説明

放射性汚染水の処理方法

【課題】大量の放射性汚染水を効率よく処理することを目的とする。
【解決手段】本発明の放射性汚染水の処理方法は、少なくとも放射性セシウムを含む放射性核種を含んだ放射性汚染水の処理方法であって、放射性核種を吸着するフェロシアン化鉄及びゼオライト系吸着剤を放射性汚染水に添加し混合攪拌して前処理する前処理工程と、前処理工程により前処理された前処理汚染水に対し無機系凝集剤を添加した後、有機系凝集剤の水溶液を添加して混合し、上記のフェロシアン化鉄及びゼオライト系吸着剤を含む固形物の造粒を行う凝集剤添加混合工程と、凝集剤添加混合工程で得られる混合液をシックナー装置23で沈降分離によって固液分離する固液分離工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムを含む放射性核種を含んだ放射性汚染水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性核種を含む廃液を処理する技術として、下記特許文献1に記載の処理方法が知られている。この処理方法では、廃液に硫酸ニッケル、フェロシアン化カリウム、硫酸第二鉄及び水酸化ナトリウムを加えて放射性物質を共沈させる。そして、硫酸第二鉄の添加と同時に又は添加後に高分子系凝集剤を添加することにより、共沈反応で生じた微粒子を凝集させ、遠心分離によって放射性核種を含んだ沈殿を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−266499号公報号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大量の放射性汚染水を処理対象とする場合には、大量の液体成分と沈殿とを分離する必要があるが、遠心分離方式は大量の対象物の分離には不向きであるので、遠心分離を用いる上記の廃液処理方法では大量の放射性汚染水を処理することには不向きである。このような事情に鑑み、本発明は、大量の放射性汚染水を効率よく処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の放射性汚染水の処理方法は、少なくとも放射性セシウムを含む放射性核種を含んだ放射性汚染水の処理方法であって、放射性核種を吸着する吸着剤を放射性汚染水に添加し混合攪拌して前処理する前処理工程と、前処理工程により前処理された前処理汚染水に対し無機系の凝集剤を添加した後、有機系の凝集剤の水溶液を添加して混合し、吸着剤を含む固形物の造粒を行う凝集剤添加混合工程と、凝集剤添加混合工程で得られる混合液を沈降分離によって固液分離する固液分離工程と、を備えることを特徴とする。
【0006】
この処理方法では、前処理工程により放射性核種が吸着剤に吸着され、凝集剤添加混合工程により上記吸着剤を含む固形物が造粒され、固液分離工程によって、造粒され放射性核種を含む固形物が分離される。固液分離工程では、沈降分離が用いられるので、混合液を滞留させるための大容量の槽を準備することにより、造粒後の混合液を大量に効率良く処理し放射性核種を含む固形物を分離することができる。
【0007】
また、固液分離工程では、混合液を滞留させる滞留槽を有し混合液中で沈降した固形物を滞留槽の下部から引き抜くシックナー装置を用いて固液分離を行うこととしてもよい。シックナー装置を用いれば、高濃度で放射性核種を含む固形物は滞留槽の下部に偏在するので、放射能による影響の低減を図る保護構造をシックナー装置の下部に限定して設けることができる。
【0008】
また、前処理工程では、吸着剤として、第1の吸着剤と第2の吸着剤との2種を用い、放射性汚染水に対し第1の吸着剤を添加して混合攪拌した後、更に第2の吸着剤を添加して混合攪拌することとしてもよい。この構成によれば、2種類の吸着剤を、その特徴に応じて順に2段階で利用することで、吸着剤の使用量を抑えることができる。
【0009】
この場合、放射性汚染水は、放射性核種としての放射性ストロンチウムを更に含み、第1の吸着剤はフェロシアン化鉄であり、第2の吸着剤はゼオライト系吸着剤であることとしてもよい。フェロシアン化鉄はセシウムを主に吸着し、ゼオライト系吸着剤はセシウムとストロンチウムを吸着する性質をもつ。従って、最初に第1の吸着剤としてフェロシアン化鉄を用いることにより、放射性汚染水中の放射性セシウムをまずフェロシアン化鉄に吸着させて低減し、その状態から第2の吸着剤としてゼオライト系吸着剤を用いることにより、ゼオライト系吸着剤の吸着能力を放射性ストロンチウム吸着に対して主に発揮させることができる。よって、放射性汚染水中の放射性ストロンチウムがゼオライト系吸着剤によって効率良く低減されるので、ゼオライト系吸着剤の必要量が抑えられ、使用量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射性汚染水の処理方法によれば、大量の放射性汚染水を効率よく処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の放射性汚染水の処理方法が実行される放射性汚染水処理施設の一例を示す図である。
【図2】本発明者らの試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る放射性汚染水の処理方法の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1に示す放射性汚染水処理施設1は、処理対象の放射性汚染水を貯留する放射性汚染水槽3と、放射性汚染水の油分を分離除去する油水分離装置5とを備えている。上記放射性汚染水は、放射性核種を含んでいる。放射性汚染水は、例えば、土粒子と放射性核種とを含む放射性濁水から事前に土粒子を除去して得られたものである。放射性汚染水中の上記放射性核種には少なくとも放射性セシウムと放射性ストロンチウムとが含まれており、放射性汚染水の体積当たりの放射能は、例えば100Bq/mL程度である。
【0014】
また施設1は、油水分離装置5で処理された後の放射性汚染水が送られる2つの前処理槽7a,7bを備えている。前処理槽7a,7bでは、上記放射性汚染水に対し2種類の吸着剤が順次添加され混合攪拌される。このうち、先に添加される1種類目の吸着剤は、フェロシアン化鉄(第1の吸着剤)であり、放射性汚染水中の放射性セシウムを吸着する性質をもつ。また、後に添加される2種類目の吸着剤は、ゼオライト系吸着剤(第2の吸着剤)であり、放射性汚染水中の放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを吸着する性質をもつ。ゼオライト系吸着剤とは、合成ゼオライト、天然ゼオライト、人工ゼオライト、及びこれらのうちの2種又は3種を混合した混合物をいう。
【0015】
施設1は、前処理槽7a,7bに対し定量供給ポンプでフェロシアン化鉄混合水を供給するフェロシアン化鉄混合水槽9を備えている。ここでは例えば、放射性汚染水(原水)に対して約0.5重量%のフェロシアン化鉄が供給されるように、フェロシアン化鉄混合水が供給される。また、施設1は、前処理槽7a,7bに対し定量供給ポンプでゼオライト系吸着剤混合水を供給するゼオライト混合水槽11と、を備えている。ここでは例えば、放射性汚染水(原水)に対して約0.5重量%のゼオライト系吸着剤が供給されるように、ゼオライト系吸着剤混合水が供給される。なお、前処理槽7a,7bは、一方における1種類目の吸着剤の混合攪拌処理と、他方における2種類目の吸着剤の混合攪拌処理とを並行処理するために、同じ構成の2槽が並列で設置されたものであり、両者の機能や処理内容は同じである。
【0016】
フェロシアン化鉄混合水槽9には、処理水貯留槽13からの処理水が供給されている。そして、当該処理水に粉末のフェロシアン化鉄が投入混合されて、フェロシアン化鉄が混合溶解した状態のフェロシアン化鉄混合水が調製される。ゼオライト混合水槽11にも同様に、処理水貯留槽13からの処理水が供給されている。そして、当該処理水に粉末のゼオライト系吸着剤が投入混合されて、ゼオライト系吸着剤が混合溶解した状態のゼオライト系吸着剤混合水が調製される。処理水貯留槽13には、後述する処理水設備31で発生する処理水が供給されている。なおここでは、処理水設備31で発生する処理水を用いることは必須ではなく、フェロシアン化鉄混合水槽9やゼオライト混合水槽11には、外部からの清水(水道水等)を供給するようにしてもよい。
【0017】
また施設1は、前処理槽7a,7bの後段にある攪拌造粒槽17を備えている。攪拌造粒槽17では、前処理槽7a,7bで処理された後の前処理汚染水に対して無機系凝集剤が添加された後、有機系凝集剤の水溶液が添加され混合攪拌される(造粒処理)。無機系凝集剤としては、例えばPAC(ポリ塩化アルミニウム)が用いられる。有機系凝集剤としては、例えばポリアクリルアミド系の凝集剤(高分子凝集剤)が用いられる。施設1は、上記の無機系凝集剤を貯留し攪拌造粒槽17に供給する無機系凝集剤貯留槽19と、上記の有機系凝集剤の水溶液を調製し攪拌造粒槽17に供給する有機系凝集剤調製槽21と、を備えている。前処理汚染水に対するPACや高分子凝集剤の投入量は、例えば、ジャーテスト等で決定される。
【0018】
前処理汚染水に無機系凝集剤が添加されると、前処理汚染水中の固形物の粒子が集合して集合体が形成される。更に有機系凝集剤が添加されると、上記集合体が集まって更に大きな集合体(フロック)が形成され、固体成分は沈降し易くなる。前処理汚染水中の固形物には、放射性セシウムを吸着したフェロシアン化鉄、放射性ストロンチウムを吸着したゼオライト系吸着剤が含まれているので、これらの固形物が上記のフロックに含まれる。なお、原水(放射性汚染水槽3の放射性汚染水)に土粒子が残留していた場合には、土粒子も上記のフロックに含まれる。
【0019】
更に施設1は、攪拌造粒槽17の後段にあるシックナー装置23を備えている。シックナー装置23は、攪拌造粒槽17からの混合液を滞留させる滞留槽23aを備えている。滞留槽23aに供給される混合液は、固体成分である上記フロックと、液体成分とが混合された状態をなしている。シックナー装置23では、攪拌造粒槽17から導入された混合液が滞留槽23aで静置されると、フロックは、重力によって滞留槽23aの底部に沈降する。そして、滞留槽23aの底部には引抜口23bが設けられており、底部近傍に偏在するフロックは、上澄み液と分離され濃縮スラリとして引抜口23bから引き抜かれる。
【0020】
濃縮スラリは、スラリ槽27に送られた後、ドラム充填装置29により濃縮スラリドラムに充填され、系外に搬出される。濃縮スラリには、放射性セシウムや放射性ストロンチウムといった放射性核種が含まれており、当該濃縮スラリの体積当たりの放射能は、例えば2000Bq/mL程度である。その一方、滞留槽23aの上澄み液は、処理水設備31に送られる。処理水設備31では、上記上澄み液に残留する放射性核種が除去され、放射性核種の濃度が十分に低下した後、系外に放流される。
【0021】
なお、槽や装置の間を接続する各搬送ライン上の必要な箇所には、図に示すように、放射線検出装置RMが設けられており、上述の放射性汚染水、混合液、及び濃縮スラリの放射線量が測定され管理されている。
【0022】
続いて、以上説明した放射性汚染水処理施設1で行われる放射性汚染水の処理方法について説明する。
【0023】
(前処理第1工程)
放射性汚染水槽3の放射性汚染水は、油水分離装置5で油分が除去された後、2つの前処理槽7a,7bに交互に送られる。なお、前処理槽7a及び7bにおける放射性汚染水の処理は同じであるので、ここでは前処理槽7aにおける処理について説明する。まず、前処理槽7a中の放射性汚染水に対し、フェロシアン化鉄混合水槽9からフェロシアン化鉄混合水が供給され、攪拌混合される。これにより、放射性汚染水中の放射性セシウムがフェロシアン化鉄に吸着される。攪拌は、例えば1時間継続される。
【0024】
(前処理第2工程)
その後、前処理槽7a中の放射性汚染水に対し、ゼオライト混合水槽11からのゼオライト系吸着剤混合水が供給され、攪拌混合される。これにより、放射性汚染水中の放射性ストロンチウムがゼオライト系吸着剤に吸着される。攪拌は、例えば1時間継続される。その後、前処理槽7a中の放射性汚染水(前処理汚染水)は、攪拌造粒槽17に送られる。
【0025】
(凝集剤添加混合第1工程)
攪拌造粒槽17中の前処理汚染水に対し、無機系凝集剤貯留槽19から無機系凝集剤が添加され、攪拌混合される。前処理汚染水に無機系凝集剤が添加されると、マイナスに帯電した固形物粒子の電荷がプラスに帯電した無機系凝集剤によって中和されるので、前処理汚染水中において固形物粒子が集合して集合体が形成される。この集合体には、放射性セシウムを吸着したフェロシアン化鉄の粒子及び放射性ストロンチウムを吸着したゼオライト系吸着剤の粒子が含まれている。
【0026】
(凝集剤添加混合第2工程)
次に、攪拌造粒槽17中の前処理汚染水に対し、有機系凝集剤調製槽21からの有機系凝集剤の水溶液が添加され、攪拌混合される。有機系凝集剤が添加されると、上記集合体が集まって更に大きな集合体(フロック)が形成され、固体成分である上記フロックが、液体成分に混合された状態の混合液が生成される。混合液中のフロックは粒が大きく、液体成分中で沈降し易い状態である。当該混合液は、シックナー装置23に送られる。
【0027】
(固液分離工程)
シックナー装置23では、攪拌造粒槽17から順次、混合液が連続的に滞留槽23aに送られ、混合液は滞留槽23aで一定時間滞留する。混合液の滞留時間は、例えば1〜2時間程度である。混合液中のフロックは重力によって滞留槽23aの下方に沈降する。滞留槽23aの底部近傍に偏在するフロックを、引抜口23bから引き抜くことにより、上澄み液から分離されたフロック(濃縮スラリ)が、引抜口23bからスラリ槽27に送られる。その一方、滞留槽23aでは上澄み液が順次回収され処理水設備31に送られる。処理水設備31では、所定の水処理によって残留する放射性核種が取り除かれ、放射性核種の濃度が十分に低下した状態の処理水が、系外に放流される。
【0028】
(ドラム充填工程)
スラリ槽27に送られた濃縮スラリは、ドラム充填装置29により濃縮スラリドラムに充填され系外に搬出される。濃縮スラリには、もともと放射性汚染水中にあった放射性核種(放射性セシウム、放射性ストロンチウム)が濃縮され含まれるので、結果として、放射性核種含有物の濃縮・減容化が図られる。なお、原水(放射性汚染水槽3の放射性汚染水)に土粒子が残留していた場合には、土粒子も上記の濃縮スラリに含まれ系外に排出されることになる。
【0029】
続いて、上述した放射性汚染水の処理方法による作用効果について説明する。
【0030】
上述の処理方法では、前処理工程により放射性核種が吸着剤(フェロシアン化鉄及びゼオライト系吸着剤)に吸着され、凝集剤添加混合工程により上記吸着剤を含む固形物が造粒され、造粒され放射性核種を含む固形物が固液分離工程によって分離される。固液分離工程では、重力による沈降分離が用いられるので、大容量のシックナー装置23を準備することにより、混合液を大量に効率良く処理することができる。すなわち、シックナー装置23等を用いた沈降分離では、例えば遠心分離等の他の固液分離手法に比べて、大スケール化が比較的容易であり、大量の濁水の処理に向いている。よって、放射性汚染水処理全体の処理量を増加させることができ、大量の放射性汚染水の処理を効率良く行うことができる。
【0031】
また、原水(放射性汚染水槽3内の放射性汚染水)中に土粒子が残留している場合にも、土粒子は最終的に濃縮スラリに含まれて系外に排出されるので、例えば、濁度100ppm以下程度であれば、土粒子も良好に除去される。
【0032】
また、固液分離工程ではシックナー装置23を用いているので、高濃度で放射性核種を含む固形物を滞留槽23a底部の引抜口23bから回収できる。滞留槽23aの底部に沈降したフロック(濃縮スラリ)は、系内で最も放射能が高いものであるが、この濃縮スラリが滞留槽23aの下部に偏在するので、放射能による影響を低減するための保護構造を、滞留槽23aの下部に集中的に設ければよい。よって、比較的容易に放射線の防護措置を図ることができる。例えば、シックナー装置23の下半分程度、スラリ槽27への濃縮スラリの搬送ライン、スラリ槽27、及びドラム充填装置29には、放射線遮蔽措置が施される。
【0033】
また、吸着剤を用いる前処理工程は2段階に分かれており、前処理第1工程では、放射性汚染水に対しフェロシアン化鉄が添加され、その後、前処理第2工程で、ゼオライト系吸着剤が添加される。ここで、フェロシアン化鉄はセシウムを主に吸着し、ゼオライト系吸着剤はセシウムとストロンチウムを吸着する性質をもつ。従って、最初の前処理第1工程でフェロシアン化鉄を用いることにより、放射性汚染水中の放射性セシウムをまずフェロシアン化鉄に吸着させて低減し、前処理第2工程ではその状態からゼオライト系吸着剤を用いることにより、ゼオライト系吸着剤の吸着能力を放射性ストロンチウム吸着に対して主に発揮させることができる。
【0034】
よって、前処理第2工程では、放射性汚染水中の放射性ストロンチウムがゼオライト系吸着剤によって効率良く低減されるので、ゼオライト系吸着剤の必要量が抑えられ、使用量を抑えることができる。また、ゼオライト系吸着剤は高価な吸着剤であることから、放射性汚染水処理全体のコストダウンにも寄与する。すなわち仮に、前処理第2工程を先に実行した場合には、ゼオライト系吸着剤が放射性ストロンチウムのみならず放射性セシウムも多く吸着してしまう。その結果、ゼオライト系吸着剤による放射性ストロンチウム処理能力が低下し、ゼオライト系吸着剤の必要量が多くなってしまうので好ましくない。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0036】
例えば、実施形態では、処理対象の放射性汚染水が放射性セシウムと放射性ストロンチウムとを含んでいるが、本発明の処理方法は、放射性ストロンチウムをほとんど含まない放射性汚染水(例えば、放射性核種として放射性セシウムが主に含まれる放射性汚染水)を処理対象としてもよい。
【0037】
また、実施形態では、2種類の吸着剤(フェロシアン化鉄及びゼオライト系吸着剤)を用いているが、本発明の処理方法は、吸着剤を1種類のみ用いてもよい。例えば、放射性ストロンチウムをほとんど含まない放射性汚染水(例えば、放射性核種として放射性セシウムが主に含まれる放射性汚染水)を処理対象とする場合には、フェロシアン化鉄のみ用いて処理水の放射能を十分に低減できると考えられる。また、放射性セシウムと放射性ストロンチウムとを含む放射性汚染水を処理対象とする場合にも、ゼオライト系吸着剤のみ用いて処理水の放射能を十分に低減できると考えられる。
【0038】
(実施例)
本発明者らは、表1(図2)に示す放射性汚染水A〜Dを、フェロシアン化鉄及び/又はゼオライト系吸着剤を用いて処理する試験1〜9を行った。各試験1〜9における処理は、第1吸着剤と第2吸着剤との組み合わせ以外は、上述した放射性汚染水処理施設1による汚染水処理と同じである。表1に示す第1吸着剤は、前処理第1工程で放射性汚染水に加える吸着剤であり、第2吸着剤は、前処理第2工程で放射性汚染水に加える吸着剤である。また、前処理第1工程及び前処理第2工程において、各吸着剤を加えた後には、攪拌を1時間継続した。
【0039】
放射性汚染水Aは、放射性核種として主に放射性セシウムを含むと予想される放射性汚染水である。放射性汚染水Bは、放射性核種として放射性セシウムと少量の放射性ストロンチウムを含むと予想される放射性汚染水である。放射性汚染水Cは、放射性核種として放射性セシウムと放射性ストロンチウムを含むと予想される放射性汚染水である。放射性汚染水Cは、放射性核種として放射性セシウムと放射性ストロンチウムを含むと予想され、更に土粒子を含む放射性汚染水である。各原水及び各処理水の体積当たりの放射能は、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。原水及び処理水の濁度は、投過光散乱式測定器を用いて測定した。
【0040】
試験1及び試験2によれば、原水が主に放射性セシウムより汚染されている場合は、フェロシアン化鉄又はゼオライト系吸着剤の何れか一方を用いることにより、処理水の体積当たりの放射能0.1Bq/mLを達成することができた。
【0041】
試験3及び試験5によれば、原水に放射性ストロンチウムが含まれている場合には、フェロシアン化鉄のみを吸着剤として用いても、処理水の体積当たりの放射能0.1Bq/mLを達成することはできなかった。これは、フェロシアン化鉄が原水中の放射性ストロンチウムをほとんど吸着せず、処理水中に放射性ストロンチウムが残留しているものと考えられる。一方、試験4及び試験6によれば、同じ原水に対しゼオライト系吸着剤のみを用いることで、処理水の体積当たりの放射能0.1Bq/mLを達成することができた。これにより、ゼオライト系吸着剤が、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムの両方を処理する能力を有することが判った。
【0042】
試験6と試験7とを比較すると、試験7では、ゼオライト系吸着剤(第2吸着剤)の使用に先だってフェロシアン化鉄(第1吸着剤)を使用することにより、ゼオライト系吸着剤の使用量を試験6に比較して少なくすることができることが判った。なお、試験7では、ゼオライト系吸着剤の使用量が減少する代わりに、フェロシアン化鉄の使用量が増加する。しかし、フェロシアン化鉄よりもゼオライト系吸着剤の方が高価であるので、試験7の吸着剤の組み合わせによれば、汚染水処理コスト全体を低減することができる。
【0043】
試験7と試験8とを比較する。試験7に比べて、フェロシアン化鉄とゼオライト系吸着剤との投入順を入れ替えた試験8では、処理水の体積当たりの放射能が20-30Bq/mLであり十分に低減されなかった。これは、第1吸着剤として先に投入したゼオライト系吸着剤が、放射性ストロンチウムのみならず放射性セシウムも多く吸着してしまい、その結果、ゼオライト系吸着剤による放射性ストロンチウム処理能力が低下し、最終的には処理水中に放射性ストロンチウムが残留したと考えられる。よって、試験8の吸着剤の投入順では、処理水の十分な放射能低減のために、ゼオライト系吸着剤の投入量を増加する必要がある。これに対し試験7のように、第1吸着剤をフェロシアン化鉄、第2吸着剤をゼオライト系吸着剤とする投入順によって、ゼオライト系吸着剤の使用量を低減できることが判った。
【0044】
試験7と試験9とを比較すれば、原水に濁度成分(土粒子等)が含まれている場合にも、濁度成分を低減できることが判った。また、試験9と試験10とを比較すれば、試験9では濁度成分の除去率は95%であるが、試験10では濁度成分の除去率は92.5%に低下した。すなわち、原水の濁度100ppmの場合には、原水の濁度200ppmの場合よりも、濁度成分の除去率が高いことが判った。これにより、原水の濁度が100ppm程度であれば、放射性汚染水処理施設1の処理によって、放射性汚染水に含まれる土粒子も十分に除去できることが判った。
【符号の説明】
【0045】
1…放射性汚染水処理施設、7a,7b…前処理槽、9…フェロシアン化鉄(第1の吸着剤)混合水槽、11…ゼオライト(第2の吸着剤)混合水槽、19…無機系凝集剤貯留槽、21…有機系凝集剤調製槽、23…シックナー装置、23a…滞留槽、23b…引抜口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも放射性セシウムを含む放射性核種を含んだ放射性汚染水の処理方法であって、
前記放射性核種を吸着する吸着剤を前記放射性汚染水に添加し混合攪拌して前処理する前処理工程と、
前記前処理工程により前処理された前処理汚染水に対し無機系の凝集剤を添加した後、有機系の凝集剤の水溶液を添加して混合し、前記吸着剤を含む固形物の造粒を行う凝集剤添加混合工程と、
前記凝集剤添加混合工程で得られる混合液を沈降分離によって固液分離する固液分離工程と、を備えることを特徴とする放射性汚染水の処理方法。
【請求項2】
前記固液分離工程では、
前記混合液を滞留させる滞留槽を有し前記混合液中で沈降した前記固形物を前記滞留槽の下部から引き抜くシックナー装置を用いて固液分離を行うことを特徴とする請求項1に記載の放射性汚染水の処理方法。
【請求項3】
前記前処理工程では、
前記吸着剤として、第1の吸着剤と第2の吸着剤との2種を用い、
前記放射性汚染水に対し前記第1の吸着剤を添加して混合攪拌した後、更に前記第2の吸着剤を添加して混合攪拌することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性汚染水の処理方法。
【請求項4】
前記放射性汚染水は、前記放射性核種としての放射性ストロンチウムを更に含み、
前記第1の吸着剤はフェロシアン化鉄であり、前記第2の吸着剤はゼオライト系吸着剤であることを特徴とする請求項3に記載の放射性汚染水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57599(P2013−57599A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196321(P2011−196321)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)