説明

放電加工装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加工槽内の加工液中に加工物及び電極を浸漬した状態で放電加工を行う装置に係り、詳しくは、加工槽が昇降可能に設けられた放電加工装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】放電加工は、対向する電極と加工物との微少な隙間を水または油を主体とする加工液で絶縁した状態で加工物を加工する。そのため、放電加工装置の加工槽は、放電加工時に、内部に貯めた加工液中に主軸上の電極とテーブル上の加工物とを浸漬させて周囲の空気から遮断かつ絶縁し、また、放電加工をしない時、例えば、テーブル上で作業をするような時には、作業しやすいように電極及び加工物を加工液から露出させる。
【0003】このように電極及び加工物を加工液に漬けたり出したりするために、従来、加工槽を加工液を貯めたままの状態で昇降させることによって、テーブルに対し加工液面を任意の高さに変更できるように構成された放電加工装置が提案されている。例えば、図4に示す従来の放電加工装置は、加工液101を貯めるベッド102と、加工物103を載置するテーブル104と、テーブル104を支持するゲダイ105と、テーブル104を包囲する加工槽107と、加工槽107をゲダイ105に沿って昇降させる駆動装置108と、ベッド102内の加工液101を加工槽107に送給する加工液供給装置109と、主軸110に固定した電極111と、電極111が加工物103に任意の位置で対向するように主軸110を移動するヘッド、コラム、サドル等の可動構造体(図示略)とから構成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の放電加工装置においては、加工槽107が降下して、その下部がベッド102内の加工液101に沈み込む際に、加工槽107は加工液101から浮力及び液中を物体が移動するときに生じる抗力(以下、これらの力を合わせて抵抗力と称する)を受ける。特に、金型等の大きな加工物103を加工する放電加工装置の場合は、大きな面積のテーブル104の周囲を加工液で満たすことができるように、大きな底面積と深さの加工槽107を使用するため、これがベッド102内の加工液101に沈み込んだ際には、大量の加工液101を押し退け、それによって加工槽107が底面に非常に大きな抵抗力を受ける。
【0005】加工槽107が一様な速度で加工液101に沈下することは、一様流内に加工槽107が置かれている場合として考えられるので、そのとき受ける抵抗力Dは次式で表わされる。
D=CD ・1/2・ρV2 S (1)
ρ :加工液の密度CD :抗力係数(抵抗係数)
V :一様流速度(加工槽の一様な速度)
S :一様流の方向に垂直な平面への物体投影面積(加工槽底面積)
【0006】上式より、底面積が大きいほど、又は、降下速度が速いほど、加工槽107は加工液101からより大きな抵抗力を受けることが分かる。従って、従来の放電加工装置によると、加工槽107の底面積が大きい場合に、その降下速度が著しく低下するか、或は、降下しようとする力が抵抗力に負けて強制的に停止させられることがあり、何れの場合も、加工槽107を昇降するための駆動装置108に無理な力が作用するという問題点があった。
【0007】そこで、本発明の課題は、加工槽の底面積が大きい場合でも、これをベッド内の加工液中にスムーズに降下させることができる放電加工装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために、本発明は、ベッドに加工液を貯め、加工液の上方に加工物を載置するテーブルを設け、テーブルを包囲する加工槽をベッド内に昇降可能に配設し、ベッドの加工液を加工槽に送り、加工槽内の加工液中に加工物及び電極を浸漬した状態で放電加工を行う放電加工装置において、加工槽の底面に加工液が通過する穴を形成し、該穴には加工槽外側から内側へのみ加工液が通過可能な弁を設けて構成される。
【0009】また、この弁は一端を加工槽に固定した弾性板であることが望ましい。
【0010】
【作用】本発明の放電加工装置によれば、放電加工時において、弁望ましくは弾性板が加工槽内の加工液の自重に基づく圧力によって加工槽底面の穴を塞ぎ、加工液が加工槽から漏れ出ないように保持する。また、非加工時において、加工槽の下部がベッド内の加工液中に沈み込む際には、弁望ましくは弾性板がベッド内の加工液の抵抗力によって押し開けられ、ベッド内の加工液を加工槽内へ通過させる。従って、このときには、加工槽の受ける抵抗力が減少し、加工槽がスムーズかつ速やかにベッド内の加工液中に降下する。
【0011】
【実施例】以下、本発明を具体化した一実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施例の放電加工装置は大形金型等の加工物3を加工できるように構成されていて、加工液1を貯めるベッド2と、加工物3を載置するテーブル4と、テーブル4を支持するゲダイ5と、テーブル4を包囲する加工槽7と、加工槽7をゲダイ5に沿って昇降する駆動装置8と、ベッド2内の加工液1を加工槽7内に送給する加工液供給装置9と、主軸10に固定した電極11とを備えている。そして、加工液1は加工液供給装置9によってベッド2から加工槽7へ常時送給され、その加工槽7内の加工液6によって加工物3、テーブル4、及び電極11が浸漬されるようになっている。
【0012】図2に示すように、加工槽7の側壁は内外二重に構成されていて、外壁7aは内壁7bよりも高く形成されている。従って、加工槽7内の加工液6は内壁7bの上縁を越え、内壁7bと外壁7aとの間を通って落下し、ベッド2に回収される。
【0013】図3に示すように、加工槽7の底面7cには、加工液が通過する4個の穴7dが形成されている。また、これらの穴7dを上方から塞ぐように、加工槽7の底面7cには、ゴム、合成樹脂又は金属等からなる弾性板13がその一端にてボルト12により取り付けられている。この弾性板13は、加工槽7内の加工液の自重に基づく圧力で底面7cに押しつけられることにより、加工液が加工槽7の外へ全く漏れないか或はわずかに漏れる程度の状態で穴7dを塞ぐように構成されている。なお、底面7cの内周縁には、加工槽7とゲダイ5との隙間から加工液を漏らさないようにシールするためのワイパー14が設けられている。
【0014】上記のように構成された本実施例の放電加工装置においては、放電加工時に、加工槽7が上昇位置に配置され、その下面がベッド2内の加工液1から上方へ離間される。この状態では、弾性板13が加工槽7内の加工液6の圧力によって底面7cの穴7dを塞ぎ、加工液6を加工槽7から漏れ出ないように保持する。
【0015】一方、非加工時には、加工槽7が駆動装置8によって降下される。そして、加工槽7の下部がベッド2内の加工液1に接すると、その加工液1によって加工槽7の下面に上向きに抵抗力が作用する。このときの抵抗力は、加工槽7の沈み込み深さに対応する浮力と、加工槽7が一様速度で沈下する際に加工液1から受ける抗力とからなる。ここで、加工槽7が一様速度で沈下することを、一様流内に流れの方向に垂直に底面を向けて加工槽7が置かれているものと考え、加工槽7が加工液1から抗力を受けながらも降下する際に、弾性板13が押し開けられるためには、弾性板13に働く下向き及び上向きの2つの圧力の関係が次のようでなければらない。
【0016】加工槽7内の加工液6による圧力<ベッド2内の加工液1による圧力+抗力による圧力これを次式のように表すことができる。
ρH1 <ρH2 +D/S (2)
ρ :加工液の密度H1 :加工槽内の液面から加工槽底面までの深さH2 :ベッド内の液面から沈み込んだ加工槽底面までの深さD :抗力(浮力)
S :弾性板の面積ここで抗力Dは、(1)式よりD=CD ・1/2・ρV2 SV :加工槽の一様な速度CD :抗力係数と表せるので(2)式は、ρH1 <ρH2 +CD ・1/2・ρV2 (3)
となる。
【0017】(2)、(3)式において、H1 とH2 はともに液面高さを表しているが、加工槽7内には供給装置9によってベッド2から加工液6が常時送給されているため、図1からも分かるように、H1 はH2 に比べてかなり大きい。しかるに(3)式の関係は、Vがある値以上になれば成り立つことを示しており、(3)式の関係が成り立つときに弾性板13が押し開けられる。
【0018】このように、一様なある値以上の速い速度で加工槽7を降下するときは、上式のように、弾性板13に下向きに働いていた圧力よりも外部から上向きに働く圧力の方が短時間で大きくなるので、加工槽7の下面がベッド2の加工液1の液面に接してから瞬く間に、弾性板13が一端を基にして反り曲がりながら押し開けられる。そして、弾性板13と底面7cとの間に隙間が生じると、穴7dからベッド2内の高圧の加工液1がそれよりも低圧状態の加工槽7内へ流れ込み、加工槽7に上向きに働く圧力がその内部に逃げ、抗力による抵抗が小さくなって、加工槽7がスムーズかつ速やかに降下する。なお、この状態では、加工槽7内の加工液6が穴7dから流入した液量分だけ増加しているが、前述した2重壁の間を通ってベッド2に回収されるため、加工槽7から溢れ出るおそれはない。
【0019】加工槽7が降下を停止すると、加工槽7の下面に働いていた加工液1の抗力が、加工槽7内の加工液6の圧力より次第に小さくなって、弾性板13が底面7cに密着して穴7dを閉じ、加工液6を加工槽7内に保持する。
【0020】なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、例えば、加工槽底面の穴の数及び形状を変更したり、弁の構成を変更したりするなど、本発明の主旨を逸脱しない範囲で各部の形状並びに構成を任意に変更して具体化することも可能である。
【0021】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の請求項1の放電加工装置によれば、加工槽の底面に加工液が通過する穴とこれを塞ぐ弁とを設けたので、加工槽の底面積が大きい場合でも、これをベッド内の加工液中にスムーズに降下させることができるという優れた効果を奏する。
【0022】また、請求項2の放電加工装置によれば、弁を弾性板で構成したので、放電加工時には、穴を確実に塞いで、加工槽から加工液が漏れ出ないようにでき、また、加工槽の降下時には、穴を開放して、加工液を加工槽内へ流すことができ、これらの2つの動作を簡単な構成で実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す放電加工装置の側面図である。
【図2】同装置における加工槽の側壁構造を示す拡大図である。
【図3】同加工槽の要部を示す横断面図である。
【図4】従来の放電加工装置を示す側面図である。
【符号の説明】
1・・ベッド内の加工液、2・・ベッド、3・・加工物、4・・テーブル、5・・ゲダイ、6・・加工槽内の加工液、7・・加工槽、7c・・底面、7d・・穴、8・・駆動装置、9・・加工液供給装置、10・・主軸、11・・電極、13・・弾性板、14・・ワイパー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ベッドに加工液を貯め、加工液の上方に加工物を載置するテーブルを設け、テーブルを包囲する加工槽をベッド内に昇降可能に配設し、ベッドの加工液を加工槽に送り、加工槽内の加工液中に加工物及び電極を浸漬した状態で放電加工を行う放電加工装置において、加工槽の底面に加工液が通過する穴を形成し、該穴には加工槽の外側から内側へのみ加工液が通過可能な弁を設けてなる放電加工装置。
【請求項2】 弁が一端を加工槽に固定した弾性板からなる請求項1記載の放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3465728号(P3465728)
【登録日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【発行日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−190692
【出願日】平成7年7月26日(1995.7.26)
【公開番号】特開平9−38830
【公開日】平成9年2月10日(1997.2.10)
【審査請求日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)