説明

断熱庫、航海データ記録ユニット及び航海データ記録装置

【課題】高温に耐えることができる断熱庫であって、外形の寸法に対する内部容積が大きい構成を提供する。
【解決手段】データ記録ユニット(断熱庫)は、多孔性断熱材と、シート状断熱材52と、を備える。多孔性断熱材は、加熱によって収縮する性質を有しており、収納空間の外側に配置される。シート状断熱材52は、加熱によって膨張する性質を有しており、多孔性断熱材を熱から保護するように配置される。そして、シート状断熱材52は、膨張することによって、多孔性断熱材の収縮により生じた隙間を埋める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、断熱庫に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙類、フィルム類、及び電子機器等の耐熱温度の低い物を、火災等による熱から保護するための断熱庫(収納庫)が知られている。特許文献1は、この種の収納庫を開示する。
【0003】
特許文献1は、不燃液を含浸させた壁材からなる一次庫と、断熱材からなる二次庫と、で構成された耐火収納庫を開示する。また、特許文献1の構成において、一次庫と二次庫との間には、断熱性及び耐湿性を有する部材が配置されている。この構成により、この耐火収納庫は、耐火性、断熱性、及び耐湿性を有しており、内容物を熱等から効果的に保護できる。
【0004】
特許文献1では、一次庫に用いる材料の具体例として、鉄板の間にケイカル板等の吸水性耐火板を挟み込んだ構成等が挙げられている。また、二次庫に用いる材料の具体例として、桐パーテェクル板、フッ素樹脂、及びシリコン樹脂等が挙げられている。また、一次庫と二次庫との間に配置される材料の具体例として、グラスファイバー、コルク、及びシリコン樹脂等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−214932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で開示されている部材では、より過酷な温度条件の下で内容物を十分に保護するためには、壁材を厚くする必要がある。この場合、耐火収納庫の外形の寸法に対して内部容積が小さくなってしまう。
【0007】
ところで、断熱材の一種として、多孔性(微孔性)構造を有する断熱材が知られている。この多孔性断熱材は、断熱性能が極めて高いが、高温状態(物質及び条件によって異なるが1000℃前後)になると、収縮を起こすことが知られている。このような収縮が起こると、多孔性断熱材の接続部分等に隙間が生じるため、断熱性能が低下してしまう。そのため、上記特許文献1の構成にこの多孔性断熱材を単純に用いるだけでは、高温状態に適用可能であって外形の寸法に対する内部容積を大きくするという機能を発揮させることができない。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、高温に耐えることができる断熱庫であって、外形の寸法に対する内部容積が大きい構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の断熱庫が提供される。即ち、この断熱庫は、第1断熱材と、第2断熱材と、を備える。前記第1断熱材は、収納空間の外側に配置され、熱収縮性を有している。前記第2断熱材は、前記第1断熱材を熱から保護し、熱膨張性を有している。
【0010】
これにより、第1断熱材に熱が伝わって収縮が起こる前後に第2断熱材が膨張するため、第1断熱材の収縮によって生じる隙間を塞ぐことができる。従って、高温状態における第1断熱材の断熱性能の低下を防止できる。そのため、第1断熱材の厚みを大きくすることなく断熱性能を維持できるので、コンパクトな構成の断熱庫が実現できる。
【0011】
前記の断熱庫においては、前記第2断熱材が前記第1断熱材の外側に配置されることが好ましい。
【0012】
これにより、収納物を外部の熱から効果的に保護することができる。
【0013】
前記の断熱庫においては、前記収納空間を有する収納容器を備えることが好ましい。
【0014】
これにより、収納容器によって収納物を機械的に保護することができる。また、収納物の特性に応じた収納容器を用いることで、当該収納物を熱以外からも保護することができる。例えば、収納物が水分に弱い場合は、耐湿性及び耐水性の収納容器を用いることで、収納物を水分からも保護できる。
【0015】
前記の断熱庫において、前記第2断熱材は、断熱性に加え、耐火性を有していることが好ましい。
【0016】
これにより、火災が発生した場合でも、第2断熱材が燃えることなく膨張するため、第1断熱材の断熱性能の低下を防止できる。
【0017】
前記の断熱庫において、前記第1断熱材は、複数の第1断熱構成部材から構成されることが好ましい。
【0018】
即ち、複数の第1断熱構成部材によって構成された第1断熱材は、高温状態になって収縮が起こったときに第1断熱構成部材間の接続部分に隙間が生じるため、断熱性能が著しく低下する。しかし、本発明によれば、この隙間を第2断熱材によって塞ぐことができるので、断熱性能の低下を防ぐことができる。また、第1断熱材が複数の第1断熱構成部材から構成されているため、第1断熱構成部材の個数を調整する等して、第1断熱材の形状を容易に変更することができる。そのため、断熱庫の設計変更等に柔軟に対応することができる。
【0019】
前記の断熱庫において、前記第1断熱材は、多重に配置された前記第1断熱構成部材から構成されることが好ましい。
【0020】
これにより、第2断熱材側に配置された第1断熱構成部材が収縮して隙間が生じた場合においても、他側の第1断熱構成部材によって、この隙間の影響を軽減できる。従って、高温状態における第1断熱材の断熱性能の低下を効果的に防止できる。
【0021】
前記の断熱庫においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記第2断熱材が前記第1断熱材の外側に配置される。前記第1断熱構成部材には中空部が形成されており、当該中空部の少なくとも一部が前記収納空間である。
【0022】
これにより、外側の第1断熱構成部材に熱が伝わって収縮が起こると、内側の第1断熱構成部材が締め付けられる。そのため、内側の第1断熱構成部材同士が力を及ぼし合うので、内側が高温状態になっても隙間が生じにくくなる。従って、高温状態における第1断熱材の断熱性能の低下を効果的に防止できるので、収納物を熱から一層確実に保護できる。
【0023】
前記の断熱庫においては、前記第1断熱材における前記第1断熱構成部材同士の接続部分が、その内側又は外側で隣り合うように配置された第1断熱材における前記第1断熱構成部材同士の接続部分と、重ならないことが好ましい。
【0024】
即ち、第1断熱構成部材は、高温状態になると、端部(即ち、接続部分)が収縮して、断熱性能が低下する。この点、上記の構成によれば、断熱性能が低下する箇所が内側と外側とで重ならないため、断熱庫全体の断熱性能が低下することを効果的に防止できる。
【0025】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の航海データ記録ユニットが提供される。即ち、この航海データ記録ユニットは、航海データを記憶する記憶装置を備える。前記記憶装置は、前記収納空間に収納される。
【0026】
即ち、記憶装置は熱に弱い構成であることが多く、この記憶装置を火災等による熱から強固に保護する必要がある。また、船舶は配置スペースが限られているため、コンパクトな構成の航海データ記録ユニットが望まれる。従って、本発明を航海データ記録ユニットに適用すれば、断熱性能を維持しつつコンパクトな構成を実現するという前記の効果を一層有効に発揮させることができる。
【0027】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の航海データ記録装置が提供される。即ち、この航海データ記録装置は、前記の航海データ記録ユニットと、航海データ収集ユニットと、を備える。前記航海データ収集ユニットは、航海データを受信して前記航海データ記録ユニットに送信する。
【0028】
これにより、航海データを強固に保護することが可能な航海データ記録装置を提供することができる。
【0029】
本発明の第4の観点によれば、以下の構成の断熱庫が提供される。即ち、この断熱庫は、第1断熱材と、第2断熱材と、を備える。前記第1断熱材は、熱収縮性を有する。前記第2断熱材は、収納空間の外側であって、前記第1断熱材の内側に配置され、熱膨張性を有する。
【0030】
これにより、第1断熱材に熱が伝わって収縮が起こる前後に第2断熱材が膨張するため、第1断熱材の収縮によって生じる隙間を塞ぐことができる。従って、高温状態における第1断熱材の断熱性能の低下を防止できる。従って、断熱庫の内部で発生した熱から当該断熱庫の周囲を、効果的に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態の航海データ記録装置の構成を示すブロック図。
【図2】データ記録ユニットの外観斜視図。
【図3】データ記録ユニットの内部の構成を示す正面断面図。
【図4】多孔性断熱材の構成を示す斜視図。
【図5】温度上昇によって多孔性断熱材が収縮する様子を模式的に説明する図。
【図6】温度上昇後のアウターカプセル内部の様子を示す正面断面図。
【図7】外側断熱材とシート状断熱材との境界部分を拡大した断面図。
【図8】多孔性断熱材のみで断熱した場合と、多孔性断熱材及びシート状断熱材で断熱した場合と、で断熱性能を比較するグラフ。
【図9】別の実施形態に係る断熱用器の構成を概略的に示す正面断面図。
【図10】内側断熱材同士又は外側断熱材同士の接合部分の形状を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本実施形態の航海データ記録装置10の構成を示すブロック図である。
【0033】
航海データ記録装置10は、船舶の運航に関するデータ及び船内において発生した様々な事項を収集して記録することができる。そして、海難事故が発生した場合には、記録されたデータが解析され、事故の原因究明及び再発防止に用いられる。
【0034】
航海データ記録装置10は、図1に示すように、データ収集ユニット(航海データ収集ユニット)11と、データ記録ユニット(断熱庫、航海データ記録ユニット)12と、を備えている。
【0035】
データ収集ユニット11は舶用機器13と電気的に接続されており、この舶用機器13からは、航海に関する各種のデータ(航海データ)が入力されている。舶用機器13の具体例としては、船舶の位置や日時を計測するGPS装置、船速を計測する船速計、船首方位を計測する各種コンパス、船舶が航行している海上の風向及び風速を検出する風向風速計、水深を測定する測深器、ブリッジ内の音声を受信するマイクロフォン、周囲の状況を示すレーダ画像を取得するレーダ装置等を挙げることができる。
【0036】
このデータ収集ユニット11は、上記の航海データを取り込む入出力部21と、取り込んだ航海データの処理を行う信号処理部22と、を主要な構成として備えている。そして、この収集された航海データは、入出力部21からデータ記録ユニット12のデータ変換装置36へ送信されている。
【0037】
データ変換装置36は、受信した航海データを書込及び伝送に適した形式のデータに変換しており、変換したデータをメモリボード(記憶装置)64へ出力している。このメモリボード64は、記憶素子としてのメモリと、このメモリが設置される基板と、を備えている。
【0038】
メモリは、所定時間(例えば13時間)分の航海データを記憶可能であり、その所定時間以前のデータは、最新のデータで随時上書きされる。そして、海難事故等が起きたと判断した場合は、上書きは停止され、海難事故直前の航海データを保持し続ける。なお、このメモリは、海難事故による火災及び水没等にも耐え得るように保護されており、事故後においても回収して航海データの解析を行うことができる。
【0039】
次に、図2から図4までを参照して、データ記録ユニット12の詳細な構成について説明する。図2は、データ記録ユニット12の外観斜視図である。図3はデータ記録ユニット12の内部の構成を示す正面断面図である。図4は、多孔性断熱材51の構成を示す斜視図である。
【0040】
データ記録ユニット12は、図2に示すように、土台34と、ビーコン32と、アウターカプセル30と、から構成されている。
【0041】
土台34は、アウターカプセル30を船舶に固定するためのものであり、アウターカプセル30の下部に接続されている。土台34は矩形状に構成されており、その4箇所の角部には、取付孔35が形成されている。この取付孔35に適宜の取付具を用いることで、アウターカプセル30を船舶に固定することができる。
【0042】
ビーコン32は、音波を放出可能に構成されており、アウターカプセル30の側面部に取り付けられている。海難事故後にデータ記録ユニット12が見つからないときは、この音波に基づいて探し出すことができる。
【0043】
アウターカプセル30は、データ記録ユニット12の主要部品を内部に備えた構成であり、特に、メモリを保護するためのものである。このアウターカプセル30は、略円柱形状であり、側面部にはデータ収集ユニット11から航海データを受信可能な丸状ケーブル31が取り付けられている。データ記録ユニット12は、アウターカプセル30に接続された前記丸状ケーブル31を介して、データ収集ユニット11が送信した航海データを受信するようになっている。
【0044】
図3に示すように、この丸状ケーブル31は前記データ変換装置36に接続されている。そして、データ変換装置36は、アウターカプセル30の内部であってその上部に配置されている。このように、データ変換装置36はメモリを熱から保護する断熱材(詳しくは後述)の外部に配置されているため、データ変換装置36による動作熱によってメモリ近傍の温度が上昇することを防止できる。また、データ変換装置36が変換したデータは、伝送ケーブル40を通じてアウターカプセル30の中央部へ出力されている。
【0045】
アウターカプセル30の中央部には、内部から順に、インナーカプセル(収納容器)44と、保持カプセル45と、多孔性断熱材(第1断熱材)51と、シート状断熱材(第2断熱材)52と、が配置されている。
【0046】
インナーカプセル44は、厚手の金属系材料で構成された容器であり、ボルトによって蓋部と本体部とが固定されている。この蓋部の外面にはコネクタ装置65が配置されており、このコネクタ装置65は、伝送ケーブル40によってデータ変換装置36と電気的に接続されている。また、コネクタ装置65は、図略のケーブルを通じて、インナーカプセル44内(収容空間)に配置されたメモリボード64と接続されている。この構成により、航海データをメモリボード64のメモリに記憶させることができる。
【0047】
また、インナーカプセル44は防水性を有する容器として構成されており、蓋部と本体部との間や、コネクタ装置65とメモリボード64との間から、インナーカプセル44内に浸水することがない。そのため、海難事故によって海に投げ出された場合においても、メモリボード64を水から保護することができる。
【0048】
このインナーカプセル44の外側には、保持カプセル45が配置されている。また、インナーカプセル44と保持カプセル45との間には、ゴム等の断熱材で構成された保持部材が配置されている。この保持部材は、保持カプセル45の熱がインナーカプセル44に伝わらないように、インナーカプセル44を保持カプセル45から浮かせて固定している。この保持カプセル45の外側には、多孔性断熱材51が配置されている。
【0049】
多孔性断熱材51は、非常に小さな孔(微孔)が多数形成された構造の断熱材である。多孔性断熱材51は、高い断熱性能を有する反面、一定以上の温度(収縮開始温度)になると収縮が発生する。その収縮率は、物質及び条件によって異なるが、1000℃前後に500時間放置の場合、例えば約10%程度の収縮となる。また、多孔性断熱材51は、図3及び図4に示すように、保持カプセル45の外周面に接するように配置された内側断熱材(第1断熱構成部材)71と、内側断熱材71の外周面に接するように配置された外側断熱材(第1断熱構成部材)72と、を備えた2重構造の断熱材として構成されている。
【0050】
なお、第1断熱構成部材とは、多孔性断熱材51を構成する断熱材を示しており、内側断熱材71及び外側断熱材72に加え、内側断熱材71を構成する各部材及び外側断熱材72を構成する各部材についても、第1断熱構成部材であると言うことができる。
【0051】
内側断熱材71は、図4に示すように、上下方向に並べて配置された環状部材(リング状部材)と、上端の環状部材の内側に配置された円板状部材と、下端の環状部材の内側に配置された円板状部材と、で構成されている。
【0052】
外側断熱材72は、上下方向に並べて配置された環状部材と、上端の環状部材の内側に配置された円板状部材と、下端の環状部材の内側に配置された円板状部材と、で構成されている。このように、内側断熱材71及び外側断熱材72は、中空の円柱状に構成されており、この中空部(内側断熱材71の内側)にインナーカプセル44及び保持カプセル45が配置されている。
【0053】
多孔性断熱材51は、以上のように構成されており、外側断熱材72の外側には、シート状断熱材52が配置されている。
【0054】
シート状断熱材52は、外側断熱材72の表面を覆うように配置されたシート状の耐火性断熱材である。本実施形態では、一枚の長方形のシート状断熱材52によって、外側断熱材72の側面を覆い、2枚の円形のシート状断熱材52によって外側断熱材72の上部及び下部を覆っている。
【0055】
シート状断熱材52は、熱可塑性樹脂、ゴム、及びエポキシ樹脂等の有機材料と、中和処理された黒鉛等の層状無機物を含んだ無機充填剤と、から構成されている。この構成により、シート状断熱材52は、耐火性及び断熱性を有し、所定の温度(膨張開始温度)以上になると膨張する。その膨張率は、物質及び条件によって異なるが、例えば数倍〜数十倍(3〜50倍)である。また、膨張率及び膨張する方向は、材料の配合や層状無機物の配置等によって適宜調整することができ、本実施形態ではシート状断熱材52の厚み方向に膨張するように構成されている。
【0056】
なお、シート状断熱材52は、断熱性と、高温状態で膨張する性質と、を備えていれば上記の構成に限られず、適宜の物質を用いることができる。
【0057】
次に、図5から図8までを参照して、本実施形態のデータ記録ユニット12を加熱したときに多孔性断熱材51及びシート状断熱材52が示す挙動について説明する。図5は、温度上昇によって多孔性断熱材51が収縮する様子を模式的に説明する図である。図6は、温度上昇後のアウターカプセル30内部の様子を示す正面断面図である。図7は、外側断熱材72とシート状断熱材52との境界部分を拡大した断面図である。図8は、多孔性断熱材51のみで断熱した場合と、多孔性断熱材51及びシート状断熱材52で断熱した場合と、で断熱性能を比較するグラフである。
【0058】
初めに、シート状断熱材52を用いずに多孔性断熱材51のみが加熱されたときに、当該多孔性断熱材51が示す挙動について説明する。図5(a)及び図5(b)は、加熱前の多孔性断熱材51の断面図及び斜視図を示している。
【0059】
そして、火災が発生し、多孔性断熱材51が熱せられて外側断熱材72が収縮開始温度以上になると、図5(c)及び図5(d)に示すような形状に変形する。なお、図5(c)及び図5(d)は、加熱後の多孔性断熱材51の断面図及び斜視図を示している。
【0060】
火災が発生したときは外側から火及び熱が伝わってくるため、図5(c)及び図5(d)に示すように、多孔性断熱材51のうち外側断熱材72の外周部が最も熱せられる。そのため、外側断熱材72の外周部が最も収縮している。なお、図5では、外側断熱材72の側面における収縮量は全て同じであるが、実際には火災時の熱の伝わり方等によって収縮量に差が生じることがある。
【0061】
このように多孔性断熱材51に収縮が生じると、隣接する構成部材の接続部分(継ぎ目)に隙間が生じる。この隙間部分は熱の侵入経路となり、当該部分においては断熱材としての機能を実質的に発揮することができない。そのため、断熱性能の低下した外側断熱材72と内側断熱材71とで外部の熱を遮断しきれない場合は、インナーカプセル44内の温度がメモリの耐熱温度以上になり、メモリが破損してしまう。
【0062】
なお、加熱時間及び温度によっては、内側断熱材71にも隙間が生じることがあるが、本実施形態では、以下の理由により内側断熱材71に隙間が生じにくくなっている。即ち、外側断熱材72の構成部材のうち、環状に構成されている部材(以下、外側環状部材)は、収縮が生じると内径が小さくなる。従って、収縮した外側環状部材は内側断熱材71を強く締め付ける。そのため、内側断熱材71の構成部材に収縮が生じにくく、隙間が生じにくくなる。
【0063】
なお、1重構造(内側断熱材71が配置されない構造)の多孔性断熱材を、仮に本実施形態に適用した場合、外部からの熱が隙間部分から直接的に内部に伝わるため、インナーカプセル44が即座に高温になり、メモリが破損し易くなる。この点、本実施形態の多孔性断熱材51は、2重構造となっているため、外側断熱材72が収縮した場合においても、外部からの熱が隙間部分から直接的に内部に伝わることがなく、内側断熱材71によって断熱される。そのため、本実施形態の多孔性断熱材51は、内側断熱材71及び外側断熱材72の合計の厚みと同じ厚みの1重構造の断熱材に比べて、断熱性能が高くなっている。
【0064】
次に、シート状断熱材52で覆われた多孔性断熱材51が加熱されたときに、多孔性断熱材51及びシート状断熱材52が示す挙動について説明する。火災が発生すると、初めに、外側に配置されたシート状断熱材52が熱せられる。シート状断熱材52は、熱せられて膨張開始温度以上になると、厚み方向に膨張する。また、多孔性断熱材51も収縮開始温度以上になると、収縮を開始する。
【0065】
なお、本実施形態では、シート状断熱材52が膨張開始温度近傍になったときに外側断熱材72が収縮開始温度近傍になるように、シート状断熱材52の断熱性能及び厚みが考慮されている。
【0066】
そのため、外側断熱材72が収縮して隙間が生じた前後において、図6及び図7に示すように、その隙間を埋めるようにシート状断熱材52が膨張する。このように隙間が埋められることで、外側断熱材72の断熱性能が低下した箇所をシート状断熱材52が補うことができるため、断熱性能を維持することができる。
【0067】
図8には、多孔性断熱材51のみで断熱を行った場合のインナーカプセル44内の温度の時間変化と、本実施形態のように多孔性断熱材51及びシート状断熱材52の両方を用いて断熱を行った場合のインナーカプセル44内の温度の時間変化と、を示している。図8に示すように、多孔性断熱材51のみで断熱を行った場合では、多孔性断熱材51の収縮によって断熱性が確保できないため、温度上昇を抑制できず、インナーカプセル44内が高温になってしまう。一方、本実施形態の構成では、多孔性断熱材51が収縮してもシート状断熱材52の膨張によって断熱性能を維持できるため、図8に示すように、インナーカプセル44内の温度上昇を抑えることができる。
【0068】
以上に説明したように、本実施形態のデータ記録ユニット12は、多孔性断熱材51と、シート状断熱材52と、を備える。多孔性断熱材51は、収納空間の外側に配置される。シート状断熱材52は、多孔性断熱材51を熱から保護するように配置される。
【0069】
これにより、多孔性断熱材51に熱が伝わって収縮が起こる前後にシート状断熱材52が膨張するため、多孔性断熱材51の収縮によって生じる隙間を塞ぐことができる。従って、高温状態における多孔性断熱材51の断熱性能の低下を防止できる。そのため、多孔性断熱材51の厚みを大きくすることなく断熱性能を維持できるので、コンパクトな構成のデータ記録ユニット12が実現できる。
【0070】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12は、内部に収納空間を有するインナーカプセル44を備える。
【0071】
これにより、インナーカプセル44によってメモリを機械的に保護することができる。また、インナーカプセル44は防水構造であるため、海に投げ出された場合においてもメモリを保護できる。
【0072】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12は、シート状断熱材52が多孔性断熱材51の外側に配置される。
【0073】
これにより、メモリを火災等の外部の熱から効果的に保護することができる。
【0074】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12において、シート状断熱材52は、断熱性に加え、耐火性を有している。
【0075】
これにより、火災が発生した場合でも、シート状断熱材52が燃えることなく膨張するため、多孔性断熱材51の断熱性能の低下を防止できる。
【0076】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12において、多孔性断熱材51は、複数の第1断熱構成部材から構成される。
【0077】
これにより、複数の第1断熱構成部材間に生じる隙間をシート状断熱材52によって塞ぐことができるので、断熱性能の低下を防ぐことができる。また、多孔性断熱材51が複数の第1断熱構成部材から構成されているため、第1断熱構成部材の個数を調整する等して、多孔性断熱材51の形状を容易に変更することができる。そのため、インナーカプセル44及び保持カプセル45の形状の変化等に柔軟に対応することができる。
【0078】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12において、多孔性断熱材51は、内側断熱材71及び外側断熱材72から構成された2重構造である。
【0079】
これにより、外側断熱材72が収縮して隙間が生じた場合においても、この隙間の内側に内側断熱材71が配置されているため、高温状態における多孔性断熱材51の断熱性能の低下を防止できる。
【0080】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12において、シート状断熱材52が多孔性断熱材51の外側に配置される。第1断熱構成部材には、環状に構成された部材が含まれており、この環状の内側部分にインナーカプセル44が配置される。
【0081】
これにより、外側断熱材72に熱が伝わって収縮が起こると、内側断熱材71が締め付けられる。そのため、内側が高温状態になっても隙間が生じにくくなる。従って、高温状態における多孔性断熱材51の断熱性能が低下することを防止できる。
【0082】
また、本実施形態のデータ記録ユニット12においては、内側断熱材71における構成部材同士の接続部分が、その外側で隣り合うように配置された外側断熱材72における構成部材同士の接続部分と、重ならないように配置されている。
【0083】
これにより、断熱性能が低下する箇所が内側断熱材71と外側断熱材72とで重ならないため、データ記録ユニット12全体の断熱性能が低下することを効果的に防止できる。
【0084】
航海データ記録装置10は、データ記録ユニット12と、データ収集ユニット11と、を備える。データ収集ユニット11は、航海データを受信してデータ記録ユニット12に送信する。
【0085】
これにより、航海データを強固に保護することができる。
【0086】
次に、本発明の別の実施形態について図9を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態と同一又は類似の構成については、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0087】
別の実施形態の断熱庫12aは、内容物を熱から保護する構成の断熱庫ではなく、内容物によって発生した熱(動作熱及び異常発火による熱等)が外部に伝わらないようにする構成である。この種の断熱庫は、燃料電池のケース等に用いられる。
【0088】
断熱庫12aは、内側から順に、収納容器44aと、シート状断熱材52と、多孔性断熱材51と、を備えている。
【0089】
収納容器44aは、内容物を入れるための容器である。なお、断熱庫12aの耐火性及び断熱性を向上させるために、この収納容器44aをケイ酸カルシウム及び石膏等で構成しても良い。
【0090】
多孔性断熱材51及びシート状断熱材52は、上記実施形態で用いたものと同じ性質を有する部材であるが、配置が異なっている。即ち、本実施形態では多孔性断熱材51の外側をシート状断熱材52によって覆っていたが、これに対して、多孔性断熱材51の内側をシート状断熱材52によって覆うように構成されている。
【0091】
この構成により、収納容器44aの内容物によって、高熱の発生や発火が起きた場合においても、上記実施形態と同様の作用によって、外部にその熱が伝わることを防止できる。
【0092】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0093】
インナーカプセル44及び収納容器44aの形状は、上記で示した例に限定されず、適宜変更することができる。また、多孔性断熱材51の中空部を収納空間として用いて、インナーカプセル44等の収納容器を備えずに構成しても良い。
【0094】
多孔性断熱材51の形状は、中空の円柱形状に限られず適宜変更することができ、例えば、中空の直方体とすることができる。また、多孔性断熱材51は、2重構造に代えて、1重構造に変更したり、3重構造等の多重構造に変更したりすることができる。また、多孔性断熱材51の大部分を1重構造にして一部のみを2重構造にするというように、重ね合わせる数を位置によって異ならせる構成にしても良い。このように、多孔性断熱材51は、様々な形状にすることが考えられるが、何れにおいても本発明の効果を発揮させることができる。
【0095】
また、分割して構成された多孔性断熱材51を用いることに代えて、一体的に構成された多孔性断熱材51を用いても良い。この場合、温度上昇によって多孔性断熱材51が収縮し、多孔性断熱材51とシート状断熱材52との間に隙間が生じる。そして、その隙間を塞ぐようにシート状断熱材52が膨張するため、断熱性能の低下を防止できる。
【0096】
上記実施形態の内側断熱材71及び外側断熱材72において、積層される環状部材同士の接合部は、一直線状になっているが(図3、図10(a)を参照)、この構成に代えて、環状部材の端部に凹部又は凸部を形成し、積層される環状部材同士の接合部に段差(図10(b),(c)を参照)を持たせても良い。この場合、接合部の長さを長くすることができるので、熱収縮による断熱性能の低下を抑えることができる。
【0097】
上記実施形態では、第2断熱材としてシート状の断熱材を用いたが、第2断熱材として、厚みの大きい断熱材を用いても良い。
【0098】
上記実施形態では、断熱庫をデータ記録ユニットに適用する例を示したが、この他にも、例えば耐熱金庫、溶鉱炉の温度計測器を収納するケース等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 航海データ記録装置
11 データ収集ユニット(航海データ収集ユニット)
12 データ記録ユニット(断熱庫、航海データ記録ユニット)
44 インナーカプセル(収納部)
51 多孔性断熱材(第1断熱材)
52 シート状断熱材(第2断熱材)
64 メモリボード(記憶装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納空間の外側に配置され、熱収縮性を有する第1断熱材と、
前記第1断熱材を熱から保護し、熱膨張性を有する第2断熱材と、
を備えることを特徴とする断熱庫。
【請求項2】
請求項1に記載の断熱庫であって、
前記第2断熱材が前記第1断熱材の外側に配置されることを特徴とする断熱庫。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の断熱庫であって、
前記収納空間を有する収納容器を備えることを特徴とする断熱庫。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の断熱庫であって、
前記第2断熱材は、断熱性に加え、耐火性を有していることを特徴とする断熱庫。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の断熱庫であって、
前記第1断熱材は、複数の第1断熱構成部材から構成されることを特徴とする断熱庫。
【請求項6】
請求項5に記載の断熱庫であって、
前記第1断熱材は、多重に配置された前記第1断熱構成部材から構成されることを特徴とする断熱庫。
【請求項7】
請求項6に記載の断熱庫であって、
前記第2断熱材が前記第1断熱材の外側に配置され、
前記第1断熱構成部材には中空部が形成されており、当該中空部の少なくとも一部が前記収納空間であることを特徴とする断熱庫。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の断熱庫であって、
第1断熱材における前記第1断熱構成部材同士の接続部分が、その内側又は外側で隣り合うように配置された前記第1断熱材における前記第1断熱構成部材同士の接続部分と、重ならないことを特徴とする断熱庫。
【請求項9】
請求項2から8までの何れか一項に記載の断熱庫と、
航海データを記憶する記憶装置を備え、
前記記憶装置は、前記収納空間に収納されることを特徴とする航海データ記録ユニット。
【請求項10】
請求項9に記載の航海データ記録ユニットと、
舶用機器からの航海データを受信して前記航海データ記録ユニットに送信する航海データ収集ユニットと、
を備えることを特徴とする航海データ記録装置。
【請求項11】
熱収縮性を有する第1断熱材と、
収納空間の外側であって、前記第1断熱材の内側に配置され、熱膨張性を有する第2断熱材と、
を備えることを特徴とする断熱庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−51609(P2012−51609A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194693(P2010−194693)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】