説明

断熱性セルロース繊維

【課題】 保温性・断熱性をもち、且つ環境に優しい高弾性率セルロース繊維を提供すること。
【解決手段】格子振動の伝播を散乱させる架橋点を架橋処理によって増やし、また適正量の放射線や化学処理によって分子鎖を切断し、格子振動を抑制することで、熱伝導率を引き下げる。これら処理により、100Kにおける繊維方向の熱伝導率が25mW/cm・K以下であり、且つ繊維方向の引張弾性率が40GPa以上である断熱性セルロース繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、住居用断熱材、超電導コイル用構造材等や、強度(高弾性率)と断熱性が要求される用途に好適な断熱性セルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高弾性率繊維は、例えば、超電導コイルの巻枠、スペーサ、パソコン用放熱材等の伝熱用材料として使用されてきた。これは、繊維の熱伝導率が分子鎖の配列によって決定され、分子鎖がきれいに延びた状態で並列していると高熱伝導率となり、同時に弾性率も大きくなるからである。
【0003】
高強度高弾性率繊維としては、高強度ポリエチレン繊維や、高強度ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等が知られており、これらはいずれも高配向・高結晶性の合成繊維である。これらの合成繊維は、繊維軸方向に、金属と同程度の高い熱伝導性を有している。本願出願人は、このような高熱伝導性繊維について、既に出願している(特許文献1、2)。
【0004】
ところが、最近では、断熱性を有しつつ、かつ、高強度・高弾性率である繊維が求められている。アスベストやガラス繊維等の無機系繊維は、断熱性に優れ、弾性率も高いが、人体に悪影響を及ぼす上に、土に帰らず、生態系にいつまでも残存することから、環境に対する負荷が大きい。このため、特に住居用断熱材としては、地球環境に優しい天然繊維からなるものが好まれるという現状がある。羊毛、絹等の天然繊維は熱伝導性が小さい(断熱性がある)が、これらの繊維は大体において弾性率が低い。
【0005】
天然繊維の中で、最も弾性率の高い繊維は66GPaもの高弾性率を有するラミー(苧麻)繊維(非特許文献1)であるが、高弾性率であることは上述のように高熱伝導性につながるため、断熱性があるとは言えない。
【特許文献1】特開2004−225170号
【特許文献2】特開2004−285522号
【非特許文献1】安倍俊三、「ナノファイバー:綿繊維の構造機能と加工技術」、色染社発行、2003年4月1日、p.30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、断熱性(保温性)が必要とされるところに使用されてきた天然繊維は弾性率が低い。よって断熱性・保温性に加えて高弾性率が要求される用途には使えない。ラミー等の天然セルロース繊維には高弾性率のものがあるが、断熱または保温用途に使用するには熱伝導率が高すぎる。そこで、本発明では、地球環境に優しく、高い弾性率を保持しつつ断熱性を有するセルロース繊維を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、100Kにおける繊維方向の熱伝導率が25mW/cm・K以下であり、且つ繊維方向の引張弾性率が40GPa以上である断熱性セルロース繊維であるところに要旨を有する。250Kにおける繊維方向の熱拡散率が0.55mm/s以下であるとより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
セルロース繊維の結晶化度、結晶配向度を高く保ちつつ、熱の伝播を妨げる架橋点を付与し、分子鎖末端を増やし、その結果として格子振動の平均自由行程を下げることによって、繊維方向に高い弾性率を示し、しかも低い熱伝導性を示すセルロース繊維を作製することが可能となった。このため、高弾性率で、かつ断熱性に優れた環境に優しい住居用または超電導用断熱材を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の断熱性セルロース繊維は、100Kにおける繊維方向の熱伝導率が25mW/cm・K以下でなければならない。この熱伝導率が25mW/cm・Kを超えると、熱伝導性が高くなり、断熱性繊維としての機能を果たさなくなる。熱伝導率は、20mW/cm・K以下がより好ましい。繊維の熱伝導率の測定方法は後述する。
【0010】
また、本発明の断熱性セルロース繊維は、繊維方向の引張弾性率が40GPa以上でなければならない。断熱材としての強度確保のためである。引張弾性率は45GPa以上であることがより好ましい。引張弾性率の上限は特に限定されないが、繊維の剛直性が高くなり過ぎると、セルロース繊維としての屈曲性や弾力性が失われると共に、取り扱い性も低下するので、85GPa以下が好ましく、75GPa以下がより好ましい。
【0011】
また、下式(1)および(2)からわかるように、熱伝導率は、音速(繊維方向に音が伝わる速さ)に比例し、音速は弾性率の平方根に比例する。よって、弾性率が大きくなると、熱伝導率が大きくなって上記熱伝導率の上限(25mW/cm・K)を超えてしまうため、引張弾性率は40〜85GPa(より好ましくは45〜75GPa)とすることが好ましい。
【0012】
【数1】

【0013】
【数2】

【0014】
ここで、κ:熱伝導率、Cp:定圧比熱、ρ:比重、v:音速、l:格子振動の平均自由行程、E:引張弾性率である。
【0015】
本発明の断熱性セルロース繊維の熱拡散率は、250Kにおいて0.55mm/s以下であるのが好ましく、0.45mm/s以下であるのがより好ましい。熱拡散率が小さいほど、断熱性に優れるからである。熱拡散率の測定方法は後述する。熱拡散率は下式(3)で表され、熱伝導率と同様に繊維の音速に比例し、前記式(2)に示したように音速は弾性率の平方根に比例する。よって、熱拡散率を上記範囲にするためにも、引張弾性率は40〜85GPa(より好ましくは45〜75GPa)とすることが好ましい。
【0016】
【数3】

【0017】
ここで、λ:熱拡散率、v:音速、l:格子振動の平均自由行程である。
【0018】
本発明における断熱性セルロース繊維の結晶化度は45〜75%が好ましい。結晶化度が45%に満たない場合、結晶弾性率の繊維弾性率への寄与率が低くなり、引張弾性率が低下する。その結果、40GPa以上の弾性率を発現することが困難になる。一方、結晶化度が75%を超えると、繊維の剛直性が高くなり過ぎて、セルロース繊維としての屈曲性や弾力性が失われると共に、取り扱い性も低下するので好ましくない。断熱性セルロース繊維の結晶化度の下限は55%がより好ましく、上限は70%がより好ましい。
【0019】
本発明における断熱性セルロース繊維の結晶配向度は、80%以上であることが好ましい。結晶配向度が80%に満たない場合、分子鎖軸方向の結晶弾性率の繊維軸方向への寄与率が小さくなり、繊維方向の弾性率が低くなる。その結果、40GPa以上の弾性率を発現することが困難になる。一方、結晶配向度が98%を超えると、繊維の剛直性が高くなり過ぎて、セルロース繊維としての屈曲性や弾力性が失われると共に、取り扱い性も低下するので好ましくない。断熱性セルロース繊維の結晶配向度の下限は92%がより好ましく、上限は97%がより好ましい。
【0020】
本発明の断熱性セルロース繊維は、セルロース繊維のセルロース分子鎖の配列状態を高く保持することで高弾性率を発現させながら、その分子鎖軸方向の格子振動の平均自由行程(前記式(1)および(3)におけるl)を小さくすることで、熱の伝播を妨げ、低い熱伝導性、すなわち断熱性を発現させるものである。
【0021】
本発明に用いられるセルロース繊維は、ラミー、コットン等の天然セルロース繊維、レーヨン、フォルチザン、リヨセル等の再生セルロース、精製セルロースが挙げられるが、特に結晶化度、結晶配向度がともに高く、弾性率が高いラミー繊維が望ましい。
【0022】
本発明に係る断熱性セルロース繊維を製造する方法には、(a)例えばラミー繊維のように、元々、高弾性率・高熱伝導性を示すセルロース繊維を用い、この高い結晶配向性および結晶化度を保持しつつ、その分子鎖に格子振動の伝播を散乱させる因子を付加して、熱伝導性を低下させる方法と、(b)元々熱伝導率が低いセルロース繊維(ラミー繊維以外)を用い、その後の処理工程において、分子鎖の配向度を高めることで高弾性率を発現させる方法がある。加工工程数を低減する点からは、(a)の方法が望ましい。
【0023】
前記式(1)から明らかなように、熱伝導率κを小さくするには、定圧比熱Cp、比重ρ、音速v、格子振動の平均自由行程lのいずれかを低下させればよい。しかし、セルロース繊維の定圧比熱や比重を低下させることは、化学構造の大幅な改変を必要とするため不可能である。音速vを低下せしめる方法は、前記式(2)に示すように、弾性率の低下をもたらすので、本発明には不適切である。よって、ラミー繊維等の高弾性率天然セルロース繊維の後処理工程では、格子振動の平均自由行程lのみを低下させる方法が有効である。
【0024】
格子振動の平均自由行程lを低下させる手法としては、結晶化度や結晶配向度を下げることも考えられるが、本発明では高弾性率を維持することも目的の1つであるので、これらを下げることは望ましくない。よって、格子振動の伝播を散乱させる因子を分子鎖中へ付与することによって、熱が繊維を伝播するのを抑制して、断熱性を発現させるのが好ましい。結晶配向性や結晶化度を高いレベルに保持しつつ、分子鎖に格子振動の伝播を散乱させる因子を付加する方法の具体例としては、例えば適正量の放射線照射や化学処理によって分子鎖を切断する方法、分子鎖に架橋や分岐を施す方法、ハロゲン原子を導入する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの方法の中でも、放射線照射による分子鎖切断法と、架橋点付加法が加工コストの点では望ましい。
【0025】
放射線照射を用いて分子鎖を切断する場合、照射する放射線としては、γ線(例えば線源Co−60)、電子線等のいずれでも良いが、反応効率の点からはγ線が好ましい。繊維に応じて結晶化度と配向度を高レベルに保持することのできる線量を決定する必要があるが、放射線の総吸収線量が0.2〜200kGyの範囲となるように照射することが好ましい。0.2kGy未満では、分子鎖の切断が不充分となって、熱伝導率を充分に下げることができず、保温性、断熱性の発現が不可能となる。一方、総吸収線量が200kGyを超えると、放射線損傷により、分子鎖切断のみならず、結晶化度、結晶配向度の低下を招き、弾性率の保持が困難となる。より好ましい放射線総吸収線量は0.8〜130kGyである。
【0026】
セルロースの分子鎖に架橋点を付加する方法としては、例えば気相ホルムアルデヒド加工法等によるホルムアルデヒド架橋等が挙げられるが、これに限定されるものではない。気相ホルムアルデヒド加工方法を用いる場合、使用する触媒によって二酸化硫黄法、潜在性酸触媒法等があるが、いずれの方法でもよい。例えば、二酸化硫黄ガスを触媒として気相ホルムアルデヒド加工を行う場合、通常、80〜140℃で10〜60分程度ホルムアルデヒドガスに繊維を曝せばよい。
【0027】
セルロースの分子鎖に結合させるホルムアルデヒド量は、0.2〜3.0質量%が好ましく、より好ましくは0.4〜2.0質量%である。結合ホルムアルデヒド量が0.2質量%に満たない場合、格子振動を散乱する因子としての架橋点密度が小さいため、熱伝導率を充分低下させることができない。よって保温性・断熱性の発現が不充分となる。一方、結合ホルムアルデヒド濃度が3.0質量%を超えると、剛性が増したり、表面の摩擦係数が高くなり、その結果、ラミー繊維としての屈曲性、弾力性、取り扱い性が低下するため、好ましくない。結合ホルムアルデヒド量の定量方法は後述する。
【0028】
前記(b)の方法において、元々熱伝導率が低い繊維の分子鎖の配向度を高めて高弾性率を発現させる方法としては、水中で延伸する方法が好ましい。水中でのセルロース繊維は、水分子が繊維の分子鎖間に浸入して分子鎖間の水素結合が切断されているので、分子鎖のモビリティ(易動性)が高まった状態で延伸することができ、分子鎖の配向度が高まるものと推察される。水中で延伸する場合には、具体的には、セルロースの単位面積1mm当たり、7〜200Nの荷重をかけて引っ張る(延伸する)ことが好ましい。引張荷重が小さすぎると、分子鎖の配向が不充分となるため好ましくなく、引張荷重が大きすぎると繊維が破断してしまうため好ましくない。より好ましい引張荷重は、30〜180Nである。工業的には、セルロース繊維より紡績糸を作製し、これをカセ取りした状態で水中に浸漬し、テンションコントローラーや、錘を用いて、引張荷重をかける方法があるが、これに限定されるものではない。水温は特に限定されず、室温(25℃)程度で充分であるが、適宜加温しても構わない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。なお、各特性値の測定方法は、以下の通りである。
【0030】
1.熱伝導率
熱伝導率κは、図1に示したヘリウム冷凍機付きの温度制御装置を備えた装置で、定常熱流法により測定した。繊維試料には、単繊維を1000本程度引き揃えて束ねて、バラバラにならないようにその両端を「スタイキャストGT」(グレースジャパン社製のエポキシ樹脂)で固めたものを用い、試料長は約25mmとした。ヒーターには1kΩ抵抗のものを用いた。ヒーターと繊維試料の上端とは絶縁ワニスで接着した。試料台と繊維試料の下端とは、スタイキャストGTで接着した。
【0031】
T1およびT2における温度測定には、Au−クロメル熱電対を用いた。測定温度領域は100Kとした。熱伝導率κの測定は、まず、試料を乾燥状態にするため、試料をセットした状態で測定装置を1×10−3Paの真空中に24時間放置し、その後、断熱性を保つため1×10−3Paの真空状態を維持しながら、行った。具体的には、T1とT2の温度差ΔTが1Kとなるようにヒーターに一定の電流を流した。繊維試料の断面積をS(cm)、T1とT2との間の距離をL(cm)、ヒーターにより与えた熱量をQ(mW)、T1とT2との温度差をΔT(K)とすると、熱伝導率κ(mW/cm・K)は下記式(4)により与えられる。測定結果を表1に示した。
【0032】
【数4】

【0033】
2.熱拡散率
熱拡散率λは、熱伝導率測定と同じ装置を用いて、非定常熱流法により測定した。本実験では、ヒーターに5mAの電流パルスを5秒間与え、繊維試料のT1における温度の時間変化と、T2における温度の時間変化を観測した。試料固定方法、乾燥方法等は前述の熱伝導率測定の場合と同様に行ったが、測定温度は250Kとした。
【0034】
ヒーターにより与えられた熱が繊維試料を伝ってのみ拡散すると仮定すると、熱の拡散は下記の熱拡散方程式(5)に従う。
【0035】
【数5】

【0036】
上記式のTは、ヒーターからの距離xの時刻tでの温度である。よって、T2での温度の時間変化を上記式(5)にフィットさせることによって、λを求めた。
【0037】
3.引張弾性率
引張弾性率は、小型テンシロン(東洋測器社製、UTM−II)を用い、クロスヘッドスピード:10mm/min、試料長:10mmで引張り試験を行った。試験温度は25℃である。なお試料としては単糸を用いた。
【0038】
4.結晶化度
結晶化度は固体NMRの緩和時間により求めた。NMR装置(ブルッカー社製「AVANCE3000」、観測核種:13C、周波数:75.5MHz)を用い、交差磁気分極(CP)高出力プロトンデカップリングマジックアングル回転法(MAS)法により測定した。パルス幅は4μsec、マジックアングル回転数は4.5kHzとした。典型的なセルロース繊維であるラミー繊維の固体NMRスペクトルを図2に示す。結晶化度は得られた固体NMRスペクトルのC4炭素ピークの分離によって求めた。
【0039】
5. 結晶配向度
繊維軸に対する結晶の配向角をX線回折により求めた。試料は、30本の単繊維を平行に並べて端部を接着して固定したものを用いた。X線回折装置は、理学電機社製「RU−200」(40kV、100mA)を用い、X線源には、Niフィルターで単色化したCu−Kα線を用いた。配向角βは(002)spotの半値幅から求め、さらに配向度φは配向角βから下記式(6)によって求めた。
【0040】
【数6】

【0041】
6.ホルムアルデヒド結合量
ホルムアルデヒド架橋処理後の試料を蒸留水中で15分煮沸し、遊離ホルムアルデヒドや未固着ホルムアルデヒドを除去する。絶乾秤量後の試料を、硫酸水溶液(20質量%)中で加水分解し、発生したホルムアルデヒドを水蒸気蒸留法で過剰の亜硫酸水素ナトリウム水溶液中に吹き込み、付加物(ヒドロキシメチルスルホン酸ナトリウム)を生成させる。次いで、過剰の亜硫酸水素ナトリウムをヨウ素で酸化した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で付加物を分解する。このとき生成する亜硫酸ナトリウムをヨウ素で酸化滴定して、結合ホルムアルデヒド量を求めた。
【0042】
実施例1
単糸太さ4.3dtex、比重1.5のラミー繊維(中国四川省産のラミートップ;大阪麻株式会社の「タイプF303」)に、通常の精練・漂白処理を行った。次いで、二酸化硫黄触媒を用いた気相ホルムアルデヒド加工(VP加工)を施した。すなわち、密封した反応器内に繊維を入れ、ホルムアルデヒド水蒸気を入れた後、二酸化硫黄ガスを入れ、5分経過後に130℃とし、20分間繊維を処理した。結合ホルムアルデヒド量(濃度)は1.6質量%であった。表1に各測定結果を示した。
【0043】
実施例2
実施例1で用いたものと同じラミー繊維に通常の精練・漂白処理を行った後、VP加工を施した。この例では、ホルムアルデヒド水蒸気と二酸化硫黄ガスを容器に入れてから5分経過した後、120℃とし、10分間繊維を処理して、結合ホルムアルデヒド濃度を0.7%とした。表1に各測定結果を示した。
【0044】
実施例3
実施例1で用いたものと同じラミー繊維に通常の精練・漂白処理を行った後、Co−60γ線を照射した。総吸収線量は100kGyとした。表1に各測定結果を示した。
【0045】
実施例4
実施例1で用いたものと同じラミー繊維に通常の精練・漂白処理を行った後、Co−60γ線を照射した。総吸収線量は2kGyとした。表1に各測定結果を示した。
【0046】
比較例1
実施例1で用いたものと同じラミー繊維に通常の精練・漂白処理のみを行った。表1に各測定結果を示した。弾性率は高いが、熱伝導率も高く、保温性は発現しなかった。
【0047】
比較例2
実施例1で用いたものと同じラミー繊維に通常の精練・漂白処理を行った後、さらにマーセル化処理を行った。マーセル化処理は精練漂白したラミー繊維を20℃の20%水酸化ナトリウム溶液に27秒浸漬し、48秒後にシャワー水洗を行った。表1に各測定結果を示した。保温性は発現したが、弾性率が低下した。
【0048】
比較例3
単糸太さ1.1dtex、比重1.54、重合度800のリヨセルをそのまま用いた。表1に各測定結果を示した。
【0049】
比較例4
単糸太さ1.3dtex、比重1.54、重合度300のレーヨン繊維をそのまま用いた。表1に各測定結果を示した。
【0050】
比較例5
実施例1で用いたものと同じラミーに通常の精練・漂白処理を行った後、さらに液体アンモニア処理を行った。液体アンモニア処理は、精練漂白したラミーを1000リットルのデュワ瓶に仕込んだ液体アンモニア(約−34℃)中に無緊張下で10分間浸漬し、十分脱液した後、風乾して行った。表1に各測定結果を示した。
【0051】
比較例6
再生セルロース繊維バイカラをそのまま用いた。表1に各測定結果を示した。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例、比較例の結果を表1に示した。比較例1がオリジナルのラミー繊維の結果である。実施例に示したセルロース繊維は、いずれも、40GPa以上の弾性率を確保しつつ、100Kでの熱伝導率が25mW/cmK以下と低いことがわかる。250Kでの熱拡散率も、0.55mm/s以下に低減することができた。すなわち、高弾性率を保持しつつ、保温性をもつ断熱性セルロース繊維であることが確認された。一方、比較例のセルロース繊維は、上述の熱伝導率および熱拡散率よりも高い値を示すか、低い弾性率を示した。また、熱伝導率と弾性率の結果を図3にまとめた。比較例の繊維はいずれも本発明の規定範囲外であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の断熱性セルロース繊維は、保温性・断熱性を有し、かつ高弾性率をもち、さらに廃棄しても土に帰る環境に優しい繊維であるため、衣料用はもとより、住居用や超電導用等の断熱構造材として利用可能である。また、高弾性率と断熱性が要求され、繊維の特質を生かせる分野であれば、本発明の断熱性セルロール繊維を有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】熱伝導率測定装置の概略説明図である。
【図2】ラミー繊維の固体NMRスペクトルである。
【図3】実施例および比較例で得られた繊維の熱伝導率と弾性率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Kにおける繊維方向の熱伝導率が25mW/cm・K以下であり、且つ繊維方向の引張弾性率が40GPa以上であることを特徴とする断熱性セルロース繊維。
【請求項2】
250Kにおける繊維方向の熱拡散率が0.55mm/s以下である請求項1に記載の断熱性セルロース繊維。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−322115(P2006−322115A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147738(P2005−147738)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】