説明

放射線位置検出装置

【課題】 位置分解能に優れた放射線位置検出装置を提供する。
【解決手段】 放射線位置検出装置は、電極3を有し、放射線rの入射位置に応じて電極の一端Aに第1信号を出力するとともに電極の他端Bに第2信号を出力する放射線位置検出器1と、第1プリアンプ5aと、第1コンデンサ4aと、第2プリアンプ5bと、第2コンデンサ4bと、第1信号及び第2信号の強度比から放射線の入射位置を測定する測定部と、を備えている。第1プリアンプ5aの時定数は電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aによる時定数未満であり、第2プリアンプ5aの時定数は電極の抵抗成分及び第2コンデンサ4bによる時定数未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器施設等において、施設内部の放射線漏れを監視するために放射線検出器が用いられている。例えば、加速器施設において、陽子、電子等の粒子が、軌道から外れてしまう場合がある。この場合、放射線検出器は、軌道から外れた、即ちロスしたビームを検出するために用いられ、調整等の作業の指針を与える等の重要な役割を担っている。一般に、ロスしたビームを検出する場合、ロスビームによる放射線は比較的線量が大きいため、放射線検出器としては電離箱が使用される。
【0003】
しかしながら、上記電離箱は、放射線の有無を検出することができるものの、放射線の位置情報を検出することは困難である。そこで、放射線の位置情報を検出することができる放射線位置検出装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】「放射線計測ハンドブック(第3版)」、日刊工業新聞社、215頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記放射線位置検出装置は、高圧が印加される電極を有した放射線位置検出器、電極の両端に接続されたプリアンプ、並びに電極及びプリアンプの間にそれぞれ設けられ、高圧をカットするコンデンサを備えている。放射線位置検出器は、入射される放射線を電気的信号に変換し、信号を電極の両端に出力する。電極の両端に出力される信号の大きさ(電荷量)は、放射線の発生位置(入射位置)に依存する。
【0005】
電極の両端から出力される信号は、コンデンサを介してプリアンプに出力され、積分される。信号がプリアンプで積分される際、プリアンプのコンデンサに電荷が蓄積されるが、高圧をカットするコンデンサにも同量の電荷が蓄積される。プリアンプで積分された信号は、その後、波形整形され、A/D変換される。そして、上記放射線位置検出装置は、それぞれ電極の両端から出力されるとともにA/D変換された信号の強度比を基に、位置情報を取得している。
【0006】
ところで、高圧をカットするコンデンサに蓄積された電荷は電極を介して充放電される。上記放射線位置検出装置は上記した影響を受けるため、波形整形された信号の波形に、オーバーシュート又はアンダーシュートとなる歪みが生じることになる。このため、放射線位置検出装置において、入射される放射線が少ないときは位置分解能に優れているものの、入射される放射線が多いとき(高計数率時)では位置分解能が低下してしまう。
【0007】
詳述すると、入射される放射線が多いときは、波形整形された信号のパルスの間隔が短くなるため、オーバーシュート又はアンダーシュートが生じている間にパルスが発生することになる。すると、上記発生したパルスの波高値は実際の値より低く又は高くなる。そして、波形整形されたパルスをA/D変換すると、パルスの波高値は、本来の値より低く又は高くなる。その結果、放射線位置検出装置による位置演算結果が変動し、位置分解能が低下してしまう。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、位置分解能に優れた放射線位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係る放射線位置検出装置は、
抵抗性の電極を有し、放射線の入射位置に応じて前記電極の一端に第1信号を出力するとともに前記電極の他端に第2信号を出力する放射線位置検出器と、
前記電極の一端に接続された第1プリアンプと、
前記電極の一端及び第1プリアンプ間に接続された第1コンデンサと、
前記電極の他端に接続された第2プリアンプと、
前記電極の他端及び第2プリアンプ間に接続された第2コンデンサと、
前記第1プリアンプ及び第2プリアンプに接続され、前記第1プリアンプから前記第1信号が伝送されるとともに、前記第2プリアンプから前記第2信号が伝送され、前記第1信号及び第2信号の強度比から放射線の入射位置を測定する測定部と、を備え、
前記第1プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第1コンデンサによる時定数未満であり、
前記第2プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第2コンデンサによる時定数未満である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、位置分解能に優れた放射線位置検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態に係る放射線位置検出装置について詳細に説明する。
図1に示すように、放射線位置検出型の検出装置である放射線位置検出装置は、放射線位置検出器1と、第1コンデンサ4aと、第2コンデンサ4bと、電荷積分型の前置増幅器である第1プリアンプ5a及び第2プリアンプ5bと、阻止抵抗6と、高圧電源部7と、第1波形整形アンプ10aと、第2波形整形アンプ10bと、第1A/D変換器11aと、第2A/D変換器11bと、測定部である演算回路12とを備えている。
【0011】
放射線位置検出器1は、外側ケース2と、外側ケース内に収容された抵抗性の電極3と、外側ケース内に収容されているとともに、電極3を囲んで設けられた図示しない他の電極とを有している。
【0012】
他の電極は、陰極であり、円筒状に形成されている。ここで、他の電極は0V(ボルト)電位である。電極3は、陽極であり、他の電極内部に収容されている。電極3は他の電極の中心軸に沿って延出して設けられている。電極3の形状はワイヤ状である。ここで、電極3には、+数kVの高圧が印加される。電極3の抵抗値は、数kΩである。電極3及び他の電極は絶縁されている。
【0013】
外側ケース2は筒状に形成されている。外側ケース2は電極3との絶縁状態を保った状態で電極3及び他の電極を収容して設けられている。この実施の形態において、外側ケース2の両側面は閉塞され、外側ケース2内部は気密である。
【0014】
他の電極内部を含む外側ケース2内部には電離ガスとして、希ガスをベースとした混合ガスが封入されている。ここで、高放射線場でもガスが重合されないガスを選定している。
【0015】
ここで、上記放射線位置検出器1による放射線位置検出方法について説明する。
放射線位置検出器1に放射線rが入射されると、放射線は外側ケース2内部のガスを電離させることになる。これにより、イオンと電子による電荷が発生する。放射線rの入射位置(発生位置)において、電子は陽極である電極3に収集される。そして、放射線位置検出器1は、放射線rの入射位置に応じて電極3の一端Aに第1信号を出力するとともに電極3の他端Bに第2信号を出力する。すなわち、第1信号及び第2信号は、それぞれ放射線rの入射位置に応じた電荷量を持つ。
【0016】
ここで、電極3の一端Aから他端Bまでの長さをL、電極3の一端Aから放射線の入射位置までの長さをxとする。すると、電極3の一端Aに出力される第1信号の電荷量Q及び、電極3の他端Bに出力される第2信号の電荷量Qは次に示す式で表される。
【0017】
=(Q+Q)×(L−x)/L
=(Q+Q)×x/L
上記した式から判るように、放射線rの入射位置が一端Aと他端Bとの中間の場合(x=L/2)、第1信号の電荷量Qと第2信号の電荷量Qとが同一となる。また、放射線rの入射位置が他端Bより一端Aに近い場合(x<L/2)、第1信号の電荷量Qが第2信号の電荷量Qより大きくなる。逆に、放射線rの入射位置が一端Aより他端Bに近い場合(x>L/2)、第2信号の電荷量Qが第1信号の電荷量Qより大きくなる。
【0018】
第1プリアンプ5aは電極3の一端Aに接続されている。第1コンデンサ4aは電極3の一端A及び第1プリアンプ5a間に接続されている。より詳しくは、第1コンデンサ4aは、放射線位置検出器1のコネクタを介して電極3の一端Aに接続されている。第2プリアンプ5bは電極3の他端Bに接続されている。第2コンデンサ4bは電極3の他端B及び第2プリアンプ5b間に接続されている。より詳しくは、第2コンデンサ4bは、放射線位置検出器1のコネクタを介して電極3の他端Bに接続されている。
【0019】
演算回路12は第1プリアンプ5a及び第2プリアンプ5bに接続されている。第1波形整形アンプ10aは第1プリアンプ5a及び演算回路12間に接続されている。第1A/D変換器11aは第1波形整形アンプ10a及び演算回路12間に接続されている。第2波形整形アンプ10bは第2プリアンプ5b及び演算回路12間に接続されている。第2A/D変換器11bは第2波形整形アンプ10b及び演算回路12間に接続されている。
【0020】
第1プリアンプ5aは、オペアンプ13aと、コンデンサである積分コンデンサ9aと、抵抗である放電抵抗8aとを有している。オペアンプ13aは、第1コンデンサ4a及び第1波形整形アンプ10a間に配置されている。積分コンデンサ9aは、オペアンプ13aに並列に接続されている。放電抵抗8aは、オペアンプ13a及び積分コンデンサ9aに並列に接続されている。第1プリアンプ5aの時定数をτp1とする。時定数τp1は、積分コンデンサ9a及び放電抵抗8aにより設定(決定)される。
【0021】
第1プリアンプ5aには、放射線位置検出器1から出力される第1信号が入力される。これにより、第1プリアンプ5aは第1信号の電荷を収集する。第1プリアンプ5aが収集した電荷は積分コンデンサ9aに蓄積される。
【0022】
第2プリアンプ5bは、オペアンプ13bと、コンデンサである積分コンデンサ9bと、抵抗である放電抵抗8bとを有している。オペアンプ13bは、第2コンデンサ4b及び第2波形整形アンプ10b間に配置されている。積分コンデンサ9bは、オペアンプ13bに並列に接続されている。放電抵抗8bは、オペアンプ13b及び積分コンデンサ9bに並列に接続されている。第2プリアンプ5bの時定数をτp2とする。時定数τp2は、積分コンデンサ9b及び放電抵抗8bにより設定(決定)される。
【0023】
この実施の形態において、第1プリアンプ5aの時定数τp1及び第2プリアンプ5bの時定数τp2は同一である。このため、以下、第1プリアンプ5aの時定数及び第2プリアンプ5bの時定数をτpとする。
【0024】
第2プリアンプ5bには、放射線位置検出器1から出力される第2信号が入力される。これにより、第2プリアンプ5bは第2信号の電荷を収集する。第2プリアンプ5bが収集した電荷は積分コンデンサ9bに蓄積される。
【0025】
高圧電源部7は、第1コンデンサ4aより電極3の一端A側において、阻止抵抗6を介して電極3の一端Aに接続されている。もう一つの高圧電源部7は、第2コンデンサ4bより電極3の他端B側において、阻止抵抗6を介して電極3の他端Bに接続されている。高圧電源部7は、阻止抵抗6を介して電極3に高圧を印加するものである。阻止抵抗6は、放射線位置検出器1で発生した電荷が高圧電源部7側に流れないよう設けられている。
【0026】
電極3に高圧が印加されているため、第1プリアンプ5aは、高圧カット用の第1コンデンサ4aを介して電極3の一端Aに接続されている。同様に、第2プリアンプ5bも、高圧カット用の第2コンデンサ4bを介して電極3の他端Bに接続されている。
【0027】
ここで、電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aにより設定(決定)される時定数をτd1とし、電極3の抵抗成分及び第2コンデンサ4bにより設定(決定)される時定数をτd2とする。この実施の形態において、時定数τd1及び時定数τd2は同一である。このため、以下、電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aによる時定数と、電極3の抵抗成分及び第2コンデンサ4bによる時定数とをτdとする。
【0028】
第1波形整形アンプ10aは、第1プリアンプ5aから入力される第1信号を波形整形するものであり、第1信号の波形をパルス幅の短い波形とするものである。これにより、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合であっても第1信号の複数のパルスの重なりを防止することができる。
【0029】
第2波形整形アンプ10bも、第1波形整形アンプ10aと同様、第2プリアンプ5bから入力される第2信号を波形整形するものであり、第2信号の波形をパルス幅の短い波形とするものである。これにより、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合であっても第2信号の複数のパルスの重なりを防止することができる。
【0030】
第1A/D変換器11aは、第1信号をA/D変換(デジタイズ)するものであり、これにより、第1信号のパルスの波高値を求めることができる。第2A/D変換器11bは、第2信号をA/D変換(デジタイズ)するものであり、これにより、第2信号のパルスの波高値を求めることができる。
【0031】
演算回路12には、第1プリアンプ5aから第1信号が伝送されるとともに、第2プリアンプ5bから第2信号が伝送される。より詳しくは、演算回路12には、第1A/D変換器11aからデジタル変換された第1信号が伝送されるとともに、第2A/D変換器11bからデジタル変換された第2信号が伝送される。演算回路12は、入力された第1信号及び第2信号の強度比から放射線rの入射位置を演算(測定)するものである。このため、演算回路12は、第1信号の電荷量Qの情報及び第2信号の電荷量Qの情報を取得し、取得した情報から長さxを求める演算を行い、放射線rの入射位置を求めるものである。
【0032】
次に、この実施の形態の実施例1及び2並びに比較例1及び2の放射線位置検出装置及びこの放射線位置検出装置を用いた放射線の位置検出方法について説明する。
【0033】
(比較例1)
図1に示すように、比較例1の放射線位置検出装置は、上述したように形成されている。比較例1において、時定数τpは時定数τdの2倍である(τd=0.5×τp)。
【0034】
次いで、放射線位置検出装置を用いた放射線の位置検出方法について図1、図2、図3、図4及び図5を参照しながら説明する。
まず、放射線rが放射線位置検出器1に入射されると、外側ケース2内部のガスと反応し、電荷が発生する。発生した電荷は、高圧が印加されている電極3に収集される。これにより、放射線の入射位置に重なった電極3から矩形状の波形を有した信号が発生する(図2(a))。この信号の電荷量(波高値)はQ+Qである。
【0035】
そして、この信号は、電極3の一端Aに第1信号として出力され、電極3の他端Bに第2信号として出力される(図2(b)乃至(d))。第1信号の電荷量はQであり、第2信号の電荷量はQである。
【0036】
放射線位置検出器1から出力される第1信号は第1プリアンプ5aに入力される。積分コンデンサ9aに蓄積される電荷量はQである。ここで、放射線位置検出器1及び第1プリアンプ5aは第1コンデンサ4aを介して接続されるため、第1信号の電荷は積分コンデンサ9aだけでなく第1コンデンサ4aにも蓄積される。第1コンデンサ4aに蓄積される電荷量はQである。
【0037】
また、放射線位置検出器1から出力される第2信号は第2プリアンプ5bに入力される。積分コンデンサ9bに蓄積される電荷量はQである。ここで、放射線位置検出器1及び第2プリアンプ5bは第2コンデンサ4bを介して接続されるため、第2信号の電荷は積分コンデンサ9bだけでなく第2コンデンサ4bにも蓄積される。第2コンデンサ4bに蓄積される電荷量はQである。
そして、第1コンデンサ4aの電荷量Qと、第2コンデンサ4bの電荷量Qとが異なる場合、第1コンデンサ4a及び第2コンデンサ4bは、抵抗性の電極3を介して充放電し、これにより、第1コンデンサ4aの電荷量及び第2コンデンサ4bの電荷量は同一となる。
【0038】
x<1/2×Lの場合、Q<Qである。すると、第1コンデンサ4aは放電し、第2コンデンサ4bは充電される。より詳しくは、電荷量Q及び電荷量Qの差の半分が第2信号に嵩上げされる。このため、第2信号の電荷量はQからQ+(Q−Q)/2に変化する(図2(b))。そして、第2信号が嵩上げされた分、第2コンデンサ4bは充電される。
【0039】
x=1/2×Lの場合、Q=Qである。この場合、第1コンデンサ4a及び第2コンデンサ4b間に電荷の移動はない。このため、第2信号の電荷量はQから変化しない(図2(c))。
【0040】
x>1/2×Lの場合、Q>Qである。すると、第2コンデンサ4bは放電し、第1コンデンサ4aは充電される。より詳しくは、電荷量Q及び電荷量Qの差の半分が第2信号から嵩減りする。このため、第2信号の電荷量はQからQ−(Q−Q)/2に変化する(図2(d))。そして、第2信号が嵩減りした分、第2コンデンサ4bは放電する。
【0041】
上記したことから、積分コンデンサ9aに蓄積される電荷量は、放射線位置検出器1で発生する矩形状のパルスで示される電荷量Qと、第2コンデンサ4bの充放電で発生する時定数を持った電荷量の和となる。
【0042】
なお、ここでは、放射線位置検出器1から出力される第2信号について説明したが、放射線位置検出器1から出力される第1信号についても同様である。この場合、電荷量Qを電荷量Qと読み替え、x<1/2×Lの場合とx>1/2×Lの場合とを取り替えれば良い。
【0043】
このため、x<1/2×Lの場合、第1プリアンプ5aから出力される第1信号の電荷量(積分コンデンサ9aに蓄積された電荷量)Qは、時定数τpで減衰する(図2(e)L1)のではなく、実際は、時定数τpで減衰する分に加えて第2コンデンサ4bに充電される電荷量だけ早く減衰する(図2(e)L2)。
【0044】
x=1/2×Lの場合、第1コンデンサ4a及び第2コンデンサ4bに充放電はないため、第1プリアンプ5aから出力される第1信号の電荷量(積分コンデンサ9aに蓄積された電荷量)Qは、時定数τpで減衰する(図2(f))。
【0045】
x>1/2×Lの場合、第2コンデンサ4bによる放電により電荷が積分コンデンサ9aに蓄積されるため、第1プリアンプ5aから出力される第1信号の電荷量(積分コンデンサ9aに蓄積された電荷量)Qは、時定数τpで減衰する(図2(g)L1)のではなく、実際は、時定数τpで減衰するより遅くなる(図2(g)L2)。
【0046】
上記したように、放射線位置検出器1及び第1プリアンプ5aは第1コンデンサ4aを介して接続されている。このため、第1プリアンプ5aの出力の減衰時定数は一定ではなく、放射線の入射位置に応じて変化する。
【0047】
なお、ここでは、第1プリアンプ5aから出力される第1信号について説明したが、第2プリアンプ5bから出力される第2信号についても同様である。この場合、電荷量Qを電荷量Qと読み替え、x<1/2×Lの場合とx>1/2×Lの場合とを取り替えれば良い。放射線位置検出器1及び第2プリアンプ5bも第2コンデンサ4bを介して接続されているため、第2プリアンプ5bの出力の減衰時定数も一定ではなく、放射線の入射位置に応じて変化する。
【0048】
第1プリアンプ5aから出力される第1信号は、第1プリアンプ5aの減衰時定数(通常、数100μs)よりも短い時定数(通常、数μs)を持ち、微分回路と積分回路で構成される第1波形整形アンプ10aで波形整形される。この際、波形整形した第1信号のパルスにオーバーシュートやアンダーシュートのような歪みが生じないようにポールゼロ調整を行う。
【0049】
x=1/2×Lの場合、第1プリアンプ5aの減衰時定数は一定であるため、第1波形整形アンプ10aから出力される第1信号に歪みは生じない(図3(b))。このため、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合であっても第1信号の複数のパルスの重なりは防止できる。
【0050】
しかしながら、x<1/2×Lの場合、第1プリアンプ5aの減衰時定数は一定でなく、第1プリアンプ5aから出力される第1信号の減衰は早くなり、第1信号のパルスにオーバーシュートが生じてしまう(図3(a))。このため、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合、パルスに生じたオーバーシュートの上に次に到来するパルスが重なり、パルスの波高値は本来の値より低くなる(図4)。そして、第1A/D変換器11aで第1信号のパルスをA/D変換すると、第1信号のパルスの波高値は本来の値より低くなる。この結果、演算回路12による放射線rの入射位置の演算結果は変動し、位置分解能は低下してしまう。
【0051】
同様に、x>1/2×Lの場合、第1プリアンプ5aの減衰時定数は一定でなく、第1プリアンプ5aから出力される第1信号の減衰は遅くなり、第1信号のパルスにアンダーシュートが生じてしまう(図3(c))。このため、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合、パルスに生じたアンダーシュートの上に次に到来するパルスが重なり、パルスの波高値は本来の値より高くなる。そして、第1A/D変換器11aで第1信号のパルスをA/D変換すると、第1信号のパルスの波高値は本来の値より高くなる。この結果、演算回路12による放射線rの入射位置の演算結果は変動し、位置分解能は低下してしまう。
【0052】
図5は、図2の(e)乃至(g)に示した第1信号を重ねて示す図である。図5に示すように、放射線rの入射位置が異なることで、第1信号の減衰の度合に大きなばらつきが生じていることが分かる。すなわち、第1プリアンプ5a(第2プリアンプ5b)の減衰時定数に大きなばらつきが生じていることで、位置分解能が低下してしまう。
【0053】
(比較例2)
図1に示すように、比較例2の放射線位置検出装置は、比較例1の放射線位置検出装置と同様、上述したように形成されている。比較例2において、時定数τpと時定数τdは同一である(τd=τp)。
【0054】
また、放射線位置検出装置を用いた放射線の位置検出方法は、比較例1の場合と同様である。図6に示すように、放射線rの入射位置が異なっていると、第1信号の減衰の度合にばらつきが生じていることが分かる。すなわち、第1プリアンプ5a(第2プリアンプ5b)の減衰時定数にばらつきが生じていることで、位置分解能が低下してしまう。
【0055】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の放射線位置検出装置は、比較例1等の放射線位置検出装置と同様、上述したように形成されている。実施例1において、時定数τpは時定数τd未満である。より詳しくは、時定数τpは時定数τdの1/2倍である(τd=2×τp)。
【0056】
また、放射線位置検出装置を用いた放射線の位置検出方法は、比較例1等の場合と同様である。但し、この実施例1において、τd=2×τpであるため、図7に示すように、放射線rの入射位置が異なっていても、第1信号の減衰の度合のばらつきが抑制されていることが分かる。すなわち、第1プリアンプ5a(第2プリアンプ5b)の減衰時定数のばらつきが抑制されている。第1波形整形アンプ10aで波形整形された第1信号のパルスに生じる恐れのあるオーバーシュートやアンダーシュートのような歪みは抑制される。波形整形された第2信号のパルスに生じる恐れのある歪みも抑制されることは言うまでもない。このため、位置分解能の低下を抑制することができる。
【0057】
(実施例2)
図1に示すように、実施例2の放射線位置検出装置は、比較例1等の放射線位置検出装置と同様、上述したように形成されている。実施例2において、時定数τpは時定数τd未満である。より詳しくは、時定数τpは時定数τdの1/10倍である(τd=10×τp)。
【0058】
また、放射線位置検出装置を用いた放射線の位置検出方法は、比較例1等の場合と同様である。但し、この実施例2において、τd=10×τpであるため、図8に示すように、放射線rの入射位置が異なっていても、第1信号の減衰の度合がほぼ同一であることが分かる。すなわち、第1プリアンプ5a(第2プリアンプ5b)の減衰時定数はほぼ同一である。第1波形整形アンプ10aで波形整形された第1信号のパルスに生じる恐れのあるオーバーシュートやアンダーシュートのような歪みは一層抑制される。波形整形された第2信号のパルスに生じる恐れのある歪みも一層抑制されることは言うまでもない。このため、位置分解能の低下を一層抑制することができる。
【0059】
以上のように構成された放射線位置検出装置によれば、第1プリアンプ5aの時定数τpは、電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aによる時定数τd未満であり、第2プリアンプ5bの時定数τpは、電極3の抵抗成分及び第2コンデンサ4bによる時定数τd未満である。これにより、放射線が電極3の中心側に入射したものとみなすことができ、第1コンデンサ4a及び第2コンデンサ4bによる充放電の影響を小さくすることができる。放射線が電極3の一端A又は他端b側に入射した場合であっても、放射線が電極3の中心側に入射した場合と同様に充放電の影響を小さくすることができる。
【0060】
このため、放射線rの入射位置が異なっていても、第1プリアンプ5a及び第2プリアンプ5bの減衰時定数をほぼ一定にすることができる。そして、波形整形された第1信号及び第2信号のパルスに生じる恐れのある歪みは抑制される。これにより、放射線位置検出器1に入射する放射線の数が多い場合、パルスと、次に到来するパルスとの重なりを抑制することができるため、パルスの波高値の変化を抑制でき、パルスの本来の波高値を得ることができる。この結果、演算回路12による放射線rの入射位置の演算結果は安定するため、良好な位置分解能を得ることができる。
【0061】
上記した効果は、第1プリアンプ5aの時定数τpが電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aによる時定数τdの1/2以下であり、第2プリアンプ5bの時定数τpが電極3の抵抗成分及び第2コンデンサ4bによる時定数τdの1/2以下であればより大きく、第1プリアンプ5aの時定数τpが電極3の抵抗成分及び第1コンデンサ4aによる時定数τdの1/10以下であり、第2プリアンプ5bの時定数τpが電極3の抵抗成分及び第2コンデンサ4bによる時定数τdの1/10以下であればさらに大きい。
上記したことから、位置分解能に優れた放射線位置検出装置を得ることができる。
【0062】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0063】
放射線位置検出装置は、電極3の一端A及び第1プリアンプ5a間に接続された第1抵抗と、電極3の他端B及び第2プリアンプ5b間に接続された第2抵抗と、をさらに備えていても良い。例えば、第1抵抗が電極3の一端A及び第1コンデンサ4a間に接続され、第2抵抗が電極3の他端B及び第2コンデンサ4b間に接続されていれば良い。又は、第1抵抗が第1コンデンサ4a及び第1プリアンプ5a間に接続され、第2抵抗が第2コンデンサ4b及び第2プリアンプ5b間に接続されていれば良い。上記した場合、第1プリアンプ5aの時定数τpが、電極3の抵抗成分、第1抵抗及び第1コンデンサ4aによる時定数τd未満であり、第2プリアンプ5bの時定数τpが、電極3の抵抗成分、第2抵抗及び第2コンデンサ4bによる時定数τd未満であれば上述した効果を得ることができる。
【0064】
時定数τp1が時定数τd1未満であり、時定数τp2が時定数τd2未満であれば、第1プリアンプの時定数τp1及び第2プリアンプの時定数τp2が互いに異なっていても良い。
【0065】
時定数τp1が時定数τd1未満であり、時定数τp2が時定数τd2未満であれば、第1コンデンサ4aの容量及び第2コンデンサ4bの容量が互いに異なっていたり、放電抵抗8aの抵抗値及び放電抵抗8bの抵抗値が互いに異なっていたり、積分コンデンサ9aの容量及び積分コンデンサ9bの容量が互いに異なっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の実施の形態の放射線位置検出装置を示す概略構成図。
【図2】上記放射線位置検出装置で発生した信号を示すタイミングチャートであり、特に、上記実施の形態の比較例1の放射線位置検出装置において、(a)放射線位置検出装置で発生した信号、(b)x<1/2×L時に電極から出力される第2信号、(c)x=1/2×L時に電極から出力される第2信号、(d)x>1/2×L時に電極から出力される第2信号、(e)x<1/2×L時に第1プリアンプから出力される第1信号、(f)x=1/2×L時に第1プリアンプから出力される第1信号、(g)x>1/2×L時に第1プリアンプから出力される第1信号を示す図。
【図3】図2に続き、上記放射線位置検出装置で発生した信号を示すタイミングチャートであり、特に、上記実施の形態の比較例1の放射線位置検出装置において、(a)x<1/2×L時に第1波形整形アンプから出力される第1信号、(b)x=1/2×L時に第1波形整形アンプから出力される第1信号、(c)x>1/2×L時に第1波形整形アンプから出力される第1信号を示す図。
【図4】図3(a)に示したパルスが連続して発生した場合に、第1波形整形アンプから出力される第1信号を示す図。
【図5】上記実施の形態の比較例1の放射線位置検出装置において、第1プリアンプから出力される第1信号を示す図。
【図6】上記実施の形態の比較例2の放射線位置検出装置において、第1プリアンプから出力される第1信号を示す図。
【図7】上記実施の形態の実施例1の放射線位置検出装置において、第1プリアンプから出力される第1信号を示す図。
【図8】上記実施の形態の実施例2の放射線位置検出装置において、第1プリアンプから出力される第1信号を示す図。
【符号の説明】
【0067】
1…放射線位置検出器、3…電極、4a…第1コンデンサ、4b…第2コンデンサ、5a…第1プリアンプ、5b…第2プリアンプ、8a,8b…放電抵抗、9a,9b…積分コンデンサ、10a…第1波形整形アンプ、10b…第2波形整形アンプ、11a…第1D変換器、11b…第2D変換器、12…演算回路、13a,13b…オペアンプ、r…放射線、A…一端、B…他端、x,L…長さ、Q,Q…電荷量、τd,τd1,τd2,τp,τp1,τp2…時定数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗性の電極を有し、放射線の入射位置に応じて前記電極の一端に第1信号を出力するとともに前記電極の他端に第2信号を出力する放射線位置検出器と、
前記電極の一端に接続された第1プリアンプと、
前記電極の一端及び第1プリアンプ間に接続された第1コンデンサと、
前記電極の他端に接続された第2プリアンプと、
前記電極の他端及び第2プリアンプ間に接続された第2コンデンサと、
前記第1プリアンプ及び第2プリアンプに接続され、前記第1プリアンプから前記第1信号が伝送されるとともに、前記第2プリアンプから前記第2信号が伝送され、前記第1信号及び第2信号の強度比から放射線の入射位置を測定する測定部と、を備え、
前記第1プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第1コンデンサによる時定数未満であり、
前記第2プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第2コンデンサによる時定数未満である放射線位置検出装置。
【請求項2】
前記第1プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第1コンデンサによる時定数の1/2以下であり、
前記第2プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分及び前記第2コンデンサによる時定数の1/2以下である請求項1に記載の放射線位置検出装置。
【請求項3】
前記第1プリアンプの時定数及び前記第2プリアンプの時定数は同一である請求項1に記載の放射線位置検出装置。
【請求項4】
前記第1プリアンプ及び測定部間に接続され、前記第1信号をデジタル変換する第1A/D変換器と、
前記第2プリアンプ及び測定部間に接続され、前記第2信号をデジタル変換する第2A/D変換器と、をさらに備えている請求項1に記載の放射線位置検出装置。
【請求項5】
前記第1プリアンプは、前記第1コンデンサ及び測定部間に接続されたオペアンプ、前記オペアンプに並列に接続されたコンデンサ並びに前記オペアンプ及びコンデンサに並列に接続された抵抗を有し、前記コンデンサ及び抵抗により前記第1プリアンプの時定数に設定され、
前記第2プリアンプは、前記第2コンデンサ及び測定部間に接続されたオペアンプ、前記オペアンプに並列に接続されたコンデンサ並びに前記オペアンプ及びコンデンサに並列に接続された抵抗を有し、前記コンデンサ及び抵抗により前記第2プリアンプの時定数に設定されている請求項1に記載の放射線位置検出装置。
【請求項6】
前記電極の一端及び第1プリアンプ間に接続された第1抵抗と、
前記電極の他端及び第2プリアンプ間に接続された第2抵抗と、をさらに備え、
前記第1プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分、前記第1抵抗及び前記第1コンデンサによる時定数未満であり、
前記第2プリアンプの時定数は、前記電極の抵抗成分、前記第2抵抗及び前記第2コンデンサによる時定数未満である請求項1に記載の放射線位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−204529(P2009−204529A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48486(P2008−48486)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】