説明

放射線処理用難燃加工剤および難燃加工方法

【課題】難燃性を十分に付与できる難燃加工剤および難燃加工方法を提供すること。
【解決手段】ラジカル重合性を有する難燃剤および放射線架橋可能な水溶性高分子を含有することを特徴とする放射線処理用難燃加工剤、および予め繊維素材に対して放射線を照射した後、上記難燃加工剤を水溶液形態で付与することを特徴とする難燃加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線処理を行う難燃加工方法において使用される難燃加工剤および該難燃加工剤を用いた難燃加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より上市されている難燃剤は、ポリエステル繊維用が主流であり、綿や麻等の天然繊維やレーヨン等の再生繊維に代表されるセルロース系繊維などの後加工に使用することができない。また、従来の難燃剤は、難燃性を十分に付与できないことや遊離ホルムアルデヒド濃度が高いなどの問題があり、十分な難燃性や皮膚に対する安全性を要求される衣服類用として使用できるものは見当たらない。
【0003】
難燃加工方法としては、繊維素材に難燃剤を付与する前あるいは/および後に放射線を照射する方法が報告されている(特許文献1〜4)。難燃剤としては、ビニルホスホネートオリゴマー、ビニルホスホネート、ホスファイト化合物等が使用される。
【特許文献1】特公平1−20268号公報
【特許文献2】特開平5−163673号公報
【特許文献3】特開2001−254272号公報
【特許文献4】特開2006−183166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの難燃剤および難燃加工方法を採用しても、やはり十分な難燃性を付与できなかった。
【0005】
本発明は、難燃性を十分に付与できる難燃加工剤および難燃加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ラジカル重合性を有する難燃剤および放射線架橋可能な水溶性高分子を含有することを特徴とする放射線処理用難燃加工剤、および繊維素材に上記難燃加工剤を水溶液形態で付与した後、放射線を照射することを特徴とする難燃加工方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る難燃加工剤または難燃加工方法によれば、繊維素材に対して、改良された難燃性を十分に付与でき、好ましくは初期の難燃性だけでなく、洗濯に対する耐久難燃性も付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る放射線処理用難燃加工剤(以下、単に加工剤ということがある)は、ラジカル重合性を有する難燃剤および放射線架橋可能な水溶性高分子を含有するものである。そのような加工剤を用いると、加工時の放射線処理によって、難燃剤がラジカル重合性基を介して繊維素材に化学的に結合するようになり、しかも水溶性高分子が架橋して三次元網目構造を形成するようになる。三次元網目構造は難燃性の向上に寄与するので、難燃性が改良されるものと考えられる。しかも三次元網目構造は水に対して不溶性を示すので、耐久難燃性が向上すると考えられる。ラジカル重合性を有しない難燃剤を単独で用いたり、放射線架橋できない水溶性高分子を用いたりすると、十分な難燃性が得られない。
【0009】
ラジカル重合性を有する難燃剤(以下、ラジカル重合性難燃剤という)は、難燃性を示す有機化合物のうち、分子内にラジカル重合性基を有するものである。ラジカル重合性基は、ラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含有する官能基であり、例えば、ビニル基、メタ(ア)クリロイル基、アリル基等が挙げられる。本明細書中、難燃性とは、繊維を燃えにくくする特性、あるいは当該繊維が着火したとしても炎が広がらないように作用する特性である。難燃剤は繊維表面に存在することにより、そのような難燃性を繊維に付与する化学薬剤である。本発明においては、鉛直メタンバーナー法に基づいて、水平面に対して垂直に設置された繊維素材の下端に垂直方向に吹き出したガスバーナー由来の火炎を当てた場合に、素材の炭化が起こり、燃焼を十分に防止できる。
【0010】
そのようなラジカル重合性難燃剤として、例えば、ラジカル重合性リン含有化合物、ラジカル重合性臭素含有化合物等が挙げられる。
【0011】
ラジカル重合性リン含有化合物はリン原子を含有し、かつラジカル重合性基を含有する構造を有するものであればよく、不飽和有機リン酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられ、例えば、一般式(1)で表されるビニルホスフェート化合物(以下、ビニルホスフェート化合物(1)という)が好ましく使用される。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、好ましくはRはメチル基であり、Rは水素原子である。
は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を表し、好ましくは水素原子である。
nは1または2である。
mは1〜6の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1である。
【0014】
一般式(1)のビニルホスフェート化合物の好ましい具体例として、例えば、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0015】
ビニルホスフェート化合物は市販品として入手可能である。
例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートはシグマアルドリッチジャパン(株)、共栄社化学(株)より入手可能である。
また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとの混合物は「ALBRITECTTM6835」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。
また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーM」(ユニケミカル(株)製)として入手可能である。
また例えば、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「SIPOMER PAM−100」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。
また例えば、ポリエチレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーPE」(ユニケミカル(株)社製)として入手可能である。
【0016】
ラジカル重合性臭素含有化合物は、臭素原子およびラジカル重合性基を含有するものであればよく、例えば、トリブロモスチレン、ペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。
【0017】
ラジカル重合性難燃剤は、難燃性および作業性の観点から、ラジカル重合性リン含有化合物、特にビニルホスフェート化合物(1)が好ましい。
【0018】
ラジカル重合性難燃剤の含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではない。特に加工剤が難燃加工時に採用される水溶液形態を有するときにおいて、ラジカル重合性難燃剤の含有量が加工剤水溶液全量に対して10〜70重量%、特に20〜60重量%となるような量でラジカル重合性難燃剤は加工剤に含まれることが好ましい。ラジカル重合性難燃剤は一種類のものを単独で使用されてもよいし、または二種類以上のものを組み合わせて使用されてもよい。二種類以上のラジカル重合性難燃剤を使用する場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0019】
水溶性高分子は、放射線を照射されることにより架橋可能なものであれば特に制限されるものではない。放射線架橋可能とは、放射線照射で生成したポリマーラジカルの再結合反応が起こり、そのポリマーラジカルが再結合するにあたり架橋が起こり、網目構造が形成されるという意味である。
【0020】
水溶性高分子の具体例として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルメチルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸(例えば、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、ポリアルギニン酸など)、多糖類であるデンプン、ペクチン、キチン及びアルギン酸などが挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールが使用される。
【0021】
水溶性高分子は、難燃性のさらなる向上の観点から、平均重合度が300〜5000のものを使用することが好ましく、難燃性と水への溶解性、作業性とのバランスの観点から、より好ましくは500〜4000である。
【0022】
水溶性高分子の含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではない。特に加工剤が難燃加工時に採用される水溶液形態を有するときにおいて、水溶性高分子の含有量が加工剤水溶液全量に対して1〜20重量%、特に2〜7重量%となるような量で水溶性高分子は加工剤に含まれることが好ましい。水溶性高分子は一種類のものを単独で使用されてもよいし、または二種類以上のものを組み合わせて使用されてもよい。二種類以上の水溶性高分子を使用する場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0023】
本発明の難燃加工剤には、難燃性のさらなる向上の観点から、ラジカル重合性を有しない難燃剤がさらに含有されることが好ましい。
ラジカル重合性を有しない難燃剤(以下、添加型難燃剤という)は、難燃性を示す有機または無機化合物のうち、分子内にラジカル重合性基を有しないものである。
【0024】
そのような添加型難燃剤として、例えば、添加型リン含有化合物、添加型窒素含有化合物等が挙げられる。
【0025】
添加型リン含有化合物は、リン原子を含有するが、ラジカル重合性基を含有しない構造を有するものであり、無機系のものと、有機系のものとに大別される。無機系のもの(添加型リン含有無機化合物)として、例えば、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クロロホスファゼン、アミドホスファゼンオリゴマー、プロポキシホスファゼンオリゴマー等が挙げられる。リン酸アンモニウムはリン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウムまたはそれらの混合物を包含して意味するものとする。有機系のもの(添加型リン含有有機化合物)として、例えば、リン酸グアニジン、ポリ化リン酸メラミンおよびトリクレジルホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステル等が挙げられる。リン酸グアニジンは、リン酸とグアニジンとからなる塩形態を有するものである。
【0026】
添加型窒素含有化合物は、窒素原子を含有するが、リン原子やラジカル重合性基を含有しない構造を有するものであり、例えば、グアニジン系化合物およびメラミン系化合物等が挙げられる。
グアニジン系化合物はグアニジン骨格を含有する有機化合物であり、その具体例として、例えば、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素等が挙げられる。メラミン系化合物はメラミン骨格を含有する有機化合物であり、その具体例として、例えば、硫酸メラミン等が挙げられる。
【0027】
添加型難燃剤は、難燃性のさらなる向上の観点から、添加型リン含有化合物が好ましく、組み合わせとして、無機系と有機系とを組み合わせて使用することが好ましい。特に好ましい組み合わせは、リン酸アンモニウムとリン酸グアニジウム塩との組み合わせである。
【0028】
添加型難燃剤の含有量は特に制限されるものではない。通常は加工剤が難燃加工時に採用される水溶液形態を有するときにおいて、加工剤水溶液全量に対して1〜50重量%となるような量で添加型難燃剤は加工剤に含まれることが好ましい。添加型難燃剤は一種類のものを単独で使用されてもよいし、または二種類以上のものを組み合わせて使用されてもよい。二種類以上の添加型難燃剤を使用する場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0029】
特に添加型リン含有無機化合物の含有量は加工剤水溶液全量に対して10〜30重量%がより好ましい。添加型リン含有有機化合物の含有量は加工剤水溶液全量に対して10〜30重量%がより好ましい。
【0030】
本発明の加工剤が含有する成分の組み合わせの好ましい具体例を以下に示す;
(1)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリビニルアルコール;
(2)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリエチレンオキサイド;
(3)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリビニルアルコール−添加型リン含有化合物;
(4)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリエチレンオキサイド−添加型リン含有化合物;
(5)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリビニルアルコール添加型リン含有無機化合物(特にリン酸アンモニウム);
(6)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリエチレンオキサイド−添加型リン含有無機化合物(特にリン酸アンモニウム);
(7)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリビニルアルコール−添加型リン含有有機化合物(特にリン酸グアニジン);
(8)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリエチレンオキサイド−添加型リン含有有機化合物(特にリン酸グアニジン);
(9)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリビニルアルコール−添加型リン含有無機化合物(特にリン酸アンモニウム)−添加型リン含有有機化合物(特にリン酸グアニジン);
(10)ラジカル重合性リン含有化合物(特にビニルホスフェート化合物(1))−ポリエチレンオキサイド−添加型リン含有無機化合物(特にリン酸アンモニウム)−添加型リン含有有機化合物(特にリン酸グアニジン)。
【0031】
本発明の加工剤には、水への溶解性を高めるために界面活性剤等の他の成分がさらに含有されてもよい。
【0032】
本発明の加工剤が付与される繊維素材は特に制限されず、例えば、天然繊維である綿、リネン及びラミー、その他植物繊維、及び羊毛、モヘア及びカシミヤ、その他獣毛繊維、再生繊維であるレーヨン、ポリノジック、モダール、キュプラ及びテンセル、半合成繊維であるトリアセテート及びジアセテートのセルロース系繊維等が挙げられる。特に、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、アセテート等のセルロース誘導体を含むセルロース系繊維が挙げられる。繊維素材はいかなる形態を有していてもよく、例えば、ワタ形態;紡績糸、混紡糸、複合糸等の糸形態;織物、編物、不織布等の布帛形態;及びこれらの布帛からなる繊維製品であってもよい。なお、天然セルロースには天然のままのもののほか、シルケット加工されたものおよび液体アンモニア処理されたものを含む。繊維素材には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びアクリルなどの合成繊維が含まれていても良い。
【0033】
加工剤の付与方法は、加工剤水溶液が素材に含浸される限り特に制限されず、例えば、水溶液に素材を浸漬して絞る方法、水溶液を素材に塗布する方法、水溶液をスプレーなどを用いて噴霧にて付与する方法等を採用すればよい。難燃性を簡便かつ均一に付与する観点からは、水溶液に素材を浸漬して絞る方法を採用することが好ましい。
【0034】
加工剤水溶液の素材に対する含浸率は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は水溶液の難燃剤濃度が大きいほど、含浸率は小さくてもよい。一方、難燃剤濃度が小さいほど、含浸率は大きく設定される。例えば、水溶液のラジカル重合性難燃剤濃度が上記した濃度に設定される場合、含浸率は通常、50〜100重量%、好ましくは60〜80重量%に設定される。
本明細書中、含浸率は、乾燥時の素材重量に対する水溶液の含浸量の割合で示される。
【0035】
加工剤水溶液の付与方法として水溶液に素材を浸漬して絞る方法を採用する場合、浸漬された素材は上記含浸率が達成されるまで絞られる。絞る方法としては、均一性の観点から、マングルに通す方法を採用することが好ましい。
【0036】
加工剤水溶液には有機溶剤が含有されてもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン、キシレン等が使用可能である。
【0037】
加工剤水溶液を付与した後、通常は、熟成処理を行う。熟成処理とは、素材とラジカル重合性難燃剤が反応し、化学結合を形成するにあたり反応が飽和になるようにある程度の温度状態にして反応を促進させることである。例えば、加工薬剤水溶液を付与した素材を1分間〜24時間程度保持すればよい。
【0038】
本発明では放射線を照射する。これによって、難燃剤がラジカル重合性基を介して繊維素材に化学的に結合するようになり、しかも水溶性高分子が架橋して皮膜を形成するようになる。
【0039】
例えば、繊維素材としての綿繊維に対してラジカル重合性難燃剤としてのモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートが化学的に結合する場合の結合形態を以下に例示する。なお、「Cell」はセルロースを示す。
【0040】
Cell−(CH−C(CH))

COOCHCHOP(=O)(OH) (A)

Cell−(CH−C(CH))−Cell

COOCHCHOP(=O)(OH) (B)
(式中、nは1以上の整数である。)
【0041】
放射線照射によって綿繊維に生じるラジカルはセルロース分子の構造単位における5位の炭素、次に4位や1位の炭素に生成しやすく、さらには2,3,6位の炭素にも生成するものと推測される。ラジカル重合性難燃剤はいずれの炭素に結合してもよい。繊維に生成したラジカルを開始点として、ラジカル重合性難燃剤のラジカル重合性基に転移したラジカルに、さらに別のラジカル重合性難燃剤のラジカル重合性基が結合し、これが連鎖的に起こる。ある程度の連鎖になると末端ラジカル同士の結合や他のセルロースラジカルとの結合により、停止反応が起こる。
【0042】
ラジカル重合性難燃剤は1分子単独で綿繊維に結合していてもよいし、または綿繊維に結合したラジカル重合性難燃剤分子から別の1またはそれ以上のラジカル重合性難燃剤分子がラジカル重合反応によって伸長(グラフト)してもよい。
【0043】
放射線としては、例えば、電子線、ベータ線、アルファ線などのような粒子線、紫外線、エックス線、ガンマ線などのような電離放射線等が使用できる。中でも、取り扱いやすさ、安全性やラジカルを有効に発生させる観点から、電子線を採用することが好ましい。
【0044】
放射線の照射条件は、水溶性高分子の架橋が達成されればよく、例えば、強条件で短時間の照射が行われても、または弱条件で長時間の照射が行われても良い。具体的には、電子線を照射する場合、通常は1〜200kGy、好ましくは5〜100kGy、より好ましくは10〜50kGyの照射量が達成されればよい。
【0045】
特に、電子線を照射する場合は、窒素雰囲気下で照射を行うことが好ましく、また透過力があるため、素材の片面に照射するだけでよい。
電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エリアビーム型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用される。
【0046】
放射線を照射した後は通常、水洗により未反応成分を除去し、乾燥が行われる。乾燥は例えば、素材を20〜85℃で0.5〜24時間保持することによって達成される。
【0047】
本発明においては、予め繊維素材に対して放射線を照射した後、上記のように加工剤を付与することが好ましく、さらに加工剤を付与後に再度放射線を照射することが特に好ましい。これによって、ラジカル重合性難燃剤の繊維素材への化学的結合が促進され、難燃性がより有効に発現する。
【0048】
上記した難燃加工剤および難燃加工方法を用いて処理された繊維素材は、付与された難燃加工剤を効率よく繊維表面に有しながらも、網目構造の皮膜を有している。
【0049】
上記した難燃加工剤および難燃加工方法を用いて処理された繊維素材に難燃加工剤を有することは、蛍光X線分析法を採用する装置、例えば走査型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)によって、難燃加工剤に含有される特定元素の存在を確認することによって検知できる。例えば、ビニルホスフェート化合物(1)および添加型リン化合物等の特定元素はリンである。
【実施例】
【0050】
実施例1
シルケット処理綿100%の生地の一方の面に対して、エリアビーム型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を40kGy照射した。電子線照射した生地を、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート(共栄社化学(株)製;商品名ライトエステルP−1M;以下「P1M」と略す)30重量%、リン酸アンモニウム(クラリアントジャパン(株)製;商品名PEKOFLAME NPP;以下「NPP」と略す)30重量%、リン酸グアニジン(アピノン−303;日本カーバイド工業(株)製;以下「AP303」と略す)10重量%及び重合度1000のポリビニルアルコール(ナカライテスク(株)製;以下「PVA」と略す)5重量%を混合・溶解した水溶液(混合薬剤)に浸漬し、マングルで生地に対して約70重量%の含浸量となるようになるように絞り、35℃で18時間熟成処理した。さらに、照射しなかったもう一方の面を再度、エリアビーム型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を40kGy照射した。照射後、35℃で2時間熟成処理し、未反応の混合薬剤を除去するため水洗し、ついで80℃で1時間乾燥した。
【0051】
実施例2
実施例1の混合薬剤について、PVAの重合度が500であること以外は実施例1と同様な処理を実施した。
実施例3
実施例2の混合薬剤について、PVAの代わりに、ポリエチレンオキサイド(明成化学工業(株)製;商品名アルコックスL−6;重合度約1400;以下「PEO」と略す)を5重量%で用いたこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
実施例4
実施例3の混合薬剤について、PEOを2重量%で用いたこと以外は実施例3と同様な処理を実施した。
比較例1
実施例2の混合薬剤について、PVAを用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
比較例2
混合薬剤付与前においても、熟成処理後においても、電子線を照射しなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
【0052】
実施例5
実施例2の混合薬剤について、AP303を用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
実施例6
実施例4の混合薬剤について、AP303を用いなかったこと以外は実施例4と同様な処理を実施した。
比較例3
実施例2の混合薬剤について、AP303およびPVAを用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
【0053】
実施例7
実施例2の混合薬剤について、NPPを用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
実施例8
実施例2の混合薬剤について、NPPを用いなかったこと、およびPVAを2重量%で用いたこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
実施例9
実施例4の混合薬剤について、NPPを用いなかったこと以外は実施例4と同様な処理を実施した。
比較例4
実施例2の混合薬剤について、NPPおよびPVAを用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
【0054】
実施例10
実施例2の混合薬剤について、NPPおよびAP303を用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
実施例11
実施例4の混合薬剤について、NPPおよびAP303を用いなかったこと以外は実施例4と同様な処理を実施した。
比較例5
実施例2の混合薬剤について、NPP、AP303およびPVAを用いなかったこと以外は実施例2と同様な処理を実施した。
【0055】
評価
(重量増加率)
処理前の生地重量に対する乾燥後の生地重量増加分の割合を求めた。
【0056】
(難燃性)
処理された生地の難燃性について洗濯前後で評価した。洗濯は財団法人日本防炎協会認定基準に準じて実施した。難燃性評価では、財団法人日本防炎協会認定の衣服類の防炎製品における燃焼性試験方法(通称、鉛直メタンバーナー法)に準じた試験方法により炭化長を測定した。その結果を表1にまとめた。同じ洗濯回数のときの炭化長を比較するとき、炭化長が短いほど、難燃性が高いことを示す。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性を有する難燃剤および放射線架橋可能な水溶性高分子を含有することを特徴とする放射線処理用難燃加工剤。
【請求項2】
ラジカル重合性を有する難燃剤がリン含有化合物である請求項1に記載の難燃加工剤。
【請求項3】
ラジカル重合性を有しない難燃剤としてリン含有化合物をさらに含有する請求項1または2に記載の難燃加工剤。
【請求項4】
ラジカル重合性を有しない難燃剤としてリン含有無機化合物とリン含有有機化合物をさらに含有する請求項1または2に記載の難燃加工剤。
【請求項5】
予め繊維素材に対して放射線を照射した後、請求項1〜4のいずれかに記載の難燃加工剤を水溶液形態で付与することを特徴とする難燃加工方法。
【請求項6】
難燃加工剤を付与した後、さらに繊維素材に対して放射線を照射することを特徴とする請求項5に記載の難燃加工方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃加工剤を用いて処理された繊維素材。

【公開番号】特開2009−30188(P2009−30188A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193146(P2007−193146)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】