説明

改良された人工毛髪用繊維束及びそれからなる頭飾製品

【課題】 アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系共重合体を含む合成繊維からなる繊維束で、かつら、ヘアピース、ウィービング商品に要求されるカール特性と風合いのバランスが取れた人工毛髪用繊維束を提供する。
【解決手段】単繊維繊度20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)、かつ繊維断面形状の円形充足度係数が1.8以下である合成繊維が、該繊維束中に35〜90重量%含有していることを特徴とする人工毛髪用繊維束。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、人形用ヘアー等に用いられる人工毛髪用繊維束に関し、更にカール特性と風合いのバランスのとれた人毛代替用途に好適な人工毛髪用繊維束に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に人工毛髪用繊維としてアクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、あるいはポリエステル繊維など多数の繊維が市販されている。しかしながら、これらの繊維には、耐熱性、カーリング性、触感等の人工毛髪用繊維として必要な特性の全てを同時に備えるものがないため、頭飾製品を製造する時、単独の繊維では種々の特性を満足させる製品を作ることが出来ず、各繊維の特性に応じた製品が作られ使用されているのが実情である。
【0003】このため、例えば、従来のアクリル系合成繊維の特徴と塩化ビニル系繊維の特徴とを合わせ持たせるために、組成の面から検討が行われ、特開平2−53910号公報では、共重合体中の組成をアクリロニトリル15〜30重量%、塩化ビニル85〜70重量%の組成で、かつ断面形状がH形〜亜鈴型であり、且つ単糸繊度を40〜70d(44.4〜77.8dtex)にすることにより美容特性に優れた毛髪用繊維が提案されているが、上記の組成では、耐熱性の低い共重合体が生成しやすい問題があり、その解決のために生産性が低下するなどの問題があった。また、断面形状がH型〜亜鈴型であるため、円形充足度係数がすべて1.8以下となり、カールが強く剛直であるため触感の柔らかさが欠けたり、風合いがともなわないなどの問題があった。また一方で風合いの改善のためには、特開平08−296115号公報で、アクリル系重合体繊維表面に特定の凹凸を生じせしめるといった方法が提案されているが、この発明では放射状に突出する3個以上の突出部を有する断面形状が好ましいとされており、こういったものはブレード用人工毛髪繊維が提案されているが、カール保持性が劣り、かつら、ヘアピース、ウィービング商品に対しては、スタイルがまとまりにくく商品性が不十分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、前記問題を解決し頭飾製品に本来最も適しているアクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系共重合体を含む合成繊維からなる繊維束で、かつら、ヘアピース、エクステンション(ウィービング)に要求されるカール特性と風合いのバランスが取れた人工毛髪用繊維束を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、アクリル系共重合体を用いた人工毛髪用繊維の断面形状に着目し、単繊維の断面形状がH〜亜鈴型といった略円形の断面を主とし、一部に不規則型断面を含む繊維束によって課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系共重合体を含む合成繊維からなる人工毛髪用繊維束であって、前記合成繊維(A)が、単繊維繊度20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)、かつ繊維断面形状の円形充足度係数が1.8以下で、該繊維束中に35〜90重量%含有していることを特徴とする人工毛髪用繊維束。である。上記の繊維束中に、前記合成繊維(A)を35〜90%と、繊維断面形状の円形充足度係数が2.0以上であり単繊維繊度が20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)である繊維(B)を10〜65%とを複合してなるのが好ましい。
【0006】尚、前記合成繊維(A)が、アクリロニトリル30〜80重量%とハロゲン含有ビニル系単量体20〜70重量%とこれらと重合可能な他のビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体を含むものであるのがより好ましい。
【0007】また前記合成繊維(A)としては、カルボキシキル基及びカルボニル基から選択される1種を含む置換基を有するオレフィン系化合物をアクリル系共重合体100重量部に対し0.5〜10重量部含有するのが好ましい。
【0008】さらに上記の人工毛髪用繊維を用いた頭飾製品として、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)及び人形用ヘアーからなる群より選択される少なくとも1種の頭飾製品とすることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。本発明でいうアクリル共重合体とは、アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリロニトリルと対オレフィンの共重合体であって、共重合体可能な単量体としてはハロゲン含有ビニル系単量体が好ましく、アクリロニトリル30〜80重量%と前記ハロゲン含有ビニル系単量体20〜70重量%からなる共重合体が好ましい。ハロゲン含有ビニル系単量体の具体例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、さらにこれらと共重合可能なビニル系単量体を0〜10重量%の割合で含んでも良い。アクリロニトリルが30重量%未満及び80重量%を超えると獣毛性が低下するので好ましくない。
【0010】本発明の人工毛髪用繊維に於ける単繊維繊度は20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)が好ましいが、さらに好ましくは30〜70デニール(33.3〜77.8dtex)、最も好ましくは40〜60デニール(44.4〜66.7dtex)がよい。前記繊度が20デニール(22.2dtex)未満では、繊維の剛性が弱くなり、カール特性が劣り、触感の面でも腰が弱くなる傾向にあり、80デニール(88.9dtex)を超えるとカール特性は強くなっても剛直な触感となり、しかも加工性が悪くなる傾向にあるので、好ましくない。
【0011】本発明でいう繊維断面形状の円形充足度係数とは、単繊維の断面形状の最大径の長さを直径とする外接円を描いたとき、その外接円の面積(a)と繊維断面形状の面積(b)の比をa/bによって規定するものであり、これは例えば図1に示される。これらのパラメータにより、具体的には(株)インタークエストの画像解析ソフトImageHyperIIを用いて、次式(I)により測定されるものである。
円形充足度係数=π×(図形の最大径長/2)2/(図形の面積) (I)
上記の繊維断面形状の円形充足度係数(以下、円形充足度係数という)が1.8以下とは、比較的円形に近い形状をいい、具体的には、円形、略正方形などの略正多角形、略H型、亜鈴型のような形状が好ましく、形状の周囲が直線か曲線かであることには限定されない。また断面形状内部に断面積の10%以下の空孔が存在していても良い。10%を越えると単繊維が軽くなり、頭飾製品に使用したときに扱い難いという点で好ましくない。
【0012】本発明においては、前記の合成繊維(A)として単繊維繊度が20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)でかつ、円形充足度係数が1.8以下である繊維が繊維束中に35〜90重量%含んでいる繊維束が目的の人工毛髪用繊維に好適であり、好ましくは45〜80重量%、最も好ましくは55〜70重量%含まれるのがよい。90重量%を超えると、カール保持性は優れるものの、加工性が悪いといった問題や風合いが硬いなどの問題が起こりやすく好ましくない。また、35重量%を未満であると良好なカール保持性が得られない傾向にある。
【0013】さらに本発明においては、合成繊維(B)として、単繊維繊度が20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)で、かつ円形充足度係数が2.0以上である繊維が繊維束中に10〜65重量%存在しているのが好ましい。ここで、合成繊維(B)の具体的な断面形状としては、S字型、偏平型、W字型の様な断面形状が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0014】また、(B)の繊維素材もアクリル系繊維に限定されるものではなく、他の繊維でも差し支えない。
【0015】該人工毛髪用繊維束のカール特性を維持し、さらに風合いを改良するには、カルボキシル基及びカルボニル基から選択される1種を含む置換基を有するオレフィン系化合物をアクリル系共重合体100重量部に対し0.5〜10重量部含有させるのが好ましい。中でもポリ酢酸ビニル(PVAc)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)がより好ましい。
【0016】本発明の人工毛髪用繊維束を用いた頭飾製品としては、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、人形用ヘアーとして使用するのが好ましく、特にかつら、エクステンションヘアー(ウィービング)に使用するのが最も好ましい。
【0017】次に本発明の人工毛髪用繊維束の一般的な製造法について説明する。本発明の人工毛髪用繊維束は、アクリル系共重合体からなる繊維であって、(A)の繊維が繊維束中に35〜90重量%含まれるものが好ましいが、単一の製造工程から得られた繊維束中に、(A)の繊維に相当するものと(B)の繊維に相当するものが(A)/(B)=35〜90重量%/65〜10重量%の比率で混合されているものでもよく、或いは、(A)の繊維からなる繊維束と(B)の繊維からなる繊維束を前記の比率で混合したものでも良い。単一の製造工程から得られる場合の好ましい方法としては以下の様な方法が挙げられる。例えば、アセトンに可溶なアクリル系重合体を用いた場合は、アクリロニトリル30〜53%のアクリル系重合体を、溶剤アセトンに溶解し、25〜35重量%の紡糸原液とするが、好ましくは28〜32重量%が好ましい。この紡糸原液の粘度は高い方が、得られる繊維(A)は円形充足度係数が低いものが得られ易く、TOKIMEC社製のB型粘度計で測定した粘度(12rpm,30秒間)の値が、湿式紡糸の場合は40〜50℃で45Poise以上が望ましく、さらに望ましくは55Poise以上が好ましい。この紡糸原液をを用いて、亜鈴型ノズルで、ノズルドラフト(ノズルドラフトとは、ノズル孔より吐出される紡糸原液の速度と引き取り速度の比をいう)が1.2〜2.3好ましくは1.4〜2.0で、アセトンの水溶液でアセトン濃度が10〜30重量%で浴温度が15〜30℃に調整された凝固浴に、好ましくはアセトン濃度15〜25重量%で浴温度20〜25℃に調整された凝固浴に紡出し、その後公知の方法で処理して人工毛髪用繊維とする。又前記の紡糸原液にポリ酢酸ビニル、EVA、ポリビニルピロリドン、PMMAからなる群より少なくとも1つのカルボキシル基又はカルボニル基を含む置換基を有するオレフィン系化合物をアクリル系共重合体100重量部に対して0.5〜10重量部添加した紡糸原液は、得られる繊維(A)は断面の円形充足度係数が低いものが得られ易い。
【0018】アクリロニトリルの含有量が高い共重合体を用いる場合は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等の溶剤に溶解し、紡糸原液濃度25〜35重量%とし、丸ノズルを用いて、ノズルドラフト0.5〜1.2で前記紡糸原液をDMF、DMAc等の水溶液でDMF、DMAc等の濃度が30〜90重量%で浴温度15〜35℃に調整した凝固浴に紡出し、その後公知の方法で処理する等の方法により目的の繊維を得ることが出来る。こうして得た人工毛髪用繊維を公知の方法でかつら、エクステンションヘアー等の頭飾製品に使用する。
【0019】
【実施例】本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例に先立ち、各種測定法、評価の基準について説明する。
【0020】■(原液の粘度測定)
TOKIMEC社製のB型粘度計で12rpm−30秒間の測定値。
【0021】■(触感、櫛通り)
かつら等の美容評価に従事する一般的技術者10名を選定し、触感、櫛通りを評価して、平均評価で表した。
基準5:非常に優れている4:優れている3:並2:やや劣る1:劣る。
【0022】■(カールの強さ)
カールの強さは、櫛を通し、平行に切り揃えた45cmの毛束を、ウィッグ縫製用ミシンで20/25cmに折り返して15g/mの毛密度で縫い、みの毛を作成する。これを横長さ10cmを取り、直径32mmのアルミパイプにみの毛の先から巻き付けして、100℃の雰囲気に60分間放置して熱セットする。この後、パイプよりみの毛を取り外して、みの毛の上部を固定し、毛束を5分割してらせん状にカールを吊り下げた時のカールの鉛直長さ及び24時間吊り下げた後のカールの長さにより評価した。この場合、吊り下げ時の鉛直長さは13cm以下が合格で、24時間後の長さの場合は15.5cm以下が合格としているが、両者の間の伸びが、2.5cm以下である事が重要である。また、■と同様にかつら等の美容評価に従事する一般的技術者10名により、カールの強さについて、外観のカール形状の揃い方の良否を評価し、これらを総合して5段階評価とした。
基準5:非常に優れている4:優れている3:並2:やや劣る1:劣る。
【0023】■(製品のスタイラビリティー)
ウィービングのカール商品(カール径10〜20mmのタイトカール商品、カール径20〜40mmのルーズカール商品及びウェーブ商品)にて、かつら等の美容評価に従事する一般的技術者10名を選定し、任意のスタイルの作りやすさとスタイルの出来を評価した。タイトカール商品は、カールの強さの評価と同じ方法で作成したみの毛を、4オンス採取し、その量のみの毛を4つ折りに畳み、毛束を22分割して、それぞれを直径12mmのアルミパイプに毛束の根元から、スパイラル状に巻き付ける。これを100℃の雰囲気に60分間放置して熱セットする。この後、パイプよりみの毛を取り外して商品を作成する。一方、ルーズカール品は、やはりカールの強さの評価と同じ方法で作成したみの毛を、4オンス採取し、その量のみの毛を幅5cmになるまで折り畳み、その毛束全体を直径40mmのアルミパイプに毛束の先から巻き付ける。これを100℃の雰囲気に60分間放置して熱セットする。この後、パイプよりみの毛を取り外して商品を作成する。
基準5:非常にスタイルが作り易くきれいに出来る。
4:スタイルが作り易く、きれいに出来る。
3:ていねいに取り扱うとスタイルがきれいに出来る。
2:ていねいに取り扱うとスタイルが出来るが崩れ易い。
1:ていねいに取り扱ってもスタイルが出来ない。
【0024】(実施例1)アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して、29重量%の紡糸原液を調製した。充分に混合した後の原液の粘度は48℃で56Poiseであった。この原液を、紡糸ノズルは亜鈴型ノズル、40φ×50Hを用い、ノズルドラフトが1.8となる条件で18重量%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、得られた繊維を、水洗浴60℃で脱溶剤及び1.5倍延伸し、次いで130℃で乾燥処理後、120℃で2.5倍の乾熱延伸を行い、さらに150℃の乾熱で弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は55デニール(61.1dtex)であった。また断面形状は略H型であるものが69重量%、それ以外のものが31重量%であり、(株)インタークエストの画像処理解析ソフトImageHyperIIにより単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数を測定したところ、断面形状が略Hであるものについてはその係数が1.31〜1.69、それ以外の形状のものでは1.50〜2.29であることが判った。この結果を表1に示す。次に、得られた繊維の毛束の触感、櫛通りを評価し(前記■)、更にカールの強さと、スタイラビリティーを前記■、■に記載の方法で評価した。これらの結果を表1に示した。
【0025】(実施例2)実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して、29重量%の紡糸原液を調製した。この樹脂100重量部に対しポリ酢酸ビニルのアセトン溶液(日本合成化学工業(株)製のゴーセニールK40−Y2)を1.0重量部、上記紡糸原液中に混合した。十分に混合した後、紡糸ノズルは亜鈴型で0.4φ×50Hのものを用い紡糸ドラフトが1.6となる条件で20重量%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾熱処理〜乾熱延伸〜乾熱弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は55デニール(61.1dtex)であった。また断面形状は略H型であるものが70重量%、それ以外のものが30重量%であり、実施例1と同様の解析ソフトにより単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数を計測したところ、その係数が断面形状が略Hであるものについては1.24〜1.76、それ以外の形状のものでは1.61〜2.30であることが判った。この結果を表1に示す。
【0026】次に、得られた繊維について、実施例1と同様の方法にて評価し、結果を表1に示した。
【0027】(実施例3)アクリロニトリル52重量%、塩化ビニリデン47重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂の共重合体樹脂をアセトンに溶解して、30重量%の紡糸原液を調製した。紡糸ノズルは、亜鈴型、0.4φ×50Hを用い、紡糸ドラフトが1.60の条件で、22重量%で25℃のアセトン水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾熱処理〜乾熱延伸〜乾熱弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は53d(58.9dtex)であった。また断面形状は大半が略円形のものが得られた。実施例1と同様の解析ソフトにて計測した単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数は1.23〜2.06の範囲にあり、このうち1.8以下のものは全体の75%であった。この結果を表1に示す。
【0028】次に、得られた繊維を実施例1と同様の方法にて評価し、その結果を表1に示した。
【0029】(比較例1)実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して、28重量%の紡糸原液を調製した。十分に混合した後の原液の粘度は48℃で34ポイズであった。この原液を、紡糸ノズル亜鈴型0.3φ×50Hを用いて、紡糸ドラフトが1.2となる条件で25重量%で25℃のアセトン水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾熱処理〜乾熱延伸〜乾熱弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は50d(55.6dtex)であった。また断面形状はほとんど全てが不規則な形状のものであった。これを実施例1と同様の解析ソフトにて単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数を計測したところ、2.23〜4.71であり、いずれも2.0以上のものであった。この結果を表1に示す。
【0030】次に、得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0031】(比較例2)アクリリニトリル52重量%、塩化ビニリデン47重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して、35%重量%の紡糸原液を調整した。この樹脂100重量部に対し、ポリ酢酸ビニルを2重量部、上記紡糸原液に混合した。十分に混合した後、紡糸ノズル亜鈴型0.44φ×50Hを用いて、ノズルドラフト2.2で、20重量%で20℃のアセトン水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾燥〜延伸〜熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は55d(61.1dtex)であった。また断面形状から求める円への従足度を表す係数を測定したところ全て1.8以下の断面であることが判った。次に得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0032】(比較例3)市販のKL−S(鐘淵化学工業製:SBM−5WT)を用いて、実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0033】(実施例4)比較例1及び比較例2で得た繊維を用いて、比較例1の繊維を20%及び比較例2の繊維を80%を均一にミックスした後、得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0034】(実施例5)比較例1及び比較例2で得た繊維を用いて、比較例1の繊維を60%及び比較例2の繊維を40%均一にミックスした後、得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0035】(実施例6)アクリロニトリル65重量%、塩化ビニル34重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂の共重合体樹脂をジメチルホルムアミド(以下DMFと略す)に溶解して、35重量%の紡糸原液を調製した。紡糸ノズルは、亜鈴型、0.28φ×50Hを用い、紡糸ドラフトが1.00の条件で、65重量%のDMF水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾熱処理〜乾熱延伸〜乾熱弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は53d(58.9dtex)であった。また断面形状は大半が略円形のものが得られた。実施例1と同様の解析ソフトにて計測した単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数は1.17〜2.08の範囲にあり、このうち1.8以下のものは全体の85%であった。この結果を表1に示す。次に、得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0036】(実施例7)アクリロニトリル70重量%、塩化ビニル29重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂の共重合体樹脂をジメチルアセトアミド(以下DMAcと略す)に溶解して、29重量%の紡糸原液を調製した。紡糸ノズルは、円型、0.30φ×50Hを用い、紡糸ドラフトが1.00の条件で、50重量%のDMAc水溶液中に紡出し、実施例1と同様の方法で水洗〜乾熱処理〜乾熱延伸〜乾熱弛緩熱処理を行った。こうして得られた繊維の単糸繊度は54d(60.0dtex)であった。また断面形状は大半が略円形のものが得られた。実施例1と同様の解析ソフトにて計測した単繊維の断面形状から求める円への充足度を表す係数は1.21〜2.12の範囲にあり、このうち1.8以下のものは全体の80%であった。この結果を表1に示す。次に、得られた繊維を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】


【0038】
【発明の効果】アクリル系共重合体を含む合成繊維からなり、単繊維繊度が20〜80d(22.2〜88.9dtex)であって、断面形状が略円形のものを35〜90重量%、それ以外の不規則な形状のものを10重量%以上含む繊維重合体とすることで、かつら、ヘアピース、エクステンション(ウィービング)に要求されるカール特性と風合いのバランスが取れた人工毛髪用繊維束を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維断面形状の円形充足度係数を計算するためのパラメータとなる断面形状の、最大径の長さを規定する方法と、それを直径とする外接円を規定する方法を示したものである。
【図2】実施例1,2,3で得られた繊維断面形状の円形充足度係数が1.8以下の断面形状の例である。
【図3】実施例1,2で得られた繊維断面形状の円形充足度係数が2.0以上の断面形状の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系共重合体を含む合成繊維(A)からなる人工毛髪用繊維束であって、前記合成繊維(A)が、単繊維繊度20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)、かつ繊維断面形状の円形充足度係数が1.8以下で、該繊維束中に35〜90重量%含有していることを特徴とする人工毛髪用繊維束。
【請求項2】繊維束中に、前記合成繊維(A)を35〜90%と、繊維断面形状の円形充足度係数が2.0以上であり単繊維繊度が20〜80デニール(22.2〜88.9dtex)である繊維(B)を10〜65%とを複合してなる請求項1記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項3】前記合成繊維(A)が、アクリロニトリル30〜80重量%とハロゲン含有ビニル系単量体20〜70重量%とこれらと重合可能な他のビニル系単量体0〜10重量%を含有してなるアクリル系共重合体を含むものである請求項1又は2記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項4】前記合成繊維(A)がアクリル系共重合体100重量部に対し、カルボキシル基及びカルボニル基から選択される1種を含む置換基を有するオレフィン系化合物を0.5〜10重量部含有するものである請求項1、2又は3に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項5】前記オレフィン系化合物がポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン及びポリメタクリル酸メチルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項6】請求項1〜5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維を用いた頭飾製品。
【請求項7】前記頭飾製品が、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)及び人形用ヘアーからなる群より選択される少なくとも1種である請求項6記載の頭飾製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−64817(P2001−64817A)
【公開日】平成13年3月13日(2001.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−174732(P2000−174732)
【出願日】平成12年6月12日(2000.6.12)
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)