説明

改質天然ゴムラテックスの製造方法及び改質天然ゴムラテックス

【課題】ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを得るための製造方法を提供する。
【解決手段】重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに改質化合物を修飾させてラテックス状の改質天然ゴムを得る改質天然ゴムラテックスの製造方法であって、前記天然ゴム100質量部に対して、前記改質化合物を5〜25質量部、前記重合開始剤を0.44質量部以上用いるとともに、前記天然ゴムと前記改質化合物の合計質量に対する前記重合開始剤の質量を0.0038倍以上、改質化合物の質量に対する前記有機過酸化物の質量を0.01倍以上、前記アミン系還元剤の質量に対する前記有機過酸化物の質量を3.5倍以下として、前記改質化合物を修飾させる改質天然ゴムラテックスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムに改質化合物を修飾させてラテックス状の改質天然ゴムを得る改質天然ゴムラテックスの製造方法及びそのような製造方法により得られる改質天然ゴムラテックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックスは、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)に優れているため、例えば、アルバム用・布用のコンタクト接着、カーペットバッキング材、或いは粘着テープ等をはじめとする繊維類ないし紙葉類用の接着剤として広範に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、天然ゴムラテックスは、合成ゴムラテックスと比較すると、機械的安定性が著しく低いという問題があった。具体的には、製造時ないし使用時のポンプ輸送、或いは基材への塗布ないしスプレー等の操作によって、ラテックス中に凝集物が発生し、使用不能となる場合があった。
【0004】
このような天然ゴムラテックスの機械的安定性を改善することを目的として、例えば、(1)天然ゴムラテックス中に、界面活性剤や水溶性ポリマー等の添加剤を配合する方法が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。また、(2)天然ゴムラテックス中の天然ゴムに改質化合物をグラフト重合させて天然ゴムを改質する方法も既に提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−81105号公報
【特許文献2】特開平6−322003号公報
【特許文献3】特開2002−20711号公報
【特許文献4】特開2005−97487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法は、天然ゴムラテックスの機械的安定性を十分な程度まで改善するためには、界面活性剤等の添加剤を多量に添加する必要があり、その多量の添加剤によって、天然ゴムラテックス本来の特性であるゴム弾性や自着力が低下するおそれがあるという課題があった。
【0007】
一方、上記(2)の方法では、天然ゴムラテックスの機械的安定性を十分な程度まで改善するためには、多量の改質化合物を使用する必要があり、改質化合物の使用量の増加に伴って、天然ゴムラテックス本来の特性であるゴム弾性や自着力(感圧接着力)が低下するおそれがあるという課題があった。特に近年では、例えば、シーリング材や弾性接着剤等のように、天然ゴムが本来的に有するゴム弾性や自着力(感圧接着力)をより高いレベルで必要とする用途が増加しており、このような課題が顕在化する可能性がある。
【0008】
以上説明したように、現在のところ、天然ゴムラテックス本来の特性であるゴム弾性や自着力(感圧接着力)を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスは未だ開示されていない。従って、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを創出することが切望されている。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを得るための製造方法及びゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性に優れ、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、天然ゴムに改質化合物を修飾させる際に、重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに対する改質化合物や重合開始剤の質量比、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の使用量、改質化合物に対する有機過酸化物の使用量及びアミン系還元剤に対する有機過酸化物の使用量を所定の範囲内に制御することによって、上記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下の改質天然ゴムラテックスの製造方法及び改質天然ゴムラテックスが提供される。
【0011】
[1] 重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに改質化合物を修飾させてラテックス状の改質天然ゴムを得る改質天然ゴムラテックスの製造方法であって、前記天然ゴム100質量部に対して、前記改質化合物を2〜25質量部、前記重合開始剤を0.44質量部以上用いるとともに、前記天然ゴムと前記改質化合物の合計質量に対する前記重合開始剤の質量を0.0038倍以上、改質化合物の質量に対する前記有機過酸化物の質量を0.01倍以上、前記アミン系還元剤の質量に対する前記有機過酸化物の質量を3.5倍以下として、前記改質化合物を修飾させる改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【0012】
[2] 前記修飾を静置重合により行う前記[1]に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【0013】
[3] 前記静置重合を30〜55℃の範囲内で行う前記[2]に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【0014】
[4] 前記天然ゴムラテックスに対して前記改質化合物を添加し、機械撹拌を行った後に、前記静置重合を行う前記[2]又は[3]に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【0015】
[5] 前記静置重合が、全重合時間のうち20%以下の時間だけ機械攪拌を行うものである前記[2]〜[4]のいずれか一項に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【0016】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により得られる改質天然ゴムラテックス。
【発明の効果】
【0017】
本発明の改質天然ゴムラテックスの製造方法は、天然ゴムに改質化合物を修飾させる際に、重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに対する改質化合物や重合開始剤の質量比、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の使用量及びアミン系還元剤に対する有機過酸化物の使用量を所定の範囲内に制御するので、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを得ることができる。また、本発明の改質天然ゴムラテックスは、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性に優れ、十分に満足できる機械的安定性を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の改質天然ゴムラテックスの製造方法及び改質天然ゴムラテックスを実施するための最良の形態について具体的に説明する。但し、本発明は、その発明特定事項を備える全ての実施形態を包含するものであり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書中において「(メタ)アクリル」と記すときは、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれもが含まれることを意味するものとする。
【0019】
[1]改質天然ゴムラテックスの製造方法:
本発明の製造方法は、重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに改質化合物を修飾させて改質天然ゴムラテックスを得るものであり、より具体的には、天然ゴムに対する改質化合物や重合開始剤の質量比、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の使用量及びアミン系還元剤に対する有機過酸化物の使用量を所定の範囲内に制御した上で、天然ゴムに改質化合物を修飾させるものである。
【0020】
[1−1]原料:
本発明の製造方法は、天然ゴムに改質化合物を修飾させてラテックス状の改質天然ゴムを得るものである。通常は、天然ゴムラテックスを原料とし、この天然ゴムラテックス中の天然ゴムに改質化合物を修飾させることによって改質を行い、ラテックス状の改質天然ゴムを得る。
【0021】
[1−1A]天然ゴムラテックス:
「天然ゴム」とは天然に産するゴムを意味し、通常は、水等の媒体中に天然ゴム粒子が分散されたエマルジョンである「天然ゴムラテックス」として得られる。本発明の改質天然ゴムラテックスを得る際にも、この「天然ゴムラテックス」を原料として用いることができる。本発明においては、通常「天然ゴムラテックス」と称されるものであれば、特に制限なく用いることができる。具体的には、高アンモニアタイプ、低アンモニアタイプ又は脱タンパク質タイプ等の天然ゴムラテックスを好適に用いることができる。
【0022】
天然ゴムラテックス中の天然ゴム粒子の平均粒径は、通常、0.03〜5μmであり、0.05〜4μmであることが好ましく、0.1〜3μmであることが更に好ましい。平均粒径を0.03〜5μmの範囲内とすることにより、原料の入手が容易となることに加え、改質後のラテックス系の不安定化(凝集物発生や沈降分離等)又は塗工時の外観不良等の不具合を有効に防止することができる。これに対し、平均粒径が0.03μm未満の天然ゴムラテックスは入手が困難であり工業的な生産には不向きである。一方、平均粒径が5μmを超えると、改質後の天然ゴム粒子が凝集・粗大化するおそれがあり、系の不安定化や塗工時の外観不良等の不具合が発生する場合がある。
【0023】
なお、本明細書において、天然ゴム粒子ないし改質天然ゴム粒子について「平均粒径」というときは、動的光散乱法により測定された平均粒径を意味するものとする。より具体的には、同一の測定サンプルについて動的光散乱法により3回以上粒径の測定を行い、それらの平均値を天然ゴム粒子ないし改質天然ゴム粒子の「平均粒径」とした。
【0024】
[1−1B]改質化合物:
「改質化合物」は、天然ゴム分子に修飾させ、天然ゴムの改質を行うための化合物を意味し、その化合物は、モノマーであってもよいし(以下、「改質モノマー」と記す場合がある。)、オリゴマーやポリマーであってもよい。
【0025】
改質モノマーとしてはビニル系モノマーが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、シアン化ビニル系モノマー、エチレン性不飽和酸モノマー、エチレン性不飽和アルコール及びそのエステル、エチレン性不飽和シラン等を挙げることができる。
【0026】
「(メタ)アクリル酸エステル系モノマー」としては、アクリル酸ないしメタクリル酸と、脂肪族アルコール、脂環族アルコールないし芳香族アルコールとのエステル等を挙げることができる。この際、脂肪族アルコールのアルキル基は直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0027】
具体的な化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル類;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル類;等を挙げることができる。
【0028】
また、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、エステル部分に特定の官能基を有するもの、例えば、エステル部分の水素原子の一部ないし全部が他の原子や置換基によって置換された置換誘導体であってもよい。例えば、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類((メタ)アクリル酸グリシジル等)、水酸基を含有するヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等)を用いることもできる。
【0029】
以上説明した「(メタ)アクリル酸エステル系モノマー」の中では、メタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)が特に好ましい。メタクリル酸メチルは重合反応性が良好であり、未反応のモノマーが残存し難いため、本発明の製造方法に好適に用いることができる。また、アクリル酸2−エチルヘキシルは、本発明で規定する重合開始剤の範囲内において、メタクリル酸メチルと併用するとラテックスの機械的安定性を更に向上させることが可能であるという利点がある。
【0030】
「芳香族ビニル系モノマー」としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−アミノスチレン、p−アセトキシスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。これらのモノマーの中では、使用量を多くしても、皮膜の柔軟性を損なわず、成膜性を阻害し難いという理由からスチレンが特に好ましい。
【0031】
「シアン化ビニル系モノマー」としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α−メトキシアクリロニトリル等を挙げることができる。これらのモノマーの中では、メタクリル酸メチルと併用する際に、皮膜物性に悪影響を与える未反応のモノマーが残存し難いという理由からアクリロニトリルが特に好ましい。
【0032】
「エチレン性不飽和酸モノマー」としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸等のエチレン性不飽和スルホン酸等を挙げることができる。
【0033】
「エチレン性不飽和アルコール及びそのエステル」としては、例えば、アリルアルコール、メタアリルアルコール、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸アリル、カプロン酸メタアリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリル等を挙げることができる。
【0034】
「エチレン性不飽和シラン」としては、例えば、ビニルトリエチルシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルアリルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン等を挙げることができる。
【0035】
上記モノマーの他、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋モノマー;(メタ)アクリルアミド等の官能基モノマー等を用いてもよい。
【0036】
上記の改質化合物の中では、メタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)が特に好ましい。改質においては、これらのモノマー1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
改質化合物の量としては、天然ゴム100質量部(固形分換算)に対して5〜25質量部とすることが好ましく、5〜20質量部とすることが更に好ましい。改質化合物の量を5〜25質量部とすることにより、天然ゴムラテックス本来の特性であるゴム弾性や自着力(感圧接着力)を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを得ることが可能となる。
【0038】
一方、改質化合物の量が5質量部未満であると、改質効果が不十分となり、十分に満足できる機械的安定性を備えたラテックスを得られなくなるおそれがある。また、改質化合物の量が25質量部を超えると、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性が低下する場合がある。
【0039】
[1−2]改質:
【0040】
「改質」の形態としては、(1)天然ゴム粒子の表面の少なくとも一部が改質化合物の重合体の粒子ないし被覆層によって被覆された形態、(2)天然ゴム粒子の内部に改質化合物の重合体を浸透させた形態、(3)天然ゴム粒子の表面の少なくとも一部が改質化合物の重合体の粒子ないし被覆層によって被覆されるとともに天然ゴム粒子の内部にも存在する形態、のいずれかの形態を採っていることが好ましい。これらの形態の中では、上記(3)の形態が特に好ましい。上記(3)の形態は、天然ゴムと改質化合物とを予め混合した後、その天然ゴム分子に対して改質化合物を修飾させることによって得ることができる。
【0041】
一方、天然ゴム100質量部に対する改質化合物の使用量が5質量部未満であると、得られる改質天然ゴムラテックスの機械的安定性が不十分となるおそれがある。また、天然ゴム100質量部に対する改質化合物の使用量が25質量部を超えると、ゴム弾性や自着性(感圧接着性)といった天然ゴムラテックス本来の特性が低下する場合がある。
【0042】
また、本発明の製造方法においては、天然ゴム100質量部に対して、重合開始剤を0.44質量部以上用いる。ここにいう「重合開始剤の量」とは、有機過酸化物とアミン系還元剤の合計量を意味する。天然ゴム100質量部に対する重合開始剤の量を0.44質量部以上とすることにより、機械的安定性に優れた改質天然ゴムラテックスを得ることができる。この効果をより確実に得るためには、天然ゴム100質量部に対して重合開始剤を0.45〜3.0質量部用いることが好ましく、0.46〜2.5質量部用いることが更に好ましい。一方、天然ゴム100質量部に対する重合開始剤の使用量を0.44質量部未満とした場合、得られる改質天然ゴムラテックスの機械的安定性が不十分となるおそれがある。
【0043】
更に、本発明の製造方法では、改質化合物の質量に対する有機過酸化物の量も制御する。具体的には、改質化合物の質量に対する有機過酸化物の質量を0.01倍以上とする。改質化合物の質量に対する有機過酸化物の質量を0.01倍以上とすることにより、機械的安定性に優れた改質天然ゴムラテックスを得ることができる。この効果をより確実に得るためには、改質化合物の質量に対する有機過酸化物の質量を0.01〜0.06倍とすることが好ましく、0.012〜0.04倍とすることが更に好ましい。一方、改質化合物の質量に対する重合開始剤の質量を0.01倍未満とした場合、得られる改質天然ゴムラテックスの機械的安定性が不十分となるおそれがある。
【0044】
更にまた、本発明の製造方法では、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の量も制御する。具体的には、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の質量を0.0038倍以上とする。天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の質量を0.0038倍以上とすることにより、機械的安定性に優れた改質天然ゴムラテックスを得ることができる。この効果をより確実に得るためには、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の質量を0.0038〜0.0185倍とすることが好ましく、0.0038〜0.008倍とすることが更に好ましい。一方、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の質量を0.0038倍未満とした場合、得られる改質天然ゴムラテックスの機械的安定性が不十分となるおそれがある。
【0045】
そして、本発明の製造方法においては、重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用いる。即ち、重合方法として、いわゆる酸化還元重合(レドックス重合)を採用する。重合開始剤として、有機過酸化物のみを用いた場合、低温でのラジカル生成速度が小さいが、適当な還元剤、例えばアミン系還元剤を共存させると、酸化還元系が形成され、低温でも多量のラジカルが発生するため、低温条件下でもラジカル重合が進行するという利点がある。
【0046】
本発明の製造方法において用いることができる「有機過酸化物」としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2―アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。
【0047】
「有機過酸化物」の量としては、天然ゴム100質量部に対して、0.045〜1.5質量部とすることが好ましく、0.05〜1.2質量部とすることが更に好ましく、0.06〜0.8質量部とすることが特に好ましい。「有機過酸化物」の量を0.045〜1.5質量部の範囲内とすることによって、機械的安定性の他、耐熱劣化性、耐熱流動性、自着力(感圧接着力)に優れた改質天然ゴムラテックスを得ることができ、重合反応の制御も容易となる。
【0048】
一方、「有機過酸化物」の量を0.03質量部未満とすると、重合反応が進行し難くなるおそれがあることに加え、機械的安定性等の改善効果が認められない場合がある。また、「有機過酸化物」の量が1.5質量部を超えると、改質に伴う自着力(感圧接着力)の低下が大きくなり、自着力が不十分となる場合があることに加え、重合反応の制御が困難となるおそれがある。なお、有機過酸化物の中には、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のように水溶液の状態で市販されているものもあるが、ここにいう「有機過酸化物の量」とは、そのような水溶液全体の量ではなく、有機過酸化物自体の実量を意味するものとする。
【0049】
酸化還元重合においては、2価の鉄塩、1価の銅塩、アミン系還元剤等の還元剤が用いられるが、本発明の製造方法においては、還元剤としてアミン系還元剤を用いる。還元剤として酸化鉄(II)等の2価の鉄塩を用いると得られるラテックスや組成物が桃色に着色するといった不具合が生ずる場合があるが、アミン系還元剤はそのような不具合を生じ難いという利点があり、本発明の製造方法において好適に用いることができる。本発明の製造方法において用いることができる「アミン系還元剤」としては、例えば、(ポリ)アルキレンアミン類を挙げることができ、中でも、(ポリ)エチレンポリアミン類を用いることが好ましい。より具体的には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等を挙げることができる。
【0050】
「アミン系還元剤」の量としては、天然ゴム100質量部に対して、0.05〜0.75質量部とすることが好ましく、0.09〜0.65質量部とすることが更に好ましく、0.15〜0.60質量部とすることが特に好ましい。「アミン系還元剤」の量を0.05〜0.75質量部の範囲内とすることによって、機械的安定性の他、耐熱劣化性、耐熱流動性、自着力(感圧接着力)に優れた改質天然ゴムラテックスを得ることができ、重合反応の制御もし易くなる。
【0051】
一方、「アミン系還元剤」の量を0.03質量部未満とすると、重合反応が進行し難くなるおそれがあることに加え、機械的安定性等の改善効果が認められない場合がある。また、「アミン系還元剤」の量を0.75質量部超とすると、改質に伴う自着力(感圧接着力)の低下が大きくなり、自着力が不十分となる場合があることに加え、重合反応の制御が困難となるおそれがある。
【0052】
有機過酸化物及びアミン系還元剤の量を上記の範囲とすることにより、重合反応の効率を向上させることができ、未反応の改質化合物(改質モノマー等)を低減することが可能となる。また、天然ゴムラテックスの種類に拘らず、良好な改質効果が得られる。特に、天然ゴムに(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを修飾させる際の反応効率を向上させることができるため、耐熱劣化性、耐熱流動性を向上させることが可能となる。更に、グラフト部分の分子量を小さくすることができるとともに、改質化合物のオリゴマー(天然ゴム分子にグラフトされていない遊離のオリゴマー)が形成されるため、自着力(感圧接着力)を高いレベルで保持することができる。なお、改質化合物のオリゴマーはラテックスの機械的安定性の向上にも寄与する。
【0053】
以上説明したように、本発明の製造方法では、重合開始剤として有機過酸化物とアミン系還元剤を併用するが、この重合開始剤においてはアミン系還元剤の質量に対する有機過酸化物の質量を3.5倍以下とする。アミン系還元剤の質量に対する有機過酸化物の質量を3.5倍以下とすることにより、ラテックス中への過酸化物の残留量を減少させることができ、残留した過酸化物に起因する不具合、例えば、天然ゴム分子の低分子量化、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)の低下、被着体汚染物質の生成等を有効に防止することができる。この効果をより確実に得るためには、アミン系還元剤の質量に対する有機過酸化物の質量を0.5〜3.5倍とすることが好ましく、0.6〜3.3倍とすることが更に好ましい。一方、3.5倍を超えた場合、ラテックス中に過酸化物が過剰に残留することになり、解重合反応による天然ゴム分子の低分子量化や、過酸化物架橋の発生による経時的なゴム弾性又は自着力(感圧接着力)の低下や被着体汚染物質の生成が起こるおそれがある。
【0054】
本発明の製造方法においては、天然ゴムに対する改質化合物や重合開始剤の質量比、天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の使用量及びアミン系還元剤に対する有機過酸化物の使用量を所定の範囲内に制御すること以外の条件については特に制限はない。例えば、重合方法等については従来公知の重合法の中から、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0055】
但し、本発明の製造方法においては、修飾(改質)を静置重合により行うことが好ましい。「静置重合」とは、撹拌を全く行わない状態で、或いは撹拌を殆ど行わない状態で重合を行うことを意味し、具体的には、全重合時間のうち20%以下の時間だけ撹拌を行う重合を意味するものとする。また、ここに言う「全重合時間」とは、重合反応開始時から重合転化率が90%に達するまでの時間を意味するものとする。
【0056】
修飾(改質)を静置重合により行うと、機械的に強制撹拌しながら重合を行った場合等と比較して、撹拌のせん断力によるラテックス粒子の破壊が抑制されるため、凝集物の非常に少ないラテックスを得ることができる。具体的には、重合工程終了後の凝集物の量が、80メッシュサイズにおいて、0.05phl以下とすることができ、0.02phl以下のものを製造することも可能である。
【0057】
また、静置重合は撹拌下で重合を行った場合と比較して、重合時の熱分布の幅が大きいため、得られるポリマーの分子量分布がブロードになるという特徴がある。これにより、改質天然ゴムの耐熱流動性を向上させることができる。また、天然ゴムへのグラフト性が良好となり、改質に伴う耐熱流動性や自着力(感圧接着力)の低下を抑制するという効果をも有する。
【0058】
本発明の製造方法においては、天然ゴムラテックスに対して改質化合物を添加し、機械撹拌を行った後に静置重合を行うことが好ましい。即ち、重合開始前、天然ゴムラテックスに改質化合物を添加する際に、或いは添加した後に機械的攪拌を行うことが好ましい。こうすることにより、改質化合物を天然ゴムラテックスと十分に混合され、凝集物の発生が低減され、ラテックスの機械的安定性を向上させることが可能となる。また、有機過酸化物やアミン系還元剤を添加する際にも機械的撹拌を行うことが好ましい。
【0059】
また、本発明の製造方法においては、重合反応開始時から重合転化率が90%に達するまでの間においては、できる限り撹拌を行わないことが好ましいが、全重合時間のうち20%以下の時間であれば撹拌を行ってもよい。静置重合においては、重合の進行に伴って温度勾配が生じ、部分的に反応効率の悪い場所ができるため、これを解消するために必要最小限の撹拌を行うことは好ましい操作である。この撹拌時間は、全重合時間の20%以下の時間であることが必要であり、10%以下の時間であることが好ましい。撹拌時間を全重合時間の20%以下の時間とすることにより、静置重合の効果(凝集物低減)を減殺することなく、温度勾配を解消し反応効率を向上させることができる。この際、撹拌の間隔としては、15〜75分おきに撹拌を行うことが好ましい。
【0060】
本発明の製造方法においては、静置重合を25〜55℃の範囲内で行うことが好ましい。この温度で重合を行うことにより、改質天然ゴムラテックスの耐熱流動性や粘着性を低下させることなく、重合反応を確実に進行させることが可能となる。この効果をより確実に得るためには、静置重合を28〜50℃の範囲内で行うことが更に好ましく、30〜45℃で行うことが特に好ましい。一方、重合温度が25℃未満であると、重合反応が完全には進行しないおそれがある。また、重合温度が55℃を超えると、天然ゴムの劣化が起こり、得られる改質天然ゴムの耐熱流動性、粘着性が低下するおそれがある。なお、静置重合では温度勾配が生ずるため、ここに言う「重合温度」とは、重合反応液の液面の温度を意味するものとする。
【0061】
静置重合の時間は、10分〜6時間とすることが好ましい。重合時間をこの範囲内とすることにより、凝集物の発生を抑制しつつ、得られる改質天然ゴムラテックスの性能、中でも耐熱流動性を向上させることができ、改質に伴う自着力(感圧接着力)の低下も抑制することができる。一方、重合時間が、10分未満であると、凝集物の発生を抑制できない場合があり、また、得られる改質天然ゴムラテックスの性能、中でも耐熱流動性と感圧接着力が低下するおそれがある。また、重合は6時間も行えば十分に完結できることに加え、6時間を超えると重合が過剰に進行して液面にポリマーの膜ができ、凝集物が発生する原因となるおそれがある。
【0062】
本発明の製造方法は、例えば、以下のような方法により行うことができる。反応器に、天然ゴムラテックス、界面活性剤、有機過酸化物、必要により水を加え、撹拌する。その後、改質化合物を加えて撹拌し、改質化合物と天然ゴムラテックスとを十分に混合する。通常は、10分〜4時間撹拌すれば十分に混合することができる。この混合は、有機過酸化物の分解が進行しないような温度で行う。なお、原料の仕込み順は上記の方法に限られず、改質化合物に対して界面活性剤等を予め混合したものを天然ゴムラテックスに添加してもよい。
【0063】
上記原料物質を十分に混合した後、撹拌下においてアミン系還元剤を添加し、十分に混合する。通常、1〜2分間撹拌すれば十分に混合することができる。原料物質とアミン系還元剤を十分に混合した後、撹拌を停止して静置し静置重合を行う。静置重合の終了後、所望によりエージングを行ってもよい。エージングにより、改質天然ゴムラテックス中の未反応の改質化合物を減少させることができる。エージングの条件は特に限定されるものではないが、35〜45℃で30分〜5時間行うことが一般的である。このようにして得られた反応液を冷却し、濾過を行うことにより、本発明の改質天然ゴムラテックスを得ることができる。
【0064】
なお、界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類;ラウリル酸アンモニウム等の脂肪族系;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルないしその硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム等を好適に用いることができる。また、界面活性剤として、いわゆる反応性界面活性剤、例えば、メタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル等を用いることも好ましい。これらの界面活性剤の中では、改質化合物を添加した際に、凝集物の発生を抑制し易く、また、重合反応を阻害し難いという理由から、ポリオキシアルキルエーテルリン酸エステルを用いることが好ましい。
【0065】
界面活性剤の添加量は、天然ゴム100質量部に対し、0.05〜3.0質量部とすることが好ましく、0.05〜2.0質量部とすることが更に好ましく、0.1〜1.0質量部とすることが特に好ましい。界面活性剤の添加量を0.05〜3.0質量部とすることにより、凝集物の発生を有効に抑制しつつ、改質天然ゴムラテックスの機械的安定性を向上させることができ、改質に伴う自着力(感圧接着力)の低下も抑制することができる。一方、界面活性剤の添加量が0.05質量部未満であると、凝集物の発生を抑制することができない場合があることに加え、改質天然ゴムラテックスの機械的安定性が低下するおそれがある。また、界面活性剤の添加量が3.0質量部を超えると、得られる改質天然ゴムラテックスの自着力(感圧接着力)が十分ではない場合がある。
【0066】
[2]改質天然ゴムラテックス:
本発明の改質天然ゴムラテックスは、既に説明した本発明の製造方法により得られる改質天然ゴムラテックスである。即ち、天然ゴムに改質化合物が修飾された改質天然ゴム粒子が、水等の媒体中に分散されたエマルジョンである。
【0067】
[2−1]他の重合体:
本発明の改質天然ゴムラテックスは、改質天然ゴム以外の重合体(以下、「他の重合体」と記すことにする。)を含んでいてもよい。「他の重合体」は改質天然ゴムとは異なり任意の成分であるが、他の重合体を配合させると、改質天然ゴムラテックスから形成される塗工層の凝集力が向上するという利点があり好ましい。
【0068】
「他の重合体」としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MBR)、スチレン−イソプレン共重合体(SIR)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、アクリルエステル共重合体(AE)、酢酸塩化ビニル共重合体(EVA)、オレフィン共重合体、ウレタン共重合体、エポキシ共重合体、ビニルアルコール共重合体(PVA)、イソプレン重合体(IR)、ブタジエン重合体(BR)、クロロプレン重合体(CR)、ニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、ポリスチレン等を挙げることができる。これらの重合体の中では、形成される塗工層の凝集力を向上させる効果が高いという理由から、SBR、MBR、NBR、CR又はAEを用いることが好ましい。
【0069】
また、本発明の改質天然ゴムラテックスは、水等の媒体中に分散されたエマルジョンであるため、「他の重合体」は水等の媒体に溶解ないし分散可能な重合体であることが好ましい。例えば、水等の媒体に「他の重合体」が分散されたラテックスやエマルジョンを用い、これらのラテックスないしエマルジョンと改質天然ゴムラテックスとを混合する方法により、本発明の改質天然ゴムラテックスを得ることができる。前記の方法に用いることができるラテックスないしエマルジョンとしては、SBRラテックス、IRラテックス、NBRラテックス、MBRラテックス、BRラテックス、CRラテックス、AEエマルジョン又はEVAエマルジョン等が好ましく、SBRラテックス又はAEエマルジョンが特に好ましい。
【0070】
[2−2]その他の添加剤:
本発明の改質天然ゴムラテックスは、目的に応じて、各種添加剤が配合されたものであってもよい。即ち、従来公知の改質天然ゴムラテックスに配合されているような各種添加剤が配合されたものであってもよい。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料、抗菌剤、安定剤、老化防止剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、粘着付与樹脂、分散剤、可塑剤、濡れ剤、フィラー等を挙げることができる。
【0071】
酸化防止剤としては、フェノール系、有機ホスファイト系、チオエーテル系等の酸化防止剤を、滑剤としては、アミド系、有機金属塩系、エステル系等の滑剤を、難燃剤としては、含臭素有機系、リン酸系、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、赤リン等の難燃剤を、顔料としては、有機顔料ないし無機顔料を、抗菌剤としては、金属イオン系等の無機抗菌剤ないし有機抗菌剤、分散剤としては、ビスアミド系、ワックス系、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、有機金属塩系の分散剤を挙げることができる。
【0072】
本発明の改質天然ゴムラテックスは、改質天然ゴム粒子が水等の媒体中に分散されたエマルジョンであり、水等の媒体を含む。本発明の改質天然ゴムラテックスの好ましい固形分濃度は、添加剤の量によって変動するが、既に説明した「他の重合体」、「その他の添加剤」を添加する前の状態においては、30〜65質量%であることが好ましく、35〜62質量%であることが好ましい。総固形分濃度が30質量%未満であると、乾燥性が悪化する場合があり実用的ではない。一方、総固形分濃度が65質量%を超えると、塗工性が悪化する等、塗工時の作業性が低下するおそれがある。
【0073】
また、本発明の改質天然ゴムラテックスの粘度としては、10〜500mPa・sとすることが好ましく、10〜200mPa・sとすることがより好ましい。一方、粘度が500mPa・sを超えると、フィラー等の他の原料との混合性が低下する場合がある。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の製造方法及び改質天然ゴムラテックスについて実施例を用いて更に具体的に説明する。但し、これらの実施例は本発明の一部の実施形態を示すものであるため、本発明がこれらの実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0075】
実施例、比較例においては、原料として以下のものを用いた。
(1)天然ゴムラテックス:
マレーシア産、ハイアンモニアタイプ天然ゴムラテックス、固形分61%、
(2)改質化合物:
メチルメタクリレート(MMA、三菱レイヨン社製)又は2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA、東亞合成社製)、
(3)重合開始剤(過酸化物):
t−ブチルハイドロパーオキサイド(商品名:パーブチルH−69、日本油脂社製)
(4)重合開始剤(還元剤):
テトラエチレンペンタミン(和光純薬工業社製)、
(5)界面活性剤:
リン系界面活性剤(商品名:プライサーフA210B、第一工業製薬社製)
【0076】
(比較例1)
天然ゴムラテックス(マレーシア産、ハイアンモニアタイプ天然ゴムラテックス、固形分61%)に水を添加し、固形分濃度を53%に調整したものを比較例1とした。この天然ゴムラテックスについては、後述する評価方法に従って評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例1)
反応器に、天然ゴムラテックス(マレーシア産、ハイアンモニアタイプ天然ゴムラテックス、固形分61%)を投入し、表1に示す配合処方に基づいて、天然ゴムラテックス中の天然ゴム100質量部(固形分換算)に対して、界面活性剤(商品名:プライサーフA210B、第一工業製薬社製)0.3質量部、水43質量部を添加した。
【0079】
次いで、撹拌下、天然ゴム100質量部に対して、有機過酸化物(t−ブチルハイドロパーオキサイド、商品名:パーブチルH−69、日本油脂社製)0.3質量部を添加した後、改質化合物(MMA、商品名:三菱レイヨン社製)20質量部を添加しながら撹拌し、添加終了後、天然ゴム100質量部に対して、アミン系還元剤(テトラエチレンペンタミン、和光純薬工業社製)0.18質量部を添加して1分間撹拌した後、撹拌を停止し、静置重合を3時間行った。静置重合中、液温は40℃に保持した。静置重合後、38℃で2時間低速撹拌するエージングを行って、改質天然ゴムラテックスを得た。この改質天然ゴムラテックスについては、後述する評価方法に従って評価を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
(実施例2〜9、比較例2〜14)
改質化合物の量及び種類、重合開始剤の量、重合開始剤の過酸化物/還元剤比を変更したことを除いては、実施例1と同様にして実施例2〜9及び比較例2〜14の改質天然ゴムラテックスを得た。これらの改質天然ゴムラテックスについても、後述する評価方法に従って評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0082】
[評価方法]
比較例1の天然ゴムラテックス、実施例1〜9及び比較例1〜14の改質天然ゴムラテックスについては、以下の方法により、機械的安定性、自着力(感圧接着力)、フィルム硬度の評価を行った。
【0083】
(1)機械的安定性:
JIS K 6387「SBR合成ゴムラテックスの試験方法」に記載の「[参考]機械的安定度」に準じて機械的安定性を評価した。具体的には、比較例1の天然ゴムラテックス、実施例1〜9及び比較例2〜14の改質天然ゴムラテックス100gを評価サンプルとして試験容器に計り取り、マーロン安定度試験装置(熊谷理機工業社製)に設置し、荷重5kgで5分間実施した。試験後のサンプルを80メッシュのステンレス製メッシュで濾過し、その残渣を115℃に設定した乾燥機で恒量となるまで乾燥させ、残渣量を測定した。その残渣量を下記式(1)に代入し、機械的安定性の値を算出した。機械的安定性の値が0.30以下であれば「極めて良好/◎」、0.35以下であれば「良好/○」、0.35を超える場合には「不良/×」と評価した。
機械的安定性(phl)=(残渣量/100)×100 :(1)
【0084】
(2)自着力(感圧接着力):
天然ゴムラテックス本来の特性を評価する指標として、自着力(感圧接着力)を評価した。具体的には、JIS Z 0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」に記載の「粘着力:180度引きはがし法」に準じて自着力(感圧接着力)を評価した。
【0085】
試験に際しては、比較例1の天然ゴムラテックス、実施例1〜9及び比較例2〜14の改質天然ゴムラテックスから粘着剤組成物を調製し、その粘着剤組成物を用いて自着力の評価を行った。
【0086】
まず、比較例1の天然ゴムラテックス、実施例1〜9及び比較例1〜14の改質天然ゴムラテックス100質量部(天然ゴムないし改質天然ゴム換算)に対して、ロジン系粘着付与剤(商品名:スーパーエステルE625、荒川化学工業社製、軟化点125℃)20質量部、可塑剤(ジブチルアジペート、大八化学社製)10質量部及び増粘剤(高分子非イオン系会合型増粘剤、商品名:アデカネートUH420、旭電化工業社製)2質量部を加えた。
【0087】
これらを、常温(25℃)条件下、撹拌機で30分間撹拌することにより、粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を塩化ビニル系樹脂からなるフィルムに約0.06mmの厚さに塗布し、100℃で3分間乾燥することによって、厚さ約0.03mmの粘着層を形成し、感圧接着力測定用の試験片を得た。これを25mm幅に裁断した後、23℃、65%RHの条件下で、SUS304製の試験板に対する自着力(感圧接着力)を測定した。自着力(感圧接着力)の値が3.0以上であれば「極めて良好/◎」、2.4以上、3.0未満であれば「良好/○」、2.4未満の場合には「不良/×」と評価した。
【0088】
(3)フィルム硬度:
天然ゴムラテックス本来の特性であるゴム弾性を評価する指標としてフィルム硬度を測定した。比較例1の天然ゴムラテックス、実施例1〜9及び比較例2〜14の改質天然ゴムラテックスを、35℃の乾燥機にて恒量になるまで乾燥したフィルムを用い、JIS K 6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に記載のデュロメータ硬さ試験に準拠してフィルム硬度を測定し、表1に記載の基準によりフィルム硬度を評価した。フィルム硬度の値が40以下であれば「極めて良好/◎」、40を超え、50以下であれば「良好/○」、50を超える場合には「不良/×」と評価した。
【0089】
[評価結果]
【0090】
一方、比較例1の天然ゴムラテックスは改質を行っていないため、ラテックスの機械的安定性が不十分であった。また、比較例3〜6及び9〜14の改質天然ゴムラテックスは天然ゴムと改質化合物の合計質量に対する重合開始剤の量が少ないためにラテックスの機械的安定性が不十分であった。更に、比較例6及び7の改質天然ゴムラテックスは、改質化合物に対する有機過酸化物の量が少ないため、ラテックスの機械的安定性が不十分であった。更にまた、比較例8の改質天然ゴムラテックスは、還元剤に対する有機過酸化物の量が多すぎるため、残留した過酸化物に起因して自着力(感圧接着力)が不十分であった。更に、比較例2の改質天然ゴムラテックスは、改質化合物の量を30質量部とし、改質率を高めたことで、機械的安定性については良好な結果を示したものの、天然ゴムに対する改質化合物の量が多すぎることによって、天然ゴムラテックス本来の特性である自着力(感圧接着力)及びゴム弾性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法は、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性を減殺させることなく、十分に満足できる機械的安定性を備えた改質天然ゴムラテックスを得ることができるので、高いゴム弾性や自着力(感圧接着力)を要求される粘着テープ等の粘着剤用途の改質天然ゴムラテックスの製造に好適に用いることができる。また、本発明の改質天然ゴムラテックスは、ゴム弾性や自着力(感圧接着力)といった天然ゴムラテックス本来の特性に優れており、ラテックスの機械的安定性も高いので、特に粘着テープ用の粘着剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤として有機過酸化物及びアミン系還元剤を用い、天然ゴムに改質化合物を修飾させてラテックス状の改質天然ゴムを得る改質天然ゴムラテックスの製造方法であって、
前記天然ゴム100質量部に対して、前記改質化合物を5〜25質量部、前記重合開始剤を0.44質量部以上用いるとともに、
前記天然ゴムと前記改質化合物の合計質量に対する前記重合開始剤の質量を0.0038倍以上、改質化合物の質量に対する前記有機過酸化物の質量を0.01倍以上、前記アミン系還元剤の質量に対する前記有機過酸化物の質量を3.5倍以下として、前記改質化合物を修飾させる改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記修飾を静置重合により行う請求項1に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記静置重合を30〜55℃の範囲内で行う請求項2に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記天然ゴムラテックスに対して前記改質化合物を添加し、機械撹拌を行った後に、前記静置重合を行う請求項2又は3に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記静置重合が、全重合時間のうち20%以下の時間だけ機械攪拌を行うものである請求項2〜4のいずれか一項に記載の改質天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得られる改質天然ゴムラテックス。

【公開番号】特開2007−254617(P2007−254617A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81801(P2006−81801)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000230397)株式会社イーテック (49)
【Fターム(参考)】