説明

文字習得知育用具

【課題】 予め定める液体が塗布されて発現する画像情報および文字情報によって、使用者に知育的刺激を与えて、文字を習得させる文字習得知育用具を提供することである。
【解決手段】 一覧可能な領域14を含む文字習得知育用具10であって、一覧可能な領域14には、予め定める物の形状12と、予め定める物に関連する文字13とが形成され、予め定める物の形状12と文字13との少なくともいずれか一方は、黄血塩水溶液を塗布し、乾燥させることによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め定める液体が塗布されて発現する画像情報および文字情報によって、使用者に知育的刺激を与えて、文字を習得させる文字習得知育用具に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来技術に係る変色性塗り絵セット1の斜視図である。図9は、従来技術に係る変色性塗り絵2の断面図である。
【0003】
従来技術に係る変色性塗り絵1は、支持体3と、非変色性像4と、多孔質層5とを含んで構成される。非変色性像4は、支持体3上に設けられ、多孔質層5は、非変色性像4上の少なくとも一部に設けられる。多孔質層5は、吸水状態で透明または半透明化して非変色増を視覚できる。このような構成によって、多孔質層5に水を塗布すると、多孔質層5が吸水して透明化し、非変色性像4による色が視覚され、水が塗布された部分の色が変化して視覚される変色性塗り絵が開示されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−326870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術において変色性塗り絵では、液体、たとえば水の塗布によって予め定める領域が発色するという性質を、知育には利用されておらず、使用者に自分で液体を塗布させて、発色によって現れる画像情報および文字情報によって、たとえば幼児などの使用者に知育的刺激を与えて文字を習得させることができないという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、予め定める液体が塗布されて発現する画像情報および文字情報によって、使用者に知育的刺激を与えて、文字を習得させる文字習得知育用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一覧可能な領域を含む文字習得知育用具であって、
前記一覧可能な領域には、予め定める物の形状と、前記予め定める物に関連する文字とが形成され、
前記予め定める物の形状と前記文字との少なくともいずれか一方は、黄血塩水溶液を塗布し、乾燥させることによって形成されることを特徴とする文字習得知育用具である。
【0008】
また本発明は、前記一覧可能な領域は、シート状部材の表面に形成された領域であり、
前記シート状部材が、複数積層され、製本されて形成された冊子を含むことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記文字は、前記予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記文字は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字を含むことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記予め定める物の形状は、前記文字が表す物体の一部の形状であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示をさらに含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一覧可能な領域には、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、物の形状と文字との少なくともいずれか一方が形成される。これによって、三価の鉄イオンを含有する液体、たとえば塩化第二鉄が溶解した液体を塗布することによって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分を、発色させることができる。したがって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された物の形状と文字との少なくともいずれか一方を、視認可能に表示させることが可能になる。
【0015】
本発明に係る文字習得知育用具の使用者に、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布させた場合には、発色によって使用者に視覚的な刺激を与え、一覧可能な領域に形成された内容に、使用者の注意を向けさせることが可能になる。また、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布しながら、一覧可能な領域のうち、すでに視認可能に発現した部分から、未だ発現しない部分の物の形状および文字のうちの少なくともいずれか一方を、予想することを、使用者に対して促すことが可能になる。使用者は、この予想と、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布することによって発現する物の形状および文字とを比較することによって、前記予想の是非を確認することができる。したがって、使用者に、物の形状と文字との関連を習得させることが可能になる。これによって、使用者に文字を習得させることが可能になる。
【0016】
また本発明によれば、一覧可能な領域は、シート状部材の表面に形成された領域であり、シート状部材は、製本されて冊子を形成する。これによって、複数のシートの持ち運びが容易になる。また複数のシートが並ぶ順序を規定することができる。これによって、物の形状およびこれに関連する文字を、物語の登場者と、登場者の台詞とすることによって、物語を記載することが可能になる。また使用者に、発色させる処理をシート状部材の並ぶ順序に応じて行わせることによって、視認した部分と未だ視認していない部分とを使用者に区別させることができる。
【0017】
また本発明によれば、一覧可能な領域に形成される文字は、文字が関連する予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字である。これによって、一度記憶した物の名称を、使用者が思い出すことを補助することができる。また、一覧可能な領域全体に塩化第二鉄が溶解した液体を塗布した場合においても、前記一覧可能な領域に形成される文字は、物の名称を表す文字列の一部であるので、使用者に対して物の名称を思い出すことを強制することができる。
【0018】
また本発明によれば、一覧可能な領域に形成される文字は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字を含むので、使用者に対して、異なる複数の言語の存在を認識させることができる。また使用者が異なる言語を習得することを補助することができる。
【0019】
また本発明によれば、予め定める物の形状は、文字が表す物体の一部の形状である。これによって、文字が表す物の形状を使用者が思い出すことを、補助することができる。また一覧可能な領域全体に塩化第二鉄が溶解した液体を塗布した場合においても、前記一覧可能な領域に形成される物の形状は、文字が表す物体の一部の形状であるので、物の形状を思い出すことを、使用者に強制することができる。
【0020】
また本発明によれば、文字習得知育用具は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示をさらに含んで構成される。これによって、一覧可能な領域のうち、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分が、どの部分であるのかを表示することができる。したがって、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布するべき領域を表示することによって、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布する領域を少なくすることができる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布する手間を少なくすることが可能となる。
【0021】
また本発明によれば、文字習得知育用具は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体をさらに含んで構成される。これによって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させ部分に、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態に先行する形態ですでに説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。第1実施形態に係る文字習得知育用具10は、予め定める液体が塗布されて発現する画像情報および文字情報によって、使用者に知育的刺激を与えて、文字を習得させる用具である。第1実施形態において、使用者は、小学生低学年以下の子供とする。予め定める液体は、塩化第二鉄を含んだ液体である。
【0024】
第1実施形態に係る文字習得知育用具10は、シート状部材11を含んで形成される。シート状部材11は、吸水性と可撓性とを有する。シート状部材11の厚み方向に垂直な一表面には、予め定める物の形状と、予め定める物に関連する文字13とが形成される。シート状部材11の厚み方向に垂直な一表面は、一覧可能な領域14である。予め定める物の形状と、予め定める物に関連する文字13とのうち、少なくともいずれか一方は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、形成される。
【0025】
黄血塩は、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム、フェロシアン化カリウム、黄血カリと称されることもあり、摂氏25度において、水100グラム(gram, 略称「g」)に32.0g溶ける。黄血塩は、水に溶けた状態で[Fe(CN)4−と表されるフェロシアンイオンを生じる。
【0026】
一覧可能な領域14に形成される文字13は、予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字13である。第1実施形態に係る文字習得知育用具10は、塩化第二鉄水溶液をさらに含んで構成される。塩化第二鉄は、塩化鉄(III)と称されることもあり、水、エタノール、エーテル、アセトンに易溶である。FeClと表される無水物は、摂氏0度において、水100gに74.4g溶ける。FeCl・6HOと表される六水和物は、摂氏0度において、水100gに246gとける。沸騰水に入れると加水分解して赤褐色の水酸化鉄(III)のコロイド溶液になる。
【0027】
塩化第二鉄は、水を含有する溶媒中に溶解させると、加水解離してFe3+と表される第二鉄イオンを生じる。
【0028】
黄血塩と第二鉄イオンとが溶液中で接触すると、イオン反応によってフェロシアン化鉄(III)を生じる。フェロシアン化鉄(III)を生じる。フェロシアン化鉄(III)は、Fe[Fe(CN)と表され、深青色の不溶性固体で、ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)、不溶性プルシアンブルー、ベルリンブルー、紺青、ベレンス、パリスブルーブロンズブルーまたはブロンズレスブルーと呼ばれることもある。
【0029】
文字13は、予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字13である。第1実施形態に係る文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体16をさらに含んで構成される。
【0030】
第1実施形態において、一覧可能な領域14には、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、物の形状と文字13との少なくともいずれか一方が形成される。黄血塩水溶液を塗布した部分に、三価の鉄イオンを含有する液体、たとえば塩化第二鉄水溶液を塗布すると、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分が発色する。これによって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された物の形状または文字13またはその両方が、視認可能に発現する。
【0031】
第1実施形態に係る文字習得知育用具10の使用者が、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した場合には、発色によって使用者に視覚的な刺激を与えられる。これによって、使用者の注意は、一覧可能な領域14に形成された内容に向かう。塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布しながら使用者は、一覧可能な領域14のうち、すでに視認可能に発現した部分から、未だ発現しない部分の物の形状および文字13のうちの少なくともいずれか一方を、予想することが可能になる。使用者は、この予想と、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布することによって発現する物の形状および文字とを比較することによって、前記予想の是非を確認する。これによって、使用者に、物の形状と文字との関連を習得させ、文字を習得させる。
【0032】
第1実施形態において、一覧可能な領域14に形成される文字13は、文字13が関連する予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字13である。使用者は、前記先頭からの一部の文字13を、物の名称を思い出すための手掛かりとして、一度記憶した物の名称を思い出す。また使用者が、一覧可能な領域14全体に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布しても、前記一覧可能な領域14に形成される文字13は、物の名称を表す文字列の一部であるので、使用者が物の名称全体を容易に知ることを防止し、使用者は、物の名称を思い出すことを強制される。これによって、文字習得知育用具10は、使用者に対して知育的刺激を付与する。
【0033】
文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体16をさらに含んで構成される。使用者は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させ部分に、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することで、一覧可能な領域14に黄血塩で塗布される物の形状または文字13またはその両方を発現させる。
【0034】
第1実施形態において、文字習得知育用具10は、シート状部材11としての紙を含んで形成される。紙はシート状に形成され、紙のうち厚み方向に垂直な一表面を成す表面部は、一覧可能な領域14である。紙は、一平面の広さ1平方メートル(meter square, 略号「m」)あたりの質量が75g程度の厚みを有する白色の紙であるものとする。以下、シート状の紙の、厚み方向に垂直で一覧可能な領域14を「紙面」と称し、紙のうち、紙面を規定する部分を「紙表面部」と称することがある。
【0035】
第1実施形態において予め定める物はウサギであり、予め定める物の形状は、ウサギを模擬した図案であるものとする。本発明において、ウサギ目ウサギ科の動物を総称して「ウサギ」と称し、ウサギを模擬した図案は、ウサギであることが認識できる程度であれば、強調と省略が施されて示されていてもよい。本発明において物の形状は、写実的であっても、また写実的でなくてもよく、強調と省略とを含んで図案化された形状であってもよい。第1実施形態においてウサギを模擬した図案は、一個体のウサギの全体を模擬した図案である。
【0036】
第1実施形態において文字13は、ひらがなで書された「う」というひらがな文字である。文字13の書体については、特に規定しない。ウサギを模擬した図案は、黒の塗料によって描画される。「う」という文字13は、黄血塩水溶液で書され、乾燥される。以下、一覧可能な領域14を形成する部材のうち、黄血塩水溶液が浸潤した部分を「黄血塩浸潤領域17」と称する。黄血塩水溶液を塗布し乾燥することによって、物の形状および文字13が、太さを有する線として描かれる場合には、太さを有する線が占める領域が黄血塩浸潤領域17である。
【0037】
黄血塩水溶液が塗布されない領域は、物の形状に内包される空白領域であっても、文字13を構成する線に内包される空白領域であっても、黄血塩浸潤領域17から除外する。黄血塩浸潤領域17は、物の形状を形成するために黄血塩を塗布し浸潤させて乾燥させた部分と、文字13を形成するために黄血塩を塗布し浸潤させて乾燥させた部分とを含む。以下、物の形状を形成するために、一覧可能な領域14に液体を塗布し浸潤させることを「描画」と称し、文字13を形成するために、一覧可能な領域14に液体を塗布し浸潤させることをも「描画」と称することがある。
【0038】
第1実施形態において、ウサギを模擬した図案と、「う」というひらがな文字とは、1つの紙表面部に描画される。描画された後、紙は、乾燥される。したがって、この図案とこのひらがな文字とは、一覧可能な領域14に形成される。「う」というひらがな文字は、このひらがな文字が書される紙表面部に描画される図案が、ウサギであることを示す。「う」というひらがな文字は、ウサギの名称を表す「うさぎ」という文字列のうち、先頭からの一部の文字13であり、先頭からの1文字である。
【0039】
このひらがな文字は、黄血塩水溶液で描画され乾燥されるので、白色の紙が乾燥した状態においては、「う」というこのひらがな文字は、視認できない。物の形状と文字13とが描画され乾燥された状態は、文字習得知育用具10は、使用に供されることが可能な状態であり、使用者が使用する前の状態である。
【0040】
使用者は、塩化第二鉄水溶液を、一覧可能な領域14に塗布することで、文字習得知育用具10を使用する。使用者によって塩化第二鉄水溶液が塗布される部分は、紙の厚み方向に沿って紙面を見たとき、紙表面部のうちの黄血塩描画領域を含み、これより広い範囲に塗布することが望ましい。さらに、使用者は、紙面に平行ないずれかの方向のうちの一方側から塗布を開始し、前記いずれかの方向のうちの他方側の紙表面部への塗布を、一方側の紙表面部への塗布よりも遅く行うことが望ましい。これによって、黄血塩浸潤領域17は、前記いずれかの方向のうちの一方側から発色し、描画されていた「う」という文字13は前記いずれかの方向のうちの一方側から発現する。
【0041】
使用者は、ウサギを模擬した図案を見てウサギであると認識できる能力と、ウサギが「うさぎ」と発音されることの知識と、日本語において「う」というひらがな文字が「う」という発音を表示するものであることの知識とを有することが望ましい。これによって、使用者は、ウサギを模擬した図案を見て、「うさぎ」という発音を想起しようとする。「うさぎ」という発音を思い出せないときに、あるいはウサギの図案が「うさぎ」という発音によって表されることを確認するときに、紙面に塩化第二鉄水溶液を塗布する。本発明において、「日本語」は、本発明出願時における日本語を意味するものとする。また、特に江戸時代以前の日本語と対比して現在日本で用いられる日本語を「現代の日本語」と称することがある。
【0042】
「うさぎ」という発音を思い出せないときには、「う」という文字13の一部が発現されたときに、発現された文字13の一部の形から、「う」という文字13である可能性を認識する。使用者は、発現された文字13の一部の形を手掛かりとして、ウサギを模擬した図案が「う」という発音によって始まる名称で示される物の形状であることを想起する。この想起は、ウサギの形状と「うさぎ」という発音との関連性に関する記憶を再生し、思い出すことの補助となる。
【0043】
「う」という文字13の一部を視認しても「う」という文字13が想起できないときには、紙面のさらに広い範囲に塩化第二鉄水溶液を塗布する。これによって、「う」という文字13全体が発現し、ウサギを模擬した図案が「うさぎ」という発音によって表されることが、示唆される。使用者が「う」という文字13を見て、「う」という発音を想起できれば、ウサギを模擬した図案が「う」という発音で始まる名称で示される物の形状であることを確信する。この確信は、ウサギの形状と「うさぎ」という発音との関連性に関する記憶を再生し、思い出すことの補助となる。
【0044】
使用者に対して知育的な刺激を与えるために、予め定める物の名称を表す文字列の一部が、名称を表す文字列の先頭からの1文字であることには、次のような効果がある。日本語によって表される物の名称は、全てひらがな文字で表すことが可能であり、物の名称を表す文字列の先頭の1文字となり得るひらがな文字の種類は、全てのひらがな文字のうちの、73種類である。これは、「あ行」から「ま行」までと「ら行」とに含まれる40種類に、「や」、「ゆ」、「よ」、「わ」、「を」、「ん」、「ゐ」および「ゑ」を加え、さらに濁音および半濁音を表す25種類を加えたひらがな文字の種類の数である。「さ行」に半濁音点を付して表される文字13は、現代の日本語では用いられないので、前記73種類には含めていない。また、開拗音と合拗音とを含む拗音は、ひらがな文字による表記で2文字であるとし、先頭の1文字となり得るひらがな文字の種類から、拗音を表す小文字は除く。
【0045】
「を」、「ん」、「ゐ」および「ゑ」は、現代の日本語で、物の名称を表す文字列の先頭の1文字となることはほとんどないので、物の名称を表す文字列の先頭の1文字となるひらがな文字は、69種類で、ほとんど全てである。したがって、一覧可能な領域14に書される文字13は69種類または73種類である。使用者にさまざまな物の形状を示し、これに名称を表す文字列の先頭の1文字として対応するひらがな文字を書する場合、発現する文字13の種類を73種類に限定することができる。これによって、73種類よりも多くの種類の物の形状も、物の名称を表す文字列の先頭の1文字の種類によって分類すれば、73種類に分類することが可能であることを、使用者に示すことができる。
【0046】
記憶する内容は、少なければ少ないほど、記憶にかかる労力は少なく、労力が少なければ少ないほど、達成が容易となる。使用者に、物の名称を表す文字列の先頭の1文字として記憶すべきひらがな文字の種類を73種類に限定して指導することによって、使用者の達成を容易にし、使用者の学習に対する意欲を促進することができる。
【0047】
使用者が塩化第二鉄水溶液を塗布するときには、絵筆および書道用の筆を含む毛筆のうちの1本で塗布することが望ましい。以下、絵筆および書道用の筆を含む毛筆を、単に「筆」と称する。使用者が筆を用いて塩化第二鉄水溶液を塗布することによって、使用者が筆を持つことに慣れることができる。筆を使用することも、使用者に対して知育的刺激となる。
【0048】
塗布する塩化第二鉄水溶液中の塩化第二鉄の濃度は、体積モル濃度で数ミリモルパーリットル(millimole per liter, 略号「mmol/l」)から4モルパーリットル(mol
per liter, 略号「mol/l」)であることが好ましく、数mmol/l〜十mmol/l程度であることがさらに好ましい。塩化第二鉄水溶液には、可視光によって励起されて電子遷移することによって、可視光を吸収する化学種は含まれていない。したがって、塩化第二鉄水溶液を、黄血塩を含んでいない紙上に塗布しても、塗布された塩化第二鉄水溶液は、ほぼ無色透明である。
【0049】
黄血塩浸潤領域17は、乾燥している状態において紙の繊維の間に黄血塩の結晶が散在している状態である。黄血塩浸潤領域17に塩化第二鉄水溶液が接触すると、塩化第二鉄水溶液中に含まれる水に黄血塩が溶解する。黄血塩が溶解した直後において、溶液中の黄血塩の濃度は、溶液中の塩化第二鉄よりも低い。溶液中において、仮に黄血塩の濃度と塩化第二鉄の濃度が等しいか、または黄血塩が塩化第二鉄に対して過剰に存在する場合には、FeK[Fe(CN)]・HOで表される可溶性プルシアンブルーが生じる。可溶性プルシアンブルーは、水中でコロイド状に溶解して濃青色溶液となる。第1実施形態において黄血塩の濃度は塩化第二鉄の濃度よりも低いので、可溶性プルシアンブルーが生じることはないので、発色した深青色の黄血塩浸潤領域17が滲むことはない。
【0050】
第1実施形態において、黄血塩浸潤領域17が発色するときの化学反応は、次のイオン反応式(1)で表される。
3K[Fe(CN)]+4Fe3+→Fe[Fe(CN)+12K
…(1)
【0051】
化学反応式では、次の式(2)で表される。
3K[Fe(CN)]+4FeCl→Fe[Fe(CN)+12KCl
…(2)
【0052】
この反応は、イオン反応であるので、三価の鉄イオンが黄血塩と接触してから数ナノ秒(nanosecond, 略号「ns」)〜数マイクロ秒(microsecond, 略号「μs」)以内に、接触したイオン同士の反応は終了する。
【0053】
全ての化合物は、短時間に摂取したときに、人体に害を及ぼすと考えられる摂取量があるけれども、黄血塩、塩化第二鉄、フェロシアン化鉄(III)および塩化カリウムは、いずれも日本国内の法律において毒物、劇物および特定毒物のいずれにも該当せず、安全な化合物である。フェロシアン化合物は、食品添加物としても使用されるもので、安全である。
【0054】
たとえば、塩化カリウムについても、ラットに対して経口投与した時の、致死量(
lethal dose 50, 略称「LD50」)として、3020ミリグラムパーキログラム(
milligram per kilogram, 略称「mg/kg」)の値から判断すると、体重20kg(
kilogram, 略称「kg」)の人間にとっての致死量は、1人あたり60グラム(gram, 略称「g」)以上となる。急性経口毒性のLD50として、2600g/kgの値を用いるならば、体重20kgの人間にとっての急性経口による致死量は、1人あたり50g以上となる。これらのLD50の値は、衣類用洗剤とほぼ同等である。したがって経口投与を行ったときの塩化カリウムは、毒というには値しない。
【0055】
したがって、文字習得知育用具10に利用される化合物は、子供を含む使用者に対して安全である。したがって、文字習得知育用具10が使用されるときに、仮に文字習得知育用具10に含まれる化合物および文字習得知育用具10の使用によって生じる化合物が、経口によって使用者の体内に侵入したとしても、安全上の問題はない。また使用者が机の上、部屋の中で文字習得知育用具10を使用するときに、致死量として前述した量ほど多量の化合物を使用する必要性はなく、健康上使用者に問題が生じることはない。
【0056】
第1実施形態によれば、一覧可能な領域14には、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、物の形状と文字13との少なくともいずれか一方が形成される。これによって、三価の鉄イオンを含有する液体、たとえば塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分を、発色させることができる。したがって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された物の形状と文字13との少なくともいずれか一方を、視認可能に表示させることが可能になる。
【0057】
第1実施形態に係る文字習得知育用具10の使用者に、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布させた場合には、発色によって使用者に視覚的な刺激を与え、一覧可能な領域14に形成された内容に、使用者の注意を向けさせることが可能になる。また、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布しながら、一覧可能な領域14のうち、すでに視認可能に発現した部分から、未だ発現しない部分の物の形状および文字13のうちの少なくともいずれか一方を、予想することを、使用者に対して促すことが可能になる。使用者は、この予想と、塩化第二鉄が溶解した液体を塗布することによって発現する物の形状および文字とを比較することによって、前記予想の是非を確認することができる。したがって、使用者に、物の形状と文字との関連を習得させることが可能になる。これによって、使用者に文字を習得させることが可能になる。
【0058】
また第1実施形態によれば、一覧可能な領域14に形成される文字13は、文字13が関連する予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字13である。これによって、一度記憶した物の名称を、使用者が思い出すことを補助することができる。また、一覧可能な領域14全体に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した場合においても、前記一覧可能な領域14に形成される文字13は、物の名称を表す文字列の一部であるので、使用者に対して物の名称を思い出すことを強制することができる。
【0059】
また第1実施形態によれば、文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体16をさらに含んで構成される。これによって、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させ部分に、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することが可能となる。
【0060】
図2は、本発明の第2実施形態における文字習得知育用具10の平面図である。第2実施形態において、一覧可能な領域14は、シート状部材11の表面に形成された領域であり、シート状部材11は、複数積層され製本されて、冊子18を形成する。第2実施形態においては、冊子18の1見開きを一覧可能な領域14とする。文字13は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字13を含む。異なる複数の言語による文字列は、一覧可能な領域14に併記されていてもよく、また1つの冊子18を成す文字習得知育用具10の中で、異なるページにわたって併記されていてもよい。
【0061】
予め定める物の形状は、前記文字13が表す物体の一部の形状である。文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示19をさらに含んで構成される。一覧可能な領域14には、使用者に対する指示を表す文字表示21がさらに形成され、指示を表す文字表示21は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成される。
【0062】
一覧可能な領域14は、シート状部材11の表面に形成された領域であり、シート状部材11は、製本されて冊子18を形成する。これによって、複数のシートの持ち運びが容易になる。また冊子18として形成されることによって、シート状部材11は、並ぶ順序が規定される。物の形状およびこれに関連する文字13を、物語の登場者と、登場者の台詞とすることによって、物語を記載することが可能になる。使用者に、発色させる処理をシート状部材11の並ぶ順序に応じて行わせることによって、視認した部分と未だ視認していない部分とを、使用者に区別させる。
【0063】
冊子18の中の複数のシート状部材11のうちの1つのシート状部材11においては、予め定める物の形状は、文字13が表す物体の一部の形状である。これによって、文字13が表すものの形状を、使用者が思い出すことを補助する。一覧可能な領域14に形成される物の形状が、文字13が表す物体の一部の形状であることによって、物の形状を思い出すことを、使用者に強制する。
【0064】
一覧可能な領域14に形成される文字13は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字13を含むので、使用者に対して、異なる複数の言語の存在を認識させることができる。また使用者が異なる言語を習得することを補助することができる。
【0065】
文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示19をさらに含んで構成される。これによって、一覧可能な領域14のうち、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分がどの部分であるのかを、表示する。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布するべき領域を表示し、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する領域を少なくする。また、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する手間を少なくする。
【0066】
一覧可能な領域14には、使用者に対する指示を表す文字表示21が、さらに形成され、指示を表す文字表示21は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、形成される。使用者は、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布し、これに伴って表示された文字表示21を読むことによって、次にするべきことを認識する。次にすべきことが順次表示されるので、使用者は、作業の進展を認識する。これによって、使用者が、作業を行うことの達成感を感じることを可能にする。文字表示21を読むことによって作業内容の理解が促すことによって、使用者に文字表示21を読む作業の必要性を感じさせ、使用者に対して、文字を読むことに関して知育的刺激を与える。
【0067】
第2実施形態において、シート状部材11は、第1実施形態と同様の紙であるものとする。各紙の、厚み方向に垂直な一表面を規定する一表面部には、それぞれに物の形状と、これに関連する文字13が形成される。冊子18は、右開きの冊子18であるものとする。冊子18を構成する紙には、黒のインクと、黄血塩水溶液とによって、物語を形成する登場者の形状と、登場者の台詞を表す文字列とが形成される。登場者は前記予め定める物であり、登場者の形状は、前記予め定める物の形状である。登場者の台詞は、前記文字13である。
【0068】
冊子18に形成される物語に登場する物は、動物であり、擬人化される。擬人化された動物は、物語の中で日本語または外国語を話す。冊子18の最初から数枚の紙には、物語に登場する動物と、動物の名称を表す文字列の先頭からの一部が描画される。また、物語が描く場面に登場する物、たとえば建物、乗り物、自然、植物を描画したページを含んでいてもよい。
【0069】
図2には、物がウサギであり、物の形状はウサギを擬人化した図案である場合の文字習得知育用具10を示す。図2(a)において文字13は、ウサギの名称を表す文字列の先頭からの2文字である「うさ」というひらがな文字である。図2(b)は、物がキリンであり、物の形状はキリンを擬人化した図案である場合の文字習得知育用具10をしめす。図2(a)において文字13は、キリンの名称を表す文字列の先頭からの2文字である「きり」というひらがな文字である。本発明において、キリンは、キリン科キリン属キリンであるものとし、亜種を含む。図2(a)に示すウサギの形状は、耳が垂れた「ロップイヤー」と称されるウサギを擬人化した図案である。
【0070】
図2において、ウサギの形状とキリンの形状とは、黒の塗料によって描画され、「うさ」というひらがな文字と、「きり」というひらがな文字とは、黄血塩水溶液で書され、乾燥されて形成される。図2に示すこれらの物の形状および文字13は、第2実施形態における冊子18に含まれるページの一部であり、これらの他、物語に登場するさまざまな登場者および物の形状が描画される。
【0071】
文字習得知育用具10は、黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19をさらに含む。表示19は、紙面を、紙面に垂直に見て、一覧可能な領域14内に形成される黄血塩浸潤領域17の少なくとも一部を外囲する位置に視認可能な塗料によって形成される。第2実施形態において表示19は、黒の塗料によって、形成される。表示19は、使用者がどの辺りに塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布すれば、黄血塩浸潤領域17の少なくとも一部が発色するのかを示す。
【0072】
本発明においては、普通名詞またはこれを現す文字列の先頭からの一部の文字13およびこの一部に対応する音節が、登場者の固有名詞と混同されることを、必ずしも排除しない。これは、日本語文化の中で、たとえば「うさ」または「うさうさ」という発音が、「うさぎ」を意味する幼児語を形成する場合があるように、名称を表す文字列のうちの先頭からの一部の文字列は、その名称の意味を含む場合がある。名称を表す文字列のうちの先頭からの一部の文字列を記憶することは、日本語および日本語の文字を習得する上において、障害にならない。
【0073】
また外国語においても、語幹を同じくする単語が、異なる接尾語を伴って派生的な意味を示す場合があり、名称を表す文字列の、先頭からの一部の文字列を記憶することも、言語習得には、先頭からの一部の文字列を記憶することは、障害にならない。
【0074】
図3は、本発明の第2実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。図3(a)には、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する前の状態を示し、図3(b)には、塩化第二鉄水溶液を塗布した後の状態を示す。冊子18のうち、最初から数枚の紙に続くページには、物語が描かれる。図3に示す紙に描画される物は、クマであり、物の形状はクマを擬人化した図案である。文字13は、擬人化されたクマが物語の中で発する台詞を表す文字13である。図3においてクマが発する台詞を表す文字13は、「なかよくしよう」というひらがな文字である。本発明において、クマ科クマ亜科に属する動物を総称して「クマ」と称する。クマを擬人化した図案は、黒の塗料によって描画され、「なかよくしよう」というひらがな文字は、黄血塩浸潤領域17として形成される。
【0075】
図3に示す一覧可能な領域14には、黒の塗料で「ここに、ぬりましょう」という字と矢符22とが書され、矢符22に示される位置には、「ここにぬりましょう」という文字13と次の矢符24とが黄血塩浸潤領域17として形成される。使用者は、黒の塗料で書された「ここに、ぬりましょう」という字を認識して、矢符22に示される矢符22の先の位置に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する。これによって、黄血塩浸潤領域17として形成された「ここにぬりましょう」という文字13と次の矢符24とが視認可能に発現する。使用者は、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって発現した「ここにぬりましょう」という文字13と次の矢符24とを認識して、次の矢符24に示される位置に、塩化第二鉄が溶解した液体16をさらに塗布する。これによって、「なかよくしよう」という文字13が視認可能に発現する。
【0076】
第2実施形態において、黄血塩浸潤領域17として形成された「ここにぬりましょう」という文字13は、使用者に対する指示を表す文字表示21である。字によって書された文字表示21以外の、たとえば前記次の矢符24を含む記号が、黄血塩浸潤領域17としてさらに描画されて乾燥されていてもよい。図3に示す紙面においては、紙面を紙面に垂直に見て、「なかよくしよう」という文字13を外囲する位置に、黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19が視認可能な塗料によって形成される。第2実施形態において黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19は、直角に屈曲した線として描画されたカギ括弧である。カギ括弧は、黄血塩浸潤領域17を左下、左上、右上、右下から規定する形状に、黒の塗料によって描画される。上下左右は、紙面に平行な向きである。
【0077】
図4は、本発明の第2実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。冊子18のうち、物語が描かれた紙に続くページには、物語に登場した登場者が描かれる。図4には、物がゾウであり、物の形状はゾウの一部分の形状である場合の文字習得知育用具10を示す。ゾウの一部分の形状はゾウの鼻を含むゾウの一部分の形状である。本発明において、ゾウ目の動物を総称して「ゾウ」と称する。ゾウ目は、長鼻目と称されることもある。図4において文字13は、ゾウの名称を表す日本語の文字列である「ぞう」という文字13と、ゾウの名称を表す英語の文字列である「ELEPHANT」という文字13との両方である。この文字列は、大文字13のアルファベット文字13として書される。
【0078】
図4に示す紙面においては、ここに描画されるゾウの一部分の形状全てが、黄血塩浸潤領域17として形成される。「ELEPHANT」という文字13は、黒の塗料で描画される。「ぞう」という文字13は、黄血塩浸潤領域17として形成される。黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19としては、ゾウの一部分の形状のうちの、さらに一部分の位置を示す表示19と、「ぞう」という文字13の位置を示す表示19との両方が、黒の塗料で描画される。ゾウの一部分の形状のうちの、前記さらに一部分を除く他の部分は、黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19に示される領域よりも外方に位置する。図4には、前記さらに一部分を除く他の部分は、ゾウの牙の形状である。
【0079】
図4に示す黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19は、黒の塗料によって描画され、ゾウの鼻を含むゾウの一部分の形状が形成された部分よりも左上および左下の隅を示して描画される。黄血塩浸潤領域17の位置を示す表示19は、カギ括弧の形状であることによって、上方のカギ括弧と下方のカギ括弧の2つの表示19よりも、右に黄血塩浸潤領域17が位置することを示す。
【0080】
使用者は、第2実施形態に係る文字習得知育用具10の中で、図4に示すページに先行するページに塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布し、そこに描かれた登場者を記憶しているものとする。使用者が、ゾウを表す英語の名称を把握していなければ、「ELEPHANT」という文字13を見ることによって、「ELEPHANT」という文字13が何を意味するのかを使用者が知ることはできない。しかし黄血塩浸潤領域17を示す表示19を認識することによって、この表示19が示す位置の紙面に、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する。これによって、ゾウの一部分の形状と、「ぞう」という文字13との少なくともいずれか一方が視認可能に発現する。
【0081】
使用者は、物語に登場したゾウの一部分の形状を見て、ゾウ全体を想起することができる。また物語に登場したゾウの名称を記憶していれば、「ぞう」という日本語を想起することができる。ゾウ全体の形状を想起すれば、黄血塩浸潤領域17を示す表示19に示される領域よりも外方にも、ゾウの形状の一部が存在することを予想し、黄血塩浸潤領域17を示す表示19に示される領域よりも広い範囲に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する。これによって、ゾウの牙の形状を発現させ、これを視認して確認する。
【0082】
「ELEPHANT」という英語の文字13が形成される一覧可能な領域14に、ゾウの一部分の形状と、「ぞう」という文字13との少なくともいずれか一方が視認可能に発現することによって、「ELEPHANT」という英語の文字13がゾウおよび「ぞう」という日本語に対応することを学習することができる。また先行するページに登場した登場者の形状またはこの一部を、後続するページで描画することによって、記憶した物の形状およびこの名称を復習することが可能になる。
【0083】
また第2実施形態によれば、一覧可能な領域14は、シート状部材11の表面に形成された領域であり、シート状部材11は、製本されて冊子18を形成する。これによって、複数のシートの持ち運びが容易になる。また複数のシートが並ぶ順序を規定することができる。これによって、物の形状およびこれに関連する文字13を、物語の登場者と、登場者の台詞とすることによって、物語を記載することが可能になる。また使用者に、発色させる処理をシート状部材11の並ぶ順序に応じて行わせることによって、視認した部分と未だ視認していない部分とを使用者に区別させることができる。
【0084】
また第2実施形態によれば、一覧可能な領域14に形成される文字13は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字13を含むので、使用者に対して、異なる複数の言語の存在を認識させることができる。また使用者が異なる言語を習得することを補助することができる。
【0085】
また第2実施形態によれば、予め定める物の形状は、文字13が表す物体の一部の形状である。これによって、文字13が表す物の形状を使用者が思い出すことを、補助することができる。また一覧可能な領域14全体に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した場合においても、前記一覧可能な領域14に形成される物の形状は、文字13が表す物体の一部の形状であるので、物の形状を思い出すことを、使用者に強制することができる。
【0086】
また第2実施形態によれば、文字習得知育用具10は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示19をさらに含んで構成される。これによって、一覧可能な領域14のうち、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分が、どの部分であるのかを表示することができる。したがって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布するべき領域を表示することによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する領域を少なくすることができる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する手間を少なくすることが可能となる。
【0087】
また第2実施形態によれば、一覧可能な領域14には、使用者に対する指示を表す文字表示21が、さらに形成され、前記指示を表す文字表示21は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって、形成される。したがって、使用者は、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布し、これに伴って表示された文字表示21を読むことによって、次にするべきことを認識することができる。次にすべきことが順次表示されるので、使用者は、作業の進展を認識することができる。これによって、使用者が、作業を行うことの達成感を感じることを可能にする。使用者にとって文字表示21を読む作業が必要になり、また文字表示21を読むことによって作業内容の理解が促されるので、文字表示21を読むことおよび文字表示21が読めるようになることの重要性を使用者に感じさせることが可能となる。したがって、使用者に文字表示21を読むことを促すことが可能となる。
【0088】
図5は、本発明の第3実施形態に係る文字習得知育用具10に書される文字13を示す平面図である。第3実施形態において文字13は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された複数の字を含み、前記複数の字のうちの一部の字が形成される部分の、文字として表示する側の表面上には、水分の浸透を抑制または防止する薄膜26が形成される。
【0089】
また前記薄膜26は、一覧可能な領域14のうち、複数の字が形成される部分の、文字として表示する側の表面上に形成され、前記薄膜26が覆う部分は、文字として表示する側から見て、文字を形成するために黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分よりも周囲に広く形成され、文字として表示する側から見たときの、前記薄膜26が覆う部分の面積と、文字13を形成するために黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分の面積との差は、前記薄膜26が覆う字によって異なる。
【0090】
また塩化第二鉄が溶解した液体16は、塩化第二鉄を溶質として含み、水と混和可能な、常温で液体の有機化合物と水とを溶媒として含む溶液である。
【0091】
文字13は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された複数の字を含み、複数の字のうちの一部の字が形成される部分の表面上には、水分の浸透を防止する薄膜26が形成される。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布したときに、薄膜26が形成される表面部に黄血塩水溶液によって文字が形成される部分に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸透する時刻を、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した時刻に対して遅らせる。
【0092】
これによって、薄膜26が形成されない表面部に黄血塩水溶液によって形成された字が、視認可能に表示される時刻よりも、薄膜26が形成された表面部に黄血塩水溶液によって形成された字が視認可能に表示される時刻を遅らせる。塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって表示される複数の字を、読むべき順序に沿って、表示時刻に差を生じさせて順次表示させる。
【0093】
薄膜26は、一覧可能な領域14のうち、複数の字が形成される部分の表面上に形成され、薄膜26が覆う部分は、文字として表示する側から見て、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分よりも周囲に広く形成される。薄膜26が覆う部分の面積と、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分の面積との差は、字によって異なる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸透するまでの時間を、字によって違わせる。
【0094】
これによって、一覧可能な領域14全体に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した場合、黄血塩水溶液が塗布および乾燥されることによって形成された字が、視認可能に表示される時刻を、文字毎に変化させる。塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって表示される複数の字を、読むべき順序に沿って、表示時刻に差を生じさせて順次表示させる。
【0095】
溶媒は、この一部として水を含み、前記塩化第二鉄が溶解した液体16中で第二鉄イオンを含有する。第二鉄イオンは、黄血塩水溶液を塗布して乾燥させた部分において黄血塩と化学反応し、これによって、黄血塩水溶液を塗布して乾燥させた部分は、視認可能に発色する。また前記塩化第二鉄が溶解した液体16は、水と混和可能な、常温で液体の有機化合物を溶媒の一部として含む。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を一覧可能な領域14に塗布してから、塩化第二鉄を溶質として含む溶媒が乾燥するまでの時間は、溶媒が水である場合に比べて短縮される。したがって、シート状部材11の表面に使用者の手指および他のシート状部材11が接触することで、塩化第二鉄が溶解した液体16が使用者の手指および他のシート状部材11に浸潤する可能性のある時間が、溶媒が水である場合に比べて短縮される。
【0096】
第3実施形態において、一覧可能な領域14は、第1実施形態と同様の紙に形成される。文字13は、「きりん」という3つのひらがな文字である。これら3つの字は、紙面の厚み方向一方側から見て判読可能に形成される。以下、前記紙面の厚み方向一方を「紙面方向一方」と称する。またこの紙面上で「外方」または「内方」というとき、これらは紙面に平行な方向における外方または内方の向きであるものとする。また第3実施形態において使用者は、一覧可能な領域14内の黄血塩浸潤領域17を含む範囲に、数秒〜十数秒のうちに塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することを前提とする。
【0097】
「きりん」という3つの字は、黄血塩浸潤領域17として形成され、同じ太さの線で書される。これら3つの字のうち、「り」と「ん」の黄血塩浸潤領域17の紙面上には、薄膜26が形成される。薄膜26は、紙面の紙面方向一方側の表面上に形成される。薄膜26は、紙面方向一方から他方への水の浸透を防止する。薄膜26は、高分子から形成される。薄膜26は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンの少なくともいずれか一方を含んで構成され、エタノールおよびアセトンに溶解しないことが好ましい。
【0098】
薄膜26は、「き」という字を形成する黄血塩浸潤領域17の紙面方向一方には形成されない。「り」という字の紙面方向一方を覆う薄膜26は、「り」という字の線を形成する黄血塩浸潤領域17の外方に広がる。紙面方向一方側から見て、「り」という字の黄血塩浸潤領域17を覆う薄膜26の輪郭は、「り」という字の黄血塩浸潤領域17の輪郭に対して1ミリメートル(millimeter, 略号「mm」)外方に延在する。「ん」という字の紙面方向一方を覆う薄膜26は、「ん」という字の線を形成する黄血塩浸潤領域17の外方に広がる。紙面方向一方側から見て、「ん」という字の黄血塩浸潤領域17を覆う薄膜26の輪郭は、「ん」という字の黄血塩浸潤領域17の輪郭に対して3mm外方に延在する。
【0099】
「きりん」という文字13は「き」、「り」、「ん」の順序で読むべきひらがな文字である。字の黄血塩浸潤領域17の輪郭に対して薄膜26の輪郭が離れる距離は、読むべき順序が後であれば後であるほど、大きく設定される。使用者が、紙面上の「り」および「ん」の字を形成する黄血塩浸潤領域17を含む範囲に、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布すると、塩化第二鉄が溶解した液体16は、「き」の字の黄血塩浸潤領域17にはすぐに浸潤し、これによって黄血塩浸潤領域17は発色し、「き」の字が発現する。
【0100】
「り」の字の黄血塩浸潤領域17には、塩化第二鉄が溶解した液体16は、紙面方向一方から浸潤することができず、「り」の字の黄血塩浸潤領域17の外方から浸潤する。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから字が発現するまでの時間は、「き」の字の場合よりも「り」の字の場合の方が長くなる。「ん」の字の黄血塩浸潤領域17には、塩化第二鉄が溶解した液体16は、紙面方向一方から浸潤することができず、「ん」の字の黄血塩浸潤領域17の外方から浸潤する。
【0101】
字の黄血塩浸潤領域17の輪郭に対して薄膜26の輪郭が離れる距離は、「ん」の字における距離の方が「り」の字における距離よりも長い。したがって、「ん」の字の黄血塩浸潤領域17の周囲に塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから、「ん」の字の黄血塩浸潤領域17に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸潤するまでの時間は、「り」の字の黄血塩浸潤領域17の周囲に塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから、「り」の字の黄血塩浸潤領域17に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸潤するまでの時間よりも長い。したがって、塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから字が発現するまでの時間は、「り」の字の場合よりも「ん」の字の場合の方が長くなる。
【0102】
したがって、「きりん」の文字13の黄血塩浸潤領域17を含む範囲に、ほぼ同時に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布すると、「きりん」の文字13は、「き」、「り」、「ん」の順序で発現する。
【0103】
塩化第二鉄は、水だけでなく、常温で液体の有機化合物、たとえばエタノール、エーテル、アセトンにも溶解する。本発明において摂氏23度以上27度未満の温度範囲を「常温」と称する。以下、常温で液体の有機化合物を「有機溶媒」と称する。第3実施形態において、塩化第二鉄が溶解した液体16は、塩化第二鉄を溶解する溶媒として水と、エタノールとを含む。塩化第二鉄は、有機溶媒中では、FeClで表される分子として溶解するので、三価の鉄イオンとして存在する物質量は少ない。これに水を含むことによって、塩化第二鉄は加水解離し、三価の鉄イオンを生じる。これによって、黄血塩と接触して発色する反応が起こる。
【0104】
有機溶媒のエタノール、エーテル、アセトンのうちでは、エーテルは、水と混和しないので、第3実施形態において塩化第二鉄を溶解する溶媒として好ましくない。エタノールおよびアセトンは、水と混和する。2つの液体が、任意の組成で混ぜ合わされたときに、相分離することなく混合することを混和するという。エタノールおよびアセトンのうちでは、アセトンはエタノールに比べて高分子を溶解しやすいので、塩化第二鉄を溶解する溶媒は、有機溶媒としてエタノールを含むことが好ましい。ただし、アセトンは高分子すべてを溶解するわけではない。
【0105】
また第3実施形態によれば、文字13は、黄血塩水溶液を塗布し乾燥させることによって形成された複数の字を含み、複数の字のうちの一部の字が形成される部分の表面上には、水分の浸透を防止する薄膜26が形成される。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布したときに、薄膜26が形成される表面部に黄血塩水溶液によって文字が形成される部分に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸透する時刻を、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した時刻に対して遅らせることができる。
【0106】
したがって、薄膜26が形成されない表面部に黄血塩水溶液によって形成された字が、視認可能に表示される時刻よりも、薄膜26が形成された表面部に黄血塩水溶液によって形成された字が視認可能に表示される時刻を遅らせることができる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって表示される複数の字を、読むべき順序に沿って、表示時刻に差を生じさせて順次表示させることが可能となる。
【0107】
また第3実施形態によれば、薄膜26は、一覧可能な領域14のうち、複数の字が形成される部分の表面上に形成され、薄膜26が覆う部分は、文字として表示する側から見て、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分よりも周囲に広く形成される。薄膜26が覆う部分の面積と、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分の面積との差は、字によって異なる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16が塗布されてから、黄血塩水溶液が塗布および乾燥された部分に塩化第二鉄が溶解した液体16が浸透するまでの時間を、字によって違わせることができる。
【0108】
したがって、一覧可能な領域14全体に塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布した場合、黄血塩水溶液が塗布および乾燥されることによって形成された文字が、視認可能に表示される時刻を、文字毎に変化させることが可能となる。したがって、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって表示される複数の字を、読むべき順序に沿って、表示時刻に差を生じさせて順次表示させることが可能となる。
【0109】
また第3実施形態によれば、溶媒の一部として水を含むので、前記塩化第二鉄が溶解した液体16中で第二鉄イオンを生じることができる。したがって、黄血塩水溶液を塗布して乾燥させた部分において黄血塩と化学反応し、黄血塩水溶液を塗布して乾燥させた部分を視認可能に発色させることができる。また前記塩化第二鉄が溶解した液体16は、水と混和可能な、常温で液体の有機化合物を溶媒の一部として含む。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を一覧可能な領域14に塗布してから、塩化第二鉄を溶質として含む溶媒が乾燥するまでの時間を、溶媒が水である場合に比べて短縮することができる。したがって、シート状部材11の表面に使用者の手指および他のシート状部材11が接触することで、塩化第二鉄が溶解した液体16が使用者の手指および他のシート状部材11に浸潤する可能性のある時間を、溶媒が水である場合に比べて短縮することができる。
【0110】
また溶媒の一部として有機溶媒を含むことによって、溶媒の表面張力の大きさを小さくすることができる。これによって、塩化第二鉄が溶解した液体16を一覧可能な領域14に塗布したときに、一覧可能な領域14に浸潤する速さを速くすることができる。したがって、シート状部材11の表面に使用者の手指および他のシート状部材11が接触することで、塩化第二鉄が溶解した液体16が使用者の手指および他のシート状部材11に浸潤する可能性のある時間を、溶媒が水である場合に比べて短縮することができる。
【0111】
図6は、本発明の第4実施形態に係る文字習得知育用具10の一部に描画される物の形状および文字13を示す平面図である。図7は、本発明の第4実施形態に係る文字習得知育用具10の他の一部に描画される物の形状および文字13を示す平面図である。図6において予め定める物は、ウサギであり、物の形状はウサギを模擬した図案である。文字13は、ウサギをローマ字で表すときの先頭からの1文字である「U」の文字13である。図6においては、ウサギの形状が、黒の塗料で描画され、「U」の文字13は、黄血塩浸潤領域17として形成される。
【0112】
また図7に示す一覧可能な領域14には、「うさぎ」という黒の塗料で書された文字13に対応して、複数の物の形状が描画される。図7において予め定める物は、ウサギであり、物の形状はウサギを模擬した複数の図案である。文字13は、ウサギをひらがな文字で表した「うさぎ」の文字13である。図7においては、「うさぎ」の文字13は黒の塗料で書され、複数の図案は、黄血塩浸潤領域17として形成される。「うさぎ」という文字13よりも右側にはロップイヤーを模擬した図案が描画され、「うさぎ」という文字13よりも左側には日本白色種ウサギを模擬した図案が描画される。
【0113】
使用者が、図7に示す「うさぎ」という文字13を認識した場合に、ウサギを想起する。想起したウサギが、仮に日本白色種ウサギであるならば、黄血塩浸潤領域17として形成された複数の図案を発現させることによって、ロップイヤーもうさぎであることを認識する。このように、一覧可能な領域14に書される文字13が表す物のうちの、複数の種類または複数の形態を物の形状として描画しておくことによって、文字13が表す意味の範囲を広げることができる。たとえばロップイヤーもウサギであることを表示して教育することによって、単一の図案によって教育する場合に比べて、ウサギという名称に属する範囲を広く明示し、ウサギという概念の明確な形成を促すことができる。
【0114】
第4実施形態において一覧可能な領域14に含まれる複数の図案は、互いに異なる複数の強調と省略の手法によって図案化された図案であってもよい。これによって、使用者は、複数の図案化の手法による図案を見ることができ、強調と省略の方法に慣れ親しむこともできる。
【0115】
第1〜第4実施形態において物の形状と文字13とは、いずれか一方が黄血塩浸潤領域17として形成され、それらのうち他の一方は、塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する以前にすでに視認可能な黒の塗料によって描画されるけれども、他の実施形態において物の形状と文字13とは、両方ともに黄血塩浸潤領域17として形成されてもよい。また物の形状の一部または文字13の一部が黄血塩浸潤領域17として形成され、物の形状の一部または文字13の一部が視認可能な塗料によって描画されてもよい。
【0116】
第1〜第4実施形態において視認可能な塗料として、黒の塗料を用いたけれども、他の実施形態においては、黒の塗料の代わりに、紙面の色とは異なる黒以外の塗料を用いてもよい。
【0117】
第1〜第4実施形態において、使用者に対する指示を表す文字表示21は、使用者に加えて、使用者の保護者を対象として書される内容であってもよい。また塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布する以前にすでに視認可能な塗料によって、使用者の保護者に対する指示が書されていてもよい。また使用者の保護者が、黄血塩水溶液を一覧可能な領域14に塗布し乾燥させて使用者に与え、使用者が塩化第二鉄が溶解した液体16を塗布することによって、使用してもよい。
【0118】
物は動物以外の物であってもよく、たとえば建物、乗り物、自然、植物であってもよい。一覧可能な領域14は1ページではなく、1見開きであってもよい。文字13は、ひらがな文字だけではなく、漢字、片仮名、数字、記号、および他の言語の文字13のうちのいずれかをさらに含んでいてもよい。文字13は、縦書きであっても横書きであってもよい。
【0119】
第2実施形態において冊子18は、右開きであるものとしたけれども、冊子18を開く方向については、特に規定しない。たとえば他の実施形態において冊子18は、左開きであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の第1実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。
【図2】本発明の第2実施形態における文字習得知育用具10の平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る文字習得知育用具10の平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る文字習得知育用具10に書される文字13を示す平面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る文字習得知育用具10の一部に描画される物の形状および文字13を示す平面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る文字習得知育用具10の他の一部に描画される物の形状および文字13を示す平面図である。
【図8】従来技術に係る変色性塗り絵セット1の斜視図である。
【図9】従来技術に係る変色性塗り絵2の断面図である。
【符号の説明】
【0121】
10 文字習得知育用具
11 シート状部材
12 物の形状
13 文字
14 一覧可能な領域
16 塩化第二鉄が溶解した液体
17 黄血塩浸潤領域
18 冊子
19 表示
21 文字表示
22 矢符
24 次の矢符
26 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一覧可能な領域を含む文字習得知育用具であって、
前記一覧可能な領域には、予め定める物の形状と、前記予め定める物に関連する文字とが形成され、
前記予め定める物の形状と前記文字との少なくともいずれか一方は、黄血塩水溶液を塗布し、乾燥させることによって形成されることを特徴とする文字習得知育用具。
【請求項2】
前記一覧可能な領域は、シート状部材の表面に形成された領域であり、
前記シート状部材が、複数積層され、製本されて形成された冊子を含むことを特徴とする請求項1に記載の文字習得知育用具。
【請求項3】
前記文字は、前記予め定める物の名称を表す文字列のうち、先頭からの一部の文字であることを特徴とする請求項1または2に記載の文字習得知育用具。
【請求項4】
前記文字は、異なる複数の言語による文字列が併記された文字を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の文字習得知育用具。
【請求項5】
前記予め定める物の形状は、前記文字が表す物体の一部の形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の文字習得知育用具。
【請求項6】
黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分の位置を示す表示をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の文字習得知育用具。
【請求項7】
黄血塩水溶液を塗布し乾燥させた部分に塗布されるための、塩化第二鉄が溶解した液体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の文字習得知育用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−42311(P2009−42311A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204674(P2007−204674)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(592002950)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】