説明

放射能低減剤とそれを使用した放射能低減方法

【課題】遠赤外線を発する天然の黒鉛珪石が放射能を低減する機能を有するかどうか、さらには、天然の黒鉛珪石に放射能を低減する機能があることが見出された場合に、その機能を発揮させるための条件を見出す。
【解決手段】天然の黒鉛珪石が、放射能汚染排水あるいは土壌中の放射性物質を吸着し、且つ、放射性物質から放射される放射線量を低減する機能を有し、しかも、その天然の黒鉛珪石が有する放射線量を低減する機能は、繰り返し使用によっても劣化することないという知見に基づいて完成したもので、常温で遠赤外線を放出する天然の黒鉛珪石粉末を主体とする放射性物質を吸着して放射能を低減する放射能低減剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性物質を含む用排水、土壌等の放射能の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然鉱石から抽出したオパールサンド・麦飯石・医王石・活性炭のような鉱物質を除湿剤、吸臭剤として用いることが知られている。とくに、石墨質断層角礫岩で、通称グラファイトシリカ、シリカブラック、あるいは神明鉱石と呼ばれる天然の黒鉛珪石は、常温で高レベルの遠赤外線(波長6〜14μm)を放出し、吸着作用、脱臭作用及び滅菌作用を有することが知られている。
【0003】
そして、さらに、下記特許文献には、この天然の黒鉛珪石を植物の生育促進剤、浄化剤、さらには、触媒としての用途が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3787421号公報
【特許文献2】特許第3939800号公報
【特許文献3】特許第3954146号公報
【特許文献4】特許第4516521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記各特許文献に開示された天然の黒鉛珪石がさらに放射能を低減する機能を有するかどうか、さらには、天然の黒鉛珪石に放射能を低減する機能があることが見出された場合に、その機能を発揮させるための条件を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、天然の黒鉛珪石は、放射能汚染排水あるいは土壌中の放射性物質を吸着し、且つ、放射性物質から放射される放射線量を低減する機能を有し、しかも、その天然の黒鉛珪石が有する放射線量を低減する機能は、繰り返し使用によっても劣化することないという知見に基づいて完成した。
【0007】
以下、本発明において、放射性物質を吸着し、その放射性物質からの放射線量を低減する能力を有する物質を放射能低減剤と称する。
【0008】
本発明に係る天然の黒鉛珪石の放射能低減剤としての効果は、天然の黒鉛珪石の形態によって異なる。
【0009】
本発明の放射能低減剤の形態としては、先に挙げた特許文献1〜4に記載の形態を利用して、例えば、以下の形態で使用できる。
【0010】
(1)天然の黒鉛珪石を平均粒径50μm以下に破砕し、放射能物質との吸着あるいは接触面積を増大した破砕粉末状態で使用する。
【0011】
(2)天然の黒鉛珪石の粉末とアルミノ珪酸塩ガラス粉末(シラス)との混合粉末のポーラス状粒状体。これは、天然の黒鉛珪石の粉末とアルミノ珪酸塩ガラスの粉末との混合粉末を還元性雰囲気中で焼成し、例えば、5mm径以下の粒状体として使用する。
【0012】
(3)多孔質体の表面と多孔質体内に形成されている細孔内面にカーボンと天然の黒鉛珪石の粉末を付着させた形態。これは、多孔質体に食用油と天然グラファイトシリカと陶土の微細粉末との液状混合物を含浸させたのち、還元雰囲気中で加熱することにより多孔質体の表面および内部細孔内面に天然グラファイトシリカを含むカーボンを付着させた状態で使用する。
【0013】
(4)粉末状の天然の黒鉛珪石を表面に塗布した形態の多孔質粒体として、レンガ、セラミックスなどの粒子、天然の軽石及びサンゴ粒の中の何れかを使用する。
【0014】
(5)シラスのような天然の多孔質体と天然の黒鉛珪石の粉末とをボール状に混合成形し、還元焼成したセラミックボールの形態として使用する。
【0015】
このような形態とした本発明の放射能低減剤は、原子力施設事故等で発生した放射性用排水、又はその近傍の放射性土壌に適用でき、さらには家屋の壁等にもペンキ状にして適用できる。
【0016】
さらに、本発明の放射能低減剤は、使用後、野ざらしによって、当初の状態に復帰し、再使用が可能であるが、弱酸性水溶液によって再生使用が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の天然の黒鉛珪石粉末を含有する放射能低減剤は、放射性物質の種類に関係なく、優れた放射能の低減効果もたらす。また、放射能の低減効果は、繰り返しの使用によっても殆ど劣化することない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の放射能低減剤を使用した放射能の低減効果(放射性ヨウ素・セシウムの吸着及び減衰試験結果)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る放射能低減剤を、放射能に汚染された汚染水に対してバッチ処理で適用することを想定して、その放射能の低減効果を調べた。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
(放射能低減剤の調製)
天然の黒鉛珪石として、北海道檜山郡上ノ国町湯の袋神明の平成上ノ国鉱山より産出した石墨質断層角礫岩を用いた。この天然の黒鉛珪石は、常温で波長6〜14μmの高レベルの遠赤外線を放出するものであった。
【0021】
この黒鉛珪石を平均粒径6−7μmに粉砕し、その黒鉛珪石の粉末と平均粒径60μmのシラス(アルミノ珪酸塩ガラス)と平均粒径16μmの小麦粉を、質量比12:8:2の割合で混合し、この混合粒子に対して20質量%の水を混ぜて、これを造粒機で一定の大きさ(平均粒径3.5mm)の球体粒子とし、常温で残留水分が5質量%程度になるまで乾燥した。その後、この球体粒子を陶器の容器に入れ、還元雰囲気の焼成炉の中で、6〜7時間かけて約1100°Cまで加熱した。その後、自然放冷するのを待って、焼成炉から容器を取り出し、還元焼成されたポーラス状球体粒子(平均粒径3.5mm)である本発明の放射能低減剤を得た。
【0022】
(放射性物質の吸着処理)
放射性物質として用水中に存在する放射性ヨウ素と放射性セシウムの吸着実験を行った。容量が2.0Lのアクリル容器中に、予め蒸留水に24時間浸漬後の放射能低減剤を見掛け容積で2.0L充填配置し、放射性ヨウ素と放射性セシウムに汚染された用水約900ccを注入し、3時間経過後の注入水約800ccを採取して処理水検体(以下「処理水」という。)とした。比較のため、無処理の上記排水800cc採取し、比較検体(以下「原水」という。)とした。
【0023】
処理水と原水のそれぞれを、45時間後にゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペフトロメトリーによる核分析法で、放射性ヨウ素としてはヨウ素131を、放射性セシウムとしてはセシウム134と137を測定した。
【0024】
(試験結果)
測定結果を下記表1と図1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
放射性ヨウ素131については、原水が113Bq/kgで、処理水では28Bq/kgに減少した。放射性セシウム134については、原水では37Bq/kgで、処理水では「不検出」(今回使用したゲルマニウム半導体検出器の検出感度未満の状態をいう。以下同じ。)となり、放射性セシウム137については、原水では41Bq/kで、処理水では「不検出」となった。
【0027】
このように、放射性ヨウ素131は、3時間の浸漬で約75%が放射能低減剤に吸着したことから、4時間程度で100%の吸着効果が発揮されると推測された。また、放射性セシウム134と137は、3時間の浸漬で100%若しくは100%に近い吸着効果が発揮されていると推測された。
【0028】
(放射能低減の効果)
以上のとおり、本発明に係る放射能低減剤による処理によって、用水中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムを吸着除去し、放射能を低減できることが確認された。すなわち、用水中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムが、本発明に係る放射能低減剤の基体をなす天然の黒鉛珪石粉末の作用により吸着除去され、放射能が低減したと考えられる。
【0029】
[実施例2]
上記実施例1にて、本発明に係る放射能低減剤により、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを吸着除去できることが確認されたが、本発明に係る放射能低減剤をバッチ処理にて繰り返し使用することを想定すると、一旦、吸着された放射性物質が次なる原水との接触で溶出してくるようであれば、吸着機能材としては不適と考えられることから、上記実施例1で使用した後の放射能低減剤2.0Lを12日間自然乾燥させ、酸度4.20%の食酢900cc内に24時間浸漬させ、この酸処理水を採取して、放射性物質が溶出している否かを調べた。使用後の放射能低減剤を酸処理した理由は、セシウムがアルカリ金属由来によるためである。放射能低減剤内部に浸透している酸処理水は浄化剤内部の食酢は遠心分離機で採取した。
【0030】
採取した酸処理水を24時間後に上記実施例1同様の分析法で、放射性ヨウ素検出用1検体と放射性セシウム検出用2検体を測定した。その測定結果を下記表2と図1に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
酸処理水の中からは3検体とも放射性物質は確認されず、放射能低減剤の中に強固に安定吸着されていることが確認できた。すなわち、本発明に係る放射能低減剤は、バッチ処理にて繰り返し使用しても、その放射能吸着機能は維持されるといえる。
【0033】
[実施例3]
上記実施例2にて、吸着された放射性物質は、酸処理を行っても溶出せず、放射能低減剤内部にほぼ100%留まることが確認されたことから、酸処理後の放射能低減剤内部に留まる放射性物質(放射性ヨウ素及び放射性セシウム)の経時減衰試験を実施した。
【0034】
すなわち、上記実施例1の試験のスタート時を第1回目とし、27日後を第2回目、その一週間後の34日後を第3回目、さらに41日後を第4回目とし、放射能低減剤内部に留まる放射性物質を検出する試験を実施した。
【0035】
その結果を下記表3と図1に示す
【0036】
【表3】

【0037】
放射性ヨウ素(ヨウ素131)については、113Bq/kgをスタート時の第1回目の検出値とした。放射性ヨウ素(ヨウ素131)は、半減期が8日と短いこともあり、第2回目以降では検出されなかった。
【0038】
一方、放射性セシウム(セシウム134とセシウム137の合量)については、78Bq/kgをスタート時の第1回目の検出値とした。第2回目では50Bq/kg、第3回目では44Bq/kg、第4回目では40Bq/kgに減衰し、ほぼ半減した。
【0039】
ここで、図1に示す理論上の減衰線と試験結果の減衰線とを比較すると、放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれにおいても、試験結果の方が早く減衰している。これは天然の黒鉛珪石粉末の特徴である、高レベルの遠赤外線等の作用により、放射性物質が急速に減衰しためと考えられる。
【0040】
以上のように本発明の放射能低減剤によれば、優れた放射能吸着効果及び放射能減衰効果が得られることが確認された。したがって、本発明の放射能低減剤を使用すれば、処理が困難な放射性用排水の放射能レベルを容易に低減することが可能となり、その処理時間及び処理コストを大幅に削減することが可能となる。また、一旦、放射性物質を吸着したら、その放射性物質が溶出することがないことも上述のとおり確認済みであり、しかも、本発明の放射能低減剤に吸着された放射性物質は、図1に示したとおり理論上の減衰に比べ急速に減衰することから、本発明の放射能低減剤の放射能処理機能は極めて有効であるといえる。
【0041】
また、本発明の放射能低減剤は、天然の黒鉛珪石粉末を基材としており、その製作も迅速に行えることから、原子力施設事故等が突発的に発生しても、早急に対応することが可能である。さらに、天然の黒鉛珪石粉末自体は、本発明の発明者が上記特許文献1〜4で開示したように他の用途として広く使用されており、人体及び環境への安全性も確認されており、本発明の放射能低減剤の使用により有害な副作用が発生することもない。
【0042】
以上のとおり、本発明の放射能低減剤は、社会性、経済性及び安全性のいずれにおいても極めて有効である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上記実施例は、実作業をバッチ式で行うことを前提としてのテストモデルで行ったが、放射性物質の存在形態(液中、土壌中など)に関わらず、放射性物質と放射能低減剤の何れか一方を流動化して連続処理することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で遠赤外線を放出する天然の黒鉛珪石粉末を主体とする放射性物質を吸着して放射能を低減する放射能低減剤。
【請求項2】
常温で遠赤外線を放出する天然の黒鉛珪石粉末とアルミノ珪酸塩ガラスの粉末との混合粉末を還元性雰囲気中で焼成して、平均粒径が5mm以下のポーラス状粒状体とした請求項1に記載の放射能低減剤。
【請求項3】
前記黒鉛珪石粉末が常温で波長6〜14μmの遠赤外線を放出する請求項1又は2に記載の放射能低減剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の放射能低減剤を放射性物質に接触させ、放射性物質を放射能低減剤に吸着させて放射能を低減する放射能低減方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−3008(P2013−3008A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135512(P2011−135512)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(596181419)株式会社 西日本環境工学 (1)
【出願人】(511148684)有限会社 ガイア (1)