説明

放射線遮蔽壁

【課題】鉛を全く使用することなく、放射線の漏洩を確実に防止し得るとともに低コスト化を実現する放射線遮蔽壁を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は上記目的を達成するために、少なくとも2枚の鉛フリー放射線防護材3a,3bを積層した積層体の層間に所要厚さの鉄板4を挟み込んで構成した放射線遮蔽壁を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽壁に関するものであり、特に、鉛を全く使用することなく、通常使用での放射線の漏洩を大きく減弱し得る放射線遮蔽壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、次のような放射線の遮蔽構造体が知られている。この従来技術は、放射線発生源を取り囲むようにして設置される放射線の遮蔽構造体が、それぞれほぼ全面にわたって鉛板が組み込まれた壁パネル及び天井パネルによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−294895号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の従来技術においては、壁パネル及び天井パネルに有害な鉛板がほぼ全面にわたって、そのまま組み込まれている。このため、これらによって構成される放射線の遮蔽構造体についても、有害性が懸念されるとともにコスト高につくという問題があった。
【0004】
そこで、鉛を全く使用することなく、通常使用での放射線の漏洩を大きく減弱し得るとともに低コスト化を実現するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、少なくとも2枚の無鉛ボードを積層した積層体を有する放射線遮蔽壁であって、前記積層体の層間に所要厚さの鉄板を挟み込んで構成した放射線遮蔽壁を提供する。
【0006】
この構成によれば、無鉛ボードとして、低コストで環境に配慮した素材である硫酸バリウム混入石膏ボードが用いられる。このような無鉛ボードを積層体とすることで、その遮蔽性能(鉛当量)が、無鉛ボード1枚当たりの遮蔽性能の積層数倍に高められる。そして、さらに比較的遮蔽性能の高い鉄素材を所要厚さのボードとして前記積層体の層間に挟み込んだ構成とすることで、積層体の厚みを大きく増すことなく遮蔽性能がさらに高められる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記積層体を構成する上記各無鉛ボードは、適宜大きさの無鉛ボード構成材を複数連接して構成するとともに、前記各無鉛ボードにおける一方の無鉛ボードの目地部と他方の無鉛ボードの目地部とは互いに位置ずれするように構成した放射線遮蔽壁を提供する。(積層された各層の目地部をずらす)
【0008】
この構成によれば、積層体を構成する各無鉛ボードを複数の無鉛ボード構成材を連接して構成する場合において、積層体を構成する一方の無鉛ボードの目地部と他方の無鉛ボードの目地部とが一致しないようにする(積層された各層の目地部をずらす)ことで、一方の側の目地部から放射線の漏洩が生じたとしても、この漏洩した放射線は、他方の側の目地部以外の部分で遮蔽されて、遮蔽性能が高められる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明は、無鉛ボードとして、低コストである硫酸バリウム混入石膏ボードを用い、このような無鉛ボードを積層体とすることで、その遮蔽性能を、無鉛ボード1枚当たりの遮蔽性能の積層数倍に高めることができる。さらに比較的遮蔽性能の高い鉄素材を所要厚さのボードとして前記積層体の層間に挟み込むことで、遮蔽性能をさらに高めることができる。したがって、鉛を全く使用することなく、放射線の漏洩を大きく減弱し得るとともに低コスト化を実現することができるという利点がある。
【0010】
請求項2記載の発明は、積層体を構成する一方の無鉛ボードの目地部と他方の無鉛ボードの目地部とが一致しないように構成したことで、放射線の漏洩を確実に防止することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
鉛を全く使用することなく、放射線の漏洩を確実に防止し得るとともに低コスト化を実現するという目的を、少なくとも2枚の無鉛ボードを積層した積層体を有する放射線遮蔽壁であって、前記積層体の層間に所要厚さの鉄板を挟み込んで構成することにより実現した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に従って詳述する。図1は放射線遮蔽壁の縦断面図、図2は放射線遮蔽壁の横断面図である。まず、本実施例に係る放射線遮蔽壁の構成を説明する。図1及び図2中の放射線遮蔽壁1は、放射線発生源としての図示しない医用X線装置を使用する部屋を囲むように構築された放射線遮蔽構造体2の主構成要素として設けられている。該放射線遮蔽壁1は、2枚の無鉛ボード3a,3bを積層した積層体の層間に所要厚さの鉄板4を挟み込んで構成されている。
【0013】
前記鉛フリー放射線防護材3a,3bは、ここでは硫酸バリウムを石膏と混合し、ガラス繊維で補強した硫酸バリウム混入石膏ボードを素材として形成されており、鉛は全く使用されていない。前記硫酸バリウムは、造影材として胃腸のレントゲン検査にも使用されているものであり、前記石膏は、天然石膏の他、火力発電所から化学的に副生される副生石膏(化学石膏)を原材料としたものであり、環境配慮材料である。前記ガラス繊維は、体外に排出されやすい性質があり、吸い込んだとしても体内に残ることは殆どない。また、無鉛ボード3a,3bは、コスト的には、鉛ボードと比較して約20%低コスト(平成20年4月現在)である。
【0014】
無鉛ボード3a(又は3b)は、1枚当たり、12.5mm厚さで、鉛当量(遮蔽性能)が0.75m/m以上のものが用いられている。図1及び図2の適用例では、この無鉛ボード3a,3b部分の鉛当量を1.5m/m以上に設定するため、前述のように、2枚の無鉛ボード3a,3bを積層した積層体が用いられている。無鉛ボード部分の鉛当量をさらに大きく設定する場合は、3枚以上の無鉛ボードを積層した積層体としてもよい。
【0015】
そして、本実施例では、積層体の厚みを大きく増すことなく遮蔽性能をさらに高めるため、比較的遮蔽性能の高い鉄素材を、例えば0.8mm厚さの鉄板4とし、該鉄板4を積層体の層間に挟み込んだ構成としている。また、該鉄板4の両面に配置されて積層体を構成している2枚の無鉛ボード3a,3bは、それぞれ適宜大きさの無鉛ボード構成材を複数連接して構成するとともに、一方の無鉛ボード3aの連接部に形成される目地部5aと、他方の無鉛ボード3bの連接部に形成される目地部5bとが、互いに位置ずれするように配置されている。
【0016】
上述のように構成された放射線遮蔽壁1の室外側には、軽鉄下地6により形成された、
65mm間隔以上の空気層7と、さらにその室外側に、1枚当たり、12.5mm厚さの石膏ボードを2層貼りした2層貼り石膏ボード層8が形成されて、放射線遮蔽構造体2が構築されている。放射線遮蔽壁1を主構成要素として構築された放射線遮蔽構造体2における室内側から見た遮蔽性能は、鉛当量2.0m/m以上である。
【0017】
該放射線遮蔽構造体2における上下両端部や両側部の入隅部9a、出隅部9b等に隙間が生じる場合には、この入隅部9a、出隅部9b等に放射線遮蔽性能を有する無鉛パテの充填処理が行われている。前記目地部5aと5bも隙間が生じる場合は無鉛パテの充填処理が行われている。
【0018】
次に、上述のように構成された放射線遮蔽壁の作用を説明する。2枚の無鉛ボード3a,3bを用いて積層体としたことで、その遮蔽性能を無鉛ボード3a(又は3b)1枚当たりの鉛当量の2倍に設定することができる。そして、さらに比較的遮蔽性能の高い鉄素材を0.8mm厚さの鉄板4として前記積層体の層間に挟み込んだ構成としたことで、積層体の厚みを大きく増すことなく遮蔽性能をさらに高めることが可能となる。
【0019】
積層体を構成する各無鉛ボード3a,3bを複数の無鉛ボードを連接して構成した場合において、該積層体を構成する一方の無鉛ボード3aの目地部5aと他方の無鉛ボード3bの目地部5bとが一致しないようにしたことで、一方の側の目地部5aから放射線の漏洩が生じたとしても、この漏洩した放射線は、他方の側の目地部5b以外の部分で遮蔽されるので、遮蔽性能を高めることが可能となる。
【0020】
上述したように、本実施例に係る放射線遮蔽壁1においては、無鉛ボード3a(又は3b)として、鉛ボードと比較して低コストである硫酸バリウム混入石膏ボードを使用し、このような無鉛ボード3a,3bの2枚を用いて積層体とし、該積層体の層間に、比較的遮蔽性能の高い鉄素材を0.8mm厚さの鉄板4として挟み込んだことで、鉛を全く使用することなく、放射線の漏洩を大きく減弱し得るとともに低コスト化を実現することができる。
【0021】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係る放射線遮蔽壁の縦断面図。
【図2】同上放射線遮蔽壁の横断面図。
【符号の説明】
【0023】
1 放射線遮蔽壁
2 放射線遮蔽構造体
3a 無鉛ボード(放射線防護材)
3b 無鉛ボード(放射線防護材)
4 鉄板
5a 目地部
5b 目地部
6 軽鉄下地
7 空気層
8 2層貼り石膏ボード層
9a 入隅部
9b 出隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の鉛フリー放射線防護材(以下無鉛ボードと称する)を積層した積層体を有する放射線遮蔽壁であって、前記積層体の層間に所要厚さの鉄板を挟み込んで構成したことを特徴とする放射線遮蔽壁の施工方法。
【請求項2】
上記積層体を構成する上記各無鉛ボードは、適宜大きさの無鉛ボードを複数連接して構成するとともに、前記各無鉛ボードにおける一方の無鉛ボードの目地部と他方の無鉛ボードの目地部とは互いに位置ずれするように構成したことを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽壁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−32270(P2010−32270A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192727(P2008−192727)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(593192438)医建エンジニアリング株式会社 (4)