説明

故障判定装置、故障判定方法および故障処理システム

【課題】電動車両のような乗り物の電気回路に複数、設けたリレー等の短絡故障や開放故障をそれぞれ個別に判定可能とする。
【解決手段】例えば高圧電源ライン30の並列な第1および第2の電気経路30a,30bと高圧グラウンドライン31(第3の電気経路)とが閉ループを構成し、これら3つの電気経路にそれぞれリレー33〜35が配設されている。3つの電気経路のうちの2つの通電状態をそれぞれ個別に検出可能な通電検出手段を備える。3つの電気経路の通電状態が順次、変化するように各リレーを動作させ、通電検出手段によって検出される各電気経路の通電状態の変化に基づいて、各リレーの故障をそれぞれ個別に判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物の電気回路におけるリレー等の故障を判定するための装置および方法と、判定した故障に対し適切な処理を行うためのシステムとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車等、駆動源として高出力の電動モータを備えた乗り物の開発が進められているが、このような大きな電気的負荷に電力を供給するための電源としては一般に200〜300Vと高圧の二次電池が用いられ、車体のボディアースから電気的に絶縁されたフローティング状態とされている。また、電動モータと二次電池とを接続する電気回路には正極側、負極側の双方の電気経路にリレーが配設され、制御装置からの指令により導通または遮断のいずれかの状態に切換えられる。
【0003】
一例として特許文献1に記載の電動車両では、直流電源とインバータ回路や昇圧回路との接続部において正極側、負極側の双方の電気経路にそれぞれシステムメインリレーが配設されている。また、負極側の電気経路にはメインリレーをバイパスするよう並列な電気経路も設けられ、ここには電流制限抵抗とプリチャージ用リレーとが配設されていて、起動時(IGON)の突入電流を防止するためのプリチャージを行うようになっている。
【0004】
すなわち、前記のインバータ回路には正極側および負極側を連繋するように平滑コンデンサが設けられており、システムの起動時には電荷が蓄積されていないことから、過大な突入電流が流れてダメージを与えるおそれがある。そこで、このようなシステムの起動時には先にプリチャージ用リレーを導通させて小さな電流で平滑コンデンサを充電し(プリチャージ)、その後にメインリレーを導通させる。
【0005】
但し、前記の回路において負極側のメインリレーが短絡故障していると、正極側のメインリレーを導通させた瞬間に突入電流が流れてしまう。そこで、まず、プリチャージ用のリレーのみ導通状態にして正極側のメインリレーが短絡しているかどうか判定し、次にプリチャージ用のリレーを遮断状態にするとともに正極側のメインリレーを導通状態にして、負極側のメインリレーおよびプリチャージ用リレーの短絡故障を判定する。こうして、いずれのリレーも短絡していないことを確認した上で、プリチャージを開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−246564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら前記の従来例では、互いに並列な負極側のメインリレーとプリチャージ用リレーとのいずれかが短絡故障していることは判定できても、そのどちらが短絡故障しているのかは判定できないので、一律の故障処理を行わなくてはならず、故障の状態に応じた最適な処理を行えるものとはいえない。
【0008】
すなわち、仮にプリチャージ用リレーが短絡していても、メインリレーが短絡していなければプリチャージを行うことは可能であり、その後、システムを運転することも可能であるが、それにも拘わらず一律にシステムの運転を禁止するとすれば、電動車両のような乗り物の運転を徒に制限することになって利便性の低下が甚だしいから、乗り物の故障処理としては好ましくない。
【0009】
そこで本発明の目的は、乗り物の電気回路にリレーやスイッチ等のリレー手段を設ける場合に、それらの故障をそれぞれ個別に判定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために本発明は、乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障判定装置であって、前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられている場合を対象とする。なお、リレー手段とは、いわゆるリレー(継電器)は勿論であるが、それ以外にもコンタクタ(接触器)やスイッチ(開閉器)、遮断器等を含む。
【0011】
そして、本発明に係る故障判定装置は、前記第1、第2および第3のリレー手段をそれぞれ個別に動作可能なリレー制御手段と、前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態をそれぞれ個別に検出可能な通電検出手段と、前記各電気経路の通電状態が順次、変化するように前記リレー制御手段によって前記各リレー手段を動作させ、前記通電検出手段によって検出される各電気経路の通電状態の変化に基づいて、当該各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定する故障判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記の構成により、電気回路の故障を判定するときには第1、第2および第3の各電気経路の通電状態が順次、変化するように、リレー制御手段によって第1、第2および第3の各リレー手段を動作させる。そして、通電検出手段によって検出される前記各電気経路の通電状態の変化を、リレー手段が正常である場合に検出されるであろう正常時の通電状態変化と比較することで、各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定することができる。
【0013】
すなわち、乗り物の電動モータのように供給される電力の大きな電気的負荷(電力供給対象)を駆動する高圧の電気回路は、乗員の安全性を考慮してボディアースから電気的に絶縁されたフローティング状態とされ、その電力供給対象を電源側に接続する電気回路は閉ループを構成している。このため、正極側または負極側の一方である第1および第2の電気経路の電流値と、他方である第3の電気経路の電流値との間には関連性があり、それらの3つの電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態を検出すれば、残りの1つの電気経路の通電状態も判明する。
【0014】
よって、それら第1、第2および第3の各電気経路の通電状態から該各電気経路における各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定することができる。しかも、前記各電気経路の通電状態の変化を正常時の通電状態変化と比較することで、リレー手段の短絡故障だけでなく開放故障も判定可能になる。そして、故障の判定結果に応じて最適な故障処理を行うことが可能になる。
【0015】
その場合に、前記第1の電気経路の電気抵抗値を第2の電気経路に比べて高く設定し、この第1の電気経路の通電状態を検出するように、前記通電検出手段を構成してもよい。第1の電気経路の電流値は電気抵抗値が高い分、小さめになるので、通電検出手段として電流検知範囲の大きなセンサを用いる必要がない。
【0016】
また、前記電気回路の正極側および負極側を連繋するように容量性負荷が設けられている場合には、前記リレー制御手段を、前記第1および第3のリレー手段をそれぞれ導通状態にして、前記容量性負荷を充電するプリチャージ動作を実行可能なものとしてもよい。この場合に前記故障判定手段は、少なくとも前記プリチャージ動作のときの各電気経路の通電状態の変化に基づいて、前記第1および第3のリレー手段の故障をそれぞれ個別に判定するように構成してもよい。
【0017】
こうすれば、起動時の突入電流を防止するためのプリチャージを行いながら、同時にリレーの故障判定が行えるので、それらを別々に行うのに比べて起動時間を短縮できる。プリチャージの前にリレーの短絡故障を判定し、プリチャージをしながら開放故障を判定するようにしてもよい。
【0018】
さらに、前記のような通電検出手段として、前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の電流値を検出するように構成してもよい。すなわち、リレー手段の短絡の程度が弱くその電気抵抗が大きいときには、電圧値によっては故障を検知し難い場合があるので、この場合には電流値によって短絡故障を検知するのが好ましい。
【0019】
また、乗り物に、その運転に係る制御を行う運転制御装置が搭載されていて、電力供給対象に供給する電力を電流値に基づいて制御するようになっている場合、その電流値の検出を前記通電検出手段によって行うようにしてもよい。こうすれば、乗り物の運転のための電力制御に用いるセンサ等を利用して、電気回路の故障を判定することができるから、部品点数ひいてはコストの削減に有利になる。
【0020】
より具体的には前記故障判定手段は、一例として、前記リレー制御手段によって各リレー手段を動作させながら、以下の2つの故障判定ステップを実行するものとしてもよい。すなわち、まず、前記第2および第3のリレー手段を遮断状態にさせ、且つ前記第1のリレー手段を導通状態にさせて、この状態で前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電が検出されれば、前記第3のリレー手段の短絡故障と判定することができる(第1の故障判定ステップ)。
【0021】
一方、前記第1の故障判定ステップにおいて第3のリレー手段の短絡故障が判定されなければ、前記リレー制御手段によって前記第1のリレー手段を遮断状態にさせ、且つ前記第3のリレー手段を導通状態にさせる。この状態で前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電が検出されれば、前記第1のリレー手段の短絡故障と判定することができ、第1の電気経路の通電が検出されず、前記第2の電気経路の通電が検出されれば、第2のリレー手段の短絡故障と判定することができる(第2の故障判定ステップ)。
【0022】
見方を変えれば本発明は、乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障判定方法であって、前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には、第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられている場合に、前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態を、それぞれ個別に検出可能な通電検出手段を準備する。
【0023】
そして、前記第2および第3のリレー手段を遮断状態にし、且つ前記第1のリレー手段を導通状態にして、前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電を検出すれば、前記第3のリレー手段の短絡故障と判定する。一方、前記第3のリレー手段の短絡故障と判定しなければ、前記第1のリレー手段を遮断状態にし且つ前記第3のリレー手段を導通状態にして、前記通電検出手段により前記第1および第2の電気経路のそれぞれの通電状態を検出する。この結果、前記第1の電気経路の通電を検出すれば、前記第1のリレー手段の短絡故障と判定する一方、第1の電気経路の通電を検出せず、前記第2の電気経路の通電を検出すれば、第2のリレー手段の短絡故障と判定するものである。
【0024】
また別の見方をすれば本発明の対象は、乗り物に搭載される故障処理システムであり、前記乗り物にはその運転に係る制御を行う運転制御装置と、電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障を判定する故障判定装置とが搭載されている。そして、前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には、第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられている。
【0025】
この場合に、前記故障判定装置を、前記第1、第2および第3のリレー手段をそれぞれ個別に動作可能なリレー制御手段と、前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態をそれぞれ個別に検出可能な通電検出手段と、前記各電気経路の通電状態が順次、変化するように前記リレー制御手段によって前記各リレー手段を動作させ、前記通電検出手段によって検出される各電気経路の通電状態の変化に基づいて、当該各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定する故障判定手段と、を備えるものとし、また、前記運転制御装置は、前記故障判定装置によって故障が判定されたリレー手段に応じて異なる運転制御を行うものとする。
【0026】
こうすれば、前記したように故障判定装置によって、第1、第2および第3の各リレー手段の故障がそれぞれ個別に判定され、故障の判定されたリレー手段に応じて前記運転制御装置により異なる運転制御が行われるので、乗り物の運転を徒に制限することがなく、故障の状況に応じた最適な運転制御を行うことが可能になる。
【0027】
さらに、前記故障判定装置によって故障が判定されたリレー手段に応じて、異なる形態で報知を行う報知装置を備えてもよい。すなわち、速やかな対処が必要な故障に対しては乗り物の乗員の注意を喚起しやすい形態で報知を行う一方、直ぐには大きな問題を生じないような故障であれば、乗員に不安感を与えることがないよう、控えめな態様で報知するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように本発明に係る故障判定装置、故障判定方法および故障処理システムによれば、乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路に複数のリレー手段が設けられている場合に、その故障をそれぞれ個別に判定することができ、その故障の状態に応じた最適な処理を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る乗り物の電力供給系統を表したブロック図である。
【図2】故障判定装置の要部を表したブロック図である。
【図3】故障判定の手順を表したフローチャート図である。
【図4】故障判定の際の各リレーの動作を表したタイムチャート図である。
【図5】第1/第2リレー故障処理の手順を表したフローチャート図である。
【図6】電流センサの配設部位を変更した他の実施形態に係る図1相当図である。
【図7】電流センサの配設部位を変更した他の実施形態に係る図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0031】
−電力供給系統の構成−
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両(乗り物)の走行のための電力供給系統1を模式的に表す。本実施形態の電動車両は、一例として電動バイクのような鞍乗型の電動車両であるが、これ限ることはなく電動四輪車であってもよいし、例えば小型船舶のような車両以外の乗り物であってもよい。また、内燃機関を併せ持つハイブリッド型の乗り物であってもよい。
【0032】
図1には左端に表われているが、電源である車載バッテリ2はリレーボックス3を介して、インバータユニット4および電動モータ5からなる電気的負荷(電力供給対象)に接続されている。インバータユニット4は、車載バッテリ2から供給される直流電流を交流に変換して電動モータ5に供給し、これをモータ作動させて図示しない車輪を駆動する。電動モータ5は、いわゆるモータ/ジェネレータであり、電動車両の制動時には発電機として作動する。これにより生成された交流電流はインバータユニット4において直流に変換され、車載バッテリ2を充電する。
【0033】
一例として車載バッテリ2は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池パックであり、それぞれ複数の素電池(セル)からなる電池モジュール20を複数、直列に接続して、電動車両の駆動に必要な高電圧及び大容量を確保している。また、車載バッテリ2のパック内には手動で操作するサービスプラグ21やヒューズ22、さらには監視ユニット(図には表さない)が配設されている。監視ユニットは、例えば充放電の際の電流や電圧の他にSOC、SOH、温度等々の情報をEV−ECU6(運転制御装置)に送信する。
【0034】
前記のリレーボックス3には、車載バッテリ2の正極端子および負極端子とインバータユニット4のP端子およびN端子とを接続する電気回路が設けられている。すなわち、車載バッテリ2の正極端子2aからインバータユニット4のP端子に達するまでが高圧電源ライン30であり、その途中が2つに分岐して互いに並列な第1および第2の電気経路30a,30bとされている。また、車載バッテリ2の負極端子2bからインバータユニット4のN端子に達するまでは高圧グラウンドライン31(第3の電気経路)である。
【0035】
前記高圧電源ライン30の第1の電気経路30aには、電流制限抵抗32と第1のリレー33とが直列に配設されている一方、第2の電気経路30bには第2のリレー34が配設されている。また、高圧グラウンドライン31には第3のリレー35が配設されている。これら第1、第2および第3のリレー33〜35がそれぞれEV−ECU6からの指令を受けて導通または遮断のいずれかの状態に切換わることで、車載バッテリ2とインバータユニット4との間を接続し、または遮断することができる。
【0036】
なお、前記各リレー33〜35にそれぞれEV−ECU6からの指令を送信する制御系ライン38には、電動車両の転倒時などに信号を遮断するためのキルスイッチ39が配設されている。また、一般的に電動車両のような乗り物においては、乗員を保護するために高圧の直流電源をボディアースから絶縁したフローティング状態とすることが多く、本実施形態でも前記車載バッテリ2とインバータユニット4とを繋いで高圧電源ライン30および高圧グラウンドライン31が閉ループを構成している。
【0037】
そして、本実施形態では高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30bに、それぞれ第1および第2の電流センサ36,37が配設されている。このうち、第2の電流センサ37は、電動車両の運転中に電動モータ5をモータ作動させる際に、車載バッテリ2からインバータユニット4に供給される電流値を検出し、また、回生制動時にはインバータユニット4から車載バッテリ2に供給される電流値を検出するもので、この電流値に基づいてEV−ECU6によりインバータユニット4が制御される。一方、第1の電流センサ36はインバータユニット4の制御には用いられず、後述する故障判定に用いられるものであるが、例えば非常時など、状況に応じてインバータユニット4の制御に用いてもよい。
【0038】
前記のインバータユニット4は、詳細は図示しないが、u,v,wの三相ブリッジ回路からなるインバータ回路40を備え、各相のスイッチング素子(IGBT等)のオンオフ動作によって車載バッテリ2からの直流電流を交流電流に変換し、u,v,wの各相の出力端子から120°の位相差で出力する。例えばPWM制御によってスイッチング素子のオンオフの時間比率を変えることで交流電流の周波数を変更し、電動モータ5の回転数を制御することができる。
【0039】
また、インバータユニット4においては高圧電源ライン30および高圧グラウンドライン31(電気回路の正極側および負極側)を連繋するように大容量の平滑コンデンサ41(容量性負荷)と、電圧センサ42とが設けられている。平滑コンデンサ41があることで、前記各相のスイッチング素子のオンオフに対しても電源電圧の低下が補償されるので、車載バッテリ2の出力密度に制限されず電動モータ5への供給電力を変化させることができる。
【0040】
そのようにインバータユニット4を制御して、電動車両の運転制御を行うためにEV−ECU6には一例として、電動車両の乗員のアクセル操作を検出するアクセルセンサ7や車速センサ8からの信号と、前記第2の電流センサ37や電圧センサ42からの信号などが入力される。すなわち、図2に模式的に表すようにEV−ECU6は、運転者の要求に沿って電動車両が走行するように、少なくとも前記各センサ7,8,37,47からの信号に基づいてインバータユニット4を制御し、電動モータ5への供給電力を調整する運転制御部6aを有している。
【0041】
−故障判定装置−
本実施形態のEV−ECU6は、第1〜第3のリレー33〜35の故障を判定する故障判定装置としても機能する。図2は、その故障判定装置の要部を表したブロック図であり、EV−ECU6は、前記した運転制御部6aの他に、第1、第2の2つの電流センサ36,37からの信号によって、高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30bの通電状態をそれぞれ個別に検出する通電検出部6bを備えている。
【0042】
前記したように車載バッテリ2とインバータユニット4とを繋いで高圧電源ライン30および高圧グラウンドライン31が閉ループを構成しているから、第1および第2の電流センサ36,37によって検出される電流値は高圧グラウンドライン31の電流値との間で関連性を有している。よって、前記のように検出される電流値から高圧グラウンドライン31の通電状態が判明する。
【0043】
また、EV−ECU6は、第1、第2および第3のリレー33〜35をそれぞれ個別に動作させて導通または遮断状態に切換え可能なリレー制御部6cを備えている。リレー制御部6cは、電動車両の通常運転中は原則、第2および第3のリレー34,35を導通状態に維持する一方で第1リレー33は遮断状態にする。また、システムの起動時には以下に説明するように、第1リレー33を先に導通状態にしてプリチャージを行うとともに、この動作と並行して各リレー33〜35の故障を判定する。
【0044】
この故障判定の手順は、以下に詳しく述べるようにEV−ECU6の故障関連制御部6dによって行われる。すなわち、故障関連制御部6dは、高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30b、並びに高圧グラウンドライン31において通電状態が順次、変化するように、予め設定したシーケンスで前記リレー制御部6cにより第1〜第3のリレー33〜35を動作させ、導通または遮断のいずれかの状態に切換える。
【0045】
こうして第1〜第3のリレー33〜35を動作させたとき、該各リレー33〜35が全て正常であれば、高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30b並びに高圧グラウンドライン31の通電状態は既知のパターンで変化する。そこで、前記第1および第2の電流センサ36,37からの信号により検出した実際の通電状態の変化と、前記既知の(即ち正常時の)通電状態の変化とを比較することで、各リレー33〜35の短絡および開放故障をそれぞれ個別に判定することができる。
【0046】
そして、いずれかのリレー33〜35の故障が判定された場合に前記故障関連制御部6dは、故障と判定されたリレー33〜35に応じて異なる形態で、電動車両のディスプレー装置9(報知装置)に表示を行わせて、故障が生じていることを乗員に報知する。また、故障関連制御部6dから運転制御部6aにはリレーの故障に関する情報が送信され、これを受けた運転制御部6aは、故障と判定されたリレー33〜35に応じて異なる形態の運転制御を行う。
【0047】
前記の運転制御部6a、通電検出部6b、リレー制御部6cおよび故障関連制御部6dは、いずれもEV−ECU6のマイコンによるソフトウェア処理によって実現される。そして、通電検出部6bと第1および第2の電流センサ36,37とによって、高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30b、並びに高圧グラウンドライン31のうち、2つの電気経路の通電状態をそれぞれ個別に検出可能な通電検出手段が構成される。
【0048】
また、そうして検出される通電状態の変化に基づいて各リレー33〜35の故障をそれぞれ個別に判定する故障判定手段としての機能と、故障が判定されたリレー33〜35に応じて異なる形態で電動車両のディスプレー装置9に報知表示を行う報知装置としての機能とは、前記故障関連制御部6dによって担保されている。
【0049】
−故障判定の手順−
以下、図3および図4を参照して前記の故障判定の手順を具体的に説明する。図3は、故障判定の手順を表すフローチャート図であり、図4は、故障判定の際の各リレー33〜35の動作を表したタイムチャート図である。
【0050】
まず、第1、第2および第3リレー33〜35を全て遮断状態(OFF)としたまま、第1および第2の各電流センサ36,37からの信号によって第1および第2の各電気経路30a,30bの通電状態をチェックし、電流値I1,I2がいずれも零であることを確認した上で、図3の故障判定のフローをスタートする(開始:図4の時刻t0)。そして、第2および第3のリレー34,35は遮断状態(OFF)のまま第1のリレー33を導通状態(ON)にして(ステップSA1:図4の時刻t1)、第1の電流センサ36により検出される電流値I1が零かどうか判定する(ステップSA2:I1=0?)。
【0051】
この判定がNOであれば第1の電気経路30aを電流が流れているので、遮断状態(OFF)のはずの第3のリレー35が短絡していると判定し(第1の故障判定ステップ)、ステップSA3に進んで第3リレー故障処理を行った上で、システムの起動制御を異常終了する。なお、第3リレー故障処理については後述する。
【0052】
一方、前記ステップSA2の判定結果がYESであれば第3のリレー35は短絡していないので、ステップSA4に進んで第1のリレー33を遮断状態(OFF)にさせ(図4の時刻t2)、その後に今度は第3のリレー35を導通状態(ON)にさせる(ステップSA5:図4の時刻t3)。この状態で第1および第2のそれぞれの電流センサ36,37により検出される電流値I1,I2が零かどうか判定し(ステップSA6:I1=I2=0?)、いずれか一方でも零でなければ(NO)、第1または第2の少なくとも一方のリレー33,34が短絡故障していると判定して(第2の故障判定ステップ)、ステップSA7に進んで第1/第2リレー故障処理を行った後に異常終了する。
【0053】
すなわち、故障処理について具体的には後述するが、仮にプリチャージ用の第1のリレー33が短絡故障していてもプリチャージを行うことは可能であり、その後、第2のリレー34を導通状態(ON)にして電動車両を運転することも可能である。一方、第2のリレー34が短絡故障していると、プリチャージのために第3のリレー35を導通させた途端に大きな突入電流が流れる可能性があるので、前記した第1のリレー33の短絡故障とは区別して故障処理を行う。
【0054】
これに対し前記ステップSA6の判定がYESであれば、即ち第1および第2のリレー33,34はいずれも短絡しておらず、前記ステップSA2にて判定したように第3のリレーも短絡していない。そこで一旦、第3のリレー35を遮断状態(OFF)にした後に(ステップSA8:図4の時刻t4)、第1および第3のリレー33,35を同時に導通状態(ON)にして(ステップSA9:図4の時刻t5)プリチャージを開始する。高圧電源ライン30の第1の電気経路30aを流れる電流は電流制限抵抗32によって制限されているので、平滑コンデンサ41には小さな電流しか流れず、充電は徐々に行われる。
【0055】
そして、予め設定した時間が経過したときに、高圧電源ライン30と高圧グラウンドライン31との間の電圧センサ42による電圧の検出値Vが、平滑コンデンサ41の静電容量に対応する所定の値V*になったかどうか判定する(ステップSA10:V≧V*)。この判定がYESであればプリチャージを終了し、第3のリレー35は導通させたまま第2のリレー34も導通状態(ON)にさせる(ステップSA11:図4の時刻t6)。
【0056】
これによりシステムの起動制御を正常終了し、車載バッテリ2に蓄えられている電力を高圧電源ライン30の第2の電気経路30bを介してインバータユニット4へフルに供給できるようになる。この際、第1のリレー33は導通状態(ON)のままでもよいし、暫くしたら遮断状態(OFF)に切換えてもよい(図4の時刻t7)。第1のリレー33を導通させたままでも電流は殆ど流れないはずなので、この状態で第1の電流センサ36により所定値以上の電流値が検出されれば、第2のリレー34を含めた第2の電気経路30bの電気抵抗が高くなる何らかの異常と判定することもできる。
【0057】
一方、前記ステップSA10において判定がNOであれば、プリチャージを行っているにも拘わらず平滑コンデンサ41に電荷が十分に蓄積されていないことから、第1または第3のリレー33,35の開放故障が疑われる。この場合にはステップSA12に進んで後述するように第1/第3リレー故障処理を行った後に、異常終了する。
【0058】
したがって、前記のように第1、第2および第3のリレー33〜35を図4に表われているシーケンスで動作させ、このときに高圧電源ライン30の第1および第2電気経路30a,30b並びに高圧グラウンドライン31において検出される通電状態の変化を、全てのリレー33〜35が正常な場合に検出されるであろう正常時の通電状態変化と比較することにより、各リレー33〜35について個別に短絡故障や開放故障を判定することができる。
【0059】
ここで、例えばリレー33〜35の接点が溶着している短絡故障の場合は、その溶着の度合いや溶着面積などによって電気抵抗の大きさが異なり、ここにおいて生じる電圧降下量も異なるものとなる。また、平滑コンデンサ41の電荷が少ないときには電圧センサ42によって検出される電圧は立ち上がらない。よって、電圧センサ42の出力により故障を早期に判定することは難しいが、前記したように電流センサ36、37によれば、電流値に基づいて短絡故障を早期に判定することが可能になる。
【0060】
特に、電流制限抵抗32の配設されている第1の電気経路30aには、第2の電気経路30bに比べると小さな電流しか流れないので、電流検知範囲の大きな電流センサを用いる必要がない。よって、第1の電流センサ36としては、より分解能の高いものを用いることができ、短絡の程度が弱く微弱な電流しか流れない場合に故障を判定する上で有利になる。
【0061】
そうして判定した故障の状況に応じて本実施形態では、以下のような故障処理を行うことができる。一例として、前記図3のフローのステップSA2において第3のリレー35の短絡故障と判定した場合、第3リレー故障処理として、例えば電動車両のメータパネル内に設けられた小さな警告灯(ディスプレー装置9の一例)を点灯させるなど、乗員にあまり不安感を与えないよう控えめな報知処理を行うようにしてもよい。
【0062】
これは、上述したように最初に第1、第2および第3リレー33〜35を全て遮断状態(OFF)としたまま、第1および第2の各電気経路30a,30bの電流値I1,I2が零であることを確認しているからである。この場合は、第3のリレー35の短絡故障を判定した場合でも、前記のようにプリチャージを行うことは可能であり、その後、電動車両を運転することも可能であるから、乗員に不安感を与えないように報知するに留め、その乗員の判断で修理を行うようにすればよい。
【0063】
また、前記図3のフローのステップSA6において、第1および第2の少なくとも一方のリレー33,34が短絡故障していると判定した場合は、第1/第2リレー故障処理として、第1または第2のいずれのリレー33,34が短絡故障しているか判別する。すなわち、一例として図5に表すように、まず、第2の電流センサ37により検出される電流値I2が零かどうか判定し(ステップSB1)、判定がNOで第2のリレー34が短絡故障しているのであれば、第2リレー故障処理(ステップSB2)を行う。
【0064】
第2のリレー34が短絡故障していると、第3のリレー35を導通させた途端に大きな突入電流が発生して、インバータユニット4にダメージを与えるおそれがあるので、基本的には第3のリレー35を遮断状態に維持しなくてはならず、インバータユニット4への電力供給が行えなくなる。この場合は、電動車両の運転そのものが規制されてしまうので、例えばメータパネル内の大きな警告灯を高輝度で点滅させたり、メータパネル全体を点滅させたり、警報ブザーを鳴らす等の報知処理を行って、乗員の注意を喚起する。
【0065】
こうすれば乗員は、電動車両が走行不能になっても、それがリレーの故障によるものとすぐに理解でき、無用な不安感に駆られることなく適切な対処を行うことが可能になる。但し、車載バッテリ2のSOCが非常に低く、常用範囲を逸脱しているような場合は、その出力電圧が低いことから突入電流を抑制できる可能性があるので、一例として車載バッテリ2のSOCを確認し、これが所定値以下の場合に限って第2のリレー34を導通状態に切換えるようにしてもよい。或いは、車載バッテリ2において直列に接続されている電池モジュール20の数を機械的に減らせるようにしておき、電力供給可能な電池モジュール20の数が減らされれば、第2のリレー34を導通状態に切換えるようにしてもよい。
【0066】
このように第2のリレー34が短絡故障している場合でも、車載バッテリ2から一度に供給される電流を抑制または遮断できるのであれば、そうするように制御を行うことで、突入電流を抑えることができる。
【0067】
一方で、第2の電流センサ37により検出される電流値が零であれば(ステップSB1でYES)、第2のリレー34は短絡故障していないので、前記第2リレー故障処理よりも軽度の第1リレー故障処理(ステップSB3)を行う。すなわち、第1のリレー33が短絡故障していてもプリチャージは可能であり、その後、第2のリレー34を導通状態にして電動車両を運転することも可能である。よって、一例として前記第3リレー故障処理と同様に控えめな(前記第2リレー故障処理よりも軽度の)報知処理を行うに留め、その乗員の判断で修理を行うようにすればよい。
【0068】
換言すれば、第2のリレー34が短絡故障している場合は、車載バッテリ2から一度に供給される電流を抑制または遮断するように制御を行って、突入電流を抑えるようにし、第1のリレー33が短絡故障している場合には、前記第2のリレー34の短絡故障の場合に比べて通常制御に近いプリチャージ動作を行う。このようにして、インバータユニット4にダメージを与えないようにしながら、なるべく電動車両の走行性能の低下を抑えることができる。
【0069】
なお、第2または第3のリレー34,35の短絡故障時でも出力抑制せず、エラー表示でもよい。これによって走行性能の過度の低下を抑えることができる。また第2または第3のリレー34,35の短絡故障時でも、リレー正常時に比べて走行性能を低下させてもよい。これによって運転者にリレー故障状態を把握させることができる。
【0070】
さらに、前記図3のフローのステップSA10において電圧センサ42により検出される電圧値が所定値にならない(NO)と判定して進んだステップSA12(第1/第3リレー故障処理)では、第1リレー33か第3リレー35の少なくとも一方が開放故障している疑いがあるので、一例として以下のように報知および運転制御を行えばよい。
【0071】
すなわち、第1の電流センサ36による検出値I1(電流値)を確認し、この値が零で第1または第3のいずれかのリレー33,35が完全に開放故障しているのであれば、第2のリレー35を一瞬、導通状態にして検出される電流値I2から、第1および第3のいずれのリレー33,35が故障しているか判別することが可能である(この場合は半導体リレーを用いることが望ましい)。第3のリレー35の開放故障であれば電動車両は走行不能であり、前記第2リレー故障処理と同様の報知処理を行う。
【0072】
一方、第1のリレー33の開放故障であれば、前記第2リレー故障処理において車載バッテリ2のSOCが非常に低い場合と同じく、車載バッテリ2のSOCを確認して、これが所定値以下の場合に限って第2のリレー34を導通状態に切換えるようにしてもよい。
【0073】
以上、説明したように本実施形態によると、電動車両の走行用の電動モータ5を駆動するための電力供給系統1において、第1〜第3のリレー33〜35の故障をそれぞれ個別に判定できるとともに、短絡故障だけでなく開放故障も判定することができる。よって、乗員に不安感を与えないようにしながら故障を報知するとともに、可能な範囲で走行できるようにしながらインバータユニット4などにダメージを与えないよう、故障の状態に応じた最適な処理を行うことが可能になる。
【0074】
すなわち、第2または第3のリレー34,35の短絡故障に際しては、運転者の注意を喚起しやすい態様の報知(重度の報知処理)を行う一方、第1のリレー33の短絡故障の際には控えめな報知とすることで(軽度の報知処理)、乗員に不安感を与えないようにしながら故障を報知することができる。重度の報知としては前記したように、メータパネル内の大きな警告灯を高輝度で点滅させたり、メータパネル全体を点滅させたりというように報知領域、輝度を大きくしてもよいし、警報ブザーの音量を大きくしてもよい。また、報知が目立つように報知色を変化させてもよい。
【0075】
また、前記の如く第1〜第3のリレー33〜35の故障をそれぞれ個別に判定できるので、修理工場などで修理する際の作業が容易になるし、さらに、故障の発生原因を特定するための手掛かりになる可能性もある。しかも、本実施形態では、プリチャージを始める前に第1〜第3リレー33〜35の短絡故障を判定して、突入電流の発生を回避することができる一方で、各リレー33〜35の開放故障はプリチャージを行いながら判定するようにしているので、システムの起動時間が長くなる心配は少ない。
【0076】
さらに、本実施形態では、電動車両の走行時に電流が流れる第2電気経路30b(または第1電気通路30aと第2電気通路30bの合流後の経路)に第2の電流センサ37が設けられており、この第2の電流センサ37からの信号に基づいて電動車両の走行制御を行うことができる。よって走行時の電流検出用に別途、電流センサを設ける必要がなく、部品点数を低減することができる。
【0077】
−他の実施形態−
以上、本発明に係る故障判定装置等についてその好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は本発明を限定するものではなく、その構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0078】
例えば前記の実施形態では図1に表したように、通電検出手段を構成する第1および第2の電流センサ36,37をそれぞれ高圧電源ライン30の第1および第2の電気経路30a,30bに配設しているが、これに限るものではない。一例を図6に表すように、第2の電流センサ37は、高圧電源ライン30において第1および第2の電気経路30a,30bの集合部から平滑コンデンサ41の接続部までの間に配設してもよい。また、図7に表すように、第2の電流センサ37を高圧グラウンドライン31に配設してもよい。
【0079】
また、図には表さないが、第2の電流センサ37を省略し、第1の電流センサ36からの信号と電圧センサ42からの信号とに基づいて、第1、第2の電気経路30a,30bや高圧グラウンドライン31の通電状態を検出することも可能である。この場合は、第1の電流センサ36や電圧センサ42を用いて通電検出手段が構成される。
【0080】
さらに、通電検出手段として電流センサ36,37や電圧センサ42を用いるのではなく、電流値が検知できなくとも電流が流れているか否かが検出可能な他の手段を用いてもよい。たとえば可能であれば、発光ダイオード、温度センサ、磁気センサなどを用いてもよい。
【0081】
このように通電検出手段を構成するセンサの種類やその配置は種々、考えられるが、その中でも電流の小さな第1の電気経路30aには分解能の高い電流センサを配設することができるので、ここには電流センサを配設することが好ましい。
【0082】
なお、前記の実施形態ではインバータユニット4における高圧電源ライン30および高圧グラウンドライン31(電気回路の正極側および負極側)の電気経路が3つであり、これに対し通電検出手段は、2個の電流センサ36,37によって2個の電気経路の通電状態を個別に判断可能になっているが、仮に正極側および負極側をあわせた電気経路がN個であれば、通電検出手段は、N−1個の電気経路の通電状態を個別に判断可能であればよい。
【0083】
また、前記の実施形態では図1のように高圧電源ライン30を並列な第1および第2電気経路30a,30bに分岐させているが、これに限らず負極側の高圧グラウンドライン31を並列な2つの電気経路に分岐させ、そのうちの一方に電流制限抵抗を配設してプリチャージ用の電気経路とすることもできる。
【0084】
また、前記の実施形態においては平滑コンデンサ41が用いられているが、これは容量性負荷特性を有する電気部品であればよく、平滑コンデンサ41に代えて他の構成を採用できる。例えばキャパシタまたはバッテリを用いてもよい。
【0085】
さらにまた、前記の実施形態における第1〜第3リレー33〜35は、制御信号に基づいて電力線の電流遮断状態と電流導通状態とを切換可能な手段であればよく、具体的構造については公知の技術が適用できる。例えば、EV−ECU6から与えられる指令(制御電流)によって発生する電磁力によって、電力線を機械的に接続または遮断に切換える電磁スイッチがそれぞれ用いられてもよい。また半導体リレーが用いられてもよい。
【0086】
また、前記の実施形態では、電動車両の運転制御装置であるEV−ECU6が、第1〜第3リレー33〜35の開閉制御を行うリレー制御手段と、それら各リレー33〜35の故障を個別に判別する故障判定手段とを兼用したが、これにも限定されない。本発明では、リレー制御手段と故障判定手段とをそれぞれ行う装置を有すればよく、EV−ECU6とは別に、リレー制御手段と故障判定手段とが設けられてもよい。またリレー制御手段と、故障判定手段、故障判断後の処理実行手段とが別体であってもよい。
【0087】
加えて、前記の実施形態では、電源に接続される電力供給対象として電動モータ5やこれを駆動するためのインバータユニット4を用いた場合について説明したが、この他の電気的構成を電力強制対象としてもよい。例えば車載バッテリ2には、図には表さないが外部の電源に接続し充電するための充電回路が設けられている場合があり、この充電回路にも適用することができる。この場合、車載バッテリ2が電力供給対象であり、これを外部の電源側に接続する充電回路(電気回路)の正極側または負極側のいずれか一方が、互いに並列な第1および第2の電気経路となり、他方が第3の電気経路となる。
【0088】
また、例えば電力供給対象は車載バッテリ2に限らず、駆動力蓄電用の2次電池としてもよい。この場合、電源として充電装置としてもよく、モータで回生発電された電力を直流に変換する電力変換手段としてもよい。この場合でも、2次電池への供給される電力が大きい場合の突入電流を防止するために、本発明のリレー回路・故障診断制御が適用されてもよい。そのほか電力供給対象として、モータ駆動用インバータ以外の電気的負荷が用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上、説明したように本発明に係る故障判定装置、故障判定方法および故障処理システムによると、乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障の状態に応じて最適な故障処理が可能になるので、この効果の意義が特に大きい自動二輪車等の電動車両に適用して有益である。
【符号の説明】
【0090】
1 電動車両(乗り物)
2 車載バッテリ(電源)
3 リレーボックス(電気回路)
30 高圧電源ライン(電気回路の正極側または負極側の一方)
30a 第1の電気経路
30b 第2の電気経路
31 高圧グラウンドライン(電気回路の正極側または負極側の他方)
33 第1のリレー(第1のリレー手段)
34 第2のリレー(第2のリレー手段)
35 第3のリレー(第3のリレー手段)
36 第1の電流センサ(通電検出手段)
37 第2の電流センサ(通電検出手段)
4 インバータユニット(電力供給対象)
40 インバータ回路
41 平滑コンデンサ(容量性負荷)
42 電圧センサ(通電検出手段)
5 電動モータ(電力供給対象)
6 EV−ECU
6a 運転制御部(運転制御装置)
6b 通電検出部(通電検出手段)
6c リレー制御部(リレー制御手段)
6d 故障関連制御部(故障判定部、報知装置)
9 ディスプレー装置(報知装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障判定装置であって、
前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には、第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられ、
前記第1、第2および第3のリレー手段をそれぞれ個別に動作可能なリレー制御手段と、
前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態を、それぞれ個別に検出可能な通電検出手段と、
前記各電気経路の通電状態が順次、変化するように前記リレー制御手段によって前記各リレー手段を動作させて、前記通電検出手段によって検出される各電気経路の通電状態の変化に基づいて、当該各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定する故障判定手段と、
を備えることを特徴とする故障判定装置。
【請求項2】
前記第1の電気経路の電気抵抗値が第2の電気経路に比べて高く設定されており、
前記通電検出手段は、前記第1の電気経路の通電状態を検出可能に構成されている、請求項1の故障判定装置。
【請求項3】
前記電気回路の正極側および負極側を連繋するように容量性負荷が設けられ、
前記リレー制御手段は、前記第1および第3のリレー手段をそれぞれ導通状態にして、前記容量性負荷を充電するプリチャージ動作を実行可能であり、
前記故障判定手段は、少なくとも前記プリチャージ動作のときの各電気経路の通電状態の変化に基づいて、前記第1および第3のリレー手段の故障をそれぞれ個別に判定する、請求項2の故障判定装置。
【請求項4】
前記通電検出手段は、前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の電流値を検出するように構成されている、請求項1〜3のいずれか1つの故障判定装置。
【請求項5】
前記乗り物にはその運転に係る制御を行う運転制御装置が搭載され、
前記運転制御装置は、前記通電検出手段によって検出された電流値に基づいて前記電力供給対象に供給する電力を制御する、請求項4の故障判定装置。
【請求項6】
前記故障判定手段は、
前記リレー制御手段によって、前記第2および第3のリレー手段を遮断状態にさせ、且つ前記第1のリレー手段を導通状態にさせて、この状態で前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電が検出されれば、前記第3のリレー手段の短絡故障と判定する第1の故障判定ステップと、
前記第1の故障判定ステップにおいて第3のリレー手段の短絡故障が判定されなければ、前記リレー制御手段によって前記第1のリレー手段を遮断状態にさせ、且つ前記第3のリレー手段は導通状態にさせて、この状態で前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電が検出されれば前記第1のリレー手段の短絡故障と判定する一方、第1の電気経路の通電が検出されず、前記第2の電気経路の通電が検出されれば第2のリレー手段の短絡故障と判定する第2の故障判定ステップと、
を実行する、請求項1〜5のいずれか1つの故障判定装置。
【請求項7】
乗り物に搭載される故障処理システムであって、
前記乗り物にはその運転に係る制御を行う運転制御装置と、電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障を判定する故障判定装置と、が搭載され、
前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には、第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられ、
前記故障判定装置は、
前記第1、第2および第3のリレー手段をそれぞれ個別に動作可能なリレー制御手段と、
前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態を、それぞれ個別に検出可能な通電検出手段と、
前記各電気経路の通電状態が順次、変化するように前記リレー制御手段によって前記各リレー手段を動作させて、前記通電検出手段によって検出される各電気経路の通電状態の変化に基づいて、当該各リレー手段の故障をそれぞれ個別に判定する故障判定手段と、
を備えており、
前記運転制御装置は、前記故障判定装置によって故障が判定されたリレー手段に応じて異なる運転制御を行う、ことを特徴とする故障処理システム。
【請求項8】
前記故障判定装置によって故障が判定されたリレー手段に応じて、異なる形態で報知を行う報知装置をさらに備える、請求項7の故障処理システム。
【請求項9】
乗り物において電力供給対象を電源側に接続する電気回路の故障判定方法であって、
前記電気回路の正極側または負極側の一方から電力供給対象に達するまでの間に、それぞれ第1および第2のリレー手段が配設された並列な第1および第2の電気経路が設けられている一方、前記正極側または負極側の他方から電力供給対象に達するまでの間には、第3のリレー手段が配設された第3の電気経路が設けられている場合に、
前記第1、第2および第3の電気経路のうちの2つの電気経路の通電状態を、それぞれ個別に検出可能な通電検出手段を準備し、
まず、前記第2および第3のリレー手段を遮断状態にし、且つ前記第1のリレー手段を導通状態にして、前記通電検出手段により前記第1の電気経路の通電を検出すれば、前記第3のリレー手段の短絡故障と判定する一方、
前記第3のリレー手段の短絡故障と判定しなければ、前記第1のリレー手段を遮断状態にし、且つ前記第3のリレー手段を導通状態にして、前記通電検出手段により前記第1および第2の電気経路のそれぞれの通電状態を検出し、
そして、前記第1の電気経路の通電を検出すれば、前記第1のリレー手段の短絡故障と判定する一方、第1の電気経路の通電を検出せず、前記第2の電気経路の通電を検出すれば第2のリレー手段の短絡故障と判定する、
ことを特徴とする故障判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−9552(P2013−9552A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141532(P2011−141532)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】