説明

断熱容器及びその製造方法

【課題】 合成樹脂製の内部容器の表面に金属層を形成しても実用に際し、剥離することのない内部容器を備えた断熱容器を提供することにある。
【解決手段】 液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入出口部5を備えた内部容器1と、内部容器1を収容するシート状の外装材3と、内部容器1と外装材3との間に断熱材2を封入し減圧状態とした断熱空間とを備え、内部容器1が樹脂からなる内層51と、樹脂と無機フィラーとを含む外層52とからなり、外層52の表面には金属層60が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を保温貯留する断熱容器に関するものであり、特に車両用エンジンの冷却水を保温貯留する断熱容器に適用する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンの冷却水(ロング・ライフ・クーラント:以下LLCと記す)を保温貯留し、エンジン始動時に保温されたLLCをエンジンに循環させてエンジンの暖機を促進するために必要な断熱容器として、液体を貯留する内筒と、内筒を内部に収納して内筒との間に真空状態の断熱空間を形成する外筒とからなる蓄熱タンク(断熱容器)が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−104974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした断熱容器は、エンジン始動時の燃費を向上させるためにエンジンの予熱で温められたLLCを次のエンジン始動時まで高温に維持する保温性能が要求されるため、断熱性の最も高い真空断熱が採用されている。
【0005】
近年において、車両原価低減に伴う製造コストの削減が求められている。また、こうした断熱容器は、エンジンルーム内に設置されるため、車種によって設置される空間のスペースが異なるばかりではなく、スペースも限定されている。
【0006】
このような状況に対して、成形性が容易なことや、低コストといった観点から断熱容器に使用される内部容器を合成樹脂で形成することが考えられる。しかしながら、内部容器に貯留される液体が内部容器の合成樹脂の分子の間を通過して断熱空間で揮発してしまい、真空断熱の機能を損うことが懸念される。このため、内部容器の外周をガスバリア層で被覆するような構造(ガスバリア構造)が必要になる。
【0007】
こうしたガスバリア層は、合成樹脂製の内部容器の表面に、例えば、メッキ、スパッタ、溶射等の公知の手段により金属層を形成すればよいが、合成樹脂と金属メッキとの熱膨張差により、金属メッキが剥離してしまうことが懸念される。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑み、合成樹脂製の内部容器の表面に金属層を形成しても実用に際し、剥離することのない内部容器を備えた断熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入出口部を備えた内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材を封入し減圧状態とした断熱空間とを備え、内部容器が樹脂からなる内層と、樹脂と無機フィラーとを含む外層とからなり、外層の表面には金属層が形成されることを特徴とするものである。
第2の発明は、前記無機フィラーはセラミックスであって、外層の表面にはセラミックスが溶出して形成される凹部が存在することを特徴とする同断熱容器である。
第3の発明は、前記無機フィラーは金属であって、外層の表面に露出する金属フィラーと前記金属層とが結合していることを特徴とする同断熱容器である。
第4の発明は、前記内部容器の内層には、さらに補強繊維が含まれることを特徴とする同断熱容器である。
第5の発明は、液体を保温貯留する断熱容器の製造方法であって、液体の流入出口部を備え、樹脂からなる内層と、樹脂と無機フィラーとを含む外層とからなる内部容器を成形する工程と、内部容器の表面に金属層を形成する工程と、表面に金属層が形成された内部容器を断熱材で被覆する工程と、断熱材が被覆された内部容器をシート状の外装材で被覆する工程と、内部容器と外装材との間に形成される断熱空間を減圧した後に断熱空間を密閉する工程とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)内部容器が、樹脂からなる内層と、樹脂と無機フィラーとを含む外層とから構成されることにより、外層の熱膨張係数を低下させることができる。すなわち外層が内層と金属層と熱膨張係数差を緩和する緩衝材として機能することにより、金属層の剥離を防ぐことが期待される。
(2)無機フィラーとして、セラミックスを採用した場合、セラミックスを溶出させることにより、容易に表面粗化が可能であり、粗化した外層表面に密着性の高い金属層を形成することができる。または、無機フィラーとして、金属を採用した場合、内部容器の表面に露出した金属と、金属層とが結合することができ、外層表面に密着性の高い金属層を形成することができる。
(3)内部容器の内層に無機フィラーが存在しないため、内部容器に反応性の高い薬液を貯留することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の断熱容器の実施形態について説明する。図1は液体の流出入口部が仕切り部を設けて一体化された断熱容器の断面図を示したものである。また、図2は液体の流出入口部を別々の位置に設けた断熱容器の断面図を示したものである。いずれの実施例とも内部容器1の周囲を無機繊維からなる断熱材2により被覆し、シート状のラミネートフィルムからなる外装材3により断熱材2の周囲を覆い、内部容器1と外装材3の間にガス吸着剤4を封入し、さらに内部容器1と外装材3の間を減圧状態にした断熱容器を示したものである。ここで、減圧状態とは、断熱性を向上させるために大気圧より低い気圧に制御された状態をいい、0.01〜100Paであればよく、好ましくは0.1〜10Paである。
【0012】
次に、上記するような断熱容器にあって、内部容器1の液体流出入口部5における外装材3の接合構造について説明する。図2に示すAの部分を例に説明したものが、図3〜図5である。図3〜図5は、液体流出入口部5にフランジ6を設けたものである。そして、このフランジ6の上面と略同一面になるように断熱材2を被覆し、その略同一面上に外装材3を積層して、外装材3とフランジ6の上面とを接合させる。これにより、外装材3とフランジ6の接合部分の接着作業が容易となるとともに、内部容器1と外装材3の間を減圧状態に封入する場合あるいは断熱容器の取扱い時に、外装材3とフランジ6の接合部分において、外装材3を破断あるいは引き剥がすような力が加わらず、信頼性の高い真空断熱層を実現できることになる。なお、図5は、液体流出入口部5をフランジ6上面より上部を取外し可能な構造としたものである。この場合、気密性を保持するために液体流出入口用ポート9とフランジ6との間にOリング10を介在させている。
【0013】
この本発明に係る断熱容器の構造を実現するための製造手順を図6及び図7に示す。
図6は、本製造工程で使用する外装材3を示したものである。袋状の外装材3の底面3aには、内部容器1の液体流出入口部5に係合する孔3b,3bが形成されている。
そして、このような外装材3を用いて、図7(図7−1及び図7−2)に示す製造手順で断熱容器を製造する。
具体的には、内部容器1の周囲にグラスウールからなるブランケット状の断熱材2を流体の流出入口部5に設けられたフランジ6上面の位置となる厚さまで被覆する。次に、袋状のラミネートフィルムからなる外装材3を内部容器1に対して縦方向から被せて内部容器1と断熱材2を覆い、外装材3に設けた孔3bの位置と流体の流出入口部5を係合させる。次に、外装材3と流体の流出入口部5に設けたフランジ6とをリング状のヒーター15を用いて熱溶着させる。次に、内部容器1と外装材3との間にガス吸着剤4を封入して図示しない真空チャンバー内に搬入し、10Pa以下の真空雰囲気内で外装材3の開放部分を溶着封止ヒーター16によって熱溶着する。
【0014】
次に、本発明に係る断熱容器のガスバリア構造の実施形態について説明する。
本発明に係る断熱容器のガスバリア構造は、図1に示す内部容器1と断熱材2との間に形成されるガスバリア層の構造である。当該構造を符号20の部分を例に説明する。
【0015】
図8は、図1に示す符号20の部分拡大図である。
図8に示すように、断熱容器のガスバリア構造は、樹脂製の内部容器1の外周に、樹脂単体の内層51及び無機フィラー53を含む樹脂の外層52を備えた2層からなる樹脂層50と、前記樹脂層50に金属メッキ層60を積層させた構造となっている。なお、外層52の無機フィラーの例としては、セラミックス又は金属などが挙げられる。
【0016】
図9は、図8に示す符号21の部分拡大図である。
図9左図は、外層52に無機フィラーとしてセラミックスフィラー53を含んだもの、図9右図は、外層52に無機フィラーとして金属フィラー55を含んだものである。
まず、図9左図から説明する。外層52はメッキ処理する前に表面のセラミックスフィラー53を溶出して凹部54,54,54,…を形成し表面粗化している。このため、このような樹脂層50に対してメッキ処理を行うと、金属メッキが樹脂層50の表面凹部54にも入り込み、樹脂層50表面に密着性の高い金属メッキ層60を形成することができるのである。
次に、図9右図について説明する。外層52は表面に金属フィラー55を表出している。この状態で樹脂層50に対してメッキ処理を行うと、金属メッキが表出している金属フィラー55と金属結合し、樹脂層50表面に密着性の高い金属メッキ層60を形成することができるのである。
【0017】
また、この他に、樹脂層50を樹脂単体の内層51とフィラー(セラミックスフィラー又は金属フィラー)を含む樹脂の外層52を備えた2層構造とすることで、樹脂層の熱膨張係数を低下させることができる。すなわち、単なる樹脂層(内部容器1)と金属メッキ層60の積層であると、熱膨張係数が異なるために熱膨張時の剥離の危険性が高くなる。しかし、フィラーを含んだ樹脂層50を介在させることで、樹脂と金属メッキの熱膨張係数差を緩和する緩衝材として機能し、金属メッキの密着性を向上させることになる。
【0018】
内層51には樹脂のほかに、ガラス繊維などの補強繊維が添加されてもよい。こうした補強繊維によれば、内部容器1の強度が増加するので、肉厚を薄くすることができ、材料費を低減できるほか、軽量化にも寄与する。こういった補強繊維の添加量は、樹脂100質量部に対して、0〜45質量部、好ましくは10〜40質量部であればよい。
【0019】
さらには、樹脂層50の内層51にセラミックスフィラー又は金属フィラーがないため、内部容器1に反応性の高い薬液を貯留することができる。すなわち、内層51にセラミックスフィラー又は金属フィラーを含む場合、内部容器1の樹脂の分子の間を通過して、内部容器1の液体とフィラーとが化学反応してしまう可能性がある。
【0020】
図10は、図9左図におけるメッキ処理方法を示した説明図である。
まず、外層52は表面にもセラミックスフィラー53を表出するようコンパウンドされる(A)。次に、表面のセラミックスフィラー53を溶出して凹部54,54,54,…を形成し表面粗化する(B)。そして、このような表面粗化した樹脂層50に対してメッキ処理を行う(金属メッキ層60を積層する)。
【0021】
ここで、樹脂製内部容器1の内層51および外層52として使用できる樹脂は、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリルニトリルスチレン共重合体(AS)、EEA樹脂(EEA)、エポキシ樹脂(EP)、エチレン酢酸ビニルポリマー(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、液晶ポリマー(LCP)、MBS樹脂(MBS)、メラミンホルムアルデヒド(MMF)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルポリマー(PFA)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリサルホン樹脂(PSU)、ポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、等から選択使用される。こういった樹脂を用いることにより、射出成形や、押出成形により複雑形状の内部容器の成形が可能となり、生産コストを抑えることができる。
【0022】
外層52に添加する無機フィラーとしてのセラミックス53としては、酸化物では、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マンガン、磁鉄鉱、赤鉄鉱、針鉄鉱、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、二酸化ケイ素等が、炭酸塩では、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸マンガン、炭酸鉄、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸アルミニウム、炭酸アンモニウム等が、リン酸塩では、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸バリウム、リン酸ナトリウム、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム等が、ケイ酸塩では、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸鉄、ケイ酸マンガン等が、塩化物では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化マンガン、塩化コバルト等が挙げられる。このようなセラミックスフィラーの添加量としては、樹脂100質量部に対して、5〜30質量部、好ましくは10〜25質量部である。
外層52に添加する無機フィラーとしての金属フィラー55としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、銀、等が挙げられ、形状は球状のみならず針状、フレーク状が使用できる。このような金属フィラーの添加量としては、樹脂100質量部に対して、5〜25質量部、好ましくは10〜20質量部である。
【0023】
また、本発明において、内部容器1を樹脂製としたため、気体の透過を防止するため内部容器1の表面に金属メッキ層からなるガスバリア層を設けることにより、内部容器1と外装材3間に形成された真空断熱空間の真空度を長時間維持することが可能となる。こうしたメッキは公知のものが使用できるが、例えば、無電解ニッケルに電解銅を積層したものが好適に利用できる。こういったガスバリア層の厚さは、5〜30μmであればよく、好ましくは6〜15μmである。ここで、ガスバリア層とは、気体の透過を制限する層である。JIS −K7126−1にて測定したガスバリア層を積層したラミネートフィルムの酸素透過度が1.1×10−11m3/m・s・MPa以下であればよく、1.1×10−12m3/m・s・MPa以下であれば好ましい。
【0024】
外装材3であるラミネートフィルムの断面構造の一例を図11に示す。本発明において、外装材3は、ガスバリア層が形成されており、上述した気体透過度を満たしていれば、材質、構造、形態に特に制限はないが、シート状のものが好適に使用できる。こういった外装材5の一例として、「保護層11/保護層(基材層)12/ガスバリア層13/接着層14」からなる多層構造のラミネートフィルムが挙げられる。こういったラミネートフィルムの厚さは、45〜120μmであればよく、好ましくは60〜100μmである。
接着層は、フランジ6、接着層同士との接合が可能であれば、その材質には特に制限はないが、本発明においては気体透過率が低いものが好ましい。具体的には、フランジ6の材質がポリエチレンであれば、接着層はポリエチレンであればよいし、フランジ6がポリプロピレンであれば、接着層はポリプロピレン、エチレンビニルアルコールであればよいし、フランジ6が金属であれば、接着層はエチレンビニルアルコールとすることが望ましい。接着層の厚さは、10〜70μmであればよく、好ましくは30〜50μmである。
ガスバリア層は、気体の透過を制限することが可能であれば、その材質に特に制限はないが、例えば、ステンレス箔やアルミニウム箔といった金属箔が挙げられるが、低い気体透過率と比較的熱伝導率が低いアルミニウム箔が好適に利用できる。ガスバリア層の厚さは、5〜30μmであればよく、好ましくは6〜15μmである。
保護層は、ガスバリア層の保護する層であり、例えば、アルミ箔にピンホール・クラック等が形成されることを防ぎ、気体透過防止効果を確実にするものである。こういった保護層は、ポリエステル、ナイロンといった樹脂が好適に利用できる。保護層の厚さは、10〜50μmであればよく、好ましくは20〜40μmである。また、保護層は必要に応じて複数層形成されてもよい。こうした構成によれば、樹脂の特性を生かした機能を付加することができる。
【0025】
内部容器1を内包する断熱材2は、断熱材として公知のものが利用でき、例えば、ポリスチレンフォームといった有機質多孔質体、ケイ酸カルシウムやシリカ、アルミナといったセラミックス粉末を含む成形体、グラスウール、ロックウール、セラミックファイバーからなる無機繊維質断熱材が挙げられるが、特に平均繊維径が5μm以下で、高温雰囲気で吸着水分を除去したグラスウールが望ましい。こうした断熱材は単体で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、真空断熱層の内部には、断熱材2から発生するガスあるいは外装材3と内部容器1との接合部分の樹脂を透過して外気より侵入するガス等により真空断熱層の真空度が低下することを防止するためにガス吸着剤4を封入してもよい。ガス吸着剤4は、水分を吸着する酸化カルシウム層、酸素及び窒素を吸着するバリウム/リチウム合金層、水素を吸着する酸化コバルト層を有する3層構造のものを用いる。但し、バリウム/リチウム合金層は酸素及び窒素の他に水分も吸着する性質がある。このため、バリウム/リチウム合金層が酸化カルシウム層と酸化コバルト層との間の中間層である構造とすることにより、夫々の層の吸着性を効率良く活用することができる。
【0026】
内部容器1の表面に巻き付けるグラスウールの量は、断熱容器に求められる断熱性能から決定される。例えば、0.25g/cm2の巻き付け量で厚さ10mmの真空断熱層と、0.13g/cm2で厚さ5mmの真空断熱層と、0.38g/cm2で厚さ15mmの真空断熱層を備えた断熱容器に、それぞれ95℃の水を入れて12時間後の水温を測定すると、5mm厚の場合では約70℃、10mm厚の場合では約78℃、15mm厚の場合では約82℃の結果となった。
【0027】
図12は、本発明に係る断熱容器のその他の実施形態を示す説明図である。
本実施形態においては、図5に示す液体流出入口部5の上部を取外し可能な液体流出入口用ポート9を用いる。まず、内部容器1から液体流出入口用ポート9を取り外した状態で、内部容器1の周囲にグラスウールからなるブランケット状の断熱材2を流体の流出入口部5に設けられたフランジ6上面の位置となる厚さまで被覆する。次に、袋状のラミネートフィルムからなる外装材3を内部容器1に対して横方向から被せて内部容器1と断熱材2を覆う。
【0028】
次いで、外装材3に設けた孔の位置と流体の流出入口部5を係合させ、外装材3と流体の流出入口部5に設けたフランジ6とをリング状のヒーター15を用いて熱溶着させる。次に、内部容器1と外装材3との間にガス吸着剤4を封入して図示しない真空チャンバー内に搬入し、10Pa以下の真空雰囲気内で外装材3の開放部分を溶着封止ヒーター16によって熱溶着する。その後、真空チャンバーから取り出された内部容器1の流体流出入口部5にOリング10を介在させて液体流出入口用ポート9を取り付ける。このようにすれば、袋状の外装材3の形状に関わらず断熱材2を被覆した内部容器1を外装材3に容易に挿入することができる。
【0029】
[実施例]
押出成形機にて、補強材として45重量部のガラス繊維を含んだポリフタルアミド樹脂からなる肉厚4mmの内層と、ポリフタルアミド樹脂と無機フィラーとしてのケイ酸カルシウムとからなる肉厚4mmの外層との積層体を成形した。なお、外層において、ポリフタルアミド樹脂100重量部に対してケイ酸カルシウムを20質量部とした。次いで、得られた積層体の外層を濃硫酸と無水クロム酸の混合溶液で処理し、外層表面に露出するケイ酸カルシウムを溶出させて表面粗化した。粗化された表面に、無電解ニッケルメッキ層、更に電解銅メッキ層を形成して厚さ30μmのガスバリア層を形成してサンプルを作製した。
【0030】
[比較例]
押出成形機にて、補強材として45重量部のガラス繊維を含んだポリフタルアミド樹脂からなる肉厚8mmの成形体を成形した。得られた成形体の表面に、無電解ニッケルメッキ層、更に電解銅メッキ層を形成して厚さ30μmのガスバリア層を形成してサンプルを作製した。
【0031】
以下のような方法で、実施例および比較例のメッキ剥離強さを測定した。
得られたサンプルから、幅10mm、長さ40mm、厚さ8mmの試験片を切り出し、メッキ面の先端と厚さ100μmのステンレス箔をはんだ溶接して引張シロを作製した。ステンレス箔を引張ながらメッキ面を試験片の先端から10mm剥がした。図13に示すように、治具に配置された並列した円柱の隙間から引張シロを通じてステンレス箔の先端をロードセルに固定し、引張速度50mm/minにてメッキ面に対して垂直に引っ張った。荷重安定地点から10mm移動した時点での荷重をメッキ剥離強さとした。その結果を表1に示す。比較例では試験片をステンレス箔のはんだ溶接や図13に示す冶具にセットする際に剥離が進行し、剥離強さを測定できなかった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、液体を保温貯留する断熱容器の内部容器のガスバリア層として利用でき、特に車両用エンジンのLLCを保温貯留する断熱容器に適用するものである。その他に、電気ポットなどの保温容器あるいは液体ガスなどの保冷容器にも利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る断熱容器例を示す断面図
【図2】本発明に係るその他の断熱容器例を示す断面図
【図3】本発明に係る断熱容器A部断面詳細図
【図4】本発明に係るその他の断熱容器A部断面詳細図
【図5】本発明に係るその他の断熱容器A部断面詳細図
【図6】本発明に使用する外装材を示す説明図
【図7−1】本発明に係る断熱容器の製造法説明図(その1)
【図7−2】本発明に係る断熱容器の製造法説明図(その2)
【図8】図1における符号20の部分拡大図(ガスバリア構造を示す部分拡大図1)。
【図9】図8における符号21の部分拡大図(ガスバリア構造を示す部分拡大図2)。
【図10】図9左図におけるメッキ処理方法を示した説明図。
【図11】ラミネートフィルム断面詳細図
【図12−1】本発明に係る断熱容器のその他の実施形態(その1)
【図12−2】本発明に係る断熱容器のその他の実施形態(その2)
【図13】メッキ剥離強さを測定するための測定方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0034】
1:内部容器
2:繊維質断熱材(グラスウール)
3:外装材(ラミネートフィルム)
3a:底面
3b:孔
4:吸着剤
5:液体の流出入口部
6:フランジ
9:液体の流出入口ポート
10:Oリング
11:保護層(または基材層)
12:基材層(または保護層)
13:ガスバリア層
14:接着層
15:フランジ部接合用リング状ヒーター
16:溶着封止ヒーター
20:拡大部分
21:拡大部分
50:樹脂層
51:内層
52:外層
53:セラミックスフィラー
54:凹部
55:金属フィラー
60:金属メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入出口部を備えた内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材を封入し減圧状態とした断熱空間とを備え、内部容器が樹脂からなる内層と、樹脂と無機フィラーとを含む外層とからなり、外層の表面には金属層が形成されることを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
請求項1に記載の断熱容器において、前記無機フィラーはセラミックスであって、外層の表面にはセラミックスが溶出して形成される凹部が存在することを特徴とする断熱容器。
【請求項3】
請求項1に記載の断熱容器において、前記無機フィラーは金属であって、外層の表面に露出する金属フィラーと前記金属層とが結合していることを特徴とする断熱容器。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の断熱容器において、前記内部容器の内層には、さらに補強繊維が含まれることを特徴とする断熱容器。
【請求項5】
液体を保温貯留する断熱容器の製造方法であって、
液体の流入出口部を備え、樹脂からなる内層と、樹脂と無機フィラーとを含む外層とからなる内部容器を成形する工程と、内部容器の表面に金属層を形成する工程と、表面に金属層が形成された内部容器を断熱材で被覆する工程と、断熱材が被覆された内部容器をシート状の外装材で被覆する工程と、内部容器と外装材との間に形成される断熱空間を減圧した後に断熱空間を密閉する工程とを備えることを特徴とする断熱容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−241992(P2009−241992A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94409(P2008−94409)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】