目的のタンパク質の生産が増加又は減少することを意味するものとする(すなわち、実質的に同一条件で培養したとき)。
【0042】
本願で「増強された発現」というときは、改変された(すなわち組み換えられた)細胞株により、対応する非改変親株の通常レベルより多くの目的のタンパク質が生産される、増加した生産を意味するものとする(すなわち、実質的に同一条件で培養したとき)。
【0043】
本願で「発現」というときは、ポリペプチドが生産されるプロセスを意味する。このプロセスには、遺伝子の転写および翻訳の両方が含まれる。いくつかの実施形態では、このプロセスにはポリペプチドの分泌が含まれる。
【0044】
本願で「細胞に核酸配列を導入する」という文脈における「導入」(及び「導入された」)とは、細胞中への核酸配列の導入に適した任意の方法を意味し、非限定的例示として形質転換、エレクトロポレーション、核酸マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション、(例えばリポフェクション媒介又はDEAE-デキストリン媒介トランスフェクション)、リン酸カルシウムDNA沈殿による培養、DNA-被覆マイクロプロジェクタイルによる高速ボンバーメント、アグロバクテリウム媒介トランスフェクション、及びプロトプラスト融合が挙げられる。
【0045】
本願で「安定的に形質転換された」というときは、そのゲノムに非天然型(非相同の)ポリヌクレオチド配列が組み込まれている細胞、または非天然型(非相同の)ポリヌクレオチド配列を少なくとも二世代にわたり維持されるエピソームプラスミドとして有する細胞を意味する。
【0046】
本願で「入来配列」というときは、宿主細胞に導入されたDNA配列を意味する。入来配列はDNA構築体の部分であってよく、1以上の目的のタンパク質(例えば非相同タンパク質)をコードすることができ、機能的又は非機能的遺伝子、及び/又は突然変異体又は変性された遺伝子であってよく、及び/又は、選択マーカ遺伝子であってよい。例えば、入来配列には機能的又はサブ機能的(例えば低活性化された)な形態の遺伝子が含まれていてよく、好ましくはptrBの断片又はその相同体が含まれていてよい。ある実施形態では、入来配列には二つのホモロジーボックスが含まれる。
【0047】
本願で「ホモロジーボックス」というときは、糸状菌細胞の染色体中の遺伝子の配列と相同な核酸配列を意味する。より具体的には、ホモロジーボックスは、本発明に従って低活性化される遺伝子または遺伝子の一部に直接隣接するコード領域に対し、約80から100%の配列同一性、約90から100%の配列同一性、または約95から100%の配列同一性を有する上流または下流領域である。これらの配列は、染色体中のDNA構築体又は入来配列が組み込まれた場所を指示し、および染色体のどの部分がDNA構築体又は入来配列によって置き換えられるかを指示する。他方、本発明を限定するものではないが、ホモロジーボックスには約1塩基対(bp)から200キロ塩基対(kb)が含まれる。通常、ホモロジーボックスには約1bpから10.0kb、1bpから5.0kb、1bpから2.5kb、1bpから1.0kb、および0.25kbから2.5kbが含まれる。またホモロジーボックスには、約10kb、5.0kb、2.5kb、2.0kb、1.5kb、1.0kb、0.5kb、0.25kb、および0.1kbが含まれ得る。いくつかの実施形態では、選択マーカの5’および3’末端はホモロジーボックスに隣接し、ここでホモロジーボックスは遺伝子のコード領域に直接隣接する核酸配列を含む。
【0048】
別の実施形態では、形質転換DNA配列は、入来配列が存在しないホモロジーボックスを備える。この実施形態では、2つのホモロジーボックス間の内因性 DNA配列を切除することが望ましい。またいくつかの実施形態では形質転換配列は野生型であり、別の実施形態では、形質転換配列は突然変異配列又は変性配列である。さらに、いくつかの実施形態では形質転換配列は相同であり、別の実施形態では、形質転換配列は非相同である。
【0049】
本願で「標的配列」というときは、宿主細胞中のDNA配列であって、入来配列が宿主細胞ゲノムに挿入されることが望ましい配列をコードする宿主細胞中のDNA配列を意味する。いくつかの実施形態では、標的配列は機能的野生型遺伝子又はオペロンをコードし、別の実施形態では、標的配列は機能的な変異遺伝子又はオペロン、又は非機能的な遺伝子又はオペロンをコードする。
【0050】
本願で「隣接配列」というときは、議論の対象の配列の上流または下流にある任意の配列を意味する(例えば、遺伝子A-B-Cの場合、遺伝子配列A及びCが遺伝子Bに隣接する)。いくつかの実施形態では、入来配列の両横にホモロジーボックスが隣接する。別の実施形態では、入来配列及びホモロジーボックスには、両横にスタッファー配列が隣接するユニットが含まれる。いくつかの実施形態では、フランキング配列は一方の末端(3’または5’)にのみ存在するが、別の実施形態では、隣接される配列の両端にフランキング配列が存在する。各ホモロジーボックスの配列は、アスペルギルス染色体の配列と相同である。これらの配列は、アスペルギルス染色体のどこに新しい構築体が組み込まれ、アスペルギルス染色体のどの部分が入来配列によって置換されるかを指示する。いくつかの実施形態では、選択マーカの5’および3’末端には、所望の染色体セグメントの切片を含むポリヌクレオチド配列が隣接する。いくつかの実施形態では、フランキング配列は一方の末端(3’または5’)にのみ存在し、別の実施形態では、フランキング配列は隣接される配列の両側に存在する。
【0051】
本願で「染色体組込みされた」というときは、宿主細胞の染色体DNAに導入された配列、通常は突然変異遺伝子(例えば遮断された形態の天然遺伝子)を意味する。通常、染色体組込みは相同組換えプロセスによって生じ、相同組換えでは導入された(形質転換)DNAの相同領域が、宿主染色体の相同領域に対し整列する。続いて、ホモロジーボックス間の配列が、ダブルクロスオーバーにおいて、入来配列によって置換される。すなわち、本願では「染色体組込み」を「相同組換え」及び「相同組換えされた」と同義で用いる。
【0052】
本願で「選択可能マーカ」および「選択マーカ」というときは、宿主細胞で発現可能な核酸であって、マーカを備える宿主の選択を容易にする核酸を意味する。従って、「選択可能マーカ」とは、宿主細胞が目的の入来核酸を取り込んだか(例えばうまく形質転換されたか)、または他の反応が生じたことの表示となる遺伝子を意味する。通常、選択可能マーカは、抗菌薬耐性または代謝優位性を宿主細胞に与えて、外因性DNAを含む細胞と、形質転換の間に外因性の配列を受け取らなかった細胞との区別を可能にする遺伝子である。この発明で有用な選択マーカの非限定的例示として、抗菌剤耐性マーカ(例えばampR; phleoR; specR; kanR; eryR; tetR; cmpR; hygroR and neoR; 例えばGuerot-Fleury, Gene, 1995. 167:335−337; Palmeros et al., Gene 2000. 247:255-264; 及びTrieu-Cuot et al., Gene,1983. 23:331-341参照)、例えばtrpC, pyrG 及びamdS等の栄養要求性マーカ、及びβ-ガラクトシダーゼ等の検出マーカが挙げられる。
【0053】
本願で「プロモータ」というときは、下流遺伝子の転写を指示するために機能する核酸配列を意味する。いくつかの実施形態では、プロモータは、標的遺伝子が発現される宿主細胞に適合している。プロモータは、他の転写および翻訳調節核酸配列(「コントロール配列」とも呼ばれる)と共に、所与の遺伝子を発現させるために必要である。一般に、転写及び翻訳調節配列には、プロモータ配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列、及びエンハンサー又は活性化配列が含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
本願では、核酸が他の核酸配列と機能的関係に置かれているとき、「操作可能に結合」しているという。例えば、分泌リーダー(すなわちシグナルペプチド)をコードするDNAは、ポリペプチドの分泌物に関与するプレタンパク質として発現されるとき、ポリペプチドに関してDNAに操作可能に結合している。また、プロモータまたはエンハンサーが、配列の転写に影響を及ぼしているとき、コード配列に操作可能に結合している。あるいは、リボソーム結合部位が翻訳を促進するような位置にあるとき、コード配列に操作可能に結合している。一般に、「操作可能に結合」とは結合されたDNA配列が近接していることを意味し、また分泌リーダーの場合、近接しているとともに読取フェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは近接している必要はない。結合は、適切な制限酵素認識部位への結紮によって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の方法に従って用いる。
【0055】
本願で「ハイブリダイゼーション」と言うときは、当該技術分野で公知のように、塩基対形成を通じて核酸鎖が相補鎖に結合する過程を意味する。
【0056】
中程度から高程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション、及び洗浄条件下で二つの配列が特異的に相互にハイブリダイズするとき、核酸配列は参照核酸配列に「選択的にハイブリダイズ可能」と見なす。ハイブリダイゼーションの条件は、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(Tm)に基づく。例えば「最大ストリンジェンシー」は、通常約Tm−5℃(プローブのTmを5℃下回る)で生じる。「高度ストリンジェンシー」は、Tmを約5℃から10℃下回る温度で生じ、「中度ストリンジェンシー」はプローブのTmを約10℃から20℃下回る温度で生じ、「低度ストリンジェンシー」とはTmを約20℃から25℃下回る温度で生じる。機能的には、最大ストリンジェンシー条件は、ハイブリダイゼーション・プローブに対し厳密な又はほぼ厳密な同一性を有する配列を同定するために使用することができ、中度または低度ストリンジェンシー・ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチド配列相同体を同定または検出するために使用することができる。
【0057】
中度および高度ストリンジェンシー・ハイブリダイゼーション条件は、当該技術分野で周知である。高度ストリンジェンシー条件の具体例には、約42℃での50%のホルムアミド、5XSSC、5Xデンハート溶液、0.5%SDSおよび100μg/ml変性担体DNAによるハイブリダイゼーション、それに続く室温、2X SSCおよび0.5%SDSによる2回の洗浄、および42℃、0.1X SSCおよび0.5%SDSによる二回の追加の洗浄が含まれる。中度ストリンジェンシー条件の具体例には、37℃、20%のホルムアミド含有溶液中、5X SSC(150mMのNaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5 x デンハート溶液、10%デキストラン硫酸塩、及び20mg/mlの変成及びせん断されたサケ精子DNAによる一晩のインキュベーション、それに続く約37-50℃での1x SSCによるフィルター洗浄が含まれる。プローブの長さなどの調整に必要な要因である温度、イオン強度等の調整方法は当業者に公知である。
【0058】
本願で細胞又はベクターについて「組み換え」というときは、非相同核酸配列の導入によって修飾された細胞又はベクター、又はこのようにして修飾された細胞から生成した細胞またはベクターを意味する。従って、例えば組み換え細胞は、計画的な人間の介入の結果として天然型(非組み換え型)の細胞内で同一の型を見出せない遺伝子を発現し、または天然遺伝子を異常に発現し、過少に発現し、過剰に発現し、または全く発現しない。「組み換え」、「組み換える」、及び「組換えられた」核酸の生成は、一般に核酸フラグメントの組み立てであり、組み立てによりキメラ遺伝子が生じる。
【0059】
本願で「プライマー」というときは、精製された制限消化物における場合のように天然由来であるか、合成により作られたかにかかわらず、核酸鎖と相補的であるプライマー伸長生産物の合成が誘発される条件下に置かれた場合(すなわち、ヌクレオチド及びDNAポリメターゼ等の誘発剤の存在下、および適切な温度およびpHで)、合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドを意味する。通常プライマーは増幅での効率を最大にするために一本鎖である。ほとんどの場合、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。
【0060】
本願で「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR)というときは、一組のプライマー、DNAポリメラーゼ、及びDNAポリメリゼーションサイクル、溶解、及びアニーリングの繰り返しによりDNAストランドを増幅する方法を意味する(例えば本発明に参照として組み込むU.S. Patent No. 4,683,195 4,683,202, 及び4,965,188参照)。
【0061】
本願で「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」というときは、二重鎖DNAの特定のヌクレオチド配列を切断する細菌酵素、又は特定のヌクレオチド配列の近傍を切断する細菌酵素を意味する。
【0062】
「制限酵素認識部位」とは、所与の制限エンドヌクレアーゼによって認識および切断されたヌクレオチド配列を意味し、制限酵素認識部位はしばしばDNAフラグメントを挿入する部位である。いくつかの実施形態では、制限部位は選択マーカおよびDNA構築体の5’および3’末端に組み込まれる。
【0063】
この発明により、目的のタンパク質を対応する野生型糸状菌細胞よりも高レベルで生産可能な糸状菌細胞が提供される。特にこの発明は、例えば低減されたptrB活性を有し、目的のタンパク質の改変された発現を示すアスペルギルス種等の、組み換え糸状菌微生物に関する。いくつかの実施形態では、低減されたptrB活性により、目的のタンパク質の生産が増加するという有利な効果が得られる。この発明では、宿主細胞は糸状菌細胞である。この発明で有用な糸状菌細胞の非限定的例示としてアスペルギルス 種(例えばA. オリザエ, A. ニガー, A. アワモリ, A. ニジュランス, A. ソジャエ, A. ジャポニカス, A. カワチ及びA. アクレアタス); リゾパス種, トリコデルマ種 (例えばトリコデルマ・リーゼイ (以前はT. ロンジブランチアタム(longibrachiatum)と分類され、現在はヒポクレア・ジェコリナ(Hypocrea jecorina)として知られる), トリコデルマ・ビリデ(viride), トリコデルマ・コニンギ(koningii), 及びトリコデルマ ・ハージアナムス(harzianums)、及びムコール 種 (例えば M. ミエヘイ(miehei)及びM. プシラス(pusillus))が挙げられる。好ましい実施形態では、宿主細胞はアスペルギルス・ニガーの細胞である。
【0064】
いくつかの実施形態では、この発明はATCC 22342 (NRRL 3112), ATCC 44733, ATCC 14331, GICC2773及びこれらから誘導される株等の、アスペルギルス・ニガーの特定の株を用いて実施される。いくつかの実施形態では、宿主細胞は非相同遺伝子を発現することができる。例えば宿主細胞は組み換え細胞であり、非相同タンパク質を生産する。別の実施形態では、宿主細胞は、細胞中に導入されたタンパク質を過剰に発現するものである。
【0065】
いくつかの実施形態では、宿主株は例えばプロテアーゼ遺伝子に相当する遺伝子等の1以上の遺伝子が欠損した突然変異株である。例えば、アスペルギロペプシン(aspergillopepsin)等の主要な分泌アスパルチルプロテアーゼをコードする遺伝子が欠失したアスペルギルス・ニガー宿主細胞(例えば本願に参照として組み込むU.S. Pat. No. 5,840,570 及び6,509,171参照)が用いられる。
【0066】
いくつかの実施形態では、ptrB活性を低活性化する突然変異は、ptrB遺伝子に隣接する非コード領域の欠失である。別の実施形態では、ptrB活性を低活性化する突然変異は挿入突然変異である。好ましくは、挿入突然変異はptrB遺伝子に隣接する非コード領域において行われる。いくつかの実施形態では、挿入突然変異は選択マーカの挿入である。いくつかの実施形態では、ゲノムDNAが既知の場合、欠失させるローカスの5’隣接フラグメン及び3’隣接フラグメンを2のPCR反応によりクローンする。ローカスが遮断されているか、あるいは改変されている実施形態では、DNAフラグメントを1のPCR反応によりクローンする。
【0067】
いくつかの実施形態では、コード領域隣接配列は約1bp から2500 bp; 約1bpから1500 bp, 約1 bpから1000 bp, 約1 bpから500 bp, 及び1 bpから250 bpの範囲である。コード領域隣接配列に含まれる核酸配列の数は遺伝子コード配列の末端ごとに異なる。例えばいくつかの実施形態では、コード配列の5' 末端には25 bp未満が含まれ、コード配列の3' 末端には100 bpより多く含まれる。
【0068】
いくつかの実施形態では、入来配列は、5’ 及び3’末端に隣接するとともに遺伝子配列のフラグメントを備える選択マーカから成る 遮断配列である。別の実施形態では、DNA構築体が選択マーカと遺伝子から成る場合、遺伝子フラグメント又はその相同配列が宿主細胞中に形質転換され、選択マーカの位置は、遺伝子の所期の目的に関し非機能的である。いくつかの実施形態では、入来配列は遺伝子のプロモータ領域に位置する選択マーカを備える。別の実施形態では、入来配列は遺伝子のプロモータ領域の後に位置する選択マーカを備える。
【0069】
また別の実施形態では、入来配列は、遺伝子のコード領域に位置する選択マーカを備える遮断配列である。また別の実施形態では、入来配列は、両末端の相同ボックスが隣接する選択マーカを備える。また別の実施形態では、入来配列は、コード配列の転写及び/又は翻訳を妨げる配列を備える。また別の実施形態では、DNA構築体は、DNA構築体の上流端及び下流端に組み込まれた制限酵素認識部位を備える。
【0070】
ひとつの実施形態では、この発明において有用な糸状菌の形質転換の選択マーカシステムにA. ニジュランスamdS遺伝子 が用いられる。amdS遺伝子はアスペルギルスの株に欠乏するアセトアミダーゼ酵素をコードし、アセトアミド培地上で培養される形質転換体に正の選択圧を付与する。amdS遺伝子は、例えばA. ニジュランス(Tilburn et al. Gene 1983. 26: 205-221) やA.オリザエ(Gomi et al. Gene 1991. 108:91-98) 等の、内因性amdS遺伝子又はその相同体を有することが知られている糸状菌においても選択マーカとして用いることができる。非形質転換体のバックグラウンドamdS活性は、選択培地中にCsClを添加することにより抑制することができる。
【0071】
工業的に重要な糸状菌の形質転換においてamdSマーカシステムを用いる方法は確立されている(例えばアスペルギルス・ニガー中 (例えばKelly and Hynes EMBO J. 1985. 4:475-479; Wang et al., Fungal Genet. Biol. 2008. 45(1):17-27参照); ペニシリウム・クリソゲナム中(Penicillium chrysogenum) (例えばBeri and Turner, Curr. Genet. 2987. 11:639-641参照); トリコデルマ・ リーゼイ中 (例えば Pentilla et al. Gene 1987. 61:155-164参照); アスペルギルス・オリザエ中 (例えば Christensen et al., Bio/technology 1988. 6:1419-1422参照); トリコデルマ・ハージアナム(例えばPe'er et al., Soil Biol. Biochem. 1990. 23:1043-1046); 及び U.S patent no. 6,548,285, 参照これらを参照として本願に組み込む)。
【0072】
入来配列を有するDNA構築体をベクター中(例えばプラスミド中)に組み込むか、又は糸状菌細胞の形質転換に直接用いることにより、突然変異体を得ることができる。通常、DNA構築体は安定に形質転換され、回帰不能な低活性化遺伝子の染色体組み込み体を得ることができる。DNA構築体のin vitro での構築方法及び適切なベクター中への挿入方法は公知である。
【0073】
一般に配列の欠失及び/又は挿入は、適切な制限酵素認識部位に結紮することにより行われる。このような部位が存在しないときは、公知の方法に従って合成オリゴヌクレオチドを調製し、用いることができる (上記のSambrook (1989), 及び Bennett and Lasure, MORE GENE MANIPULATIONS IN FUNGI, Academic Press, San Diego (1991) pp 70 − 76参照)。また、ベクターは公知の組み換え技術を用いて構築することができる(例えばInvitrogen Life Technologies, Gateway Technology)。この発明の実施に使用可能な適切な発現ベクター及び/又は組み込みベクターの例として、上記のSambrook et al., (1989) , 上記のAusubel (1987), Bennett and Lasure (編) MORE GENE MANIPULATIONS IN FUNGI, Academic Press中のvan den Hondel et al. (1991) pp. 396-428 及びU.S. Patent No. 5,874,276に開示されている。この発明に有用なベクターの例として、pBS-T, pFB6, pBR322, pUC18, pUC100及びpENTR/Dが挙げられる。
【0074】
いくつかの実施形態では、DNA構築体の少なくとも1のコピーが宿主の染色体に組み込まれる。いくつかの実施形態では、この発明の1以上のDNA構築体が宿主細胞の形質転換に用いられる。例えば、1のDNA構築体がptrB遺伝子の低活性化に用いられ、別の構築体がプロテアーゼ活性の不活性化に用いられる。この発明により別の組み合わせが意図され、提供されることはいうまでもない。
【0075】
低活性化は、遺伝子配列の欠失、置換(例えば突然変異誘発)、遮断、挿入、及び/又は、RNA緩衝(RNAi)等の遺伝子抑制機構等の、任意の適切な方法により生じる。ひとつの実施形態では、不活性化された遺伝子の発現産物は、タンパク質の生物学的活性において相応の変化を有する短縮タンパク質である。いくつかの実施形態では、残存活性は、対応する親株中の同一遺伝子又は相同遺伝子の生物学的活性と比較して、25%, 20%, 15%, 10%, 5%, 又は2%未満である。
【0076】
いくつかの実施形態では低活性化は欠失によって達成され、別の実施形態では低活性化は遺伝子のタンパク質コード領域の遮断によって達成される。いくつかの実施形態では、遺伝子は相同組み換えによって改変される。
【0077】
欠失によって遺伝子を低活性化する場合、通常この欠失は一部について行う。いくつかの実施形態では、欠失突然変異体は、安定で回帰不能な欠失に帰結する1以上の遺伝子の欠失を備える。コード配列の隣接領域は、5’ 及び3’末端の 約1bpから約500 bpから成る。隣接領域は500 bpより大きくてもよいが、通常は隣接領域にはこの発明により低活性化又は欠失された別の遺伝子は含まれていない。いくつかの実施形態では、遮断配列はタンパク質コード領域又はその近傍に挿入された選択マーカ遺伝子から成る。通常この挿入はin vitroで行われ、不活性化する遺伝子のコード領域配列中又はその近傍に遺伝子配列を逆方向に挿入することにより行われる。コード配列の隣接領域は5’ 及び3’末端にある約1 bpから約500 bpから成る。隣接領域は500 bpより大きくてもよいが、通常は隣接領域には別の遺伝子は含まれていない。DNA構築体は宿主染色体の相同配列に対し整列し、ダブルクロスオーバーの際に遺伝子の翻訳又は転写が遮断される。例えばptrB染色体遺伝子は、選択マーカ及び遺伝子、遺伝子コード配列の一部、又はコード配列に隣接する領域を備えるプラスミドに対し整列する。いくつかの実施形態では、選択マーカ遺伝子は遺伝子コード配列中に位置するか、又は遺伝子とは別のプラスミドの一部に位置する。ベクターは宿主中の染色体に組み込まれ、これにより宿主の遺伝子は、コード配列中又はその近傍、又は隣接領域に挿入されたマーカの存在により低活性化される。
【0078】
不活性化に用いられる方法を限定することは意図しないが、いくつかの実施形態では、ptrB及び相同配列はこの方法、特に隣接配列への選択マーカの挿入により不活性化される。
【0079】
いくつかの実施形態では、遺伝子の不活性化はベクターとしてのプラスミドとのシングルクロスオーバーにおける挿入により行われる。例えば、ベクターを宿主細胞の染色体に組み込み、遺伝子のタンパク質コード配列又は遺伝子の調節領域へのベクターの挿入により遺伝子を改変する。
【0080】
別の実施形態では、不活性化は遺伝子の突然変異誘発により生じる。遺伝子を突然変異誘発させる方法は公知であり、非限定的例示として部位特異的突然変異、ランダム突然変異の誘発、及びgapped-duplex法(例えばU.S. Pat. 4,760,025; Moring et al., Biotech. 1984. 2:646; 及びKramer et al., Nucleic Acids Res., 1984. 12:9441参照)が挙げられる。
【0081】
いくつかの実施形態では、この発明の突然変異体は、対応する糸状菌の親株によるタンパク質の発現及び翻訳と比較して、1以上の目的の内因性及び/又は非相同タンパク質の発現及び翻訳(すなわちタンパク質生産)が改変されている。
【0082】
いくつかの実施形態では、この発明の糸状菌細胞の突然変異体は、目的の内因性及び/又は非相同タンパク質を、対応する親株中での同じタンパク質の生産と比較して、少なくとも約0%から約200%(又はそれ以上)多い量で生産する。すなわち、いくつかの実施形態では、突然変異体による目的のタンパク質の生産は、対応する親株による内因性及び/又は非相同タンパク質の生産と比較して、少なくとも約0% から100%より多く、いくつかの実施形態では、少なくとも約10%から60%より多く、ある実施形態ではタンパク質の生産は少なくとも約10%, 15%, 20%, 25%, 30%, 35%, 40%, 45%, 50%, 及び55%より多い。
【0083】
この発明のいくつかの実施形態では、糸状菌細胞の突然変異体により生産された目的のタンパク質は細胞内で生産されたタンパク質(すなわち細胞内、非分泌ポリペプチド)である。別の実施形態では、目的のタンパク質は分泌ポリペプチドである。さらに、目的のタンパク質は融合又はハイブリッドタンパク質である。いくつかの実施形態では、突然変異体は複数のタンパク質について改変された生産性を示し、これらのタンパク質のいくつかは細胞内のもので、いくつかは分泌されたものである。
【0084】
この発明において有用な目的のタンパク質には公知の酵素が含まれ、非限定的例示として澱粉分解酵素、タンパク質分解酵素、セルロース分解酵素、酸化還元酵素、及び植物細胞壁分解酵素から選択される酵素が挙げられる。より具体的には、このような酵素の非限定的例示としてアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ、オキシダーゼ、クチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、エステラーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、フィターゼ、ペクチナーゼ、グルコシダーゼ、イソメラーゼ、トランスフェラーゼ、ガラクトシダーゼ及びキチナーゼから成る群から選択される酵素が挙げられる。いくつかの実施形態では、酵素の非限定的例示としてアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、フェノールオキシダーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びフィターゼが挙げられる。いくつかの実施形態では、目的のポリペプチドはプロテアーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼ、又はアミラーゼである。
【0085】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、シグナルペプチドに融合された分泌ポリペプチド(すなわち分泌されるタンパク質のアミノ末端伸長)である。殆んど全ての分泌タンパク質は、膜を横切る前駆体タンパク質の標的化と転座に関与するアミノ末端伸長を用いている。このアミノ末端伸長は、膜輸送中又はその直後に、シグナルペプチドによりタンパク質分解されて除去される。
【0086】
この発明のいくつかの実施形態では、目的のポリペプチドは、プロテアーゼの活性を阻害するプロテアーゼインヒビター等のタンパク質である。プロテアーゼインヒビターは公知であり、例えばtrysin、カプテシンG、トロンビン、及び組織カリクレインを阻害することが知られているセリンプロテアーゼインヒビターに属するプロテアーゼインヒビターが挙げられる。この発明で有用なプロテアーゼインヒビターはBowman-Birkインヒビター及び大豆トリプシンインヒビター( Birk, Int. J. Pept. Protein Res. 1985. 25:113-131; Kennedy, Am. J. Clin. Neutr. 1998. 68:1406S-1412S 及び Billings et al., Proc. Natl. Acad. Sci.1992. 89:3120 − 3124参照)である。
【0087】
この発明のいくつかの実施形態では、目的のポリペプチドは、ホルモン、抗体、成長因子、レセプター、及びサイトカイン等から選択される。この発明に含まれるホルモンの非限定的例示として、卵巣刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、ソマトスタチン、性腺刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、エリスロポエチン、インスリン等が挙げられる。成長因子の非限定的例示として、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子、表皮性成長因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、形質転換増殖因子、インターロイキン(例えばIL-1からIL-13)等のサイトカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子等が挙げられる。抗体の非限定的例示として、抗体が生産されることが望まれる任意の種から直接得られる免疫グロブリンが挙げられる。さらに、この発明には変成された抗体が含まれる。ポリクロナール及びモノクロナール抗体もこの発明に含まれる。いくつかの実施形態では、抗体又はその断片はキメラ抗体又はヒト化交代であり、非限定的例示としてアンチ-p185Her2、 HulD10-、トラスツズマブ、ベバシズマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、ダクリズマブ、及びリツキシマブが挙げられる。
【0088】
また別の実施形態では、目的のタンパク質をコードする核酸は適切なプロモータに操作可能に結合され、このプロモータは糸状菌宿主細胞中で転写活性を示す。このプロモータは、宿主細胞の内因性または非相同のタンパク質をコードする遺伝子から誘導される。このプロモータは、欠失されたプロモータ又はハイブリッドプロモータである。さらに、このプロモータは誘導プロモータである。通常、プロモータはトリコデルマ宿主又はアスペルギルス宿主中で有用である。適切なプロモータの非限定的例示として、cbh1, cbh2, egl1, egl2, 及び xyn1が挙げられる。ひとつの実施形態では、プロモータは宿主細胞の天然のプロモータである。別の有用なプロモータの例として、A. アワモリ及びA. ニガーグルコアミラーゼ遺伝子 (glaA) (Nunberg et al., Mol. Cell Biol. 1984. 4:2306-2315 及び Boel et al., EMBO J. 1984. 3:1581-1585参照); アスペルギルス・オリザエ TAKA アミラーゼ; リゾムコール・ミエヘイアスパラギン酸プロテイナーゼ; アスペルギルス・ニガー中性アルファ-アミラーゼ; アスペルギルス・ニガー酸安定アルファ-アミラーゼ; トリコデルマ・リーゼイ stp1及びセロビオヒドロラーゼ1遺伝子のプロモータ(例えば本願に参照として組み込むEP 0 137 280 A1参照) 、及びこれらの突然変異体、欠失、及びハイブリッド化プロモータが挙げられる。
【0089】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドのコード配列は、コードされたポリペプチドを細胞の分泌経路に誘導するシグナル配列に操作可能に結合している。コード配列の5’末端は天然において、分泌ポリペプチドをコードするコード領域のセグメントを有する翻訳リーディングフレームに天然に結合したシグナル配列を備える。通常シグナル配列をコードするDNAは、発現されるポリペプチドに天然に結合した配列である。通常、シグナル配列はアスペルギルス・ニガーアルファ-アミラーゼ、 アスペルギルス・ニガー中性アミラーゼ、又はアスペルギルス・ニガーグルコアミラーゼによりコードされる。いくつかの実施形態では、シグナル配列はcdh1プロモータに操作可能に結合したトリコデルマcdh1シグナル配列である。
【0090】
DNA構築体又はベクターの宿主細胞への導入には、形質転換、エレクトロポレーション、核酸マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション、(例えばリポフェクション媒介又はDEAE-デキストリン媒介トランスフェクション)、リン酸カルシウムDNA沈殿による培養、DNA-被覆マイクロプロジェクタイルによる高速ボンバーメント、アグロバクテリウム媒介トランスフェクション、及びプロトプラスト融合等の技術が用いられる。一般的な形質転換方法は公知である(例えば上記のAusubel et al., (1987), chapter 9; 及び上記のSambrook (1989), Campbell et al., Curr. Genet. 1989. 16:53-56 及び The Biotechnology of Filamentous Fungi, 1992, Chap. 6. Eds. Finkelstein and Ball, Butterworth and Heinenmann参照。これらの文献を参照として本願に組み込む。)
【0091】
糸状菌成分発現システムにおける非相同タンパク質の生産は周知である。例えばトリコデルマ中での非相同タンパク質の発現は、参照として本願に組み込む、Harkki et al., Enzyme Microb. Technol. 1991. 13:227-233; Harkki et al., Bio Technol. 1989. 7:596-603; EP 244,234; EP 215,594; 及びNevalainen et al., "The Molecular Biology of Trichoderma and its Application to the Expression of Both Homologous and Heterologous Genes", in Molecular Industrial Mycology, 1992, Eds. Leong and Berka, Marcel Dekker Inc., NY, pp. 129 − 148; 及び U.S. Patent No. 6,022,725 及び 6,268,328に開示されている。
【0092】
アスペルギルス種中での非相同タンパク質の発現は、参照として本願に組み込む、Cao et al., Sci. 2000. 9:991-1001; 及び U.S. Patent No. 6,509,171に開示されている。
【0093】
この発明の形質転換体は、公知の方法で精製することができる。
【0094】
糸状菌成分は、公知の培養培地で培養することができる。プロモータを活性化し、形質転換体の選択に適するように、形質転換した細胞の培養培地を修正することができる。温度、pH等の具体的な培養条件は当業者にとって明らかであろう。この発明で有用な糸状菌の典型的培養条件は周知であり、上記のSambrook, (1982)、及びAmerican Type Culture Collectionの技術文献に記載されている。さらに、非相同タンパク質を生産するための発酵方法は周知である。例えばバッチ、流加発酵、及び連続流プロセス等の固体又は液体培地により、タンパク質を生産することができる。発酵温度は変更可能であるが、アスペルギルス・ニガー等の糸状菌の場合、選択した株又は微生物に応じて、温度は一般に約20℃から40℃の範囲であり、通常は約28℃から37℃の範囲である。水性微生物発酵(発酵混合物)でのpH範囲は、典型的には約2.0から8.0の範囲である。糸状菌の場合pHは通常約2.5から8.0の範囲であり、アスペルギルス・ニガーの場合pHは通常約4.0から6.0の範囲であり、典型的には約4.5から5.5の範囲である。発酵槽における発酵混合物の滞留時間は、使用する発酵温度及び培地に応じて種々変更可能であるが、通常は約24から500時間の範囲であり、典型的には約24から400時間である。この発明では、糸状菌の培養に適した任意の発酵槽を使用することができる。この発明のひとつの有用な実施形態では、15L Biolafitte (Saint-Germain-en-Laye, France)を用いる。
【0095】
細胞内及び細胞外で発現されたポリペプチドの活性を検出し測定するための様々なアッセイが当業者に知られている。宿主細胞中での目的のタンパク質の分泌のレベルを測定し、発現されたタンパク質を検出するための方法として、そのタンパク質に対する特異性を有するモノクロナール又はポリクロナール抗体による免疫学的検定を用いる方法が挙げられる。例として酵素結合免疫吸着法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、及び蛍光発色セルソート法(FACS) が挙げられる。しかし、別の方法も当業者に知られており、目的のタンパク質の評価に用いることができる(例えば本願に参照として組み込むHampton et al., SEROLOGICAL METHODS, A LABORATORY MANUAL, 1990, APS Press, St. Paul, MN; 及びMaddox et al., J. Exp. Med., 1983. 158:1211参照)。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質の発現及び/又は分泌は突然変異体において増強される。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質の突然変異体での生産性は、対応する親株と比較して、少なくとも100%, 少なくとも95%, 少なくとも90%, 少なくとも80%, 少なくとも70%, 少なくとも60%, 少なくとも50%, 少なくとも40%, 少なくとも30%, 少なくとも20%, 少なくとも15%, 少なくとも10%, 少なくとも5% 及び 少なくとも2%高い。
【0096】
所望のタンパク質が発現され、任意に分泌されたら、目的のタンパク質を回収し、さらに精製する。目的のタンパク質の発酵ブロスからの回収及び精製は、公知の方法により行うことができる。一般に発酵ブロスには通常、細胞も含めた細胞残渣、種々の固形懸濁成分及びその他のバイオマス混入物だけでなく、所望のタンパク質産物が含まれている。
【0097】
この除去に適した方法として、公知の固−液分離方法、例えば遠心分離、濾過、透析、ミクロ濾過、回転真空濾過、又はその他の細胞除去濾液を生産するための公知方法が挙げられる。結晶化させる前に、限外濾過、エバポレーション、又は沈殿等の方法により、発酵ブロス又は細胞除去濾液を濃縮しておくことが好ましいことがある。
【0098】
塩を用いて上清又は濾液中のタンパク性成分を沈殿させることができ、続いてイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、または同様の公知の方等の種々のクロマトグラフィー的手法により精製することができる。発現された所望のポリペプチドが分泌されたとき、このポリペプチドを培養培地から精製することができる。通常、ポリペプチドを精製する前に、培地から発現宿主細胞を(例えば遠心分離により)除去する。
【0099】
発現された所望の組み換えポリペプチドが宿主細胞から分泌されないときは、通常は精製の第一段階として宿主細胞を破壊してポリペプチドを水性の「抽出液」中に放出させる。通常、細胞を破壊する前に発現宿主細胞を培地から(例えば遠心分離により)回収する。
【0100】
この発明を実施する態様及び方法は、当業者であれば下記の実施例を参照することにより更に十分理解できるであろう。下記の実施例はこの発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0101】
以下の実施例はこの発明の具体的実施形態及び態様をさらに詳しく説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
<A. 挿入突然変異体の単離>
A. ニガー株GICC2773を、 プロトプラスト-PEG 形質転換法 (Wernars, K., et al., Mol Gen Genet, 1986. 205(2):312-7参照) を用いて4.3 kb プラスミドpMW1 (Kuck, et al. Appl. Microbiol. Biotechnol. 1989. 31:358-365参照) で形質転換した。株GICC2773は AP-4 アスペルギルス・ニガー株 (Ward et al., Appli. Microbiol. Biotechnol 1993. 39:738-743参照) の誘導体である。株GICC2773はpepA 遺伝子の遮断突然変異体(disruption mutant )と、非相同酵素を発現する組み込みプラスミドと、グルコアミラーゼプロモータ及びターミネータの制御下にあるラッカーゼ(Tramete versicolorラッカーゼ遺伝子のlcc1)とを備える。GICC2773株は、本願に参照として組み込むValkonen et al., Appl. Environ. Microbiol. 69(12); 6979-6986 (2003) に詳細に開示されている。
【0102】
全部で8040種のハイグロマイシン耐性形質転換体を、ハイグロマイシンBを200μg/ml含有するBGMP アガープレート (2 % グルコース、2 % マルトース抽出、0.1 % ペプトン, 1 % アガー) から単離した。ランダムに採取した13種の形質転換体のゲノムDNAを、hph遺伝子に対し特異的なプライマーを用いたPCR分析により分析した。テストした全ての形質転換体はhph遺伝子を有していた。A. ニガー株GICC2773についての同じPCR分析は陰性であった。続いて300種の形質転換体についてハイグロマイシン耐性の安定性、コロニーのモルフォロジー、胞子形成能力、及び温度感受性(ts)の一連のテストを行った。ハイグロマイシン耐性は99%より多くの挿入突然変異体において3回の試験後も安定であったが、コロニーのモルフォロジー及び胞子形成能力に関しては顕著な多型性が認められた。さらに、40℃における完全温度感受性突然変異体1種と、一部温度感受性突然変異体7種が検出された。これらのデータは、A. ニガー株GICC2773におけるpMW1組み込みのランダム性を反映している。
【0103】
8040種の形質転換体をABTSアッセイにより目視によりスクリーニングした。ABTSアッセイでは、各ウエルに200μlのGMPアガーを入れ、200 μg/mlのハイグロマイシンB、0.2 mMのABTS、及び0.1 mMのCuSO4を添加した96-ウエルマイクロタイタープレートにおける発色を観察した。各ウエルに胞子の懸濁液2μlを植菌した。30℃で3日から4日インキュベートした後、青色の発色速度と、その色の濃さから上昇突然変異株を特定した。
【0104】
青色を速く発色するか、又は青色の濃い突然変異体を選択して、フラスコ中でS4Y2ブロス(4%澱粉, 2 % 酵母抽出液, 0.5% KH2PO4, 0.5 % コーンフラワー) により3日間培養し、上清についてラッカーゼ活性を測定した。この手順を3回繰り返し、細胞外ラッカーゼ活性が向上した突然変異体8種を単離した。この8種の突然変異体をフラスコ中で改良Promosoyブロス(2 % グルコース、8%澱粉、4 % Tryptic Soyブロス、7%クエン酸ナトリウム、1.5% (NH4)2SO4、0.1% NaH2PO4・H2O、0.1% MgSO4・7H2O、0.07% Tween80、微量元素) で培養したとき、親株GICC2773と比較して56-200%高いラッカーゼ活性を示した。細胞外ラッカーゼ活性は、細胞を含まない上清を用いて測定した。酵素反応混合液には、細胞を含まない上清の希釈液30μl、70μl の12.5mmol/L ABTS、及びpH4.6に調整した0.1mol/L酢酸緩衝液2.9mlが含まれていた。37℃で30分間インキュベートした後、OD420を測定した。
【0105】
<B. サザンブロット法による上昇突然変異体へのpMW1組み込みの評価>
Zhu, et al (Nucleic Acids Res. 1993. 21: 5279-5280)の方法に従って、塩化ベンジル抽出液を用いて8種のラッカーゼ上昇突然変異体からゲノムDNAを抽出した。次に、pMW1を1回だけ切断する酵素であるHindIIIを用いて、抽出したDNAを消化した。プローブは、EcoRIによりpMW1を消化して調製した。EcoRIはhph遺伝子の半分を含む800bpのフラグメントを生成する。次に、このDNAフラグメントを、サザンブロット分析用のDIG High Primer DNAラベル及びDetection starter Kit II (Roche Applied Science社) を用いてラベルした。このプローブは、8種のラッカーゼ上昇突然変異体全てのpMW1のサイズに等しい4.3kbのフラグメントにハイブリダイズした。これは、pMW1のいくつかのコピーのタンデムリピート配列が組み込まれたことを示している(図1)。興味深いことに、サザンブロット分析では突然変異株16H2中に2つのフラグメントしか認められなかった。4.3kbのフラグメントのほかに、強度は弱いものの3.0 kbのフラグメントがプローブにハイブリダイズしていた(図2)。このパターンにより、pMW1のタンデムリピート配列が株16H2のゲノムに組み込まれ、1の挿入部位しか関与していなかったことが示された。従って、突然変異株16H2の細胞外ラッカーゼ発現の増加(平均25%)は、pMW1の組込みによる宿主のDNA遮断によるものと考えられる。pMW1組込みの詳細な分析の対象として株16H2を選択した。
【0106】
<C. SM-TAIL-PCRによる突然変異株16H2中のpMW1組み込みローカスの分析>
A. ニガーの形質転換体は、プラスミドのランダムな二本鎖切断、及びそれに続く非相同末端結合 (NHEJ) に起因して、単一のローカスに挿入された複数のプラスミドのコピーを備えることが知られている (Walker, et al., Nature, 2001. 412:607-14)。この独特の機構はプライマーのエンドコピーへの特異結合を妨げ、結合配列を特定するために、逆PCR法、リンカー仲介PCR法、及びセミランダムPCR法等、典型的なPCRに基づく方法を用いる結合配列の形成を困難にする。この問題を解決するため、SM-TAIL-PCR (Self-ligation Mediated TAIL-PCR)と呼ばれる改良された方法が開発され、突然変異株16H2中へプラスミドを挿入した後の挿入部位を特定することが可能になった。SM-TAIL-PCR法には2つの特徴がある。まず、ゲノムDNAを、組み込みプラスミドの抗生物質耐性遺伝子に隣接し、互いに接近した2つの制限酵素認識部位において2回予備消化した。これにより、タンデムリピート配列の再環化を防止した。再環化を防止することにより、前記の妨害の問題が解消される。第二に、特異的プライマーを消化して、形質転換体の選択に用いられる抗生物質耐性遺伝子の配列に結合させた。プライマーは上記の制限酵素認識部位に接近していたため、消化されたテンプレートの再結紮により、未知の挿入部位配列が、既知の特異的プライミング部位の隣に位置した。結合配列をプライミング部位に近接させることにより、プラスミドの切断部位が不明であることに起因する問題を解消でき、短いオリゴのランダムな非特異的プライマーを用いたとき一般に見られる非常に短鎖の産物が生成する問題を解消できる。この方法により、挿入部位のプラスミドコピーの多様性とは無関係に、挿入部位を特定するために有効な方法が提供される。
【0107】
突然変異株16H2のゲノムDNAを、多重クローニング部位(MCS)/ hphカセットに直接隣接するポリリンカーに基づく7種のランダムな組み合わせの2種の制限酵素で消化した。消化されたDNAを環化してTAIL-PCRのテンプレートを調製した。MCS/ポリリンカーの上流側はHindIII, SalIから成り、MCS/ポリリンカーの下流側はBamHI, SmaI, KpnI及びSacIから成る。SM-TAIL-PCR用のテンプレートを調製するために、突然変異ゲノムDNAを、(hph遺伝子の下流側結合を分離するための)上流側ポリリンカー、又は(hph遺伝子の上流側結合を分離するための)下流側ポリリンカーのいずれかが選択される2種の制限酵素で消化した。次に、消化したDNAを希釈し、環化してSM-TAIL-PCR用の最終的テンプレートを調製した。hph遺伝子の下流側結合を増幅するために、RAPDオリゴを用いてネステッドPCRを行った。RAPDオリゴは、3種のプライマーusp1, usp2及びusp3とペアになる10のヌクレオチドから成り、hph遺伝子のマイナス鎖の5’末端においてプライマーとして作用する。同様に、hph遺伝子の上流側の結合を、3’末端においてhph遺伝子のプラス鎖のプライマーとして作用するネステッドプライマーdsp1, dsp2, dsp3, dsp4 及びdsp5 (Table 1)を用いて増幅した。dsp3からdsp5プライマーをターシャリ(tertiary)PCRに用いた。
【表1】

【0108】
一例として、3回の連続した増幅(ネステッドPCR)において、3種のプライマーをRAPDプライマーとペアにした。図3に示すように、次第にサイズが減少する3種のPCR産物が観察された。これは、pMW1組み込みローカスの近くにDNAが含まれていると考えられる標的領域の増幅が正しく行われたことを示している。このような特定の正しいPCR産物6セットが、7種の異なるダブルダイジェスチョン(double digestion)の組み合わせにより調製したテンプレートから得られた。最も大きな生成物は約900 bpであった。6セットのPCR産物のシーケンスを分析して非- pMW1配列を特定し、6種のプライマーをhph特異プライマーとペアを組むように消化して、テンプレートとして非消化16H2ゲノムDNAを用いて結合DNAを増幅した。増幅産物をプライマーP16H (Table 1)と、遺伝子の3’末端のマイナス鎖を標的としたhph特異プライマーから得た。この産物のシーケンス分析から、結合配列がpMW1タンデムリピート配列(データは示していない)に隣接していることが示された。この配列をA. ニガーの配列データベース(http://genome.jgi-psf.org/Aspni1/Aspni1.home.html)と比較してプラスミド挿入の両側からDNA配列を特定した。
【0109】
<D. 組み込みローカス16H2の標的破壊>
特定した組み込みローカスがラッカーゼ活性に影響したことを更に確認するために、A. ニガー株GICC2773中の同一ローカスの標的破壊を行った。両側に組み込みローカスと相同な1 kbのDNAが隣接するhph遺伝子を輸送するためのアレル交換プラスミドpMW-16H2 (SEQ ID NO: 19) を構築した。挿入部位に隣接するDNAを、P1/P2 (挿入部位の上流側) 及びP3/P4 (挿入部位の下流側)の2組のプライマーを用いて増幅した。pMW1-16H2を作るために、上流DNAをpMW1のHindIIIからSalI部位の間に挿入し、下流DNAをpMWのBamHI からSacI部位の間に挿入して、hph遺伝子に隣接させた。
【0110】
プラスミドpMW-16H2をStuI及びNaeIで消化して3.5 kbのアレル交換カセットを得た。形質転換した後、43種のハイグロマイシン耐性形質転換体を単離した。Pid及びPoutプライマーを用いたPCRテストにより16H2ローカスへのhph遺伝子の挿入により得られると予想される相同組み換えの1の形質転換体が同定された。この形質転換体を株△16H2と命名した。振蕩フラスコ中で培養した細胞の無細胞抽出液上清について、株△16H2及び16H2のラッカーゼ活性を測定した。さらに、Lowry アッセイ(Lowry, O.H., et al., J Biol Chem, 1951. 193(1):265-75) により、全溶解性タンパク質を測定した。株△16H2のラッカーゼ活性は、株GICC2773より8%高いだけで、株16H2のラッカーゼ活性より低レベルであった。しかし、ラッカーゼ活性を全細胞外溶解性タンパク質に対し正規化すると、株△16H2及び16H2のラッカーゼ活性の増加は同等であった(Table 2)。
【表2】

【0111】
サザンブロット分析により、株△16H2は非相同領域(データは示していない)に挿入されたhphカセットの追加のコピーを備えていることが示された。この変則的な組換えが株△16H2の低成長速度の理由であり、これにより、上清中のラッカーゼ活性は相対的に低いが、全溶解性タンパク質で正規化したとき同等になると考えられる。それにもかかわらず、本願のデータにより、組み込みローカス16H2の破壊により細胞外ラッカーゼ発現が向上することが確認された。
【0112】
<E. 16H2における組み込みローカスの機能>
組み込みローカス16H2のいずれかの末端側の1 kb以内のORFを特定するためのシーケンス分析は失敗に終わった。しかし、この検討により、上流側の2 kbのptrB遺伝子及び下流側の1.2kbのsso1遺伝子が明らかになった。16H2株へのpMW1挿入によりどの遺伝子がラッカーゼ発現が増加するような影響を受けたかを検討するために、リアルタイムPCRを用いて株GICC2773及び16H2中のptrB及びsso1遺伝子の転写レベルを調べた。
【0113】
定量的な逆転写PCR反応(qRT-PCR) を、最終容積が20μlで、13.8μl の水、1.6μlのMgCl2 (3mM)、0.8μlの各プライマー(rp1及びrp2; 10 mM)、2μlのFast Start DNA Master SYBR Green I、及び 1μlのRT産物を含有する溶液中で行った。リアルタイムRT-PCRのサイクルは次の通りであった:95℃で10分間変成、次いで、95℃で15秒間の変成、各プライマーのペアの融解温度に応じた5秒間のアニーリング72℃で15秒間の伸長から成る増幅サイクルを40回。蛍光データ測定は76℃で行った。溶融曲線の測定は75から 95℃で行った。1.5%アガロースゲルによる電気泳動を行った。ゲノムDNAの混入がないことを実証するために、逆転写トータルRNAサンプルを含まない反応液を処理した。コンパラティブ・スレッシュホールド・サイクル(comparative threshold cycle) (CT)法により、増幅倍率を計算した(Tichopad, A., et al., Nucleic Acids Res, 2003. 31(20):e122; Pfaffl, M.W., Nucleic Acids Res, 2001. 29(9):e45)。各遺伝子の発現レベルを18S rRNA転写産物の発現レベルで割り算することにより、各遺伝子の発現レベルを正規化した。sso1 遺伝子の発現レベルはあまり影響されなかったが、株16H2中のptrB遺伝子の発現レベルは株GICC2773の発現レベルの半分でしかなかった(図4)。
【0114】
この結果は、組み込みローカスがptrB遺伝子の発現を制御する領域の一部であることを示唆している。この仮説を検証するために、ptrB遺伝子 (GenBank accession No. XM_001395173参照)をpGPT ベクター (本願に参照として組み込むM. Berka and C. Barnett, Biotech Adv, 1989 7(2):127-154参照) を挿入してptrB発現プラスミドpGPT-ptrBを構築した。ptrB配列は、SEQ ID NO: 20のBgl II制限酵素消化産物として挿入した。このptrB発現プラスミドは、glaAプロモータの制御下にあるptrBコード配列、及び追加の2 kbより大きいDNAを備えていた。株16H2 をプラスミドpGPT-ptrB及びp3SR2(優勢選択マーカとしてA. ニジュランスのamdS遺伝子を備えるプラスミド; Hynes, et al., Mol Cell Biol, 1983. 3(8):1430-9)で共形質転換して、ラッカーゼの分泌レベルが野生型と同等に保たれるか、又はptrBカセットの導入により低下するかをテストした。プロトプラスとの調製及び形質転換は、Wernars, K., et al., “Genetic analysis of Aspergillus nidulans AmdS+ transformants.” Mol Gen Genet, 1986. 205(2):312-7に開示された手順に従って行った。AmdS+形質転換を単離し、プライマーrp1及びrp2を用いたPCRでpGPT-ptrB形質転換体のスクリーニングを行うことにより分析した。19種のこのような形質転換が特定された。細胞外ラッカーゼの測定により、株16H2よりも低い活性であることが示された。形質転換体の60%は、株GICC2773と同等又はそれより低いレベルのラッカーゼ活性を示した(Table 3)。従って、株16H2におけるラッカーゼ発現の向上は、pMW1組み込みによるptrB遺伝子のダウンレギュレーションに起因すると考えられる。
【表3】

【0115】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の突然変異を有する糸状菌細胞であって、前記糸状菌細胞が低活性化されたprtB活性を有し、対応する親糸状菌細胞と比較して目的のタンパク質の発現が改変されている糸状菌細胞。
【請求項2】
前記糸状菌細胞、及び前記対応する親糸状菌細胞が、プロテアーゼ欠乏株である、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項3】
前記突然変異がptrB遺伝子ローカスに隣接する非コード領域中に位置する、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項4】
前記突然変異が、ptrB遺伝子に隣接する非コード領域中の欠失から成る、請求項3の糸状菌細胞。
【請求項5】
前記突然変異が挿入突然変異から成る、請求項3の糸状菌細胞。
【請求項6】
前記挿入突然変異が選択マーカの挿入から成る、請求項5の糸状菌細胞。
【請求項7】
前記糸状菌細胞がアスペルギルス(Aspergillus)種、リゾパス(Rhizopus )種、トリコデルマ(Trichoderma)種、又はムコール(Mucor)種のいずれかである、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項8】
前記糸状菌細胞がアスペルギルス株である、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項9】
前記アスペルギルス種が、A.オリザエ(oryzae)、A.ニガー(niger)、A.アワモリ(awamori)、A.ニジュランス(nidulans)、A.ソジャエ(sojae)、A.ジャポニカス(japonicus)、A.カワチ(kawachi)、及びA.アクレアタス(aculeatus)Tから成る群から選択される、請求項7の糸状菌細胞。
【請求項10】
前記トリコデルマ種が、トリコデルマ・リーゼイ(reesei)、トリコデルマ・ビリデ(viride), トリコデルマ・コニンギ(koningii), 及びトリコデルマ ・ハージアナムス(harzianums) から成る群から選択される、請求項7の糸状菌細胞。
【請求項11】
前記目的のタンパク質の改変された発現が、前記目的のタンパク質の強化された発現である、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項12】
前記目的のタンパク質が、対応する親株中での同一のタンパク質の生産より、少なくとも約0%から200%多い量で生産される、請求項10の糸状菌細胞。
【請求項13】
前記目的のタンパク質が、対応する親株中での同一のタンパク質の生産より、少なくとも約10%から60%多い量で生産される、請求項11の糸状菌細胞。
【請求項14】
さらに、プロテアーゼをコードする遺伝子中の突然変異、又はプロテアーゼをコードする遺伝子に隣接する突然変異を有する、請求項1の糸状菌細胞。
【請求項15】
非相同タンパク質を発現可能な糸状菌株であって、対応する親糸状菌株と比較してptr2活性を低下させる突然変異を有する糸状菌株。
【請求項16】
前記親糸状菌株がプロテアーゼ欠乏株である、請求項15の糸状菌株。
【請求項17】
糸状菌宿主中での目的のタンパク質の発現を増加させる方法であって、
親糸状菌細胞の突然変異体を目的のタンパク質の生産が誘導される条件下で培養するステップであって、前記突然変異体が、目的のタンパク質をコードする第1核酸配列と、ptr2の生産に関与する少なくとも1の修飾された遺伝子ローカスを有する第2核酸配列とから成るステップと;
目的のタンパク質を単離するステップとから成る方法。
【請求項18】
前記親糸状菌細胞がプロテアーゼ欠乏株である、請求項17の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509082(P2012−509082A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537551(P2011−537551)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/064790
【国際公開番号】WO2010/059626
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509240479)ダニスコ・ユーエス・インク (81)
【Fターム(参考)】