説明

放熱用シリコーングリース組成物

【課題】長期にわたって安定した熱伝導性性能を発揮することができる、信頼性の高い放熱用シリコーングリースを提供する。
【解決手段】下記成分(A)〜成分(C)からなることを特徴とする放熱用シリコーングリース組成物。(A):チキソ度αが1.03〜1.50で25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン100質量部(B):下記一般式(1)で表される片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン5〜200質量部(C):平均粒径0.1〜100μmで且つ比表面積0.01〜50m2/gの熱伝導性無機充填剤200〜4000質量部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱用シリコーングリース組成物に関し、特に、長期間高温に曝されてもボイドや割れが発生しないだけでなく、ずれやオイルブリードも起きず、放熱特性が低下しない放熱用シリコーングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の多くは使用中に熱が発生するので、その電子部品を適切に機能させるためには、その電子部品から熱を取り除くことが必要である。
従来、シリコーングリースをベースとし、充填剤として各種粉末を用いた放熱用シリコーングリースが知られている(特許文献1−8)。
【特許文献1】特公昭52-33272号公報
【特許文献2】特公昭59-52195号公報
【特許文献3】特開昭52-125506号公報
【特許文献4】特開昭57-36302号公報
【特許文献5】特開昭62-43492号公報
【特許文献6】特開平2-212556号公報
【特許文献7】特開平3-162493号公報
【特許文献8】特開2003-301189号公報
【0003】
しかしながら、これら従来の放熱用シリコーングリース組成物は、長期にわたって使用した場合に、ボイドや割れが発生して熱を効率良く逃がすことができなくなり、放熱特性が低下するという欠点があった。また、使用中に放熱グリースがずれたり、オイルブリードを起こすこともあり、この場合にも、放熱特性が低下する。
【0004】
本発明者らは、上記の欠点を解決すべく鋭意検討した結果、一定範囲のチキソ度を有する特定のオルガノポリシロキサン(A)と特定の加水分解性のオルガノポリシロキサン(B)をベースオイルとして使用すると共に、一定の平均粒径と比表面積をもつ熱伝導性充填剤(C)を使用した場合には、長期にわたって高温に曝された場合でもシリコーングリースにボイドや割れが発生し難いこと、また、上記充填剤(C)の表面積と前記加水分解性のオルガノポリシロキサン(B)の使用質量部との比率を一定の範囲にした場合には、放熱用シリコーングリースとしての使用中に発生し易い、ずれやオイルブリードの発生を防止することができることを見出し、本発明に到達した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、長期にわたって安定した熱伝導性性能を発揮することができる、信頼性の高い放熱用シリコーングリースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、下記成分(A)〜(C)からなることを特徴とする放熱用シリコーングリース組成物である。
成分(A):チキソ度αが1.03〜1.50で25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン100質量部;但し、チキソ度αはη12であり、ここでη1は、ロータの回転数を6rpmとして測定した、25℃におけるB型回転粘度計による測定粘度、η2はロータの回転数を12rpmとして測定した、25℃におけるB型回転粘度計による測定粘度である。
成分(B):下記一般式(1)で表される片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン5〜200質量部;

但し、式中のRは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜18で、置換又は非置換の一価炭化水素基の群の中から選択される1種若しくは2種以上の基、aは5〜120の整数である。
成分(C):平均粒径0.1〜100μmで且つ比表面積が0.01〜50m2/gの熱伝導性無機充填剤200〜4000質量部。
【0007】
本発明においては、前記成分(A)のオルガノポリシロキサンが、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に少なくとも2個のSi-H基を有する特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させて得られたオルガノポリシロキサンであることが好ましく、更に、前記成分(A)のオルガノポリシロキサンが、〔R4SiO1/2〕単位及び〔R4SiO〕単位と共に、〔R4SiO3/2〕単位及び/又は〔SiO4/2〕単位を含むオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
また、前記成分(C)の熱伝導性無機充填剤の表面積[比表面積×成分(C)の質量]を前記成分(B)の加水分解性オルガノポリシロキサンの質量で割った値が10〜500m/gの範囲となるように各成分を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の放熱用シリコーングリース組成物は、長期にわたって高温で使用した場合でもボイドやクラックが発生せず、またグリースのずれやオイルブリードを防止することができるので、長期にわたって安定した熱伝導性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の放熱用シリコーングリース組成物を構成する成分(A)のオルガノポリシロキサンはチキソ性を有しているものである。オイルのチキソ性はチキソ度αの値で表され、この値が大きいほどオイルの粘性も大きくなることが知られている。本発明においては、チキソ度は1.03〜1.50の範囲であることが必要であり、1.05〜1.45であることが好ましく、1.11〜1.40であることが特に好ましい。オルガノポリシロキサンのチキソ度が1.03より小さい場合、粘性が小さくなるので、熱伝導性充填剤との親和性が弱くなり、シリコーングリース組成物がオイルブリードしやすくなる。一方、チキソ度が1.50より大きい場合には、成分(B)および/又は成分(C)との混合が困難となるのでグリース状に仕上がらない。
【0010】
本発明で使用する成分(A)のオルガノポリシリキサンの25℃における粘度は、100〜1,000,000mPa・sの範囲であることが必要であり、特に1000〜100,000mPa・sであることが好ましい。粘度が100mPa・sより小さいと得られるシリコーングリース組成物の安定性が乏しくなり、1,000,000mPa・sより大きい場合には、成分(B)および/又は成分(C)との混合が困難となる。
【0011】
上記成分(A)のオルガノポリシロキサンは、例えば、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に少なくとも2個のSi-H基を有する下記一般式(2) で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを、白金単体、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金−アルコール錯体等の、触媒である白金化合物存在下で付加反応させることによって容易に得ることができる。
【0012】
上記ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよく、また異なる粘度を有する2種以上の混合物であっても良い。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基などが例示されるが、合成のし易さ及びコストの観点からビニル基であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合するアルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖末端に有っても、分子鎖中に存在してもよいが、オルガノポリシロキサンとしての柔軟性の観点から、両末端にのみ存在することが好ましい。
【0013】
上記ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンにおける、ケイ素原子に結合する、アルケニル基以外の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基などのアラルキル基:クロロメチル基、3,3,3,-トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基;等が挙げられる。本発明においては、これらのうち、合成のしやすさ及びコストの観点から、メチル基が90モル%以上であることが好ましい。
【0014】
前記成分(A)のオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、下記一般式(2)で表される1分子中に少なくとも2個のSi-H基を有する特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させて得られるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。

但し、一般式(2)中のR3は、水素原子、又は炭素数1〜20の、不飽和炭化水素基を除く置換又は非置換の一価炭化水素基の群から選択される少なくとも一種の基であり、n及びmはそれぞれ、1≦n≦1000及び0≦m≦1000を満足する数である。
【0015】
上記Rの例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロヘキシル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられるが、合成のし易さやコストの面からは、90モル%以上がメチル基である事が好ましい。
【0016】
上記した付加反応によって、所望する成分(A)のオルガノポリシロキサンを得る場合には、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び/又はSi-H基を有するオルガノポリシロキサンをそれぞれ2種類以上使用しても良いだけでなく、反応基を持たないジメチルポリシロキサン等を混合することもできる。
【0017】
又、成分(A)のオルガノポリシロキサンを得る別の方法として、一般的な線状オルガノポリシロキサンの構造単位である〔R4SiO1/2〕単位及び〔R4SiO〕単位と共に、〔R4SiO3/2〕単位及び/又は〔SiO4/2〕単位を導入する方法が挙げられる。尚、ここでR4は前記R3と同じである。これらのオルガノポリシロキサンの具体的な製造方法としては、例えば(CH3)3SiCl、(CH3)2SiCl2、(CH3)SiCl3、等を加水分解・縮合させるか、又はこの縮合物と環状低分子シロキサンとを、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属シラノレート或いはテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化物、あるいは硫酸、有機スルホン酸などの強酸などから選ばれる触媒存在下に、室温あるいは加熱下で反応させる方法、或いは、水酸基を有すると共に(CH33SiO1/2単位とSiO2単位とからなる、オルガノポリシロキサンとシラノール基を有するポリジオルガノシロキサン等を、アミン触媒、錫触媒などの縮合触媒存在下の室温或いは加熱下で反応させる方法を挙げることができる。
尚、上記の例によって本願発明で使用する成分(A)の合成方法が限定されるものではなく、定義したチキソ度が得られる限り、いかなる合成方法によって合成されても良い。
【0018】
本発明で使用する成分(B)の片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンは、成分(C)の熱伝導性無機充填剤の表面を処理するために用いるものである。この片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンは、熱伝導性無機充填剤粉末の高充填化を補助するばかりでなく、それらの粉末表面を覆うことによって粉末同士の凝集を起こりにくくするものである。そして上記の効果は高温下でも持続するので、本発明のシリコーングリース組成物の耐熱性を向上させる働きがある。成分(B)の加水分解性オルガノポリシロキサンは下記一般式(1)で表される。

上記一般式(1)におけるRとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられるが、本発明においては、特にメチル基又はエチル基であることが好ましい。一方Rは、炭素数1〜18の、置換又は非置換の一価炭化水素基の群から選択される少なくとも一種の基である。このような基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロヘキシル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられるが、本発明においては特にメチル基であることが好ましい。
【0019】
前記一般式(1)におけるaは5〜120の整数であり、好ましくは10〜90の整数である。前記片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンの添加量は、5〜200質量部の範囲であることが必要であり、10-150質量部であることが好ましい。5質量部より少ないと、熱伝導性無機充填剤粉末の該粉末表面を覆い粉末同士の凝集を起こり難くして該粉末の高充填化を補助するという効果、したがってその高充填の効果によって耐熱性を改善するという効果が得られない。一方、200質量部を越えると、余剰分のオイルが分離してくる。
【0020】
成分(C)である熱伝導性無機充填剤は、本発明の放熱用シリコーングリース組成物に熱伝導性を付与するものである。この熱伝導性充填剤の平均粒径は0.1〜100μmの範囲であることが必要であり、好ましくは0.5〜50μmである。平均粒径が0.1μmより小さいと、得られる組成物の粘度が高くなりすぎて進展性の乏しいグリースとなり、100μmより大きいと得られる組成物が不均一となる。
【0021】
本発明においては、成分(C)である熱伝導性無機充填剤の比表面積は0.01〜50m2/gの範囲であることが必要であり、好ましくは0.1〜30m2/gである。比表面積が0.01m2/gより小さいと得られる組成物が不均一になり、50m2/gより大きいと、グリース組成物が高温に曝されたときにボイドや割れが発生するので好ましくない。また、この熱伝導性無機充填剤の配合量は200〜4000質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは400〜3000質量部である。配合量が200質量部より小さいと得られる組成物の熱伝導率が悪いだけでなく保存安定性が乏しいものとなる。一方、4000質量部より大きいと伸展性が乏しいものとなるか、組成物がグリース状にならない。
【0022】
本発明で使用する熱伝導性無機充填剤は、熱伝導率さえ高ければ特に限定されることはない。具体例としては、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化硼素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化珪素粉末、銅粉末、銀粉末、ダイヤモンド粉末、ニッケル粉末、亜鉛粉末、ステンレス粉末、カーボン粉末等が挙げられる。これらの熱伝導性無機充填剤は、球状、不定形状のどちらでも良く、これらを2種類以上混合して使用しても良い。
【0023】
本発明においてはさらに、成分(C)の熱伝導性無機充填剤の表面積[比表面積(m/g)×成分(C)の質量で表される。]を、成分(B)の片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンの質量で割った値(以下、「C表面積/B」と記載する。)が、10〜500m/gの範囲であることが好ましく、特に20〜300m/gの範囲であることが好ましい。C表面積/Bが10m/g以下では成分(C)に対して成分(B)が過剰となるので、この過剰の成分(B)が放熱グリースのずれやオイルブリードの原因となる。またC表面積/Bが500m/gを越えると、成分(C)に対して成分(B)が不足するため成分(C)を高充填化することが困難となり、放熱グリースの耐熱性を向上させる効果が不足するだけでなく、組成物がグリース状にならなかったり、高温に曝されたときにボイドや割れが発生したりする原因となる。
【0024】
本発明の放熱用シリコーングリース組成物を製造するに際しては、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(何れも井上製作所(株)製の混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製の混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製の混合機の登録商標)等の混合機を用いて混合する。必要である場合には、50〜150℃に加熱しても良い。
【0025】
更に、前述した、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、少なくとも2個のSi-H基を有する一般式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いて所望する放熱用シリコーングリース組成物を得る場合には、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、少なくとも2個のSi-H基を有する一般式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと共に、成分(B)及び成分(C)を予め撹拌混合しておき、その混合物中に更に白金化合物等を添加して付加反応させることにより、全工程を簡略化することも出来る。
【0026】
なお、上記のようにして各成分を混合した後、均一仕上げのために、さらに高剪断力下における混練操作を行うことが好ましい。この場合に使用する混練装置としては、3本ロ−ル、コロイドミル、サンドグラインダー等があるが、本発明においては、特に3本ロ−ルによる方法が好ましい。
【0027】
以上のようにして得られた本発明の放熱用シリコーングリース組成物は、高温で長期にわたって使用した場合でもボイドやクラックを発生せず、また使用時に問題となるグリースのずれやオイルブリードを防止することができるので、長期にわたって安定した熱伝導性を発揮することが出来る。
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
尚、得られた化合物の粘度は、東京計器社製のB型回転粘度計を用いて、25℃で測定した粘度である。
【0028】
[合成例1:成分(A)のオルガノポリシロキサンA-1の合成]
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を設けた内容積1000mlのフラスコに、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、主鎖の5モル%がフェニル基で残り95モル%がメチル基である、25℃における粘度が700mPa・sのオルガノポリシロキサン500gと、下記式(3)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサン3.0g及び下記式(4)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.0gとを仕込んだ。

式(3)

式(4)

【0029】
さらに、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液(白金原子として1%含有)からなる白金触媒を0.25g投入した後、120℃で1時間混合撹拌してオルガノポリシロキサンA-1を得た。A-1の粘度を測定したところ、下記の値が得られた。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.4/6rpm 26,000mPa・s
ロータNo.4/12rpm 22,500mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.16であった。
【0030】
[ベースオイルXの合成]
攪拌機、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた内容積5lのフラスコに水3,000gを入れ、撹拌しながらこの中に、トリメチルクロロシラン490g、ジメチルジクロロシラン560g及びメチルトリクロロシラン650gの混合物を、反応物の温度が50℃以下になるように冷却しながら3時間かけて滴下した。これをさらに30℃で2時間撹拌し、水層(塩酸及び水)を分離した後、有機層に3%炭酸ナトリウム水溶液1700gを加え、室温で2時間撹拌した後、水層を分離して除いた。残った有機層に無水硫酸ナトリウム70gを加えて室温で3時間撹拌した後、これを濾過して、粘度が14mPa・sで無色透明なオイルXを得た。
【0031】
[合成例2:成分(A)のオルガノポリシロキサンA-2の合成]
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を設けた内容積500mlのフラスコに、得られたオイルX10g、粘度が10mPa・sのトリメチルシリル末端封鎖ポリジメチルシロキサン22g及びオクタメチルシクロテトラシロキサン300gを入れ、窒素ガスを通気しながら120℃まで加熱した。この中に、水酸化カリウム0.3gを加え、さらに150℃まで昇温させて4時間撹拌した後100℃まで冷却し、エチレンクロロヒドリン2gを添加した。未反応の低分子シロキサンを除去してオルガノポリシロキサンA-2を得た。A-2の粘度を測定したところ、下記の値が得られた。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.4/6rpm 36,000mPa・s
ロータNo.4/12rpm 27,300mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.32であった。
【0032】
[合成例3:成分(A)のオルガノポリシロキサンA-3の合成]
合成例2で使用したオイルXを25g使用すると共に、オクタメチルシクロテトラシロキサンを308g使用したこと以外は、合成例2と同じ条件で合成してオルガノポリシロキサンA-3を得た。この粘度を測定したところ下記の値が得られた。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.2/6rpm 2,200mPa・s
ロータNo.2/12rpm 2,100mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.05であった。
【0033】
[合成例4:成分(A)のオルガノポリシロキサンA-4の合成]
合成例1において使用した25℃における粘度が700mPa・sのオルガノポリシロキサンの代わりに、25℃における粘度が600mPa.sの、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン500gを使用すると共に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、前記式(4)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン23g及び下記式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン33gを仕込んだこと以外は、合成例1と同様にして、オルガノポリシロキサンA-4を得た。
(5)

A-4の粘度を測定したところ、下記の値が得られた。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.4/6rpm 72,000mPa・s
ロータNo.4/12rpm 46,000mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.57であった。
【0034】
[合成例5:成分(A)のオルガノポリシロキサンA-5の合成]
合成例2で使用したオイルXを100gすると共に、オクタメチルシクロテトラシロキサンを200g用いたこと以外は、合成例2と同様の条件で合成し、オルガノポリシロキサンA-5を得た。A-5の粘度を測定したところ下記の値が得られた。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.1/6rpm 450mPa・s
ロータNo.1/12rpm 440mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.02であった。
【0035】
成分(A)のA-6として下記式(6)で表されるジメチルポリシロキサン(KF−96H10,000cs:信越化学工業社製の商品名)を使用した。
(6)

A-6の粘度の測定結果を下記に示す。
〔粘度測定結果〕
ロータNo.3/6rpm 9,800mPa・s
ロータNo.3/12rpm 9700mPa・s
上記結果から計算したチキソ度αは1.01であった。
【0036】
[実施例及び比較例]
前述したオルガノポリシロキサンA-1〜6に、下記の成分(B)及び(C)を配合し、プラネタリミキサー(井上製作所(株)製)を用いて、120℃で1時間混合し、放熱用シリコーン組成物を製造した。
B-1:下記組成式で表される加水分解性オルガノポリシロキサン

C-1:アルミナ粉末 (平均粒径 10μm、比表面積1.5m2/g)
C-2:アルミナ粉末 (平均粒径 1μm、比表面積8m2/g)
C-3:酸化亜鉛粉末 (平均粒径 0.3μm、比表面積4m2/g)
C-4:アルミ粉末 (平均粒径 10μm、比表面積3m2/g)
C-5:アルミナ粉末 (平均粒径 0.01μm、比表面積160m2/g)
得られた放熱用シリコーン組成物について、下記の物性を測定し、評価を行った。各実施例及び比較例の成分比及び評価結果を表1及び2に示す。
【0037】
1.ボイド及び割れの抑制効果に関する試験
1gのシリコーングリース組成物を、2枚のスライドガラス間に1mm厚のスペーサーを間にいれて挟み込み(即ちシリコーングリース組成物の厚みは1mmになる)、そのサンプルを150℃のオーブン中で1000時間水平に放置した。1000時間放置した後、シリコーングリース組成物の状態を目視によって観察し、次のように評価した。
○:ボイドや割れの発生がない
×:ボイド又は割れの発生がある。
【0038】
2.ずれ抑制効果に関する試験
小型冷熱衝撃試験機TSE-11A(エスペック(製))に、前記ボイド・割れ試験の場合と同様のサンプルを垂直に設置し、-40℃/30分←→+125℃/30分の熱平衡サイクルを100回行わせ、シリコーングリース組成物の状態を目視によって観察し、以下のようにして評価した。
○:初期位置からのずれなし
×:初期位置からのずれがある
【0039】
3.熱伝導率
迅速熱伝導率計QTM-500(京都電子工業(株))を用いて、25℃における熱伝導率を測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1から明らかなように、本発明の放熱用シリコーングリース組成物は、ボイド及び割れも発生せず、ずれの抑制にも優れており、良好な物性を有することが確認された。
成分(A)のチキソ度が本発明の範囲より高い場合には、グリースの製造が困難になることが比較例1の結果から確認された。一方、成分(A)のチキソ度が本発明の範囲より低い場合には、ボイドや割れが発生しやすくなると共に、ずれの抑制も低下することが比較例2及び3の結果から確認された。
【0043】
また、成分(B)の配合比が本発明の範囲より小さいと、ボイドや割れが発生しやすくなることが比較例4から確認された。一方、配合比が本発明の範囲より大きいと、ボイド等は発生しなくなるものの、オイルブリードが生じたり、ずれの抑制が低下したりすることが、比較例5より確認された。
【0044】
また、成分(C)の配合比が、本発明の範囲より小さいと、オイルブリードが生じたり、ずれの抑制が低下したりすることが比較例6の結果から確認された。一方、配合比が本発明の範囲より大きいと、グリースの製造が困難になることが、比較例7の結果から確認された。
また、成分(C)の平均粒径が本発明の範囲より小さくなり、比表面積が本発明の範囲より大きくなると、ボイドや割れが発生しやすくなることが比較例8の結果から確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の放熱用シリコーングリース組成物は、長期間高温に曝されても放熱特性が低下しないので、電子部品を長時間適切に機能させるために極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜成分(C)からなることを特徴とする放熱用シリコーングリース組成物;
成分(A):チキソ度αが1.03〜1.50で25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン100質量部;但し、チキソ度αはη12であり、ここでη1は、ロータの回転数を6rpmとして測定した、25℃におけるB型回転粘度計による測定粘度、η2はロータの回転数を12rpmとして測定した、25℃におけるB型回転粘度計による測定粘度である。
成分(B):下記一般式(1)で表される片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサン5〜200質量部;

但し、式中のRは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜18で、置換又は非置換の一価炭化水素基の群の中から選択される1種若しくは2種以上の基、aは5〜120の整数である。
成分(C):平均粒径0.1〜100μmで且つ比表面積が0.01〜50m2/gの熱伝導性無機充填剤200〜4000質量部。
【請求項2】
前記成分(A)のオルガノポリシロキサンが、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に少なくとも2個のSi-H基を有する下記一般式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させて得られたオルガノポリシロキサンである、請求項1に記載された放熱用シリコーングリース組成物。

但し、式中のR3は、水素原子、又は炭素数1〜20の、不飽和炭化水素基を除く置換又は非置換の一価炭化水素基の群から選択される一種もしくは二種以上の基であり、n及びmは、それぞれ1≦n≦1000及び0≦m≦1000を満足する数である。
【請求項3】
前記成分(A)のオルガノポリシロキサンが、〔R43SiO1/2〕単位及び〔R42SiO〕単位と共に、〔R4SiO3/2〕単位及び/又は〔SiO4/2〕単位を含む、請求項1に記載された放熱用シリコーングリース組成物;但し、上記R4は前記R3と同じである。
【請求項4】
前記成分(C)の熱伝導性無機充填剤の(比表面積×成分(C)の質量)で表される表面積を前記成分(B)の加水分解性オルガノポリシロキサンの質量で割った値が10〜500m/gの範囲である、請求項1〜3の何れかに記載された放熱用シリコーングリース組成物。

【公開番号】特開2010−126568(P2010−126568A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300437(P2008−300437)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】