説明

放電管

【課題】 放電電極間の絶縁性を良好とし、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能な放電管を提供する。
【解決手段】 放電空間を挟んで対向する一対の電極と、前記一対の電極が両端に設置され、前記放電空間を画成する気密筒と、を有する放電管であって、前記気密筒の表面に耐透水性を有するコーティング膜を形成したこと特徴とする放電管を用いることで、放電電極間の絶縁性を良好とし、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の放電電極を有する放電管に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内に放電現象を発生させるためには、当該空間に放電開始電圧を超える電圧を印加する必要があり、このためには、高電圧トリガを発生させるための回路が必要となる場合がある。例えば、近年車両のヘッドライトなどに用いられているHID(High Intensity Discharge)は、放電を開始するための高圧トリガを発生するためのイグナイト回路を必要とする。このイグナイト回路は、主に電荷をチャージするコンデンサ、高圧トリガを発生するトランス、そして安定した電源パルスを発生するための放電管(スイッチング放電管と呼ぶ場合もある)で構成されている。(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図1及び図2は、従来用いられている放電管の一例である、放電管100を示している。図1は放電管100の断面図であり、図2は放電管100の外観を示す斜視図である。
【0004】
図1および図2を参照するに、前記放電管100は、図1に示されるように、大略すると気密筒110,上部放電電極122,及び下部放電電極124,及び封入ガス等により構成されている。内部に放電空間100aが画成される前記気密筒110は円筒形状を有しており、セラミック材料等の絶縁体材料から形成されている。
【0005】
前記気密筒110の上端開口部及び下端開口部には、上部放電電極122と下部放電電極124が接合されており、さらに前記上部放電電極122及び下部放電電極124には、円板状の蓋体部126および蓋体部128が、それぞれ一体的に形成されている。
【0006】
また、前記気密筒110の上端開口部及び下端開口部にはメタライズ面140が形成されており、前記上部放電電極122および下部放電電極124に形成された前記蓋体部126および128は、前記気密筒110の各開口部に形成された前記メタライズ面140にろう付けされ、そのために前記上部放電電極122及び下部放電電極124は、前記気密筒110に接合されている。この接合の際、前記気密筒110内には封入ガスが封入される。このようにして、前記気密筒110の内部には、当該気密筒110、前記上部放電電極122、および前記下部放電電極124によって、封入ガスが封入される放電空間100aが画成される。
【0007】
前記上部放電電極122は、前記蓋体部126から前記気密筒110の中央位置に向け突出しており、その先端部は小径の円柱状に形成されている。また、この小径の円柱状の先端部に上部放電面123が形成されており、当該上部放電面123には放電を安定させて発生させるための凹部127が設けられている。
【0008】
同様に、前記下部放電電極124は、前記蓋体部128から前記気密筒110の中央位置に向け突出しており、その先端部は小径の円柱状に形成されている。また、この小径の円柱状の先端部に下部放電電極面125が形成されており、この下部放電面125にも放電を安定させて発生させるための凹部127が設けられている。前記上部放電面123及び下部放電電極面125には、例えば銅メッキが施されている。
【0009】
前記放電管100内の放電は、前記放電空間100aであって、前記上部放電電極面123と前記下部放電電極面125との間の離間部分である放電ギャップ129で発生する。
【0010】
また、前記上部方電極122および前記下部放電電極124には、それぞれリード線112、114が接続され、他のデバイスなどと前記放電管100の接続を容易にしている。
【0011】
また、例えば放電管の材料には様々なものが用いられる場合があり、上記に示した構造以外にも、例えばガラスを用いたものが提案されており、この場合にはガラスの破損を防止するためにガラスの表面に破損防止用のコーティングを施す場合があった(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−220808号公報
【特許文献2】特開2004−235017号公報
【特許文献3】特開平9−63742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、放電管を用いる環境は必ずしも一定の条件下である場合に限定されず、様々な環境で使用する場合があり、過酷な条件下では所定の電気特性が得られない場合があった。
【0013】
例えば、放電管を高温高湿の下で使用した場合、図1〜図2に示した気密筒に水分が付着し、当該気密筒の絶縁抵抗の低下、電気的な特性(スイッチング特性)の低下が発生する場合があった。また、急激な外気温度の変化が生じた場合にも、気密筒が結露し、水分が付着するために絶縁抵抗が低下してしまう場合があった。
【0014】
そこで、本発明では上記の問題を解決した、新規で有用な放電管を提供することを目的としている。
【0015】
本発明の具体的な課題は、放電電極間の絶縁性を良好とし、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能な放電管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を、放電空間を挟んで対向する一対の電極と、前記一対の電極が両端に設置され、前記放電空間を画成する気密筒と、を有する放電管であって、前記気密筒の表面に耐透水性を有するコーティング膜を形成したこと特徴とする放電管により、解決する。
【0017】
当該放電管は、放電を行う電極間の絶縁性が良好であり、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能である。
【0018】
また、前記前記気密筒はセラミック材料よりなると、前記電極間の絶縁性が良好であり、好適である。
【0019】
また、前記コーティング膜は、光透過性材料よりなると、放電管の放電特性が良好となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放電電極間の絶縁性を良好とし、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能な放電管を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面に基づき以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
図3及び図4は、本発明の実施例1による放電管の一例である、放電管1を示している。図3は放電管1の断面図であり、図4は放電管1の外観を示す斜視図である。
【0023】
図3および図4を参照するに、前記放電管1は、図3に示されるように、大略すると気密筒10,上部放電電極22,及び下部放電電極24,及び封入ガス等により構成されている。内部に放電空間が画成される前記気密筒10は、例えば円筒形状を有しており、例えばセラミック材料等の絶縁体材料から形成されている。
【0024】
前記気密筒10の上端開口部及び下端開口部には、上部放電電極22と下部放電電極24が接合されており、さらに前記上部放電電極22及び下部放電電極24には、円板状の蓋体部26および蓋体部28が、それぞれ一体的に形成されている。
【0025】
また、前記気密筒10の上端開口部及び下端開口部にはメタライズ面40が形成されており、前記上部放電電極22および下部放電電極24に形成された前記蓋体部26および28は、前記気密筒10の各開口部に形成された前記メタライズ面40にろう付けされ、そのために前記上部放電電極22及び下部放電電極24は、前記気密筒10に接合されている。この接合の際、前記気密筒10内には封入ガスが封入される。このようにして、前記気密筒10の内部には、当該気密筒10、前記上部放電電極22、および前記下部放電電極24によって、封入ガスが封入される放電空間10aが画成される。
【0026】
前記上部放電電極22は、前記蓋体部26から前記気密筒10の中央位置に向け突出しており、その先端部は小径の円柱状に形成されている。また、この小径の円柱状の先端部に上部放電面23が形成されており、当該上部放電面23には放電を安定させて発生させるための凹部27が設けられている。
【0027】
同様に、前記下部放電電極24は、前記蓋体部28から前記気密筒10の中央位置に向け突出しており、その先端部は小径の円柱状に形成されている。また、この小径の円柱状の先端部に下部放電電極面25が形成されており、この下部放電面25にも放電を安定させて発生させるための凹部27が設けられている。前記上部放電面23及び下部放電電極面25には、例えば銅メッキが施されている。
【0028】
前記放電管1内の放電は、前記放電空間10aであって、前記上部放電電極面23と前記下部放電電極面25との間の離間部分である放電ギャップ29で発生する。
【0029】
また、前記上部方電極22および前記下部放電電極24には、それぞれリード線12、14が接続され、他のデバイスなどと前記放電管1の接続を容易にしている。
【0030】
ところで、本実施例に係る放電管1は、上部及び下部放電電極22,24の材質として42アロイ,コバール.鉄−ニッケル−クロム合金等を用いると共に、この上部及び下部放電電極22,24の上部放電電極面23及び下部放電電極面25に銅メッキを施している。この銅メッキの厚さは、数μm〜20μm程度とすることが望ましい。
【0031】
前記したように、気密筒10はセラミック等の絶縁体により形成されており、上部放電電極22,下部放電電極24は気密筒10にろう付け接合される。このため、上部放電電極22,下部放電電極24の材料としてセラミックとの間で熱膨張係数の差が少ない42アロイ,コバール.鉄−ニッケル−クロム合金等を用いることにより、確実なろう付け接合を実現することができ、放電管1の信頼性を向上させることができる。
【0032】
しかし、従来は放電管を高温高湿の状態で使用した場合には、前記気密筒10の表面に水分が付着し、前記上部放電電極22と、前記下部放電電極24の間の絶縁性が低下し、放電管の放電特性が変化してしまう場合があった。例えば、前記気密筒10をセラミック材料などで形成した場合には、セラミック材料は表面に微細な凹凸があり、またミクロな観点からすると多孔質材料であるため、水分の吸着が生じやすく、そのために絶縁性の低下が生じやすい場合があった。
【0033】
そこで、本実施例による放電管1では、前記気密筒10の、放電が生じる側と反対側、すなわち前記気密筒10の大気に面する側の表面に、耐透水性を有する、絶縁材料よりなるコーティング膜10Aが形成されている。このため、前記上部放電電極22と前記下部放電電極24の絶縁性が良好となり、安定な放電が維持される効果を奏する。
【0034】
例えば、前記気密筒10の表面に前記コーティング膜10Aを形成することで、当該コーティング膜10Aがセラミック材料の表面の凹凸や微細な穴部に浸透し、水分が付着しやすい箇所を埋設し、そのために水分の付着を抑制する効果があると考えられる。さらに、当該コーティング膜が耐透水性を有していると、水分の浸入を防止することが可能となり、好適である。
【0035】
そのため、高温高湿の環境下での使用や、または結露が生じやすい温度変化が激しい環境下での使用において、気密筒の絶縁性の低下を抑制し、安定した放電を発生させることが可能となっている。
【0036】
例えば、前記コーティング膜10Aに用いる材料としては、シリコン系、フッ素系、またはラッカー系(エチルアセテートを主原料としたもの)などを用いることが可能である。また、これらのコーティング膜は、例えば前記気密筒10の表面に塗布した後、常温で硬化させるもの(常温効果型)、加熱して硬化させるもの(熱硬化型)、または紫外線照射により硬化させるもの(UV効果型)などの様々な仕様のものを用いることが可能である。
【0037】
また、前記コーティング膜10Aは、光透過性材料よりなると好適である。これは、前記放電空間10aに光が侵入しなくなると、放電空間で光電子が生成されることがなく、放電状態が変化して放電が発生しにくくなる場合があるが、前記コーティング膜10Aを光透過性材料によって形成することで、前記放電空間10Aで安定した放電が発生するようにし、光が遮られることによる影響を排することが可能となるためである。また、例えば気密筒10に刻印された製造番号などの製品管理情報を読み取ることが可能となり、製品の管理が容易となる効果も奏する。
【0038】
この場合、前記コーティング膜10Aは、可視光域の光を50%以上透過することが放電の安定のために好ましく、本実施例では可視光域の光を50%以上透過する材料を光透過性材料と記述している。
【0039】
また、この場合、前記コーティング膜10Aは、厚さが1μm以上であることが好ましい。これは、セラミック材料表面の凹凸を埋設して充分な絶縁性を保持するには、上記の厚さ以上とすることが好ましいからである。一方、前記コーティング膜10Aの膜厚は、500μm以下とすることが好ましい。この場合、これ以上厚くしても放電の安定性に寄与したいためである。
【0040】
次に、本実施例による放電管1の、前記放電筒10の電気抵抗を測定した結果を図5に示す。図5には、コーティング品Aとして、コーティング膜10Aの材料としてフッ素系材料を用いた場合の例を、コーティング品Bとして、コーティング膜10Aの材料としてラッカー系の材料を用いた場合の例をそれぞれ示す。また、比較のために、コーティングを施さない場合の電気抵抗を、従来品として記載している。
【0041】
この場合、実験は、それぞれの場合において20サンプル作成し、それぞれの20サンプルについて抵抗値の測定を行っている。また、それぞれの場合において、外気が常温常湿(温度26℃、湿度42%)の場合、高温高湿(温度40℃、湿度90%)の場合について測定を行い、その結果を比較している。なお、図中の抵抗値の単位はメガオームであり、測定器の測定上限値は1000000メガオームである。
【0042】
図5を参照するに、コーティングを施さない従来品は、20サンプルの平均値において、高温高湿の場合に、常温常湿の場合の抵抗値の0.0057%程度に著しく減少している。
【0043】
一方、コーティング品Aおよびコーティング品Bの場合においては、高温高湿の場合に常温常湿の場合に比べて抵抗値は減少しているものの、その抵抗値が減少する割合が従来品に比べて抑制されている。例えば、コーティング品Aの場合には、高温高湿の場合の抵抗値が、20サンプルの平均で、従来品の710倍であり、また、コーティング品Bの場合には、高温高湿の場合の抵抗値が、20サンプルの平均で、従来品の1018倍の値を示している。
【0044】
また、図6は、上記の従来品とコーティング品Bの場合において、電極間に電圧を印加して電極間に連続的に放電を発生させて放電特性を比較した結果を示す図である。図中IRは抵抗値を示し、FVsは、1回目の放電時の電圧を、Vsdcは2回目の放電時の電圧をそれぞれ調べたものである。実験はそれぞれ10サンプルの放電管の場合において、常温常湿の場合、高温高湿の場合について行っている。
【0045】
図6を参照するに、まず従来品の場合には、常温常湿の場合に比べて、高温高湿の場合に上記のように著しく抵抗値が減少すると共に、放電時の電圧が、1回目の放電電圧、2回目の放電電圧ともに減少していることがわかる。
【0046】
例えば、1回目の放電電圧を例にとってみると、常温常湿の場合の電圧が860V〜896Vであるのに対して、高温高湿の場合には、488V〜680Vにまで低下しており、2回目の放電についても同様の傾向を示している。
【0047】
一方、コーティング品の場合には、常温常湿の場合に比べて、高温高湿の場合に放電時の電圧が、1回目の放電電圧、2回目の放電電圧ともに殆ど減少しておらず、放電管を使用する環境の変化によって放電特性が変化することが抑制されていることがわかる。
【0048】
例えば、1回目の放電電圧を例にとってみると、常温常湿の場合の電圧が828V〜884Vであるのに対して、高温高湿の場合には、828V〜880Vと、略同じ電圧が維持されていることがわかる。また、2回目の放電についても同様の傾向を示している。
【0049】
これは、気密筒の表面にコーティングを施すことによって、気密筒の絶縁性の低下が抑制され、特に高温高湿の場合の抵抗値の減少や、それに伴う放電特性(スイッチング特性)の変化が抑制されているためと考えられる。
【0050】
次に上記の図6の高温高湿の場合において、従来品とコーティング品(コーティング品B)とについて、連続的に放電を行った場合の電圧の状態を、図7Aに従来品の場合について、図7Bにコーティング品の場合についてそれぞれ示す。なお、縦軸は、1マスが200Vを示しており、横軸は25msを示している。
【0051】
図7Aおよび図7Bを参照するに、まず図7Aに示す従来品の場合には、放電電圧が640V程度であるのに対して、コーティング品の場合には放電電圧が840V程度であり、放電電圧が高く維持されているのがわかる。
【0052】
また、このように、高温高湿などの環境で連続的に安定な放電が可能で有るため、本実施例による放電管は、例えば周囲環境が変化する自動車に搭載した場合に従来品にくらべて放電特性が安定する効果を奏する。
【0053】
このため、例えば本実施例による放電管を、HIDなどの、放電を開始するための高圧トリガを発生するためのイグナイト回路の、電源パルスを発生するための放電管(スイッチング放電管と呼ぶ場合もある)に用いると好適である。
【0054】
また、本実施例による放電管は、上記の場合に限定されず、プロジェクターのバックランプ点灯用の回路にも用いることが可能であり、その他様々な回路に用いることが可能であることは明らかである。
【0055】
以上、本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明は上記の特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、放電電極間の絶縁性を良好とし、外部環境が変化した場合にも安定な放電を行う事が可能な放電管を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来用いられている放電管の断面図である。
【図2】従来用いられている放電管の外観図である。
【図3】実施例1による放電管の断面図である。
【図4】実施例1による放電管の外観図である。
【図5】コーティングの違いによる放電管の抵抗値の違いを示す図である。
【図6】コーティングの違いによる放電管の放電特性の違いを示す図である。
【図7A】放電管で連続的に放電を行った場合の電圧の状態を示す図(その1)である。
【図7B】放電管で連続的に放電を行った場合の電圧の状態を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0058】
1,100 放電管
10,110 気密筒
22,122 上部放電電極
24,124 下部放電電極
26,28,126,128 蓋体部
23,123 上部放電面
25,125 下部放電面
27,127 凹部
40,140 メタライズ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を挟んで対向する一対の電極と、
前記一対の電極が両端に設置され、前記放電空間を画成する気密筒と、を有する放電管であって、
前記気密筒の表面に耐透水性を有するコーティング膜を形成したこと特徴とする放電管。
【請求項2】
前記気密筒はセラミック材料よりなることを特徴とする請求項1記載の放電管。
【請求項3】
前記コーティング膜は、光透過性材料よりなることを特徴とする請求項1または2記載の放電管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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