説明

断熱容器および断熱容器用断熱材の製造方法

【課題】 LLC等の液体を保温貯留する断熱容器にあって、熱損失を最小限に抑えた断熱容器及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 液体を保温貯留するための断熱容器用の断熱材は、ガラス長繊維をニードルパンチして作製されたガラスマット80を無機バインダーが分散された水溶液81中に含浸して、水分を乾燥することにより成形されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液体を保温貯留する断熱容器に関するものであり、特に車両用エンジンの冷却水を保温貯留する断熱容器に適用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として車両用エンジンの低燃費化が強く求められている。特に、エンジン始動直後の暖機運転時の燃費を向上させることは大きな課題となっている。
【0003】
例えば、車両用エンジン始動直後の燃費を向上させることを目的として、エンジンの予熱で温められた、車両用エンジンの冷却水(ロング・ライフ・クーラント:以下LLCと記す)を断熱容器に保温貯留し、次のエンジン始動時に保温されたLLCをエンジンに循環させてエンジンの暖機運転を促進する技術がある。
【0004】
このLLCを保温貯留する断熱容器には、エンジンの予熱で温められたLLCを次のエンジン始動時まで高温に維持する高い保温性能、更に、車両原価低減に伴う製造コストの低減が求められている。また、この断熱容器はエンジンルーム内に設置されるため、車両によって異なるエンジンルーム内の限定されたスペースに収納可能な形状が強く求められており、その要求に対して、特許文献1では樹脂製内部容器の周囲に高性能真空断熱材を形成した、断熱容器について記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−105748号公報
【特許文献2】特開2004−308691号公報
【特許文献3】特開2004−84847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、無機繊維からなる断熱材を、ガスバリア性フィルムで減圧封入した真空断熱材では、減圧封入前後の無機繊維の体積変化が大きいため、ガスバリア性フィルム表面でシワが発生し、ガスバリア性フィルムにピンホールや亀裂等の欠陥が生じる可能性が高くなる、表面積増大によって保温性能が低下する、また、意匠性も悪くなる等の問題が生じていた。
【0007】
そこで、無機繊維の体積変化を制御するために、バインダーの添加が検討されている。例えば特許文献2では、有機質バインダーを用いた断熱材の成形が記載されている。また、特許文献3には無機質バインダーを用いた断熱材の成形が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2のように有機質バインダーを用いた場合、真空封止後にバインダー成分が気化して真空度を低下(圧力上昇)して、断熱性能が劣化する可能性があるため、予めバインダーを熱処理等により、完全に除去する必要がある。これにより、断熱材は元の体積近くまで復元し、真空封止時の体積変化を制御できないという問題があった。
【0009】
一方、無機質のバインダーを使用した場合、真空封止後の揮発成分はなくなるが、無機繊維の体積変化率を制御するためには、多くのバインダーが必要で、このバインダーを添加した固体熱伝導増加分、熱伝導率が上昇する問題があった。
【0010】
また、グラスウール等の無機繊維は、繊維径が細くなると固体熱伝導の減少により、熱伝導率が低下することは周知の事実である。但し、平均繊維径が2μm以下となると製造コストが上がるため、バインダー添加の有無に関わらず、高性能が求められる真空断熱材には、平均繊維径を3〜5μmの無機繊維が用いられてきた。
【0011】
しかしながら、近年、細径無機繊維の人体への悪影響が指摘され、断熱材に使用される無機繊維の太径化の動きは世界的に拡がりを見せている。例えば、欧州委員会指令96/96/ECには、(繊維直径の荷重幾何平均)−2×(標準偏差)を6μm以上とする、と記載されており、将来的には、平均繊維径が6μm未満の無機繊維は規制の対象となる可能性がある。
【0012】
そこで、本願発明は、上記の問題点を鑑み、平均繊維径が6μm以上の太い繊維を使用して減圧封入前後の無機繊維の体積変化を低減する無機繊維の成形を行い、かつ、熱伝導率の上昇を制御した真空断熱材を使用することにより、熱損失を最小限に抑えた断熱容器及びその製造方法を提供することを目的とする。それによって、ひいては、エンジンルーム内等に設置され、低燃費化に寄与し、自動車から排出される温暖化ガスの低減につながるものである。また、内部容器に断熱材を囲繞(形成)することを容易にし、量産性に優れた断熱容器用の断熱材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成することを目的として、第1の発明では、液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入出口部を備えた内部容器と、内部容器を収容しガスバリア層を形成するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材とガス吸着材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備え、前記断熱材は、減圧封入後の体積変化を低減し、かつ、熱伝導率の上昇を制御した無機繊維製成形体であることを特徴とするものを提供する。ここで、ガスバリア層とは、気体の透過を制限する層である。JIS-K7126-1にて測定したガスバリア層を積層したラミネートフィルムの酸素透過度が1.1×10-11m3/m2・s・MPa以下であれば良く、1.1×10-12m3/m2・s・MPa以下であれば好ましい。また、断熱空間は断熱性を向上させるために大気圧より低い圧力(減圧状態)に制御されており、0.01〜100Paであればよく、好ましくは0.1〜10Paである。
第2の発明は、前記断熱材が、ガラス長繊維を伝熱方向に対して垂直方向に圧縮状態で配向し、無機バインダーによって保形されていることを特徴とする同断熱容器を提供する。ここで、ガラス長繊維とはSiO2,Al2O3,にCaO,MgO等のアルカリ土類金属酸化物やK2O,Na2O等のアルカリ金属酸化物を加えたものを原料としている。高温で溶解した原料を、細孔の空いたポットの底から高速で紡出して冷却後巻き取って作られており、直径45μm以上の同一組成の未繊維化物を含まない繊維である。
第3の発明は、前記ガラス長繊維の圧縮状態がニードルパンチによって形成されたものであることを特徴とする同断熱容器を提供する。
第4の発明は、ガラス長繊維の平均繊維径が6〜20μmであることを特徴とする同断熱容器を提供する。
第5の発明は、ガラス長繊維のロービング/ヤーン配合重量比が50/50〜0/100であることを特徴とする同断熱容器を提供する。ここで、ロービングとはファイバー(単繊維で少なくとも直径の100倍の長さを有する)を撚らずに集合させた粗糸を意味し、ヤーンとは一本以上のストランド(縒りのない単繊維の束)を撚り合わせた加工糸を意味する。
第6の発明は、無機バインダーが粘土、水ガラス、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾルから選ばれることを特徴とする同断熱容器を提供する。
第7の発明は、液体を保温貯留するために、液体の流入出口部を備えた樹脂製の内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材とガス吸着材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備えた断熱容器用の断熱材の製造方法であって、前記断熱材が、ガラス長繊維をニードルパンチして作製されたガラスマットを無機バインダーが分散された水溶液中に含浸して、水分を乾燥することにより成形されたことを特徴とする断熱容器用断熱材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)密度の高いニードルパンチしたガラスマットを使用することにより、バインダー添加量を最小限に抑えることができ、バインダー添加による断熱材の熱伝導率上昇を制御することができる。
(2)断熱材を成形し、真空封止時の体積変化率を小さくすることにより、真空封止時のガスバリア性外装材にシワの発生を低減する。これにより、シワに起因して発生する、ピンホール、亀裂等の欠陥を抑えることができる。
(3)平均繊維径が6μm以上の太い無機繊維と断熱性能の両立が可能で、人体の悪影響を軽減した真空断熱材を提供することができる。
(4)断熱材が平板、L字型、コ字型、U字型・凹字型・凸字型等に成形された成形体を組み合わせてなるため、立体形状の周囲に断熱材を形成することが容易で、量産性に優れた真空断熱材用の断熱材を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本願発明にかかる断熱容器の縦断面図である。
液体を保温貯留する断熱容器10は、液体の流入出口部21,21を備えた樹脂製内部容器20と、その内部容器20を収容し、その周囲にガスバリア層を形成する外装材50を備える。そして、この内部容器20と外装材50の間に断熱材41とガス吸着材42を封入し減圧状態とした断熱空間40を備える。なお、断熱容器10は、図1に示すように、内部容器20の周囲にガスバリア層を形成する内装材30を備え、この内装材30と外装材50の間に断熱空間40を備えるようにしてもよい。また、流入出口部21,21にあっては、外装材50や内装材30を接合するためのフランジ部材60,60を環装している。
【0016】
上記構造における断熱材41について、製造方法を含めて説明する。
無機繊維として、ガラス長繊維をニードルパンチして作製されたガラスマットを使用する。このガラスマットの製造法としては様々な方法があるが、気流を用いてガラス長繊維を堆積させ、更にニードルパンチによるマット化する工法が好適である。この工法で繊維長さが30mm以上のガラス長繊維を用いて作製されたガラスマットは、繊維の長さ方向に破壊される(短くなる)ことなく、伝熱方向(断熱材の厚み方向)に対して垂直方向の繊維配向性が得られるため、真空断熱材を作製した際良好な断熱性能が得られる。
【0017】
前記、ガラス長繊維の平均繊維径は、本願発明の課題を鑑みて6μm〜20μmが望ましいが、繊維径が太く、最も一般的で安価なヤーンが6〜9μm、ロービングが10〜13μmとするのが好適で実用化しやすい。また、この長繊維はロービングとヤーンの混合であり、混合比に関して製造のし易さという観点から検討を行った結果、ロービング/ヤーン比が50/50〜0/100(重量比)であればよく、好ましくは20/80〜40/60(重量比)、さらに好ましくは30/70(重量比)である。
【0018】
ガラスマットの密度、厚みは、堆積させる目付量(単位面積あたりの重量)、ニードルパンチの針本数(単位面積あたりの打抜き本数)で調整することができる。ニードルパンチの針本数は5〜40本/cm2であれば良く、好ましくは15〜35本/cm2である。厚みに関しては、真空断熱材の必要厚みによるため、特に規定するものではない。密度は50〜160Kg/m3の範囲で製造できるが、好ましくは90〜160Kg/m3である。ガラスマットの密度が高いほど、バインダーの添加量が少量でも、真空封止時の体積変化率の制御効果が得られるためである。
【0019】
ガラス長繊維はファイバー、ストランドを保護するために、サイジング処理がなされている。サイジング材は一般的にウレタン、エポキシ、ポリビニルアルコール、デンプン、植物油等の有機質材料が用いられている。サイジング材が真空封止後に気化して真空断熱材の真空度を低下させる(圧力上昇)可能性があるため、ガラスマット製造後にこれを除去する必要がある。サイジング材除去は熱処理を行えばよく、300〜700℃で20〜180分程度でよいが、400〜600℃で30〜90分が望ましい。
【0020】
次に、上記ガラスマットの成形について説明する。水中に無機バインダーを分散させてガラスマットを含浸する。この時無機バインダーとしては、粘土、水ガラス、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等から選択するが、水分除去時の温度である100〜250℃で結合力を発揮し、また、熱伝導率への影響、真空封止後の体積変化率の観点から検討した結果、層状粘土鉱物が最も優れており、中でもベントナイトが好適である。無機バインダーとしてベントナイトを使用した場合、水溶液を作製するが、ベントナイトの水に対する添加量は0.5〜3.0wt%が良く、好ましくは0.5〜1.5wt%、換言すれば、ガラス繊維100質量部に対して2〜15質量部であればよく、好ましくは2〜8質量部である。
【0021】
上記ベントナイト水溶液にガラスマットを含浸させ、所定の形状に成形し、乾燥させる。乾燥温度は水の沸点である100℃以上であれば良く、好ましくは200℃以上である。乾燥後、端部の切断加工、孔開け加工等を施し、断熱容器の断熱材とする。
【0022】
この断熱材を、ガスバリア層を形成する外装材50(又は内装材30及び外装材50)を用いて接合封止するが、この外装材50(又は内装材30及び外装材50)は液体流入出口21,21に環装したフランジ部材60,60を介して接合する。フランジ部材60は、中心に流入出口部用貫通孔61を備えるとともに、大径状の上端部62と下端部64を備えた円筒形部材であり、上端部62の上面は上部フランジ面63を、下端部64の下面は下部フランジ面65を形成する(図2及び図3)。フランジ部材60の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱溶着が容易にできるものから選ばれ、気体の透過性能の低いエチレンビニルアルコールが好適である。
【0023】
外装材50(又は内装材30及び外装材50)はガスバリア層が形成されており、上述した気体透過度を満たしていれば、材質、構造、形態に特に制限はないが、シート状のものが好適に使用できる。こういった内装材および外装材の一例として、「保護層/ガスバリア層/接着層」からなる多層構造のラミネートフィルムが挙げられる。こういったラミネートフィルムの厚さは、45〜120μmであればよく、好ましくは60〜100μmである。
【0024】
接着層を形成する材質は内部容器との接合が可能であれば特に制限はないが、本願発明においては気体透過率が低いものが望ましい。具体的には、フランジ部材60の材質がポリエチレンの場合、接着層はポリエチレンであればよいし、ポリプロピレンの場合、接着層はポリプロピレンであればよいし、エチレンビニルアルコールまたは金属の場合、接着層はエチレンビニルアルコールとすることが望ましい。接着層の厚さは10〜70μmであればよく、好ましくは30〜50μmである。
【0025】
ガスバリア層は気体の透過を制限することが可能であれば、その材質に特に制限はないが、例えばステンレス箔やアルミニウム箔といった金属箔が挙げられるが、低い気体透過率と安価で実用性の高いアルミニウム箔が好適に利用できる。ガスバリア層の厚さは5〜30μmであればよく、好ましくは6〜15μmである。
【0026】
保護層はガスバリア層を保護する層であり、例えば、アルミニウム箔にピンホール・クラック等の欠陥が形成されることを防ぎ、気体透過防止効果を確実にするものである。こういった保護層は、ポリエステル、ナイロンといった樹脂が好適に利用できる。保護層の厚さは10〜15μmあればよく、好ましくは20〜40μmである。また、保護層は必要に応じて複数層形成されてもよい。こうした構成によれば、樹脂の特性を生かした機能を付加することができる。
【0027】
また、外装材50の他に内装材30を備えた場合、内装材30は内部容器20と対向する表面側31に接着層を備えることになるが、フランジ部材60の下部フランジ面65と接合する部分にも接着層を備えることが必要になる。そこで、流入出口部21の周辺部分にあっては内装材30の表面側31を断熱空間40側に向くように貼り替える向き切替え部32を設けることとした(図4)。
なお、内装材30に向き切替え部32を設けることに限定されるものではなく、内部容器20と接する部分以外で下部フランジ面65と接合する部分にも接着層を備えるものであればよい。
【0028】
真空断熱層40の内部には、断熱材41から発生するガスあるいは接合部樹脂を透過して外気より侵入するガス等により真空断熱層の真空度が万一低下することを防止するためにガス吸着剤42を封入する。ガス吸着剤42は、水分を吸着する酸化カルシウム層、酸素及び窒素を吸着するバリウム/リチウム合金層、水素を吸着する酸化コバルト層の3層構造のものを用いる。但し、バリウム/リチウム合金層は酸素及び窒素の他に水分も吸着する性質があるため、酸化カルシウム層と酸化コバルト層との間の中間層に位置する構造として夫々の層の吸着性を効率良く活用する。
【0029】
ここで、樹脂製内部容器20の素材として対応可能な樹脂は、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリルニトリルスチレン共重合体(AS)、EEA樹脂(EEA)、エポキシ樹脂(EP)、エチレン酢酸ビニルポリマー(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、液晶ポリマー(LCP)、MBS樹脂(MBS)、メラミンホルムアルデヒド(MMF)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルポリマー(PFA)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、等から選択使用される。こういった樹脂を用いることにより、射出成形や、押出し成形により複雑形状の内部容器の成形が可能となり、生産コストを抑えることができる。
【実施例】
【0030】
次に、直方体形状でパイプ状の液体流入出口が形成された内部容器周囲に真空断熱材を形成する断熱容器を例として、本願発明に係る断熱材および断熱容器の詳細な作製方法を示すが、本願発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
まず、図5−1〜5−3において、断熱材の作製方法を示す。ガラスマットはロービング/ヤーンの配合重量比が30/70、針本数18本/cm2、密度90Kg/m3、厚み8mmを使用した。また、バインダーはクニミネ工業製のベントナイトを使用し、水に1.5wt%の濃度となるように添加して、10時間攪拌しバインダー溶液とした。
【0032】
ガラスマット80を500℃で10時間熱処理してサイジング材を除去した後、図5−1に示すように、バインダー溶液81に含浸させ、角型の芯材82に2周巻き付けた(図5−2)。これを200℃で5時間乾燥させた後、角型の芯材82を引き抜いた。図5−3に示すとおり、切断加工、孔開け加工(孔91)を行い、断熱材を構成する断面コ字型の無機繊維製成形体90とした。但し、孔開け加工を施したのは、液体の流入出口にあたる部分のみである。この時無機繊維製成形体90の厚みは14mmであった。
【0033】
ここで、ガラスマット80はニードル加工によりある程度圧縮された状態にされるが、図5−1に示されるように、角型の芯材82に巻きつける際に、テンションをかけてガラスマット80を圧縮した状態にし、さらに、そのまま、乾燥することで無機バインダーの結合力によりそのままの圧縮状態を維持できる。なお、ニードル加工のみでは、所望する圧縮率を得ることが期待できない。また、ニードル加工をせずに、テンションをかけて圧縮した状態にしたまま乾燥して無機バインダーの結合力だけで圧縮状態を維持しただけでは、製造工程におけるハンドリングが悪かったり、圧縮率低減のために多量のバインダーが必要になることが懸念される。
【0034】
断熱容器を形成する断熱材以外の部材は次に示すものを使用した。内部容器20は、内容積約3L、肉厚8mmの直方体形状のポリエチレン製容器を使用し、内部容器20の一面に外径φ18.5mm、内径φ13mm、高さ30mmの液体の流出入口部21を設けた。また、フランジ部材60は高密度ポリエチレン製で、外径φ36mm、内径φ20mm、高さ11mm、肉厚2mmとした。
内装材30及び外装材50となるラミネートフィルムは保護層となるポリエチレンテレフタラート層(12μm)/保護層となるナイロン層(15μm)/ガスバリア層となるアルミ箔(6μm)/接着層となるポリエチレン層(50μm)という多層構成のものを使用した。
ガス吸着剤(ゲッター材)42はサエス・ゲッターズ製COMBO3 GETTERを使用した。
【0035】
次に、断熱容器の作製方法について図6−1〜図6−7を用いて示す。
まず、図6−1に示すように、100×200mmのラミネートフィルム33に、液体の流出入口に合わせた円形の孔34,34を開け、接着層側にフランジ部材60を、リング状ヒーター70を用いて、熱溶着し貼り合せた。この時の熱溶着条件は、押付け圧力0.2MPa、ヒーター温度180℃、6秒間である。
そして、図6−2に示すように、上記ラミネートフィルム33を80×180mmの孔のあいたラミネートフィルム(内装材)30と接着層同士が相対するようにあわせ、周囲36を幅10mmで熱溶着して貼り合せた。
【0036】
次に、図6−3に示すように、内部容器20の液体の流入出口部21を、フランジ部材60の流入出口部用貫通孔61に差込んだ後、内装材30で内部容器20を包んで筒状に形成し、一辺を熱溶着37により貼り合せた。
そして、図6−4に示すように、両端の開放部を折り込み、棒状のヒーター71で熱溶着しパッケージングした。
【0037】
次に、図6−5に示すように、周囲を内装材30でパッケージングした内部容器20に、前述の断面コ字型の無機繊維製成形体90,90をセットした。この結果、内部容器20を囲繞する断熱材41を極めて容易に形成できる。このことは、断熱容器10の量産に大いに寄与するものである。このように、組み合わせることで内部容器20を囲繞できる形状の無機繊維製成形体であれば、図6−5に示す断面コ字型のものに限られない。例えば、平板、L字型、U字型、凹型、凸型のものなどが挙げられる。
【0038】
次に、図6−6に示すように、上記内部容器20を、液体の流入出口部21にあわせて孔を開けた、筒状のラミネートフィルム(外装材)50に挿入し、リング状ヒーター70を用いて、外装材50とフランジ部材60を熱溶着し貼り合せた。
そして、図6−7に示すように、開放部の片側を折り込み、棒状のヒーター71で熱溶着し、底部を除く3方が熱溶着されて袋状とした。さらに、120℃のオーブン中で24時間放置し断熱材90中に含まれる水分を蒸発させた。乾燥後はアルゴン雰囲気としたチャンバーに搬入し、外装材50が開放された底部より、ガス吸着剤となるゲッター材を1個(約7g)装填した後、チャンバー内を1Pa迄減圧し、外装材50の開放部を真空チャンバー内に設けたヒーター71により接合させて封止し、厚さ10mmの真空断熱層を有する断熱容器10を製作した。断熱材90の体積変化率は28%であった。
【0039】
上記実施例の断熱容器10に約100℃の温水を注ぎ約10分間放置した後廃棄し、再度約100℃の温水を断熱容器10内に注ぎ、液体の流入出口部21から熱電対を挿入して流入出口部21をゴム栓で閉じた。断熱容器10内の水温が95℃になった時点をスタートとして12時間継続して水温を測定した。その測定結果を図7に示す。
その測定結果は、12時間後の水温は79℃と優れた保温性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明によれば、液体を保温貯留する断熱容器として利用でき、特に車両用エンジンのLLCを保温貯留する断熱容器に適用するものである。その他に、電気ポットなどの保温容器あるいは液化ガスなどの保冷容器にも利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本願発明に係る断熱容器の縦断面図
【図2】フランジ部材を示す斜視図
【図3】フランジ部材を示す断面図
【図4】図1における液体流入出口周辺の部分拡大図
【図5−1】本願発明に係る断熱材の作製方法を示す説明図(その1)
【図5−2】本願発明に係る断熱材の作製方法を示す説明図(その2)
【図5−3】本願発明に係る断熱材の作製方法を示す説明図(その3)
【図6−1】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その1)
【図6−2】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その2)
【図6−3】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その3)
【図6−4】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その4)
【図6−5】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その5)
【図6−6】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その6)
【図6−7】本願発明に係る断熱容器の作製方法を示す説明図(その7)
【図7】本実施例に係る断熱容器の保温性能を示すグラフ
【符号の説明】
【0042】
10:断熱容器
20:内部容器
21:流入出口部
30:内装材(ラミネートフィルム)
31:表面側
32:向き切替え部
33:ラミネートフィルム
34:孔
35:孔
36:周囲
37,38:熱溶着部
40:断熱空間
41:断熱材(グラスウール)
42:ガス吸着剤(ゲッター剤)
50:外装材(ラミネートフィルム)
60:フランジ部材
61:流入出口部用貫通孔
62:上端部
63:上部フランジ面
64:下端部
65:下部フランジ面
70:リング状ヒーター
71:溶着封止ヒーター(棒状ヒーター)
80:ガラスマット
81:バインダー溶液
82:角型芯材(型)
90:無機繊維成形体(断熱材パーツ)
91:孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入出口部を備えた内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材とガス吸着材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備え、前記断熱材は、減圧封入後の体積変化を低減し、かつ、熱伝導率の上昇を制御した無機繊維製成形体であることを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
前記断熱材が、ガラス長繊維を伝熱方向に対して垂直方向に圧縮状態で配向し、無機バインダーによって保形されていることを特徴とする請求項1記載の断熱容器。
【請求項3】
前記ガラス長繊維の圧縮状態がニードルパンチによって形成されたものであることを特徴とする請求項2記載の断熱容器。
【請求項4】
前記ガラス長繊維の平均繊維径が6〜20μmであることを特徴とする請求項2又は3記載の断熱容器。
【請求項5】
前記ガラス長繊維のロービング/ヤーン配合重量比が50/50〜0/100であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の断熱容器。
【請求項6】
前記無機バインダーが粘土、水ガラス、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾルから選ばれることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の断熱容器。
【請求項7】
液体を保温貯留するために、液体の流入出口部を備えた樹脂製の内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材とガス吸着材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備えた断熱容器用の断熱材の製造方法であって、前記断熱材が、ガラス長繊維をニードルパンチして作製されたガラスマットを無機バインダーが分散された水溶液中に含浸して、水分を乾燥することにより成形されたことを特徴とする断熱容器用断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図6−6】
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【図6−7】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−151280(P2010−151280A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332156(P2008−332156)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】