説明

放射性物質処理剤の製造方法、放射性物質処理剤、並びに、該放射性物質処理剤を用いた処理方法及び処理装置

【課題】放射性物質の吸着速度が速く、放射性汚染水の処理効率に優れ、多岐に亘る被処理物を処理できる放射性物質処理剤の製造方法、及び放射性物質処理剤の提供。
【解決手段】平均粒径5.0μm以下のモルデナイトからなる天然ゼオライト微粒子を分散手段によって水中に分散してスラリー分散微粒子を生成するスラリー分散微粒子生成工程を有することを特徴とする放射性物質処理剤の製造方法、及び、該製造方法によって得られることを特徴とする放射性物質処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質処理剤の製造方法、放射性物質処理剤、並びに、該放射性物質処理剤を用いた処理方法及び処理装置に関し、詳しくは、放射性物質の吸着速度が速く、放射性汚染水の処理効率に優れ、多岐に亘る被処理物を処理できる放射性物質処理剤の製造方法、放射性物質処理剤、並びに、該放射性物質処理剤を用いた処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故などにより環境中に放出された放射性物質は、広域に亘って水、土壌、大気等を汚染し、深刻な問題を生じる。
【0003】
特許文献1には、放射性物質を含む廃液を処理する技術として、粒径を355〜700μmに調整したゼオライトをカラムに充填し、該カラムに廃液を通水することによって、セシウム137を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−271692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、原子力発電所の事故などで生じる放射性汚染水には、発電施設の爆発に伴う粉塵など懸濁物質が多く含まれている場合があり、そのままカラムに通水すると、カラムが詰まり処理を継続できなくなる。特許文献1には、あらかじめ、共沈により懸濁物質を除去することも記載されているが、共沈は長時間を要し工程数も増加する。
【0006】
その結果、特許文献1に記載の技術では処理速度に限界があり、短時間に大量の汚染水を処理することができない。特に、原子力発電所の事故などのように、原子炉の冷却等のために大量の汚染水が連続的に生じる場合には不適である。
【0007】
更に、特許文献1に記載の技術では、ゼオライトに対する放射性物質の吸着速度が十分に得られず、この点でも大量の汚染水を短時間に処理するためには不適であるといえる。
【0008】
また更に、原子力発電所の事故などでは、水の他に、土壌や大気など汚染対象が多岐に亘るため、カラム式では十分な処理効率が得られない、あるいは対応できない場合が多い。
【0009】
そこで、本発明の課題は、放射性物質の吸着速度が速く、放射性汚染水の処理効率に優れ、多岐に亘る被処理物を処理できる放射性物質処理剤の製造方法、放射性物質処理剤、並びに、該放射性物質処理剤を用いた処理方法及び処理装置を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
平均粒径5.0μm以下のモルデナイトからなる天然ゼオライト微粒子を分散手段によって水中に分散してスラリー分散微粒子を生成するスラリー分散微粒子生成工程を有することを特徴とする放射性物質処理剤の製造方法。
【0013】
(請求項2)
前記天然ゼオライト微粒子は、モルデナイトからなる天然ゼオライトを微粉砕手段によって微粉砕して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の放射性物質処理剤の製造方法。
【0014】
(請求項3)
前記スラリー分散微粒子生成工程における分散手段として、超音波振動装置を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の放射性物質処理剤の製造方法。
【0015】
(請求項4)
請求項1〜3の何れかに記載の放射性物質処理剤の製造方法により得られたことを特徴とする放射性物質処理剤。
【0016】
(請求項5)
モルデナイトからなる天然ゼオライトを微粉砕して得られた平均粒径5.0μm以下の天然ゼオライト微粒子を水中に分散してなる放射性物質処理剤。
【0017】
(請求項6)
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水に、請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を添加する工程と、
前記添加工程後に、前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
前記吸着工程後に、前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子と放射性物質が除去された処理水とに固液分離する固液分離工程と、
を有することを特徴とする放射線汚染廃水の処理方法。
【0018】
(請求項7)
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水に、請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を添加する工程と、
前記添加工程後に、前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
前記吸着工程後に、前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子と放射性物質が除去された処理水とに固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で固液分離された前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子を、脱水する脱水工程と、
脱水後、ガラス化処理して放射能を封じ込める放射能封じ込め工程と、
を有することを特徴とする放射性物質の封じ込め方法。
【0019】
(請求項8)
請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む汚染土壌と前記放射性物質処理剤を混合撹拌する工程と、
汚染土壌に含まれる前記カチオン性放射性物質を前記放射性物質処理剤の前記天然ゼオライト微粒子に吸着させ、前記放射性物質を土壌から前記天然ゼオライト微粒子側に移行させて汚染土壌を洗浄する工程と、
次いで、放射性物質が除去された土壌と、放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子とに分級処理する分級処理工程と、
を有することを特徴とする放射性物質を含む土壌の処理方法。
【0020】
(請求項9)
請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む被処理ガスと接触させる気液接触工程と、
前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤の前記スラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
を有することを特徴とする放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法。
【0021】
(請求項10)
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水を貯留する水槽から、引き抜き、吸着反応管に前記放射線汚染廃水を圧送する原水ポンプを備え、
該吸着反応管には、前記請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を注入する注入配管が接続され、
該吸着反応管内において、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子と前記カチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水とを撹拌しつつ、吸着反応により、放射線汚染廃水から前記カチオン性放射性物質を除去することを特徴とする放射線汚染廃水の処理装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、放射性物質の吸着速度が速く、放射性汚染水の処理効率に優れ、多岐に亘る被処理物を処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る放射線汚染廃水の処理方法を実施するための放射線汚染廃水の処理装置の一例を示すブロック図
【図2】本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法を実施するための汚染排ガス処理装置の一例を示すブロック図
【図3】本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法を実施するための汚染排ガス処理装置の他の例を示すブロック図
【図4】セシウム吸着試験の結果を示す図
【図5】ストロンチウム吸着試験の結果を示す図
【図6】処理水中のセシウム濃度及びセシウム除去率の反応時間依存性を示すグラフ
【図7】処理水中のセシウム濃度の反応時間依存性を示すグラフ
【図8】セシウム除去率の反応時間依存性を示すグラフ
【図9】処理水中のセシウム濃度及びセシウム除去率の放射性物質処理剤の添加量依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
はじめに、本発明の放射性物質処理剤の製造方法を説明する。
【0026】
本発明の放射性物質処理剤の製造方法では、平均粒径5.0μm以下、好ましくは3.0μm以下のモルデナイトからなる天然ゼオライト微粒子を分散手段によって水中に分散してスラリー分散微粒子を生成するスラリー分散微粒子生成工程を備える。
【0027】
本発明では、人工的に化学合成された人工ゼオライトではなく、天然ゼオライトを用いる点に一つの特徴がある。天然ゼオライトは、地球の地殻における過酷な条件の中で生成されるため、人工ゼオライトよりも放射線に対する安定性に優れており、放射性物質に対する吸着性の失活を防止できる効果が得られるからである。
【0028】
天然ゼオライトとしては、モルデナイトやクリノプチロライトがあるが、本発明では、モルデナイトを用いる点にもう一つの特徴がある。モルデナイトは、セシウム及びストロンチウム等のカチオン性の放射性物質に対する吸着性がクリノプチロライトに対して格段に高いからである。
【0029】
本発明で、平均粒径は、島津製作所製の粒度分布測定装置「SALD−200VER」によって測定できる。
【0030】
天然ゼオライト微粒子を水中へ分散する際の分散手段は、好ましくは超音波処理手段が用いられる。超音波処理手段としては、超音波発生装置を用いることができ、所定出力、所定周波数の超音波エネルギーを所定時間水に印加する手法が好ましく、超音波発生装置としては、例えば、室内試験においては、アズワン社製「USD−3R」などを、実際の生産においてはカイジョー社製「C−7356VS」などを用いることができる。
【0031】
また、分散手段として、天然ゼオライト微粒子を水中に分散させた状態を保持し易くするために、天然ゼオライト微粒子を化学的に分散させる分散剤を用いることも好ましい。さらに、分散手段として、振盪機などの機械的な分散機を用いることも、効率的に分散化できるため好ましい。分散剤と機械的な分散機を併用することで、ゼオライト微粒子を効率的に分散化でき、且つ分散させた状態を保持し易くする効果が得られるため好ましいことである。分散手段として、上述の超音波発生装置を用いた場合は、このような効率的な分散化と分散状態の保持性とに共に優れる効果を奏する。
【0032】
本発明では、このようにして天然ゼオライト微粒子を水中に分散させることによって、スラリー分散微粒子を生成する。きわめて微細なスラリー分散微粒子は、いったん分散すると、凝集することなく、分散状態を維持する。このため、分散処理を行った後、1日から3日程度経過しても分散しているのでそのまま処理剤として使用できる。
【0033】
本願明細書において、「スラリー分散微粒子」とは、放射性物質処理剤を500mLメスシリンダーに採取し、液面から下方に3〜5cmの範囲における天然ゼオライト微粒子濃度をC1とし、容器の底から上方に3〜5cmの範囲における天然ゼオライト微粒子濃度をC2とした場合に、分散工程から少なくとも1日以上、好ましくは3日以上に亘って静置しても、C2/C1≦1.2の関係を保持できる状態を指す。ここで、天然ゼオライト微粒子濃度C1及びC2は、JIS K−0102に準拠して、SS濃度として測定された値である。
【0034】
本発明において放射性物質処理剤を生成する他の態様としては、例えば、天然ゼオライト微粒子を水中に分散手段によって分散させた後、分散液の電気伝導度(EC)を好ましくは25〜35(mS/m)の比較的高い範囲に調整し、24時間以上静置して、上澄層と、濃縮されたスラリー分散微粒子からなる濃縮スラリー層とに分離させ、次いで、上澄層を除去して濃縮スラリー層を放射性物質処理剤として回収する方法が挙げられる。つまり、水の電気伝導度を調整することによって、天然ゼオライト微粒子の希薄スラリーを高濃度スラリー化する方法である。この場合、天然ゼオライト微粒子の分散状態がスラリー分散微粒子として好適に保持され易く、且つ天然ゼオライト微粒子を高濃度に含有した放射性物質処理剤を生成することができる。水の電気伝導度(EC)の調整は、例えば、HCl、NaCl、NaOH等により行うことができる。また、水として海水を用いれば、容易に比較的高い範囲のECとすることができ、好ましい。
【0035】
本発明においては、天然ゼオライト微粒子を、5〜40重量%に調整した状態で、スラリー分散微粒子として、水中に分散させることも好ましい。天然ゼオライト微粒子の濃度については、現場の状況にあわせて調整することも好ましい。5〜20重量%濃度の低濃度スラリーは、流動性が高く、水に近い性状であることから、広く普及している配送管設備や供給ポンプ等が使用可能であり、供給用機材等の選定が容易である。一方、20〜40重量%濃度の高濃度スラリーは、少量の添加で放射性物質の除去が可能である事から、スラリー資材の梱包・運搬・保管を省力化することができる。場合によっては、高濃度スラリーで梱包・運搬・保管後、添加時に水で希釈して低濃度スラリー化した後、添加するなど組み合わせる方法も有効である。
【0036】
以上の製法により得られる放射性物質処理剤は、平均粒径が5.0μm以下、好ましくは、3.0μm以下に調剤された天然ゼオライト微粒子が、水中に分散したスラリー分散微粒子を含む処理剤である。
【0037】
すなわち、本発明において、ゼオライト微粒子の平均粒径を5.0μm以下、好ましくは、3.0μm以下の微細粒子とすることにより、ゼオライト微粒子がスラリー化して、水中において分散状態を良好に保持することができ、ゼオライトの沈殿を防止することができる。
【0038】
これにより、ゼオライト微粒子が水中を漂うように保持されるため、放射性物質に対して接触する機会が増加し、放射性物質の吸着速度が格段に速くなる。
【0039】
更に、ゼオライト微粒子の平均粒径を5.0μm以下、好ましくは、3.0μm以下の超微細粒子とすることにより、ゼオライト微粒子の内部細孔が表面に露出するため、比表面積が格段に大きくなり、放射性物質に対する吸着活性が飛躍的に向上する。これにより、ゼオライトの単位重量あたりの吸着量が増加するため、ゼオライトの使用量を削減できる効果も得られる。
【0040】
従って、本発明の放射性物質処理剤によれば、放射性物質の吸着速度が速く、放射性汚染水の処理効率に優れる効果が得られる。
【0041】
本発明では、天然ゼオライト微粒子を水中にスラリー状に分散させているがゆえに、放射性物質に対する吸着性を好適に有すると共に液体と同様に取り扱うことが可能である。これにより、特許文献1に記載された従来のカラム式の放射性物質の処理方法とは全く異なる放射性物質の処理方法を実現することができる。
【0042】
本発明の放射性物質処理剤の他の態様としては、上記のように製造方法によって得られる場合に限らず、モルデナイトからなる天然ゼオライトを微粉砕して得られた平均粒径5.0μm以下、好ましくは3.0μm以下の天然ゼオライト微粒子を水中に分散してなるものであればよい。
【0043】
すなわち、この態様においても、ゼオライト微粒子がスラリー化して、水中において分散状態を良好に保持することができ、ゼオライトの沈殿を防止することができ、ゼオライト微粒子が水中を漂うように保持されるため、放射性物質に対して接触する機会が増加し、放射性物質の吸着速度が格段に速くなる。
【0044】
また、本発明の放射性物質処理剤は、放射性物質を吸着後のゼオライト微粒子を処理水等から分離する際の分離性や回収性の観点から、ゼオライト微粒子の平均粒径が0.5μm以上であることが好ましい。
【0045】
本発明において、平均粒径が5.0μm以下、好ましくは、3.0μm以下の天然ゼオライト微粒子を得る方法は格別限定されず、例えば、モルデナイトからなる天然ゼオライトを、微粉砕手段によって粉砕することにより好適に得ることができる。
【0046】
微粉砕手段としては、格別限定されるわけではないが、たとえば磨砕処理機が用いられる。磨砕処理機としては、例えば、増幸産業社製「スーパーマスコロイダーMKCA6−2」を用いることができる。
【0047】
微粉砕手段に投入されるモルデナイトは、格別限定されるものではないが、94μm以下の範囲の平均粒径のモルデナイトが好ましく用いられる。
【0048】
以上に説明した放射性物質処理剤を用いると、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む汚染物質(被処理物)を分離除去できる。
【0049】
カチオン性放射性物質を含む汚染物質としては、放射線汚染廃水、放射性物質を含む土壌、放射性物質を含む汚染排ガスなどがあげられる。
【0050】
カチオン性放射性物質としては、セシウムやストロンチウム等のカチオン性を示す放射性物質を好ましく例示できる。なお、ストロンチウムを処理する場合は、pHが3以上の条件において放射性物質処理剤を汚染物質と接触させることが、より高い除去率を得る上で好ましい。
【0051】
まず、本発明に係る放射線汚染廃水の処理方法の一例について説明する。
【0052】
図1は、本発明に係る放射線汚染廃水の処理方法を実施するための放射線汚染廃水の処理装置の一例を示すブロック図である。
【0053】
図1において、10は、カチオン性放射性物質であるセシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含む放射線汚染廃水を貯留する水槽であり、20は、吸着反応管であり、30は、吸着反応管20の下流に設けられた固液分離手段であり、40は、固液分離手段30で得られた固相を脱水する脱水手段である。また、21は、放射線汚染廃水を水槽10から引き抜き、吸着反応管20に圧送する原水ポンプである。
【0054】
更に、50は、本発明の放射性物質処理剤を貯留する貯留タンクであり、注入配管51を介して吸着反応管20に接続されている。52は、放射性物質処理剤を貯留タンク50から引きぬき、注入配管51に圧送するポンプである。注入配管51は、ここでは静的混合器22によって吸着反応管20に接続されているが、単に注入配管51を吸着反応管20に直接接続してもよい。
【0055】
本発明に係る放射線汚染廃水の処理方法では、吸着反応管20に圧送される放射線汚染廃水に、注入配管51からの放射性物質処理剤が添加されると、該吸着反応管20において、放射線汚染廃水と放射性物質処理剤とが液流によって撹拌混合され、放射線汚染廃水中のカチオン性放射性物質が、放射性物質処理剤に含まれる分散状態の天然ゼオライト微粒子に速やかに吸着する。このようにして、放射線汚染廃水のカチオン性放射性物質が、天然ゼオライト微粒子によって固相に捕捉されて、放射線汚染廃水から速やかに除去される。
【0056】
特に本発明では、あらかじめ水に分散された状態のスラリー分散微粒子が、放射線汚染廃水に速やかに拡散されるため、速やかに吸着が開始される。
【0057】
このように、本発明の放射性物質処理剤であれば、カチオン性放射性物質に対する吸着速度に優れるため、吸着反応管20内において比較的短時間の接触時間で効率的な吸着を行うことができる。また、このように、吸着反応管20内という閉鎖系で吸着を行うことは、放射性物質の外部への放出を防止する上でも好ましいことである。また、配管中において吸着反応させることができ、複雑な装置を必要としないため、特に放射能によって作業が難航する原子力発電所の事故現場においても、容易に実施できる効果も得られる。
【0058】
更に、本発明では、放射線汚染廃水に導入される放射性物質処理剤において、天然ゼオライト微粒子の濃度が、20〜40重量%程度の高濃度スラリーを添加すれば、少量のスラリー資材の添加で必要なゼオライト量の供給を行うことができるので、吸着反応管20のような比較的狭いスペースで短時間の反応時間であっても、高度な除去効率を達成できる効果を奏する。一方、廃水の処理量が比較的多い場合には、あらかじめ水で希釈した低濃度スラリー、あるいは添加直前に水で希釈した低濃度スラリーとして添加する方法も好ましく用いることができ、これにより、水中への分散性が高まり、処理効果を高める効果を奏する。
【0059】
かかる吸着工程の後に、固液分離手段30によって、カチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子と放射性物質が除去された処理水に固液分離する固液分離工程を設けることができる。
【0060】
本発明において、固液分離手段30は、格別限定されず、沈殿槽、遠心分離機又は膜濾過装置等を好ましく例示でき、これら固液分離手段を複数組み合わせて用いることも好ましいことである。特に、大量の放射線汚染廃水を短時間で処理する場合には、処理を高速で行うことが容易な膜濾過装置を用いることが好ましい。膜濾過装置としては、樹脂製の膜を用いてもよいが、放射線によるポリマー切断から生じる劣化を好適に回避する上では金属製の膜を用いることも好ましいことである。固液分離を向上させるために、無機又は有機系の凝集剤を使用できる。
【0061】
なお、凝集剤を用いて固液分離を行う際は、フロック形成を促進させて分離を効率化する上で、廃水中の天然ゼオライト微粒子を含むSS濃度が、1500〜5000mg/Lの範囲であることが好ましい。
【0062】
固液分離工程で固液分離されたカチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子は、次いで、脱水手段40に供され、脱水されることが好ましい。
【0063】
脱水手段40としては、格別限定されないが、フィルタプレス等を好ましく例示できる。
【0064】
固液分離工程及び/又は脱水工程で生成した処理水は、回収して、例えばアニオン性の放射性物質を除去する工程に供することができる。
【0065】
本発明においては、脱水後のカチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子からなる脱水ケーキを、不図示の電気溶融炉等で加熱溶融してガラス化処理することが好ましい。即ち、天然ゼオライト微粒子であるが故に、それ自体を好適にガラス化することが可能である。特に、分散状態の微粒子状であることにより、熱がよく通るため、加熱溶融され易く、比較的短時間でガラス化される。さらに、分散状態の微粒子状であることにより、カチオン性放射性物質をガラス内に比較的均一に分散した状態で封じ込めることができ、核分裂の連鎖反応を阻害する効果も得られる。
【0066】
次に、本発明に係る放射性物質を含む土壌の処理方法の一例について説明する。
【0067】
まず、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む汚染土壌と、本発明の放射性物質処理剤を混合撹拌する。本発明では、天然ゼオライト微粒子がスラリー状に分散した状態であるため、汚染土壌との混合効率が得られ易い効果を奏する。
【0068】
汚染土壌に含まれるカチオン性放射性物質が天然ゼオライト微粒子に吸着される。即ち、放射性物質を土壌から分散微粒子側に移行させることにより、汚染土壌を洗浄する。
【0069】
次いで、分級処理工程を設けることによって、放射性物質が除去された土壌と放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子に分級処理することができる。
【0070】
次に、本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法の一例について図2を参照して説明する。
【0071】
図2は、本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法を実施するための汚染排ガス処理装置の一例を示すブロック図である。図1と同じ符号は、同一構成を指している。
【0072】
図2において、11は、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む汚染排ガスを発生する汚染排ガス発生源であり、12は、汚染排ガス発生源11を密封するように覆う被覆部材である。
【0073】
13は、被覆部材12の開口部を介して被覆部材12内部の汚染排ガスを移送する移送配管である。被覆部材12内部の汚染排ガスは、ブロワ14により吸引され、移送配管13に圧送されるようにしている。
【0074】
移送配管13は、上述した吸着反応管20に対して、静的混合器22、つまり吸着反応管20と注入配管51との混合部よりも上流に設けられた静的混合器23を介して接続されている。つまり、放射性物質処理剤の添加よりも前に、吸着反応管20内を圧送される放射線汚染廃水に、あらかじめ汚染排ガスを注入し、汚染排ガス中のカチオン性放射性物質を放射線汚染廃水に溶解させておく。このように、本発明においては、天然ゼオライト微粒子に速やかに吸着させるために、汚染排ガス中のカチオン性放射性物質を、あらかじめ水に溶解させた様態で、放射性物質処理剤と気液接触させることが好ましい。
【0075】
このように、本発明によれば、汚染排ガスと放射線汚染廃水とを同時に、同一の装置で処理することができるため、装置の省スペース化を実現できる。特に、原子力発電所の事故などの場合、装置の設置スペースを確保することが困難であるため、顕著な効果を奏する。
【0076】
以上の例においても、図1に示した例と同様に、吸着工程後の放射線汚染廃水を、固液分離工程、脱水工程、ガラス化処理工程に供して処理することができる。
【0077】
次に、本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法の他の例について図3を参照して説明する。
【0078】
図3は、本発明に係る放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法を実施するための汚染排ガス処理装置の他の例を示すブロック図である。図2と同じ符号は、同一構成を指している。
【0079】
図3において、60は気液接触手段であり、ここでは気液接触塔から構成されている。移送配管13からの汚染排ガスは、気液接触塔60の下部に設けられた散気管61から、該気液接触塔60内に貯留されている本発明の放射性物質処理剤中に散気され、気液接触するようにしている。
【0080】
62は、気液接触塔60内のヘッドスペースに接続された配管であり、気液接触によりカチオン性放射性物質が除去された処理ガスを回収することを可能としている。
【0081】
気液接触塔60内に貯留されている放射性物質処理剤は、新たな放射性物質処理剤と置換可能に構成されている。つまり、気液接触後の放射性物質処理剤は、抜き出し配管63から適宜排出されると共に、新たな放射性物質処理剤が、放射性物質処理剤を貯留する貯留タンク50から、配管53を介して適宜補充される。54は、貯留タンク50から気液接触塔60内に放射性物質処理剤を移送する移送ポンプである。
【0082】
抜き出し配管63から排出された気液接触後の放射性物質処理剤、つまり放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子は、図1に示した例と同様にして、固液分離工程、脱水工程、ガラス化処理工程に供して処理することができる。
【0083】
以上の説明では、放射性物質により汚染された被処理物に本発明の放射性物質処理剤を接触させ、カチオン性放射性物質をゼオライト微粒子に吸着させた後、カチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子を被処理物から分離除去する場合について示したが、本発明においては、カチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子を必ずしも被処理物から分離除去しなくてもよい。
【0084】
つまり、本発明において、天然ゼオライト微粒子に吸着された状態のカチオン性放射性物質は、該天然ゼオライト微粒子に捕捉され脱離が防止された状態にある。そのため、遊離状態のカチオン性放射性物質と比較して、天然ゼオライト微粒子に吸着した状態のカチオン性放射性物質は、環境に及ぼす害が大幅に低減する。
【0085】
例えば、本発明の放射性物質処理剤をカチオン性放射性物質により汚染された海洋に散布する場合について説明する。つまり、カチオン性放射性物質を吸着した天然ゼオライト微粒子が回収されずに海洋に残り、魚介類の生体内に摂取されたとしても、カチオン性放射性物質は天然ゼオライト微粒子に吸着されたまま吸収されることなく排泄される。即ち、魚介類が体内に濃縮しやすい遊離状態のカチオン性放射性物質を摂取した場合と比較して、生物濃縮を顕著に防止できる。また、天然ゼオライト微粒子自体は、生体に無害であるため、環境中に残留しても生物に害を及ぼし難い。つまり、本発明においては、必ずしも天然ゼオライト微粒子を回収しなくても、海洋から魚介類へのカチオン性放射性物質の移動が防止され、生物濃縮を防止することができる効果が得られる。淡水の場合も同様である。
【0086】
これは、カチオン性放射性物質により汚染された土壌に散布する場合についても同様である。つまり、例えば、カチオン性放射性物質により汚染された農地に散布した場合、天然ゼオライト微粒子に吸着された状態のカチオン性放射性物質は、遊離状態のカチオン性放射性物質と比較して植物の根から吸収され難い。つまり、必ずしも天然ゼオライト微粒子を回収しなくても、土壌から作物中へのカチオン性放射性物質の移動が防止され、生物濃縮を防止することができる効果が得られる。
【0087】
また、原子力発電所の事故などで環境中に放出されたカチオン性放射性物質は、例えば家屋や自動車などにも付着する。家屋や自動車などに、固体状のゼオライトを散布して接触させても、カチオン性放射性物質の除去は困難であるが、これに対して、本発明の放射性物質処理剤であれば、該放射性物質処理剤に含まれる水が放射性物質を溶解し、そのままゼオライトからなる分散状態の天然ゼオライト微粒子に吸着することができる。上述したように、カチオン性放射性物質は、天然ゼオライト微粒子に吸着させておけば、環境への危険性が低減する効果が得られる。
【0088】
さらに、本発明の放射性物質処理剤であれば、液体と同様に扱うことができるため、家屋や自動車などの狭い間隙部にも好適に浸透し、カチオン性放射性物質を吸着する。本発明の放射性物質処理剤は、ゼオライトの平均粒子径が極めて小であり、それらがスラリー状に分散された状態にあるため、スプレー等の散布手段による散布も容易となる効果を奏する。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0090】
[1.吸着率のpH依存性]
(実施例1)*セシウム吸着試験
福島県飯坂産のモルデナイトを磨砕処理機(増幸産業社製「スーパーマスコロイダーMKCA6−2」)により磨砕処理して平均粒径3.0μmのゼオライト微粒子粉を得た。
【0091】
得られたゼオライト微粒子粉200gを1L容器に採り、水を少しずつ加えてよく混合しながら全容を1Lとした。その後、超音波発生装置(アズワン社製「USD−3R」)を用い、出力120Wで28kHの音波で30分間超音波処理し、スラリー分散微粒子を生成して放射性物質処理剤を得た。
【0092】
セシウム標準液(和光純薬工業社製:塩化セシウム、セシウム濃度1000mg/L)を希釈して、セシウム濃度10mg/Lに調整した対象水(原水)を100mLずつビーカーに分取し、各々のビーカーに上記放射性物質処理剤5mLを添加した。放射性物質処理剤添加後に、各々のビーカー毎に対象水のpHを、HCl又はNaOHの添加により、1.9、4.0、5.6、6.1、9.3、又は11.9に調整した。
【0093】
対象水中のセシウム濃度をAgilent Technologies社製ICP質量分析機「Agilent 7500Series」を用いJIS K−0102のICP質量分析法に準拠して測定し、対象水の導電率(mS/m)を堀場製作所「COND METER DS−52」を用いてJIS K−0102(13)に準拠して測定し、pHを堀場製作所「pH METER F−52」を用いてJIS K−0102(12.1)のガラス電極法に準拠して測定し、更に、酸化還元電位(mV)をTOA DKK社製「ORP METER RM−20P」を用いて測定した。
【0094】
6時間振盪を行った後、3000rpmの遠心分離、0.45μmのメンブレンフィルターで固液分離を行い、ろ液(処理水)中のセシウム濃度、ろ液の導電率(mS/m)、pH、及び酸化還元電位(mV)を測定した。また、対象水と処理水とでのセシウム濃度の変化からゼオライト微粒子へのセシウムの除去率を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
また、表1に示した結果に基づいて、図4に、pHの影響によるセシウム吸着変化を示す。
【0096】
【表1】

【0097】
(実施例2)*ストロンチウム吸着試験
ストロンチウム標準液(和光純薬工業社製:炭酸ストロンチウム、ストロンチウム濃度1000mg/L)を希釈して、ストロンチウム濃度10mg/Lに調整した対象水(原水)を100mLずつビーカーに分取し、各々のビーカーに、実施例1と同様にして得た放射性物質処理剤5mLを添加した。放射性物質処理剤添加後に、ビーカー毎に対象水のpHを、HCl又はNaOHの添加により、2.0、3.9、5.6、6.4、7.0又は12.2に調整した。
【0098】
対象水中のストロンチウム濃度をAgilent Technologies社製ICP質量分析機「Agilent 7500Series」を用いJIS K−0102のICP質量分析法に準拠して測定し、その他、対象水の導電率(mS/m)、pH、酸化還元電位(mV)についても実施例1と同様にして測定した。
【0099】
6時間振盪を行った後、3000rpmの遠心分離、0.45μmのメンブレンフィルターで固液分離を行い、ろ液(処理水)中のストロンチウム濃度、ろ液の導電率(mS/m)、pH、及び酸化還元電位(mV)を測定した。また、対象水と処理水とでのストロンチウム濃度の変化からゼオライト微粒子へのストロンチウムの除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0100】
また、表2に示した結果に基づいて、図5に、pHの影響によるストロンチウム吸着変化を示す。
【0101】
【表2】

【0102】
<評価>
実施例1のセシウム吸着試験の結果を示す表1及び図4より、放射性物質処理剤のセシウムに対する高い吸着効果が確認できる。pH5.5〜6.8付近において、吸着効果が特に高いものとなることがわかる。
【0103】
また、実施例2のストロンチウム吸着試験の結果を示す表2及び図5より、放射性物質処理剤のストロンチウムに対する高い吸着効果が確認できる。pH5.1〜6.7付近において、吸着効果が特に高いものとなることがわかる。
【0104】
[2.吸着率の反応時間依存性]
(実施例3)
平均粒径が5μmの福島県飯坂産のモルデナイトからなるゼオライト微粒子粉10gを容器に採り、水を少しずつ加えてよく混合しながら全容を200mLとした。その後、超音波発生装置(アズワン社製「USD−3R」)を用い、出力120Wで28kHの音波で30分間超音波処理し、スラリー分散微粒子を生成して放射性物質処理剤を得た。
【0105】
セシウム標準液(和光純薬工業社製:塩化セシウム、セシウム濃度1000mg/L)を希釈して、セシウム濃度0.93mg/Lとした溶液を、250mlずつ300mlビーカーに分取し、各々のビーカーに放射性物質処理剤を50mL/L添加し、ジャーテスターを用いて140rpmで撹拌した。撹拌時間(反応時間)はビーカー毎に、1分間、2.5分間、5分間、又は60分間の所定時間となるように設定した。
【0106】
所定時間の撹拌後、各々のビーカーに無機系凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)を300mg/L(比重1.25なので60μl/250ml)添加し、140rpmで2分間撹拌し、その後撹拌速度を50rpmに低下させて更に2分間撹拌した。
【0107】
更に、高分子凝集剤を4mg/L(1000倍希釈なので1ml/250ml)添加し、140rpmで2分間撹拌し、その後撹拌速度を50rpmに低下させて更に2分間撹拌した。
【0108】
溶液を60分間静置した後、上澄水(処理水)を取り出し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により、上澄水中のセシウム濃度を計測した。
【0109】
結果を表3に示す。また、処理水と原水のセシウム濃度の変化からセシウム除去率を算出し、これを反応時間でプロットしたグラフを図6に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
<評価>
表3及び図6に示すグラフより、反応時間が1分の時点で、除去率99.78%を実現しており、短時間の反応で高いセシウム除去効率を達成することがわかる。それ故、本発明によれば、上述したように、配管を移送中の原水に放射性物質処理剤を注入し、配管中で反応させる態様を好適に用いることが可能となる。
【0112】
(実施例4)
平均粒径が5μmの福島県飯坂産のモルデナイトからなるゼオライト微粒子粉10gを容器に採り、水を少しずつ加えてよく混合しながら全容を200mLとした。その後、超音波発生装置(アズワン社製「USD−3R」)を用い、出力120Wで28kHの音波で30分間超音波処理し、スラリー分散微粒子を生成して放射性物質処理剤を得た。
【0113】
セシウム標準液(和光純薬工業社製:塩化セシウム、セシウム濃度1000mg/L)を希釈して、セシウム濃度20mg/Lとした溶液(原水)を150mLずつ300mLポリ容器に分取し、各々のポリ容器に放射性物質処理剤67mL/Lを添加して振盪を行った。振盪時間は、ビーカー毎に、5分間、30分間、1時間又は3時間の所定時間となるように設定した。
【0114】
所定時間の振盪後、3000rpmで5分間遠心分離し、0.45μmのメンブレンフィルターで固液分離を行い、濾液(処理水)中のセシウム濃度を測定した。
【0115】
結果を表4に示す。また、処理水中のセシウム濃度を振盪時間でプロットしたグラフを図7に示す。更に、原水と処理水のセシウム濃度の変化からセシウム除去率を算出し、これを振盪時間(反応時間)でプロットしたグラフを図8に示す。
【0116】
(比較例1)
実施例4において、用いたモルデナイトの平均粒径を5μmから800μmに代えた以外は、実施例4と同様にして、濾液(処理水)中のセシウム濃度を測定した。
【0117】
結果を表4に示す。また、処理水中のセシウム濃度を振盪時間でプロットしたグラフを図7に示す。更に、原水と処理水のセシウム濃度の変化からセシウム除去率を算出し、これを振盪時間(反応時間)でプロットしたグラフを図8に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
<評価>
表4及び図7、8に示すグラフより、平均粒径が5μmのゼオライト微粒子を用いた実施例4では、平均粒径が800μmの比較例1と比較して、格段に短い時間で、高いセシウム除去率を達成することがわかる。
【0120】
[3.放射性物質処理剤の添加量が吸着率に及ぼす影響]
(実施例5)
平均粒径が5μmの福島県飯坂産のモルデナイトからなるゼオライト微粒子粉10gを容器に採り、水を少しずつ加えてよく混合しながら全容を200mLとした。その後、超音波発生装置(アズワン社製「USD−3R」)を用い、出力120Wで28kHの音波で30分間超音波処理し、スラリー分散微粒子を生成して放射性物質処理剤を得た。
【0121】
セシウム標準液(和光純薬工業社製:塩化セシウム、セシウム濃度1000mg/L)を希釈して、セシウム濃度0.93mg/Lとした溶液を、250mlずつ300mlビーカーに分取し、各々のビーカーに放射性物質処理剤を添加した。添加量は、各々のビーカー毎に、30mL/L、40mL/L、又は50mL/Lとなるように添加した。放射性物質処理剤を添加後、ジャーテスターを用いて140rpmで撹拌した。撹拌時間は何れのビーカーも2.5分間とした。
【0122】
撹拌後、各々のビーカーに無機系凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)を300mg/L(比重1.25なので60μl/250ml)添加し、140rpmで2分間撹拌し、その後撹拌速度を50rpmに低下させて更に2分間撹拌した。
【0123】
更に、高分子凝集剤を4mg/L(1000倍希釈なので1ml/250ml)添加し、140rpmで2分間撹拌し、その後撹拌速度を50rpmに低下させて更に2分間撹拌した。
【0124】
溶液を60分間静置した後、上澄水(処理水)を取り出し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により、上澄水中のセシウム濃度を計測した。
【0125】
結果を表5に示す。また、処理水中のセシウム濃度、及び、原水と処理水のセシウム濃度の変化からセシウム除去率を算出し、これを放射性物質処理剤の添加量でプロットしたグラフを図9に示す。
【0126】
【表5】

【0127】
<評価>
表5及び図9に示すグラフより、試験を行った何れの添加量の場合においても、高い吸着能力が得られることがわかる。
【0128】
また、放射性物質処理剤の添加量を多くすることで、更にセシウム除去率が向上することがわかる。この理由としては、添加量を多くしたことにより、全体としてセシウム吸着面積が拡大したこと、及び、凝集剤によるフロック形成が促進されて固液分離の効率が向上したことが考えられる。
【符号の説明】
【0129】
10:水槽
20:吸着反応管
21:原水ポンプ
22:静的混合器
23:静的混合器
30:固液分離手段
40:脱水手段
50:貯留タンク
51:注入配管
60:気液接触塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径5.0μm以下のモルデナイトからなる天然ゼオライト微粒子を分散手段によって水中に分散してスラリー分散微粒子を生成するスラリー分散微粒子生成工程を有することを特徴とする放射性物質処理剤の製造方法。
【請求項2】
前記天然ゼオライト微粒子は、モルデナイトからなる天然ゼオライトを微粉砕手段によって微粉砕して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の放射性物質処理剤の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー分散微粒子生成工程における分散手段として、超音波振動装置を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の放射性物質処理剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の放射性物質処理剤の製造方法により得られたことを特徴とする放射性物質処理剤。
【請求項5】
モルデナイトからなる天然ゼオライトを微粉砕して得られた平均粒径5.0μm以下の天然ゼオライト微粒子を水中に分散してなる放射性物質処理剤。
【請求項6】
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水に、請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を添加する工程と、
前記添加工程後に、前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
前記吸着工程後に、前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子と放射性物質が除去された処理水とに固液分離する固液分離工程と、
を有することを特徴とする放射線汚染廃水の処理方法。
【請求項7】
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水に、請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を添加する工程と、
前記添加工程後に、前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
前記吸着工程後に、前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子と放射性物質が除去された処理水とに固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で固液分離された前記カチオン性放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子を、脱水する脱水工程と、
脱水後、ガラス化処理して放射能を封じ込める放射能封じ込め工程と、
を有することを特徴とする放射性物質の封じ込め方法。
【請求項8】
請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む汚染土壌と前記放射性物質処理剤を混合撹拌する工程と、
汚染土壌に含まれる前記カチオン性放射性物質を前記放射性物質処理剤の前記天然ゼオライト微粒子に吸着させ、前記放射性物質を土壌から前記天然ゼオライト微粒子側に移行させて汚染土壌を洗浄する工程と、
次いで、放射性物質が除去された土壌と、放射性物質を吸着した前記天然ゼオライト微粒子とに分級処理する分級処理工程と、
を有することを特徴とする放射性物質を含む土壌の処理方法。
【請求項9】
請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を、セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む被処理ガスと接触させる気液接触工程と、
前記カチオン性放射性物質を、前記放射性物質処理剤の前記スラリー分散微粒子に吸着する吸着工程と、
を有することを特徴とする放射性物質を含む汚染排ガスの処理方法。
【請求項10】
セシウムまたはストロンチウムの何れか1種または2種を含むカチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水を貯留する水槽から、引き抜き、吸着反応管に前記放射線汚染廃水を圧送する原水ポンプを備え、
該吸着反応管には、前記請求項4又は5記載の放射性物質処理剤を注入する注入配管が接続され、
該吸着反応管内において、前記放射性物質処理剤のスラリー分散微粒子と前記カチオン性放射性物質を含む放射線汚染廃水とを撹拌しつつ、吸着反応により、放射線汚染廃水から前記カチオン性放射性物質を除去することを特徴とする放射線汚染廃水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−247405(P2012−247405A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130694(P2011−130694)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(510019794)株式会社アステック東京 (3)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】