説明

放射性汚染水処理システムおよび艀型放射性汚染水処理施設ならびに放射性汚染水処理方法および艀上放射性汚染水処理方法

【課題】浄化処理すべきものが放射性汚染水、特には様々な不純物を含む大量の放射性汚染水の場合であっても、放射性イオンを含むその不純物を効率よく除去し、清浄度の高い脱塩水を得ることが可能な放射性汚染水処理システムおよび艀型放射性汚染水処理施設ならびに放射性汚染水処理方法および艀上放射性汚染水処理方法を提供する。
【解決手段】放射性汚染水を処理するシステムであって、少なくとも、放射性汚染水を濾過する装置と、該濾過装置からの処理水を電気透析する装置と、該電気透析装置からの処理水を逆浸透処理する装置と、該逆浸透装置からの処理水をイオン交換膜とイオン交換樹脂を用いて電気脱塩処理する電気再生式脱塩装置を備えた放射性汚染水処理システムおよび艀型放射性汚染水処理施設ならびに放射性汚染水処理方法および艀上放射性汚染水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所などで生じた放射性汚染を受けた水(放射性汚染水)を浄化処理することができる放射性汚染水処理システムおよび艀型放射性汚染水処理施設ならびに放射性汚染水処理方法および艀上放射性汚染水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等からの廃液には、不純物(イオン性不純物や粉塵等の目に見えるような濁質など)が含まれており、該廃液を適切に処理し、廃液を浄化する必要性がある。
【0003】
この廃液中からこれらの不純物を除去する方法としては、スポンジフィルタによる物理濾過や、活性炭を用いた化学濾過による方法が挙げられる。活性炭を充填した槽に廃液を通して濾過することでこれらの不純物を吸着し、除去することができる。吸着材としては、活性炭の他、ゼオライトなども挙げられる。
【0004】
また、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法が挙げられる(特許文献1参照)。これは、例えば、イオン交換樹脂を充填した槽に廃液を通して、廃液中のイオン性不純物を、H、OHを有するイオン交換樹脂と反応させ、イオン交換させることによりイオンを廃液中から除去することができ、純水を製造するのに用いられたりする。
【0005】
これらの廃液処理方法に関しては、原子力発電所で生じた放射性汚染水の処理に用いることも考えられている。しかしながら、この廃液が種々の不純物、例えば、イオン状態の放射性核種(放射性イオン)のみならず様々な汚染物質を含んでいる場合、上記手法ではそれらの不純物の除去は困難になる。
【0006】
また、イオン交換法などでは、たとえ廃液中の不純物イオンを除去できたとしても、交換能力が飽和してイオン交換樹脂がそのままではイオン交換能力を発揮できなくなってしまう。これらのイオン交換樹脂を再度使用可能にするには、再生剤を用いた処理が必要になり、手間やコストがかかる。このような再生化の処理を施すことなく廃棄するにしても、放射性イオンを含んでいるため、放射性廃棄物として特殊な処理が必要になり、やはり手間およびコストがかかってしまう。特に、浄化すべき放射性汚染水の量や、含まれる不純物の量が多くなると、これらの方法では処理しきれなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−233307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、浄化処理すべきものが放射性汚染水、特には様々な不純物を含む大量の放射性汚染水の場合であっても、放射性イオンを含むその不純物を効率よく除去し、清浄度の高い脱塩水を得ることが可能な放射性汚染水処理システムおよび艀型放射性汚染水処理施設ならびに放射性汚染水処理方法および艀上放射性汚染水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、放射性汚染水を処理するシステムであって、少なくとも、前記処理する放射性汚染水を濾過する装置と、該濾過装置からの処理水を電気透析する装置と、該電気透析装置からの処理水を逆浸透処理する装置と、該逆浸透装置からの処理水をイオン交換膜とイオン交換樹脂を用いて電気脱塩処理する電気再生式脱塩装置を備えたものであることを特徴とする放射性汚染水処理システムを提供する。
【0010】
このようなものであれば、まず濾過装置によって、放射性汚染水中の濁質、イオン性不純物、油等の有機物を除去することができる。
また、電気透析装置、逆浸透装置、電気再生式脱塩装置に段階的にかけることで、各装置に必要以上の負荷をかけることなく、かつ効率よくイオン性不純物等を除去することができ、最終的に清浄度の高い脱塩水を得ることが可能なものとなる。放射性イオンも十分に除去可能なものとなる。
【0011】
このとき、前記電気透析装置と前記逆浸透装置の間に、限外濾過装置を備えたものとすることができる。
限外濾過装置により、濾過装置等で除去しきれなかった濁質をより確実に除去することができるため、逆浸透装置で逆浸透処理が行われるにあたって装置に負荷がかかるのを防ぎ、故障等を防止できる。
【0012】
また、前記濾過装置は、アンスラサイト層および砂層からなる複層を有するものとすることができる。
これにより、放射性汚染水中の濁質を物理濾過して除去することができる。
【0013】
また、前記濾過装置は、活性炭からなる層を有するものとすることができる。
これにより、放射性汚染水中のイオン性不純物や有機物等を化学濾過して除去することができる。
【0014】
さらに、前記濾過装置の上流に、前記処理する放射性汚染水中の少なくとも濁質を沈降分離するための沈殿槽を備えたものとすることができる。
このようなものであれば、特には、放射性汚染水中の大量の濁質を容易に除去可能なものとなる。
【0015】
このとき、前記沈殿槽の上流に、前記処理する放射性汚染水に、酸化剤およびpH調整剤を混合する反応槽と、凝集剤を混合する凝集槽をさらに備えたものとすることができる。
反応槽で酸化剤により濁質等の塊を形成するとともに、凝集剤に合わせてpH調整剤でpHを調整し、凝集槽において凝集剤でさらに大きな塊を形成することができ、濁質等の沈降性を向上し、一層分離し易くなる。
【0016】
さらには、前記沈殿槽は、沈降分離されたスラリを脱水してスラッジと分離する脱水機を備えたものとすることができる。
このようなものであれば、高レベルで放射性汚染されているスラッジを別個に分離回収可能なものとなる。
【0017】
また、前記電気再生式脱塩装置は、該電気再生式脱塩装置から排出されるイオン濃縮水が、前記逆浸透装置で逆浸透処理する処理水に混合される機構を有するものとすることができる。
【0018】
このようなものであれば、電気再生式脱塩装置から排出されるイオン濃縮水を、再度、逆浸透装置にかけることができ、放射性汚染水中の不純物をより一層濃縮して不純物の除去効率を高めることができる。
【0019】
また、前記逆浸透装置は、該逆浸透装置から排出されるイオン濃縮水が、前記電気透析装置で電気透析する処理水に混合される機構を有するものとすることができる。
【0020】
このようなものであれば、逆浸透装置から排出されるイオン濃縮水を、再度、電気透析装置にかけることができ、放射性汚染水中の不純物をより一層濃縮して不純物の除去効率を高めることができる。
【0021】
また、前記濾過装置で分離された濁質、前記限外濾過装置で分離された濁質、前記脱水機でスラッジと分離された排水のうち少なくともいずれかが、回収されて前記処理する放射性汚染水に混合される機構を有するものとすることができる。
【0022】
このようなものであれば、放射性汚染水中の不純物をより一層濃縮して不純物の除去効率を高めることができる。
【0023】
また、前記電気再生式脱塩装置の下流に、カートリッジポリッシャーを備えたものとすることができる。
このようなものであれば、安全性がより高いシステムとすることができる。また、本発明の場合、従来に比べて、交換能力が飽和したカートリッジポリッシャー中のイオン交換樹脂の量を減らすことができ、放射性廃棄物の量を減らすことができる。
【0024】
また、本発明は、前記放射性汚染水処理システムが艀に搭載された艀型放射性汚染水処理施設を提供する。
このように、陸上に限定されることなく、例えば海洋上の艀で放射性汚染水が処理可能な施設となる。艀型で底が平らであるため、臨海する原子力発電所等に接岸して処理することも容易である。
【0025】
このとき、艀上に前記放射性汚染水処理システムを稼働させる発電機を備えたものとすることができる。
このようなものであれば、外部電源を要することなく独自に電気エネルギーを供給して放射性汚染水処理システムを稼働させることが可能になる。
【0026】
さらには、前記放射性汚染水処理システムが搭載された艀は曳航可能なものとすることができる。
このようなものであれば、海洋上を移動可能なものとなるため、放射性汚染水処理システム自体を安全な場所で設置および搭載できるとともに、放射性汚染水の発生現場まで曳航させ、該発生現場で放射性汚染水の処理を行うことが可能なものとなる。また、陸上輸送に比べ、放射性汚染水等の廃棄物の運搬リスクが少ない。
【0027】
また、本発明は、放射性汚染水を処理する方法であって、少なくとも、前記処理する放射性汚染水を濾過した後、電気透析し、さらに、逆浸透処理を施してから、イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いて電気脱塩処理を施すことにより脱塩水を得ることを特徴とする放射性汚染水処理方法を提供する。
【0028】
このようにして、濁質等を除去するとともに、放射性イオンも含めて、イオン性不純物を効率良く除去することができ、清浄度の高い脱塩水を得ることが可能である。
【0029】
このとき、前記電気透析後、電気透析した処理水を限外濾過にかけてから、前記逆浸透処理を施すことができる。
このようにして、逆浸透処理前に濁質をより確実に除去することができるため、負荷なく、効率よく逆浸透処理することができる。
【0030】
また、前記放射性汚染水を濾過するとき、アンスラサイト層および砂層からなる複層を用いて濾過することができる。
このようにすれば、放射性汚染水中の濁質を物理濾過して除去することができる。
【0031】
また、前記放射性汚染水を濾過するとき、活性炭からなる層を用いて濾過することができる。
このようにすれば、放射性汚染水中のイオン性不純物や有機物等を化学濾過して除去することができる。
【0032】
さらに、前記処理する放射性汚染水の中の少なくとも濁質を沈降分離してから前記濾過を行うことができる。
このようなものであれば、特には、放射性汚染水中の大量の濁質を容易に除去することができる。
【0033】
このとき、前記沈降分離を行うとき、予め、前記処理する放射性汚染水に、酸化剤およびpH調整剤ならびに凝集剤を混合して前記沈降分離を行うことができる。
酸化剤により濁質等の塊を形成するとともに、凝集剤に合わせてpH調整剤でpHを調整し、凝集剤でさらに大きな塊を形成することができ、濁質等の沈降性を向上し、一層分離し易くすることができる
【0034】
さらには、前記沈降分離を行った後、沈降分離したスラリを脱水してスラッジを分離することができる。
このようにして、高レベルで放射性汚染されているスラッジを別個に分離回収することができる。
【0035】
また、前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理を施したときに排出するイオン濃縮水を、前記逆浸透処理を施す処理水に混合することができる。
また、前記逆浸透処理を施したときに排出するイオン濃縮水を、前記電気透析する処理水に混合することができる。
さらには、前記濾過により分離した濁質、前記限外濾過により分離した濁質、前記脱水によりスラッジと分離した排水のうち少なくともいずれかを、回収後、前記処理する放射性汚染水に混合することができる。
これらのようにすれば、放射性汚染水中の不純物をより一層濃縮して不純物の除去効率を高めることができる。
【0036】
前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理を施した後、カートリッジポリッシャーを用いてイオン交換処理を施すことができる。
このようにすれば放射性汚染水中の不純物をさらに除去することができ、安全性がより高くなる。また、本発明の場合、従来に比べて、交換能力が飽和したカートリッジポリッシャー中のイオン交換樹脂の量を減らすことができ、放射性廃棄物の量を減らすことができる。
【0037】
また、前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理または前記カートリッジポリッシャーを用いたイオン交換処理を施して得られた脱塩水を外界へ放流することができる。
本発明によって、濁質や放射性イオン等を十分に除去することができ、清浄度の極めて高い脱塩水を得ることができるため、さらに特殊な処理を施す必要もなく外界へ放流することができる。また、冷却水等として再使用することも可能である。
【0038】
また、前記電気透析のときに排出するイオン濃厚液、前記脱水により分離したスラッジおよび前記イオン交換処理後のカートリッジポリッシャー中のイオン交換樹脂を、放射性廃棄物として処理することができる。
このようにして、電気透析や沈降分離・脱水の処理から派生したイオン濃厚液やスラッジ、また、イオン交換処理後のカートリッジポリッシャー中のイオン交換樹脂を放射性廃棄物として処理することにより自然環境を保つことができる。
【0039】
また、本発明は、前記放射性汚染水処理方法を艀上で行うことを特徴とする艀上放射性汚染水処理方法を提供する。
このようにすれば、陸上に限定されることなく、例えば海洋上や、接岸させた艀で放射性汚染水を処理することができる。
【0040】
このとき、前記放射性汚染水処理方法を、前記艀に備えた発電機を用いて行うことができる。
このようにして、外部電源を要することなく独自に電気エネルギーを供給して放射性汚染水の処理を行うことができる。
【0041】
さらには、前記艀に前記放射性汚染水処理方法を実施可能な設備を搭載し、該艀を放射性汚染水の発生現場まで曳航し、該発生現場において前記放射性汚染水処理方法を実施可能な設備を用いて放射性汚染水を処理することができる。
このようにすれば、放射性汚染水の発生現場とは離れた安全な場所で上記設備を設置および搭載することができる上に、発生現場で放射性汚染水の処理を行うことができて有用である。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明の放射性汚染水処理システム、放射性汚染水処理方法によれば、放射性イオンも含んだ不純物を効率よく除去し、清浄度高く脱塩水を得ることができる。
また本発明の艀型放射性汚染水処理施設、艀上放射性汚染水処理方法によれば、移動性が高く、臨海地域や海洋上でも放射性汚染水の処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の放射性汚染水処理システムの一例を示す概略図である。
【図2】(A)反応槽、凝集槽、沈殿槽の一例を示す概略図である。(B)脱水機周りを示す説明図である。
【図3】濾過装置の一例を示す概略図である。
【図4】電気透析装置の一例を示す概略図である。
【図5】限外濾過装置の一例を示す概略図である。
【図6】逆浸透装置の一例を示す概略図である。
【図7】電気再生式脱塩装置の一例を示す概略図である。
【図8】カートリッジポリッシャーの一例を示す概略図である。
【図9】本発明の艀型放射性汚染水処理施設の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば原子力発電所において、原子炉の冷却に用いられる水や、各設備の洗浄等に用いられた水は放射性汚染を受けているため、発電所から排出等する際には、適切な処理を施して清浄化し、放射性汚染のレベルを安全なレベルまで下げる必要がある。
【0045】
そこで本発明者らは、この放射性汚染水の処理について鋭意研究を行った。
まず、これらの原子力発電所等からの放射性汚染水の処理方法として、従来、イオン交換法などを利用することが考えられている。しかしながら、このイオン交換法では交換能力が飽和したイオン交換樹脂が大量に生じ、再生化するにも、放射性廃棄物として処理するにも手間やコストがかかりすぎてしまう。大量の放射性汚染水を処理するには不適切である。
【0046】
また、電気透析により放射性汚染水を処理することも考えられており、ある程度は放射性イオンを除去できることが見込まれる。しかしながら、十分には除去しきれていなく、外界に放流したり、再使用できるほどに清浄化するには、実際には、さらなる処理が必要になる。
【0047】
このように、放射性汚染水の処理は、上記のイオン交換法などの単一の処理では処理しきれず、様々な処理を組み合わせた複合処理が必要になると本発明者らは考えた。特に、何らかの要因によって、海水など通常では混入されない不純物が大量に含まれている場合、また、放射性汚染水自体が大量になると、複合処理の必要性は格段に高くなる。
【0048】
なお、これらの不純物としては、例えば海水や大量の放射性核種、粉塵等が挙げられる。放射性核種としてはセシウム137、ヨウ素131等が挙げられ、これらが汚染水中の微粒子に付着したり、水中に溶解したり、あるいはイオン状になって存在することが考えられる。この放射性汚染水の処理にあたっては、セシウム、ヨウ素等の放射性核種が付着した微粒子を除去するとともに、溶解した種々のイオンの除去が必要となる。
【0049】
本発明者らは上記の問題を見出し、放射性汚染水、特には、種々の不純物を含んだ放射性汚染水を効率よく、確実に清浄化するシステムおよび方法について鋭意研究を行ったところ、まず、ある程度の脱塩処理が見込まれる電気透析装置と、さらに高精度で、イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理が可能な電気再生式脱塩装置を組み合わせることに想到した。このように、電気透析装置に加えてわざわざ電気再生式脱塩装置を組み合わせるという発想は本発明者らによるものである。
【0050】
その上、さらには、原子力発電所等の大規模な施設では、大量で高濃度で不純物汚染された放射性汚染水が発生する場合が考えられる。それでもなお効率良く清浄化するには、電気透析装置や電気再生式脱塩装置での脱塩処理を効果的に行い続ける必要があるため、効果を向上させ、かつ、その高い効果を維持するためには、実際上、これらの処理の前に、前処理が必要になると本発明者らは考えた。
そこで、電気透析装置の上流に濾過装置、また、電気再生式脱塩装置の上流に逆浸透処理装置を配設することで、電気透析装置や電気再生式脱塩装置の脱塩処理を必要以上の負荷をかけることなく効果的に処理を継続して行うことができる。結果として、濾過に加えて三段階もの脱塩処理を行うことで、放射性汚染水を初めて再利用あるいは放流可能なレベルにまで清浄化できることを見出し、本発明を完成させた。
【0051】
以下では、まず、本発明の放射性汚染水処理システムの全体構成について説明する。図1に、本発明の放射性汚染水処理システム1の一例を示す。図1に示す例では、反応槽2、凝集槽3、沈殿槽4、濾過装置5、電気透析装置6、限外濾過装置7、逆浸透装置8、電気再生式脱塩装置9が備えられており、放射性汚染水は反応槽2から電気再生式脱塩装置9側へ、順に送液されて処理される仕組みになっている。
なお、当然この構成に限定されず、少なくとも、濾過装置5、電気透析装置6、逆浸透装置8、電気再生式脱塩装置9を備えていれば良いが、処理する放射性汚染水の汚染具合によっては、より一層効率よく清浄化するため、必要に応じて他の処理装置をさらに設けることができる。
【0052】
以下、各設備について詳述する。
(反応槽、凝集槽、沈殿槽)
反応槽2、凝集槽3、沈殿槽4の一例を図2(A)に示すが、これに限定されるものではない。
放射性汚染水中に、濁質となる粉塵あるいはそれ以上のサイズの瓦礫等の不純物が含まれていると、下流に備えられている電気透析装置6等で、装置内のイオン交換膜の目詰まりを生じてしまい、処理を効率良く施すことができなくなり、さらには装置の故障の原因にもなり得る。そこで、予め、それらの不純物を取り除くため、放射性汚染水を貯めて不純物を自然沈降させて分離する沈殿槽4を設けておくと良い。沈殿槽4の底は中央に向かって傾斜しており、底に沈降分離して溜まった濃厚なスラリを排出し易くなっている。
この沈殿槽4によって、大量かつ容易にそれらの不純物を分離して除去することができ、また、それらの不純物に付着した放射性核種等も併せて除去することができる。
【0053】
しかしながら、不純物によっては、その小さなサイズのため自然沈降だけでは時間がかかり容易に沈降分離することはできないものがある。そこで、強制的に沈降分離させる前処理のために、放射性汚染水に酸化剤やpH調整剤を混合する反応槽2や、凝集剤を混合する凝集槽3をさらに設けておくと良い。
【0054】
反応槽2に混合された酸化剤、例えば次亜塩素酸により、溶解しているヨウ素やセシウムが酸化析出される。また、凝集槽3に混合された凝集剤、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC)により、酸化析出したヨウ素や水中の微粒子を凝集させてさらに大きな塊とすることができる。これによって沈殿槽4での沈降分離が容易になる。
なお、pH調整剤は、凝集するのに最適なpHに調整するために混合される。例えば、硫酸や苛性ソーダなどが挙げられる。
【0055】
図2(A)に示すように、これらの反応槽2、凝集槽3、沈殿槽4は隣接して配設されており、各槽の上澄み液が隣接する次の槽へと流れるようになっている。また、各槽には収容された放射性汚染水を撹拌するためのミキサーを設けることもできる。ミキサーによって、酸化剤等が放射性汚染水と混合されやすくなる。
その他、効率良く沈降分離ができるよう、一般に設けられる各種の手段を設けることができる。
【0056】
なお、図2(B)に示すように、沈殿槽4から排出されるスラリに対しては脱水機10が配設されている。この脱水機10ではスラリに脱水処理を施すことができる。脱水機10としては、例えばフィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、多重円盤式、遠心分離式などが挙げられ、特に限定されない。スラリを適切に脱水して、スラッジと排水に分離することができるものであれば良い。
【0057】
また、洗浄排水槽11が設置されており、スラリから、スラッジと分離された排水が回収可能とされている。この洗浄排水槽11は、処理前の放射性汚染水を貯めておくタンクや、沈殿槽4等へ放射性汚染水を送液する配管に接続されており、上記排水や、その他、洗浄排水槽11に回収されたものを、反応槽2等へ送液される放射性汚染水に混合し、再度処理できるようになっている。
【0058】
(濾過装置)
次に濾過装置5について説明する。図3にその一例を示す。
図3に示すように、この例では2つの濾過槽を直列に配設しており、1つ目にアンスラサイト層12aおよび砂層12bからなる複層を有するもの、2つ目に活性炭からなる層13を有するものが配設されている。このような構成とすることで、効率良く処理水の濾過を行うことができる。しかしながら、これに限定されず、その都度必要に応じて濾過装置の構成を決定することができる。
濾過装置5では、沈殿槽4で濁質が沈降分離された上澄みの処理水が送液されてきて濾過処理を施すことができる。あるいは、元々、放射性汚染水に濁質があまり含まれていない汚染水を処理する場合は、沈殿槽4等を介さずに直接濾過装置5で処理にかけることもできる。
【0059】
アンスラサイト層12aおよび砂層12bでは、沈殿槽4で除去しきれなかった濁質を分離除去することができる。なお、沈殿槽4と濾過装置5のアンスラサイト層12aの間に別個の凝集槽を設けておくこともできる。再度凝集剤を混合させることにより、アンスラサイト層12aや砂層12bで、凝集した濁質を除去し易くすることができる。
【0060】
また、活性炭層13では、処理水中に溶解している有機物や、残存している濁質等を吸着して処理水から除去することができる。また、反応層2で混合された酸化剤を除去するのも大きな役割となっている。濾過後の処理水に酸化剤が含まれていると、下流の電気透析装置6等での脱塩処理が効率良く行われなくなるためである。
【0061】
なお、図3に示すように、アンスラサイト層12aおよび砂層12bを有する濾過槽や活性炭層を有する濾過槽と、濾過した処理水を貯めるタンクの間には、各濾過槽を逆洗するときのタンクから濾過槽に向かって濾過後の処理液を送液するための逆洗用配管がさらに設けられている。また、アンスラサイト層12aおよび砂層12bを有する濾過槽や活性炭層を有する濾過槽と洗浄排水槽11との間にも配管があり、逆洗によって、各濾過槽の各層で除去された濁質等は洗浄排水槽11へと回収可能に構成されている。洗浄排水槽11に回収されたものは、前述のように最初の放射性汚染水に混合し、再処理できるようになっている。
【0062】
(電気透析装置)
次に、電気透析装置6について説明する。図4にその一例を示すが、これに限定されるものではない。
図4に示すように、電気透析装置6は、1対の電極(陽極14、陰極15)が配設されており、それらの間に陽イオン交換膜16および陰イオン交換膜17が交互に配設されている。そして、これらの陽イオン交換膜16および陰イオン交換膜17で仕切られた部屋が脱塩室18および濃縮室19となっている。また、脱塩室18や濃縮室19は濾過装置5側と配管によって接続されており、濾過後の処理水が送液される(入口側)。
一方、反対側の出口側では、脱塩室18は下流の限外濾過装置7へと電気透析後の処理水が送液されるように配管が接続されている。また、濃縮室19には、イオン濃厚液を回収するための配管が接続されている。
【0063】
電気透析装置6による電気透析の仕組みの概略は以下の通りである。
濾過装置5からの処理水は、電気透析装置6の脱塩室18および濃縮室19に送液される。送液量の割合は、例えば、脱塩室18へ90〜95%、濃縮室19へ5〜10%とすることができる。
電極間に電圧がかけられており、脱塩室18a中の陽イオン(例としてNa)は陰極15側に向かい、陽イオン交換膜16を通って隣の濃縮室19へ移動する(なお、陰イオン(例としてCl)は陽極14側に向かい、陰イオン交換膜17を通って反対側の濃縮室19aへ移動する)。また、脱塩室18b中の陰イオンは陽極14側に向かい、陰イオン交換膜17を通って濃縮室19へ移動する(なお、陽イオンは陰極15側に向かい、陽イオン交換膜16を通って反対側の濃縮室19bへ移動する)。
各濃縮室19、19a、19bへ移動した陽イオンおよび陰イオンは、それぞれ、陰イオン交換膜17、陽イオン交換膜16によって濃縮室19、19a、19bから脱塩室18へは移動できなくなる。
【0064】
この結果、脱塩室18から限外濾過装置7へ、電気透析によってイオン性不純物が除去された処理水が送液される。その一方で、濃縮室19、19a、19bからは、イオン性不純物が濃縮されており、イオン濃厚液として排出され、配管を通して回収することができる。
【0065】
なお、濾過装置5からの処理水に例えば海水が含まれている場合、この電気透析装置6によって、塩分を90〜95%除去することができる。また、放射性イオンも、この電気透析装置6によって大半を除去することができる。
【0066】
(限外濾過装置)
限外濾過装置7について説明する。図5にその一例を示す。
限外濾過装置7は内部の槽中に中空糸膜である限外濾過膜20を備えており、超精密な濾過を施すことが可能である。
この中空糸膜は、例えば直径0.5〜30mm程度の太さで中が空胴の糸状に成型されており、糸の外側から内側へろ過する外圧式と、内側から外側へ濾過する内圧式の2種類があり、どのタイプのものを用いるかは適宜決定することができる。外圧式のものであれば、後述するように、エアバブリング洗浄を行うことができる(図5の例は外圧式である)。この限外濾過膜20に形成された孔径は例えば0.01〜0.001μmである。
【0067】
電気透析装置6からの処理水は、槽内に流されて限外濾過膜20で濾過されることで、沈殿槽4等で除去しきれなかった超微細な粒子の濁質等を除去することができる。下流の逆浸透装置8ではこのような超微細な粒子も目詰まりとなり、逆浸透処理の阻害要因となり易いので逆浸透装置8の前処理装置として配設しておくのが好ましい。
【0068】
なお、図5に示す例では、限外濾過装置7と、限外濾過装置7を通過した処理水を貯めるタンクの間には、限外濾過膜20を逆洗するため、タンクから限外濾過装置7に向かって濾過後の処理液を送液するための逆洗用配管がさらに設けられている。さらには、逆洗用として空気を送って限外濾過膜20を振動させるためのエアーポンプが配設されており、エアバブリング洗浄が可能である。限外濾過装置7には、この逆洗で得られる濁質等の不純物を回収可能なように、前述の洗浄排水槽11との間に配管が接続されている。
【0069】
(逆浸透装置)
次に、逆浸透装置8について説明する。図6にその一例を示す。
逆浸透装置8は、周囲に穴21が形成されたチューブ22が備えられており、限外濾過装置7からの処理水が圧水ポンプ23によって流れ込む間隙24と逆浸透膜25が交互に層状に重なって、チューブ22を巻くようにして配置された構成となっている。この逆浸透膜25に形成されている孔の径は例えば0.5nmのものとすることができ、ほぼ水しか通さない。
なお、図6では、簡単のため、1つの間隙24と1つの逆浸透膜25のみのケースを示している。
【0070】
この逆浸透装置8の仕組みは以下の通りである。
上記間隙24に圧水して送液された処理水は、隣接する逆浸透膜25を透過してイオン性不純物等と分離されながら中央に向かい、中央のチューブ22の周囲の穴21からチューブ22内へと流れ込む。そして、該チューブ22内を通して、イオン性不純物等と分離された処理水を得ることができる。一方、チューブ22内へ流れ込まなかった水は、分離されたイオン性不純物とともに、イオン濃縮水として逆浸透装置8から排出される。
例えば、逆浸透装置8へ流れ込む処理水のうち、逆浸透膜25を透過して、チューブ22内から電気再生式脱塩装置9に送液される処理水が7割、透過しなかったイオン濃縮水は3割程度となる。
【0071】
なお、上記形態に限定されず、下流に配置されている高精度の脱塩処理が可能な電気再生式脱塩装置9の前処理装置として適切に機能するものであれば良い。電気再生式脱塩装置9中のイオン交換樹脂が目詰まりしない程度、あるいはイオン交換樹脂において再生機能がうまく働き続ける程度に、前処理装置として、処理水中のイオン性不純物を除去可能なものであれば良い。
【0072】
なお、逆浸透装置8では、透過した処理水においては、限外濾過装置7からの処理水の99.95%以上の塩分が除去可能である。また、セシウムやヨウ素などは比較的大きな原子のため、これらの除去率はさらに大きくなる。
【0073】
また、この逆浸透装置8には、電気透析装置6へ向かう配管が接続されている。この配管により、逆浸透装置8から排出されるイオン濃縮水は、電気透析装置6に送液される処理水と混合され、再度電気透析装置6にかけることができる。
【0074】
(電気再生式脱塩装置)
次に、電気再生式脱塩装置9について説明する。その一例を図7に示すが、これに限定されるものではない。
図7に示すように、電気再生式脱塩装置9は、1対の電極(陽極114、陰極115)が配設されており、それらの間に陽イオン交換膜116および陰イオン交換膜117が配設されている。そして、これらの陽イオン交換膜116および陰イオン交換膜117で仕切られた部屋が脱塩室118であり、その両側が濃縮室119となっている。さらには、脱塩室118内にはイオン交換樹脂26が充填されている。
また、脱塩室118は逆浸透装置8側と配管によって接続されており、逆浸透処理後の処理水が送液されてくる(入口側)。
一方、反対側の出口側では、脱塩室18は下流(放流等)へ送液されるように配管が接続されている。また、濃縮室19には、逆浸透装置8へ向かう配管が接続されており、電気再生式脱塩装置9から排出されるイオン濃縮水は、逆浸透装置8に送液される処理水と混合され、再度逆浸透装置8にかけることが可能である。
【0075】
電気再生式脱塩装置9による陽イオン交換膜116、陰イオン交換膜117とイオン交換樹脂26を用いた電気脱塩処理の仕組みは以下の通りである。
逆浸透装置8からの処理水は、電気再生式脱塩装置9の脱塩室118に送液される。イオン交換樹脂26により、処理水中のイオン性不純物はイオン交換される。電極間には電圧がかけられており、例えばイオン交換樹脂26に一旦結合した陽イオン(例としてNa)は脱塩室118から、陰極115側の濃縮室119へと移動する。このようにして電気脱塩された処理水が得られる。
【0076】
また、上記のように、処理水中のイオン性不純物は、イオン交換樹脂26と一旦結合するものの、電極間の電圧によって濃縮室119へと移動するが、これによってイオン交換樹脂26の再生に必要なHやOHも生成される。すなわち、通液して電気脱塩しつつ、イオン交換樹脂26の再生を行うことができ、交換能力が飽和することもない。そのため、イオン交換樹脂26を取り出して再生化のための特別な処理を施す必要もない。
また、上流において、少なくとも濾過装置5、電気透析装置6、逆浸透装置8が配設されているため、大量の放射性汚染水が適切に処理されており、その結果、処理能力以上の不純物を含んだ処理水が送液されることもなく、イオン交換樹脂26の目詰まりや交換能力の飽和等を確実に防止することができる。
【0077】
この電気再生式脱塩装置9により電気脱塩された処理水は極めて清浄度が高く、さらに他の特別な処理を施す必要性も少なく、十分に不純物が除去されており、そのまま外界へ放流したり、あるいは原子力発電所での原子炉の冷却水等に再利用可能なものである。
【0078】
なお、保安的な設備として、電気再生式脱塩装置9の下流にカートリッジポリッシャー等を設けることもできる。図8にその一例を示す。カートリッジポリッシャー27とはボンベ内にイオン交換樹脂を充填したものである。交換能力が飽和した場合、ボンベ内のイオン交換樹脂を交換して使用する。
上流の設備に故障等が発生し、不純物除去に不具合が生じた際、それらの不純物を除去すべく、このようなカートリッジポリッシャー27を備えておくことで安全性がより高い放射性汚染水処理システムとなる。
また、従来のようなイオン交換法による単一処理のシステムでは、交換能力が飽和したイオン交換樹脂が大量に生じてしまい、大量の放射性廃棄物が生じてしまう。しかしながら、本発明では特には電気透析装置および電気再生式脱塩装置を備えており、これらの装置で処理後にカートリッジポリッシャー27で処理されるので、交換能力が飽和するのを抑え、放射性廃棄物の量を低減することができる。
【0079】
以上のような本発明の放射性汚染水処理システムによれば、各装置に必要以上の負荷がかかって故障等を招くものでもなく、効率良く、放射性汚染水を処理することができる。種々の不純物を含み、大量に放射性汚染水が発生しても、十分清浄に処理し続けることが可能なシステムである。
【0080】
次に、上記のような本発明の放射性汚染水処理システム1を用いた、本発明の放射性汚染水処理方法について説明する。なお、図1に、各工程によって、放射性汚染水中における水分、塩(イオン性不純物)、濁質がどのように変化するかの目安も記載した。処理開始前の「放射性汚染水」における量を各々100としている。
【0081】
まず、図2に示すように、放射性汚染水に、反応槽2で酸化剤、pH調整剤、また、凝集槽3で凝集剤を加え、放射性汚染水中の不純物を凝集させて沈殿させやすくする。このとき、ミキサー等により、加えた酸化剤等が放射性汚染水とよく混合されるように撹拌すると良い。そして、沈殿槽4において、凝集させた不純物を沈降分離する。
ここで分離されるものとしては、主に粉塵や瓦礫等の濁質だが、その他、酸化剤等で析出した放射性イオンなども分離することができる。
これらの工程によって、水分:115、塩:94、濁質:5となる。
【0082】
この後、沈殿槽4で沈降する濁質等と分離された処理液に濾過を施す。例えば、図3に示すように、濾過装置5のアンスラサイト層12aおよび砂層12bからなる複層を用い、その後、活性炭層13を用いて濾過することができる。前者では主に濁質を分離除去することができ、後者では処理水中に溶解している有機成分を吸着して除去することができる。
この工程によって、水分:107、塩:94、濁質:0.1となる。
【0083】
そして電気透析を行う。図4に示す電気透析装置6によって、脱塩室18から電気透析して脱塩した処理水を得ることができる。この工程によって、イオン性不純物を大幅に分離することができる。
この工程によって、水分:126、塩:7、濁質:0.1となる。
【0084】
次に、図5に示す限外濾過装置7において、限外濾過膜20を用いて、超微細な粒子の濁質等を精度高く除去することができる。濁質はこの時点でほぼ0とすることができる。
この工程によって、水分:129、塩:7、濁質:0となる。
【0085】
そして、図6の逆浸透装置8において、イオン性不純物を分離することができる。この逆浸透処理を施すことによって、イオン性不純物の量を減らしておき、次に行う電気脱塩処理で不具合が生じることもなく、効率的にイオン性不純物を除去し続けることができる。
この工程によって、水分:98、塩:0.05、濁質:0となる。
【0086】
さらに、図7の電気再生式脱塩装置9によって、イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理を施す。これによって、逆浸透装置8でイオン性不純物を除去した処理水を、一層精度の高い電気再生式脱塩装置9で処理を行うことによって、さらにイオン性不純物を除去し、清浄度の極めて高い脱塩水を得ることができる。
この工程によって、水分:90、塩:0.01、濁質:0となる。
【0087】
上記のようにして得られた脱塩水は不純物が十分に分離されていて、放射性イオンも極めて低減されており、実質上、環境等に与える影響はほとんどなく、そのまま海等に放流することもできるし、原子炉冷却の水として再利用することもできる。
ただし、さらに安全性を高めるため、カートリッジポリッシャー27によって、イオン交換法により不純物をさらに吸着除去することも可能である。従来の処理方法に比べて、放射性廃棄物となる交換能力が飽和したイオン交換樹脂の量を低減することができる。
この工程によって、水分:90、塩:0.0001、濁質:0となる。
【0088】
なお、図2(B)のように沈殿槽4で沈降分離した後、脱水機10によって得られるスラッジは、放射性物質を多く含んでいるため、放射性廃棄物として処理する必要がある。
また、電気透析装置5での電気透析の際に派生したイオン濃厚液(水分:9、塩:1000、濁質:0.1)は、放射性イオンの濃度が高いため、エバポレーター等により水分を蒸発させて固化した後、放射性廃棄物として処理する。
さらには、イオン交換処理に用いたカートリッジポリッシャー27中のイオン交換樹脂も放射性廃棄物として処理する。
【0089】
一方、逆浸透装置8での逆浸透処理で派生したイオン濃縮水や、電気再生式脱塩装置9での電気脱塩処理で派生したイオン濃縮水は、電気透析からのイオン濃厚液に比べて放射性汚染の度合いはかなり低い(各々、(水分:30、塩:28、濁質:0)(水分:8、塩:0.5、濁質:0))。このため、放射性廃棄物として処理するよりも、再処理して除去することができるし、脱塩水をより多く得るために、それぞれ、再度、電気透析や逆浸透処理、およびその後の処理にかけることができる。
【0090】
また、濾過装置5や限外濾過装置7で逆洗によって回収した濁質等や、脱水機10でスラッジと分離した排水は、例えば洗浄排水槽11に一旦回収した後(水分:17、塩:54、濁質:750)、再処理して除去効率を高めるとともに放射性汚染水から脱塩水をより多く得るために、処理前の放射性汚染水と混合し、再度、沈殿槽4で濁質等の沈降分離、およびその後の処理にかけることができる。
【0091】
次に、本発明の艀型放射性汚染水処理施設および艀上放射性汚染水処理方法について説明する。図9に艀型放射性汚染水処理施設の一例を示す。
図9に示すように、本発明の艀型放射性汚染水処理施設28は、艀29、つまりは、運河や海洋をタグボート等で曳航可能な平底の船舶(メガフロートと呼ばれることがある)の上に、本発明の放射性汚染水処理システム1を搭載したものである。さらには発電機30が配設されている。外部電源を要することなく放射性汚染水処理システム1を稼働させることができ簡便である。外部電源確保のための他の設備の必要性をなくすことができる。
【0092】
また、艀型ということもあり、通常の船舶と異なり、大型であっても平底のために接岸しやすい。原子力発電所等、放射性汚染水の発生現場が海岸沿いのとき、容易に放射性汚染水処理システムを隣接することができて便利である。
【0093】
また、曳航可能なため、各地の原子力発電所等へ移送することができる上に、放射性汚染水処理システム1自体は、発生現場から離れた安全な場所で艀に設置、搭載することができ、建設作業員の安全性も確保できる。放射性汚染水等の廃棄物の運搬も、陸上ではなく海洋上で行うことができるので、運搬リスクを低減することができる。さらに、曳航移動可能なため、必要な時に必要な場所に必要な数だけ持っていけるため、多数建造する必要がなく、各原子力施設毎に処理施設を建設するよりも、著しいコストダウンを図ることができる。
【0094】
このように、本発明の放射性汚染水処理システムを搭載していて放射性汚染水を効果的に処理できる上に、移送が容易で各地に接岸して放射性汚染水の処理を行うことが可能である。
【0095】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0096】
1…本発明の放射性汚染水処理システム、 2…反応槽、 3…凝集槽、
4…沈殿槽、 5…濾過装置、 6…電気透析装置、 7…限外濾過装置、
8…逆浸透装置、 9…電気再生式脱塩装置、 10…脱水機、 11…洗浄排水槽、
12a…アンスラサイト層、 12b…砂層、 13…活性炭層、
14、114…陽極、 15、115…陰極、 16、116…陽イオン交換膜、
17、117…陰イオン交換膜、 18、18a、18b、118…脱塩室、
19、19a、19b、119…濃縮室、 20…限外濾過膜、
21…穴、 22…チューブ、 23…圧水ポンプ、 24…間隙、
25…逆浸透膜、 26…イオン交換樹脂、 27…カートリッジポリッシャー、
28…艀型放射性汚染水処理施設、 29…艀、 30…発電機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性汚染水を処理するシステムであって、
少なくとも、前記処理する放射性汚染水を濾過する装置と、
該濾過装置からの処理水を電気透析する装置と、
該電気透析装置からの処理水を逆浸透処理する装置と、
該逆浸透装置からの処理水をイオン交換膜とイオン交換樹脂を用いて電気脱塩処理する電気再生式脱塩装置を備えたものであることを特徴とする放射性汚染水処理システム。
【請求項2】
前記電気透析装置と前記逆浸透装置の間に、限外濾過装置を備えたものであることを特徴とする請求項1に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項3】
前記濾過装置は、アンスラサイト層および砂層からなる複層を有するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項4】
前記濾過装置は、活性炭からなる層を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項5】
前記濾過装置の上流に、前記処理する放射性汚染水中の少なくとも濁質を沈降分離するための沈殿槽を備えたものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項6】
前記沈殿槽の上流に、前記処理する放射性汚染水に、酸化剤およびpH調整剤を混合する反応槽と、凝集剤を混合する凝集槽をさらに備えたものであることを特徴とする請求項5に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項7】
前記沈殿槽は、沈降分離されたスラリを脱水してスラッジと分離する脱水機を備えたものであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項8】
前記電気再生式脱塩装置は、該電気再生式脱塩装置から排出されるイオン濃縮水が、前記逆浸透装置で逆浸透処理する処理水に混合される機構を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項9】
前記逆浸透装置は、該逆浸透装置から排出されるイオン濃縮水が、前記電気透析装置で電気透析する処理水に混合される機構を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項10】
前記濾過装置で分離された濁質、前記限外濾過装置で分離された濁質、前記脱水機でスラッジと分離された排水のうち少なくともいずれかが、回収されて前記処理する放射性汚染水に混合される機構を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項11】
前記電気再生式脱塩装置の下流に、カートリッジポリッシャーを備えたものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理システムが艀に搭載された艀型放射性汚染水処理施設。
【請求項13】
前記放射性汚染水処理システムを稼働させる発電機を備えたものであることを特徴とする請求項12に記載の艀型放射性汚染水処理施設。
【請求項14】
前記放射性汚染水処理システムが搭載された艀は曳航可能なものであることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の艀型放射性汚染水処理施設。
【請求項15】
放射性汚染水を処理する方法であって、
少なくとも、前記処理する放射性汚染水を濾過した後、電気透析し、さらに、逆浸透処理を施してから、イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いて電気脱塩処理を施すことにより脱塩水を得ることを特徴とする放射性汚染水処理方法。
【請求項16】
前記電気透析後、電気透析した処理水を限外濾過にかけてから、前記逆浸透処理を施すことを特徴とする請求項15に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項17】
前記放射性汚染水を濾過するとき、アンスラサイト層および砂層からなる複層を用いて濾過することを特徴とする請求項15または請求項16に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項18】
前記放射性汚染水を濾過するとき、活性炭からなる層を用いて濾過することを特徴とする請求項15から請求項17のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項19】
前記処理する放射性汚染水の中の少なくとも濁質を沈降分離してから前記濾過を行うことを特徴とする請求項15から請求項18のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項20】
前記沈降分離を行うとき、予め、前記処理する放射性汚染水に、酸化剤およびpH調整剤ならびに凝集剤を混合して前記沈降分離を行うことを特徴とする請求項19に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項21】
前記沈降分離を行った後、沈降分離したスラリを脱水してスラッジを分離することを特徴とする請求項19または請求項20に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項22】
前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理を施したときに排出するイオン濃縮水を、前記逆浸透処理を施す処理水に混合することを特徴とする請求項15から請求項21のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項23】
前記逆浸透処理を施したときに排出するイオン濃縮水を、前記電気透析する処理水に混合することを特徴とする請求項15から請求項22のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項24】
前記濾過により分離した濁質、前記限外濾過により分離した濁質、前記脱水によりスラッジと分離した排水のうち少なくともいずれかを、回収後、前記処理する放射性汚染水に混合することを特徴とする請求項15から請求項23のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項25】
前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理を施した後、カートリッジポリッシャーを用いてイオン交換処理を施すことを特徴とする請求項15から請求項24のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項26】
前記イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気脱塩処理または前記カートリッジポリッシャーを用いたイオン交換処理を施して得られた脱塩水を外界へ放流することを特徴とする請求項15から請求項25のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項27】
前記電気透析のときに排出するイオン濃厚液、前記脱水により分離したスラッジおよび前記イオン交換処理後のカートリッジポリッシャー中のイオン交換樹脂を、放射性廃棄物として処理することを特徴とする請求項15から請求項26のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項28】
請求項15から請求項27のいずれか一項に記載の放射性汚染水処理方法を艀上で行うことを特徴とする艀上放射性汚染水処理方法。
【請求項29】
前記放射性汚染水処理方法を、前記艀に備えた発電機を用いて行うことを特徴とする請求項28に記載の艀上放射性汚染水処理方法。
【請求項30】
前記艀に前記放射性汚染水処理方法を実施可能な設備を搭載し、該艀を放射性汚染水の発生現場まで曳航し、該発生現場において前記放射性汚染水処理方法を実施可能な設備を用いて放射性汚染水を処理することを特徴とする請求項28または請求項29に記載の艀上放射性汚染水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−225755(P2012−225755A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93267(P2011−93267)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(593145766)美浜株式会社 (10)