説明

改良された銅−錫電解液及び青銅層の析出方法

消費財及び工業製品は、装飾目的及び腐蝕に対する保護目的のために青銅層により電気めっきされている。装飾用青銅層を製造するために使用される電解液は、シアニド含有であるか、あるいは、オルガノスルホン酸ベースの浴の場合には高腐蝕性であるか、あるいは、ジホスホン酸をベースとするシアニド不含の浴の場合には、不十分な明度及び光沢を生じる。本発明は、均質な明度及び光沢の青銅層を電気化学的に析出するための非毒性の電解液及び消費財及び工業製品へのこのような装飾用青銅層を塗布するための相当する方法を提供し、これにより、かなり厚い青銅層が電気化学的に十分に析出しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性成分、例えばシアニド不含の銅−錫電解液に関する。特に、本発明は、新規の増白剤系を有する相当する電解液に関する。本発明は同様に、本発明の電解液を用いての、消費財及び工業製品上への装飾用白色及び黄色青銅層の析出方法を含む。
【0002】
消費製品規制において定義されている消費財又は消費製品は、装飾的理由及び腐蝕防止のための薄い酸化安定性の金属層で仕上げられている。これらの層は、機械的に安定でなければならず、かつ長期に亘る使用においてさえも任意の変色又は摩耗の兆候を示すものであってはならない。ニッケルを含有する仕上げ用合金で被覆された消費財の販売は、欧州規制EU directive 94/27/ECによって、欧州においては2001年からもはや認められていないか、あるいは、厳しいルールの下でのみ可能であり、それというのも、ニッケル及びニッケル含有金属層がアレルゲンとなるためである。青銅合金は、特にニッケルを含有する仕上げ用の層のための代替品として確立されつつあり、かつ、これらは例えば、大量生産による消費財をバレル−又はラック電気めっき法で廉価に仕上げて、アレルゲン不含の魅力的な製品を提供することを可能にする。
【0003】
エレクトロニクス産業のための青銅層の製造において、得られる層のはんだ付け適性
及び場合によるその機械的接着強度は、製造すべき層の重要な特性である。この分野での使用に関して、この層の外観は、一般にはその機能と比較してあまり重要ではない。その一方で、例えば消費財上の青銅層の製造に関して、得られる層の装飾的効果さらには本質的に変化のない外観を伴う長期耐久性は、重要な標的パラメータである。
【0004】
シアニド含有でかつそれによって高い毒性を有するアルカリ浴を使用する、青銅層を製造するための通常の方法の他に、その電解液の組成にしたがって、通常、従来技術で見出される2個の主要な群の一つとすることができる種々の電気めっき法も知られている:オルガノスルホン酸をベースとする電解液を用いての方法又は二リン酸(ピロリン酸)をベースとする浴を用いての方法。本発明の目的のために、「非毒性」とは、本発明によってここで記載された電解液が、欧州において適用される危険物及び危険性物質を取り扱う規制下で「毒性(T)」又は「極めて毒性(T)」として分類される任意の材料を含有するものではないことを意味する。
【0005】
例えばEP 1 111 097 A2 は、オルガノスルホン酸及び錫及び銅のイオンと一緒に分散剤及び増白添加剤を含有し、適切な場合にはさらに抗酸化剤を含有する電解液を記載している。EP 1 408 141 A1は、青銅の電気化学的析出法を記載しており、その際、酸性電解液は、錫及び銅イオンをと一緒にアルキルスルホン酸及び芳香族の非イオン性の湿潤剤を含有する。 DE 100 46 600 A1は、溶解性の錫及び銅塩と一緒に有機硫黄化合物を含有する、アルキルスルホン酸又はアルカノールスルホン酸含有浴並びにその浴を使用する方法を記載している。
【0006】
このようなオルガノスルホン酸ベースで製造される電解液の顕著な欠点は、高い腐蝕性である。例えば、メタンスルホン酸ベースの浴はしばしば1を下回るpH値を有する。これらの浴の高い腐蝕性は、仕上げすべき支持体材料に関してその使用範囲を制限し、かつ方法を実施するために、特に耐腐食性の加工材料の使用を要求する。
【0007】
EP 1 146 148 A2 は、二リン酸をベースとするシアニド不含の銅−錫電解液を記載しており、その際、アミン及びエピクロロヒドリンの反応生成物に加えて、1:1のモル比でカチオン表面活性剤を含有する。WO 2004/005528は、アミン誘導体、エピクロロヒドリン及びグリシジルエーテル化合物から成る添加剤を含有する、シアニド不含の二リン酸−銅−錫電解液を記載している。ニリン酸ベースの電解液は、一般には極めて制限された長期安定性を有し、かつ、しばしば取り替える必要がある。
【0008】
さらに、はんだ付け可能な銅−錫層を製造するための方法は、錫−鉛はんだの代替品として使用することができ、かつ、酸性ベースの電解液の広範囲の選択が使用できることが、エレクトロニクス産業において知られている。したがって、EP 1 001 054 A2は、水溶性の錫塩、水溶性の銅塩、無機酸又は有機酸あるいはこれらの水溶性の塩を含み、かつ、さらには、一般的に毒性のチオ尿素又はチオール誘導体から成る群からの1種又はそれ以上の化合物を含有する、錫−銅電解液を記載している。ここで記載された本発明による浴は、付加的にカルボン酸、ラクトン、リン酸縮合物、ホスホン酸誘導体又はこれらの水溶性の塩又はこれらの組合せ物から成る群から選択された1種又はそれ以上の化合物を含有することができる。
【0009】
W02004/005528は、アミン誘導体、エピクロロヒドリン及びグリシジルエーテル化合物から成る添加剤を、1:0.5〜2:0.1〜5のモル比で含む、シアニド不含のリン酸−銅−錫電解液を記載している。この文献に記載の対象は、光沢層中の金属の均一な析出を達成することができる範囲における、電流範囲をさらに広範囲にすることである。このような析出は、添加される添加剤が、前記成分の3種すべてからなる場合においてのみ、得ることができる。
【0010】
従来技術において、これらの析出方法は、広い電流密度の範囲に亘って金属の均一な析出を保証し、さらに組成の点において経済的かつ環境的に有利な電解液を使用することは、特に有利であること示すことができる。さらに、有利な電解液は、析出された青銅層の厚さに依存して、均一な明度及び光沢性の層が得られることを可能しなければならない。
【0011】
したがって本発明の課題は、長期に亘って安定性の電解液を提供することであり、この場合、この電解液は、消費財及び工業製品において機械的に安定かつ装飾的に有利な青銅層の有利な析出のために適しており、かつ毒性成分を含まない。さらに本発明の課題は、消費財及び工業製品に対して装飾用青銅層を、このような電解液を用いて塗布する方法を提供することである。
【0012】
これらの課題およびここで挙げられていないが明らかに従来技術から導かれる課題は、本願請求項1に係る特徴を有する電解液及びその請求項13において前記本願発明による析出方法における使用によって達成することができる。これら請求項を引用する好ましい実施態様は、請求項2〜12及び14及び15に記載されている。
【0013】
水溶性の塩の形で析出すべき金属を含有し、かつさらに、1種又はそれ以上のホスホン酸誘導体を錯化剤として含有し、かつさらにはジスルフィド化合物及び炭酸塩又は炭酸水素塩から成る増白剤系を含有する、消費財及び工業製品上に装飾用青銅合金層を析出させるための非毒性の電解液の提供は、全く驚異的であるにもかかわらず前記課題を有利に達成する。本発明による電解液は、従来技術のものとは異なる組成を有するものであって、青銅層の顕著な電解的析出を得ることが可能である。特に、青銅層の良好な明度及び光沢性は、その厚さとは無関係に得ることできる。合金組成は、広い電流密度の範囲に亘っておおよそ一定に維持され、これは従来技術においては示唆されていない。
【0014】
本発明の電解液において、析出すべき金属銅及び錫又は銅、錫及び亜鉛は、そのイオンとして溶解した形で存在する。これらは好ましくは、水溶性の塩の形で、好ましくはピロリン酸塩、炭酸塩、水酸化物−炭酸塩、炭酸水素塩、硫化物、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物−水酸化物、酸化物又はその組み合わせから成る群から選択されるものを導入する。特に好ましくは、金属を、ピロリン酸イオン、炭酸イオン、水酸化物−炭酸イオン、酸化物−水酸化物イオン、水酸化物イオン及び炭酸水素イオンから成る群から選択されたイオンを含む塩の形で使用する実施態様である。電解液中に導入される塩の量により、得られる装飾用青銅層の色を決定することができ、かつ、顧客の要求に応じて調整することができる。析出すべき金属は、前記に示すとおり、消費財及び工業製品に対して装飾用青銅層を塗布するために電解液中でイオン的に溶解された形で存在する。銅のイオン濃度は、電解液に対して0.2〜10g/l、好ましくは0.3〜4g/lに調整することができ、錫のイオン濃度は、電解液に対して1.0〜30g/l、好ましくは2〜20g/lの範囲に調整することができ、かつ存在する場合には、亜鉛のイオン濃度は、電解液に対して1.0〜20g/l、好ましくは0〜3g/lに調整することができる。消費財の仕上げのために、析出すべき金属は特に好ましくは、ピロリン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物−炭酸塩として、得られるイオン濃度が、電解液1lに対して0.3〜4gの銅、2〜20gの錫及び0〜3gの亜鉛であるように導入される。
【0015】
本発明による電解液は、炭酸イオン又は炭酸水素イオンの任意の濃度を有する。これらは、好ましくは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、特に炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム又は炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムから成る群から選択された、好ましくは溶解性の塩の形で、電解液中に存在することができる。しかしながら、使用され、かつ析出すべき金属は、さらに完全にかまたは部分的に、電解液に対して炭酸塩又は炭酸水素塩の形で添加することが好ましい。浴組成物中で炭酸塩として銅のみが存在する態様が有利である。錫及び亜鉛及びさらには浴操作中において銅はその後に、リン酸塩として添加することが有利である。前記塩の添加は、炭酸イオン又は炭酸水素イオンの濃度を、電解液中で、電解液1lに対して0.5〜100g/lに調整することを可能にする。濃度は、特に好ましくは5〜40g/l及び極めて好ましくは15〜30g/lである。
【0016】
電解液の他の成分として、ジスルフィド化合物からなる成分が挙げられてもよい。これらは、有利には、置換及び非置換のビスアルキル又はビス(ヘテロ)アリール又はアルキル(ヘテロ)アリールジスルフィドから成る群から選択することができ、特に、一般式(I)
【化1】

[式中、R及びR’はそれぞれ互いに独立して、置換又は非置換の(C〜C)−アルキル、(C〜C)−シクロアルキル、(C〜C19)−アルキルアリール、(C〜C18)アリール、(C〜C19)アルアルキル、(C〜C18)ヘテロアリール、(C〜C19)アルキルヘテロアリール、(C〜C19)ヘテロアルアルキルである]のものが好ましい。R及びR’はさらに一緒になって結合して環を形成してもよい。R及びR’に関する置換基として考えられる基は、原則としてこの目的のために当業者が考えることができる置換基のすべての群である。これは特に、アミン基、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン化物基、酸基、たとえばカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基である。
【0017】
特に有利なジスルフィド化合物は、2,2’−ジチオジピリジン、4,4’−ジチオジピリジン、6,6’−ジチオジニコチン酸、ビス(4−アミノフェニル)ジスルフィド、2,2’−ジチオサリチル酸、D−システイン、L−システイン、DL−システイン、2,2’−ジチオ(ビス)ベンゾチアゾール、2,2’−ジチオビス(5−ニトロピリジン)から成る群から選択された化合物である。これに関連して特に好ましくは、ビス(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィド化合物であり、これはSPSと略記される。ジスルフィド化合物は、好ましくは電解液1lに対して0.01mg〜10.0g/lの量で使用される。特に好ましくは、電解液1lに対して0.5mg/l〜7.5g/lの濃度範囲で使用する。ジスルフィド化合物、特に前記SPSは、極めて好ましくは、電解液1lに対して0.1mg〜5g/lの濃度範囲で使用される。
【0018】
消費財及び工業製品に対する装飾用青銅層の、本発明による電解液を用いての塗布は、前記に示すとおり、電気めっき法において実施される。ここで、析出すべき金属が、当該方法において、溶液中で不変に維持されることは、電気めっきが連続法又はバッチ法で実施されるかどうかにかかわらず重要である。これを保証するために、本発明の電解液は錯化剤としてホスホン酸を含有する。
【0019】
好ましくは、ヒドロキシホスホン酸、ニトリロホスホン酸又はアミノホスホン酸、例えば1−アミノメチルホスホン酸AMP、アミノトリス(メチレンホスホン酸)ATMP、1,5−アミノエチルホスホン酸AEP、1−アミノプロピルホスホン酸APP、(1−アセチルアミノ−2,2,2−トリクロロエチル)ホスホン酸、(1−アミノ−1−ホスホノオクチル)ホスホン酸、(1−ベンゾイルアミノ−2,2,2−トリクロロエチル)ホスホン酸、(1−ベンゾイルアミノ−2,2−ジクロロビニル)ホスホン酸、(4−クロロフェニルヒドロキシメチル)ホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)DTPMP、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)EDTMP、1−ヒドロキシエタン(1,1,−ジホスホン酸)HEDP、ヒドロキシエチルアミノ−ジ(メチレンホスホン酸)HEMPA、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチルホスホン酸)HDTMP、((ヒドロキシメチルホスホノメチルアミノ)メチル)ホスホン酸、ニトリルトリス(メチレンホスホン酸)NTMP、2,2,2−トリクロロ−1−(フラン−2−カルボニル)アミノエチルホスホン酸、これらから誘導された塩及びこれから誘導された縮合物又はこれらの組合せ物から成る群から選択される。
【0020】
特に好ましくは、アミノトリス(メチレンホスホン酸)ATMP、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)DTPMP、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)EDTP、1−ヒドロキシエタン(1,1−ジホスホン酸)HEDP、ヒドロキシエチルアミノ−ジ(メチレンホスホン酸)HEMPA、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチルホスホン酸)HDTMP、これらから誘導された塩及びこれから誘導された縮合物又はこれらの組合せ物から成る群から選択された1種又はそれ以上の化合物を使用する。
好ましくは、電解液1lに対して10〜400gのホスホン酸誘導体、特に好ましくは電解液1lに対して20〜200gのホスホン酸誘導体及びさらに好ましくは電解液1lに対して50〜150gのホスホン酸誘導体を使用する。
【0021】
電解液のpHは、電気めっきのために要求される6〜14の範囲である。好ましくは8〜12の範囲であり、かつ極めて好ましくは約10である。
【0022】
析出すべき金属、錯化剤として使用されるホスホン酸誘導体及び使用される炭酸水素塩及びジスルフィド化合物から成る増白剤の他に、電解液はさらに錯化リガンドとしての作用が考えられる他の有機添加剤、増白剤、湿潤剤又は安定化剤を含有していてもよい。本発明の電解液は、さらにカチオン表面活性剤の使用を省略することができる。他の増白剤及び湿潤剤の添加は、析出すべき装飾用青銅層の外観が、特別な要求を満たすべき場合にのみ好ましい。これは、析出すべき金属の割合に厳格に依存する青銅層の色のみならず、マットシルクから高光沢へのすべての等級において層の光沢を調整することが可能にする。
【0023】
好ましくは、モノカルボン酸及びジカルボン酸及びその塩、スルホン酸及びその塩、ベタイン及び芳香族ニトロ化合物から成る群から選択された1種又はそれ以上の化合物を添加する。これらの化合物は、電解液浴安定化剤として作用する。特に好ましくはシュウ酸、アルカンスルホン酸、特に好ましくはメタンスルホン酸、又はニトロベンゾトリアゾール又はこれらの混合物を使用する。適したアルカンスルホン酸は、例えばEP1001054中で開示されている。
【0024】
スルホン酸として、一般式(II)
【化2】

[式中、Rは置換又は非置換の(C〜C)アルキル、(C〜C)シクロアルキル、(C〜C19)アルキルアリール、(C〜C18)アリール、(C〜C19)アルアルキル、(C〜C18)ヘテロアリール、(C〜C19)アルキルヘテロアリール、(C〜C19)ヘテロアルアルキルである]のスルホン酸又はこれらの塩を使用することも有利である。R及びR’に関して考えられる置換基は、原則としてこの目的のために当業者が考えることができる置換基の全ての群である。これらは、特にアミン基、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン化物基、酸基、例えばカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸から成る群から選択された置換基である。これは、相当する塩、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のカチオンを含む塩にも同様にあてはまる。
【0025】
好ましい化合物は、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸Na塩、3−(2−ベンゾチアゾリル−2−メルカプト)プロパンスルホン酸Na塩、サッカリン−N−プロピルスルホネートNa塩、3−スルホプロピルN,N−ジメチルジチオカルバメートNa塩、1−プロパンスルホン酸及び3−[(エトキシチオキソメチル)チオ]K塩から成る群から選択されたものである。
【0026】
これに関連して、極めて好ましくは、増白系に要求されるジスルフィド化合物であり、かつ、その際、スルホン酸は、この場合において、例えばビス−(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィドに関して一の化合物中で提供される。
【0027】
例えばカルボン酸としてクエン酸を使用することは可能である(Jordan, Manfred, Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993, 第156頁)。使用すべきベタインは、好ましくはW02004/005528又はJordan, Manfred (Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993, 第156頁)中で見出すことができる。特に好ましくは、これらはEP636713中に存在するものである。他の添加剤は、文献中で見出すことができる(Jordan, Manfred, Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993)。
【0028】
有利に使用することができる他の錯化リガンドはピロリン酸塩イオンである。これらは、電解液中で存在することができ、かつ有利には析出すべき金属塩のアニオンとして電解液中に導入することができる。しかしながら、ピロリン酸イオンが他の金属塩の形で、特に電解液中にアルカリ金属及びアルカリ土類金属の形で添加する実施態様も、同様に可能である。ピロリン酸塩イオンの量は、正確には、当業者により調整することができる。これは、電解液中の濃度が、前記効果を依然として十分な範囲でもたらすことができる最小限の量を上回るべきであるという事実によって制限される。他方において、使用すべきピロリン酸塩の量は、経済的観点から導かれる。これに関連して、EP1146148及びこれに存在する相当する情報を参考にすることができる。電解液中で使用すべきピロリン酸塩の量は、好ましくは1〜400g/lである。特に好ましくは、電解液1lに対して2〜200g/lの量で使用する。ピロリン酸塩は、仮に前記に示したように、析出すべき金属の塩成分として導入されない場合には、二リン酸ナトリウム又は二リン酸カリウムとしてあるいはHとしてアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基との組合せで使用することができる。好ましくは、この目的のためにKを使用する。
【0029】
本発明の電解液は、毒性(T)又は極めて毒性(T)として分類される危険物質を含まない。シアニド、チオ尿素誘導体又は同等の毒性物質は存在しない。本発明の非毒性の電解液は、消費財及び工業製品に対する装飾用青銅層の電気化学的塗布のために特に適している。バレル、ラック、ベルト又はリールトウリール(reel to reel)型の電気めっきプラント中で使用することができる。
【0030】
装飾用青銅合金層の電気化学的塗布のための相当する方法において、被覆すべき消費財及び工業製品は(以下、まとめて支持体と呼称する)は、本発明の非毒性の電解液中に浸漬され、かつ陰極を形成する。電解液は、好ましくは20〜70℃の範囲で維持される。0.01〜100A/dmの範囲で、かつめっきプラントの型に依存して、電流密度を調整することが可能である。バレルめっきプラントにおいて、0.05〜0.75A/dmの範囲の電流密度は好ましく、より好ましくは0.1〜0.5A/dm及び特に好ましくは約0.3A/dmの電流密度である。ラックめっき法において、0.2〜10.0A/dmの範囲の電流密度が好ましくは選択され、特に好ましくは0.2〜5.0A/dm及び極めて特に好ましくは0.25〜1.0A/dmである。
【0031】
本発明の非毒性の電解液を使用する場合には、種々の陽極を使用することができる。溶解性又は不溶性の陽極が適しており、同様に溶解性及び不溶性の陽極の組合せも適している。
【0032】
溶解性の陽極として、電解銅、含リン銅、錫、錫−銅合金、亜鉛−銅合金及び亜鉛−錫合金から成る群から選択された材料から成る陽極を使用することが好ましい。特に好ましくは、これら材料から成る種々の溶解性陽極の組合せ物であり、かつさらには溶解性の錫陽極と不溶性の陽極との組み合わせである。
【0033】
不溶性の陽極として、白金チタン、グラファイト、インジウム−遷移金属混合酸化物及び特殊炭素材料(「ダイヤモンド様カーボン」DLC)又はこれら陽極の組合せから成る群から選択された材料から成る陽極を使用することが好ましい。特に好ましくは、インジウム−ルテニウム混合酸化物、インジウム−ルテニウム−チタン混合酸化物又はインジウム−チタン混合酸化物から成る混合酸化物陽極である。
【0034】
不溶性陽極を使用することは、支持体が陰極を示す装飾用青銅と一緒に提供される場合には方法の特に好ましい実施態様であり、イオン交換膜によって不溶性の陽極とは分離させ、それにより、陰極領域と陽極領域を形成する。このような場合において、陰極領域のみが本発明の非毒性の電解液で満たされる。導電性の塩のみを含有する水性溶液は、好ましくは陽極領域中に存在する。このような配置は、めっきプロセスにおいて悪影響を及ぼす、錫(II)イオンSn2+〜錫(IV)イオンSn4+への陽極酸化を防止する。
【0035】
不溶性陽極及び本発明の非毒性の電解液を用いて操作されるメンブレン法において、0.05〜2A/dmの範囲の電流密度が、好ましくは調整される。電解液は、好ましくは20〜70℃の範囲で維持される。イオン交換膜として、カチオン又はアニオン交換膜を使用することも可能である。好ましくは、50〜200/μmの厚さを有するナフィオン(Nafion)から成る膜を使用する。
【0036】
添加剤不含のリン酸塩−ベースの銅−錫電解液の欠点は、狭い電流密度へ制限され、かつ、析出される層の光沢の欠如及び低い明度である。新規増白剤系は、リン酸塩ベースの電解液系におけるこれらの欠点を回避する。本発明の電解液のみを使用する場合には、明るくかつ光沢のある層の析出は、広い電流密度の範囲に亘って可能である。公知のシアニド不含の代替的方法(ピロリン酸塩、ホスホン酸塩、アルキルスルホン酸塩)のいずれもが、シアニド含有浴の性質を達成することはなかった(特に、光沢及び明度はわずかに過ぎない)。本発明による増白剤の組合せの使用は、従来のシアニド含有電解液に匹敵する光沢及び明度を達成することを可能にし、かつこれによってすべての公知のシアニド不含の代替的方法よりも顕著に良好である。
【0037】
さらに、浴の管理は、本発明の電解液の場合にはより簡単である。新規増白系は、高い銅含量で電解液を使用することを可能にする。使用された化合物の組合せ、特に炭酸イオン及びジスルフィド化合物を含有する増白剤の組合せは、ここでは重要である。炭酸イオンの存在下において、有機ジスルフィド化合物は極めて少量であっても、銅−錫合金形成に影響を及ぼす。添加剤不含の浴とは対照的に、大きく一定の合金組成が、増白剤系の添加により、より広い電流密度の範囲に亘って得られる(図1−増白剤を含むか又は含まないホスホン酸をベースとする銅−錫電解液の組成)。添加剤不含の浴の場合には、錫は好ましくは高い電流密度で析出し、これは、層の光沢の欠如を招く。
【0038】
本発明の目的のために、(C〜C)−アルキルは1〜8個の炭素原子を有するアルキル基である。これは、好ましい場合には分岐していてもよいか、あるいは、(C〜C)−シクロアルキルの場合には環式であってもよい。これは特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等である。
【0039】
(C〜C18)アリールは、全体で6〜18個の炭素原子から芳香族系である。これは、特にフェニル、ナフチル、アントラセニル等から成る群から選択される。
【0040】
(C〜C19)−アルキルアリールは、(C〜C)アルキル基を(C〜C18)アリール基上に有する基である。
【0041】
(C〜C19)−アルアルキル基は、(C〜C18)−アリール基を(C〜C)アルキル基上に有する基であり、このアルキル基を介して当該基は、関連する分子と結合されている。
【0042】
本発明によれば、(C〜C18)−ヘテロアリール基は、少なくとも3個の炭素原子を有する芳香族系である。さらに、他のヘテロ原子が芳香族系中に存在する。これらは好ましくは窒素及び/又は硫黄である。このようなヘテロ芳香族は、例えばBayer-Walter, Lehrbuch der Organischen 10 Chemie, S. Hirzel Verlag, 第22版,、第703頁以降に記載されている。
【0043】
本発明の目的のために、(C〜C19)アルキルヘテロアリールは、(C〜C)アルキル置換基が付加された(C〜C18)ヘテロアリール基である。関連する分子に対する結合は、ここではヘテロ芳香族を介する。
【0044】
逆にいえば、(C〜C19)ヘテロアルアルキルは、(C〜C)−アルキル置換基を介して関連する分子と結合する(C〜C18)ヘテロアリールである。
【0045】
本発明の目的のために、ハロゲン化物は塩化物、臭化物及びフッ化物を含む。
【0046】
以下の実施例及び比較例は、本発明を例証する。
【0047】
アルキル(ヘテロ)アリールは、アルキルアリール及びアルキルヘテロアリールである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による電解液と従来技術による電解液との明度値の比較を示すグラフ図
【0049】
例:
増白剤系を含むホスホネート電解液と、増白剤系を含まないホスホネート電解液の明度値の比較(Cie-Lab法によるLの単位[http://www.cielab.de])
【表1】

【0050】
暗色の縞の形成は顕著に抑制された。さらに、層の品質は、厚い析出層の場合であっても維持された。
【0051】
不溶性の白金−チタン陽極を、記載されたすべての試験において使用した。
【0052】
例1;一般的方法
白色青銅層のバレル析出は、100g/lのエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)EDTMP、1.5g/lの水酸化物炭酸銅としての銅、5g/lのピロリン酸錫としての錫、2g/lのピロリン酸亜鉛としての亜鉛、10m/lのメタンスルホン酸(70%)、20g/lの炭酸水素カリウム及び10mg/lのビス(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィドを含有する、本発明による非毒性電解液を用いて実施した。
【0053】
全析出工程中で、電解液を50℃に維持した。0.05〜0.5A/dmの設定した電流密度において、白色青銅の典型的な色を有する、視覚的に均一な高い光沢を有する青銅層が、ドラムめっき装置中で得られた。
【0054】
例2:
80g/lのHEDP
50ml/lのメタンスルホン酸(70%)
10g/lの炭酸カリウム
30mg/lの2,2’−ジチオジピリジン
1.47g/lのピロリン酸銅
10.2g/lのピロリン酸錫
2.5g/lのピロリン酸亜鉛
パラメータ:pH8.0/40℃/電流密度:0.05〜0.5A/dm
【0055】
例3:
200g/lのHEMPA
5ml/lのプロパンスルホン酸
2g/lの炭酸水素カリウム
25mg/lの2,2’−ジチオジピリジン
1.47g/lのピロリン酸銅
10.2g/lのピロリン酸錫
1.5g/lのピロリン酸亜鉛
10g/lのクエン酸
パラメータ:pH11.0/25℃/電流密度:0.05〜0.5A/dm
【0056】
例4
50g/lのATMP
10g/lのピロリン酸カリウム
20g/lのクエン酸
4.2g/lの水酸化物炭酸銅
8.66g/lのピロリン酸錫
4.5g/lのピロリン酸亜鉛
10g/lの炭酸水素カリウム
0.5g/lの6,6’−ジチオジニコチン酸
パラメータ:pH9.0/60℃/電流密度:0.05〜0.5A/dm
【0057】
例5:黄色青銅:
150g/lのEDTMP
10ml/lのメタンスルホン酸(70%)
20g/lの炭酸カリウム
9g/lの水酸化物炭酸銅
8.66g/lのピロリン酸錫
5.5g/lのピロリン酸亜鉛
15mg/lのビス(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィド
パラメータ:pH10/60℃/電流密度:0.05〜0.5A/dm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出すべき金属を水溶性の塩の形で含有する、消費財及び工業製品上の装飾用青銅合金層の析出のための非毒性電解液において、電解液が、錯化剤としての1種又はそれ以上のホスホン酸誘導体及びジスルフィド化合物と炭酸塩又は炭酸水素塩とから成る増白剤を含有する、前記非毒性電解液。
【請求項2】
析出すべき銅及び錫又は銅、錫及び亜鉛の金属イオンを含有する、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
析出すべき金属の水溶性の塩が、ピロリン酸塩、炭酸塩、水酸化物−炭酸塩、炭酸水素塩、硫化物、硫酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物−水酸化物、酸化物及びこれらの組合せから成る群から選択される、請求項2に記載の電解液。
【請求項4】
析出すべき金属が溶解された形で存在し、その際、銅のイオン濃度は電解液1l当たり0.2〜10gであり、錫のイオン濃度は電解液1l当たり1.0〜30gであり、かつ存在する場合には亜鉛のイオン濃度は電解液1l当たり1.0〜20gである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電解液。
【請求項5】
炭酸塩又は炭酸水素塩として、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から成る群から選択されたこの型の塩を含有する、請求項1に記載の電解液。
【請求項6】
炭酸イオン又は炭酸水素イオンが、電解液1l当たり0.5〜100g/lの量で存在する、請求項5に記載の電解液。
【請求項7】
ジスルフィド化合物として、置換及び非置換のビスアルキル又はビス(へテロ)アリール又はアルキル(ヘテロ)アリールジスルフィドから成る群から選択されたこの型の化合物を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項8】
ジスルフィド化合物が、電解液中で0.01mg/l〜10.0g/lの量で存在する、請求項7に記載の電解液。
【請求項9】
ホスホン酸誘導体として、1−アミノメチルホスホン酸AMP、アミノトリス(メチレンホスホン酸)ATMP、1−アミノエチルホスホン酸AEP、1−アミノプロピルホスホン酸APP、(1−アセチルアミノ−2,2,2−トリクロロエチル)ホスホン酸、(1−アミノ−1−ホスホノオクチル)ホスホン酸、(1−ベンゾイルアミノ−2,2,2−トリクロロエチル)ホスホン酸、(1−ベンゾイルアミノ−2,2−ジクロロビニル)ホスホン酸、(4−クロロフェニルヒドロキシメチル)ホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)DTPMP、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)EDTMP、1−ヒドロキシエタン(1,1−ジ−ホスホン酸)HEDP、ヒドロキシエチルアミノジ(メチレンホスホン酸)HEMPA、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチルホスホン酸)HDTMP、((ヒドロキシメチルホスホノメチルアミノ)メチル)ホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)NTMP、2,2,2−トリクロロ−1−(フラン−2−カルボニル)アミノ−エチルホスホン酸、これらから誘導された塩及びこれらから誘導された縮合物又はこれらの組合せから成る群から選択された1種又はそれ以上の化合物を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項10】
電解液のpHが6〜14の範囲である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の電解液。
【請求項11】
ピロリン酸イオンが電解液中に存在する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の電解液。
【請求項12】
モノカルボン酸及びジカルボン酸、アルカンスルホン酸、ベタイン及び芳香族ニトロ化合物から成る群から選択された、1種又はそれ以上の安定化化合物が存在する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の電解液。
【請求項13】
消費財及び工業製品への装飾用青銅合金層の電気化学的塗布方法において、被覆すべき支持体を、析出すべき金属を水溶性の塩の形で含有する電解液中に浸漬し、その際、請求項1から12までのいずれか1項に記載の非毒性電解液を使用する、前記方法。
【請求項14】
電解液が、金属の析出中において20〜70℃の範囲で維持される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
電流密度を、0.01〜100A/dmの範囲に調整する、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−527381(P2011−527381A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517017(P2011−517017)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004879
【国際公開番号】WO2010/003621
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(507237679)ユミコア ガルヴァノテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】Umicore Galvanotechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Klarenbergstrasse 53−79, 73525 Schwaebisch Gmuend, Germany
【Fターム(参考)】