説明

放射線選択的吸収コーティング、吸収チューブ、及び吸収チューブの製造方法

【課題】吸収コーティング、該吸収コーティング処理された吸収チューブ、及び該吸収チューブを用いて作製され、かつ長期間に亘って経済的に使用可能なバラボラコレクターを提供する。
【解決手段】パラボラコレクター(10)の吸収チューブ(13)に用いる放射線選択的吸収コーティングを赤外領域反射層(21)、前記反射層(21)の上方へ配置される少なくとも1層の吸収層(22)及び前記吸収層(22)の上方へ配置される反射防止層(23)から構成し、前記反射層(21)を少なくとも2層のバリア層(24a)及び(24b)上へ配置し、さらに前記少なくとも2層のバリア層のうちの第二バリア層(24b)をSiOx化合物を用いて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本願特許請求の範囲の請求項1項前文に記載された放射線選択的吸収コーティングに関する。本発明はさらに、前記放射線選択的コーティングを施された吸収チューブに関する。本発明はさらに、前記吸収チューブの製造方法及び吸収チューブを用いたパラボラコレクターの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慣用の吸収コーティングは赤外領域において反射する層、すなわち赤外領域反射層から成り、基材、特に金属管、太陽光スペクトル領域において高レベルな吸収能を有するサーメット層へ処理される。このサーメット層へ処理される最上層は反射防止層と呼ばれ、またこの最上層は、サーメット層の高い屈折率ゆえに、サーメット層における表面反射を減ずるように意図されている。
【0003】
本発明の基本的目的は最大のエネルギー収率を得ることである。エネルギー効率は特に吸収係数αと発散係数εに依存するため、目標は常に吸収係数が高く(α>95%)かつ発散係数の低い(ε<10%)吸収コーティングを得ることである。
【0004】
さらに、前記コレクターの効率はそれが使用される温度によって決まるものである。この観点からすると、最も高い温度で効率的であることが望ましい。これに反し、前記吸着コーティングの層系の寿命は、使用温度の上昇に伴って老化及び又は拡散によって減少し、その結果として、サーメット層の吸収特性及び赤外領域における反射特性も大きく低下する可能性がある。
【0005】
このため、DE10150738C1には色変化が示されず、従って老化しない放射線選択的吸収コーティングに関する記載がある。このコーティングは、アルミニウムと酸化アルミニウムから成る第三層を処理する過程において確立される特定の酸素容積流によって形成される。この層には最終的にAlから成る層が処理される。
【0006】
US5,523,132には、金属含量の異なる、すなわち屈折率の異なる複数のサーメット層が設けられた吸収コーティングが開示されている。波長毎に吸収極大点が異なるため、太陽光スペクトルに対する適合がより高められて得られている筈である。材料及び層厚に関する説明は為されていないが、サーメット層と赤外領域反射層との間、あるいはサーメット層と反射防止層との間に拡散防止層を設けることが可能とされている。
【0007】
DE102004010689B3には、金属基板、拡散バリア層、金属反射層、サーメット層、及び反射防止層から成る放射線選択的吸収コーティングから成る吸収が開示されている。この拡散バリア層は金属基板の酸化成分から成る酸化物層である。
【0008】
Michael Lanxner & Zvi Elgatは、SPIE Vol.1272、エネルギー効率及び太陽エネルギー変換光学材料技術IX(1990)、240〜249頁の「プラズマスパッタリングによって生ずる高操作温度のための太陽光選択的吸収コーティング」と題した論文において、スチール基板に対して処理され、かつSiOから成る反射防止層、Mo/Al組成物から成るサーメット層、及び赤外領域において反射するモリブデン層から成る吸収コーティングと、前記赤外領域において反射する層と前記基板との間に配置されるAlから成る拡散バリアについて記載している。
【0009】
前記赤外領域反射層には通常モリブデンが用いられる。しかしながら、モリブデンの反射特性は最適とは言えないため、さらに反射性の良好な材料が望まれている。
【0010】
公知吸収チューブの使用温度は減圧下300〜400℃である。上述した理由から、使用温度をさらに高めることは基本的方向であるが、例えばサーメット層の吸収特性や赤外領域反射層の反射特性を損なうことがあってはならない。
【0011】
国立代替エネルギー研究所2002年7月版のC.E.Kennedy著「中温〜高温太陽光選択的吸収」には上記努力に関する要約が記載されている。この論文には、ZrOまたはZrC吸収層と赤外領域で反射を起こすAgあるいはAl層から成る層構造が開示されており、この層構造は、Al拡散バリア層が導入されているために、大気下での熱安定性に優れている。さらに、減圧下における赤外線反射層の熱安定性はこの層の下へ拡散バリア層を設けることによって改善可能なことも見出されている。このようなバリア層の材料として、Cr、AlあるいはSiOが提案されている。この層により500℃以下における銀反射層の安定性が得られることが期待されている。
【0012】
しかしながら、このような層によっても、耐久性があり、同時に吸収性及び発散性に優れる層の目標には達していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した観点より、本発明は、吸収コーティング、該吸収コーティング処理された吸収チューブ、及び該吸収チューブを用いて作製され、かつ長期間に亘って経済的に使用可能なバラボラコレクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、少なくとも2層から成るバリア層であってその第二バリア層がSiO化合物から成るバリア層上へ赤外領域反射層を設けることによって達成される。
【0015】
驚くべきことに、2層のバリア層によって赤外領域において基板からの反射を起こす層を選定することにより、スチール吸収チューブから赤外領域反射層への基板材料、特に鉄の、拡散、特に熱拡散がさらに効率的に防止されること、従ってコーティングの長期間に亘る熱安定性が増大されることが見出された。
【0016】
このことは、特に前記少なくとも2層のバリア層の第一バリア層が熱酸化物から成り、また前記少なくとも2層のバリア層の第二バリア層がSiO化合物、xは1〜2の数値、から成る場合に極めて好都合である。より好ましくはX=2であるが、Xは1〜2の範囲内の数値であってもよい。
【0017】
好ましくは、前記赤外領域反射層と、有利にはサーメットから成る、好ましくはAl化合物、xは1〜2の数値、yは1〜3の数値、から成る吸収層との間に第三バリア層が配置される。別法において、前記第三バリア層は好ましくはSiO層から作製され、この場合においてxは1〜2の数値と考えてよいが、好ましくは2であり、また1〜2の範囲内の数値であってもよい。
【0018】
2つのシリコン層間へ、あるいはシリコン層と酸化アルミニウム層の間へ前記赤外領域反射層を埋め込んでサンドイッチ構造を形成することにより、前記赤外領域反射層からいずれかの材料がその上の吸収層へと拡散することが不可となり、これよって吸収層の吸収特性を損なうことなくなる利点が得られる。これにより、層系内における拡散の抑制、特に赤外領域反射層内あるいは層外への拡散、及びサーメット吸収層中への拡散を実質的に抑制することが可能となる。
【0019】
このようにして、減圧下で操作温度550℃において600時間以上の期間に亘ってα>95.5%の高吸収性及びε<8.5%の低放出性を検出することが初めて可能となる。これにより、このコーティングが施された吸収チューブから成るコレクターの効率を次の2点において改善させることが可能となる。すなわち、このような方法でコーティングされた吸収チューブから成るパラボラコレクターの経済的使用を確保するためにはこのようなコーティングの寿命を延ばすしかないと仮定した場合、選択的比α/εを0.95/0.1以上にすることは放射エネルギーの高収率化を意味し、使用温度の上昇によって効率のさらに良い電気エネルギーの変換が可能となる。
【0020】
これは、吸収コーティングの熱安定性が高まることによって安価な熱伝搬媒体の使用が可能となるからである。現在まで熱伝搬媒体として高価な特製オイルが使用されてきたが、これら特製オイルの熱安定性は約400℃までしかない。このように吸収コーティングの熱安定性が高まることにより吸収チューブを400〜550℃の温度範囲内において使用することが可能となる。
【0021】
前記熱伝搬媒体としては沸点が110℃以下の媒体、特に水を用いるのが有利である。高温使用温度においては、スチーム形態であればスチームタービン中へ直接導入することが可能である。
【0022】
オイルから熱を水へ移動させるため今日まで用いられてきた付加的熱交換体はもはや不要であり、この点において、本発明に係る吸収コーティング処理された吸収チューブから成るパラボラコレクターによれば、現在まで使用してきたコレクターに比べてずっと低コストで使用することが可能である。
【0023】
さらに利点として、吸収チューブコーティングに不利を生ずることなく高温使用が可能となるように、熱伝搬液の吸収チューブ中を通る流速を減じることも可能である。これにより、パラボラコレクターのポンプ操作に要するエネルギーを節約することが可能である。
【0024】
好ましくは、前記シリコン層及び酸化アルミニウム層の厚さは5nm〜100nmの範囲内である。前記厚さが5nm未満である場合、隣接層の組成によってはシリコン層あるいは酸化アルミニウム層のバリア作用が不十分となることがある。また、前記厚さが100nm以上である場合、熱的ストレスが生じて、状況次第では層の剥離をひき起こす可能がある。前記シリコン層及び酸化アルミニウム層の好ましい厚さは15nm〜70nmの範囲内であり、さらに好ましくは20nm〜40nmの範囲内である。
【0025】
前記酸化ケイ素層と酸化アルミニウム層の厚さは異なっていてもよく、下側酸化ケイ素層の厚さは好ましくは上側酸化アルミニウム層の厚さよりも厚く形成される。好ましくは、基板と赤外領域反射層の間に配置される酸化ケイ素層の層厚は5nm〜100nm、好ましくは15nm〜70nmであり、赤外領域反射層と吸収層の間に配置される酸化アルミニウム層あるいは酸化ケイ素層の厚さは0nm〜50nmであり、該層の組成によっては好ましくは30nm〜40nm、または他の場合には5nm〜15nmの範囲内である。
【0026】
赤外領域反射層を2層の酸化物層間へ埋め込むことにより、該反射層に銀、銅、白金、あるいは金等の材料を用いることが可能となり、これら材料により拡散はより容易になるが、発散度εが10%未満となる等の赤外領域における反射性が大幅に向上する更なる利点がある。
【0027】
前記赤外領域反射層の厚さは、その材料によって異なるが、好ましくは50nm〜250nmの範囲内である。この範囲内の厚さの中でも好ましい範囲は特に銅あるいは銀が用いられる場合には100nm〜150nmである。前記層に銀が用いられる場合は、80nm〜150nmの範囲内も層厚として好ましい範囲である。他の場合では、有効な層厚は50〜100nm、特に有効な厚さは50〜80nmの範囲内である。
【0028】
これら材料を用いる場合、金、銀、白金、銅などの材料は反射性が極めて高く、また2層の酸化物層間に埋め込まれているため他層へ拡散されないこと、あるいは拡散侵入してくる他の破壊性元素によってはその正の特性が損なわれないことから、前記赤外領域反射層の層厚を減ずることが可能である。
【0029】
貴金属である金、銀、白金等を用いることによる高コスト化は、赤外領域反射層に要する層厚が公知の層厚に比べて大幅に減じられることにより補償可能であり、場合によっては補償を上回って余りある。
【0030】
基板と赤外線ミラーコーティングとの間の第二バリア層へのSiOの使用は、Alを用いる場合に厚さが約60nmとなるのに対して約30nmの厚さで抑えられることからAlの使用に比べて有利である。これにより、加工時間を短縮し、かつ収量を増大させることが可能となる。
【0031】
吸収層の厚さは好ましくは60〜180nm、より好ましくは80nm〜150nmである。この吸収層は好ましくはモリブデンを含む酸化アルミニウム、あるいはモリブデンを含む酸化ジルコニウムから成るサーメット層である。均質な吸収層の代わりに組成の異なる複数の吸収層、特に金属含量を減じた層、あるいは徐々に変化する吸収層を設けることも可能である。サーメット層は、好ましくは勾配層、すなわち層内で金属含量が連続的に、あるいは実用的には段階的に、減少あるいは増加している層に作製される。
【0032】
吸収層上にある反射防止層の層厚は好ましくは60〜120nmである。この層は好ましくは酸化シリコンあるいは酸化アルミニウムから成る。
【0033】
本発明に係る吸収チューブの製造方法は、下記工程、すなわち、
・熱酸化法を用いてスチールチューブへ第一の酸化物バリア層を処理する工程、
・酸素を供給しながらシリコンの気相蒸着(PVD)によって第二バリア層を処理する工程、
・金、銀、白金または銅等の材料、好ましくは気相蒸着法を用いて赤外領域反射層に対して金、銀、白金または銅を蒸着処理する工程、
・アルミニウムとモリブデンの気相蒸着を同時に行って吸収層を処理する工程、及び
・酸素を供給しながら気相蒸着によって反射防止層へシリコンを処理する工程を含むことを特徴とする。
前記スチールチューブは、好ましくは熱酸化処理前に、好ましくは表面粗さがRaが0.2μm未満となるまで研磨される。
【0034】
本発明に係る特にパラボラ・コレクター用の吸収チューブは、チューブ外側上へ少なくとも1層の赤外領域反射層と、反射層上へ配置される少なくとも1層の吸収層と、さらに吸収層上へ配置される反射防止層から成る放射線選択的吸収コーティングが施されたスチールチューブを備えて構成され、前記スチールチューブと前記反射層の間には少なくとも2層のバリア層が配置され、そのうちの前記スチールチューブへ処理された第一バリア層は熱処理によって得られた酸化物から成り、さらに前記第一バリア層へ処理された第二バリア層はSiOx化合物(xは1〜2の数値とかんがえてよい)から成ることを特徴とする。
【0035】
本発明に係る、特にサーメット材から成る吸収層と、前記サーメット層へ処理される反射防止層と、さらに外側に少なくとも1層の赤外領域反射層から成る放射線選択的吸収コーティングが処理されたスチールチューブを備える特にパラボラコレクタ用の吸収チューブは、特に、前記赤外領域反射層が2層のSiOx層間、あるいは1層のSiOx層と1層のAlyOz層間に配置されることを特徴とする。なお、上記において、xは好ましくは2であり、yは好ましくは1〜2の数値であり、及びzは1〜3の数値である。
【0036】
熱伝搬媒体が中を通過する吸収チューブを用いた本発明に係るパラボラコレクタの使用方法は、吸収チューブが、少なくとも1層の赤外領域反射層、該反射層上に配置される少なくとも1層の吸収層及び該吸収層上に配置される反射防止層から成る放射線選択的吸収コーティングと共に用いられ、少なくとも2層のバリア層が前記吸収チューブと前記反射層の間に配置され、そのうちの吸収チューブに対向する第一バリア層は熱処理によって得られた酸化物から成り、さらに第一バリア層へ処理された第二バリア層はSiOx化合物(xは1〜2の数値と考えてよい)から成ることを特徴とする。
【0037】
熱伝搬媒体が中を通過する吸収チューブを用いた本発明に係るパラボラコレクターの使用方法は、吸収チューブが、少なくとも1層の赤外領域反射層、特にサーメット材から成る吸収層、及び反射防止層から成る放射線選択的吸収コーティングと共に用いられ、前記赤外領域反射層は2層のSiOx層の間、あるいはSiOx層とAlyOz層の間に配置されることを特徴とする。なお、この場合において、xは好ましくは2、yは好ましくは1〜2の数値、及びzは1〜3の数値を示す。
【0038】
前記熱伝搬液として、特に水、または他オイル、または塩溶液が使用可能である。
【0039】
さらに別の実施態様では、パラボラコレクターの使用方法において、吸収チューブの操作温度を400〜550℃、特に480〜520℃に調節することが構成要件とされる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】パラボラコレクタを示した図である。
【図2】本発明の一実施態様に従った吸収チューブの断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下において、本発明について図面を参照しながら実施態様を用いて詳細に説明する。
図1は側面が放物線状を呈する細長形状のパラボラ反射板11を備えるパラボラコレクター10を示した図である。パラボラ反射板11は支持構造体12によって保持されている。パラボラ反射板11の焦点ラインに沿ってパラボラコレクターと連結している支持体14上に吸収チューブ13が固定されて延びている。パラボラ反射板11と、支持体14及び吸収チューブ13によって、吸収チューブを中心として回転する装置、すなわち太陽Sの座標軸における位置を追跡する装置が形成される。太陽Sから入射する平行太陽輻射はパラボラ反射板11によって吸収チューブ13上へ集中される。熱伝搬媒体、特に水がこの吸収チューブ13中を流れ、吸収された太陽輻射熱によって熱せられる。この熱伝搬媒体を吸収チューブの出口端部において取り出してエネルギー需要者あるいはエネルギー変換需要者へ供給することが可能である。
【0042】
図2は吸収チューブ13の断面を示す略断面図である。吸収チューブ13はスチールチューブ1が有し、このチューブを通して熱伝搬媒体が流れ、このチューブによってチューブ1の外側へ処理される吸収コーティング20の基板が形成される。吸収コーティング20の個々の層の層厚は、表示の便宜から拡大され、かつ同一厚で示されている。
【0043】
吸収コーティング20には、その内側から外側へ向けて、熱酸化法によってスチールチューブ1へ処理されたクロミウム酸化鉄から成る第一バリア層あるいは拡散バリア層24aが設けられる。この上に、SiOx、好ましくはSiOから成る第二バリア層と好ましくは酸化ケイ素あるいは酸化アルミニウムから成る第三バリア層24cの間に、赤外領域反射層21が埋め込まれたものが設けられ、この層21は金、銀、白金あるいは銅によって作製される。前記第三バリア層24cにはサーメット層22が処理され、最終的にその外側に反射防止層23が設けられて層系が完成される。
【0044】
図2に示した実施態様による吸収チューブは以下に述べる方法によってコーティング処理される。
【0045】
スチールチューブ1、好ましくはステンレススチールチューブを研磨し、次いで清浄する。前記研磨は好ましくは0.2μm未満の表面粗さになるまで実施される。次いで前記ステンレススチールチューブを400℃より高い温度で約30分間〜2時間、とりわけ500℃で1時間熱酸化する。かかる処理により、厚さ15nm〜50nm、好ましくは30nm±10nmの酸化物層が第一バリア層24aとして形成される。
【0046】
次いでスチールチューブを真空コーティング系の中へ持ち込み、その系から空気を抜く。気圧が5×10−4ミリバール未満、好ましくは1×10−4ミリバール未満になったら、気相蒸着法(PVD)、とりわけ陰極原子化(スバッタリング)を用いて後続層を処理形成する。このため、スチールチューブはスパッタリング源を通過して、すなわち例えばAl、Ag及びMo等のコーティング物質から成る目標を通過して回転移動される。
【0047】
蒸着の最初の工程において、第二バリア層24bは、シリコンを蒸発あるいは霧状化し、そして酸素を供給しながら反応させて蒸着することによってSiOxの形態で処理される。この処理中に10−2〜10−3ミリバール、好ましくは(4〜9)×10−3ミリバールの酸素圧が確立される。この第二バリア層の好ましい層厚は10nm〜70nm、より好ましくは30nm±10nmである。
【0048】
後の第二蒸着工程において、第二バリア層24b上へ厚さが60nm〜150nm、より好ましくは110nm±10nmとなるように金、銀、白金、あるいは銅、好ましくは銀を処理することによって赤外領域反射層21が設けられる。
【0049】
蒸着の第三工程において、第二バリア層の場合と同様に、第三バリア層24cが、シリコンあるいはアルミニウムを蒸発させ、それを供給された酸素と反応させながら蒸着させることによってSiOxあるいはAlxOy層の形態で処理される。この第三バリア層の好ましい層厚は50nm以上、より好ましくは10nm±5nmである。しかしながら、反射層21へ適当な組成から成る吸収層22が処理される場合はバリアの追加によって拡散が必ずしも阻害されないことが見出されていることから、このバリア層の処理を全く行わないことも可能である。
【0050】
蒸着の第三工程では、同一るつぼから、あるいは2つの別個のターゲットからアルミニウムとモリブデンを共蒸発/共霧状化(coatomization)させて吸収層、より具体的には、この場合ではサーメット層22が処理される。この工程では、アルミニウムとモリブデンに加えて酸化アルミニウムも(反応によって)蒸着させるため、好ましくは前記共蒸発/共霧状化領域中へ酸素が同時に導入される。
【0051】
蒸着の第四工程では、別の組成とし、適切な操作パラメータ(蒸発/霧状化速度及び酸素量など)を選定して層の進行と共に組成を変化させることも可能である。特に別個のターゲットを用いる場合は、モリブデン成分の蒸着は吸収層22中のアルミニウム及び又は酸化アルミニウム成分の蒸着に対して可変的に構成可能である。別の言い方をすれば、吸収層22のモリブデン成分に勾配をもたせ、その場合好ましくはモリブデン成分量は吸収層22の処理と共に低下される。この場合、内部における濃度は、好ましくは25容積%〜70容積%、さらに好ましくは40±15容積%とし、また外側方向における濃度は10〜30容積%、さらに好ましくは20±10容積%まで低下させる。
【0052】
未酸化のアルミニウム成分が吸収層22中に残るように、好ましくは酸素が蒸着されたアルミニウム成分に対する化学量論に基づいて添加される。これは次いでレドックス電位あるいは酸素ゲッターとして利用されるため、酸化モリブデンの生成は起こらない。吸収層22中の未酸化アルミニウム成分量は好ましくは吸収層の全成分量の10容積%以下、さらに好ましくは0〜5容積%の範囲内である。蒸発速度や酸素量などの操作パラメータを変更することにより、吸収層内の未酸化アルミニウム成分量を変えることが可能である。
【0053】
前記吸収層22は好ましくは全体で60nm〜180nm、さらに好ましくは80nm〜150nm、最も好ましくは120±30nmの厚さに処理される。
【0054】
蒸着の第五工程では、シリコンの気相蒸着法を用いて酸素を供給しながら蒸着を行うことにより反射防止層23がSiOの形態で処理される。この反射防止層23はその好ましい厚さである70nm〜110nm、さらに好ましくは90±10nmの厚さに蒸着される。
【0055】
このような方法によって製造した吸収チューブを真空加熱装置中550℃で600時間加熱した。この加熱処理中、真空室内圧力は1×10−4ミリバールとした。加熱は600時間後に停止された。サンプルを100℃以下まで冷却した後、真空室の換気を行い、サンプルを取り出した。次いでサンプルを分光計により分析し、AM1.5直接太陽光スペクトル及び波長域350〜2500nmに対して95.5%±0.5%の積分太陽熱吸収値を得た。基板温度400℃に対する熱放射測定値は7.5±2%であった。
【符号の説明】
【0056】
1:スチールチューブ
2:熱伝搬液
10:パラボラコレクター
11:パラボラ反射板
12:支持構造体
13:吸収チューブ
14:支持体
20:放射線選択的吸収コーティング
21:赤外領域反射層
22:吸収層
23:反射防止層
24a:第一バリア層
24b:第二バリア層
24c:第三バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外領域反射層(21)、前記反射層(21)の上方へ配置される少なくとも1層の吸収層(22)、及び前記吸収層(22)の上方へ配置される反射防止層(23)から構成される、特にパラボラコレクター(10)の吸収チューブ(13)に用いる放射線選択的吸収コーティング(20)であって、前記反射層(21)は少なくとも2層のバリア層(24a)及び(24b)上へ配置され、及び前記少なくとも2層のバリア層のうちの第二バリア層(24b)はSiOx化合物から成ることを特徴とする吸収コーティング。
【請求項2】
前記少なくとも2層のバリア層のうちの第一バリア層(24a)が熱処理により得られた酸化物から成り、及び前記少なくとも2層のバリア層のうちの第二バリア層がSiOx化合物、xは1〜2の数値、から成ることを特徴とする請求項1項記載の吸収コーティング。
【請求項3】
第三バリア層(24c)が反射層(21)と吸収層(22)の間に配置されることを特徴とする請求項1項または2項記載の吸収コーティング(20)。
【請求項4】
前記第三バリア層(24c)がAlxOy化合物、xは1〜2の数値、及びyは1〜3の数値、から成ることを特徴とする請求項3項記載の吸収コーティング(20)。
【請求項5】
前記第三バリア層(24c)がSiOx化合物、xは1〜2の数値、から成ることを特徴とする請求項3項記載の吸収コーティング(20)。
【請求項6】
前記吸収層(22)がサーメット材から成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸収コーティング(20)。
【請求項7】
前記赤外領域反射層(21)に金、銀、白金あるいは銅が含まれるか、あるいは前記赤外領域反射層(21)が金、銀、白金あるいは銅から成ることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の吸収コーティング(20)。
【請求項8】
前記第一バリア層(24a)に酸化鉄が含まれることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吸収コーティング(20)。
【請求項9】
前記第一バリア層(24a)に酸化クロミウムが含まれることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の吸収コーティング(20)。
【請求項10】
少なくとも1層の赤外領域反射層(21)、前記反射層(21)の上方へ配置される少なくとも1層の吸収層(22)及び前記吸収層(22)の上方へ配置される反射防止層(23)から成る放射線選択的吸収コーティング(20)が外側にコーティングされたスチールチューブから成る特にパラボラコレクター用の吸収チューブ(13)であって、
前記スチールチューブ(1)と前記反射層(21)の間には少なくとも2層のバリア層が配置され、そのうちの前記スチールチューブ(1)へ処理される第一バリア層(24a)は熱処理により得られる酸化物から成り、及び前記第一バリア層(24a)へ処理される第二バリア層(24b)はSiOx化合物、xは1〜2の数値、から成ることを特徴とする吸収チューブ(13)。
【請求項11】
第三バリア層(24c)が反射層(21)と吸収層(22)の間に配置されることを特徴とする請求項10項記載の吸収チューブ(13)。
【請求項12】
前記第三バリア層(24c)がAlxOy化合物、xは1〜2の数値、yは1〜3の数値、から成ることを特徴とする請求項11項記載の吸収チューブ(13)。
【請求項13】
前記第三バリア層(24c)がSiOx化合物、xは1〜2の数値、から成ることを特徴とする請求項11項記載の吸収チューブ(13)。
【請求項14】
熱酸化法を用いてスチールチューブへ第一酸化物バリア層(24a)を処理する工程、
酸素を供給しながら気相蒸着(PVD)法を用いたシリコンの蒸着により第二バリア層(24b)を処理する工程、
気相蒸着法を用いた金、銀、白金あるいは銅の蒸着により赤外領域反射層(21)を処理する工程、
気相蒸着法を用いてアルミニウムとモリブデンの蒸着を同時に行って吸収層(22)を処理する工程、及び
酸素を供給しながら気相蒸着法を用いたシリコンの蒸着により反射防止層(23)を処理する工程、から構成される吸収チューブ(13)の製造方法。
【請求項15】
前記スチールチューブが前記熱酸化前に研磨され、その研磨によって表面粗さRaが0.2μm未満とされることを特徴とする請求項14項記載の方法。
【請求項16】
前記気相蒸着が5×10−4ミリバールを下回る大気圧において実施されることを特徴とする請求項14項または15項記載の方法。
【請求項17】
前記チューブが、前記気相蒸着中に、それぞれの場合における処理対象物質から成るターゲットを通過して回転移動されることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
赤外領域反射層(21)の処理に続き、酸素を供給しながらアルミニウムあるいはシリコンの気相蒸着を行って第三バリア層(24c)を処理することを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記吸収層(22)中のアルミニウム成分が酸素を供給しながら蒸着されることを特徴とする請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
モリブデン成分の蒸着が、吸収層(22)中のアルミニウム成分及び又は酸化アルミニウム成分の蒸着に対して変動的に行われるように構成されることを特徴とする請求項14〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1層の赤外領域反射層(21)、前記反射層(21)の上方へ配置される少なくとも1層の吸収層(22)及び前記吸収層(22)の上方へ配置される反射防止層(23)から成る放射線選択的吸収コーティング(20)が施された吸収チューブが用いられ、
前記吸収チューブ(13)と前記反射層(21)の間には少なくとも2層のバリア層が配置され、そのうちの前記吸収チューブ(13)に対向する第一バリア層(24a)は熱処理により得られる酸化物から成り、及び前記第一バリア層(24a)へ処理される第二バリア層(24b)はSiOx化合物、xは1〜2の数値、から成ることを特徴とする、内部を熱伝搬媒体(2)が通過する吸収チューブ(13)を用いたパラボラコレクターの操作方法。
【請求項22】
前記吸収チューブ(13)の操作温度が400〜550℃に調節されることを特徴とする請求項21項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−198170(P2009−198170A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−32222(P2009−32222)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany