説明

放射線遮蔽物品

【課題】本発明は、多量の放射線が照射されても、樹脂フィルムが褐色に着色することや樹脂フィルムの発砲、干渉縞の発生がなく、視認性が良好であり、徐冷時間を短くすることにより短期間で大量に作製することが可能であるとともに、放射線遮蔽ガラス板どうしの剥離が生じる虞の少ない放射線遮蔽物品を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の放射線遮蔽物品は、放射線遮蔽能を有する複数の放射線遮蔽ガラス板を樹脂により貼り合せて積層してなる放射線遮蔽物品であって、前記樹脂は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を遮蔽するための放射線遮蔽物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚さ5mm〜500mmの放射線遮蔽ガラス板からなる放射線遮蔽物品は、使用済み核燃料の保管、処理施設などの原子力関連施設、CTスキャンやレントゲンなどの医療機器を使用する医療施設、X線回折装置や粒子加速装置などの測定装置を使用する研究施設、における観察用の窓ガラスとして使用されている。また、使用済み核燃料を処理するために用いられるフォークリフトやクレーンなどの重機の窓ガラスとしても使用されている。
【0003】
そして、この放射線遮蔽物品を構成している放射線遮蔽ガラス板は、用途に応じて厚さが異なり、医療施設と比べて放射線量が多量となる原子力関連施設や重機で使用する場合、放射線遮蔽能力を高めるために厚い放射線遮蔽ガラス板、具体的には厚さ200mm以上の放射線遮蔽ガラス板が用いられている。このような厚さ200mm以上の放射線遮蔽ガラス板は、鋳型に溶融ガラスを流し込み、鋳型内で徐冷することによって作製される、所謂鋳込み法により作製されている。
【0004】
鋳込み法によって作製される放射線遮蔽ガラス板は、通常の窓ガラスと比べて非常に厚い為、非常にゆっくりと冷却しないと熱応力によって破損するおそれがあるために、常温に冷却するまでに数ヶ月の期間を要する。このように、徐冷期間が長いため、放射線遮蔽ガラス板を短時間に大量に生産することができない。そこで、特許文献1に開示されているように、放射線遮蔽能力を有する複数の板ガラスを樹脂フィルムによって貼り合せることによって、厚さ200mm以上の放射線遮蔽物品を作製することが試みられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−315490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線遮蔽ガラス板及び樹脂フィルムは、放射線が照射されることによって程度の差があるものの褐色に着色する。放射線遮蔽ガラス板及び樹脂フィルムが褐色に着色することによって、放射線遮蔽物品を通じて対象物を観察した時の視認性が低下する。
【0007】
また、樹脂フィルムの種類によっては、放射線が照射されることで樹脂が発泡して気泡が発生したり、放射線遮蔽ガラス板との接着力が低下したりする。放射線遮蔽ガラス板は、金枠に固定されているため崩落するようなことはないが、放射線遮蔽ガラス板と樹脂フィルムの間にわずかな隙間が生じることで、干渉縞が発生したり、気泡によって光が散乱されることで視認性が低下する虞がある。
【0008】
本発明は、多量の放射線が照射されても、樹脂フィルムが褐色に着色、樹脂フィルムの発砲、干渉縞の発生がなく、視認性が良好であり、徐冷時間を短くすることにより短期間で大量に作製することが可能であるとともに、放射線遮蔽ガラス板どうしの剥離が生じる虞の少ない放射線遮蔽物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、放射線遮蔽ガラス板を貼り合せる際に使用する樹脂として、主剤と硬化剤を混合することによって作製される2液系の樹脂を用い、そして樹脂に含まれる硫黄の含有量を、従来の樹脂よりも少量とすることによって、多量の放射線の照射により樹脂が褐色に着色することを抑制することが可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の放射線遮蔽物品は、放射線遮蔽能を有する複数の放射線遮蔽ガラス板を樹脂により貼り合せて積層してなる放射線遮蔽物品であって、前記樹脂は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の放射線遮蔽物品を構成している樹脂は、厚さ1mmあたりのY値が50以上であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の放射線遮蔽物品を構成している樹脂は、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の放射線遮蔽物品を構成している樹脂は、エポキシ系樹脂の主剤と、チオール系の硬化剤とを混合して硬化する2液系の樹脂であり、前記主剤と前記硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が、1.5:1.0〜9.0:1.0であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の放射線遮蔽物品は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ30mmあたりのY値が70以上であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の放射線遮蔽物品は、厚さ30mmあたりのY値が80以上であることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の放射線遮蔽物品は、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ30mmあたりのY値が70以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
多量の放射線が照射された場合でも、褐色に着色しにくい樹脂を用いているため、放射線が長時間照射されたとしてもY値の高い、すなわち視認性が良好であり、長期間にわたって使用可能な放射線遮蔽物品を提供することが可能となる。また、本発明に係る放射線遮蔽物品は、放射線遮蔽ガラス板を複数枚積層させてなるため、従来と比べて放射線遮蔽物品を構成している放射線遮蔽ガラス板は薄く、徐冷に要する時間が短くなり、短時間で放射線遮蔽物品を作製することが可能となる。また、本発明に係る放射線遮蔽物品を構成している樹脂は、放射線が長時間照射されたとしても接着性が低下し難いため、放射線遮蔽ガラス板どうしが剥離し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の放射線遮蔽物品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
本発明の放射線遮蔽物品10は、図1の断面図で示すように、樹脂層1を介して複数枚の放射線遮蔽板ガラス2が貼着されて構成されている。図1では、一例として放射線遮蔽ガラス板が5枚されてなる放射線遮蔽物品10を示している。
【0021】
樹脂層1は、複数枚の放射線遮蔽ガラス板2を貼着させるために、粘着性を有するものであり、放射線遮蔽ガラス板2の主面すなわち貼着面に対して略一様に貼着されてなる。樹脂層1が粘着性を有し、貼着面に対して略一様に貼着されることにより、放射線遮蔽ガラス板2どうしを強固に貼着させることが可能となる。樹脂層1の厚さは、1〜100μmであることが好ましい。樹脂層1の厚さが1μmより小さいと、樹脂層1の粘着力が小さくなるため、放射線遮蔽ガラス板2が剥離する虞があるため好ましくない。一方、樹脂層1の厚さが100μmより大きいと、放射線遮蔽ガラス板2どうしを貼着させる際に、樹脂層1が固着するまでに時間を要するとともに、貼着作業性が低下するため好ましくない。また、樹脂層1により視認性が低下する虞があるため好ましくない。
【0022】
また樹脂層1は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上である。本発明におけるY値とは、JISZ 8722に基づいて算出した。具体的には、分光光度計を用いて波長200〜800nmの範囲の透過率を測定した結果より計算した値である。なお厚さ1mmあたりのY値とは、厚さ1mmの樹脂層を作製し、その透過率から直接測定した値であっても良く、また1mm以外における樹脂層を作製し、測定した透過率を吸光度に変換し、ランベルトベールの法則に基づいて厚さ1mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。
【0023】
樹脂層1は、ガンマ線などの放射線が照射されることによって、褐色に着色するため、長時間放射線が照射されることで、放射線遮蔽物品10の視認性が低下し、観察及び作業が困難となる虞がある。60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることにより、長時間にわたって観察及び作業が可能となる視認性を確保できる。観察及び作業性を鑑みると、60Coを線源とするガンマ線照射後の樹脂層1は、厚さ1mmあたりのY値は35以上であることがより好ましい。
【0024】
また樹脂層1は、厚さ1mmあたりのY値は50以上であることが好ましい。なお、ここでいう厚さ1mmあたりのY値とは、60Coを線源とするガンマ線、及び後述する紫外線を照射する前におけるY値を表している。厚さ1mmあたりのY値が50以上であることにより、放射線遮蔽物品10の使用初期における視認性が良好となるため好ましい。なお厚さ1mmあたりのY値は、60Coを線源とするガンマ線を照射された後におけるY値同様、厚さ1mmの樹脂層の透過率から直接測定した値であっても良く、またランベルトベールの法則に基づいて厚さ1mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。観察者や作業者の視認性を考慮に入れると、樹脂層1は、厚さ1mmあたりのY値は55以上であることがより好ましい。
【0025】
屋外で多用される重機の窓ガラスとして放射線遮蔽物品10を使用する場合、放射線遮蔽物品10には太陽光が照射され、太陽光に含まれる紫外線によって樹脂層1が褐色に着色する虞がある。そのため長期間にわたって紫外線が照射されることによっても、放射線遮蔽物品10が着色する。
【0026】
また樹脂層1は、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることが好ましい。紫外線照射後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることにより、長時間にわたって放射線遮蔽物品10に太陽光が照射されたとしても、観察及び作業が可能となる視認性を確保できる。なお厚さ1mmあたりのY値は、60Coを線源とするガンマ線を照射された後におけるY値同様、厚さ1mmの樹脂層の透過率から直接測定した値であっても良く、またランベルトベールの法則に基づいて厚さ1mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。観察及び作業性を鑑みると、樹脂層1は、厚さ1mmあたりのY値は33以上であることがより好ましい。また、400Wの水銀灯の定格電圧は、例えば100V、110V、120V、200Vなど、任意に選択することが可能であり、入手が容易である100Vであることが好ましい。
【0027】
樹脂層1としては、エポキシ系脂系の主剤と、チオール系の硬化剤とを混合して硬化する2液系の樹脂が挙げられ、前記主剤と前記硬化剤との混合比率を所定の比率に規定したものである。2液系の樹脂とは、主剤と硬化剤とを混合することによって、主剤である高分子樹脂が硬化して粘着性を有する樹脂を指し、主剤と硬化剤とを混合することによって、放射線遮蔽ガラス板2どうしを貼着させることが可能となる。また、エポキシ系樹脂を用いているため、放射線遮蔽ガラス板2との接着性が高く、剥離による干渉縞の発生も抑制できるとともに、樹脂の発泡も発生しにくい。
【0028】
樹脂層1は、60Coを線源とするガンマ線、及び紫外線を照射する前及び、これらの照射後におけるY値が所定値以上であることにより、視認性が良好であり、かつ長期間にわたって使用することが可能となる放射線遮蔽物品10を提供することが可能となる。そして、本発明の発明者らは鋭意検討を重ねた結果、硬化剤に含まれる硫黄分、すなわちチオール基により樹脂層1が色味を呈し、かつガンマ線などの放射線や紫外線が照射されることにより褐色に着色することを見出した。チオール基は放射線や紫外線が照射されることによって、チイルラジカル等のラジカルを形成する。ラジカルは高分子樹脂のアリル位から水素等の原子を引抜き、共役不飽和結合が形成される。共役不飽和結合が形成されると、光の吸収端が紫外領域から可視光領域にまでシフトするため、樹脂は褐色に着色する。そこで、主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)を所定の範囲とすることで、樹脂層1中の硫黄分含有量を抑制することとした。そのことで、ラジカルにより共役不飽和結合が形成されることを抑制し、視認性が良好である放射線遮蔽物品10を作製することが可能となる。また、共役不飽和結合が形成されることを抑制できるため、樹脂層1の粘着力が低下する虞が低下する。
【0029】
主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)は1.5:1.0〜9.0:1.0であることが好ましい。混合比率が1.5:1.0より小さいと、樹脂層1が褐色に着色し、放射線や紫外線が照射されることにより褐色に着色する虞があるため好ましくない。一方、混合比率が9.0:1.0より大きいと、主剤と硬化剤を混合した時に主剤が硬化しにくくなり、長期間にわたって樹脂が固化しなくなるため、貼り合わせに時間を要して生産性が低下する虞があるため好ましくない。より好ましい混合比率としては、2.5:1.0〜7.0:1.0である。
【0030】
本発明のチオール系の硬化剤としては、1,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、1,5−ナフタレンジチオール、1,2−ベンゼンジメタンチオール、1,3−ベンゼンジメタンチオール、1,4−ベンゼンジメタンチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタンなどのジチオールや、ポリチオール(商品名:チオコールLP70(東レチオコール株式会社製))などのポリチオール等のチオール化合物が挙げられる。なお、これらは一種単独でも使用、または二種以上併用することが可能である。
【0031】
エポキシ系樹脂の主剤としては、エポキシ樹脂単独であっても、アクリル樹脂、スチレン樹脂を併用することが可能である。なお、高分子系樹脂の主剤においては、主鎖に硫黄原子や窒素原子が含まれると、放射線が照射されることにより結合が切断され、また電子が移動することにより、褐色に着色しやすくなる虞がある為好ましくない。
【0032】
本発明の放射線遮蔽ガラス板2は、ガンマ線やX線などの放射線が透過することを抑制することが可能なガラスである。一般的に放射線遮蔽ガラス板2は、放射線遮蔽を目的として鉛が含有されてなるものである。そして、放射線の遮蔽能力は、一般的に鉛の含有量及び放射線遮蔽ガラス板2の厚さが大きくなるにつれて高くなる。しかしながら、前述したとおり、放射線遮蔽ガラス板2の厚さが大きくなるにつれて、放射線遮蔽ガラス板2の製造の際における徐冷作業に長時間を要するため、本発明の放射線遮蔽ガラス板2はロールアウトやフロート法により作製可能である厚さ3〜30mmとした。放射線遮蔽ガラス板の厚さが30mm以下であることにより、放射線遮蔽ガラス板2の徐冷時間を短くすることが可能となる。また、放射線遮蔽ガラス板2の厚さが3mm以上であることにより、衝撃によっても破損し難い放射線遮蔽ガラス板2を作製することが可能となるとともに、200mm以上の厚みの放射線遮蔽物品10を作製するに際して貼り合わせ回数(枚数)を少なくできる。なお、本発明においては、1枚あたりの放射線遮蔽ガラス板2が従来の放射線遮蔽物品に用いられている放射線遮蔽ガラス板より薄いものを用いているが、複数枚の放射線遮蔽ガラス板2を積層して放射線遮蔽ガラス板2の厚さの総和を同等としているため、従来の厚さが大きい放射線遮蔽物品と同等の放射線遮蔽能力を有する放射線遮蔽物品10を得ることが可能となる。なお、図1では、5枚の放射線遮蔽ガラス板2を貼着させた放射線遮蔽物品10であるが、2枚以上の放射線遮蔽ガラス板2を貼着させてなるものであれば何枚でも良い。本発明に係る放射線遮蔽物品10が、原子力関連施設や使用済み核燃料を処理するために用いられるフォークリフトやクレーンなどの重機の窓ガラスの用途で用いられるものならば、10枚以上の放射線遮蔽ガラス板2を貼着させることにより、厚さを200mm以上とすることが好ましい。
【0033】
上述したとおり、放射線遮蔽物品10は、観察時及び作業時の視認性が重要となる。長期間にわたって放射線遮蔽物品10を使用することを鑑みると、本発明の放射線遮蔽物品10は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ30mmあたりのY値は70以上であることが好ましい。また観察者及び作業者の作業性に鑑みると、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ30mmあたりのY値は73以上であることがより好ましい。なお、厚さ30mmあたりのY値とは、厚さ30mmの放射線遮蔽物品を作製し、その透過率から直接測定した値であっても良く、また30mm以外における放射線遮蔽物品を作製し、測定した透過率を吸光度に変換し、ランベルトベールの法則に基づいて厚さ30mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。
【0034】
このような放射線遮蔽物品10を得るために、放射線遮蔽ガラス板2としては、酸化物換算の質量百分率で、PbO 15〜40%、SiO 40〜60%、B 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10% となるものや、特開平2−212331号公報に開示されているように、PbOの替わりに放射線遮蔽能の高いBaOを用いて放射線を遮断する、実質的に鉛を含有しない放射線遮蔽ガラス板2を使用することもできる。
【0035】
PbOは、X線やガンマ線といった放射線を遮蔽させるための成分である。その含有量は15〜40%、好ましくは20〜39%、さらに好ましくは25〜38%である。PbOの含有量が40%より多くなると、放射線遮蔽ガラス板2が黄色味を帯びる為視認性が悪化するとともに、放射線が照射されることで褐色に変色する虞がある。一方、PbOの含有量が15%未満であるとガンマ線等の放射線遮蔽能力が低下する虞がある。
【0036】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。その含有量は40〜60%、好ましくは43〜57%、より好ましくは45〜55%である。SiOの含有量が60%よりも多くなると、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融、成形が難しくなったり、また含有可能なPbO量が制限されるため、ガンマ線遮蔽能力が低下する虞がある。一方、SiOの含有量が40%より少なくなると、ガラスの骨格を形成する成分が少なくなりすぎ、ガラスが構造的に不安定になるとともに、ガラスの耐水性が低下する。
【0037】
は、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、熱的安定性を高める成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0.1〜5%である。Bの含有量が10%より多くなると、ガラスの耐水性が低下する虞がある。
【0038】
NaOやKOはガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。その含有量はそれぞれ0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは1〜5%である。これらの含有量が10%より多くなると、耐水性が低下する虞がある。
【0039】
なお、ガラスの特性を損なわない範囲で清澄剤や他の成分を10%まで添加できる。
【0040】
また、上記のような放射線遮蔽ガラス板2を用いることによって、厚さ30mmあたりのY値が80以上である放射線遮蔽物品10を得ることができ、視認性が良好となる。なお、厚さ30mmあたりのY値は、60Coを線源とするガンマ線を照射された後におけるY値同様、厚さ30mmの放射線遮蔽物品の透過率から直接測定した値であっても良く、またランベルトベールの法則に基づいて厚さ30mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。観察及び作業性を鑑みると、厚さ30mmあたりのY値は83以上であることがより好ましい。
【0041】
また、上記のような放射線遮蔽ガラス板2は、紫外線によっても変色しにくいため、長時間にわたって太陽光が照射されたとしても、観察及び作業が可能となる視認性を確保でき、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ30mmあたりのY値が70以上である放射線遮蔽物品10を得ることが可能となる。なお、厚さ30mmあたりのY値は、60Coを線源とするガンマ線を照射された後におけるY値同様、30mmの放射線遮蔽物品の透過率から直接測定した値であっても良く、またランベルトベールの法則に基づいて厚さ30mmに換算した透過率よりY値を算出しても良い。観察及び作業性を鑑みると、厚さ30mmあたりのY値は73以上であることがより好ましい。
【0042】
次に、本発明の放射線遮蔽物品10の作製方法について説明する。
【0043】
(放射線遮蔽ガラス板の作製)
ガラス原料を調合したバッチを、1000〜1500℃のガラス溶融炉で溶融することで均一なガラスを作製し、フロート法、ロールアウト法、キャスト法、プレス成形法、ダウンドロー法、フュージョン法などの公知の成形方法により、厚さ1〜20mm程度の放射線遮蔽ガラス体を作製する。この放射線遮蔽ガラス体を徐冷し、切断、研磨等の加工を行うことによって、放射線遮蔽ガラス板2を得た。
【0044】
(放射線遮蔽物品の作製)
始めに、エポキシ系樹脂の主剤とチオール系の硬化剤とを、主剤の質量:硬化剤の質量が、1.5:1.0〜9.0:1.0となるように十分に混合して脱泡した後、この主剤と硬化剤との混合液で第一の放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面全体を均一に覆い、主剤と硬化剤との混合液で覆われた主面と、第二の放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面とを重ね合わせ、積層ガラスとする。次に、先述の主剤と硬化剤との混合液で積層ガラスの一方の主面全体、または第三の放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面全体を均一に覆い、主剤と硬化剤との混合液で覆われた積層ガラスまたは第三の放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面と、主剤と硬化剤との混合液で覆われていない積層ガラスまたは第三の放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面とを重ね合わせる。この一連の作業を、所望の厚さとなるまで繰り返して積層体を作製した。所望の厚さとなった積層体を乾燥、または紫外線等を照射することによって樹脂層1を硬化させたのち、必要に応じて切断、研磨を行うことで本発明の放射線遮蔽物品10を得た。なお、主液と硬化剤との混合液で放射線遮蔽ガラス板2の一方の主面全体を均一に覆う方法としては、塗布、噴霧、流し出した過剰量の混合液を挟み込むように重ね合わせる方法等が適用可能であり、作業性の観点から、流し出した過剰量の混合液を挟み込むように重ね合わせる方法が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
(放射線遮蔽物品の準備)
(実施例1)
まず、放射線遮蔽ガラス板として、NB(日本電気硝子株式会社製)を6枚準備した。放射線遮蔽ガラス板のサイズは、高さ1000mm×幅1000mm×厚さ12mmであり、両面を鏡面研磨したものである。放射線遮蔽ガラス板の貼り合わせには、セメダイン株式会社製のセメダイン#1565を用いた。セメダイン#1565は、エポキシ系樹脂であり、主剤と硬化剤がセットになっている。硬化剤はチオール系である。次に、主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が4.0:1.0となるように混合し、均質になるように攪拌した後、減圧状態で静置することで脱泡した。続いて、1枚の放射線遮蔽ガラス板の一方の主面に主剤と硬化剤を過剰量流し出し、2枚目の放射線遮蔽ガラス板と重ね合わせることで積層させた。重ね合わせた放射線遮蔽ガラス板の一方の主面に、先ほどと同様に主剤と硬化剤の混合液を過剰量流し出し、3枚目の放射線遮蔽ガラス板と重ね合わせた。この一連の作業を繰り返すことにより計6枚の放射線遮蔽ガラス板を積層させた。そして、積層させた放射線遮蔽ガラス板を静置することによって主剤と硬化剤の混合液を乾燥させ放射線遮蔽物品を得た。
【0047】
(実施例2)
主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が3.0:1.0となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で放射線遮蔽物品を得た。
【0048】
(実施例3)
主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が2.3:1.0となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で放射線遮蔽物品を得た。
【0049】
(実施例4)
放射線遮蔽ガラス板として、上述のNBと、高さ1000mm×幅1000mm×厚さ12mmであり、両面を鏡面研磨したLX−35C(日本電気硝子株式会社製)をそれぞれ3枚ずつ準備し、NBとLX−35を交互に積層した以外は、実施例1と同様の方法で放射線遮蔽物品を得た。
【0050】
(実施例5)
放射線遮蔽ガラス板として、高さ1000mm×幅1000mm×厚さ12mmであり、両面を鏡面研磨したLX−35Cを準備した以外は、実施例1と同様の方法で放射線遮蔽物品を得た。
【0051】
(比較例1)
主剤と硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が1.0:1.0となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で放射線遮蔽物品を得た。
【0052】
(放射線遮蔽物品サンプルの作製)
準備した実施例1〜5、比較例1の放射線遮蔽物品から高さ30mm×幅30mm×厚さ30mmの試験片(樹脂層と平行な面は両面とも鏡面に研磨)を3つずつ作製し、1つ目はガンマ線照射試験に、2つ目は紫外線照射試験に用い、3つ目はガンマ線も紫外線も照射しなかった。ガンマ線照射試験は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射した。また、紫外線照射試験は定格電圧100V、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射した。なお、ガンマ線や紫外線の照射は、樹脂層に対して垂直な方向から行った。
【0053】
(樹脂サンプルの作製)
実施例1〜5、比較例1の作製に使用した樹脂はセメダイン#1565であり、主剤と硬化剤との混合液を減圧脱泡した後、縦30mm×横30mm×高さ30mmの容器に入れて常温暗所で放置して固化させることにより、樹脂サンプルを得た。なお、実施例1、4、5で使用した樹脂サンプルをSample1、実施例2で使用した樹脂サンプルをSample2、実施例3使用した樹脂サンプルをSample3、比較例1使用した樹脂サンプルをSample4とした。そして、準備した樹脂サンプルSample1〜4を3つに切断し、放射線遮蔽物品と同様にガンマ線照射試験、紫外線照射試験、ガンマ線も紫外線も照射しなかった試験片を作製した。
【0054】
(Y値の測定)
Y値は、JISZ 8722に基づいて測定した。実施例1〜5、比較例1で作製した放射線遮蔽物品の波長200〜800nmにおける透過率を、分光光度計V−670(日本分光株式会社製)で測定することにより、放射線遮蔽物品における、厚さ30mmあたりのY値を算出した。また、樹脂サンプルのY値を測定することで厚さ10mmあたりの透過率を測定し、厚さが10mmの透過率を吸光度に変換し、ランベルトベールの法則に基づいて厚さ1mmに換算した透過率より厚さ1mmあたりのY値を算出した。
【0055】
表1に放射線遮蔽物品の、表2に樹脂サンプルのY値を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【符号の説明】
【0058】
1 樹脂層
2 放射線遮蔽ガラス板
10 放射線遮蔽物品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線遮蔽能を有する複数の放射線遮蔽ガラス板を樹脂により貼り合せて積層してなる放射線遮蔽物品であって、
前記樹脂は、60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることを特徴とする放射線遮蔽物品。
【請求項2】
前記樹脂は、厚さ1mmあたりのY値が50以上であることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽物品。
【請求項3】
前記樹脂は、400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ1mmあたりのY値が30以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線遮蔽物品。
【請求項4】
前記樹脂は、エポキシ系樹脂の主剤と、チオール系の硬化剤とを混合して硬化する2液系の樹脂であり、前記主剤と前記硬化剤との混合比率(主剤の質量:硬化剤の質量)が、1.5:1.0〜9.0:1.0であることを特徴とする請求項1から3いずれか一項に記載の放射線遮蔽物品。
【請求項5】
60Coを線源とするガンマ線を集積線量で10000Gy照射された後における、厚さ30mmあたりのY値が70以上であることを特徴とする請求項1から4いずれか一項に放射線遮蔽物品。
【請求項6】
厚さ30mmあたりのY値が80以上であることを特徴とする請求項1から5いずれか一項に記載の放射線遮蔽物品。
【請求項7】
400Wの水銀灯より照射される紫外線を照射源から20cmの位置で3時間照射された後における、厚さ30mmあたりのY値が70以上であることを特徴とする請求項1から6いずれか一項に記載の放射線遮蔽物品。


【図1】
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【公開番号】特開2013−88368(P2013−88368A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231250(P2011−231250)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)